ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

今年の10大ニュース

2016-12-31 00:05:12 | 時事
 今年(平成28年、2016年)は、世界的にグローバリズムの進展からナショナリズムの復興へと大きな歴史的な変化が始まった年として歴史に刻まれるだろう。イギリスは、6月の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めた。大量の移民の流入で失業や生活苦が増加していること、主権を制限されEUの規制に縛られること等への反発が背景にある。離脱決定は、フランス、オランダ、イタリア等の反EU・反ユーロの政党への追い風となっている。
 そうした状況で、アメリカでは、11月8日に行われた大統領選挙でドナルド・トランプが「まさか」の勝利を獲得した。トランプは、不法移民の流入禁止、犯罪歴のある不法移民の強制送還等を主張し、大衆の不満を吸い上げて「トランプ現象」を巻き起こした。トランプの勝利は、欧州におけるナショナリズムの復興を勢いづけている。来年1月の大統領就任後、テロ対策の強化、TPPからの離脱、中国への強硬姿勢、ロシアとの関係改善等の政策が実行されれば、世界全体に大きな影響を与えるに違いない。
 とりわけ焦点になるのは、中東である。シリア内戦は6年目に入り、犠牲者は30万人を超えた。100万人以上の難民が発生し、ヨーロッパや周辺諸国に避難・移住している。ロシアの積極的な支援を受けたアサド政権軍は、12月に最大都市アレッポを制圧した。米国を出し抜いたロシアが主導して停戦合意が進められつつある。欧・米・露・イラク等によるいわゆる「イスラーム国(ISIL)」への掃討戦は、一定の戦果を挙げている。だが、イスラーム教過激派は、欧米・アジア等の各地でテロを拡散させており、収束の兆しは見えない。トランプ政権がどのような中東政策を行うか注目される。

 今年は、わが国にとっても国際情勢が一段と厳しさを増した一年だった。北朝鮮は、1月と9月に2回核実験を強行した。また長距離弾道ミサイル、中距離弾道ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイルの発射実験を繰り返した。韓国の朴槿恵大統領は、北朝鮮を強く非難し、THAADの配備など米国との連携を強めてきた。ところが、親友への機密資料の提供、ミル財団等への資金提供の強要が発覚し、12月9日国会で弾劾訴追案が可決された。来年前半に退陣する公算が大きい。親北左派勢力が伸長しており、半島情勢がにわかに不安定になっている。
 中国は、南シナ海の軍事拠点化をさらに進め、人工島に地対空ミサイル、対艦巡航ミサイル、戦闘機等を配備した。東シナ海では、機関砲を搭載した公船が領海侵犯を繰り返している。早ければ来年春には、排水量1万トンを超える海警船が配備されるとみられる。12月10日には戦闘機を含む中国軍機6機が、沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡の公海上空を飛行し、空自戦闘機が緊急発進を行った。25日には、中国初の空母「遼寧」が宮古海峡を太平洋に向けて通過するのが初めて確認された。中国の海洋進出は一層積極性を増している。
 ロシアは、北方領土を含むクリール諸島の開発計画を進めているが、今年5月から北方領土を含む極東地域の土地をロシア国民に無償で分け与える制度を始めた。そのうえに、択捉、国後両島に新たな駐屯地を建設するなど、北方領土の軍事拠点化を急速に進めている。12月15、16日、安倍首相はプーチン大統領を日本に呼んで首脳会談をし、ロシアが望む経済協力では8項目提案など政府、民間合わせて82件の成果文書を交わした。領土返還には進展が得られなかった。

 こうした状況ではあるが、今年は、世界における日本の存在感が増した年だった。5月26日、伊勢志摩サミットに参加した世界の主要国G7の首脳がそろって、伊勢神宮に参拝した。日本の安倍首相を中心にして首脳たちが並び、内宮の神殿の前で撮られた映像が世界中に配信された。この21世紀に、日本を中心として各国が共存共栄する世界が建設されていくことが、目に見える形で示されたと思う。
 翌27日のオバマ米大統領の広島訪問は、現職の大統領による初の訪問となった。一方、安倍信三首相は12月26、27日に米ハワイ州の真珠湾をオバマ大統領とともに訪問し、犠牲者を慰霊した。日米の和解は、人類の融和への大きな道しるべとなる。この歴史的な和解の実現は、わが国の首相が安倍氏、米国の大統領がオバマでなければ、出来なかったに違いない。

 厳しい国際環境をわが国が生き抜いていくには、GHQから押し付けられた憲法を、日本人自らの手で改正し、国家の再建を行うことが不可欠である。幸い7月10日の参院選の結果、衆参両院でいわゆる改憲勢力が3分の2を超えた。これにより、国会が憲法改正の発議をすることが戦後初めて可能になった。だが、野党の反対や自民党内の慎重論の強まりによって、憲法改正の審議は遅々としている。憲法改正の目標時期は早くて30年秋と観測される状況である。どのような抵抗があろうとも、それを乗り越えて、憲法を改正しなければ、日本の再建は決してできない。
 わが国は日本国及び日本国民統合の象徴として、天皇陛下を頂いている。今上陛下は、8月8日テレビ放送でお気持ち表明をされ、数年のうちに譲位をされたい意向を示された。これを承って、安倍政権は有識者会議を設立し、専門家からの意見聴取が行われ、対応が検討されている。来年早期に答申が出される見込みである。譲位を可能にするにせよ、摂政を置くにせよ、わが国は大きな節目に近づいている。天皇陛下のお気持ちにどのようにお応えするかという課題は、憲法改正の実現とともに、わが国の根幹に係る重大な課題である。
 日本人が日本精神を取り戻し、一致協力することが、国民一人一人の幸福と発展につながる。また日本を再建することが、世界の平和と発展への貢献となる。日本人は、正念場を迎えている。

 結びに私事だが、本年8月私はネットで言論活動をはじめてから20年となった。これからも健康で通信活動が出来る限り、インターネットを利用して、言論活動を行っていきたいと思う。
 来年も、どうぞよろしくお願いいたします。皆様、よい年をお迎えください。

 以下は、時事通信社による今年の10大ニュース。国内編で天皇陛下について、「退位」という誤った用語を使い、また小池都知事誕生と豊洲市場・オリンピック問題、民主党・蓮舫代表の二重国籍事件が入っていないのは、大きな欠陥である。

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http://www.jiji.com/jc/d4?p=jtn216-2016d10&d=d4_oldnews
時事通信社が選ぶ10大ニュース(2016年)特集

<国内>

【1位】天皇陛下、退位の意向示唆

 天皇陛下が、天皇の地位を皇太子さまに譲る意向を示されていることが7月に表面化した。陛下は8月8日、「退位」という言葉は避けながらも、その意向を強く示唆する内容の「お気持ち」を国民に向け発表した。
 約11分間のビデオメッセージで陛下は「立場上、現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら、私個人としてこれまでに考えてきたこと」と断った上で、「次第に進む身体の衰えを考慮する時、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」などと述べた。お気持ち表明を受け、政府は「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」を設置。公務の在り方や退位の是非、退位制度化など8項目について、専門家から意見聴取するなど検討を進めている。

【2位】熊本地震、死者150人超

 4月14日午後9時26分ごろ、熊本県を震源とする地震が発生し、同県益城町で震度7を観測した。地震の規模(マグニチュード=M)は6.5で、震度7が記録されたのは2011年3月の東日本大震災以来。16日午前1時25分ごろにも益城町と西原村で震度7の地震が起き、1995年の阪神大震災と同規模のM7.3を記録した。連続した地震活動で震度7が2回観測されたのは49年に震度6の上に7が新設されて以来初めてで、気象庁は14日の地震が前震、16日が本震との見解を示した。
 地震による直接死と関連死を合わせた死者は150人を超えた。住宅被害は約17万8000棟に上り、うち約8300棟が全壊。熊本城も天守閣の屋根瓦が剥がれしゃちほこが落下するなど、大きな被害を受けた。

【3位】米大統領、歴史的な広島訪問

 オバマ米大統領は5月27日、現職の米大統領として初めて被爆地・広島を訪れ、平和記念公園の原爆死没者慰霊碑に献花した。被爆地訪問はオバマ氏が2009年1月の就任時から模索し、任期最後の年に実現した。原爆投下の事実と向き合うよう米大統領に求めてきた被爆者にとっても、長年の願いがかなう歴史的訪問となった。
 オバマ氏は主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に出席後、広島入りし、安倍晋三首相とともに平和記念資料館(原爆資料館)や原爆ドームを視察。式典に参列した被爆者とも言葉を交わした。献花後の演説では「われわれには歴史を直視し、何をしなければならないか自問する共通の責任がある」と述べ、就任以来掲げてきた「核兵器なき世界」を追求する重要性を訴えた。

