●安倍首相発言を米メディアが非難
安倍首相の慰安婦問題に関する発言は、アメリカのメディアによる激しい非難を引き起こした。
3月2日付のワシントン・ポスト紙は、安倍首相の談話を報じ、大意次ぎのように書いた。
「歴史家たちは、20万人の女性(朝鮮半島と中国出身者が多くを占める)が1930年代から40年代を通じ、アジア全域で働いたと言う。日本軍部隊によって誘拐され、性奴隷になるべく強制されたと多くの女性が語っている。しかし、昨年9月に就任して以来、学校での愛国心教育と、主張する外交を推進してきた安倍首相は、『女性を売春婦にするよう強制したという証拠はない』と記者団に語った。首相の発言は、1992年に発見された公文書の証拠と矛盾するものだ。それは軍当局が業者と一体になって女性を売春宿に強制的に斡旋する上で、直接に関与していたことを示すと歴史家は語っている」
他の新聞も似たようなもので、誤謬に満ち、根拠のない思い込みでものを書いた記事が続出した。
「安倍首相は日本政府の長年の公的立場と矛盾する、日本軍が外国人女性を強制的に性奴隷としたことを否定した」(ニューヨーク・タイムズ紙 3月2日付東京発)
「慰安所は商業施設ではなかった。女性たちの調達には、隠然・公然の暴力が用いられた。そこで行われていたのは絶え間ない強姦であって売春ではなかった」(ニューヨーク・タイムズ紙 3月6日付社説)
「ホロコーストを否定するようなものだ」(サンノゼ・マーキュリー紙 3月6日付)
「この問題を修復する最適任者は天皇本人だ」(ロサンゼルス・タイムズ紙 3月7日付、社説)
●間違いだらけ、飛躍した主張
これらの記事の間違いを指摘したい。
1.「歴史家たちは、20万人の女性が‥‥働いたと言う」
20万人という数字は誇大である。実証的な研究書である秦郁彦氏の『慰安婦と戦場の性』(新潮選書)は、軍人の数や慰安婦の接客回数から推計して、慰安婦の総数を2万人前後から2万数千人としている。
2.「朝鮮半島と中国出身者が多数を占める」
多数を占めていたのは、日本人女性である。秦氏は、昭和戦前期の日本の領事館が慰安婦の人種別人数を記載している報告書を出しているものをもとに、日本人が4割、それぞれの地域の現地人が3割、朝鮮人2割、その他1割と計算している。
3.「日本軍部隊によって誘拐され」
吉田清治氏は、軍の命令で韓国の済州島に出かけ、多数の女性を慰安婦にするために狩り立てたと「自白」して謝罪しているが、済州島の現地調査により、虚説であることが確認されている。吉田氏本人は、行方をくらませている。
4.「1992年に発見された公文書の証拠と矛盾する」
軍による直接的かつ組織的な誘拐を示す公文書は、見つかっていない。1992年に発見された公文書とは、同年1月11日付の朝日新聞が報じたものだが、これは業者による誘拐を防ぐための指令書であり、軍が強制連行をしていなかったことの証拠になるものである。
5.安倍首相が「日本軍が外国人女性を強制的に性奴隷としたことを否定した」
否定していない。そのことに言及していない。
6.「慰安所は商業施設ではなかった。」「売春でなかった」
事実と異なる。慰安所は料金を支払って利用する商業施設であり、慰安婦は一定の雇用条件のもとで務め、性的慰安を行って高給を得ていた。そのことを最もよく明かすのは、米陸軍が昭和19年(1944)9月に作成した「前線地区での日本軍売春宿」と題した報告書である。アメリカのメディアは、自国の軍が作成した報告書を、まず読むべきである。
7.ホロコースト、天皇、拉致問題との関連付け
慰安婦問題の事実関係に触れることが、「ホロコーストを否定するようなものだ」とは、ひどい飛躍である。安倍首相は、慰安婦に関する発言で、ナチスによるユダヤ人虐殺に関しては、述べていない。
ある程度定説的になった歴史認識に対して、事実の調査・検討に基いて見直しを行なうことは、学問の自由として保障されねばならない。
なお、慰安婦は、ユダヤ人のように組織的に多数虐殺されてはいない。慰安婦は戦地で多数が殺されたとか置き去りにされておらず、9割以上が生還したと秦氏は推定している。
慰安婦問題について天皇を持ち出すのは、「女性国際戦犯法廷」の影響だろう。この「法廷」は、慰安婦問題に関して昭和天皇を一方的に断罪した。そこには、北朝鮮が深くかかわっていた。また、慰安婦の話しで北朝鮮による拉致を減殺するかの主張も、北朝鮮の工作の影響だろう。アメリカ政府は、北朝鮮の拉致問題や核施設に関して厳しい交渉を行なっている。その相手国を利するような報道をするのは、反国家的行為であり、アンタイ・アメリカ的行為だろう。
安倍首相が、記者会見で安易な発言をし、事実を無視するアメリカのメディアから非難を受けたのは、わが国政府が事実を調べ、またそれを伝える努力をまったく行なわずにきたことの報いである。
