shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

さらばシベリア鉄道 / 大瀧詠一

2012-08-13 | J-Rock/Pop
 「さらばシベリア鉄道」特集の第2弾は早くもご本尊の登場だ。この曲の私的№1は何と言ってもリアルタイムでの衝撃が強かった太田裕美ヴァージョンなのだが、「ロンバケ」に収録された大瀧師匠によるセルフ・カヴァーも負けず劣らず素晴らしい。私がこの大瀧ヴァージョンを聴いたのはかなり後になってからだったこともあって最初は裕美ヴァージョンとの微妙な違いに少々戸惑ったが、繰り返し聴くうちにジワジワとその面白さが分かってきて “コレはエエわ(^o^)丿” と大いに納得、 “ドラマチックに歌い上げる感” が圧巻の裕美ヴァージョンとはまた違った魅力、すなわち抑制の効いたヴォーカルで寒風吹きすさぶシベリアの雪景色を連想させる大瀧ヴァージョンの素晴らしさに瞠目したのだった。
 私が大瀧師匠を心底凄いと思うのは、この曲を作ったこともさることながら、そんな自作曲の魅力を極限まで引き出す見事な器楽アレンジを施した点で、細部に至るまで凛とした雰囲気が横溢、まさに完璧と言ってもいいぐらいにピッタリとキマッているところに彼の天才を感じるのだ。裕美ヴァージョンも彼が渡したデモテープのインスト・アレンジがベースになっているというし、カヴァーするアーティストの多くもこの大瀧ヴァージョンのアレンジを踏襲しており、この曲はもうコレ以外考えられない!と断言したくなるぐらいの名アレンジだと思う。そういう意味ではエレキな歌心に涙ちょちょぎれる「スノー・タイム」収録のインスト・ヴァージョンも必聴だろう。
大瀧詠一 / 哀愁のさらばシベリア鉄道(SIBERIA) [インスト]


 話はちょっと逸れるが、この大瀧アレンジが神であることを逆説的に証明してしまったのが女性アーティストによるトリビュート盤「ア・ロング・バケーション・フロム・レイディーズ」収録の鈴木祥子ヴァージョンで、ゆるんだゴムひものようなヘタレなアレンジには正直ガッカリ(>_<) ヴォーカルが悪くないだけに余計に薄っぺらいバックの演奏との落差が浮き彫りになっており、せっかくの名曲が拷問に耐えているように響く。このアルバムはジャケットに魅かれて興味を持ったものの、 YouTube で試聴して一気に買う気が失せてしまった。「ロンバケ」ファンでこんなかったるいサウンド↓を好む人が果たしているのだろうか?
さらばシベリア鉄道 鈴木祥子


 話を大瀧ヴァージョンに戻そう。私が特に気に入っているのはロシア民謡も裸足で逃げ出しそうなその哀愁舞い散るメロディーをポップに料理しながらもピンと張り詰めた様な緊張感を保っているところで、風雲急を告げるようなイントロから始まって、様々な楽器が一体となって醸し出すドライヴ感が音楽を前へ前へと押し進めていく様は言葉に出来ない素晴らしさだし、何と言っても中間部の転調が最高にカッコイイ! ここでシフトアップしてエンジン全開、エンディングまで一気呵成に突っ走る感じがたまらんたまらん(≧▽≦)
 そんな名アレンジのバックの演奏と絶妙に溶け合った師匠のヴェルヴェット・ヴォイスもめっちゃエエ感じで、完璧にコントロールされたその歌声がメロウで気怠い雰囲気を巧く醸し出しているし、シベリアの澄んだ空気を想わせるクリアな音色のサウンドはこのクソ暑い季節に聴いても実に心地良く納涼効果も満点だ。この「さらばシベリア鉄道」という曲は日本が世界に誇るポップス職人、大瀧詠一が生んだ世紀の大傑作だと思う。
さらばシベリア鉄道/大瀧詠一【歌詞付】
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さらばシベリア鉄道 / 太田裕美

2012-08-11 | J-Rock/Pop
 「夢で逢えたら」の次は「さらばシベリア鉄道」だ。この曲は元々大瀧詠一がJohn Leyton の「Johnny Remember Me」(1961年)にインスパイアされて作ったもので、確かに全体的な雰囲気も細部のメロディー進行もよく似ている。更に The Tornados の「Ridin' The Wind」(1963年)の影響も強く感じさせるし、間奏部のギター・ソロなんかもスプートニクスのボー・ウィンバーグを想わせる北欧系だ。これら60'sポップスのエッセンスを絶妙なセンスで再構築し、元ネタ曲(?)を遥かに凌駕する大名曲を生み出した大瀧詠一おそるべしである。
Johnny Remember Me - John Leyton 霧の中のジョニー

RIDIN' THE WIND - THE TORNADOS


 しかし彼自身がレコーディングしていた時にこの曲は女性向きではないかと感じ、太田裕美に提供することになったらしい。結局、彼女のヴァージョンはヒットしなかったものの、その後大瀧師匠がアルバム「ロング・バケーション」でセルフ・カヴァーしたことにより世間一般の認知度が大きくアップ、「夢逢え」同様に J-POPのスタンダード曲として様々なカヴァー・ヴァージョンが作られることになったのだ。ということで特集の第1回は数ある「さらシベ」の中でも私が最高峰と信ずる太田裕美のヴァージョンを取り上げよう。
 「木綿のハンカチーフ」を聴いて彼女の大ファンになった私はそれ以降も「九月の雨」や「恋人たちの100の偽り」、「ドール」に「南風」と、舌っ足らずで愛らしい彼女の歌声に萌えまくっていたのだが(笑)、この曲を初めて聴いた時はそれまでの萌え路線ポップス(?)という次元を遥かに超越した緊張感漲る歌と演奏に大感激!!! その衝撃度はあの「木綿」をも凌駕するもので、疾走感溢れる流麗なメロディーにすっかり心を奪われてしまった。
 作詞は「木綿」と同じ松本隆で、女性の想いと男性の想いが交互に歌われるという一種の対話形式を取り入れている点も共通している。今回は男性からのプロポーズを待ち続けてついに待ちきれなくなり遠くシベリアへと傷心の旅に出てしまった女性と、自分の想いをハッキリと言葉で伝えられなかったせいで彼女を失い日本に残された男性が、一緒に過ごしていた時に相手に言えなかった想いをお互いに語りかけているという内容で、二人の微妙な心の綾を見事に描き切った歌詞が圧倒的に素晴らしい。特に “独りで決めた別れを責める言葉探して 不意に北の空を追う~♪” オトコの気持ち、痛いほど分かるなぁ...(>_<) それと、私は “君は近視 眼差しを読み取れない♪” の “近視” が聞き取れずに長いこと “厳しい眼差し” だと思い込んでいたのだが(←恥)、日本語の流れからすればここは “眼差し” を前置修飾する形容詞の方が自然だと感じるのは私だけかな?
 歌詞に負けず劣らずバックの演奏も文句なしに素晴らしい。聴く者の想像力をかきたてるような細やかな器楽アレンジが寒風吹きすさぶシベリアの大雪原をイメージさせ、細部に至るまで無駄な音が一つもない見事なオケと彼女の素朴で透明感溢れる歌声が絶妙にマッチして J-POP 史上屈指の名曲名演になっており、私なんか何十回何百回この曲を聴いたかわからないが全然飽きない。だからたとえヒット・チャート上の成績がイマイチでも、私の中で「さらシベ」といえば取りも直さず裕美たんのこのヴァージョンにトドメを刺すのである。
太田裕美 さらばシベリア鉄道

太田裕美さん さらばシベリア鉄道2012版
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夢で逢えたら / DEEN & 原田知世

