shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Venus And Mars / Paul McCartney & Wings

2009-09-05 | Paul McCartney
 「ヴィーナス・アンド・マース」は1975年にリリースされたポール通算6枚目のアルバムであり、私にとってはいよいよここからがリアルタイムで体験したポール盤である。前作「バンド・オン・ザ・ラン」の世界的大ヒットですっかり自信を取り戻したポールが次に考えたのがウイングスをライブ活動可能なパーマネントなグループにすることだった。ビートルズの後期、ポールは “ミュージシャンは常にプレイしていなくてはならない” と他の3人にライブ活動再開の必要性を説いていたという。そんな彼がウイングスを結成したのも “ステージに立ちたくてたまらなかったから” というからポールの本気度は相当なものだったろう。早速ギタリストとドラマーを補充して先行シングル「ジュニアズ・ファーム」をリリースするのだが、これがもうめちゃくちゃノリの良いロックンロールで、その力感溢れるサウンドは本作の②「ロック・ショー」を予感させるのに十分なものだった。その後ドラマーの交代劇を経て、ニュー・オーリンズで録音されたのがこの「ヴィーナス・アンド・マース」である。
 アルバムの基本的な構成は前作の路線をそのまま踏襲・発展させながらも、緊張感よりもむしろヴァラエティー豊かな楽しさを優先させたゴージャスな作りになっている。例えば実質的には2曲を繋いで1曲にしたようなメドレー形式の①「ヴィーナス・アンド・マース」~②「ロック・ショー」は3部構成が見事に当たった名曲「バンド・オン・ザ・ラン」を彷彿とさせるものがあるが、コンサートのオープニング用に作られたと思しきこの2曲、特に②「ロック・ショー」なんかもうライブ感バリバリだ。この熱さ、このノリ、まさに圧巻である。昔どこぞのアホバカ評論家が “ロックのジョン vs バラッドのポール” などというド素人以下の単細胞発言をしているのを読んだことがあるが、何を眠たいこと言うてんねん!ポールは “バラッドの名曲も書ける” 筋金入りのロックンローラーなのだ。それは歴史を変えた1962年の“ワン、トゥ、スリー、ファッ!”(笑)以来変わることのない真理だと思っている。とにかくこの「ロック・ショー」のライブ感溢れるダイナミックなサウンドは洋楽を聴き始めたばかりの私にとっては衝撃的で、 “ジミー・ペイジ” や “マジソン・スクエア” 、 “ハリウッド・ボウル” といった固有名詞がふんだんに出てくる歌詞も面白くてハマりまくったものだし、今でもポールのソロ時代を通して私的トップ3に入るスーパーウルトラ愛聴曲なのだ。
 ③「ラヴ・イン・ソング」はユニークな旋律が光る美しいバラッドで、しんみりと歌うポールに耳が吸い付く。どことなくオリエンタルな雰囲気も漂う後半部の作り込みが印象的だ。④「ユー・ゲイヴ・ミー・ジ・アンサー」はポールの十八番とも言うべきヴォードヴィル調のナンバーで、70年代版「ホエン・アイム・64」という感じ。ノスタルジックな空気を演出するホーン・セクションもエエ味を出している。
 ⑤「マグネット・アンド・チタニアム・マン」(磁石屋とチタン男)はポールがアメリカの漫画からヒントを得て書き上げたという物語風のノリの良いナンバーで、ポールの声色の使いわけといい、ウイングスの魅力の一つである清々しいコーラス・ハーモニーといい、私の大好きな1曲だ。このアルバムからの 2nd シングル⑥「レッティング・ゴー」を聴くといつも「ワイン・カラーの少女」というワケのわからん邦題のせいで赤っ恥をかいたことを思い出してしまう。当時素直な中学生だった私は英語の先生に “Letting go ってワインカラーっていう意味があるんですか?” と質問して “コイツ何言うとんねん、アホちゃうか?” と言わんばかりの白い目で見られたのだ。邦題は原題の直訳、と信じていたのだからオメデタイ話だ(>_<) 曲そのものは新加入ギタリスト、ジミー・マッカロックのブルージーなギター・ワークが絶品で、ヘヴィーなブラス・セクションも効果的だが、ちょっと重すぎてシングルには向いていないような気もする。私は大好きやけど...(^.^)
 B面は歌詞とサウンドを SF っぽく変えた⑦「ヴィーナス・アンド・マース(リプリーズ)」に続く⑧「スピリッツ・オブ・エインシェント・イージプト」でデニー・レインがリード・ヴォーカルをとるのだが、途中ポールのヴォーカルにすり変わる個所があって、そこが何かカッコイイ。⑨「メディシン・ジャー」はジミー・マッカロック作で入魂のギター・ソロも披露しているノリの良いロック曲なのだが、リード・ヴォーカルまでやるというのは欲張り過ぎ。例えポールにススメられたのだとしても謹んで辞退するべきだったのだ。ファンはポールのヴォーカルを聴きたいのだから(>_<) 2分49秒からスルスルと滑り込んでくるリンダの歌声に何故か和んでしまう。⑩「コール・ミー・バック・アゲイン」はブルージーな雰囲気を持った曲で、ポールのソウルフルなヴォーカルがユニークだ。
 アルバムからの 1st シングル⑪「リスン・トゥ・ホワット・ザ・マン・セッド」(あの娘におせっかい)は泣く子も黙る大ヒット曲で、ポールにとって「アンクル・アルバート」、「マイ・ラヴ」、「バンド・オン・ザ・ラン」に続くソロ4枚目の全米№1ソング。サックスの使い方も絶妙だし、何よりも歌詞とメロディーが見事に一体化して完全無欠のポップ・ソングとして屹立しているところが凄い。ここでもウイングスなコーラス・ワークが大いに威力を発揮している。老人の寂しい状況を歌った⑫「トリート・ハー・ジェントリー~ロンリー・オールド・ピープル」はそこはかとなく漂う哀愁がたまらないし、ラストの⑬「クロスロード・テーマ」ではレイドバックなギターがこの豪華なアルバムのフィナーレを見事に演出している。
 この翌年ポールが行ったアメリカ・ツアーでもセット・リストの中心となった躍動感溢れるハード・ドライヴィングな楽曲を多数収録したこのアルバムは私をポール狂にした全盛期ウイングスの大傑作なのだ。

Paul McCartney & Wings - Rockshow (Seattle '1976)

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