大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年12月27日 | 植物

<2548> 大和の花 (690) サカキ (榊)                                               ツバキ科 サカキ属

            

 山地の照葉樹林内に生える常緑高木で、高さは10メートルほどになる。樹皮は暗赤褐色で、円形の小さな皮目が見られる。本年枝は緑白色で、毛はない。葉は長さが7センチから10センチの長楕円形で、先は鈍頭、基部はくさび形。縁に鋸歯はなく、革質で、光沢があり、ごく短い柄を有し、2列に互生する。

 花期は6月から7月ごろで、主に側枝の葉腋に柄のある直径1.5センチほどの5弁花を1個から3個下向きに咲かせる。花弁ははじめ白色で、その後、黄色みを帯びて来る。雄しべは多数に及び、葯はオレンジ色。雌しべは1個。実は球形の液果で、初冬のころ黒紫色に熟す。種子は長さが2ミリほどの扁球形。

 サカキ(榊)の名は、常緑の葉がよく茂り栄える木の栄木(さかえき・さかき)、神域を示す境木(さかいき・さかき)、神木を意味する社香木(さかき)などの諸説がある。榊の字は神の依代とする神木の認識によってつくられた和製の国字である。また、サカキはマサカキ(真賢木)とも言われ、『古事記』や『日本書紀』の神話に登場する。

  天照大神が須佐之男命の狼藉によって天の岩屋戸に籠ったとき、このサカキのマサカキを呪術に用い、誘い出すのに功を奏した。この謂れにより、古来より神域に必要な神木として神社の境内地に植えられるようになり、今に至っている。神社では植えられるほか、枝葉を神前に供えたり、神事に用いたりする。また、材は堅く、緻密で、建築材や器具材に使用するほか、櫛や箸などの細工物にも用い、熟した実は赤紫色の染料にするなど利用されて来た。

  本州の関東地方南部以西(日本海側では石川県以西)、四国、九州、沖縄に分布し、国外では朝鮮半島南部、中国、台湾の東アジアの一部。大和(奈良県)ではほぼ全域に分布し、神社でもよく見かけるが、私はまだ自生の花に出会っていない。 写真は左から拝殿の傍で花を咲かせたサカキ、花を連ねた枝、花のアップ(橿原神宮ほか)。 情と知の一個体なる己あり己は己のみにはあらず

<2549> 大和の花 (691) ヒサカキ (柃)                                                ツバキ科 ヒサカキ属

              

 山地に生える常緑低木乃至は小高木で、高さは普通3メートルほど、大きいもので10メートルほどに及ぶ。樹皮は暗褐色で、新年枝は淡緑色。葉は長さが3センチから7センチの楕円形で、先は鈍頭、基部はくさび形。縁には波状の浅い鋸歯が見られる。質は厚い革質で、表面に光沢があり、裏面は淡緑色。葉柄はごく短く、枝に流れるように互生し、側枝では葉が2列に並ぶ特徴がある。

 雌雄異株で、花期は3月から4月ごろ。葉腋に鐘形あるいは壷形の花を1個から数個つき、下向きに咲く。花は4ミリ前後と小さく、5個の花弁は帯黄白色で、雄花と雌花のほか両性花も見られる。また、花には独特の強い匂いがあり、花を見なくても開花がわかるほど。花は地味で、その匂いも決してよいものではないが、その匂いで山に春の訪れを感じさせる。液果の実は直径4、5ミリの球形で、秋に紫黒色に熟す。

 青森県を除く本州、四国、九州、沖縄に分布し、国外では朝鮮半島南部に見られるという。大和(奈良県)では全域に自生し、普通に見られる。ヒサカキの名はヒメサカキ(姫榊)の意で、岡山の私の郷里ではサカキの代用に父が山から採って来て神棚に供えていたのを覚えている。ほかの地方でもサカキの代わりにしているようで、大和高原でもヒサカキを持ち帰る農家の人から聞いたことがある。

  材は灰褐色から淡紅褐色で、堅く緻密なため、器具材や薪炭材に。また、木灰は和紙の製造、あるいは媒染に用いられ、実は染料にされて来た。ときに紅紫色の花を見かけるが、これは園芸種と思われる。 写真はヒサカキ。左から枝木いっぱいの花、枝に連なる雄花、紅紫色の花をつけた枝、紫黒色に熟した実。 生きるとは己を掲げゆくにあるときには理論武装などして

<2550> 大和の花 (692) ナツツバキ (夏椿)                                        ツバキ科 ナツツバキ属

               

 山地の林内に生える落葉高木で、高さは大きいもので15メートルほどになる。樹皮は赤みを帯び、滑らかであるが、樹齢が進むと剥がれ、灰白色や赤褐色の大きな斑紋が出来る。葉は長さが3センチから5センチの楕円形で、先は鈍頭、先端部が短く尖り、基部はくさび形になり、縁には細かい鋸歯がある。質はやや厚く、表面には光沢がなく、裏面には伏毛が生え、短い柄を有し互生する。

