花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

片腕のバイオリン弾き

2010-09-13 21:37:25 | 季節/自然
 先週末から我が家では、夜更けになるとリーン、リーンと、鈴虫の鳴き声が聞こえてきます。と言うのは、子どもが学校の友達から4匹の鈴虫を分けてもらってきたからです。4匹の内訳は、オスが3匹、メスが1匹です。3匹のオスのうち1匹は、羽が1枚しかありません。移動の最中に取れちゃったのか、鈴虫同士のケンカでかじり取られたのかもしれません。その哀れな片羽の鈴虫ですが、ほかの鈴虫が鳴き出すと、自分も1枚だけの羽を立て、激しく震わせています。羽が1枚しかなく、音が出ていないことに気がついていないのでしょうか。私が見ている限りでは、リーン、リーンと鳴き声が始まると、決まって負けじと音のない演奏を始めます。あたかも、片腕をなくしたバイオリン弾きが、弓を持っていないのに、演奏しようと、あるいは演奏していると思いこんで、一生懸命になっているかのようです。
 今日、会社から帰ると、子どもが、「パパ、鈴虫が死んじゃった」、と言うではありませんか。「あの、片羽の鈴虫か」と思いましたが、串に刺したナスビの横でひっくり返っていたのは、違う鈴虫でした。かの片羽の鈴虫は、止まり木の上にちょこんと乗っていました。そして、今宵も鈴虫の鳴き声が聞こえています。薄暗がりに置いた虫かごの中で、摺り合わせる相手のない羽が、しきりと細かく震えていることでしょう。

 「秋深みよわるは虫の聲のみか聞く我とてもたのみやはある」 西行