万年筆売り場の試し書き用の紙は筆記具メーカーから提供されるもので、どんな書きにくいペンでも書きやすくしてしまうものが多いと思っていました。
その紙で試し書きしたお客様は、これは書きやすいペンだと思って買って帰って、実際にいつもの環境で使ってみるとかなり違うことに戸惑われるのではないかと思います。
当店での試し書きではそういうことは起こって欲しくないと思って、10年ほど前から試筆紙を大和出版印刷さんに作ってもらっています。
にじみ、裏抜けがなく、書き味が自然なもの。万年筆の書き味を誇張してはいけないし、わざわざガサガサと引っかかる紙を使う必要もない。
メモ用紙のように毎日消耗していくものなので、高級な紙ではなく安い紙の中から選ばなくてはならないという制約はありましたが、価格の安い印刷用の上質紙の中から万年筆のインクで書いてもにじみ、裏抜けの少ない書き味が自然な紙を選びました。
しかし、印刷用の紙は印刷の仕上がりは変わらないけれど、万年筆のインクに対してにじむものが個体差として混じることがあることが分かりました。
大和出版印刷の川崎さんに店で試筆している紙に急ににじむものが混じることを伝えたら、調査し、解明してくれた上で、万年筆のインクでの筆記性能において当店が望む要件を満たして、個体差の発生しないものを提案してくれました。
結局筆記用紙、万年筆のインクでも筆記テストしたノートにも使われる紙を試筆紙の紙として採用し、入れ替えています。
書き味、にじみにくさ、裏抜けしにくさは変わらないですが、品質が安定していて、安心して使うことができます。
試筆紙は店頭の試し書き用の紙ですが、オリジナル商品としても人気があり、出張販売などでもよく売れる売れ筋商品でもあります。
万年筆の使い勝手は紙によって大きく変わります。
万年筆が良くても、紙がにじんだり、引っ掛かりのあるものでは使いにくくなります。
書き味は万年筆によるものですが、にじみ、裏抜けはインクと紙の相性という側面もあります。
高級な紙だったら、当然書き味が良くて、インクの収まりの良いものがあるのだと思いますが、毎日消耗するものに例えばコットンペーパーのような紙は使えない。
なるべく万年筆を使うためには惜しげもなく使える紙でないといけない。
試筆紙を皆様大きめのメモ帳として、愛用していただけているようですが、手書きしたものをインスタグラムにあげている方の投稿に試筆紙が使われているのを目にすることも多くとても嬉しく、誇らしく思います。
これからも作り続けたい万年筆店らしいオリジナル商品のひとつです。