2012-07-29 | J-Rock/Pop
 今日はちょっと変わった「夢逢え」でいってみよう。みながわ最高顧問に例の “音壁JAPAN” CD を教えていただいて以来、私は YouTube を駆使して未知の音壁ガールズや「夢逢え」カヴァーの探求に勤しんでおり、この1ヶ月だけで色々と収穫があったのだが、そんな中で最近見つけた大のお気に入りがこの DEEN & 原田知世によるお洒落な「夢逢え」だ。
 私は “広く浅く” ではなく “狭く深く” 音楽を聴く人間なので、ある特定の時期の特定ジャンルのアーティストの知識がスッポリ欠落していることが多い。80年代以降の邦楽も B'z やイエロー・モンキーといった一部の例外(←この2組って邦楽というよりも70'sブリティッシュ・ロックを日本語でやってる感じやもんね...)を除けばほとんど知らないに等しい。
 当然この DEEN という歌手も名前すら聞いたこともなかったし、今現在でも彼の曲はコレしか知らない。さっきネットで調べてみたら、B'z、 ZARD、WANDS、TUBE、T-BOLAN といったアーティスト(←横文字ばっか...)と同じビーイング系らしい。バリバリのロックを演ってる B'z を除けば、ビーイング系ってバブリーな金太郎飴的 J-POP というイメージが強く、一言で言うと毒にも薬にもならないといった類の音楽だ。
 薬師丸ひろ子や渡辺典子と共に“角川三人娘”と言われた原田知世はリアルタイムで「時をかける少女」や「私をスキーに連れてって」といった映画に出ているのを見たことがあるし歌も聞いたことがあるはずなのだが、その演技も歌も全く記憶に残っていない。三人娘の薬師丸ひろ子と比べれば分かりやすいと思うが、スターとしての華が無いというか、影が薄いというか、要するに地味なのだ。だから私にとっては “特に好きでも嫌いでもない、名前だけは知ってる人” という存在だった。
 だから YouTube で「夢逢え」を検索していて “DEEN & 原田知世” が出てきた時も全く期待せずに “何かよぉわからんけど、まぁ一応聴いとくか...” という感じで視聴し始めたのだが、いざ聴き始めるとこれがもうめちゃくちゃ良くてビックリ(゜o゜)  原田知世のアクの弱い(?)薄口ヴォーカルが良い方向に作用して、リラクセイション溢れる癒し系ヴァージョンに仕上がっているのだ。肩の力の抜けた好演というのはまさにこういうのを言うのだろう。私はすぐにアマゾンで中古のマキシ・シングルをオーダー、この辺の盤は送料込みでも500円でお釣りがくるのが嬉しい(^.^)
 この二人のコラボは、DEENが様々なアーティストをゲストに迎えて日本の名曲を歌ったカヴァー・アルバム「和音」の中で「夢逢え」を “featuring 原田知世” という形でカヴァーしたもので、この曲を男女でデュエットするというスタイルが実にユニークだし、取って付けたようなイントロもどことなく沖縄っぽくて面白い。そして何よりもバックのフルートやストリングスの音色と二人の浮遊感溢れるヴォーカルとの絡み具合いが絶妙なのだ。尚、この曲のシングル用のミックスを行ったのは大瀧詠一御用達のエンジニアで87年のシリア・ポール「夢逢え」初CD化の時にリミックスを担当した吉田保である。
 ただ、唯一気に入らないのがサビメロのバックで何度も何度も繰り返し “ドドド~ン!” と響き渡るティンパニの使い方で、いくら何でもこれはやりすぎ(>_<) 過ぎたるは及ばざるが如しとはよく言ったもので、こんなに多用してはせっかくのリラックス・ムードが台無しだ。そもそもティンパニなどという非日常的な楽器はここぞ!という所でスパイス的に使ってこそ活きてくるのではないか? ビートルズの「エヴリ・リトル・シング」しかり、ザ・ピーナッツの「恋のフーガ」しかりである。ここだけはアレンジをミスったと思う。
 マキシ・シングルには他にもカラオケ用に男声だけを抜いた④“for female” や逆に女声だけを抜いた⑤“for male” 、そして二人でデュエットすることを想定したインスト・ヴァージョンの⑥“for lovers”(←何とまぁ粋なネーミング!)など、多種多様なヴァージョンが収められているが、カラオケをやらない私には無意味なトラック。私が気に入っているのは③“Afternoon Cafe Style” というヴァージョンで、ギターとパーカッションを中心に展開されるお洒落なボッサ・アレンジのサウンドが耳に心地良い(^o^)丿 ブリリアントな午後にマッタリ気分で聴きたい逸品だ。
DEEN & 原田知世 / 夢で逢えたら

DEEN + 原田知世 -夢で逢えたら -Afternoon Cafe Style
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夢で逢えたら / 石川ひとみ

2012-07-26 | J-Rock/Pop
 前回の森丘祥子に続いて今日も「夢逢え」特集だ。この曲は元々大瀧詠一がアン・ルイスのために書いたものだが、当時の彼女はロック路線だったのでボツとなり、それが吉田美奈子のところに廻ってきてアルバム「FLAPPER」(1976年)に入れたのがオリジナル。そして翌77年に大瀧氏自らがプロデュースしてナイアガラ・レーベルからリリースしたのが大本命のシリア・ポール盤というワケだ。この曲は特に大ヒットしたわけでもないのにそのメロディーの親しみやすさからか根強い人気を誇っており、数えきれないぐらい多くの歌手にカヴァーされているが、歌詞の内容から考えるといくらヒットしたとはいえラッツ&スター鈴木雅之みたいなむさ苦しいオッサンの声は私的には絶対にNGだし、たとえ女性シンガーでも歌やアレンジがイマイチだったりと名曲に頼った安易なカヴァーが多く、あまり触手が動かない。ということで今日は数少ない手持ちの「夢逢え」盤の中から女性シンガーによる王道カヴァー3組をご紹介:

①石川ひとみ
 シリア・ポール、森丘祥子と並ぶこの曲のキュート・ヴォーカル系3大フェイヴァリットが石川ひとみたん。2006年にリリースされた「みんなの一五一会 ~Radio Days」収録のスタジオ録音ヴァージョンも良いのだが、私が愛聴しているのは1982年に彼女が早稲田の学園祭で行ったコンサートを収録した「キャンパス・ライブ」に入っているライヴ・ヴァージョンの方で、オーディエンスの手拍子と一体となった彼女の天使のような透き通った歌声がたまらんたまらん(≧▽≦)  一緒に貼り付けたTV出演時の映像は2006年のものだが、もうめちゃくちゃ可愛いっ!!! 47才にしてこの萌えっぷりはひとみたんならではだ(^o^)丿
石川ひとみ 夢で逢えたら(1982)

♪夢で逢えたら♪(2006)


②アン・ルイス
 1982年にリリースされたアン姐さんのオールディーズ・カヴァー・アルバム「チークⅡ」に収録された「夢逢え」は何と英語で歌われている。元々彼女のために書かれた曲だけあって、しっとりした質感のヴォーカルとのマッチングが絶妙。60'sポップスの名曲たちの中にあっても全く遜色ないオーラを放っており、日本が世界に誇れるポップスのスタンダード・ナンバーと言っても過言ではないと思う。
アン・ルイス 夢で逢えたら(Dreams)


③岩崎宏美
 岩崎宏美って高校生の時にリアルタイムで聴いていたはずなのにあんまり記憶にない。面白いことに、それから30年以上経って昭和歌謡にどっぷりハマり、筒美京平先生経由で彼女に辿り着いてその魅力を再発見したのだが(←遅い!)、めっちゃ歌上手いやん! 1980年リリースの邦楽カヴァー集「すみれ色の涙から」に収録されたこの曲でもその圧倒的な歌唱力でスケールの大きな歌唱を聴かせてくれる。それにしても70年代昭和歌謡の歌手ってホンマにレベルが高いなぁ...(^.^) 尚、彼女は2008年リリースの「Dear Friends Ⅳ」でも妹・良美とのデュオでこの曲を取り上げており、28年の時を経ても微塵の衰えも感じさせない伸びやかな歌声を披露している。
夢で逢えたら 岩崎宏美(1980)

夢で逢えたら 岩崎宏美・良美(2008)


【おまけ】近鉄にもこんな駅メロあったらエエのにな...
京急 駅メロディ 京急蒲田駅 1・2番線「夢で逢えたら」
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夢で逢えたら / 森丘祥子

2012-07-23 | J-Rock/Pop
 今日は久々に音壁関連ネタのアルバムでいこう。祭りのきっかけとなった名曲「夢で逢えたら」の大本命といえるシリア・ポール盤がリリースされたのは1977年だが、私がこの曲を知ったのはそのずっと後の90年代に入ってからのことで、森丘祥子によるカヴァー・ヴァージョンが CMソングとしてテレビから流れてきたのを聴いてそのキャッチーなメロディーと彼女のキュートな歌声に KO されてしまったのだ。あの頃はまだ音楽もCMも魅力的なものが多くてホンマにエエ時代やったなぁ... (≧▽≦)
KIRIN white wine DANCE 新発売 15" 1991


 この森丘祥子という人は80年代におニャン子クラブに入る前の工藤静香らと共にセブンティーン・クラブという女性3人組ユニットを組んで本名の柴田くに子名義で活動しており、90年代に入ってから森丘祥子に改名してソロ・デビュー。この「夢で逢えたら」を含む同名のセカンド・アルバムは “おかえりなさい、あの頃の POPS たち” というコンセプトに基づいて70年代 J-POP の名曲をカヴァーしたもので、大貫妙子、アン・ルイス、石川セリ、EPO といった女性シンガーの曲からシーナ&ロケッツや YMO に至るまで、当時を知る者にとってはたまらない選曲だ。元アイドルだけあってルックスも抜群やし、艶やかで透明感溢れる歌声も私の大好きな癒し系でたまりませんわ(^.^)
 ということで早速 CD を買ってきたのだが、いざ聴いてみると自分が期待していたサウンドとはかなり違う。一言で言うと過剰にエコーのかかった軽佻浮薄な打ち込み系デジタルサウンドが彼女の歌声以上に目立っており、サバービアだか何だか知らないが、せっかくの美メロ美声が台無し。これではまるでハエや蚊である。うるさいったらないのだ(>_<)
 プロデュースはピチカート・ファイヴの小西康陽。その筋ではかなりの数の信者がいる著名な DJ 兼プロデューサーだが、私に言わせれば過大評価も甚だしい。ハッキリ言って私はこの人の単調で押しつけがましい音作りが大の苦手。例えるならソースを多用して素材本来の持ち味を殺してしまう三流フレンチ・シェフみたいなもんで、プロデューサーが歌手より出しゃばってどないすんねん!と思ってしまう。ちょうどジャズの CD を買ってライナーノーツが岩波洋三だったら損した気分になるように(笑)、J-POP の CD を買ってプロデュースが小西康陽だったらガッカリというぐらいこの人の作る音は好きになれない。
 そういうわけで森丘祥子の作品というよりも小西康陽の作品という印象の強いこの CD は普通なら即刻中古盤屋へ売り飛ばすところだが、それでも手元に置いているのはやはり彼女の艶やかな歌声と「夢逢え」という名曲の魅力によるところが大きい。ただし、さすがに全編通して聴く気にはなれず、比較的小西色の薄い②「突然の贈り物」、④「ムーンライト・サーファー」、⑥「ユー・メイ・ドリーム」、⑩「トゥインクル・クリスマス」といったトラックをつまみ聴きしている。YMO の「ライディーン」に歌詞を付けた珍品⑦はサウンド・プロダクションはイマイチだが、彼女のヴォーカル・パートは絶品だ。もしもこのアルバムを大瀧詠一や山下達郎のような人がプロデュースしていたら J-POP 女性ヴォーカルの大名盤になっていたのではないかと思ってしまうが、いずれにせよ、こんなに素敵な女性シンガーがその後フェイドアウトしてしまったのは本当に残念なことだ。
森丘祥子 / Rydeen (1991)