【4位】安倍首相、真珠湾慰霊へ

 安倍首相は12月26、27日に米ハワイ・オアフ島を訪れ、第2次世界大戦で日米開戦の舞台となった真珠湾(パールハーバー)をオバマ米大統領とともに訪問し、犠牲者を慰霊する。日本の現職首相が米大統領とともに真珠湾を訪問するのは初めて。旧日本軍の奇襲攻撃から75年目の節目に、かつての敵国同士が和解し、強固な同盟関係を築いたことを国際社会にアピールする。
 オバマ氏は5月、米国が原子爆弾を投下した広島を現職大統領として初訪問しており、首相の真珠湾訪問はその返礼の意味合いもある。首相は、湾内に沈没した戦艦アリゾナの上に追悼施設として建設された「アリゾナ記念館」をオバマ氏とともに訪れ、献花し、所感を述べる予定。ただ、直接的な謝罪は盛り込まない方向だ。

【5位】消費増税、再延期

 安倍首相は6月1日、17年4月に予定していた消費税率10%への引き上げを19年10月に2年半先送りすることを表明した。新興国経済の減速など、世界経済が直面するさまざまなリスクを理由に挙げた。もともと予定していた15年10月から17年4月に先延ばししたことに続き、延期はこれで2度目となる。酒類・外食を除く飲食料品と新聞に適用する軽減税率の導入も同様に2年半先送りした。
 安倍首相はこれに先立ち、5月の伊勢志摩サミットで08年のリーマン・ショック時と現在を比較した資料を各国首脳に提示して延期の道筋を付けた。消費税増税を回避し、経済成長に軸足を置く姿勢を鮮明にしたが、延期に対し安倍政権の経済政策「アベノミクス」の行き詰まりとの批判も出た。

【6位】参院選で改憲勢力3分の2に

 第24回参院選が6月22日公示、7月10日投開票の日程で行われ、自民、公明両党と憲法改正に前向きな勢力が、非改選議席と合わせ改憲発議に必要な参院定数の3分の2(162)を超えた。衆院では既に自公両党だけで3分の2を超えており、改憲を党是とする自民党にとって発議に向けた環境が一段と整った。
 国政選挙では初めて選挙権年齢が18歳に引き下げられたこの選挙で、自民党は追加公認1人を含め56議席、公明党は14議席を獲得。野党では、改憲に積極的な当時のおおさか維新の会も7議席を得た。日本のこころを大切にする党を加えた4党の非改選議席は計84議席で、改憲に賛成する無所属議員ら4人を合わせると165議席に達した。一方、安倍政権下での改憲に反対する民進党は改選45議席を32に減らした。

【7位】障害者施設で19人殺害

 7月26日未明、相模原市緑区の知的障害者施設「津久井やまゆり園」にナイフを持った男が侵入し、19~70歳の入所者男女19人を殺害、27人に重軽傷を負わせた。神奈川県警は殺人などの容疑で元職員植松聖容疑者(26)を逮捕した。
 同容疑者は同施設に非常勤職員として勤務していたが、2月に「重度障害者を殺す」と話したため施設が県警に連絡、退職扱いとなった。妄想性障害などと診断され措置入院となったが、その後入院の必要性は消失したとされ、3月に退院していた。しかし逮捕後も「障害者は社会を不幸にする」「国が許可してくれなかったので仕方なくやった」などと常軌を逸した独善的主張を繰り返しており、横浜地検は9月以降鑑定留置して精神鑑定を行い、刑事責任能力の有無を調べている。

【8位】日銀、マイナス金利を初導入

 日銀は1月29日の金融政策決定会合で、金融機関が日銀に預ける当座預金の一部について、利子をマイナスにする「マイナス金利政策」の導入を決めた。2月16日にスタートし、マイナス0.1%の金利を適用した。日銀にお金を預けると、金融機関は通常、利息を受け取れるが、逆に「手数料」を取られる。国内では初めて。
 導入後、長期金利が一時マイナスとなり、住宅ローン金利などが低下するといった効果はあった。しかし、金融機関の収益悪化や年金・保険の運用難を招き、金融界などは猛反発。日銀はその後、「(消費者の)マインド面を通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある」などと副作用を認めた。主要中央銀行では、欧州中央銀行(ECB)が14年6月に導入している。

【9位】日ロ、北方四島で共同経済活動へ

 安倍首相は12月15、16日、ロシアのプーチン大統領と、山口県長門市と東京都内で会談し、北方四島での共同経済活動に向けた協議を始めることで合意した。懸案の北方領土問題を含む平和条約締結につなげる狙いがある。活動は両国の法的立場を害さないことが前提で、実現しても領土問題の解決に結び付くかは不透明だ。
 両首脳が首相官邸で発表した「プレス向け声明」は、4島での共同経済活動に関する協議を開始することが「平和条約締結に向けて重要な一歩になり得るとの相互理解に達した」と明記。両首脳が締結に向け「真摯(しんし)な決意を表明した」ことも盛り込んだ。ただ、首相は会談後の共同記者会見で、領土問題について「解決にはまだまだ困難な道が続く」と認めた。

【10位】リオ五輪、過去最多41メダル

 南米で初開催となった第31回夏季オリンピック・リオデジャネイロ大会が8月5日から21日までブラジルのリオデジャネイロなどで開催された。スローガンに「新しい世界」と掲げた大会には、史上最多の205カ国・地域から1万人を超える選手が参加。初めて「難民選手団」も結成された。次回の20年東京五輪・パラリンピックを控える日本は、過去最多だった前回12年ロンドン大会の38個を上回るメダル41個(金12、銀8、銅21)を獲得し、4年後に弾みをつけた。
 開幕直前に国ぐるみのドーピングが発覚したロシアの参加問題で揺れ、世界各地で頻発するテロも懸念されたが、大きな混乱はなかった。障害者スポーツの祭典、リオ・パラリンピック大会は9月7日から18日まで開かれた。

<海外>

【1位】米大統領選でトランプ氏勝利

 米共和党のドナルド・トランプ氏(70)が11月8日投開票の大統領選で、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官(69)を破る番狂わせを演じた。排外的主張を掲げ、暴言も辞さない実業家のトランプ氏は、既存政治への不満を吸い上げて「トランプ現象」を巻き起こし、ポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭を印象付けた。
 トランプ氏は、メキシコ国境への壁の建設を柱とする不法移民対策を唱え、在日米軍の駐留経費の全額負担を求める考えも表明。就任初日に実行する政策として、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を挙げた。その後も「一つの中国」政策に縛られる必要はないと述べ、台湾の蔡英文総統と電話会談するなど、型破りな言動を続けており、米国の動向をめぐり不透明感が深まっている。

【2位】英国がEU離脱決定

 英国は6月の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めた。「東欧からの移民流入で職が奪われている」との不満やEUの規制に縛られることへの反発などが背景。EUから加盟国が抜けるのは初めてで、経済規模で2位、そして世界の金融センター、シティーを擁する英国の離脱は、経済のみならず政治的に大きな打撃となる。来年に大統領選を控えるフランスなどでは反EUの右派政党が勢いづいている。
 英国のメイ首相は、来年3月までにEUに離脱を通告し、交渉を開始する方針。労働移民制限はできないものの、EU単一市場からは出ずに自由貿易の恩恵を受けられる形態か、単一市場から離脱し移民制限を徹底する選択肢が検討されている。離脱後の関係は交渉の結果次第で大きく異なりそうだ。

【3位】世界でテロ頻発、邦人も犠牲に

 昨年に続き、世界各地で「イスラム国」(IS)など過激組織が関与したとみられるテロが相次いだ。7月にはバングラデシュの首都ダッカで、外国人に人気の飲食店が襲撃され、人質20人が死亡する立てこもり事件が発生。国際協力機構(JICA)のインフラプロジェクトに携わっていた日本人男女7人も犠牲になった。
 ブリュッセルでは3月、空港などを狙った同時テロで30人以上が死亡。7月にはフランス南部ニースで花火見物客にトラックが突入し86人が死亡した。米ニューヨークでも9月、2001年の同時テロ以来のテロが発生。インターネットなどを通じ過激思想に染まる「ホームグロウン(国産)型」や、外部組織と直接関わりのない「ローンウルフ(一匹おおかみ)型」の犯行も指摘された。

【4位】韓国大統領の弾劾案可決

 韓国の朴槿恵大統領の長年の親友、崔順実被告が、自らが主導して設立した財団に、大統領府の後押しで財閥から寄付金を拠出させたほか、大統領の演説草案などが事前に提供されていたことなどが発覚。政策や政府人事に介入したとされる。検察は崔被告らを11月に起訴し、朴大統領も「共謀関係にあった」と認定した。
 大統領の支持率は4%まで下落し、ソウル中心部で1987年の民主化以降最大規模の退陣要求集会が開かれた。大統領は来年4月辞任の意向を表明したが、世論の憤りは収まらず、12月9日、弾劾訴追案が野党3党と与党非主流派などの賛成で可決された。憲法裁判所が妥当性を判断するが、来年前半には退陣する公算が大きい。任期途中の大統領辞任は民主化以降、初めてとなる。