次回に続く。
安倍首相の慰安婦問題に関する発言は、アメリカのメディアによる激しい非難を引き起こした。
3月2日付のワシントン・ポスト紙は、安倍首相の談話を報じ、大意次ぎのように書いた。
「歴史家たちは、20万人の女性(朝鮮半島と中国出身者が多くを占める)が1930年代から40年代を通じ、アジア全域で働いたと言う。日本軍部隊によって誘拐され、性奴隷になるべく強制されたと多くの女性が語っている。しかし、昨年9月に就任して以来、学校での愛国心教育と、主張する外交を推進してきた安倍首相は、『女性を売春婦にするよう強制したという証拠はない』と記者団に語った。首相の発言は、1992年に発見された公文書の証拠と矛盾するものだ。それは軍当局が業者と一体になって女性を売春宿に強制的に斡旋する上で、直接に関与していたことを示すと歴史家は語っている」
他の新聞も似たようなもので、誤謬に満ち、根拠のない思い込みでものを書いた記事が続出した。
「安倍首相は日本政府の長年の公的立場と矛盾する、日本軍が外国人女性を強制的に性奴隷としたことを否定した」(ニューヨーク・タイムズ紙 3月2日付東京発)
「慰安所は商業施設ではなかった。女性たちの調達には、隠然・公然の暴力が用いられた。そこで行われていたのは絶え間ない強姦であって売春ではなかった」(ニューヨーク・タイムズ紙 3月6日付社説)
「ホロコーストを否定するようなものだ」(サンノゼ・マーキュリー紙 3月6日付)
「この問題を修復する最適任者は天皇本人だ」(ロサンゼルス・タイムズ紙 3月7日付、社説)
●間違いだらけ、飛躍した主張
これらの記事の間違いを指摘したい。
1.「歴史家たちは、20万人の女性が‥‥働いたと言う」
20万人という数字は誇大である。実証的な研究書である秦郁彦氏の『慰安婦と戦場の性』(新潮選書)は、軍人の数や慰安婦の接客回数から推計して、慰安婦の総数を2万人前後から2万数千人としている。
2.「朝鮮半島と中国出身者が多数を占める」
多数を占めていたのは、日本人女性である。秦氏は、昭和戦前期の日本の領事館が慰安婦の人種別人数を記載している報告書を出しているものをもとに、日本人が4割、それぞれの地域の現地人が3割、朝鮮人2割、その他1割と計算している。
3.「日本軍部隊によって誘拐され」
吉田清治氏は、軍の命令で韓国の済州島に出かけ、多数の女性を慰安婦にするために狩り立てたと「自白」して謝罪しているが、済州島の現地調査により、虚説であることが確認されている。吉田氏本人は、行方をくらませている。
4.「1992年に発見された公文書の証拠と矛盾する」
軍による直接的かつ組織的な誘拐を示す公文書は、見つかっていない。1992年に発見された公文書とは、同年1月11日付の朝日新聞が報じたものだが、これは業者による誘拐を防ぐための指令書であり、軍が強制連行をしていなかったことの証拠になるものである。
5.安倍首相が「日本軍が外国人女性を強制的に性奴隷としたことを否定した」
否定していない。そのことに言及していない。
6.「慰安所は商業施設ではなかった。」「売春でなかった」
事実と異なる。慰安所は料金を支払って利用する商業施設であり、慰安婦は一定の雇用条件のもとで務め、性的慰安を行って高給を得ていた。そのことを最もよく明かすのは、米陸軍が昭和19年(1944)9月に作成した「前線地区での日本軍売春宿」と題した報告書である。アメリカのメディアは、自国の軍が作成した報告書を、まず読むべきである。
7.ホロコースト、天皇、拉致問題との関連付け
慰安婦問題の事実関係に触れることが、「ホロコーストを否定するようなものだ」とは、ひどい飛躍である。安倍首相は、慰安婦に関する発言で、ナチスによるユダヤ人虐殺に関しては、述べていない。
ある程度定説的になった歴史認識に対して、事実の調査・検討に基いて見直しを行なうことは、学問の自由として保障されねばならない。
なお、慰安婦は、ユダヤ人のように組織的に多数虐殺されてはいない。慰安婦は戦地で多数が殺されたとか置き去りにされておらず、9割以上が生還したと秦氏は推定している。
慰安婦問題について天皇を持ち出すのは、「女性国際戦犯法廷」の影響だろう。この「法廷」は、慰安婦問題に関して昭和天皇を一方的に断罪した。そこには、北朝鮮が深くかかわっていた。また、慰安婦の話しで北朝鮮による拉致を減殺するかの主張も、北朝鮮の工作の影響だろう。アメリカ政府は、北朝鮮の拉致問題や核施設に関して厳しい交渉を行なっている。その相手国を利するような報道をするのは、反国家的行為であり、アンタイ・アメリカ的行為だろう。
安倍首相が、記者会見で安易な発言をし、事実を無視するアメリカのメディアから非難を受けたのは、わが国政府が事実を調べ、またそれを伝える努力をまったく行なわずにきたことの報いである。
次回に続く。