まつなる的雑文~光輝く明日に向かえ

まつなる兄さんのよしなしごと、旅歩き、野球、寺社巡りを書きます。頼りなく豊かなこの国に、何を賭け、何を夢見よう?

第14回四国八十八所めぐり~鹿と寅の島へ

2017年12月23日 | 四国八十八ヶ所
伊予北条から渡し船に乗って鹿島に到着。乗って来たのは私ともう一人だけである。島にも案内所はあるが人の気配はない。

船着き場に真新しい感じの石碑がある。「お遍路が一列に行く虹の中」とある。この句の作者は故・渥美清さん。あの寅さんである。映画のロケか何かで訪ねたのだろうか。

渡し船は30分ごとに出ているので適当な時間で戻ることにして、まずは鹿島神社に向かう。鹿島というのは信仰の島なのだろうか。その昔、神功皇后が朝鮮遠征の戦勝を祈願したところとされている。

鹿島神社の前には浜辺が広がる。夏場はここでバーベキューもできるそうだ。ここから四国の本土を見るのもいいものだ。この先には島を一周する遊歩道があるのだが、土砂崩れがあるということで、砂浜が切れたところで立入禁止となっている。島の西側の沖合には伊予の二見というのがあり、ちょうど伊勢の二見浦のように、しめ縄で結ばれた夫婦岩がある。それを間近で見るなら遊歩道を歩くことになるが、立入禁止とあっては仕方がない。

鹿島の中心は高さ114メートルで、頂上まで遊歩道が整備されている。せっかくなので歩いて上ることにする。ここで金剛杖が役に立つ。

登山口のところに柵があり、中には20頭くらいの鹿がいる。遠巻きに私のほうを見ている。しかし私が柵に近づくと一斉に逃げ、また離れたところでじっと私のほうを見る。こんな感じで多くの鹿に対峙するのは初めてで、妙な緊張感が走る。

鹿島には昔から野生の鹿が棲んでいるそうで、私がいる時は出なかったが、鹿島を訪ねた人の旅行記などを見ると遊歩道で遭遇したという記事もある。松山市では一部の鹿を保護して、柵の中に住まわせている。鹿は九州方面にいる種類だというが、なぜこの島に野生の鹿がいるのだろうか。鹿が泳いできたか、ひょっとしたら昔は陸続きだったので渡って来たのか。あるいは逆に、鹿島という島だから鹿がいなければと、昔のある時代に誰かが鹿を持ち込んだのか。

遊歩道を上る。かつては水軍を持っていた河野氏も砦を構えていたそうで、石垣の跡も残っている。そして麓から15分ほどで頂上へ。一角には、神功皇后が立って戦勝を祈願したとされる「御野立の巌」という岩がある。そして現在は、恋人の聖地の一つに挙げられている。

島の頂上とあって四方の景色がよく見える。風はやや強いが雲はほとんどなく空気が澄んでいて、遠くの島々も見ることができる。これは素晴らしい景色だ。スマホの地図で景色の位置関係を確認しながら眺めると、はるか遠くに見えるのは本州、呉の方面ではないかと思う。ちょっとした立ち寄りでこれだけの景色に出会えたのはよかった。

遊歩道を下りて、鹿島博物展示館に入る。ここでは鹿島の自然や歴史についての紹介があるが、見どころは隣接する鹿園である。こちらでも鹿が保護されている。落石や転落などによる事故防止や、樹木の保護、そして繁殖が目的という。こちらも人見知りするようで、私が柵に近づくと一斉に後ろに引いて行く。観光客にエサをねだりに近づいてくる奈良や宮島の鹿とは対照的だ。奈良や宮島で思い出したが、ここにいる鹿も神の使いということになるのかなと思う。神功皇后にもゆかりがあるし。これらの鹿たちのためか、鹿園の横には鹿塚というのもある。

海に突き出した建物がある。太田屋という食堂兼旅館で、鯛めしもいただけるという。ただここも夏季限定の営業のようで閉まっている(本土側に本店がある)。伊予北条の鯛めしは鯛一尾をまるごと米と一緒に炊くタイプである。ちょっと今回の四国めぐりでは鯛めしをいただく機会がなさそうなのが残念だ。

その向かいの商店も夏季限定営業で閉まっているが「寅さんの故郷」という貼り紙や渥美清さんの雑誌記事の切り抜きが窓に貼られている。渥美さんは東京の下町の出身で、20代の頃、浅草の銭湯で、後に脚本家として活躍する早坂暁さんと知り合う。いわゆる「故郷」というのがない渥美さんは、伊予北条が故郷である早坂さんに何度も同行し、その中で沖合にある鹿島をずいぶん気に入ったそうである。先ほどの句碑の設立には早坂さんの協力もあったという。そういう島だったとは知らなかったが、確かに瀬戸内の穏やかな景色は、どこかに懐かしさ、心の故郷を感じさせるものがあると思う。

鹿に寅さん・・・小さいながらも見どころの多い鹿島であったが、そろそろ四国めぐりのルートに戻ることにする。9時30分発の渡し船で伊予北条に戻る。

駅でしばらく待った後、10時02分発の伊予西条行きに乗り込む。再び海沿いを走り、浅海を過ぎると今治市に入る。これで、四国めぐりの松山シリーズは終わり、今治シリーズに進む。そして立ち寄りを決めていた菊間で下車する・・・。
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