弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

原発汚染水問題と遮水壁

2013-12-18 20:16:08 | サイエンス・パソコン
今年になってから、福島原発事故の汚染水問題が大きくなりました。最初は汚染水タンクからの水漏れに始まって、そのうち、地下水脈に汚染水が到達して地下水が汚染されるので、遮水壁が必要との話に発展しました。

遮水壁??

事故が発生した2011年の春、すでに遮水壁の話は始まっていました。たしか5月か6月頃と思います。
原発の地下からの汚染流出を防止するため、原発の周囲の地下を壁(遮水壁)で囲う必要があるが、費用が膨大になり、たまたま東電の決算時期であり、この費用を計上すると東電が債務超過になるため、計画を表に出せないのだ、といった話が聞こえてきました。主に古賀茂明氏の発言だったと記憶しています。

それから2年、遮水壁の話はどのように進展してきたのか。突然表に浮上してきましたが、東電及び政府はきちんと計画を進めてきたのでしょうか。
2011年当時のことを紐解こうと思いましたが、自分のブログに記事にしていなかったため、記憶をたどることができません。

世界 2013年 11月号 [雑誌]に、民主党馬淵澄夫議員のインタビュー記事「汚染水問題は廃炉に向けた困難な作業の入口にすぎません」が掲載されました。
馬淵さんは事故後2週間後の2011年3月26日から6月27日までの約3ヶ月間、首相補佐官として福島原発事故対策統合本部で「放射線遮蔽」にあたりました。

2011年3月末、当然の類推として地下水汚染の可能性が考えられましたが、東電は「漏れていない」の一点張りでした。しかし調査すると地下水流乳の可能性が出てきました。
『今後、汚染水と地下水が混合するのを防ぐには、絶対に遮水壁がだ必要だと主張しましたが、東電は二の足を踏んでいましたね。たしかに1千億円規模のお金がかかるかもしれない大規模な土木工事が必要で、東電はすでに賠償と事故処理で債務超過の懸念があった。』
『6月13日には、武藤栄・東電副社長からも遮水壁設置の確約を取りました。当時1000億円とも言われていた建設費の費用計上に関しては、東電が債務超過に突き進むと資本市場が混乱しかねないと、東電が経産省にお願いに行き、政府として判断して、プレス発表では遮水壁建設は決定事項ではなく、あくまでも検討を始めるという言い方に変えています。私はこの文言の変更に関わっていないのですが、11日には壁の境界まで画定し、すでに計画実施段階まで進めていたわけですから、ここで後退するわけにはいかないと思いました。それで、武藤副社長に、公表内容の如何に関わらず「遮水壁の設置については遅滞なく進める」との確認を取りました。
そのとき4種類の工法を検討した結果、「鉛直バリア方式」を選定しました。コンクリートではなくベントナイトと呼ばれる鉱物が入った粘土を使い、地下30mの難透水層まで掘り下げて地下遮水壁を造り、原子炉建屋の四方を囲んで完全に遮断しようという案です。』
『65月末に内閣改造が行われて、私は首相補佐官の任を解かれました。・・・私にはその後政府内でどのような議論がなされたかはわかりませんが、2011年10月27日の東電発表で、陸側の遮水壁設置は効果がないとして見送るということになりました。』

『今年3月、茂木経産大臣に質問したのです。
・・・
経産大臣が事故収束についての責任を負う、と答弁させた上で、当時あまり注目されていなかった地下水への対応や地下遮水壁設置の必要性を訴えました。・・・結果、茂木大臣からは地下貯水槽は今後使わず、抜本的な対策を打つとの回答を引き出しました。それで、汚染水処理対策委員会ができて、そこでの審議の結果、抜本対策として地下遮水壁の設置が妥当とされ、その工法として凍土方式が選ばれたのですが、凍土方式についても問題があると、また指摘してきた--という一連の動きです。』

2011年春段階でのだいたいの経緯がわかってきました。ただし、馬淵議員が当事者から外れた2011年7月以降、どのような経緯で地下遮水壁計画が葬られたのかは不明のままです。

『東電でよくあったのは、物事がどこで止まっているとか、誰がひっくり返したかが明らかになっていかないんですね。忖度が連鎖しあって、結果的に正反対の方向に動く。この不作為による無責任の連鎖、これが一番の課題です。』

東電はそうだったかもしれませんが、政府は何をしていたのでしょうか。東電が遮水壁中止を発表した2011年10月というと、管政権から野田政権に移行した直後ですね。政府部内でも、原発の放射能汚染対策に十分に目が向かなかったということでしょうか。残念なことです。
馬淵議員を首相補佐官から解任したことに、民主党政権が当時抱えていた問題が垣間見えるのかもしれません。

漸く動き出した遮水壁建設ですが、馬淵さんは凍土方式に反対です。
『汚染水処理対策委員会の報告書では凍土でやるがうまくいかない場合は、ベントナイト等を用いる粘土の壁の検討が必要だと書いています。であれば、最初からそうすればいい。』

12月15日の日経朝刊に「原発の凍土壁 壮大な実験」という記事が掲載されています。
地下に凍結管を埋め込み、零下30~40℃でも凍らない塩化カルシウムなどの冷却液を通じて、総延長1400メートルの凍土壁を造るといいます。
まずは、汚染水がたまったトレンチを凍らせる工事で様子を見るそうです。

なぜ凍土壁を選んだのか。政府の汚染水処理対策委員会の大西有三委員長(関西大学特任教授)は「未知の配管などが地下に埋まっている可能性がある」と指摘し、配管のような障害物があると、粘土やセメントは下まで回りにくく、壁に隙間が空いて水が漏れる恐れがあるが、凍土壁なら地下の物体を回り込んで凍ると記載される、と言っています。
埋設配管による障害物が予想されるとしたら、そもそも凍結管の設置の方がよほど困難だと思いますが、どうなんでしょうか。
政府は、凍土壁の建設に320億円を投じ、運用開始は2014年度とのことです。さらに凍土壁がうまくいかなかった場合に備え、「予防的・重層的な対策」として、凍土壁の外側に別の壁を造る検討も始めた・・・ですか?
どうも計画がちぐはぐですね。しっかりしたリーダーが不在だとの印象を受けます。
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