まつなる的雑文~光輝く明日に向かえ

まつなる兄さんのよしなしごと、旅歩き、野球、寺社巡りを書きます。頼りなく豊かなこの国に、何を賭け、何を夢見よう?

第12回中国観音霊場めぐり~第15番「漢陽寺」

2020年06月24日 | 中国観音霊場

中国観音霊場の第15番の漢陽寺。臨済宗の寺で、開かれたのは南北朝時代。中国地方に勢力を張っていた大内氏の祈願寺として、用堂明機禅師により開かれた。後に大内盛見により伽藍が造られたが、この盛見は山口の瑠璃光寺の五重塔を建立した人物でもある。西の京としての文化を高めたと言っていいだろう。

中国観音霊場としての本尊は聖観音像で、用堂明機禅師の護持仏とされている。大陸での修行を終えて日本に戻る時に嵐に遭ったが、お守りとして持っていた鏡と柏の実を空高く投げ、「これらがたどり着いた地に観音菩薩を祀る」と願った。すると観音菩薩の力で無事に日本に戻ることができた。後に大内氏に招かれて当地を訪ねた時、鏡が出土して、柏の芽が出ているのを見つけた。これを縁として観音菩薩を祀ったのが由来とされている。

まずは山門の前の石庭と池を見る。池に近づくと20匹以上はいるコイが大口を開けながらバチャバチャと集まってくる。そのまま生け捕れるのではないかというくらい。これも、清流の町の景色の一つだろう。

山門をくぐると、中国観音霊場はこちらとの立て札があり、その先に法堂と呼ばれる観音堂がある。山門、法堂は江戸時代の建立とされている。まずはこちらでお勤めとする。やはりマスクを着けたままだと般若心経の息継ぎがしんどい。・・ただ、こうして記事にするにあたり落ち着いて考えると、別に周りに誰かいたわけでもなし、しかもお堂の外だし、マスクを外しても別に問題になる場面ではなかった。

本坊に向かう。この先が本堂で、庭園も含めた拝観料は400円。玄関で、朱印代と合わせて納めて本堂に上がる。この建物は平成の初めに、大内見が建てた当時の姿の復元として再建されたもの。寺としての中心であり、中央の部屋は漢陽寺の檀信徒以外は立入禁止とある。

その本堂の前にはこの石庭。これも大内氏からのものかと思ったが、昭和の作品である。重森三玲という庭師の作品だ。

本堂正面、漢陽寺の景色といえばまずこれというのが、「曲水の庭」。平安時代の貴族の遊びである曲水の宴をイメージしたものである。水を真ん中に置き、周囲の石の周りには紋様があしらわれている。枯山水の様式もミックスさせたようなものである。禅宗様といえばそうだし、現代美術のようにも見える。

本堂を巡っては、「地蔵遊化の庭」や「九山八海の庭」といった、禅宗の考えから来る「作品」が並ぶ。大内氏や江戸時代の毛利氏の時代にはなかった庭だが、現代の寺の取り組みとして、こうした庭を見るだけの価値がある札所である。この日は私の他に、法事で来ていたとおぼしき家族連れだけだったので、静かな佇まいを味わうことができた。

この漢陽寺で歴史的なスポットは本堂の裏にある。水が湧き出て左右に流れる。「潮音洞」という。先ほど見た庭園の水はここから出たものである。

潮音洞は、単に漢陽寺の庭の水ではない。ここで登場するのが、鹿野総合支所(かつての鹿野町役場)前に銅像が建てられた岩崎想左衛門重友である。

江戸前期、鹿野は周辺の錦川などから高い位置にあるため、民衆は水を汲むために遠くまで通っていた。そんな中、岩崎は漢陽寺に参詣して裏山を散策した時に錦川の豊かな水を見て、何とか鹿野にこの水を引けないものかと考えた。そこで、この裏山にトンネルを掘ることを思いつき、藩の許可を得ることができた。当時のことなので槌とノミでの手作業だったが、私財を投げうち、また村人の協力もあって4年がかりで完成した。水が通ると鹿野は潤い、人々の生活用水を得られただけでなく、新たに田畑を広げることができた。岩崎はこの功績により藩士に取り立てられた。

「潮音洞」という名前は観音経の中から取られたが、観音菩薩の慈悲は雨が人々を潤すようなものだという意味だそうだ。この水が漢陽寺の境内を流れ、そして清流通りを伝っている。

寺というより屋敷、庭園を訪ねたという趣で、漢陽寺を後にする。

途中、緑豊かな二所山田神社に立ち寄る。出雲、伊勢の神々を歓請したものだという。先ほどから水に関するスポットを見ているためか、こうした緑が映えるのも印象的である。鹿野は「一見さんとして訪ねるなら」清々しい気持ちになれるエリアと言ってもいいだろう。

バス停に戻り、12時発の便で徳山駅に戻る。画像は、鹿野の待合室にあった乗客へのお願い事項が時代がかっているなと思わず撮ったものである。

バスの乗客も途中でちらほらあった程度でガラガラで進む。途中、この後に山陽本線で通過する新南陽駅を通るが、そのまま乗り通した。

徳山駅前は昼過ぎということで人の姿も増えている。駅前が噴水になっていて、子どもたちが水遊びを楽しんでいる。この日も暑い。

さて、今回の札所めぐりはここまで。後は次のエリアである山口市、宇部市を見据えて、新山口までコマを進めておく。とは言え時刻はまだ13時を回ったところ。新山口から帰りの新幹線は18時半ということで、途中の立ち寄りを入れながら進むことに・・・。

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