俺達はまるで影法師みたいに
薄く引き延ばされて、
あっちの街からこっちの街へと、
引越しを繰り返したものだった。
思い出や荷物は増え放題に増えてゆき、
いつしか、俺達の手に負えるものではなくなっていた。
男「俺はただ、ミノムシになりたかっただけなんだ」
女「ミノムシ?」
男「そうさ、見たことあるだろ?
中身はただの小さなイモムシなんだけど、
そいつが身体の回りを固めるんだ、
枯れ葉に唾液をつけて、びちょびちょなうちに巻きつけて」
女「やめてよ!汚い」
男「汚い・・・って、
他にどうしようがあるって言うんだよ、ミノムシに?」
女「そんなの知ったこっちゃないわよ」
男「ミノムシの身にもなってみろよ」
女「絶対・嫌・もう出て行く」
男「・・・・・・ははは、嘘に決まってるだろ?
ミノムシなんてどうでもいいんだ、俺が本当になりたかったのは
海の浅瀬でじっとしてる、貝なんだ」
女「・・・暗っ」
夜は今や、幾億回目かの始まりを迎えようとしていた。
俺は果たして、明日の朝は何になっていることだろう?
望み通りに・・貝か?
それとも、小さな小さな
プランクトンの中の一匹だろうか?