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能登半島地震で露呈した原発の「不都合な真実」 その二

2024-01-17 06:39:18 | 社会
 


 AERAdot 古賀茂明氏のコラムより

 先週に続いて、あまり知られていない原発の「不都合な真実」をもう一つ
紹介しよう。
 それは、原発周辺住民などのために作られている原発災害避難計画は原子力
規制委員会の「審査」を受けていないということだ。
 普通の人は、国が再稼働を認めるからには、ちゃんとした避難計画があり、
その計画は、政府が言うところの「世界最高水準の」基準に従って規制委が
審査していると思うだろう。だが、実際には全く違う。規制委は、避難計画に
はノータッチなのである。
 したがって、ほぼ全ての計画が全くいい加減な「なんちゃって避難計画」に
なっている。信じられないかもしれないが、それが真実だ。
 今回の能登半島地震では、地震と津波、火災による家屋の被害とともに、
広範囲に及ぶ道路が、土砂崩れ、亀裂、陥没、隆起などで寸断された。津波で
港が被害を受け、海岸が隆起した地域もあった。
 そのため、人や物の移動が陸路でも海路でも困難になったり、長時間孤立し
たりする地域も出た。
 先週のコラムでも書いたとおり、北陸電力志賀原発では大事故は起きなかっ
たが、想定を超えた揺れが確認されたり、そのほかにもいくつかの重大なトラ
ブルが起きたりして、また、敷地内の道路などで亀裂や段差が生じたという報
告もなされた。
 原発事故につながるような大きな地震があれば、こうした事態になることは
誰でも予想できる。
 当然のことながら、それに対応するための対策がとられているはずだ。
 では、具体的には、どのような対策があるのだろうか。
 原発災害の際の避難計画は、各自治体が策定することになっている。そこ
で、志賀原発が立地している「志賀町原子力災害避難計画」をネットで検索し
てみた。平成29(2017)年11月付の資料だ。
 読んでみて呆れたのだが、避難手段を記載した箇所の冒頭に
「避難にあたっては、災害の状況に応じ、自家用車をはじめ、自衛隊車両や
国、県、町の保有する車両、民間車両、海上交通手段などあらゆる手段を活用
する」と書いてある。要するに、主たる移動手段は「自動車」としているの
だ。ご丁寧に自家用車で避難できない人はバスで運ぶとまで書いてある。避難
ルートは国道・県道などとし、警察・消防が避難誘導を行うそうだ。
 今回の地震を見れば、この計画が全く役に立たないことがよくわかるだろ
う。ほとんど笑い話のようだが、笑い事ではすまない。ことは多数の人命に関
わる問題なのだ。
 こんな杜撰な計画を真面目な顔をして住民に提示している志賀町はとんでも
ない自治体だと思う人もいるかもしれない。志賀町の町長も町会議員も町役場
の職員も本気でこの計画で大丈夫だと考えていたのだろうかということが疑問
に思えるだろう。
 しかし、全国の原発立地地域の自治体が作った避難計画は概ねこの程度のも
のだ。実は、彼らもこんな計画は絵に描いた餅であることはよく知っている。
しかし、原発を動かさないと地域にお金が入ってこないので、やむなく作って
いるということだ。
 彼らから見れば、それも住民のために仕方なくやっていることなのだろう。
 逆にいうと、住民のためにやむなくやっていることで後から責任を問われる
のは割に合わないと思う自治体の長も多い。
 そこで、国が助け舟を用意した。
 内閣総理大臣が議長を務め、全閣僚などからなる「原子力防災会議」とい
う、閣議とほとんど同じメンバーの政治的な集まりでお墨付きを与える仕組み
を整えたのだ。これにより、避難計画はおかしいと言われても、「いえいえ、
これは総理大臣のお墨付きを受けたものです」と反論できる。責任逃れにはう
ってつけだ。
 そういう仕組みになったのは、民主党政権下で原発規制を作る時に、あえ
て、避難計画を規制委の審査の対象外としたことによる。
 だが、そんなおかしなことをしたのはなぜか?