【5位】北朝鮮が2回の核実験

 北朝鮮は1月6日に4回目となる核実験を実施した。初の水素爆弾実験に成功したと主張しているが、否定的な見方が強い。9月9日には5回目の核実験を行い、核弾頭の威力を判定する核爆発実験が成功したと発表した。2006年の初回以来、ほぼ3年に1回の間隔で核実験を強行してきたが、年2回は異例のハイペース。計6回の実験により、ミサイル搭載に向けた核弾頭の小型化が進んでいるとみられる。
 北朝鮮はこれと並行し、2月7日に「人工衛星打ち上げ」と称して、事実上の長距離弾道ミサイルを発射。さらに中距離弾道ミサイル「ムスダン」や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)も相次いで発射した。国際社会は「安全保障上の脅威は新たな段階に入っている」(安倍晋三首相)と懸念を強めている。

【6位】シリア内戦泥沼化で大量難民

 シリア内戦は泥沼の様相が続いた。11年3月に始まった内戦は6年目に入り、犠牲者は30万人を超えた。アサド大統領退陣を求める米英仏やアラブ諸国などが反体制派を支えてきたが、ロシアがアサド政権を軍事面で支援。過激派組織「イスラム国」(IS)も入り交じり、混迷を深めている。関係国の仲介で停戦が何度も試みられたが、破綻を繰り返し、戦闘終結の兆しは見えない。
 政権軍は12月に最大都市アレッポを制圧した。反体制派は主要な都市部の全拠点を失い、政権軍の優位が鮮明となっている。一方、シリアなどから欧州に渡る難民の数は昨年比で減少しつつも依然高水準のままだ。欧州に渡航後、イスラム過激派に共鳴してテロを引き起こす「戦闘員予備軍」の摘発が各地で続いている。

【7位】TPP、12カ国署名も漂流へ

 日米、オーストラリアなど12カ国は2月4日、環太平洋連携協定(TPP)に署名した。関税削減・撤廃を通じ市場を開放し、知的財産権保護など幅広い貿易・投資の共通ルールを作る枠組みで、実現すれば人口8億人、世界の国内総生産(GDP)の約4割を占める巨大経済圏が誕生する。発効には域内GDPの85%以上を占める6カ国以上の承認が必要だ。
 ニュージーランドが11月に承認手続きを完了、日本は12月9日、協定が参院本会議で承認され、関連法も成立した。しかし、トランプ次期米大統領は、TPPの枠組みからの離脱方針を明言。発効に欠かせない米国の承認が見込めず、協定の漂流が不可避となった。TPPを成長戦略の柱に位置付けている安倍政権の通商政策は、見直しを迫られている。

【8位】地球温暖化対策のパリ協定発効

 20年以降の地球温暖化対策の新たな国際的枠組み「パリ協定」が11月4日発効した。協定は、昨年末にパリで開かれた国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択された。途上国を含む全ての条約加盟国が温室効果ガス削減に取り組み、産業革命前からの平均気温の上昇を2度未満に抑える目標を掲げる。
 批准国の温室ガス排出量が世界の総排出量の55%以上になることなどが発効要件だったが、2大排出国の米中が今年9月に批准し、採択から1年足らずのスピード発効となった。11月7~19日にモロッコで開かれたCOP22では、協定の実施ルールを18年に決めることで合意した。日本は11月8日に批准したが遅れが響き、批准国による第1回締約国会議に正式参加できなかった。

【9位】米大統領、88年ぶりキューバ訪問

 オバマ米大統領は3月、現職の大統領として88年ぶりにキューバを訪問し、首都ハバナでラウル・カストロ国家評議会議長と会談した。オバマ大統領は記者会見で「両国の新たな日だ」と強調する一方、キューバに人権改善を促した。これに対しカストロ議長は「最大の障害は経済制裁だ」と禁輸措置の全面解除を要求し、人権外交の難しさをにじませた。
 両国は1961年に国交を断絶。米国が2014年12月にキューバとの国交正常化方針を発表し、昨年7月に国交を回復していた。オバマ氏は大統領権限で制裁緩和に取り組んできたが、議会の反対で依然、全面解除には至っていない。トランプ次期大統領も選挙中、キューバ制裁の解除に否定的な態度を取っており、全面解除は見通せない状況だ。

【10位】パナマ文書で税回避明らかに

 4月にタックスヘイブン(租税回避地)の利用実態を暴露した内部資料がパナマの法律事務所から流出。約21万法人に上るペーパーカンパニーの情報などに基づき、多国籍企業や政治家などが所得税や法人税が極端に低いタックスヘイブンに所得を移転し、租税回避を行っていることが明らかになった。アイスランドのグンロイグソン首相(当時)は資産隠しの疑惑が浮上し、辞任。日本の企業や個人も記載されていた。
 批判の高まりを受け、5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)では過度な税逃れの防止策作りを主導していくことを確認した。経済協力開発機構(OECD)は具体案で合意。悪質なタックスヘイブン国・地域を特定して制裁対象のブラックリストに載せるための3要件を決定した。
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コメント

トランプ時代の始まり~暴走か変革か13

2016-12-30 10:16:29 | 国際関係
◆フランス
 フランスは来年(2017年)4~5月に大統領選挙が行われる。その選挙で、国民戦線(FN)の党首マリーヌ・ルペンが勝つ可能性は少なくないと見られている。
 ルペンは、トランプの勝利後、「イギリスがEU離脱を決めたのに続いて、トランプが勝利した。我々はトランプが差し出した手を握って進まねばならない」と述べた。トランプの勝利は、ルペンへの追い風になっている。逆に、再選を目指す社会党のフランソワ・オランド大統領には大きな打撃となった。オランドは支持率が5%というひどい低率になっており、再選に出馬しないことを明らかにした。それにしても、パリ同時多発テロ事件以後、ヨーロッパで最も危機管理に力を入れていながら、この支持率は情けない。
 もともとフランスにおける共和党と社会党の違いは、自由主義と社会主義の違いである。だが、これらの政党はともにEUを支持しており、現在はEU支持勢力の中の右派と左派の違いでしかない。共和党は、1990年代からイギリスやアメリカの新自由主義の影響を強く受けて、新自由主義が主流となっている。フランスのグローバリズム的なリージョナリズムにおける新自由主義と社会主義は、脱国家・脱国民では共通している。これに対抗するのは、反グローバリズムかつ反リージョナリズムのナショナリズムである。
 FNは、リベラル・ナショナリズムの政党である。ユダヤ人排外主義・反移民とネイションの強化を主張するジャン=マリー・ルペン党首に率いられて、1980年代に勢力を拡張した。だが、娘のマリーヌが2代目党首になると、排外主義のトーンを下げ、社会保障重視政策を掲げて支持者を拡大してきた。
 マリーヌ・ルペンは、昨年11月、パリで同時多発テロが起きた後、「イスラーム主義はフランスの価値観に合わない」と移民受け入れの適正化を主張し、EUが進める自由貿易を批判して、社会党の基盤である労働者層に支持を広げてきた。本年6月、英国の国民投票でEU離脱が決まると、ルペンはこれを歓迎し、「フランスにはEU離脱のための理由が、英国以上にある。その理由はフランスはユーロ圏に属し、シェンゲン協定に加盟しているからだ」と語った。シェンゲン協定は、ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可する協定である。
 父のジャン=マリーは、2002年の大統領選で社会党候補を破って決選投票に進んだ。だが、社会党はFN政権を阻止するため、保守系のシラク大統領(当時)を支持し、シラクが約8割の得票率で圧勝した。娘マリーヌにとっては、親子二代の大統領への挑戦である。経済改革に失敗した社会・共和、二大政党及び既成政治家に対する批判がかつてなく強まり、来年の大統領選挙ではマリーヌへの期待が高まっている。
 こうしたなか、最大野党の共和党は、11月27日、大統領選の中道・右派陣営の統一候補として、フランソワ・フィヨン元首相を選出した。フィヨンはニコラ・サルコジ政権で首相を務め、サルコジ同様、新自由主義とリージョナリズムの立場である。構造改革を重視し、特に労働市場の改革を通して市場原理を活かすことを目指している。法人税の引き下げや企業への支援を通じて経済の再生を図る。その一方、移民の受け入れには否定的であり、この点がこれまでの有力政治家と異なる。FNは嫌だが、移民の増加は制止したいという層の支持を集めやすい。
 仏大統領選は2回投票制で、最初の投票で過半数を得票した候補がいない場合、上位2人が決選投票に進む仕組みである。現在の大方の予想としては、第1回で過半数を獲得する候補はなく、フィヨンとルペンで決選投票が行われると見られる。
 11月27日の中道・右派の予備選が行われた後、最初に公表された世論調査によると、大統領選第1回投票の得票率予想は、フィヨンが26%、ルペンが24%だった。ルペンにとっては、ここ数カ月で最も低い数字となった。
 フィヨンは、予備選・決選投票において、FNが強い地盤で最も高い得票率を記録した。フィヨンの保守的な姿勢と移民への強い態度には、ある程度FNの支持者を引き付けるものがある。それがルペンの支持率の低下をもたらしていると見られる。
 ルペンは、大統領に当選したら、「EU離脱の是非を問う国民投票を実施する」と公約している。「離脱により、わが国はドイツや欧州官僚から主権を取り戻す」と主張している。FN副党首のフロリアン・フィリッポも、「我々が政権の座に就いたら、まず6カ月以内にユーロの使用を取りやめ、フランを再導入する」と断言している。社会党と共和党は、ルペン阻止のため決選投票で結託するだろうから、トランプ勝利のような「まさか」の事態が起きる可能性は、現時点では高くはない。だが、国民の不満が増大する事態が続けば、「まさか」の結果が起るかもしれない。
 大統領選挙に続いて、2017年6月には国民議会選挙が行われる。ここでFNが議席を伸ばせば、社会党と共和党によるフランスの二大政党制が揺らぎ出すだろう。
 ルペン大統領の誕生ないし国政でのFNの勢力伸長は、ドイツと並ぶ大国フランスのEU離脱に現実味を与えるだろう。英国のEU離脱を「ブレグジット(Brexit)」というのに対し、フランスのEU離脱を「フレグジット(Frexit)」という。英国は外様である。だが、フランスは、ドイツと並ぶEU二本柱の一つである。英国と違ってユーロ使用国である。フレグジットは、ブレグジット以上に、フレグジットはEUに強力な打撃を与えるに違いない。フランスが離脱すれば、その他の欧州各国でも、反EU、脱ユーロの勢力が増進し、次々に離脱が進むと予想される。EUは単なる規模の縮小にとどまらず、ドイツを中心とした再編を余儀なくされ、解体の道を進むかもしれない。

