ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

『古事記』編纂から1300年

2012-02-21 10:29:49 | 文明
 世界の主要な文明のうち、文明の担い手である民族が固有の神話と宗教を持ち続けている文明は、日本文明とインド文明のみである。日本民族は、固有の神話に先祖が登場する天皇が現在も国家の象徴として存続し、また固有の宗教の祭祀を宮中で執り行っている。これは、インド文明にない特徴である。
 ユダヤ民族は、固有の神話と宗教を保っているが、ユダヤ社会は主要文明には数えられない。また民族の中心家系による王朝が、古代に滅んでいる。西洋文明の担い手は、固有の神話と宗教を失い、ユダヤ民族の神話とユダヤ民族から生まれた宗教に改宗している。
 これらの点から見て、日本文明は、世界の主要文明のうち、唯一無二の特徴を持った文明である。

 日本文明は、古代から固有の神話と宗教と、中心家系としての皇室を保つ。『古事記』は、この世界に比類ない日本文明の特徴を裏付ける書物である。『古事記』は固有の神話と宗教と皇室について伝える民族の古典である。
 今年は『古事記』が編纂されてから、1300年に当たる。これを記念して、『古事記』にゆかりのある県や町では、さまざまな記念行事が行われている。
 『古事記』には『日本書紀』とともに、民族と国家の形成が神話の形で表現されている。それによると、日本には、須佐之男之命の子孫である「国つ神」の民族が先住していた。そこに天照大神の子孫、「天つ神」の民族が渡来した。「天つ神」の民族は「国つ神」の民族と争いつつ、これを恭順させて日本を統治するようになった。両者は前者が姉、後者が弟にたとえられる関係であり、後者が前者に統治を譲渡し、前者は後者を敬意をもって待遇している。須佐之男命の子が大国主命とされ、後者は、この系統である。
 天孫降臨の神話において、天照大神は、孫のニニギノミコトを日本に派遣した。その際、次のように命じた。「吾が高天原きこしめす斎庭(ゆには)の稲を以てまた吾が児(みこ)に御(まか)せまつる」。すなわち、天照大神は、自ら高天原で作った稲をニニギに与え、日本へ行って米を作るように命じたという。また、天照大神は、ニニギに「鏡」を与えた。「鏡」は、現在も皇位を象徴している「三種の神器」の中心となっている。その後、「天つ神」の子孫が、九州から大和地方に進出し、初代・神武天皇となった。天照大神―ニニギノミコトー神武天皇の系統が、今日の皇室の祖先とされる。一方、須佐之男命―大国主命の系統は、出雲系となる。
 私の見るところ、日本文明は4~5世紀に誕生し、その後、成長を続ける形成期に入った。7世紀末に、神道の中心となる伊勢神宮で、第1回の遷宮が行われた。建築様式は、シナ文明の様式とはまったく異なり、日本文明の独自性を示している。社殿の建立後、20年に1度、式年遷宮が行われ、正殿・神宝など全てが新造されてきた。戦国時代には中断した時期もあるが、今日まで1300年にわたって続いており、世界に比類ない持続力を持っている。主要文明たりうるには、千年以上の持続性が必要だという見方があるが、伊勢神宮は、まさに日本文明の自立性を体現する、生きたモニュメントである。
 8世紀には『古事記』『日本書紀』、9世紀は『万葉集』という日本文明を代表する文献が編纂された。最初は漢文で表記されたが、やがて漢字から表音文字を取り出して音を表わす道具にした。さらに9世紀には片仮名・平仮名が発明・使用された。アルファベットはフェニキア文字を改良したものであり、フェニキア文字はオリエント諸族の文字を改良したものだから、日本の仮名文字も見事な文化創造といえる。
 今日、私たちは、『古事記』をはじめとする民族の古典を、日本独自の文字である仮名文字を交えた形で読んでいる。この独創的な文字文化は、世界に誇り得る日本文明の特徴である。『古事記』編纂1300年のこの年に、改めて『古事記』を紐解き、我々の先祖の描いた豊かな世界を味わってみることをお勧めしたい。

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●読売新聞 平成24年1月30日

古事記1300年、ゆかりの地でイベント多彩
http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20120130-OYT8T00684.htm?from=os4

