ベネデッタ/ポール・ヴァーホーベン監督
17世紀の実在の人物である修道女「ベネデッタ」をもとに着想したという、半分伝記ものの娯楽作。奇跡を体現している聖女として崇められもするものの、当時は大罪とされる同性愛で告発されるという暗転の人生を歩む、その顛末が描かれている。監督さんがヴァーホーベンということで、一筋縄でいかないことは観る前から分かり切っているものの、まったく変な作品なのではある。御年84歳でメガホンをとっているという事でも(撮影中大病して中断したりしたという)話題になった。さらに当時はペスト流行の時代でもあったことで、現代のコロナ禍ともシンクロするお話だとも言えて、ある意味ではなかなかに現代的な物語になっていたりする。今の状況とよく似ているともいえはするが、しかしやはり当時だからな、というところもある。思い切った解釈であるようだが、なんとなく伝記としての平坦な物語の運びという感じは否めない。それは監督のこれまでの行いからくる期待度の高さが、そう思わせているのかもしれない。傑作とは少し外れたところにありながら(いつもそうなんだけれど)やはり快作ではある、という立ち位置と言えるかもしれない。
女優さんたちは個性的というか、それなりに美しい人たちが多いのだが、そういう人たちが神聖なる修道院の中でありながら、裸になったり性交を行ったり喘ぎ声を出したりする。まさにそういうのを、おそらく監督はやりたかったのではなかろうか。一種のこの人なりの変態的な趣味のあらわれである。そういう思いが遂げられているのだから、それはそれで監督としては成功しているのかもしれない。しかしながら、いわゆる奇跡はインチキが示唆されているし、さまざまな人間模様については、やはり単純にベネデッタが悪いような気がする。そういう人物には、なかなかに感情的な肩入れできないものがあるのであって、対照的に敵側の人々が次々に死ぬが、それはよく考えると可哀そうなことなのである。繰り返しになるが、この監督さんならではの変な感じではあるのだけれど。
ということで、面白くない映画ではないので、思考実験として観るのもいいだろう。またこの監督さんの一連の過去作を観ていないのであれば、ぜひ観てほしい。そうして比較対象して楽しむというのが、映画鑑賞の醍醐味であろう。