◆その他の国々
 オーストリア、イタリア、フランス以外の国でも、オランダ、ドイツ、フィンランド等の多くのEU加盟国で、自国の決定権を取り戻し、移民や難民を規制ないし排除して自国民の利益を優先するリベラル・ナショナリズムの政党が台頭している。それらの政党にも、トランプ旋風の追い風が吹く。
 オランダでは、英国のEU離脱決定後、リベラル・ナショナリズム政党・自由党のウィルダース党首が、EU離脱を問う国民投票の実施を主張した。ウィルダースへの支持率が上昇しており、来年3月の総選挙で自由党が第1党に躍り出る勢いを見せている。
 EUの本丸は、ドイツである。ドイツはEU・ユーロ圏で一人勝ちしている。域内最大の工業力を持ち、輸出主導型の経済を推進しているドイツにとって、EUは自国繁栄に絶好の機構である。西独は東独との統一を機に、東欧からの安い労働力を利用し、さらにトルコ以外のイスラーム教国からさらに安い労働力を大量に入れることで、輸出競争力を強化してきた。EUはナチスが出来なかったドイツによるヨーロッパ支配を実現した「ドイツ第四帝国」であるとか、ユーロもマルクが名前を変えたに過ぎないとかという見方さえある。
 だが、そのドイツでさえ、移民の規制、難民支援の削減、EU離脱を主張するリベラル・ナショナリズムの政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が、勢力を伸長しつつある。今年の州議会選挙でメルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)が伸び悩む中、AfDが躍進した。AfDのペトリ代表は「もう一つのヨーロッパ、つまり諸国から成り立つヨーロッパ実現のための機は熟した」と語り、ヨーロッパ最大の反EU・ナショナリズムの勢力であるフランスの国民戦線(FN)との連携を強めている。2017年秋の連邦議会選挙ではAfDが国政に進出するとみられており、グローバリズム的リージョナリズムの与党がAfDに票を奪われれば、政権交代が起る可能性さえ出て来る。「欧州安定の要」とされるメルケル首相も盤石とはいえない。ドイツでさえも統合から分離への逆流が起るかもしれない。
 もしドイツで、反EU・ナショナリズムの政権が誕生したら、EUは死に至る。もちろん近い将来、一気にそこまでの変化が起こるとは考えにくい。だが、そうした巨大な地殻変動が起きるエネルギーが、ヨーロッパには蓄積しつつある。アメリカにおけるトランプ政権の誕生は、太平洋を隔てて通底するヨーロッパの歴史的な変化を加速する駆動力を秘めている。

 次回に続く。
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人権395~人権発達のための実践で重要なこと

2016-12-29 08:49:14 | 人権
●人権発達のための実践で重要なこと(続)

(2)法的な義務と道徳的義務を区別する
 次に、義務について、法的な義務と道徳的な義務を区別することが必要である。正義の中に、国内的正義と国際的正義がある。各ネイションにおいて、国内的正義の一部は法として制度化されている。「正義=法」を履行しなければ、強制的に実行を求められ、実行しなければ罰則が科せられる。だが、現在の国際社会では、「正義=法」としての法は、確立していない。国際法はある。だが、国家の主権に当たる地球的統一的な政治権力はなく、法執行の強制力は存在しない。法に定められた罰則もない。履行しなくとも刑罰を受けることのない義務は、法的義務ではない。それゆえ、現在の国際社会における義務は、法的な義務ではなく、道徳的な義務である。
 センは、義務には完全義務と不完全義務があるとする。完全義務とは、「特定の人が行わなければならない特別な行為として、すっかり明確化された義務」である。これに対し、不完全義務は、「完全義務を超えた倫理的な要求」であり、「人権を脅かされている人に適切に支援をほどこせる立場にいる人すべてに、真剣な考慮を求める要求が含まれている」とする。
 完全義務とは、契約や約束、法律の規定等によって課される義務である。法的権利に対する法的義務である。これに対し、不完全義務とは法的義務ではなく、道徳的要求に対する道徳的義務である。センは、不完全義務の履行を促すことが、世界の貧困問題や不正義等の解決のために有効だと考えている。
 私見を述べると、世界的な貧困や不正義等の解決のために、富裕国の国民の良心に訴え、慈善行為を求めることは有効である。だが、個々人の慈善行為は、各国の政府及びその国民の自国・自国民に対する努力を前提とし、その努力を外から支援するという補助的なものにとどまる。国際間の過度の不平等の是正も、同じく道徳的義務である。履行しなければ、第三者が制裁を課しても差し支えないという強制力を持つ法的な義務ではない。

(3)人道主義的義務とは何かを明確にする
 次に、道徳的義務については、人道主義的義務(humanitarian duty)とは何かを明確にする必要がある。世界には、さまざまな宗教・哲学・思想・信条が存在し、個人や集団によって異なる様々な道徳観がある。道徳的義務は、それぞれの道徳観に基づいて考えられる義務である。
 センは、カント主義的な思想に基づいて、不完全義務の履行を促す。コスモポリタンは、グローバルな平等を説いて、普遍的な義務の実行を呼びかける。彼らに共通するのは、人道主義的な考え方であり、彼らの説く義務は、ミラーのいうところの人道主義的な義務に当たる。
 人道主義的な義務の実行を説くには、人道主義とは何かを明確化しなければならない。そのうえで、人類普遍的な道徳に基づく義務を説かねばならない。だが、人類はそのような人類普遍的な道徳を確立できていない。
 世界人権宣言や国際人権規約等は、その参加国の間では一定の国際的合意を形成したものではあるが、十分な合意には程遠い。ミレニアム宣言において、各国はGNIの0.7%を貧困の撲滅等のために拠出すると取り決めたが、取り決めを実行しない場合に、その国の政府に実行を強制したり、罰則を科すものではない。強制的に拠出金を取り立てたり、取り立てのために資産を差し押さえたりすることは行われない。合意の履行を義務としたとしても、それは、法的義務ではなく、約束したことは実行すべきという道徳的な義務である。だが、約束は必ずしも実行しなくともよいという価値観が国際社会には存在する。状況が変わり、利害関係が変われば、約束を反故にしてもよいという考え方は、国家間の外交において、しばしば見られるものであり、条約も時には一方的に破棄される。
 ロールズの言うところの特定の包括的な教説に依拠せずに「重なり合う合意」を作り上げる努力を重ねなければ、人類に普遍的な道徳は構築できない。人道主義的な義務という言葉がすべての人に共通した意味を持ち得るのは、そうした人類道徳が確立した時のこととなるだろう。現時点では、いわゆる人道主義的義務とは、様々な個人や集団がそれぞれの道徳観で普遍的なものと考える義務の実行を促す呼びかけと言わざるを得ない。
 人道主義的の意味は、人間とは何か、人間らしい生活とはどういう生活かという問いの答えと相関する。また、人類の道徳的な向上の度合いに応じて、人道主義的義務の内容も変化していくだろう。