 日本最古の歴史書「古事記」が編さんされてから、今年で1300年になる。
 神話の舞台となった宮崎、島根、兵庫県や編さんの地、奈良県などの古事記にゆかりのある各県は、観光客誘致につなげようと多彩なイベントを計画。関係者は「国のあり方が問われる今こそ、国を築いた先人の思いに触れ、元気を取り戻して」と話している。
 古事記でニニギノミコトが降り立った天孫降臨の地とされる宮崎県は、1月から宮崎市の青島神社や西都市の都萬(つま)神社などをガイド付きのバスで巡る「神話巡りワンコインツアー」(定員約40人)を開始。参加費500円で、週末を中心に3月まで計20回を予定している。
 22日までの7回のうち、5回がほぼ満員で、2月も大半が予約で満杯。県観光推進課は「予想以上の人気で、4月以降も神話を生かしたイベントを考えたい」とし、口蹄疫(こうていえき)や新燃岳噴火で落ち込んだ観光業立て直しの起爆剤の一つに位置付けている。
 一方、宮崎に関連があるもう一つの歴史書「日本書紀」も2020年に編さん1300年を迎える。県は同年まで記念事業を続ける方針で、2月に市町村や民間団体などと協議会を設け、内容を検討する。
 ヤマタノオロチ退治やオオクニヌシノミコトの国譲りで知られる島根県は7~11月、「神話博しまね」を県内各地で開催。神話の世界を表した映像の上映や石見神楽(いわみかぐら)を披露する。国譲りの後、オオクニヌシは幽界(黄泉国(よみのくに))に籠もり、人々の縁を結んでいると考えられるようになったといい、県の担当者は「東日本大震災後に見直された人と人のつながりを感じてほしい」と話す。
 「国生み」神話の舞台・淡路島(兵庫県)の伊弉諾(いざなぎ)神宮では2月19日、記念大祭を予定。神話をテーマにした兵庫県主催のシンポジウムも開かれる。
 編さんの地・奈良県は今月29日、東京で宮崎、鳥取、島根3県と「ゆかりの地サミット」を開催。講演を予定しているマンガ家、里中満智子さんは「危機を乗り越え、国をつくった祖先たちを知れば、内から湧き上がるような誇りを持てる」と話す。
 旅行業界も注目。クラブツーリズム(東京)は島根県や奈良県を訪ねる企画商品を順次、発売し、宮崎県内を巡る3月のツアーは定員の25人がすでに満員で、2回分を追加した。日本旅行(同)の時永幸雄さんは「古事記ゆかりの地はパワースポットぞろいで、元気になりたい人向け」という。
(2012年1月30日 読売新聞)
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「トッドの人口学・国際論」を掲載

2010-04-19 09:51:43 | 文明
 昨年7月から本年1月にかけて、「トッドの人口学・国際論」を連載しました。その原稿を編集して、私のサイトに掲載しました。近日中に連載の後編「トッドの移民論と日本」を開始します。
 前編を通してお読みになりたい方は、次のページへどうぞ。

■家族・国家・人口と人類の将来~トッド
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion09h.htm

 目次は次の通りです。

はじめに
第1章 家族と人口から見た人類の将来
(1)ソ連崩壊を看破し、アメリカ解体も予測
(2)近代化の指標と過程
(3)家族制度と価値観
(4)文明の「衝突」か「接近」か
(5)人類は均衡と平和に向かう
第2章 人類学的な国際関係論
(1)文明と国家・資本・宗教
(2)アメリカ論
(3)イスラエル=ユダヤ論
(4)日本論
(5)中国論
(6)再びアメリカ論
結びに
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友愛を捨てて、日本に返れ56