 タイトル曲「夢で逢えたら」はアルバムの最初①と最後⑪に入っており、①は打ち込み系サウンドをバックに彼女の語りのパートが淡々と流れるというワケの分からんリミックス・ヴァージョン。まともなシングル・ヴァージョンは⑪の方で、女性らしい優しさに溢れた彼女の伸びやかな歌声は私をひきつけてやまない。シリア・ポールといい、この森丘祥子嬢といい、「夢逢え」にはキュートな女性ヴォーカルが一番合うようで、オーヴァープロデュースのマイナス分を差し引いても、数多いこの曲のカヴァーの中で三指に入る愛聴ヴァージョンになっている。
森丘祥子 夢で逢えたら


 尚、このアルバムですっかり彼女の歌声に魅せられた私はファースト・アルバムの「Pink & Blue」も購入したのだが、そっちの方は小西某が関わっていないこともあって彼女の魅力を巧く引き出す絶妙な音作りがなされており、セカンド・アルバムよりも遥かに聴きやすい。中でもユーミンのカヴァー「冷たい雨」が絶品で、“ドン ドドン♪” と鳴り響くイントロは「ビー・マイ・ベイビー」そのまんまやし、お約束のカスタネット連打もあるしで、スペクター・サウンドへの傾倒を強く感じさせており、恐らくそれがセカンド・アルバムへの伏線になっていると思われるが、決定的な違いはそういったアレンジが決して彼女の歌の邪魔をせずにむしろその魅力を巧く引き立てているところ。興味のある方は上の音源と聴き比べてみて下さいな。
Shoko Morioka
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何もなかったように / 荒井由実

2012-04-19 | J-Rock/Pop
 先週13日の金曜日、目に入れても痛くないくらい可愛がっていた愛犬のルミ(マルチーズ)が亡くなった。彼女は15才で人間の年齢に換算すれば90才だから長生きした方なのだが、もう完全に家族の一員として一緒に生活してきただけに何だか心の中にポッカリ穴が開いたような感じがする。今日はそんなルミへの追悼の意味も込めて、ユーミンの「何もなかったように」にしよう。
 ユーミン4枚目の、そして “荒井由実” としての最後のアルバム「14番目の月」に収録されていたこの曲は、当時彼女が飼っていたシェパードが死んで、その供養のために彼女が作ったもので前々から好きな曲だったが、いざ自分が愛犬に死なれてみると、その歌詞の一言一言が痛いくらいに胸に沁みてきて、それまでとは全く違った特別な意味を持った曲として心に響く。
 特に “人は失くしたものを 胸に美しく刻めるから いつもいつも 何もなかったように 明日をむかえる” のラインなんか、さすがはユーミン!と唸ってしまう見事な歌詞だし、 “本当の光に満ちてた頃がいつかを知るのは 過ぎ去ったあと” なんてフレーズを淡々と歌ってのけるユーミンのクールネスがこの曲の魅力を更に高めているように思う。
 彼女はよく “歌は下手” だとか “歌唱力は素人並み” だとか言われるが、歌詞に込められたメッセージを表現するには、あのつかみどころのない彷徨ヴォーカル(?)が一番合っているような気がする。自分の音楽をトータルで捉えてその中で自分を活かすスタイルを熟知しているというあたりは、ジャズで言えばさしずめセロニアス・モンクのピアノみたいなモンか?
 基本的にユーミンは全部好きだが、バブルの象徴的存在として時代を牽引していった80年代のミリオンセラー・アルバムが今聴くとやや古さを感じさせるのに対し、荒井由実時代の素朴な作品の方は風化せずにいつまでも瑞々しい響きを保っているように聞こえるところが面白い。
 今夜はユーミンを聴きながら、可愛かったルミの思い出を胸に美しく刻んでおくとしよう。

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Jaguar Hard Pain 1944-1994 / The Yellow Monkey (Pt. 2)

2012-02-13 | J-Rock/Pop
 戦争、麻薬、売春といったダークでネガティヴな題材を扱った歌が多いこのアルバムだが、そんな中でポツンと浮いた感じがする超ポップなナンバーが我が愛聴曲④「ROCK STAR」だ。バブルガム色の濃いキャッチーなメロディーも魅力的だが、何と言ってもこの曲は後半部で繰り返される必殺の名フレーズ “死んだら新聞に載るようなロックスターに~♪” に尽きるだろう。 “テッテッテレッ テッテッテレレ~♪” という彼らお得意のフックの効いたサビも効果抜群で、この曲の名曲度アップに大きく貢献している。
 それともう一つ、この曲を聴いて感じたのはヒーセの “歌うベース” の圧倒的な存在感だ。ロックの世界におけるベースという楽器の立ち位置はどうしてもギターやドラムスに比べると地味な存在になりかねないが、ヒーセの場合は別に派手な事をやっているワケでもないのにその歌心溢れるプレイで聴く者の心に強烈な印象を残すことが多い。私見だが、彼こそがイエロー・モンキー・サウンドのカギを握っているキー・パーソンであり、彼のベースが無ければ決してイエロー・モンキーの音にはならない。ちょうどリンゴのあのドラムの音が無ければビートルズにならないのと同じような感じだ。他の曲でもヒーセは大活躍で、私はこのアルバムのキモはアルバム・コンセプト云々ではなく、ヒーセを中心としたバンド・サウンドの確立だと思っている。
 鼻血 PV(笑)のインパクトが強烈だった 3rd シングルの⑨「悲しきASIAN BOY」も大好きだ。イントロだけでもうめっちゃ盛り上がるこの曲は、軽快なメジャー・キーの曲なのに不思議な哀愁があって、この曲の良さが分かる日本人でよかったなぁと思ってしまう。まぁ、アジアとか兵士とかいったイデオロギー的な話はさておいて、吉井さんのおセンチな面がすごくよく出た歌詞が絶品で、好きな女性と愛し合いたいのにその勇気がなくて悶々としている男心を見事に表現した “桜色の口唇に 触れたいのに口唇に 強い弱さに縛られた~♪” のラインなんかもうめちゃくちゃ好き。この切なさがタマランなぁ... (≧▽≦)
 ライヴでこの曲のイントロが響き渡ると会場の盛り上がりが最高潮に達することも多く、オーディエンスとの一体感もハンパないキラー・チューンになっており、実際、120曲以上ある彼らの全公式録音曲の中で “ライヴで演奏された率” は恐らく№1だろう。とにかくほぼすべての時期のライヴ DVD に収録されており、手持ちのを数えてみたら8ヴァージョンもあった。私が “イエロー・モンキーというバンドのテーマ曲” を選ぶならこの曲以外に考えられない。
 私の嗜好のツボは “アッパーな疾走系チューン” なので、⑩「赤裸々Go!Go!Go!」なんかもうスウィート・スポットを直撃しまくりだ。曲想はズバリ、チェッカーズあたりが歌えばピタリとハマりそうな歌謡ロック。その妖しげでチープなノリはこの手の音楽が大好きな私にとってはたまらない魅力で、 “蟻地獄で逢いましょう~♪” のフレーズが耳に残るキャッチーなナンバーだ。ここでもヒーセ、めっちゃエエ仕事してますな(^.^)
 同じアッパー系の②「FINE FINE FINE」は「太陽にほえろ!」のメイン・テーマみたいなイントロが面白いが(←エマ大活躍!)、サビのメロディーの決着の付け方はイマイチ中途半端な感じがする。ちょうどエイジアの「ドント・クライ」みたいに途中まで期待が大きかった分、後半部の旋律的な尻すぼみ感が悲しいが、そんな中でアニーのパワフルなドラミングは必聴だ。
 ③「A HENな飴玉」は読んで字の如く “あっ! 変な” と “アヘンな” を引っ掛けたダブル・ミーニングのタイトルで、麻薬でラリパッパな状態を示唆する歌詞(←“汗だく 絶倫 バイブレーション... からみつけ子宮のマウスピース” とか...)が面白いが、イントロでエマの突き刺さるようなギター・リフにシタール(?)みたいな音が絡んでいく瞬間から怪しげなメロディー全開で突っ走るところがたまらなくカッコイイ(^o^)丿 万人ウケするタイプの曲ではないが、私は大好きだ。
 日本の歌のタイトルとは思えない⑤「薔薇娼婦麗奈」は、彼らには珍しくアンダルシアの風が似合いそうな(?)ラテンの薫り溢れるナンバーで、フラメンコな味わいを巧く取り入れている。特に扇情的なギター・ソロがめちゃめちゃカッコ良く、後半部でバイオリンが絡んでくる辺りなんかも彼らの音楽性の幅の広さ、懐の深さ如実に物語る、彼らの隠れ名演の一つと言っていいと思う。いやはや、それにしてもホンマに凄いバンドですわ。
 大衆の嗜好やロック・シーンの流れなどは一切無視し、自らの父親と母親をオーヴァーラップさせたジャガーとマリーの物語をイエロー・モンキーというロック・ユニットを使って表現したこのアルバム、吉井さんにしてみれば一表現者としてコレをやらねば先に進めなかったのだろう。そういう意味でも、カルト的なバンドとしてのイエロー・モンキーの最後を飾る1枚といえるが、私としては小難しいアルバム・コンセプトを抜きにしてカッコ良いロック・アルバムとして聴くことをオススメしたい。この後、バンドはいよいよ “死んだら新聞に載るようなロック・スター” への階段を上り始める...