(4)結果責任と救済責任を明らかにする
 次に、義務と関連する責任については、ミラーが説く結果責任と救済責任を区別することが必要である。結果責任とは、「自らの行為と決断に対して負う責任」であり、「私たちの行動によって帰結する損益についての責任」である。救済責任とは、「助けを必要としている人々の援助に向かわなければならない責任」であり、「それが可能であれば被害や苦痛を取り除く責任」である。ただし、その責任を問うには、行為者が行為の結果を引き受けること、また要求される行為を実行しない場合には制裁を受けることが、行為者、その行為の対象者及び第三者に認識されていなければならない。
 ミラーの言うように、ネイションにはネイションとしての集団的な責任があり、それは結果責任に応じた救済責任としなければならない。結果責任には具体的な分析が必要である。旧植民地であっても目覚ましい経済発展をしている国々もあれば、サハラ以南の国々のように貧困状態にとどまっている国々もある。これらの国々に対し、一律に結果責任を論じるのは、おかしい。また仮に何らかの結果責任があるとする場合、それがどこまで救済責任に結びつくのかが、検討されなければならない。そのうえで、誰にどの程度の救済責任があるかの配分の検討が必要である。救済責任は、法的な義務ではなく、道徳的な義務である。道徳的義務に関する判断は、結果責任と救済責任の質的・量的な検討の上で、なされるべきものである。
 戦後補償の問題については、国家間で講和条約・基本条約等で合意がされ、政府間で賠償金が支払われたり、補助金が支払われたりしている場合、これ以外に個人補償を請求することは不当である。政府はネイションの代表であり、政府間で条約を交わし、実行している事柄について、ネイションはそれ以上の責任を負う必要がない。それでもなお救済責任を感じ、実行するとすれば、道徳的な慈善行為としてすべきものである。その際の道徳観は、現状において、それぞれのネイションの道徳観に基づくものである。

 次回に続く。
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トランプ時代の始まり~暴走か変革か12

2016-12-28 08:21:03 | 国際関係
◆オーストリア
 12月4日にオーストリアで、大統領選のやり直し決選投票が行われた。この選挙は、米国大統領選挙でトランプが勝利した後に、ヨーロッパで初めて行われる重要な選挙だった。結果は、リベラル・ナショナリズムの自由党の候補ノルベルト・ホーファーが、緑の党前党首、アレクサンダー・ファン・デア・ベレンに敗れた。後者はマスメディアによって「リベラル系」と報じられるが、前者がリベラルの右派であるのに対して、リベラルの左派であり、左翼と協調的である。
 4月の第1回投票では、反移民・難民を掲げ、EUにも批判的な首相を掲げた国民議会(下院)第3議長のホーファーが、首位に立った。連立与党の社会民主党、国民党は惨敗した。その背景には、オーストリアは昨年、ドイツなどに向かう難民・移民の主要な経由国となったことで、国民に反移民感情が強まったことがある。
 5月に決選投票が行われ、ホーファーと、難民らへの寛容姿勢やEUとの関係重視を訴えるファン・デア・ベレンの一騎打ちとなった。後者が薄氷の勝利を収めたが、不正開票で憲法裁判所が再実施を命じた。
 そこで行われたのが、今回のやり直し決選投票だった。各種世論調査では、両者の支持率は「誤差の範囲の差」とされるほどの大接戦状態だった。最終的に勝利したファン・デア・ベレンの得票率は53.3%、敗れたホーファーは46.7%と、6.6%の差がついた。ファン・デア・ベレンは米大統領選でのトランプ勝利を「欧州への警鐘」として、「反極右」の結集を呼びかけた。一方、ホーファーは「有権者から離反したエリートは落選する」と強調し、自身も既存政治勢力と一線を画し、追い風にしようと目論んだ。移民・難民流入規制の強化を訴えるとともに、EUは個々の国家を過剰に管理しようとしていると批判して、EUからの離脱を問う国民投票を呼びかけた。
 ホーファーの支持者の多くは、若者である。その中には、多文化主義に反対するアイデンティティ回復運動の参加者がいる。この運動は、西欧諸国で若者に広がりつつある運動である。ホーファーは、選挙の敗北を認めつつも、次の選挙を目指して戦っていく姿勢を打ち出している。ファン・デア・ベレンは72歳だが、ホーファーは45歳である。2018年に総選挙がある。自由党は支持率で首位を走っている。近い将来、ホーファーが大統領になり、オーストリアが政策を大きく転換する可能性は高い。

◆イタリア
 オーストリアの大統領選挙と同日、イタリアで憲法改正の是非を問う国民投票が行われた。反対が約6割で、賛成を大きく上回った。改正案を否決されたマッテオ・レンツィ首相は辞任を表明した。
 賛否が問われた憲法改正案は、イタリア経済の一層のグローバル化を推進するための構造改革を進めやすくするために、議会制度に手をつけようとするものだった。政権側は下院と同等である上院権限の縮小を図ろうとした。レンツィ首相が国民投票の結果に進退をかけると発言したことで、事実上の信任投票となった。既存政治を批判する新興の政治組織「五つ星運動」など主要野党は、憲法改正は「首相の権限強化につながる」として反対運動を展開した。レンツィの与党、中道左派の民主党は、停滞する経済に不満を持つ国民の支持を集められなかった。グローバリズムによる「古い改革派」とレンツィ首相が退くことになった。
 この事態は今後、イタリア経済に強く影響することが予想される。イタリアは、ドイツ、フランスに次ぐユーロ圏第3位の経済規模を持つ。だが、イタリアの銀行の不良債権は約3600億ユーロ(約44兆円)と、ユーロ圏全体の約3分の1を占める。国民投票の結果、巨額の不良債権を抱える銀行の経営再建に影響が出れば、金融不安が広がる事態が懸念される。国内総生産(GDP)比約130%という、ユーロ圏でギリシャに次ぐ規模の債務を抱える財政への警戒感も増すだろう。イタリアが金融危機に陥れば、ギリシャの債務危機に続いて、再びユーロ圏が揺さぶられるだろう。
 「五つ星運動」は、著名コメディアン、ベッペ・グリッロが2009年に立ち上げた市民参加型の政治運動体で、既存政党を批判して台頭してきた。汚職撲滅、インターネットによる直接民主主義等を主張し、EUに批判的で、ユーロとともに離脱の是非を問う国民投票の実施を目指している。2013年の総選挙で躍進した。現在、下院の最大野党で、上院では第2野党となっている。反移民・反ユーロを掲げる地域政党「北部同盟」などとともに、2018年2月実施予定の総選挙を早期に実施することを求めている。今年6月の地方選挙ではローマ、トリノの両市長を制し、勢いを増している。この勢いが続けば、次期総選挙で政権に就く可能性もある。そうなれば、イギリスに次いでイタリアもEU離脱に動くかもしれない。
 このたびのイタリアの国民投票の結果は、来年予定されているフランスの大統領選やドイツの国政選挙に影響を与え、リベラル・ナショナリズムの諸政党への支持が伸びることが予想される。

 次回に続く。
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人権394~人権発達のための実践を促進する

2016-12-27 08:50:06 | 人権
●人権発達のための実践を促進する
 
 人権の内容を検討したところで、次に人権の発達のための実践について書きたい。
 人権と称される権利は、歴史的・社会的・文化的に発達してきた「人間的な権利」である。その実態は、主として国民国家における国民の権利である。国民の権利は法的権利であり、法的義務を伴う。これに対し、国際社会における人権は、法と道徳の中間に位置する性格を持っており、法的権利というよりむしろ社会的権利である。人権を社会的権利と考えれば、人権保障のための支援は、法的義務ではなく、道徳的義務である。また、人権の発達を目指すには、国際社会の主要な行為主体である各ネイションにおいて、国内的正義に基づいて国民の権利を発達させることが基本である。そこにおいて、各国及び国際社会において最低限保障を目指すべき権利の実現に取り組む。そのうえで、ネイションを基礎とする国際的正義に基づき、国際社会での個人の権利を最低限度に保障することを目指すべきである。この最低限度の権利保障は、国際社会では例外的な状況にある人々が主対象となる。その権利は、各国が一定の条件のもとに恩恵として付与すべきものである。各国における外国籍の移民は、本国の政府がその国の国民として権利を保障すべきであり、居住国の政府は自国民と非国民を権利において区別してよい。
 このような見解のもとに、私が人権を発達させるための実践にあたって重要と考えることを12点述べたい。既に書いたことと重複する部分もあるが、整理のためにそれも含めて書くことをお断りしておく。

(1) 権利と主張を区別する
(2)法的な義務と道徳的義務を区別する
(3)人道主義的義務とは何かを明確にする
(4)結果責任と救済責任を明らかにする
(5)人間の他者依存性と自己責任性を理解する
(6)自立自助を促す支援をする
(7)人間開発を促進し、人間の安全保障を強化する
(8)現実を踏まえ、漸進的な改善を目指す
(9)必要な費用を算出し、分担・管理・運用の仕方を決める
(10)国家間の過度な不平等の是正に取り組む
(11)国家の役割が重要であることを認識する
(12)米国の価値観の変化と中国の民主化を促す