2010-03-05 10:00:16 | 文明
●日本は米中共衰を見越して進め

 西洋近代文明が生んだ政治・経済の思想・体制が、資本主義と共産主義であり、これらはいずれ崩壊する。だから、日本はその先を見越して、新たな文明を創造・提示すべきである。わが国は、米中の間にあって、しっかりした理念を立て、長期的な展望をもって、存立と繁栄を図らねばならない。私は、日本は従米でも従中でもなく、独立自尊の道を行き、西洋文明の模倣でも、シナ文明の追従でもなく、独自の文明を発展させて、アジアと世界の平和と繁栄に貢献すべきと思う。しかし、鳩山氏の「友愛外交」には、文明を創造する根本的な理念も長期的な展望もない。
 本来日本は、西洋近代に生まれた物質偏重・自然支配の文明から新たな文明へと世界全体を先導する役割がある。その新たな文明とは、物心調和・共存共栄の文明である。わが国は、そうした文明を築きうる文化を、伝統として受け継いできている。そのことを認識した上で、わが国は、現代世界の二大大国であり、また西洋文明とシナ文明を代表するアメリカと中国に対し、自らのできることを果たしていくべきだと思う。

●アメリカに対して日本が果たすべき役割

 まずアメリカに対してであるが、アメリカは、軍事的にはわが国の唯一の同盟国であり、安全保障上の重要性は、他国と比較にならないほど大きい。しかし、それがために、アメリカに依存し、追従する政策は誤りである。日本は自立と共栄の道を進まねばならない。そのうえで、わが国はアメリカに対して、経済や軍事で対抗するのではなく、新たな文化を提示することが求められる。
 なにより日本文明の文化的アイデンティを再確認することが必要である。文明の中核には宗教ないし精神文化がある。日本文明の場合、それを最もよく表しているのは、皇室・神道・武士道だと私は思う。そしてそれらを貫いているのが、日本精神である。その伝統的な精神を受け継いで、今日において発揮するところに、日本文明が日本文明として維持・発展する道がある。日本人が日本人としての精神を発揮することが、新たな文明を創造する力となる。
 そして、アメリカに対して、日本の精神文化を伝えることが大切である。物質偏重ではなく、物心調和の価値観を示すことが、アメリカにおける価値観の変化を促すことになる。アメリカは長期的には脱西洋化せざるを得ない。有色人種が人口の多くを占める人口構成の変化とそれに伴う多文化化がそれを示している。そしてそこに日本の精神文化を伝えることは、西洋近代文明の矛盾・限界を縮小させることになるだろう。またアメリカを変えることによって、ヨーロッパにも影響が波及する。さらに西洋近代文明全体にも波及していく。

●中国に対して日本が果たすべき役割
 
 次に中国に対してであるが、中国の繁栄は長続きしない。中国が破滅を逃れるには、共産主義を放棄して民主化することが必要である。民主化は、漢民族内部だけでなく、少数民族(チベット、ウイグル等)を含み、民族自治を認めることが必要である。そのうえで私は、中国は伝統的な道徳と自然観を回復しなければ、だめだと思う。単なる民主的な近代国家では、イギリス・アメリカの後継者となるに過ぎない。東洋・アジアの文明を復興し、文明を転換しえてこそ、世界に貢献できる国家となり得る。
 ただし、私は、この転換は中国単独では無理だと思っている。中国は伝統的な道徳と自然観を失いすぎている。もはやシナ大陸には、ほとんど伝統的な道徳と自然観が残っていない。中国共産党政府は「和諧社会」の実現を国家目標に挙げているが、現在の諸矛盾を乗り越えて「和諧社会」をめざすには、日本の「和の精神」を取り入れる以外に道はないと私は思う。「和の精神」とは、人と人、人と自然が調和する精神であり、それが日本精神である。
 中国は共産主義を放棄し、民主化するとともに、日本の精神文化を摂取する時に、初めて調和ある発展の道を進むことができる。このことは、独り中国のみならず、人類の運命にかかわる課題である。日本は自らの日本文明に内在する「和の精神」を深く自覚し、これを中国に伝え、中国の文明的転換を促進する役割がある。

