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毎日フォーラム・言いたい/聞きたい 棗一郎 日本労働弁護団闘争本部長、弁護士

2021年02月17日 | コロナと労働・生活相談
https://mainichi.jp/articles/20210205/org/00m/010/006000d

公共事業で困窮者の仕事の創出を

 新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化するなか、昨年末から今年にかけて、国内有数の繁華街、東京・新宿に「年越し支援・コロ
ナ被害相談村」が開設された。相談者のほとんどが職を失い、しかも前職は派遣やパートなど非正規の雇用だった。実行委員の一人で
日本労働弁護団闘争本部長の棗一郎弁護士は「コロナ禍による経済危機はサービス業、運送、流通など広範囲に打撃を受けている。公
共事業の仕事を失業者に紹介するなど国、自治体が積極的に雇用を生み出すことが必要だ」と説く。(明珍美紀)

 --大都市圏に緊急事態宣言が再発令され、生活困窮者の支援が急務です。今回のコロナ被害相談村の特徴は。

 相談村を訪れた人々の直前の雇用は、ほぼ非正規雇用でした。2008年のリーマン・ショックでは輸出、製造業が打撃を受け、「派遣
切り」などの問題が起きました。今回のコロナ禍は極地、局所的ではないし、特定の産業に限られているわけではない。飲食店、旅
館、ホテルなどのサービス業、運送、流通業など広範囲に影響が及び、派遣、パート、有期雇用といった非正規雇用全般で失業者が増
大していると推測されます。
 2番目の特徴としては、女性の相談者が増えたことが挙げられます。相談村は新宿の歌舞伎町にある都立大久保公園で行い、相談者
の数は年末年始の3日間(20年12月29、30日、21年1月2日)で計344人。うち女性は約2割で、主にシングルマザーと独身女性で
す。女性専用のブースを設け、相談員も全員女性で対応しました。
 リーマン・ショックの時は、「自立生活サポートセンター・もやい」などのNPOをはじめ、労働組合、私たち労働弁護団が協力
し、初めて「年越し派遣村」(08年12月31日~09年1月5日)を(東京の)日比谷公園で実施しましたが、女性は数人でした。

 --相談の内容は。

 「日雇いの派遣だったがコロナ禍の影響で仕事がなくなった」「アパレルメーカーに勤めていたが契約を打ち切られた。アパートの
家賃も滞納している」など、切羽詰まった状況です。元建設作業員の50代半ばの男性は実際に住む場所を失い、「ネットカフェに寝泊
まりしていたが、手持ちの現金が底を尽きて野宿をしている」と訴えました。
 女性の場合は、やはり非正規で職を失い、雇用保険は入っていないか、切れたままの状態の人が大半。東南アジアを中心に、外国人
の相談が24人。これは、外国人労働者の就労支援団体や、技能実習生の問題に関わる弁護団などを通じて情報が回りました。
 相談は、12月29日の1日目が58人、翌2日目が125人、3日目の1月2日は161人と、情報が浸透するに従って増えてきました。もっ
と続ければ、数は膨れ上がったと思います。

 --言い換えれば、相談村のことを知らずにいた人がいた。

 相談村の宣伝方法は、主にSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)とテレビの報道番組での紹介でした。けれども利用
料金が払えずスマートフォンを止められている人がたくさんいる。新宿駅周辺などで(相談村の)ビラを配布しましたが、それでも行
き届いたとは言えません。やはり、人づて、口コミで集まってきた。必要な人に必要な情報がなかなか届かない。こうした「情報弱
者」の問題も改善しなければなりません。

 --相談者にはどのような対応をしたのでしょうか。 

 住む家がない場合は、東京都の「TOKYOチャレンジネット」という支援制度を紹介しました。居住、生活、就労の支援と資金の
貸し付け相談に応じ、宿泊場所も一時的に提供します。
 あとは生活保護の申請の手伝いですね。住む場所がない、実家にも帰ることができないならば、選択肢として生活保護があります。
ところが、「生活保護だけはいやだ」と言う人が大勢いるのです。

 --その理由は。

 自助努力が足りない、社会の脱落者という負のイメージがあるのかもしれません。「自助、共助、公助」の順番を掲げた現政権にも
問題がある。けれども、困窮者が生活保護を受けることは、生存権を保障する国において当然の権利。生活を再建して次のステップに
進むためのつなぎの措置と考えてほしい。
 相談村は「共助」にあたりますが、いまは、共助でも、救援しきれないところまで来ています。

 --各地の支援体制は。

 「コミュニティーユニオン全国ネット」に加盟する各地のユニオンが年越しの支援を行いました。例えば、三重の「ユニオン三重」
は外国人労働者のために、餅つきをして正月料理を提供し、兵庫の「伊丹ワーカーズコープ」のユニオンも年越しそばを出して就職先
の紹介などの支援活動をしたと聞いています。

 --国や自治体への要望は。

 「GoToキャンペーン」などの経済活動より雇用と生活支援を優先してほしい。具体的な提案としては、国、地方自治体が持って
いる公共事業の仕事を、生活困窮者に紹介する。
 就労支援の一つに、労働組合などが行う労働者供給(労供)事業があります。通常の労働者供給は賃金のピンハネや強制労働の危険
があるため職業安定法で原則禁止され、許可制となっていますが、営利事業ではない労働組合は例外として認められています。こうし
た労供の活用や、さまざまな仕事に役立つ職業訓練も充実させる必要があります。
 自治体に関しては、生活保護をはじめ各給付制度の窓口に、ある程度経験を積んだ職員を配置してほしい。適切なアドバイスができ
るだろうし、担当者の温かいひと言に救われることがあります。

 --今後の支援活動は。

 このまま感染が収まらないと、緊急事態宣言が延長される可能性があります。年度末は雇用契約の切り替え時期なので、大量の失業
者が出るかもしれません。
 今回、相談村の実行委員会に参加した支援団体、労働組合とさらに体制を強化し、年度末に向けて国への要請行動を予定していま
す。
 政治の大切な役割は、国民から集めた税金を適正に予算配分し、みんなの役に立つように使うこと。納税者として声を上げなければ
いけません。
 私は中央大学の学生時代、学園紛争で壊れた自治会の再建運動に力を注いでいました。民主主義に至る歴史をひもとくと、労働組
合、すなわち労働者の権利、生活が守られていることが民主的な国づくりに必須であり、そういう仕事に関わりたいと弁護士になりま
した。
 これからの日本を支えていく若い人、私にも高校2年と小学5年の2人の子どもがいますが、若者たちが自由な思考と批判精神を持
ち、弱い人を助けていく。そんな社会を創造していきたいですね。

 なつめ・いちろう 1961年長崎県生まれ。中央大法学部卒。96年弁護士登録。日本マクドナルド店長残業代請求訴訟、日本郵便労契
法20条事件などの労働事件を労働側で担当。日本労働弁護団で労働立法運動や社会労働運動に尽力し、2008年末から翌年の「年越し派
遣村」では事務局長を務めた。

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