 これらについて、次に記す。

●人権発達のための実践で重要なこと

(1)権利と主張を区別する
 人権発達のための実践において、まず権利については、権利と主張を区別することが必要である。
 今日人権について世界的に大きな影響力を持つセンは、「人権の宣言とは(略)道徳的な要求の表明とみなすべきだ」と言う。センによれば、人権は道徳的要求が政治的・社会的な運動を通じて、法的な権利として実現されてきたものである。道徳的要求は、単なる主張ではなく、道徳的な権利であり、必ずしも法制化する必要はなく、法制化されていなくとも、権利として擁護されるべきだ、という考えをセンは示す。
 センはまた「人権を強力な道徳的主張と見なすなら、それらの道徳的要求を促進するうえで異なる手段を考えることに寛容であるべき理由が存在する。人権の倫理を進める方法と手段は、たとえ、しばしば法制化が進むべき正しい道であるとしても、必ずしも新しい法律を作ることに限定される必要はない」と言う。
 こうしてセンは、道徳的な要求を権利とし、それに応じた義務を説く。私は、センの考え方は権利の概念をなし崩しにするものだと思う。道徳的な要求をすべてそのまま権利だとすることはできない。権利は、能力の行使が社会的に承認された時に権利となる。能力行使を権利として承認すれば、その権利を実現する義務が生じるが、承認なき要求は、権利ではなく主張に過ぎない。社会的に承認されていない主張をも権利とするのは、要求する側の一方的な主張に与するものであり、権利に必要な双方の合意を欠いている。たとえ、権利関係・権力関係における劣位者、弱者、困窮者等による切実な主張だとしても、一方的に主張を発するだけで権利となるとするならば、その逆の立場からも、主張すなわち権利という論理が対置されることになる。
 世界人権宣言は、単なる宣言であって法的拘束力を持つものではない。宣言を基に作られた国際人権規約も、締約国に対して出される国際的監視機関の所見に法的拘束力はなく、勧告的な効果を持つにとどまり、強制力はない。国際人権規約に定める権利であっても、国内法におけるような法的権利とはなっていない。そのような状況で、主張をそのまま権利とすることは、権利をめぐる見解に対立を生じ、混乱を招く。権利と主張は、区別しなければならない。

 次回に続く。
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トランプ時代の始まり~暴走か変革か11

2016-12-26 08:48:49 | 国際関係
EUの動向

 11月8日、米国の大統領選挙で、トランプが勝つという「まさか」の結果が生じた。次に地域別にトランプ現象の影響を見ていきたい。
 まず最も注目されるのは、トランプ現象のヨーロッパへの波及である。
 欧州連合(EU)は、国民国家の枠組みを超えた超国家的(トランスナショナル)な広域組織である。1991年のマーストリヒト条約で通貨統合や共通外交など、加盟国に国家主権の一部移譲を求めることが決まった。2004年に、民主化が進んだ東欧諸国など10カ国が新たに加盟し、25カ国が加盟する拡大EUとなった。東欧諸国のEU加盟は、冷戦終結で分断の歴史に終止符を打った東西ヨーロッパが、統合という新たな段階に入ったことを示す出来事となった。EUの東方拡大で、域内人口4億5000万人、国内総生産10兆ドルを超える巨大経済圏が誕生した。現在は28カ国となっている。
 EUは独自の官僚制を持ち、EU官僚が超国家的広域共同体の統治を行っている。彼らは各国の選挙で選ばれるのではなく、民衆の代表ではない。そうしたエリートが各国の主権の上に立って、EUを運営している。その背後には、ヨーロッパの支配集団、王侯・貴族や巨大国際金融資本家が存在する。
 彼ら所有者集団の意思を受けた経営者集団であるEU官僚は、個々の国家を超えた欧州憲法をつくろとした。欧州憲法条約は、EUの全加盟国(当時25か国)が批准しなければ発効しないが、独仏連合の片割れであるフランスでは、国民投票の結果否決された。そのため、条約案の見直しがされ、修正が加えられた。文面から「憲法」という表現を削り、単なる「改革条約」という呼称に変えた。これが通称リスボン条約である。リスボン条約は、理念的なヨーロッパ統合の将来像を掲げることを回避し、統一より連合という緩やかな組織を目指すものとなっている。2009年(平成21年)12月1日に発効した。だが、ヨーロッパには、連合的な組織であっても、自国の主権を制限したり、中央で決めた規制を課したりするEUそのものに反発する人々がおり、近年目覚ましく増加している。
 反発は、単一通貨ユーロにも向けられている。EU加盟国のうち、イギリス、ポーランド、ハンガリー、デンマークなどの9カ国は自国通貨を維持している。残り19カ国はユーロを採用している。ユーロ採用国は、財政政策を自国の判断で行う権限は持っている。国債発行、政府支出拡大等を行うことができる。ただし、毎年の財政赤字をGDPの3%以下に抑え、公的財務残高をGDPの60%以下に抑えなければならない。その枠内で財政政策を行うとしても、財政政策は本来、金融政策と連動しなければならない。ところが、各国は金融政策については権限を持たない。ドイツ・フランクフルトに本拠を置くECB(欧州中央銀行)に委ねている。経済的な主権をEUに一部移譲していることによる弊害は、リーマンショック後に強く現れた。ユーロ採用国は深刻な経済危機から抜け出ようとしているが、自国の判断で金融政策を行えないため、有効な景気対策を打てないのである。
 EU及びユーロに対する反発は、年々ヨーロッパの多くの国で強まってきていた。英国は、EUには参加しているが、ユーロは採用していない。自国通貨を使い続けている。しかし、EU官僚が決める政策、特に移民政策への反発が増大し、2016年6月の国民投票でEU離脱が決定した。この決定は、大陸諸国の反EU・反ユーロ勢力を勢いづけた。そこに、今度は、アメリカからトランプショックが押し寄せたのである。
 米国の大統領選挙後、2016年12月4日にオーストリアで大統領選が行われた。リベラル・ナショナリズムの政党の候補者が、親EU・移民受け入れの候補者に敗れたものの、大接戦を演じた。同日イタリアで行われた国民投票では、EU追従的な憲法改正案が否決され、レンツィ首相が辞任を表明した。2017年に入ると、3月にオランダの総選挙、4~5月にフランスの大統領選、9月にドイツの総選挙が続く。これらの国々で、リベラル・ナショナリズムの政党がどの程度、勢力を伸長するかは、以後のEUのあり方に関わる。特にドイツと並んでEUの二大柱となっているフランスがEUやユーロ圏から離脱することになれば、EUは屋台骨が揺らぐだろう。続いて、各国の動きを見ていきたい。

 次回に続く。

関連掲示
・拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion09i.htm
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人権393~恩恵として「人間的な権利」を与える

2016-12-25 10:09:27 | 人権
●恩恵として「人間的な権利」を与える

 例外的な状況にある人間は、生きる上で最低限必要な物資と環境を自力で得ることができない。食べるもの、水、着るもの、居る場所等を自分で得ることができず、生きる能力は持ってはいるが、自力で生活する能力を発揮できない。また、家族的生命的な集団に所属できないか、またはその集団が機能しておらず、集団において生存・生活することができない。こうした状態の人間は、他者から支援や保護を受けなければ、生存することや幸福を追求することができない。
 一方的に支援や保護を受けるのみという状態にある人間の中には、乳幼児、重病患者、極貧の困窮者、重度の障害者、要介護の高齢者等があるが、彼らは家庭や集団や国家において、家族の一員、集団の一員、国民の一員として権利を保障される。その点が、例外的状況にある人間とは異なる。
 例外的な状況にある人間の場合は、自力で生活することができない。恩恵によって、飲食物・衣服・居場所等を提供しなければ生きられない。飲食物・衣服・居場所等の提供は、生存・生活に必要な最低限の物資と環境を恵み与えるものである。また、例外的な状況にある人間は、家族的生命的な集団に代わるつながりをつくるための助力を必要とする。その助力も、支援や保護を受ける側は、当然の権利としてではなく、相手に慈善を請い求めるものである。このような関係において、もし支援や保護を行う側が、その相手に精神・生命・身体・財産の権利を認めるとすれば、それは最低限保障を目指すべき「人間的な権利」を恩恵として与える行為である。恩恵としての精神・生命・身体・財産の権利の付与は、道徳的な行為である。
 こうした道徳的な行為を単に自発的なものにとどめず、例外的状況における個人に最低限保障を目指すべき「人間的な権利」を付与し、それを保障する制度を国際的に作り、迫害、強制労働、性的暴行、虐待虐殺等を防ぐことが必要である。例えば、北朝鮮における政治犯収容所での強制労働、セルビア・ヘルツェゴビナでの民族浄化、中国での法輪功の生体臓器取り出しの防止及び停止等を、当該政府に対して要求し、権利の尊重を図るものである。
 例外的な状況にある個人に権利を付与することは、もともとすべての個人に普遍的かつ生得的な権利があるということには、ならない。こうした考え方は、歴史的・社会的・文化的に発達してきたものだからである。それぞれの個人は、集団において生まれ、集団に属し、集団によって権利を与えられる。集団の成員としての権利を持つ。集団において精神・生命・身体・財産の権利は絶対的なものではない。すなわち、不可侵の権利ではない。集団の決まりごとに違反する行為に対しては、法の規定のもとに、精神的自由への権利については規制が、生命的自由への権利については殺害が、身体的自由への権利については拘束が、財産的自由への権利については没収や罰金等が課せられることがある。その集団の決まりごとに従い、秩序を維持するために、こうした権利の制限や剥奪を行う権利が認められる。人間の個人性と社会性の二側面においては、社会性に優位がある。それは、人間は、集団生活を営むことなくして生活・生存できない生物だからである。個人の権利は、集団の秩序・存続・繁栄に寄与する範囲内でのみ、認められる。例外的な状況にある人間に対しての権利の恩恵的付与は、そうした集団が解体・消滅しているか、または集団から孤立している個人への道徳的な支援である。
 先に道徳には、集団の規模と原理の及ぶ範囲によって、家族道徳、社会道徳、国民道徳があるが、最低限保障を目指すべき「人間的な権利」の実現を追求するには、人類規模における道徳、人類道徳を構想する必要があると書いた。人類は未だ人類道徳を確立できていない。国家・宗教・文化・文明等を越えて、すべての集団と個人に共通する道徳を形成できていない。「人間の尊厳」という人権思想の要となる観念についてさえ、共通の認識を確立できておらず、集団の権利と個人の権利の関係についても明確な合意を作り得ていないのだから、当然のことである。人類道徳の形成には、人間観の転換が必要である。その課題については、本章の最後の項目で述べる。

