大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年06月02日 | 植物

<1982> 大和の花 (234) バイカウツギ (梅花空木)                                             ユキノシタ 科 バイカウツギ属

        

 山地の林縁や林内に生える落葉低木で、ウツギ(空木)とは属を異にする。高さは大きいもので3メートル。卵形から長楕円状卵形の葉は大きいもので長さが10センチほど。先は鋭く尖り、縁には浅い鋸歯が見られ、対生する。花期は6月から7月ごろで、枝先に集散花序を出し、白色4弁花を複数つける。この花がウメに似るのでこの名がある。

  本州の岩手県以南、四国、九州に分布する日本の固有種として知られ、大和(奈良県)でも見られるが、稀でウツギのように簡単には出会えないところがある。なお、厳密には花柱の毛の有無により、毛のあるものをケバイカウツギ(毛梅花空木)、またはシコクウツギ(四国空木)として分ける。ここではそこまで確認していない。なお、空木の仲間に、やはりウメの名を借りたウメウツギ(梅空木)という落葉低木があるが、こちらは5弁花を咲かせる関東地方西部固有の種で、大和(奈良県)には自生しない。なお、バイカウツギには園芸種もある。 写真はバイカウツギ(金剛山)。 

   生の世界は悲願と祈願と試練の風景にある

   その風景は悩みの風景であり

   悩みを越えてゆく風景にほかならない

   肝心なのは越えるか越えられないかであり

   越えて輝くところに生の世界の理想はある

   願わくはその風景の中に少しでも

      理想の輝きが感じ得られること

   私たちは みな それぞれに

      この涙ぐましい世界の風景の中に生きている

<1983> 大和の花 (235) ノリウツギ (糊空木)                                                    ユキノシタ 科 アジサイ属

                       

 原野や山地の林縁、また、山岳高所の岩場などにも生える落葉低木で、高さは大きいもので5メートルほどになる。葉は長さが5センチから15センチほどの楕円形もしくは卵状楕円形で、縁には細かい鋸歯があり、先は細く尖って対生もしくは3輪生する。

  花期は7月から9月ごろで、枝先に白い萼片3個から5個(普通4個)の装飾花を配した円錐花序を出し、クリーム色の小さな花弁4、5個の両性花を多数つける。花は小さいので目立たないが、白い装飾花は夏の青空に映え、印象的である。

  枝木の甘皮(内皮)から採れる粘液を、紙を漉くときの糊料にしたことによりこの名がある。この糊で漉いた紙は虫に食われ難く、正倉院の古文書はこの糊で漉いた紙が用いられているという。天武天皇ゆかりの吉野の手漉き和紙もトロロアオイやノリウツギの糊が用いられて来た。別名ノリノキ(糊の木)。東北地方や北海道ではサビタの名で呼ばれている。

  材はかたく、楊枝、木釘、パイプなどに加工され、「サビタのパイプ」はアイヌの特産として知られる。全国的に分布し、国外では中国、サハリン、千島などに見られる。大和(奈良県)でも標高差にかかわらず、各地に自生している。 写真はノリウツギ。右端は枯れても残るドライフラワーを思わせる装飾花(大台ヶ原ドライブウエイほか)。  大峰や天地草木夏の色

<1984> 大和の花 (236) ガクウツギ (額空木)                                                  ユキノシタ 科 アジサイ属

       

  山地の沢沿いや林縁、あるいは林内の少し湿り気のある斜面などに生える落葉低木で、高さは大きいもので2メートル弱。枝葉を繁らせ、葉は長楕円形で大小さまざま。縁に浅い鋸歯があって先端は尾状に尖る。花期は5月から6月ごろで、枝先に集散花序を出し、直径3センチ前後の萼片3個が目につく装飾花を配して小さな淡黄緑色の両性花を多数咲かせ、花時には全体が白く見える。花弁は5個で、先端が丸くなる特徴がある。

  花には芳香があり、群生しているところでは甘い匂いが漂い、白い装飾花とともにガクウツギの存在を示す。枝葉の繁る樹形がウツギ(空木)に似ることと、装飾花を額と称することからこの名が生まれた。葉には濃緑色で光沢のあるものが多く、コンテリギ(紺照樹)の別名もある。

  本州の関東地方以西(近畿まで)、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)には多く、各地の谷筋や沢筋、林縁などでよく見られる。ときには樹林内の斜面を一面に被いつくすほど群生しているのに出会うこともある。言わば、ガクウツギは夏の山道を白く彩る花である。 写真はガクウツギ。左から花をいっぱい咲かせた個体群(甘い匂いが漂っていた)。白い装飾花に被われた個体(わずかに両性花が見える)。花序のアップ(小さな淡黄緑色の両性花の花弁の先端が丸くなっているのがうかがえる)。   旺盛に繁る若葉の山中に向かへば緑色革命の声

<1985> 大和の花 (237) コガクウツギ (小額空木)                                              ユキノシタ 科 アジサイ属

                                  

  ガクウツギ(額空木)によく似た仲間にコガクウツギ(小額空木)がある。生える場所もほぼ同じで少し湿り気のある林縁などに見られる落葉低木で、ガクウツギとほぼ変わりない。長楕円形の葉も、萼片3個の装飾花を有する花序もよく似るが、コガクウツギは全体にひと回り小さい。しかし、個体や生える場所の環境によってその姿は異なるので、一概には言えない。一見では判別し難いところがある。私は装飾花の不揃いをもってコガクウツギと見ていたが、ガクウツギにも律儀に3個を守っているものばかりはないので、装飾花のみでは判別出来ないと最近認識を新たにした。

  詳しくは両性花5花弁の比較による。花弁の先端が丸いのがガクウツギ、尖るのがコガクウツギとされる。また、『奈良県樹木分布誌』によると、「コガクウツギの若枝は赤紫色で、通常無毛でやや艶があるのに対し、ガクウツギは灰褐色~帯紫褐色で毛のあることが多く艶がない」という。本州の伊豆半島と近畿地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では紀伊半島に分布し、中、北部ではほとんど見ない。 写真はコガクウツギ(五條市大塔町の清水ヶ峰)。葉の大きさと花序をつけた赤紫色の枝によって同定した。  あの木にも夏が来ている風渡る