Asian Boy - Tokyo Dome - The Yellow Monkey


[LIVE] THE YELLOW MONKEY - ROCK STAR


赤裸々GO!GO!GO!


薔薇娼婦麗奈
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Jaguar Hard Pain 1944-1994 / The Yellow Monkey (Pt. 1)

2012-02-11 | J-Rock/Pop
 インフルエンザにかかってしまった(>_<) 先週の日曜に喉がイガイガしてきたのでてっきりフツーの風邪と思い、1日で治すつもりで「銀のベンザ」を飲んで夜9時に寝たものの、翌朝起きると38.7°の熱で頭がフラフラ... しかしインフルなんぞ全く疑わず(←気付けよ...) “汗かいたら熱下がるやろ” とばかりに通勤時に車内をガンガン暖房して発汗しまくりスッキリして出社、昼頃またまた高熱でボーっとするも職場の暖房で発汗して気分スッキリ(笑)、仲良しの同僚Aちゃんが心配してくれてるのに “風邪なんてもう治ったわ! ハハハハ...(^.^)” と息巻いて退社(←恥)、しかし運転中に顔が熱く火照ってきたので念のために病院に直行して調べてもらったところ、「インフルエンザです!」とキッパリ宣告され、火曜日から出勤不可。高熱と節々の痛みは1日で治まり水曜にはもうすっかり元気になったが、他人にウイルスをばら撒く可能性が大とのことで結局今週は今日まで家でゴロゴロ、この週末を入れると降って湧いたような6連休になったけど、どっかへ遊びに行くワケにもいかず、高齢の両親に移すとヤバいから完全自室軟禁状態で、もう死ぬほどヒマやった。おかげでブログの更新が進む進む...(笑) 冗談はさておき、皆さんもインフルエンザには十分お気を付け下さいませ。私の唯一の収穫は「パブロンのどスプレー」、コレめっちゃエエですわ(^o^)丿(←アマゾンで薬が買えることを今回初めて知りました...) それでは今日も元気にイエロー・モンキー祭りの始まり始まり...

 1st でカタツムリをおでこに乗せ、2nd では女装と、まさに我が道を行くグラム・ロック・スタイルを貫いてきたイエロー・モンキー。 “3rdは売れるモンを作れ” と言うレコード会社に対し、 “いや、コンセプト・アルバムやんないとシャレにならない!” と言って出来たのがこの「Jaguar Hard Pain 1944-1994」だ。デビッド・ボウイに心酔していた吉井さんは事あるごとに “3枚目は俺達なりの「ジギー・スターダスト」を作る!” と言ってきており、レコード会社の反対を押し切ってそれを実行に移した格好だ。
 ストーリーは、1944年に戦死した兵士ジャガーの霊が1994年の東京に甦って恋人マリーを探すというもので、主人公ジャガーのモチーフになったのは彼の亡くなったお父さん。前作「エクスペリエンス・ムービー」の最後の曲で母親をモデルにしたマリーという女性のことを歌っており、そこから繋がったロック・オペラ的なトータル・コンセプト・アルバムになっている。
 で、この「Jaguar Hard Pain 1944-1994」はコンセプト・アルバムだからなのか、その筋ではかなり評価が高く、コアなファンの中には最高傑作に挙げる人もいるようだ。しかし私的には、確かに良いアルバムではあるが正直言ってそこまでのものではない。というか、はっきり言ってロック・オペラ的なアルバムというもの自体、あまり好きではない。
 コンセプト・アルバムと言えばいの一番に頭に浮かぶのがビートルズの「サージェント・ペパーズ」だが、あれはコンセプトといっても “架空のバンドのショウ” というテーマ設定だけのシンプルなものなので、主人公を中心に物語が展開していくという類のオペラチックな作品が苦手な私でも違和感なしに楽しむことが出来た。フロイドの「狂気」(←まぁプログレ・バンドのアルバムはそのほとんどすべてがコンセプト・アルバムなわけだが...)や ELO の「タイム」、ミカ・バンドの「黒船」といったアルバムも同様だ。
 このように、 “あるテーマに基づいて全体が構成された” コンセプト・アルバムというのは全然 OK なのだが、そこにしっかりとしたストーリー性を持たせ、主人公を始めとするキャラクターを設定してその悲喜こもごもを描いたロック・オペラ的なアルバムとなるとイマイチ肌に合わない。ロック・オペラの金字塔と呼ばれるザ・フーの「トミー」なんかもそうだが、曲作りにおいてアルバムのストーリーに拘りすぎてキャラクターの制約に縛られてしまい、アルバム収録曲のクオリティーの点でマイナスに感じることが少なくないからだ。
 この時期の彼らのライヴは吉井さんがジャガーを演じるシアトリカルなステージなのだが、お芝居とか演劇とかに何の興味もない私としては DVD を見ていてもジャガーのセリフのシーンになると、音楽に余計な要素を持ち込まずにストレートにロックだけを演ってくれよと思ってしまう。私は戦争とか霊魂とか苦悩とかいったドロドロした物語が聴きたくてロックを聴いているのではない。だから私はジャガーがスベッただの、マリーがコロンだだのといった能書きは一切無視して、普通のロック・アルバムとしてコレを聴いている。コンセプト・アルバムを曲単体で聴いて都合の悪いことなど何もない。
 そうやってストーリーから離れて個々の曲の集合体として聴くと、ハードでグルーヴィーなロックとして眼前に屹立してくるのが⑦「RED LIGHT」だ。このアルバムのサウンドは、1st、2nd アルバムで顕著だった煌びやかなグラム・ロック色が後退、その後の大ブレイクへと繋がるストレートでズッシリとした質感の王道ロックが展開するのだが、そんなサウンドの変化が最も如実に感じられるのがこの曲なのだ。
 スタジオ・ヴァージョンでは曲のオープニングでインタールード的に吉井さんとゲスト女性ヴォーカル伴美奈子さんとのデュエットによる子守唄みたいなパートが1分ほど続いた後、静寂を破るようにハードなギター・リフとヘヴィーなリズムが爆裂、彼らなりの「ハードロック宣言」とも取れる勇ましいイントロにロックな衝動がこみ上げてくるが、何よりも衝撃的なのはそのあまりにも卑猥な歌詞で、何と “君の大切な ヴァギナが泣いてる~♪” とそのものズバリの露骨な単語が使われているのだ。前作の “改造ペニス” に続いて今度は “ヴァギナ” ... レコード会社もさぞや困ったことだろうが、聴いてる方にとっては痛快無比そのもの。しかし “濡れてる” ではただのエロ表現に堕してしまうところを、少女娼婦の悲哀を込めて “泣いてる” とした吉井さんのセンスはさすがという他ないだろう。どっちにしてもコレって放送コードに引っ掛かからへんのかな?
 そんな吉井節炸裂の感があるこのドギツいフレーズに、隠し味としてゲンスブールなリフを絡めた “ウーララ ウーララ ウーララ ウゥ~♪” というキャッチーなコーラスを添えて完成した “歌えるサビ” と、イエロー・モンキーは男でござる!を満天下に知らしめるかのようなヘヴィーなサウンド・プロダクションがこの曲のインパクトを高め、一度聴いたら脳内リフレイン確実なアクの強さを誇っている。とにかく彼らのハードでヘヴィーでエロい面(笑)が好きな人は、この1曲のためだけにこのアルバムを買ったとしても決して損はないと思う。 (つづく)

RED LIGHT

Experience Movie / The Yellow Monkey (Pt. 3)

