レーヌスのさざめき

レーヌスとはライン河のラテン名。ドイツ文化とローマ史の好きな筆者が、マンガや歴史や読書などシュミ語りします。

世代ギャップ

2006-04-12 17:07:26 | マンガ
3月の新刊で、1冊もれてました。

戸川視友『海の綺士団③』
元々は同人誌から発した「冬水社」刊。「いちラキ」連載。
この前には、ルネサンスを舞台に、絵の才能のある少女と、メディチの再興を目指す青年実業家との恋を軸とした『白のフィオレンティーナ』を描いていた作家です。ある時期からコスプレものを描き続けているので私は注目しています。
 16世紀、マルタ騎士団に、なぜか女の身で入隊を許された美貌のフランス人剣士アシェル。男主人公はドイツ人の変人医師のルーカス、ほか各国からユニークなメンバーが集まっている。3巻では、騎士団に潜入していたトルコのスパイをアシェルがあぶり出し、そして救済する顛末。宿敵のトルコ側も魅力的に描きたいという作者の姿勢が良いです。
 『白フィ』その他では、ある意味「たたかう女」でも、画家とか尼僧院長とか、剣はふるっても男装はしていないとか、つまり「女」のままであったけど(フィオレンティーナは修行の初期に男装してたけど)、この作品で初めて、ある意味古風な「男装」ヒロインの登場である。「心は男」といまのところ自称している。女が自分の性別とどう向き合うか、受け入れていくかという過程は、少女マンガにとって普遍的なテーマであるので、アシェルの場合どうなるのか。(少なくとも彼女は「クインビー」※ ではないと思う)ほかに彼女に惚れてる男はいるが、お約束としてはやはりルーカスが本命に見える。金髪女と黒髪男という組み合わせでもあるし。
 なお、『白フィ』のころには、登場人物が全体としてうっすらとキレイというくらいに見えていた(つまり、美形がいまひとつひきたたないという少女マンガとしてはありがちな状態)が、『うみきし』では、アシェルが一際目立つという設定が絵で充分伝わっている。 

 4月の新刊で買うのは、
山下友美『薬師アルジャン③』『代書代佐永③』、
みなもと太郎『風雲児たち 幕末編⑨』、
『とってもひじかた君②』『はるか遠き国の物語⑦』
だからといって、全部ここでコメントするわけではありませんけどね。


 出身校の独文科で「マンガと軍歌と新選組に詳しい人」と呼ばれてきた私であるけど、年々、マンガの流行とのギャップを感じている。
 情報誌「ぱふ」では、毎年年末にその年の人気投票があって、翌年三月に発表されるけど、どんどん、知ってる作品が減る。今年つまり2005年度なんて、長編の上位100のうちで、全部読んでるのが3本だけ。ベストテンなんて噂にしかきいてないし。「このマンガがすごい!女編』でも、上位作品で読んでるのは『大奥』くらいなものか。「このイケメンキャラがすごい!」で取り上げられていたキャラたちも、読んではいないけど、絵としてだけ見るならばたいして好みではない。私の考える「典型的少女マンガの絵」はもはや多数派でもなく、古臭いと思われている節さえある。 同じ「ベストテン」でも、古めの作品から選んだものならばもっと読んでるのだけど。
 「外国文学」という講義で好き勝手なこと講釈している。配布物にはたびたびマンガの引用をするけど、学生たちはほとんど知らない。「山・森」がテーマの時に、『ファウスト』が劇中劇で出てくる『シメール』(森川久美)のカットを使った。それを読んでみた学生がアンケートに、「昔の少女マンガには文学的要素がたくさんあったのだろうか」と書いてきた。「『ファウスト』の筋は『舞姫』とよく似ている、鴎外はやはりドイツ文学の影響を強く受けていたのか」とも。うーん、エリートの男が純真な娘を犠牲にするという点ではそうだが。関心もってくれたのは嬉しいよ。

 マンガの(読者対象による)区分もかなり明確でなくなってきている。昔ほどには、表紙を見て男女別がすぐわかるというわけでもないし、たとえば「コミックブレイド」なんて、「女性作家による、女性読者のための少年誌」に分類されてるし、でも「少女誌」を自称しているようだ。桑田乃梨子とか佐々木倫子のように、かつて少女誌で描いていてもいまは専ら青年誌という作家もいる。『白井三国志』なんて、「小説JUNE」→「コミックトム」(青年誌)→「三国志マガジン」と、掲載雑誌がころころと替わっている。私が3月新刊で買った12冊のうち、明らかに少女マンガ!なものは半分だ。(そして、新刊といっても復刊が半分近い) 少女マンガの定義も揺れている。

※「クインビー(女王蜂)」:男社会の中で「例外的に」「特権的に」成功して、「普通の女」を見下す女。ある意味「名誉男性」?でもこれは噛み砕き過ぎた表現かもしれない。
コメント (4)
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