 それは、避難計画を規制委の審査対象とすれば、専門家のチェックが入り、
その結果、承認される避難計画は皆無となる。なぜなら、大きな地震で原発災
害が起きた時、道路などが寸断されるリスクがない地域などなく、その場合、
住民を短時間のうちに避難させることが不可能だからだ。つまり、まともな避
難計画は作れないということを意味している。
 仮に、規制委が避難計画を審査することになれば、どう考えても、承認され
るとは考えられない。つまり、日本の原発は全て止まり、廃炉にするしかなく
なる。
 しかし、当時原発規制について協議していた与党民主党と野党自民党には
共通の利益があった。自民党は原発利権を守りたい。民主党は最大の支持基盤
である連合(電力総連など原発関連の有力な組合を傘下に有する)の支持を失
いたくない。両者の思惑が一致して、原発を動かすために避難計画を規制委の
審査対象外としてしまった。
 避難計画を規制委の安全審査の対象外とすることは、極めて不合理である。
 第一に、住民の避難ができない可能性があるのであれば、原発から放射能が
漏れることは絶対に許さないという安全基準にしなければならない(それは原
発を禁止するのと同義である)。
 第二に、避難はできても時間がかかるということであれば、その時間が経過
するまでの間は事故があっても放射能が漏洩しないような設計にしなければな
らない。メルトダウンは稼働中なら2時間で起きる。フィルターベント(事故の
際、原子炉格納容器内の圧力が高まって破損する恐れが生じた場合に、フィル
ターを通すことで放射能の濃度を下げたうえで蒸気を外部に逃がす装置)で放
射能を外に放出するまでの時間を長くするためには、格納容器や原子炉建屋の
容積を大きくする必要がある。避難にどれくらい時間がかかるかがわからなけ
れば、設計基準が決められないはずだ。
 いずれにしても避難計画と設計基準は論理的に切り離せないのだ。
 米国では、住民の避難ができないケースが想定されれば、原発の稼働は許さ
れないという規制になっている。
 現に、ニューヨーク州のロングアイランドに新設されたショアハム原発が、
1984年に完成したものの、稼働直前になって避難計画に難ありという理由で稼
働が許されず、一度も動かないまま廃炉にされた。東京電力柏崎刈羽原発や志
賀原発と同じ沸騰水型の出力約80万キロワットで、建設コストは60億ドルにも
上ったが、住民の安全の方が優先された。これが正しい原発規制のあり方だ。
 日本の原発規制は極めて歪んでいる。原発再稼働が全ての前提になってお
り、再稼働の妨げになるものは、考慮しないということが平気で行われている
のだ。規制委は、住民の安全を守るためではなく、原発を動かすことを第一
目的とした機関となっている。これは、規制委ができた時からわかっていたこ
とだ。
 2012年当時、最大の課題は、福島事故の完全な収束であった。具体的には
汚染水の処理問題が喫緊の課題だった。しかし、規制委は、規制基準の策定
を最優先し、最低2年は必要と言われる中で約半年という短期間で規制基準を
作った。これは、規制基準がないと審査ができず、原発再稼働ができないから
だ。その結果、汚染水問題は放置された。
 今回、志賀原発で大事故が起きなかったのは本当に幸いだった。だが、それ
で喜んでいるわけにはいかない。
 現にさまざまなトラブルが原発内で生じ、また周辺道路も一時通行ができな
くなった。震源が少しずれていれば、もしかすると大惨事になっていたかもし
れない。
 住民の反対で頓挫した珠洲原発の建設計画も、当時は地震でも大丈夫だとい
う話だった。もし、計画が実現して珠洲で原発が稼働していたら、壊滅的な被
害が生じ、周辺住民は避難できず大惨事となっていたことだろう。
 今回の地震に際し、マスコミには当初、原発周辺の現場に足を運んで取材す
る様子が見られず、1月5日ごろになるとようやく写真などが報じられるように
なったが、報道としては極めて小さな扱いでしかなかった。