 次回に続く。
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トランプ時代の始まり~暴走か変革か10

2016-12-24 08:38:45 | 国際関係
EUにおけるナショナリズムの復興

 ヨーロッパでトランプの勝利を歓迎し、トランプ旋風を追い風にしたいと考えているのは、欧米のマスメディアが「極右政党」と呼ぶ集団である。それらの政党の考え方は、実態としては伝統的なナショナリズムであり、グローバリズム的なリージョナリズムに対してネイション(国家・国民)を守ろうとする思想である。
 ナショナリズムには、自由主義的なナショナリズムと全体主義的なナショナリズムがある。「極右」とは、後者に使うべき言葉である。その典型は、ネオナチやファシズム政党である。だが、現在、ヨーロッパで躍進しているのは、全体主義の政党ではない。自由主義的なナショナリズムの政党である。リベラル・ナショナリズム(自由国民主義)は、近代ヨーロッパの伝統的な思想・運動である。17世紀のイギリスに発生し、フランス革命とナポレオン戦争を通じて、各国に広がった。ネイションを形成し、発展させ、その繁栄を追求する思想・運動である。第1次世界大戦後から第2次世界大戦期にかけて、自由主義的なナショナリズムの勢力は、「極右」つまり全体主義的なナショナリズムの勢力と戦った。前者は民主主義的・議会主義的であって、暴力的・武闘的なナショナリストとは違う。リベラル・ナショナリズムは、第2次大戦後は、「極右」の復活を抑えつつ、国際社会の協調を目指す主流となってきた。ところが、世界的にはグローバリズム、地域的にはリージョナリズムが、ヨーロッパで進展し、ネイションの枠を超える広域共同体が形成され、広域市場、単一通貨、労働力の移動、異宗教・異文明の移民の流入等を進める勢力が主流となった。ナショナリズムは傍流に追いやられ、新たな主流を占めたグローバリズム及びリージョナリズムの側から「極右」というレッテルを貼られるようになった。だが、リベラル・ナショナリズムの復興は、伝統的な思想の復活なのである。これを右左という位置関係を表す用語で表すことは、正確でない。グローバリズム及びリージョナリズム=対ナショナリズムという構図で捕えるべきである。
 欧米のマスメディアは、リベラル・ナショナリズムの新興政党の姿勢を、ポピュリズムと呼ぶ。ポピュリズムは、「人民主義」「大衆主義」「大衆迎合主義」「衆愚政治」などと訳される。大衆の利益や権利、情緒や感情を利用して、大衆の支持のもとに既存の体制の支配者・エリートや・知識人などと対決しようとする思想・運動である。「大衆迎合主義」と訳す場合は、否定的な立場から、政治指導者が大衆の一面的な欲望に迎合し、大衆を操作することによって権力を獲得・維持する方法を意味する。それが極端な状態に至れば、「衆愚政治」に堕する。
 だが、リベラル・デモクラシー(自由民主主義)の国家には、議会があり、多くの場合、議員は普通選挙で選ばれる。政治家や政治運動家が自らの政策を実現しようとするには、有権者に政策を訴え、その支持を獲得し、選挙で得票しなければならない。それゆえ、大衆の利益や権利を重んじ、大衆の情緒や感情に訴えることは、多かれ少なかれ、どの政治勢力によっても行われている。
 欧米のマスメディアがリベラル・ナショナリズムの新興政党を「極右」と呼び、その政治思想・政治姿勢を「ポピュリズム」とするのは、そこに政治的な価値判断が入っているからである。既存の体制の支配層、所有者集団や経営者集団の側にすれば、自分たちの考えに反対し、立場を脅かす勢力だから、負のイメージを大衆に受け付けるために、そのような用語を使っているのである。マスメディアの多くは、大富豪によって所有され、所有者集団に都合のいいような情報を流す支配層の広報機構となっている。
 リべラル・ナショナリズムの新興政党は、EUの官僚や主流派の政治勢力などを「エリート」と批判し、既存の体制・路線の打破を目指している。そこには、エリート対非エリートまたはエリート対庶民という構図がある。だが、それらの政党が行っていることは、必ずしも大衆への迎合ではない。なぜならば、各国の国民の多数はEU・ユーロを支持し、移民受け入れを容認し、現状の維持を望んでおり、大衆に迎合するなら、それが最も支持を得やすいからである。だが、リベラル・ナショナリズムの新興政党は、既成の体制・路線に異を唱えている。グローバリズム的なリージョナリズムが主流派になった社会で、以前は少数意見だったが段々、賛同者が増えてきている。それを大衆迎合主義と蔑視するのは、既存の体制の支配者・エリートや知識人などの側からの見方である。リベラル・ナショナリズムの政党に、有権者が共感するのは、失業や低賃金で経済的苦境にあるだけでなく、グローバル化・リージョナル化により価値観の多様化や移民流入が進み、生活や価値観、安全・安寧が脅かされているという不安が強まっているためである。また、既成の政党の政治家は自分たち国民の権利を守ってくれないという不満が高じているためでもある。
 リべラル・ナショナリズムの新興政党は、アメリカで二大政党の主流派やマスメディアに挑んだトランプに自らを重ね、その勝利に意を強くしている。そして、トランプ旋風が自らの勢力拡大への追い風になることを期待している。

