地を這う魚/吾妻ひでお著(角川書店)
正月なんで漫画から入ろうと何故だか思って手に取った。そしてスタートから大正解。面白かった。
もともと吾妻ひでおはSFが好きなんだなあと思う。以前の傑作にもSFものの評価は高かった。今考えると元祖オタク的なかわいい無機質な女の子とメカニックにならない軟体動物の組み合わせSF世界観は共通していると思え懐かしささえ覚える。
小学生の頃に同級生のマンブーの家に遊びに行くと、マンブーのお兄さんが吾妻ひでおの漫画をずらりと持っていて羨ましかった。最初はエッチな内容に憧れていたんだけど、通して読んでいくと、不思議なSF観の方に惹かれるようになっていく。
確かに奇妙なバランス感覚があって、吾妻には普通でない壊れた恐ろしさが内包されている。しかし、そういう恐ろしさを照れ隠しのようにかわいい女の子がオブラートに包みこんでいるように見える。しかし彼女らにも、つまるところ実態はない。そして、どこまでもさえない自分がにじむように浮き立ってくるのである。こうした青春の苦悩は、男として本当に恐ろしいと感じる。
天才というには簡単すぎる賛辞のように思える。吾妻ひでおはそんな感じの作家になってしまったようだ。失踪しないようにと願うばかりだ。