 忖度しているのかなと思ってテレビ局の複数のディレクターなどに聞くと、
驚くべきことに、スタッフで原発のことを気にかけていた人はほとんどいな
かったという話だった。原発にカメラを出そうと提案をしても、人手もカメラも
足りない中で、原発にカメラを出してどうするのだと言われるだけだと最初か
ら諦めたという人もいた。忖度でもなんでもない。ことの重大性の理解がない
のだ。報道の劣化が如実に表れた場面である。その結果、原発関連のニュース
は今も極端に少ないという状況が続いている。
 これは、政府や電力会社にとっては嬉しい話だ。
 今頃、志賀原発では、敷地内で亀裂や段差の修復や故障した機器の復旧が
進んでいるだろう。周辺道路の修復も優先して行われるはずだ。
 その結果、1カ月も経たないうちに、志賀原発は、一見何事もなかったかの
ような外見に戻る。2月になれば、北陸電力の方から、現地を撮影してください
という案内があるかもしれない。大被害を出した能登半島地震でも、ほとんど
無傷だった志賀原発という絵が流れれば、原発再稼働に追い風が吹く。
 1月26日から通常国会が始まる。そこで、野党には、この原発の問題を重点
的に取り上げてもらいたい。その際、避難計画を規制委の審査対象に含めるこ
とを提案し、法律の改正案を提出するところまで踏み込むことが必要だ。
 政府の側にそれを拒否する理屈はない。今までは、国民が知らなかっただけ
だが、今回はこの問題に関心を集めることができる。千載一遇のチャンスであ
る。
 そして、避難計画が規制委の審査対象になれば、現在稼働中の原発を含めて、
おそらくほとんどの原発を動かすことが認められなくなるはずだ。
 ただ、心配なことがある。それは、電力労組や原発メーカー関連の組合など
を傘下に置く連合が立憲民主党に圧力をかけることである。今のところ、同党
は、今回の地震を受けて、避難計画を規制委の審査対象に加えよという話はし
ていない。
 先週指摘した原発の耐震性の問題よりも、はるかにわかりやすく、反対する
理屈がほとんど考えられないこの問題を取り上げた方が勝算がある。
 脱原発には反対でも、まともな避難計画を作れということに反対する人は少
ないだろう。
 私は、この問題を真正面から取り上げれば、必ず原発を止めることにつなが
ると確信している。
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2 コメント

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Unknown (霜後桃源記)
2024-01-19 04:45:20
スベルベさん
コメントありがとうございます。
政治家や役人は国民のために存在しているはずです
が、その使命を忘れ「自分のためだけ」の人が多い
ように思えます。
どんな屁理屈を並べようと日本の原発は危険極まり
ないにも関わらず、再稼働を促進しようとしていま
す。
今回の地震で、新潟県民の意思は「原発NO」に傾く
ものと期待しています。
返信する
柏崎刈羽原発が近い (スベルべ)
2024-01-18 04:59:59
 30キロ圏内には入っていませんが、もう少しで入ろうかという位置にあるのが我が家です。昨年の大雪の際にも露呈しましたが、国道上で自動車が立ち往生するような事態と重なったら、避難なんて出来るはずもない。
 そして、季節風が強い冬だったら、30キロ圏外でも放射能汚染になるのは目に見えている。思っていた通り柏崎は再稼働オーケーの判断が示されました。
 心配していたけれど志賀原発はあまり報道されませんでしたね。東日本大震災の際の福島のような事故になったら、日本は壊滅状態になったでしょう。良かったとばかりは言っていられません。これだけ、地震が頻発する日本での原発は国が消滅するような危険をはらんでいることを忘れてはなりません。
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