弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

ゆうちょ銀行はどこへ行く

2009-11-02 21:03:00 | 歴史・社会
日本郵政の経営陣が入れ替わりました。日本郵政は委員会設置会社ですから、取締役の選任は一義的には指名委員会が行うべきものです。こちらにも書きました。今までの指名委員会委員は以下の通りでした。
 委員長 奥田碩
 委員 西川善文、高木祥吉、牛尾治朗、丹羽宇一郎
この5人のうち、奥田委員長以外の4人が辞任してしまいました。
新任取締役の選任については、これら今までの指名委員が行うことをせずに、株主総会において、株主である国が自ら取締役選任の議案を上げ、自ら議決して決定しました。
このようなゴリ押しが可能であるということは、やろうと思えばどんな無理もやれるわけで、日本郵政の今後の企業統治が懸念されるわけです。

また政府は今までの郵政民営化推進室を廃止し、内閣官房に郵政改革推進室を新設しました。ここで室長に選任された清水英雄氏の経歴を見ると、大問題です。
<郵政見直し>内閣官房に新組織、民営化反対の元官僚を起用
「10月27日20時51分配信 毎日新聞
 清水氏は総務省郵政行政局長だった05年5月、国会議員に民営化反対への協力を求めたとして、小泉首相に郵政担当を外された。総務審議官を最後に07年に退官した。
 平野博文官房長官は27日の会見で、清水氏の起用については亀井静香金融・郵政担当相と原口一博総務相の推薦があったことを明かし、「郵政改革の経緯と中身を一番よく知っていて、法案をしっかり作れる人」と説明した。」

小泉政権時代、清水氏が郵政民営化に反対する意見を具申したことが問題なのではありません。「国会議員に民営化反対への協力を求めた」ことが問題なのです。官僚が、官邸や大臣の意向に反して勝手に国会議員に働きかけることは、従前の「官僚内閣制」を支えてきた最も大きな手段であり、清水氏はその悪事がばれて左遷された経歴を持っているわけです。
「脱官僚依存」を標榜する民主党政権にとっては、極悪人に相当します。そのような過去を持つ官僚を、郵政改革準備室の室長に任命してしまいました。


日本郵政の中で、わたしが着目しているのはゆうちょ銀行の行く末です。
200兆円の資産を抱え、その資産を運用して収益を上げるための経営ノウハウを全く持っていません。今はやむなく、総資産の8割を国債で運用しているというわけです。
鳩山政権は、ゆうちょ銀行をどのように変革しようとしているのでしょうか。

こちらでも述べたとおり、ゆうちょ銀行は「銀行」と名がつき、今までは銀行法の範疇で考えられていました。銀行法によると、銀行の業務は以下の通りです。
【銀行法】(業務の範囲)
第10条  銀行は、次に掲げる業務を営むことができる。
一号 預金又は定期積金等の受入れ
二号 資金の貸付け又は手形の割引
三号 為替取引

「一号 預金又は定期積金等の受入れ」と「三号 為替取引」については、郵貯が昔から行ってきた業務です。それに対し「二号 資金の貸付け又は手形の割引」は、銀行の三大業務の一つでありながら、郵貯が行ってこなかった業務です。

郵貯は、郵便貯金として200兆円を超える貯金を集めていながら、それをどのように運用していたのでしょうか。
1990年代までは、大蔵省の資金運用部に預託が義務づけられており、財政投融資によって運用されていました。財投が郵貯から借り入れするときに通常よりも高い金利を払っていました。財投の融資先の特殊法人は高い金利を支払い、財投は特殊法人から吸い上げたお金を郵便貯金に補給するという仕組みです。特殊法人には多額の税金を投入するから、そのシステムは成り立っていました(こちらこちら)。郵貯と簡保は何の努力もせずに収益を得ることができました。
しかし、1997年に財政投融資制度が改革され、財投債が発行されるようになったので、郵貯と簡保は預託の義務がなくなりましたが、そのかわりに、自分で運用して収益を稼ぎ出す必要が生じたのです。