 花期は6月から7月ごろで、葉腋に直径5、6センチの白い5弁花をつける。花弁には皺が出来、花弁の縁には細かい鋸歯が見られ、外面には絹毛が密生する。花は終わりになると萼片が中央に寄り集まり花を押し上げて落とし、ツバキと同じように咲いた状態で花が散るので、地面に落花してからも風情がある。実は蒴果で、秋に熟し、裂開して種子を出す。

 シャラノキ(沙羅の木)の別名を持つが、これは釈迦が沙羅双樹の下で無常を説いた後、涅槃に入り、入滅したとき枯れたとされるこの沙羅双樹にこのナツツバキ(夏椿)を当てたことによるという。ナツツバキと沙羅双樹とは全く別種の樹木であるが、ナツツバキは釈迦に所縁の樹木として扱われるようになり、お寺の庭に植えられることが多くなった。

 本州の福島、新潟県以西、四国、九州に分布し、朝鮮半島南部にも見られるという。大和(奈良県)では紀伊山地を中心に標高1000メートル以上の深山に点在して分布しているが、『奈良県樹木分布誌』(森本範正著)は「通常冷温帯域に分布するものだが、笠置山地では400~500mの地に自生する。寒冷期に低所にまで分布していたものの遺存と思われる」と笠置山地の低山帯に分布するものについて分析している。

  なお、植栽のほか、材は床柱や器具材にされ、花は夏の茶花として評価されている。 写真はナツツバキ。左は金剛山のもの。中は大台ヶ原山の大蛇嵓付近のもの。右は曽爾高原のもの。 止まるを知らざる時に統べられて命の燈(ともし)のたとへばこの身

<2551> 大和の花 (693) ヒメシャラ (姫沙羅)                                    ツバキ科 ナツツバキ属

                       

 標高1000メートル以上の深山から標高300メートルほどの低山まで生える落葉高木で、大きいものでは高さが15メートルを越すものも見られる。樹皮は滑らかな淡赤褐色で、薄片になって剥がれ落ち、斑紋状になる。新年枝は褐色から赤褐色で、はじめ毛があるが、後に無くなる。葉は長さが5センチから8センチの楕円形乃至は長楕円形で、先は細く尖り、基部はくさび形。縁には浅い鋸歯があり、細かな毛が生え、葉柄は1センチ前後で、互生する。幹の特徴により登山道などで出会うとすぐにヒメシャラとわかる。

 花期は7月から8月ごろで、標高によって微妙に異なる。新枝の葉腋に直径1.5センチから2センチの白い5弁花を1個ずつつける。花弁の外側には絹毛が密生し、花弁はツバキの花のように基部で合着し、開花した状態で散り落ちる。ナツツバキに似るが、花はかなり小さく、判別出来る。花が小さいのでヒメシャラ(姫沙羅)の名があるが、木自体はむしろヒメシャラの方が大きい。ときに登山道で散り敷く花に出会うことがあるが、高い位置に花が咲くので、撮影し難いところがある。実は蒴果。

 本州の神奈川県以西の太平洋側、紀伊半島までと四国、九州(屋久島まで)に分布する日本の固有種で、襲速紀要素の植物。大和(奈良県)では南部に分布が片寄る。なお、ナツツバキと同じく、材が堅く緻密で、床柱、器具、彫刻材に用いられる。 写真はヒメシャラ(天川村北角の弥山登山道の標高1300メートル付近ほか)。 日常に寸景ありて見ゆるものうむその景に触れて来しかな

<2552> 大和の花 (694) ヒコサンヒメシャラ (英彦山姫沙羅)                ツバキ科 ナツツバキ属

              

 山地の林内に生える落葉高木で、高さは大きいもので15メートルほどになる。樹皮は赤褐色乃至は黄褐色で、葉は長さが3センチから7センチの楕円形乃至長楕円形で、先は細く尖り、基部はくさび形になる。縁には細かい鋸歯が見られ、表面にはほとんど毛がなく、光沢もない。裏面には脈沿いに毛がある。葉には短い柄があり、互生する。

 花期は6月から8月ごろで、新枝の葉腋に直径3.5センチから4センチほどの白い5弁花をつけ、花はナツツバキとヒメシャラの中間の大きさで、3者はよく似るが、本種は花弁の一部が紅色になる花が多く見られる。また、幹がヒメシャラよりもくすんで見えるので判別点になる。実は蒴果。

  本州の神奈川県丹沢山地以西、四国、九州に分布、国外では韓国の済州島。大和(奈良県)では南部の台高、大峰山脈の上部、冷温帯域に点在して自生するが、個体数が少なく、奈良県版レッドデータブックには希少種としてあげられている。なお、ヒコサンヒメシャラ(英彦山姫沙羅)の名は福岡、大分県境の英彦山(1116メートル)に因む。材は堅く緻密で、床柱や器具材にされる。 写真はヒコサンヒメシャラ(十津川村の釈迦ヶ岳登山道1500メートル付近)。 ゆく年は如何にあれども生きて来し齢の数に等しくぞある

 

 

 

 

 


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