●「一国一文明」としての独立自尊を

 上記のような対米・対中の二重の役割を果たすためには、日本は、一個の独立主権国家として、自立する必要がある。そして、「一国一文明」である日本文明の特長を発揮し、世界人類の平和と繁栄に貢献しなければならない。わが国が自立するためには、当面アメリカとの軍事同盟を堅持し、連携を図りながら、憲法を改正し、自主国防を整備する必要がある。この間、日本はアメリカと連携しながら、米中のバランスを取り、自国の国益を守りながら、日米中の共存共栄を図るべき役割がある。やがてアメリカは経済的にも軍事的にも衰退していく。そしてアメリカが日本を守る力を振えない状態になっても、わが国は中国に侵されずに、自立を保つことのできる独立主権国家となっていなければならない。こうした日本となってこそ、わが国はアジア太平洋地域に平和と繁栄を実現できる。そして、日本文明に潜在する指導理法を開顕・展開しうるだろう。これはアジアのみならず、全人類の運命がかかった課題である。
 世界は多文明化・多極化しつつあり、アメリカの国際的な地位は、相対的に低下していくことは明らかである。この長期的な展望のもと、わが国は、対米追従でも対中追従でもなく、一個の文明、一個の極として国際社会で存在感を発揮し、日本独自の特徴を発揮して世界人類に貢献するという目標を持って、21世紀を進むべきでる。日本人は、自立のできない、他に依存するばかりの「友愛」を捨てて、独立自尊の気概を持って、共存共栄を図る調和の精神を発揮しなければならない。
 こうしたわが国の役割を今日の世界で遂行していく上で、鳩山氏の「友愛外交」は何らプラスがなく、害を生むばかりである。日本人はただちに「友愛外交」を止め、日本の進むべき道へ軌道修正しなければならない。

 次回に続く。
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トッドの人口学・国際論29

2010-01-31 08:46:06 | 文明
●結び~人類の文明は大転換しつつある

 エマニュエル・トッドに関する論考は、ここで結びとする。移民と外国人参政権の問題については、別に補説として書く。
 トッドは、人類の人口は21世紀の半ばには均衡に向かい、世界は政治的に安定すると予測している。私は彼の主張のうち、この点に最も注目している。本稿の冒頭に書いたが、人口爆発は、新しい技術の活用によるエネルギー、環境、食糧、水等の問題への取り組みを、すべて空しいものとしかねない。だから、人口増加を制止し、「持続可能な成長」のできる範囲内に、世界の人口を安定させる必要がある。この難課題に関し、トッドの主張は、一つの希望をもたらすものである。
 私見によれば、人類は、文明の「衝突」と「接近」を含みつつ、かつてないスケールで「大転換」しつつある。その「大転換」の様相として、三つ挙げておきたい。西洋からアジアへ、石油の時代から「太陽の時代」へ、新しい精神文化の興隆の三つである。

 第一に、西洋からアジアへ、である。
 トッドの関心は、主に西洋文明内部でのアメリカとヨーロッパの相違と競争、及びイスラム諸国に向けられている。そのため、西洋文明から非西洋文明へ、欧米からアジアへと、人類文明の中心が移動している、その大きな構図を見とれていない。トッドの視界には、台頭するアジアの姿がよく映っていない。2050年の世界を語る際に、今後大きく成長する可能性のある中国・インドの将来像はあいまいである。アジア及び世界における日本の役割についても、明確でない。
 この点、ハンチントンは、「長期にわたって支配的だった西洋文明から非西洋文明へと、力は移行しつつある」と、大局的にこの変化をとらえている。そのうえで、西洋文明の存続や繁栄、再興のための方策を、欧米人に提案している。
 1960年代に日本が高度成長に入り、70年代には韓国・台湾・シンガポール・台湾がこれに続いた。80年代には、タイ・マレーシア・インドネシア等も成長の軌道に乗り、「東アジアの奇跡」と呼ばれるようになった。90年代には、中国が急速に成長をはじめ、21世紀には、中国とインドが大国となると予想されている。アジアは世界の人口の3分の2を占め、経済や成長可能性において、他の地域を遥かに凌駕している。
 人類の文明は、西洋文明から非西洋文明へ、欧米からアジアへと、明らかに中心が移動しつつあるのである。