 次回に続く。
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人権392~例外的状況の人間への対応

2016-12-23 08:46:13 | 人権
●例外的状況の人間への対応

 私は、最低限保障を目指すべき「人間的な権利」について、各国で国民に保障するとともに、諸国家間でその保障を支援し合うべきものであると考える。また、例外的な状況にある人間に対して、諸国家が一定の条件のもとに恩恵として付与すべきものと考える。
 例外的状況とは、奴隷状態にある者、難民、無国籍者、国内避難民、国内被迫害者、人身売買・誘拐等の被害者等に係る状況である。
 第1の例は、奴隷状態にある者である。古代ギリシャやローマの奴隷制社会には奴隷がいた。その多くは征服・支配された異民族と考えられる。また、15世紀末以降、西欧諸国が非西欧社会に進出して、白色人種が有色人種を奴隷とした。これは征服・支配による。奴隷には、支配集団の成員と同じ権利はない。それは、奴隷にされる前の集団における権利を剥奪された状態である。アメリカでは、南北戦争後、憲法修正第13条で奴隷解放の布告が明文化され、奴隷制度が廃止された。それによって、奴隷に普遍的・生得的な人権を認めた。だが、正しくは、もともとの集団的な権利の回復を図るという論理で行うべきものだった。奴隷にされる前の状態に戻せば、元の集団における権利を回復し得る。普遍的・生得的な権利を「人間の権利」として認めるのではなく、集団の権利、及びその成員の権利を回復することが、奴隷解放である。
 今日の世界では、イスラーム教スンナ派過激組織ISIL(自称「イスラーム国」)が、奴隷制の復活を唱え、異教徒を奴隷としている。許しがたい蛮行である。それを宗教の教義の恣意的な解釈によって正当化することは、その宗教内において厳しく糾弾・是正すべきことである。また、奴隷とされている異教徒の所属国及び国際社会は、その救出・解法に努めねばならない。
 第2の例は、難民である。難民条約(1951年)は、難民について、第1条A(2)に「1951年1月1日前に生じた事件の結果として、かつ、人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの」と規定している。
 要約すると、難民の要件は、迫害、国籍国の外にあること、及び国籍国の保護の喪失の3つである。国籍国とは、自分が国籍を持つ国をいう。迫害の理由は、人種、宗教、国籍、特定の社会集団または政治的意見の5つとされる。こうした要件を満たす者を、狭義の難民という。条約難民とも呼ばれる。
 国内にとどまっている者は、難民条約がいう難民ではない。戦争や内乱、自然災害によって国を追われる者も、難民条約がいう難民ではない。また、たとえ、難民条約に照らして、難民と認定されても、国家は当該難民を受け入れる義務を負うわけではない。受け入れるかどうかは、各国が領域国として独自に主権的判断に基づいて決定し得る事項とされている。
 これに対し、外国からの軍隊の侵攻や内戦、食糧危機などにより生じた国内避難民、人道上の難民等を、広義の難民という。国内避難民とは、武力紛争や内乱、自然災害、大規模な人権侵害等によって、移動を強いられているものの、国境を越えていないために難民と分類されない者をいう。国籍国の保護を期待できないという点では、国外に出た難民と同じ境遇にある。私は、迫害・戦争・内乱・政府崩壊・災害等によって、国籍を剥奪されたり、喪失したりした無国籍者を難民に加えるべきと考える。
 人道上の難民は、何を以て「人道」また「人道的」というかによって、基準が大きく異なる。「人道主義」は、英語であれば humanitarianism の訳であり、近代西洋思想に現れる humanism (人間主義、人間中心主義)とは区別される。「人道的」は humanitarian の訳であり、humanitarian aid は「人道援助」と訳す。humanitarian は「人道主義的」と訳され、「人間として為すべき」「人間としてあるべき」という道徳的な意味を含む。これらの概念の中核には、human という形容詞がある。ロングマンの英語辞典は、human について「belonging to or relating to people, especially as opposed to animals or machines」と説明する。すなわち「動物や機械ではなく、人間に所属すること、または人間に関すること」である。だが、human には、価値の概念が含まれている。何を以て、human というかについては、何を以て「人間的な」「人間らしい」とするかという価値的な基準と関係する。それゆえ、先に書いた「人間とは何か」「人間らしい生活とはどういう生活か」という問いにどう答えるか、と human 及び humanitarian の意味は、深く関係している。
 難民条約の規定によると、人種、宗教、国籍、特定の社会集団または政治的意見により、国内で迫害を受けている者は、難民ではない。多くの場合、国内において大規模な迫害が行われている結果、国外に逃亡する者が出るのだが、国内にいる限り、難民とはみなされない。例えば、中国において弾圧を受けているチベット族・ウイグル族、北朝鮮で政治的犯罪によって収容施設に収容されている者は、難民ではない。私は、国内被迫害者と呼ぶ。これは、例外的状況の第3の例となる。
 第4の例は、人身売買されて他者の所有物として拘束されている国籍不明の人間、外国に誘拐された身元不明の子供等を挙げることができる。彼らは、国籍国や所属する集団から切り離されている点で、難民とはまた異なる状況にある。その多くは、無国籍者である。
 難民の集団は、もともと集団としての権利を持っていた。難民の権利を擁護することは、「人間が生まれながらに平等に持つ権利」の擁護ではなく、集団の権利及び集団の成員の権利の擁護である。
 所属していた集団が解体または消滅しているか、もしくは集団から全く孤立している状態にある個人にも、人間として生きる能力はある。動物でも機械でもなく、人間として持つ欲求を実現する潜在能力を持ってはいる。だが、能力の行使を承認し、それを擁護する他者や集団との関わりを欠いた状態では、生きる能力を権利として発揮し得ない。能力は、能力の行使を承認する人間がいて、初めて権利となる。人間として生きる能力の承認を受けたとき、その個人は生きる能力を権利として持つ。誰かが例外的な個人に権利を認めると主張したとき、その人が承認した権利を相手は持つ。ただし、この権利付与が私人間にとどまれば、安定的な権利とならない。これを公的に承認して保障し得るものは、特定の国家の政府である。その政府がその個人を難民とか亡命希望者として受け入れた場合、一時的に一定程度の権利を保障する。この場合、多くは元の集団で権利を回復できるように支援する。それが不可能な場合で、またその国家の定める一定の条件を満たす場合は、その国家の政府の判断で、継続的な保護または国籍を与えることができる。その個人に国籍を付与するならば、それと同時に国民の権利を与えることになる。その権利は、普遍的・生得的な人権ではなく、その国の国民の権利、国民の特権を与えたものである。「人間の権利」を保障するのではなく、「国民の権利」を与えるのである。逆に、その国家の判断として「国民の権利」を与えないという自由もある。それは、その国家を形成する人々が集団として持つ権利であり、他の集団及び個人によって、尊重されなければならない。

 次回に続く。
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トランプ時代の始まり~暴走か変革か9

2016-12-22 08:53:31 | 国際関係
●世界的な潮流

 世界的潮流として、欧米を中心に、グローバリズムの進展に対して、ナショナリズムへの揺れ戻しが起っている。
 グローバリズムは、米国の主導で、1990年代のビル・クリントン政権、2000年代のブッシュ子政権、オバマ政権の民主・共和両党、三つの政権を通じて進展してきた。その進展は、資本の論理によって、近代国際社会の国家・国民の枠を外し、諸国の主権を制限・移譲するものである。その進展が急速であり、特に移民の流入が急激かつ多数であるので、諸国の国民から強い抵抗が出てきている。近代的な国家・国民・主権を維持・回復しようとするナショナリズムが復興し、急進的なグローバリズムに対する揺れ戻しが起っている。
 人類の共存共栄は、国家否定・国民軽視のグローバリスムでは、決して実現しない。ただ、ナショナリズムを元にした諸国・諸民族の協調によってのみ、共存共栄は可能である。それゆえ、いま広範に起こっている揺れ戻しは、進むべき方向に進路を是正する動きとなっている。
 これまでグローバリズムが顕著だったのは、ヨーロッパにおいてだった。第2次世界大戦後、ドイツ・フランスが提携し、ヨーロッパの統合が進められた。1951年に欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が生まれ、1957年に欧州経済共同体(EEC)が誕生。1992年のマーストリヒト条約で欧州連合(EU)の仕組みが作られた。その後、加盟国が増え、現在は28カ国となっている。また、1999年に単一通貨ユーロが創設され、EU参加28カ国のうち19カ国がユーロを採用している。
 こうした超国家的な広域共同体の形成・発展を進める思想を、リージョナリズムという。ヨーロッパのリージョナリズムは、単に地域的なものではなく、地球規模の統合を目指すグローバリズムに基づくものである。グローバリズム的なリージョナリズムによって、広域共同体における国家主権の制限・一部移譲、単一市場、単一通貨、国境を越えた労働力の移動、域外からの移民労働者の大量受け入れ等が行われてきた。加盟国を広げていった結果、経済的にはドイツの一人勝ちとなり、南北間・国家間の格差が拡大している。2008年のリーマンショックは、グローバリズムによる強欲資本主義が引き起こした経済危機だが、その影響はアメリカ以上にヨーロッパで色濃い。債務危機を抱えるPIIGSと呼ばれる諸国家の経済状態が深刻化している。特にギリシャの債務危機は、2015年6~9月に国際的に大きな波紋を呼んだ。こうした危機を各所に抱えるEU最大の問題は、移民の増加である。西方キリスト教による西洋文明諸国だけで広域共同体を作るなら文化的な共通性があり、無理が少なかっただろうが、異宗教のイスラーム教圏から多数の移民を受け入れたために、文明間の激しい摩擦を引き起こしている。それがEUの致命的な失敗である。
 2015年11月13日、EU中心部のパリで、イスラーム教過激派による同時多発テロ事件が起こった。欧州諸国は彼ら過激派、特にISILのテロに対し、協力して対抗しているが、テロは一層拡散している。またシリアの内戦が深刻化して急増した難民が、ヨーロッパに押し寄せている。
 こうした経済的・社会的・文化的な複合的危機の中で、ヨーロッパでは、単一市場から国民経済重視への回帰、移民労働者や難民の受け入れより国民の雇用・安全、排外主義ではなく国民主義による移民への規制、移民の権利より国民の権利、移民の社会保障より国民の福祉、特に雇用の確保等を求める動きが強くなっている。
 とりわけ異宗教・異文明からの移民を多数受け入れるリージョナリズムに対して、ナショナリズムによる反発が起っている。欧米のマスメディアが「極右(far right)」と呼ぶ政党がフランス、オランダ等で躍進しているのは、この動きである。だが、それらの政党の考え方はリベラル・ナショナリズムであり、ネイションを守ろうとしている自由主義的で民主主義的な思想である。自国の決定権を取り戻し、移民や難民を規制ないし排除して自国民の利益を優先するものである。本年6月、イギリスでは住民投票の結果、EUからの離脱が決定された。「極右政党」が国民を扇動したのではない。この自由主義・民主主義・ナショナリズムの発祥の地の国民の過半数が、EUや移民からネイションを守ろうとして意思表示をしたものである。イギリスのEU離脱は、歴史的なメルクマールとなる。
 こうした欧州でのグローバリズム的なリージョナリズムからナショナリズムへという揺れ戻しの動きが、アメリカでも顕在化した。それがトランプ現象である。トランプ現象は急に発現したのではなく、1990年代以降のグローバリズムの進展に対して、20数年間、米国民の間に溜まってきた反発のエネルギーが噴出したものである。今後、トランプ政権が不法移民の流入禁止、犯罪歴のある不法移民の強制送還等を実施した場合、それが欧州に大きな影響を与えるだろう。

 次回に続く。

関連掲示
・EUとユーロ圏の危機については、下記の拙稿をご参照ください。
 「ユーロとEUの危機」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12k.htm
 「欧州債務危機とフランスの動向」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12l.htm
 「ギリシャ財政危機でユーロ圏が揺れている」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-1a.htm
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