郵貯が「銀行」として成立するためには、まず民営化し、次に資金の貸し付けで収益を上げる業務ノウハウを身につけ、一人前の銀行に成長する必要がありました。

ところが今回の郵政民営化見直しで、郵貯は一人前の民間銀行として成長することが否定されました。
今後どのような方向に進んでいくのか、皆目見えません。

亀井大臣は次のような発言もしています。
<亀井金融担当相>ゆうちょ銀資金を地元融資 信金など通じ
「10月22日21時58分配信 毎日新聞
 亀井静香金融・郵政担当相は22日、「信用金庫、信用組合と協力して(ゆうちょ銀行、かんぽ生命の資金を)地元に融資する仕組みを協議したい」との考えを明らかにした。
  ・・・
 亀井氏は「郵政事業には資金を集める力はあるが、貸し出す力はない。(信金、信組と)一緒に(融資を)やったらいい」と指摘。日本郵政傘下の金融2社が保有する約300兆円の資金を地域金融機関を通じて、地方の中小企業などに融資できるようにすべきだとした。ゆうちょは約8割、かんぽも約6割の資金を国債で運用しており、鳩山政権は「地域で集めた資金が中央で使われている」(原口一博総務相)と問題視していた。
 だが、地方経済の落ち込みを受け、信金、信組も有望な貸出先探しに苦労しており、集めた預金のうち融資しているのは6割程度。郵政マネーの投入で積極融資が可能になる保証はない。」

ゆうちょ銀行が自身で融資業務能力を身につけるのではなく、信金や信組の協力を得て融資先を探そうというわけですね。
この話、新銀行東京でも聞きました。
新銀行東京の責任なすりつけ 悪いのはトヨタ出身の仁司氏だけなのか
「2008年03月11日19時06分 / 提供:J-CASTニュース
  ・・・
銀行が貸さない中小企業にも無担保で融資することを「売り」にしていた新銀行東京は、執行役などの経営幹部を大手銀行から招くとともに、融資先の確保には東京都内の信用金庫に協力を求めた。都内の信金はヒト・モノ・カネを拠出したあげく、融資先まであっせんしていたのが実態だ。
とはいえ、信金も商売だから財務状況のよい中小企業であれば自ら融資する。つまり、信金から新銀行東京にまわる融資先は不良債権化する可能性の高い企業ということになる。
 ある信金幹部はこう振り返る。「信用金庫でも(経営が)大丈夫かな、と思うような先でも無担保で貸していました。都のアドバルーンが大きすぎて、(融資の獲得には)かなりのプレッシャーがあったようでしたし、こちらにも威圧的でしたね」。」

もしゆうちょ銀行が全国の信金・信組の協力で融資先を探そうとしたら、新銀行東京と同じハメに陥る恐れがあります。信金さえ融資を躊躇するような融資先を紹介され、ゆうちょ銀行が自身で審査する能力がないまま、不良貸付先に貸し付けて貸し倒れの山を作るのではないか。新銀行東京の状況については「重篤「慎太郎銀行」の深き闇」も参考になります。

ゆうちょ銀行については株式の売却を凍結する法案が出されます。このまま国が100%の株式を保有し続けると言うことは、「国有銀行」を目指すのでしょうか。
現在、ゆうちょ銀行は預金保険機構にも加盟する普通の銀行です。国有銀行となれば、預金保険機構からも外れるのでしょう。もしゆうちょ銀行が破綻したら、税金を投入して預金者を保護することになるのでしょう。その安心感は計り知れず、民業圧迫になることは明らかです。

そもそも「銀行」の看板を下ろすことも考えられます。郵貯は、国民から郵便貯金としてお金を預かり、そのお金を普通の融資には回さず、国として運用するということです。
どのように運用するのでしょうか。
元大蔵次官の斉藤次郎氏が代表執行役社長に就任するということは、現財務省と結託し、財政投融資において昔の預託制度を復活させる魂胆も考えられます。そうなると、不必要な特殊法人に郵貯マネーが高利で流れ、その高利については特殊法人に税金を補填して支払われることになるでしょう。結局は国民の負担となるわけで、このような後戻りは阻止しなければなりません。
コメント
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