ほしのこえ/新海誠監督
新海監督のデビュー作。わずか25分。しかしながらこの作品、新海監督が全部一人でパソコンに向かって作られたという事で有名であるばかりか、下北沢のミニシアターで大ヒットを飛ばした上にDVD販売でも日本のみならず海外でも爆発的に売れたとされている。それだけ超有名なカルト作であるだけでなく、作品としても歴史的に貴重であると言われている。それも観てみるとすぐに分かるが、非常に完成度が高いだけでなく、何か観ているものを引き込む力のようなものがあるのである。一言でいうと面白いという事だが、内容的には何かよく分からないものがあるにもかかわらず、とにかく凄いものを観ているという実感が伴うのである。これが本当に一人で作られたものなのかという驚きがあるだけでなく、何か同じ人間がこの時代にちゃんと生きて存在していることに対しても、畏敬の念を抱くような感覚になるのである。いや、ちょっと大げさに言ってしまったが、後のさらなる大ヒット作の「君の名は。」を知ってもいる訳で、これは奇跡なだけでなく、実力として桁外れに凄いことが行われていた事実を突きつけられてしまうという事なのかもしれない。
実際にこの作品の発表後に、自主制作アニメがたくさん作られることになったという。この作品を見たものが、その感動を自分自身の手でも実現したいと思うようになったという事だ。この作品がエポック・メイキングとされるのはそういうことで、ごく普通の市販のパソコンとソフトを使って、まったくの素人が個人では不可能と言われていたアニメ作品を、非常に完成度の高いものとして作ってしまったという事が大きいのだ。ただしその事実は、凄まじく凄いことであるのは変わりがない。たった1秒の絵を作るために24枚の絵を描かなければならないとされている。大変な労力であるばかりか、非常な情熱無しに完成作品をつくることは出来ないのだ。何時間も授業をさぼって書き続けたパラパラ漫画であっても、観る時間はほんの一二秒だ。それでも場合によっては、その作品に敬意を払うことはあるだろう。ましてやそれがフルアニメである。普通の人間なら、やる前に狂気のような恐ろしさを覚えるのではあるまいか。
という訳で興味が湧いたなら迷わず観るべし。商業作品が何故金を払ってまでも人々を吸い寄せるのか。その意味がこの作品を観ることで理解できることだろう。まったくの素人が、その最初からまったくの素人では無かったという事である。こういうことを成し遂げられる人間が存在する。そういう勇気を、身をもって体験してもらいたいものである(内容は単なるオタク作品だけど)。