花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

銀座

2019-02-24 16:38:18 | Weblog
 2月が舞台の小説を読んでみようと思って書棚から取り出したのは、庄司薫さんの「赤頭巾ちゃん気をつけて」でした。時は1969年、学生運動のさなか東大安田講堂が占拠され、東大の入試が中止と決まった後の2月です。この時の騒動によって東大受験が出来なくなった日比谷高校3年生の2月のとある日を描いた物語です。東大入試中止を横糸とし、主人公が友人連中や彼を取り巻く大人たちとの間で話したり、感じたり、考えたことを縦糸にしながら話が進みます。その詳しくは文庫本に譲るとして、ここではちっちゃな女の子に銀座の書店で「赤頭巾ちゃん」の絵本を選んであげるラストから少し飛躍してみます。小説で描写されている1969年の銀座、次の箇所は今とは違うところです。

 「ぼくは有楽町で電車を降り、朝日の横を抜けて数寄屋橋に向かう手前で、まずヘルメット姿もまじった反代々木系全学連の学生たちが、東大お茶の水事件の逮捕学生支援のための資金カンパをしているところにぶつかった。」
⇒ 朝日の横を抜けての朝日は朝日新聞社のことですが、今はマリオンです。

 「数寄屋橋の交差点を阪急の方へゴム長の足をひきずって渡りながら、ぼくはぼくの中にふたたびあの熱く暗い狂気が、前よりもさらに激しくみなぎりつき上げてくるのを感じていた。」
⇒ 数寄屋橋の交差点を阪急の方への阪急は阪急百貨店。今は阪急ではなく東急プラザです。小説ではこの後に交差点をソニービルの方へ渡るシーンがありますが、ソニービルはもうありません。

 「そしてふと旭屋の軒先からぶら下がっている『本』というネオンに気づいてなんということもなしに扉を引いて店の中へ入った。」
⇒ この旭屋書店でちっちゃな女の子に「赤頭巾ちゃん」の絵本を選んであげるのですが、旭屋書店もなくなっています。

 当然のことながら年年歳歳街は変わっていくものの、阪急やソニービルの姿がなくてもにぎわいは消えていません。でも、これがなくなったら自分にとって銀座が銀座でなくなる建物はなんだろうと考えてみました。私以外にも同じように感じる人は結構いそうな気がしますが、それは銀座4丁目交差点にある和光です。私にとって銀座のランドマークは和光ということです。変わるものと変わらないものが併存する、そのバランスが街を魅力あるものにしているのではないかと思います。