 第二に、石油の時代から「太陽の時代」へ、である。
 19世紀は石炭の時代、20世紀は石油の時代だった。20世紀の後半から21世紀の初頭にかけては、石油、天然ガス等の資源の争奪が世界的に繰り広げられた。21世紀には、食糧と水がこの争奪の対象に加わってきている。こうした資源の問題が改善に向かわないと、世界は安定に向かえない。この改善のために、石油中心の経済から、太陽エネルギーを中心とした経済への移行が始まっている。自然と調和し、太陽光・風力・地熱・潮力等の自然エネルギーの活用による「21世紀の産業革命」が、いまや起こりつつある。いわば石油の時代から「太陽の時代」への転換である。
 トッドの将来世界の展望は、この点を欠いているようだが、1970年代の初め、人類はエネルギー、環境、食糧、人口の危機にあると唱えられるようになってから、自然エネルギーの研究が進められてきた。2008年(平成20年)9月の世界経済危機によって、自然エネルギーの活用は、世界各国の現実的課題となり、活発に活用が勧められることになった。
 この変化は、人類の文明に大きな変化を生み出す出来事である。

 第三に、新しい精神文化の興隆である。
 基本的にトッドは、近代化論者なのだろう。控えめな言い方をしてはいるが、西洋文明における脱宗教化・個人主義化をよしとし、近代化による自由主義的民主主義の普及が、世界に平和をもたらすとトッドは期待している。しかし、私は、近代化の進行によって、人々の心が全面的に近代化=合理化するのではないと考える。私は、拙稿「心の近代化と新しい精神文化の興隆」において、この点を論じた。
 キリスト教、イスラム、仏教等の伝統的宗教は、紀元前から古代にかけて現れた宗教であり、科学が発達し、人々の意識が向上するにつれて、その役割を終え、発展的に解消していくだろう、と私は考えている。伝統的宗教の衰退は、宗教そのものの消滅を意味しない。むしろ既成観念の束縛から解放された人々は、より高い霊性を目指すようになり、従来の宗教を超えた宗教を求めるようになると考える。近代化の指標としての識字化と出生調節は、人々が古代的な宗教から抜け出て、精神的に成長し、さらに高い水準へと向上する動きだと私は思う。
 近代化=合理化が一定程度進み、個人の意識が発達し、世界や歴史や宇宙に関する知識が拡大したところで、なお合理化し得ない人間の心の深層から、新しい精神文化が興隆する。新しい精神文化は、既成宗教を脱した霊性を発揮し、個人的ではなく超個人的となる。それに応じた政治・経済・社会への改革がされていく。この動きは、西洋からアジアへのトレンドと重なり合う。
 アジアから新しい精神文化が現れる。特に日本が最も期待される。またその精神文化は、自然と調和し、太陽光・風力・水素等の自然エネルギーの活用による「21世紀の産業革命」と協調するものとなるだろう。こうした動きが拡大していって、初めて、世界の平和と人類の繁栄を実現し得ると私は考える。

関連掲示
・拙稿「心の近代化と新しい精神文化の興隆」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion09b.htm
参考資料
・エマニュエル・トッド著『世界像革命 家族人類学の挑戦』『新ヨーロッパ大全』『経済幻想』等(藤原書店)
・トッド著『帝国以後 アメリカ・システムの崩壊』、トッド+榊原英資他著『「帝国以後」と日本の選択』(藤原書店)
・トッド+クルバージュ著『文明の接近―「イスラームVS西洋」の虚構』(藤原書店)
・サミュエル・ハンチントン著『文明の衝突』『文明の衝突と21世紀の日本』(集英社)『引き裂かれる世界』(ダイヤモンド社)