2012-02-09 | J-Rock/Pop
 このアルバムで①「Morality Slave」と⑪「Suck Of Life」に次いで好きなのが⑦「審美眼ブギ」だ。冒頭のシャウトからいきなり躁状態のマーク・ボランが吉井さんに憑依、軽快なシャッフル・リズムにウキウキワクワクさせられるこの曲は、「Sleepless Imagination」→「Foxy Blue Love」と続く “アッパーなグラム・ロック・チューン” の正しい発展形。お約束のハンド・クラッピングも効いている。やっぱりイエロー・モンキーはこうでなくっちゃ(^o^)丿
 そんなイケイケ・オラオラ系の曲調とは裏腹に歌詞は辛辣で、デビュー・アルバムが思うように売れず業界にも相手にされなかったことを痛烈に皮肉った内容だ。 “キリンの首をちょん切って馬にする” だとか “ゴーギャンの新聞紙で尻を拭く”だとかいった相変わらずの意味不明フレーズ(←まぁそこが面白いのだが...)に混じって “審美の目玉が割れてるよ” “不純な寄せ書きで 僕は遠くで君の言葉に嘆いてる” “退屈ならお手をどうぞ アンタの批評が大好きさ” といった皮肉たっぷりの言葉が速射砲のように飛び出してくる中、エンディングの “ライター!、リスナー!、DJ! I'm Gonna Suck You!” という絶叫がすべてを物語っているように思う。メカラウロコ10での “業界のバカヤロー!” も忘れ難い。
 2nd シングルになった⑨「アバンギャルドで行こうよ」もめっちゃ好き。この曲はとにかく陽気で明るくてチャーミングな “グラム歌謡” で、“ディンダン ディンダンダン♪” というキャッチーなコーラスを聴いているだけでもう楽しくなってくる(^o^)丿 デビュー・シングルがまったく売れなかったので今度は明るい曲調にして CM のタイアップを狙って作ったとのことで、曲が完成した時には “天下取った!” と思ったらしい(←結果的には惨敗に終わったが...)。 まぁ売り上げはともかく、どんなに凹んでる時でもコレを聴けばウキウキした気分になれそうな曲想で、そのポップなハジケっぷりは後の「悲しきASIAN BOY」、そして「Love Communication」へと受け継がれてゆく。どちらかと言うと重た~い雰囲気の曲が並ぶこのアルバムの中にあって、先の⑦と共にそのノリの良さは際立っている。
 この曲はライヴではコンサート終盤に演奏されることが多いが、それは “アバンギャルドで行こうよ BABY~♪” ってやってるだけでメンバーが楽しくて幸せになれるからフィナーレにピッタリとのことで、その他愛のなさ故にオーディエンスともその幸せ感を共有できるという、吉井さんにとっては “ドリフのババンババンバンバン~♪” みたいな位置付けらしい。なるほどね(^.^) この曲のライヴ・ヴァージョンの異様なまでのテンションの高さには圧倒されることが多いが、吉井さんのインタビューを読んでその理由がわかった気がした。
 それと、この曲にまつわる面白いエピソードとして、吉井さんがスウェードのライヴを見に行った時に、他の客に “アバンチュールで行こうよの奴だぜ” と言われてめっちゃムカついた、というのがあったが、そもそも平均的日本人にとって “アバンギャルド” などという言葉自体ほとんど縁が無い。私だってビートルズの「レヴォリューション№9」が無ければそんな単語は知らなかったかもしれない。ポップ・ソングのタイトルとしては “アバンギャルド” を “アバンチュール” と間違えた彼らに罪はない(笑)
 ②「Drastic Holiday」は曲の途中でマイナーからメジャーに転調する面白い曲。まるでフランスの歌謡曲(←そんなものあるわけがないが...)と言ってもいいような親しみやすいナンバーで、そのポップで楽しいノリが気に入っている。特に “パッパラッ パッパッパラッ” というコーラスがめっちゃ印象的で、聴くたびに思わず一緒に口ずさんでしまう。エマのリズム・カッティングも絶妙で、ポルカみたいな曲調のブリッジ部におけるユニークなギター・ソロ(←スティーヴ・ハウやブライアン・メイが次々と降臨...)も含めて大活躍だ。
 ⑤「Vermilion Hands」は直訳すれば “朱色の手” という意味で、一言で言えば爪切りの歌(笑)... ポップ・ソングとしてはまさに空前にして絶後な題材だ。イントロのドラムは「Fairy Lnad」を想わせるアダム&ジ・アンツ系で、ギターはエディー・ヴァン・ヘイレンが「Bottoms Up」や「I'm The One」といった初期の楽曲で多用していたリフを転用、「Chelsea Girl」っぽいノリで一気に突っ走るストレートアヘッドなロックンロールだ。曲構成そのものは平坦でワンパターンな繰り返しに過ぎないので一気呵成に聴くべし。
 このアルバムには吉井さんの中に存在する “私” “僕” “俺” という3つの自分をそれぞれ歌った超大仰バラッド⑧「4000粒の恋の唄」、⑩「フリージアの少年」、⑬「シルクスカーフに帽子のマダム」の3曲が入っており、アルバム後半はさながら吉井和哉版 “ジョンの魂” といった按配だ。アルバム・タイトルが「エクスペリエンス・ムービー」とはまさに言い得て妙と言えるだろう。これらはどれも6分を超える大作で、吉井さんの「僕を分かって欲しい」という心の叫びが聴く者の胸に突き刺さるヘヴィーなバラッドだ。
 このアルバムは爽やかなロック&ポップスが好きな堅気の音楽ファンには決してオススメできないが(笑)、一癖も二癖もある濃厚でディープな音世界にドップリと浸かりたいというその筋系の真正ロック・ファンにはイチ推しの個人的愛聴盤。コレが気に入ったら、もうイエロー・モンキーは特別なバンドになっているはずだ。彼らの全アルバム中、人間・吉井和哉の本質が最も顕著に表れた1枚。

審美眼ブギ


THE YELLOW MONKEY - アバンギャルドで行こうよ LIVE (640x480)


DRASTIC HOLIDAY


Vermilion Hands
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Experience Movie / The Yellow Monkey (Pt. 2)

2012-02-06 | J-Rock/Pop
 このアルバムの中で①「Morality Slave」と並ぶ超愛聴曲が⑪「Suck Of Life」だ。この曲にはシングル「アバンギャルドで行こうよ」のB面に収録されていたオリジナル・ヴァージョンと、冒頭に “ファスナーをおろして~♪” の一節が追加されたアルバム・ヴァージョンがあり、私は先にオリジナル・ヴァージョンの方をベスト・アルバム「トライアド・イヤーズ・アクトⅡ」で聴いていたので、このアルバム・ヴァージョンを聴いた時は本当にビックリ(゜o゜)  というのも追加されたパートには重厚なエコー処理が施されて “あの時代” を思い起こさせる女性コーラスとハンド・クラッピングが寄り添い、何とカスタネットまで響き渡るという徹底ぶり... コレってもろにロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」のパロディーやん(笑) そう、この追加部分は意表を突いた “イエロー・モンキー版ウォール・オブ・サウンド” なんである。
 吉井さんが優れたミュージシャンである以前に洋楽ロック&ポップスや昭和歌謡の優れたリスナーであったことは彼らのアルバムを聴けば瞭然で、その音楽マニアとしての冷静な視線とマニアックなまでの拘りがイエロー・モンキーの音楽性にしっかりと反映されているところが大好きなのだが、まさかフィル・スペクターまでもが守備範囲だったとは思わなんだ... 吉井和哉恐るべしである。「ビー・マイ・ベイビー」をパロったのは、おそらく歌詞の “Be my suck of life” というフレーズから思いついたのだろう。
 本編の曲そのものは血沸き肉踊るようなバリバリのロック・チューンで、曲想はボウイの「Rebel Rebel」(←初期ボウイは苦手やけど、この曲はノリが良くて大好き!!!)に似ている気がするが(←ヒーセのベース・ラインもクリソツ!)、変則的なメロディーを軽やかに歌いこなす吉井さんのシンガーとしての実力がよく分かるナンバーだ。追加部分にクロスフェードするような形で切り込んでくるアニーのワイルドなドラミングや高揚感を煽りまくるエマのギター・リフもめちゃくちゃカッコ良く、この手のロックが大好きな私なんか何度聴いてもアドレナリンがドバーッと出まくって、ロックな衝動がマグマのようにこみ上げてくる。
 歌詞はもうめちゃくちゃ卑猥。特にヤバイ部分はすべて英語で歌われているので普通に聴いてる分には気がつきにくいが、タイトルに使われている suck とは「舐める、しゃぶる」という意味でそのものズバリだし、cock shock なんていうオゲレツな韻の踏み方してるし、要するに “もう我慢できない オレの○○○をしゃぶってくれよ わかるだろ?” という感じ(←訳すだけで恥ずかしいわ...)。しかも be my sucker (俺の×××になってくれ!)を繰り返しておいて最後に be my sucker of life (ずーっとそういう関係でいてくれよ)なんて... 日本語で歌ってたら放送禁止間違いなしのスゴい内容だ。エロ・パート(?)以外では “悪女の深情けは無用さ 女狐の涙に用はない 君の彼はゲイでおまけにデブ 幸せなんて言葉はな~い♪” のラインが気に入っている。
 この曲はライヴには欠かせない定番曲で、間奏で吉井さんとエマの妖しげな絡みがあったり途中にメンバー紹介を挟んだりで、ノッてる時は20分近く続くこともざら。このメンバー紹介がまためちゃくちゃ面白くって、2000年のスプリング・ツアーの時なんか、 “夜のお菓子、エマ!”(←うなぎパイかよ...)とか、 “ロッケンロール・ゴリラ、ヒーセ”(←ドリフの長さんみたいな仕草でオーディエンスを煽る吉井さんに大笑い...)とかもう抱腹絶倒モノで、このオバカ MC 見たさに DVD を取り出すことも多い(←おいおい...)。
 下に貼り付けた東京ドームのラスト・ライヴでも、吉井さんのオバカ MC は絶好調。 “エマに絡みたいけど... 髭が生えてるから嫌っ! [嫌がる吉井さんにエマが髭をスリスリ...] 痒い~ッ!!!”(4:48)とか、ジョー・ペリーを敬愛しているエマに向かって “兄貴っ、エアロスミスが演った東京ドームですよっ!”(6:50)とか(←間髪入れずにジョー・ペリー・ライクな即興フレーズで返すエマが最高!)、ゲスト・キーボーディストの三国さんをイジリたおしたりとか(7:47)、もうヘタなコントを見てるよりも遥かに面白い。
 又、コレが最後との思いからか、間奏で「追憶のマーメイド」(12:15)とか「ラヴ・コミュニケーション」(12:38)とか、「東京ブギウギ」(12:53)のフレーズを歌ったりして大サービスしてたのも印象的。ギンギンにロックしながらもエンターテインメントの要素も決して忘れない... やっぱりイエロー・モンキーのライヴは最高やね! (つづく)

