弁理士の日々

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審査基準改定案に対する意見募集

2010-03-23 20:50:10 | 知的財産権
特許庁ホームページに3月17日、「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正(新規事項)」の審査基準改訂案に対する意見募集 が掲載されました。
『知的財産高等裁判所特別部において平成20年5月30日に言い渡された平成18年(行ケ)第10563号事件の判決において、補正が許される範囲について一般的な定義が示され、その後の知的財産高等裁判所の判決でも一貫してその定義が引用され判示がなされております。
そこで、本年1月28日、産業構造審議会知的財産政策部会 特許制度小委員会 審査基準専門委員会の第4回会合において、大合議判決や後続判決を受け、現行の「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正(新規事項)」の審査基準を改訂すべきか否かが検討されました。その結果、審査基準専門委員会は、「現行の審査基準に基づく審査実務を変更せず、大合議判決との整合性をとる」との観点から審査基準を改訂することを了承し、その骨子を示しました。
今般、骨子に沿って、審査基準改訂案を作成いたしました。
つきましては、広く国民の皆様からのご意見をいただきたく、下記の要領で意見募集をいたします
2.資料入手方法
「特許・実用新案 審査基準」の変更点(案)(PDF)より閲覧・ダウンロードできます。 』

審査基準変更点のうち「除くクレーム」に関する部分を確認してみました(pdfの4ページ参照)。
従来審査基準の『なお、次の()、()の「除くクレーム」とする補正は、例外的に、当初明細書等に記載した事項の範囲内でするものと取扱う。』との記載が削除されました。
それにかわって、
『上記()の「除くクレーム」とする補正は、引用発明の内容となっている特定の事項を除外することによって、明細書に記載された補正前の各発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものとはいえない。したがって、このような補正は、当業者によって明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであることが明らかであるということができる。よって、上記()の「除くクレーム」とする補正は許される。』
との文章が挿入されています。

本件についてはこのブログでも、特許の補正要件・審査基準の改訂について(2)審査基準専門委員会の議事録公表で話題にしてきたとおりです。
そこで早速、特許庁に対してパブリックコメントを送信しました。以下に示します。

------パブリックコメント-------
「特許・実用新案 審査基準」の変更点(案)<PDF 243KB>の4ページ「4.2 各論」「(4) 除くクレーム」について意見を申し述べます。

 審査基準案の(4) 除くクレームの()(説明)において、
『上記()の「除くクレーム」とする補正は、引用発明の内容となっている特定の事項を除外することによって、明細書に記載された補正前の各発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものとはいえない。』
と記載されています。

 ここで、「除くクレーム」によって除外する特定の事項が、引用発明の内容となっている場合には、明細書に記載された補正前の各発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものとはいえない、としています。
 それでは、「除くクレーム」によって除外する特定の事項が、引用発明の内容となって“いない”場合には、明細書に記載された補正前の各発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものになるのでしょうか。

 「除くクレーム」のように、明細書又は図面に具体的に記載されていない事項を補正事項とする場合,明細書又は図面の記載によって開示された技術的事項に対し,新たな技術的事項を導入しないものであると認められる限り,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」する補正であるというべきです。(知財高判平20.5.30(平成18年(行ケ)第10563号審決取消請求事件「ソルダーレジスト」大合議判決)43ページ8行参照)

 従って、明細書に記載された補正前の各発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせるか否か、という点については、明細書又は図面の記載によって開示された技術的事項に対し,新たな技術的事項を導入“しない”ものであるか否か、という観点から判断されるべきです。そして、新たな技術的事項を導入するか否か、という点では、除外する特定の事項が引用発明の内容であるか否かに影響を受けない性格のものです。
 そうすると、「除くクレーム」によって除外する特定の事項が、引用発明の内容となっているか否かに関係なく、判断がなされるべきと考えます。
 例えば引用発明が特許法39条の先願、あるいは特許法29条の2の先願である場合には、本願出願時に公知ではありません。そのような引用発明との対比においてはなおのこと、除外する特定事項が引用発明の内容となっているか否か、ということは、「明細書又は図面の記載によって開示された技術的事項に対し,新たな技術的事項を導入しないものであるか否か」の判断に影響を及ぼさないものと思料します。

 以上のように推考すると、今回の審査基準の改訂において、「除くクレーム」に関する審査基準で「“例外的に”、当初明細書等に記載した事項の範囲内でするものと取り扱う」との考え方を排除したことによる当然の帰結として、「除くクレーム」によって除外する特定の事項が引用発明の内容となっているか否かに関係なく、明細書又は図面の記載によって開示された技術的事項に対し,新たな技術的事項を導入しないものであるか否か、という点のみを基準として、補正の可否が決まるのではないでしょうか。

 そして、「除くクレーム」によって除外する特定の事項が引用発明の内容となっている場合には、明細書に記載された補正前の各発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものとはいえない、と判断する以上、除外する特定事項が引用発明の内容となっていない場合にも同様、明細書に記載された補正前の各発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものとはいえない、と判断すべきものと考えます。
-----3月22日21時25分送信--------
コメント (2)
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