花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

アプトの道

2013-12-06 23:27:00 | Weblog
 11月最後の日、弟と群馬県横川のアプトの道を歩いてきました。JRの快速で高崎へ、高崎で信越線に乗り換え、約30分で横川。横川駅にあるおぎのやの売店で峠の釜飯を買って歩き始めました。釜飯をリュックにしまう際、「何もウォーキングの時にわざわざ器の重さがある弁当を買わなくてもいいのにね」と言って笑い合いました。アプトの道はアプト式鉄道の線路跡に沿って歩けるように整備したもので、歩きやすい綺麗な遊歩道でした。アプト式鉄道とは電車に急勾配を登らせるために左右のレールの間に歯車と噛み合うようなレールを敷設し、電車側に付けた歯車と噛み合わせて上り下りしていく鉄道のことです。アプトの道と言うからには随分急な斜度だろうと予想していましたが、終点の熊ノ平までは緩やかな登りで息が上がるような箇所はありませんでした。観光客でも歩けるように楽な区間を遊歩道にしたのでしょう。アプト式だからまっすぐなのか、まっすぐにしか線路が敷けなかったのでアプト式なのかは分かりませんが、遊歩道に大きな曲がりくねりはありません。その代わり、随所にトンネルが通してあります。それがいい具合にアクセントになって飽きずに歩けます。途中、碓氷湖やメガネ橋などの観光スポットがありました。メガネ橋はトンネルとトンネルの間、つまり山と山の間の谷に渡してあり、ここでは線路を離れて下まで降り見上げる角度でカメラに納めました。メガネ橋から折り返しの熊ノ平まではすぐでした。熊ノ平で峠の釜飯を食べました。お昼を食べた後、弟と「さて、ここで引き返すか、碓氷峠を越えて軽井沢まで行くか」を相談しました。来た道を帰るのは面白みがない一方で、軽井沢までの道がどうなっているのか調べてなかったので不安な面もあり、しばし思案しました。結局、いにしえより交通の要衝であった碓氷峠に惹かれて軽井沢を目指すことにしました。西条八十の「ぼくの帽子」の有名なフレーズ、「母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね? ええ、夏、碓氷から霧積へゆくみちで、谷底へ落としたあの麦わら帽子ですよ」のイメージが強力に後押ししたこともありました。熊ノ平から碓氷峠へは車道歩きです。勾配もアプトの道よりはだいぶ急です。その道を弟とポツリポツリ話しながら歩き、話したことを沈黙の中で反芻しながら歩き、そしてまたポツリポツリと話しながら歩くこと9㎞、約2時間弱で碓氷峠に着きました。碓氷峠は特にどってことない峠で拍子抜けしましたが、この峠までの道を開くことには相当の困難があったのだろうと思いました。碓氷峠から軽井沢駅までは20分ちょっと。軽井沢駅に着いて生ビールで乾杯しました。軽井沢からはバスで横川まで戻り、JRでは信越線、高崎線と来た通りを戻り、最後は上野でコロッケをつまみにビールを飲みました。「ぼくの帽子」の最後の方に、「母さん、そして、きっと今頃は、今夜あたりは、あの谷間に、静かに雪がつもっているでせう」とあります。間もなく、私たちが歩いた道も雪に隠されるのかと思うと、お店の喧噪をよそに、晩秋の今宵のビールは少ししんみりと胃の中に落ちてゆきました。