Suck Of Life (Album Version)


Suck of Life -TokyoDome-COMPLETE- The Yellow Monkey

Experience Movie / The Yellow Monkey (Pt. 1)

2012-02-04 | J-Rock/Pop
 イエロー・モンキーのメジャー2作目にあたるこの「Experience Movie(邦題:未公開のエクスペリエンス・ムービー)」は、この時期の彼らの特徴である “アクが強くて時代錯誤でマニアック” な路線を更に推し進めながらも、色々と戦略を考えすぎて “ポップなグラム・ロックと両性具有” という側面ばかりが突出してしまった感があった前作の方向性を軌道修正し、ヘヴィーな洋楽ロックとおセンチな歌謡曲、妖しげな似非ヨーロッパ風シャンソンといった様々な要素を巧く組み合わせることによって他の誰にも真似できない “ディープな音世界” を作り上げることに成功した初期イエロー・モンキーの傑作だ。
 そういえばこのアルバムが出た直後のインタビューで “一番やりたいのはホワイトサイド・ブラックサイドという二面性で、1st はホワイトサイドだったから 2nd はブラックサイドにしたんだ...” という趣旨のことを吉井さんが仰っていたが、それって「クイーンⅡ」のA面B面のイメージなんだろうか? 実際、詞の面でもサウンドの面でも “煌びやかな 1st に対して重た~い 2nd ” といった印象が強いが、とにかく吉井さんを語る上で、男と女、明と暗、陰と陽という風に “二面性” という言葉は重要なキーワードと言えるだろう。
 このアルバムは “馬鹿ポップ、ヘヴィー・シャンソン、内気ロック、ミクスチャー・グラム、90年代ムード歌謡、メッセージ色の強いふりしたロック、4LDKフォークを全部消化して、自分だけが「本物だ」と思うアルバムを作り上げた” という言葉通り、ダークで猥雑な①、ヨーロッパの薫り漂う②、ノリノリのアッパー・チューン③⑤⑦⑨⑪、耽美的な④⑥、オカマの失恋歌⑧、吉井さんの自叙伝的な⑩、美輪明宏風シャンソン⑫、自分の母親をモチーフにした⑬と盛り沢山な内容で、ハードなギターを前面にフィーチャーしたストレートなロック・チューンと古いモノクロ映画のサントラを想わせる妖しげなスロー・バラッドがほぼ交互に並べられており、聴けば聴くほど味が出るアルバムになっている。
 この時期の彼らの音楽性は一見とっつきにくいけれど一旦ハマると中々抜け出せない麻薬のような魅力を秘めており、イエロー・モンキーのコアなファンの中にはこのアルバムをベストに挙げる人も多いと聞く。かく言う私もそんな魔力にすっかりやられてしまった一人なのだが、中期のストレートアヘッドなロックンロールしか知らなかった私を初期のドロドロしたイエロー・モンキー・ワールドの魔界に引きずり込んだ張本人と言えるのが、このアルバムの1曲目に収められている①「Morality Slave」だ。
 アルバムの序曲ともいえるこの曲は、タイトルが示すように、未だに “道徳の奴隷” になっているような人達に向けてのメッセージ・ソング。イントロ部分では、奴隷の鎖の音のような SE をバックにベートーベンの「月光」が静かに流れ、“何かめっちゃ雰囲気あるけど、これから一体何が始まるねん...” と思いながら聴いていると徐々に悪魔の囁きのような声が高まっていき、いきなり「オペラ座の怪人」からアダプトしたようなダーク・トーンのギター・リフが切り込んできて曲がスタート、ボウイの「It's No Game」にインスパイアされたと思しき妖しげな女性のナレーションがこれに絡みついてくるところがめっちゃツボ! 更に “とぅるららら~♪” という呪文のようなコーラスを従えた吉井さんのダークな歌声が不気味な感じで煽りまくり、サビのパートでは「ロボトミー ロボトミー~♪」と連呼するという凄まじい展開に言葉を失う。このアングラ感がたまらんたまらん... (≧▽≦)  淫猥な歌詞をさらっと歌ってしまう吉井さんも凄いし、間奏で炸裂するソリッドで切っ先鋭いナイフのようなエマのギター・ソロも絶品だ。とにかくベートーベンから始まって、最後には “改造ペニスのロボトミー” なのだからこれを痛快と言わずして何と言おうか!
 因みにロボトミーとは医学用語で前部前頭葉切截術と呼ばれるもので、こめかみに穴をあけて脳の中で最も人間らしい知的活動を司っていると言われる前頭葉の神経を切断することによって廃人にする手術のこと。ロボットみたいになるからロボトミーなのかと思っていたが(←アホ)全然綴りが違うかった。曲の後半部には例のキュゥィ~ンという歯医者さんのドリルみたいな音の SE まで入っているという凝りようだ。お~こわ(>_<)
 1993年に彼らが日本青年館で行ったライヴで、頭に袋をかぶせられて手を縛られた裸の女性2人を吉井さんが孔雀の羽根でサディスティックにいたぶりながらこの曲を歌うという演出は実に衝撃的だった。「Life Time Screen」という DVD で見れるので興味のある方はどーぞ。1996年に日本武道館で行ったメカラウロコ・7のステージでもこの裸のネーチャンがクネクネする恐ろしいライヴを再現しようとしたものの、 “武道館は神聖な場所だからそういうことやっちゃいかん!” とクレームが付き、スリップ姿の女性を20人(!)登場させてこの曲を歌ったというエピソードがいかにも彼ららしくて面白い。 (つづく)

MORALITY SLAVE - THE YELLOW MONKEY

The Night Snails And Plastic Boogie / The Yellow Monkey (Pt. 2)

