転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



5月22日(水)23日(木)の一泊二日で、歌舞伎座に行って来た。
團菊祭で、四世市川左團次一年祭追善狂言もあった。
22日に夜の部『伽羅先代萩』『四千両小判梅葉』、
23日に昼の部『おしどり』『毛抜』『極付幡随長兵衛』。
夜の部は一階最後尾、昼の部は二階最後尾の席で、それぞれ、観た。

『伽羅先代萩』は菊之助の政岡、2017年の團菊祭のときとは異なり、
今回は「まま炊き」をすべて丁寧に演じたが、
炊けた御飯を握っておむすびにするところは屏風の陰で行い、見せなかった。
やってやれなくはなかったと思うが、手の白粉がついてしまうので、
それを子役に食べさせるのは――という配慮であっただろうかと思われた。
その子役たち、今回は、鶴千代君に種太郎、千松に丑之助という配役で、
二人がいずれ劣らぬ大変な名演で、かつ主従としてのバランスも絶妙で、
政岡ひとりの力演という舞台ではなく、『御殿』の場面としての、
自然な感情の起伏や迸りにつながり、とてもとても良かった。
「まま炊き」の場面は正直に言って長いのだが、
ここが巧く流れるかどうかは、政岡の演技や手技だけでなく、
子役たちの芝居に負うところが大きいのだと、今回よくわかった。

栄御前に雀右衛門。
存在感が大きく、品格あり貫禄十分で、敵方の頭、……と感じさせるのだが、
役の設定としては、この栄御前というのは大事なところで勘違いをする御方(^_^;。
なんとなく憎めないというか(^_^;。
敵役の八汐は、本役の歌六が病気休演をしたため、
私の観た日はなんと、芝のぶ代役!
女形の演じる八汐を観たのは、初めてだったかもしれない。
女形の八汐は美貌で、リアルで、ストレートに怖いと思った。
いや、それこそが芝のぶの芝居ということなのかも…?
團十郎が仁木弾正で、素晴らしい迫力であった。
台詞ひとつなく、花道に登場し、蝋燭の灯りの中で去って行くだけなのだが
この舞台の成否は、仁木弾正の退場の場面にすべてかかっていると思った。

後半が、松緑の『四千両小判梅葉』。
松緑は、しみじみ良かった。私はこの人の芝居が年々好きになる。
姿勢がピタリピタリと決まり、芝居には篤い情があり、
声が素晴らしく通って、言葉の音ひとつひとつが私好み!
菊五郎の台詞の深みとは趣が違うのだが、あらしちゃんの日本語には
実に歌舞伎らしい美しさがあって、私は大好きだ。

富蔵が護送されていく場面では、橘太郎が憎々しい演技で大活躍。
浜田左内の権十郎も、良い味わい。
私は昔からこの人の声も大好きで。
何年か前の一時期、咽喉が悪かったのか、声が荒れていたことがあったが、
最近は冴え渡っていてとても嬉しい。

……しかしこの芝居、私は多分、観るのは三度目だったと思うのだが、
牢に入った途端、なぜ、かくも様式美に貫かれた、格式高い世界になるのか、
誰のを観ても、不思議な気分になってしまう(^_^;。
四千両を盗んだ富蔵は、罪人仲間の中では破格の英雄なので(爆)
「日本一!」の歓声に送られて、ハリツケになるのだが、
偉いのね?いいのね?という……、やたらと格好良くて困るよね(大汗)??

梅枝が女房おさよ、これがまた震えが来るほど良くて、
Xのポストでも見た表現だが、まさにトップ待ちオーラ!?
左近がなかなかシュっとした姿の美少年、
でももうワルで札付きなのよね、牢屋に来ちゃった子なのだから。
あの、片方の足首の上にもう片方の足の爪先を載せる跪(ひざまづ)き方、
なんという名称なのだろうか。左近少年のがとても妖しくて良かった(^_^;。
最初の四谷見附の場で、おでんと酒を機嫌良く楽しんでいた咲十郎と松悟も、
やっぱり牢で再会する展開で、皆さん、ヤっちゃったんですねぇ(^_^;と。

牢内は名優揃いで、しかもこの様式は、当時の牢の作法を
河竹黙阿弥が聴き取り調査で記録・再現したものだそうで、圧巻だった。
大昔、初代辰之助が、隅の隠居を演っていたんだよぉ(T_T)、
と思い出したりしたが、ここで團蔵の冴えた演技を観られたことが
今回とても嬉しかった。声も所作も渋くて絶品!
牢名主は、休演の歌六の代役で、彌十郎。
富蔵の義父の六兵衛との二役で、彌十郎の引き出しの多さが実感できた。

お裁きの場面では、鷹之資が堂々たる姿と台詞で締めてくれたし、
楽善の貫禄にも満足した。
藤十郎の梅玉、脚本上は前半はひたすら小物な殿様だったが(汗)、
最後に富蔵と並んで言い渡しを受け、刑を受け入れるところは
目の覚めるような立派な立ち姿で、やっぱりカッコ良かった、という…。
極悪人の大泥棒の門出を褒め称えてどうするよ、と思いつつ、
客席もまた、天晴れ!日本一!と心の中で大喝采を送ってしまうのであった。


(続)

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