2012-02-01 | J-Rock/Pop
 アルバム全体の序曲といった感じの①「Song For Night Snails」は何とオール・フルファルセット... メジャー・デビュー・アルバムの1曲目にしていきなり裏声で、しかも “プリーズ イエスタデイ~♪” というデタラメな英語で始まり、めったやたらと脈絡のない英単語を連発、挙句の果てに “カタツムリは今夜モザイクを映さない~♪” などという摩訶不思議なフレーズまで飛び出すという実に怪しげなナンバーなのだが、吉井さんの囁くようなヴォーカルで聴く美しいメロディーにはどこか妖艶な響きがあり、ジャケットの雰囲気と怖いぐらいに合っていてコレが中々エエ感じなのだ。グラム・ロックに傾倒していた吉井さんの美意識を色濃く反映した1曲だと思う。
 エフェクト処理された①のエンディングにカウベルの逆再生音がかぶさり、そのまま繋がった感じで始まる②「Subjective Late Show」は初期イエロー・モンキーの魅力を凝縮したようなグルーヴが気持ち良いグラム・ロック・チューン。このイントロの元ネタは多分ボウイの「Diamond Dogs」あたりだと思うが、吉井さんはこの “前曲のエンディングでテープ回転を徐々に下げていき、そこにカウベルのリバース・サウンドをオーヴァーラップさせて次曲のイントロへと繋げる” 手法がかなりお気に入りのようで、彼らの最高傑作との呼び声も高い 6th アルバム「SICKS」でも「HOTEL宇宙船」~「花吹雪」への繋ぎに使っている。暗闇から忍び寄ってくるような無機質なループ音が不気味な雰囲気を醸し出しており、コレがあるのとないのではかなり印象が違ってくるように思う。
 歌詞の方は抽象的すぎてワケが分からないが、 “上目使いの Kinky lady~♪” (←kinky とは英語で “変態” のこと。ジャニーズの Kinki Kids とか、私の住んでる近畿地方とか、外人さんの耳にはどう聞こえてるんやろか???)とか、 “フェレイシオのような歯ざわりで~♪” とか早くもエロ路線が全開で、特に “シリコンのザリガニ” には大笑いさせてもらった。そんな中、“愛されない Paranoia band” という自虐的なフレーズをさりげなく織り込むあたりがいかにも吉井さんらしい。
 どこか懐かしさを感じさせるキャッチーなメロディーはとても親しみやすく、歌心溢れるエマのキラキラしたギター・リフもたまらんたまらん(≧▽≦) 個人的には “メカラウロコ 7” のライヴ・ステージでこの曲の間奏の時に、仮面ライダー変身ポーズからエマにチョップをお見舞いしたりしてちょっかいを出しにいく吉井さんの楽しそうな姿が微笑ましくて忘れられない。
 “メカラ 7” といえば何と言っても⑨「真珠色の革命時代」である。 “飾りたてた骸骨とラストダンス” だとか “アスファルトに刺した忘却の注射器” だとか、独創的な歌詞は相変わらずだが、とにかく切ないメロディーが大いなる感動を呼ぶ壮大なバラッドで、初期を代表する名曲の一つだと思う。特に間奏のギター・ソロは完全に洋楽ロックのレベルと言ってよく(←リッチー・サンボラ系の泣きのフレーズが最高!!!)、そのあまりの素晴らしさに涙ちょちょぎれるし、サビの “Sally, I love you~♪” のメロディー・ラインの美しさにも言葉を失う。終盤でストリングスが加わって更に盛り上がっていく様はまさに圧巻で、 “メカラウロコ 7” のライヴで吉井さんが生のオーケストラを自ら指揮する姿にはめっちゃ感動した。
 ⑤「Chealsea Girl」はキャッチーで疾走感溢れるノリノリのロックンロール。尖ったギター・リフと “トゥー トゥー イェー♪” というコーラスが実に印象的で、4th アルバム「Smile」で開花する “歌謡ロック” 路線の原点ともいえるナンバーだ。途中さりげなく入ってくるアコギが実にエエ味を出しているし(1:33~)、ギュイーンというギターのピック・スクラッチ音(1:40あたり)を入れるエマのセンスも素晴らしい。躍動感溢れるヒーセのベースも大活躍だ。歌詞はストレートに卑猥(笑)で、 “パパやママにはナイショだよ~♪” のくだりなんかもう最高だ。
 デビュー・シングルになった⑩「Romantist Taste」は絵に描いたようなグラム・ロックで、②にも通じるポップ・センスが快感を呼ぶ。歌詞はもう笑ってしまうぐらいワケの分からんカタカナ英語のオンパレードで、言葉の意味を空洞化することによって歌詞を一種のサウンドとして捉える過程で “そして夜は全てこの手の中 アルカロイドは君の中~♪” や “ラヴ・ポーションで妖艶にシャドウ~♪” といった名フレーズを生み出しているところが凄い。それにしてもデビュー・シングルで1曲丸ごと “意味なし言葉遊びゲーム” を貫き通す姿勢は実に痛快だ。
 上記の曲以外では、駆けていく馬の蹄のような音を巧く表現したアニーのパワフルなドラミングが心地良い③「Oh! Golden Boys」、ブライアン・メイっぽいエマのギターがオシャレなヨーロッパの風情を漂わせる④「Neurotic Celebration」、エマの繊細なアルペジオが奏でるメロディーの美しさに耳が吸い付く⑦「This Is For You」なんかが気に入っている。
 このアルバムはセールス的には大苦戦でわずか数千枚しか売れなかったらしいが、日本におけるグラム・ロックのマイナー性や強烈なヴィジュアル・イメージの先行、虫や爬虫類が一杯出てくるグロテスクな⑩の PV(←ハッキリ言って悪趣味以外の何物でもない...)といったマイナス・ファクターを考えれば一般ウケしなかったのも当然と言えば当然。しかし今の耳で聴けば、有象無象の邦楽ファンよりもむしろ年季の入った70~80年代洋楽ロック・ファンにウケそうな要素が満載だ。私のようにこのアルバムがストライク!!!な人にとって、彼らのインディーズ盤とメジャー初期3部作はきっと愛聴盤になると思う。

Subjective Late Show


真珠色の革命時代


the yellow monkey--Chelsea Girl.flv


Romantist Taste

The Night Snails And Plastic Boogie / The Yellow Monkey (Pt. 1)

2012-01-29 | J-Rock/Pop
 イエロー・モンキーの全てのアルバムの中でどれが一番好きかと訊かれたら選ぶのに困ってしまうが、どのジャケットが一番インパクトが大きいかと問われれば、私は迷わず彼らのメジャー・デビュー・アルバムであるこの「The Night Snails And Plastic Boogie (夜行性のかたつむり達とプラスチックのブギー)」を挙げる。
 とにかく一目見ただけで “これこそまさにグラム・ロック!” と言いたくなるような、お化粧ばっちりの吉井さんがおでこにカタツムリ(←両性具有・雌雄同体のシンボルですね...)を這わせているという実に衝撃的なジャケットなのだが、これはもうデビッド・ボウイの「アラジン・セイン」そのまんま(←もちろんボウイは顔にカタツムリなんか乗せてませんが...)。別にパクリとかそういうんじゃなくって、ボウイが大好きな吉井さんとしてはただ彼のマネがしてみたかっただけなのだろう。もし仮に私がバンドをやっていたとしたら、恐らくメンバー全員で横断歩道を渡ってるジャケット写真を撮りたがると思うし...もちろんベーシストだけは裸足で(^.^)
 長ったらしいアルバム・タイトルも実にヘンチクリンだ。夜行性のかたつむり??? プラスチックのブギー??? メジャー・デビュー作だというのにもう完全に趣味丸出しで、大衆性もヘッタクレもあったモンではない。 “夜行性のかたつむり” は退廃的でネットリした感じの初期ボウイっぽいサウンドを、 “プラスチックのブギー” は猥雑でチープな T.REX もどきのサウンド(plastic には “偽物の” “見せかけの” という裏の意味がある...)を意味しているのだろうか? まぁどちらにしろ、 “時代錯誤のグラム・ロック・バンド” 路線を標榜する初期イエロー・モンキーの姿勢が明確に伝わってくるタイトルではある。
 肝心の音の方はジャケットやタイトルから想像できるように、彼らのルーツともいえる煌びやかでポップなサウンドに歌謡曲を想わせるおセンチで下世話なメロディーが乗っかったコテコテのグラム・ロックで、具体的なイメージとしては “ジュリーや米米クラブのノリでデビッド・ボウイごっこをするマーク・ボラン” という感じ。要するに自分達が影響を受けた音楽のエッセンスを巧く融合させて、彼らにしか作り得ないような和製グラム・ロックを作り上げているのだ。吉井さん流に言えば “ルーツはツール” ということか。
 基本的には前年にリリースされたインディーズ盤の延長線上にあるサウンドだが、メジャー・デビュー作ということで肩に力が入りすぎたのか、やりたい事をあれもこれもと目一杯詰め込んだ感があり、おもちゃ箱をひっくり返したような面白さはあるものの、それらが逆に混沌とした印象を与えてしまうことも事実で、インディーズ盤にあったストレートな “勢い” のようなものは少し後退してしまっているように感じる。
 しかし個々の曲のクオリティー自体は文句なしに高く、その後のライヴで頻繁に演奏されることになる重要なナンバーも数多く含まれており、彼らが本来持っている毒々しさやアルバムとしてのコンセプトに重きを置くのではなく、単なる “名曲集” として聴いてこそ、このアルバムの真価が見えてくるのではないかと思う。何よりもデビュー時にして既にその独創的なスタイルをしっかりと確立しているのはさすがとしか言いようがない。
 全11曲、グラム・ロックの王道を行く妖しげなナンバーあり、フックのあるメロディーを巧くビートに乗せたノリノリのロックンロールあり、メロディーの美しさが際立つバラッドありと、聴いていて飽きがこない作りになっており、ポップス・アルバムとしては非常に秀逸、しかもどの曲にも一筋縄ではいかない凝った仕掛けが施されており、洋楽マニアでもある吉井さんの並々ならぬ拘りが感じられる。
 そんな中でも私が断トツに好きなのがアッパーなポップ・チューンの⑧「Foxy Blue Love」だ。このアルバム中最もイケイケな曲調でドラマチックに盛り上がるこの曲は、ちょうどインディーズ盤の「Sleepless Imagination」から狂気を抜いて裏返しにしたような感じのナンバーで、疾走感溢れる小気味よいロックンロールが楽しめる。ヒーセの絶妙なバック・コーラスはまさに “音楽を知ってる者の仕事” だし、アニーのワイルドなドラミングは得も言われぬ高揚感を生み出している。歌心溢れるエマのギターも最高だ(^o^)丿
 歌詞の方は “アカシアのしずく アカペラの恋心” とか “プラチナの涙 プラトニックのため息” のようにカタカナを多用した言葉遊び的なフレーズが乱発されていてかなり難解だが、 “人格を殺し 仮面をつけて 軽蔑の目を塞いでしまおう” のラインなんて心にグサッとくるし、 “君に会えずにいたんだ 夜も寝れずにいたんだ~♪” と歌うあたりも切ない感じが出ていて良いと思う。
 吉井さんの自伝によると、この曲でニルヴァーナみたいな音作りをしようとしたミキシング・エンジニアにフィンガー5やピンクレディーの CD を聴かせて「70年代のこういうアナログっぽいポテポテのスネアの音にして」と注文をつけたという。わかるなぁ、その気持ち。ドライで粗野でパキパキした90年代洋楽ロックの無粋なサウンド(←ボロクソ言うて悪いけど、グランジ・オルタナ系は嫌いですねん...)が初期イエロー・モンキーの和製グラム・ロックに合うワケがないのだ。とにかくこの曲は、デビュー作にしてサウンド・プロダクションまでも含めた曲の完成形をしっかりとイメージしていた吉井さんの音楽家としてセンスの良さが存分に発揮されたキラー・チューンだと思う。 (つづく)

Foxy Blue Love

Bunched Birth / The Yellow Monkey (Pt. 2)

2012-01-26 | J-Rock/Pop
 ④「Lovers On Backstreet」もオリジナリティーに溢れるイエロー・モンキーらしいナンバーだ。歌詞の内容は真夜中に裏通りに立つ娼婦の哀しさを歌ったもので、吉井さんがイエロー・モンキーのために書いた最初の曲だという。エロい内容を巧みにオブラートに包んで表現する “知的なエロ詩人” 吉井和哉の真骨頂とも言える1曲だが、何と言っても “あなたが醜いブタでもいい 困る事などなにもな~い♪” という一節が衝撃的で、多分吉井さん以外の誰に書けない類の歌詞だと思う。そんな中、 “あなたにもお花をあげましょう” というフレーズをさりげなく入れるあたりがニクイねぇ...
 この曲はFメロまであるという複雑な構成で、初めて聴いた時はあまりピンとこなかった。というか、私が聴いたのはメジャー・デビュー後に4thシングル「熱帯夜」のB面用に再レコーディングされたヴァージョンの方(←「アクトⅡ」や「マザー・オブ・オール・ザ・ベスト」といったベスト盤に入ってるのはすべて再録ヴァージョン)でアレンジが少し違っており、本当のオリジナル・ヴァージョンはこのアルバムでしか聴けない。このアルバムはロックな曲の隠し味としてアコギが実に巧く使われており、ちょうどストーンズの「ブラウン・シュガー」を彷彿とさせるカッコ良さがあるのだが、特にこの曲でその効果が顕著で、ドライな質感を実に上手く表現している。そういう意味で、私はアコギの使い方が絶妙なこっちのオリジナル・ヴァージョンの方が断然好きだ。
 ③「Fairy Land」はアダム&ジ・アンツばりのジャングル・ビートが快感を呼ぶアップテンポなナンバーで、ギラギラした輝きを感じさせる吉井さんのヴォーカルが痛快だ。特に “電気仕掛けのナルシス♪” と繰り返すフレーズはインパクト絶大だし、 “JETS! JETS!” というヒーセの掛け声も効果抜群で、ライヴではコール・アンド・レスポンスで思いっ切り盛り上がりそうな1曲だ。
 ⑥「Sleepless Imagination」も③と同系統のアッパー・チューンで、「フィジカル・グラフィティ」の「カスタード・パイ」をパロッたようなインチキくさいイントロ(笑)から初期のポイズンを想わせる軽快なロックンロールへとなだれ込むあたりで快哉を叫んでしまう。 “手拍子入りの曲に駄作なし” は私の経験に基づく持論なのだが、思わず口ずさんでしまう陽気なメロディーとノリノリのハンド・クラッピング、更に “ランランランラン♪” と唱和するコーラスまで加わってウキウキワクワク感が大きくアップ、リズミカルなタンバリンも効いている。このチープな感覚、タマランなぁ... (≧▽≦) 吉井さんの変幻自在なヴォーカルも絶好調で、特に “I like your lips” の2回目の lips を半音上げて歌うところがツボですな。因みに私はライヴでの「審美眼ブギ」~「Foxy Blue Love」~「Sleepless Imagination」という流れが大好きで、この曲順でドライヴ用の自家製イエロー・モンキー・コンピ CD-R を作って楽しんでいる。
 残りの3曲に関しては取り立ててどうということはない。私は初期ボウイ系の暗くてかったるいサウンドはどうも苦手なのだが、胎動をイメージさせるようなインスト曲①「Bunched Birth」はアルバム全体のイントロ、⑦「Tears Of Chameleon」はアウトロという感じで聞き流しているのであまり気にならない。因みに①はボウイの「Future Legend」、⑦もボウイの「Velvet Goldmine」に雰囲気が似ているように思えるのは気のせいか。又、⑤「Hang Onto Yourself」はミック・ロンソンの「Billy Porter」を低速回転処理したような感じで、メロディー展開そのものも酷似している。吉井さん、ボウイもロンソンも大好きやからこういうのやりたかったんやろな...
 このアルバムを始めとして初期の盤はグラム色が強いので、私のような T.REX 大好き人間は別にして、堅気のイエロー・モンキー初心者は中期のアルバムあたりから彼らに入門する方がベターだとは思うが、彼らのアルバムを聴き込み、何種類も出ている DVD で彼らのライヴを追体験することによって、いつか必ずこの「BUNCHED BIRTH」の良さが分かる時が来るはずだ。私はラッキーにも安く買えたが、いつまた廃盤になるかわからんので、購入を迷ってる人は手に入るうちにゲットしといた方がエエと思います(^.^)

LOVERS ON BACKSTREET(BUNCHED BIRTH Ver.) / THE YELLOW MONKEY


Fairy Land


Sleepless Imagination

Bunched Birth / The Yellow Monkey (Pt. 1)

2012-01-24 | J-Rock/Pop
 さあ、今日からいよいよイエロー・モンキーのアルバムを大特集だ。まずは彼らがメジャー・デビュー前に拠点としていたライヴハウス、ラ・ママのインディーズ・レーベルである ENGINE からリリースしたアルバム「Bunched Birth」からいってみよう。
 私は最初このアルバムの購入を迷っていた。見ての通りジャケットはエグいし、デビュー前のインディーズ盤やし、有名曲は入ってないし、7曲しか入ってないのに結構な値段はするしで二の足を踏んでいたのだ。
 しかし、オリジナル・アルバムを全て揃えた後に買ったライヴ盤「SO ALIVE」の最後に隠しトラックとして入っていた「Welcome To My Doghouse」を聴いてそのカッコ良さに痺れた私はその曲のオリジナル・ヴァージョンがこのインディーズ盤に入っていたことを思い出し、慌ててアマゾンでチェック。このアルバムには1991年にリリースされたオリジナル盤と1996年にリリースされた再発盤の2種類があり、オリジナルはプレミアが付いててとてもじゃないが買えないし、再発盤も以前見た時は2,500円ぐらいしていたのだが、たまたまタイミングが良かったのか、送料込みで920円という真っ当な値段で買うことが出来た。
 まず目を引くのが左半身が男性で右半身が女性という両性具有のイラスト・ジャケットだ。シルクハットとファーだけを身につけ、不敵な笑みを浮かべたその表情が何とも不気味。しかもその姿を柵の外からギャング団みたいな男達が見ているという実にシュールなもので、アングラな雰囲気に溢れている。
 アルバム・タイトルの「Bunched Birth」はよく“集中出産”と訳されているが、それでは何のことやらサッパリ分からない。確かインタビューか何かで吉井さんが “性別も善悪も人間の感情も音楽ジャンルも、それら全てを束ね合わせて一つの塊にしたアルバムの誕生” みたいなことを言っていたように思うが、中々意味深なタイトルだ。
 全体の印象としては、アクが強くて下世話、煌びやかで妖しい音世界が繰り広げられるというインディーズ・アルバムのお約束のような感じなのだが、アルバムに漂う独特の空気感は彼らがメジャーになっても基本的には変わっておらず、その “イエロー・モンキーらしさ” を貫き通したまま10年後には東京ドームを満杯にするまでになったのだから凄いとしか言いようがない。
 もちろんこのアルバムの時点ではまだまだ “吉井和哉とそのバックバンド” 的な色合いが濃いが、垢抜けない部分はその卓越した音楽センスで十分カバーされているし、バンドの勢いという点では彼らの全アルバム中でも群を抜いているように思う。それにしても吉井さんの声、めっちゃ若々しいなぁ... この鼻にかかったような艶かしいヴォーカルが、アルバムの変態チックな雰囲気(笑)をより強めている。
 内容は全7曲30分そこそこのミニ・アルバム的なもので、初期デビッド・ボウイ系のディープで耽美的な①⑤⑦、T.REX 系ノリノリ・グラム・ロック③⑥、そして “これぞイエロー・モンキーのロック!” としか言いようのない②④という構成だ。
 で、まずは何はさておきこのアルバムを買うきっかけになった②「Welcome To My Doghouse」である。イエロー・モンキー伝説はまさにこの “犬小屋” から始まったのであり、休止前のドーム公演のラストを飾ったという点でも、彼らにとって “最初で最後の曲” であるこの “犬小屋” は大きな意味を持った1曲と言っていいだろう。
 一聴してわかるように初期イエロー・モンキーの攻撃性が一気に爆発したような実にスリリングな演奏で、 “華やかに見える道化師の 黒い見世物小屋へようこそ~♪” と強烈な毒を撒き散らし、 “空は今 何色なの? ここから早く出たいよ~♪” と犬小屋、つまりアンダーグラウンド・シーンからの脱出を狙って吼えまくる。
 ギターのプレイも一段とアグレッシヴでディストーションも心なしかギラギラしているように聞こえるし、ゴールデン・イヤリング(←オランダのロック・バンドです...)の「トワイライト・ゾーン」みたいなヒーセのベース・ソロも文句なしにカッコイイ(^o^)丿 うねるようなグルーヴを生み出すアニーの剛腕ドラミングは野性味に溢れているし、吉井さんが叫ぶように繰り返す “ベイベー” という声も情感たっぷりで、聴く者の心にグイグイと食い込んでくる。特にライヴでのテンションの高い演奏は必見で、凄まじいまでのパワーに圧倒される。原始的なエネルギーの爆発... まさにロックンロールの原点を思い出させてくれるような、イエロー・モンキー屈指の名演だ。 (つづく)

WELCOME TO MY DOG HOUSE