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トッドの人口学・国際論28

2010-01-23 08:41:03 | 文明
●再びアメリカ論

 本稿では前半の初めに、トッドのアメリカ論を書いた。後半でイスラエル及びユダヤ人社会、日本、中国等に触れてきたところで、最後に再びアメリカ論を述べたい。

 トッドは、歴史的に見て、帝国には、軍事的・経済的強制力とイデオロギー上の普遍主義が必要だという。ところがこれらの資質が、アメリカには欠けている。「全世界の現在の搾取水準を維持するには、その軍事的・経済的強制力が不十分である」「そのイデオロギー上の普遍主義は衰退しつつあり、平和と繁栄を保証すると同時に搾取するため、人々と諸国民を平等主義的に扱うことができなくなっている」とトッドは指摘する。そして、次のように明言する。「この二つの基準に照らしてみると、アメリカは著しい不足振りを呈する。それを検討するなら、2050年前後にはアメリカ帝国は存在しないだろうと、確実に予言することが出来る」と。
 そして、トッドは、アメリカに対して、帝国であろうとすることを止め、普通の国民国家に戻るよう勧めている。「世界が必要としているのは、アメリカが消え去ることではなく、民主主義的で自由主義的にして、かつ生産力の旺盛な本来のアメリカに立ち戻ることなのである」と。
 トッドは、文明は「衝突」せず、「接近」するとし、それを妨げているのは、アメリカの世界戦略だと批判する。アメリカの帝国的行動に反発するトッドは、ヨーロッパとロシアの連携を支持する。日本に対して、独仏露の枢軸に参加して、ともにアメリカに対抗し、多極化を進め、多極体制の世界政治を主導しようと呼びかける。また、将来の国際政治の中心は、アメリカではなく国際連合になるとトッドは想定し、日本が安全保障理事会の常任理事国になり、ドイツとフランスで常任理事国の地位を共有することを提案している。
 トッドはアメリカ帝国の解体を予想するが、衰退しつつあるのはアメリカだけではない。すでにヨーロッパが衰退しつつある。アメリカはその後を追っている。西洋文明が衰退期に入っているのである。トッドは、ヨーロッパ人として、ヨーロッパの栄光の継続を願っているのだろうが、ヨーロッパは20世紀初頭に絶頂期を過ぎた。2度の大戦によって、文明の内部で相撃ちをし、富の源泉だった植民地を失い、勢力が大きく減少した。ヨーロッパの統合は、こうした傾向に抗して、ヨーロッパを再興しようという努力である。それは、覇権国家アメリカや新興勢力日本への対抗のためでもある。EUの結成や統一通貨ユーロの制定は、成果を挙げている。しかし、個々の国家を見れば、イギリスにもドイツ、フランスにも昔日の面影はない。EU全体でも、かつての大英帝国の強盛はない。
 トッドは、現在の世界では、西洋文明とイスラム文明の対立より、旧大陸と新大陸の対立が生じていると主張する。端的に言えば、ヨーロッパとアメリカの対立である。もし西洋文明の内部で、ヨーロッパ文明とアメリカ文明の離反が進むならば、西洋文明の全体がいっそう衰退を早めるだろう。

●多極化する世界におけるアメリカのあり方

 トッドに比べ、ハンチントンは、西洋文明の衰退をより客観的に認識している。1998年(平成10年)日本での講演で、ハンチントンは、「西洋文明は、現在はもちろん、今後数十年の間も最も強力な文明でありつづけるだろう。だが、他の文明に対する相対的な力は衰えつつある」と語っている。また、ハンチントンは、アメリカの相対的な地位が低下していくことも予測している。西洋文明とアメリカの衰退を予測するからこそ、ハンチントンは、アメリカは文化的な根っこを大切にして、ヨーロッパとの連携を強化するように勧める。西洋文明を普遍的とせず、自らの価値観を他に押し付けるのをやめ、他の文明を理解し、文明の衝突を回避して、米欧の主導で世界秩序を再構築することを提案するのだろう。
 私が、トッドとハンチントンに明確な違いを見るのは、片やフランス人、片やアメリカ人という、拠って立つ国家が異なる点である。トッドは、反米主義者ではないが、フランス人としてアメリカへの対抗や自立をめざす。アメリカは不要であり、欧露はアメリカに依存せずにやっていけるという。アメリカ人の傲慢に対し、フランス人の意地を示しているようなところがある。ハンチントンは、アメリカ人であり、アメリカの国益をもとに考えている。
 ハンチントンは、1998年(平成10年)日本での講演で、次のように述べている。「多極化する21世紀の世界では、諸大国は合従連衡を繰り返しながら競争し、衝突し、連合していくに違いない。だが、そのような世界では、一極・多極体制の世界の特徴である超大国と諸大国との緊張や対立はなくなる。そのため、アメリカにとっては、多極体制の世界における大国の一つとなるほうが、唯一の超大国であったときよりも要求されるものは少なく、論争も減り、得るものは大きくなるだろう」と。
 トッドは、「世界が必要としているのは、アメリカが消え去ることではなく、民主主義的で自由主義的にして、かつ生産力の旺盛な本来のアメリカに立ち戻ることなのである」と述べているが、その主旨と、ハンチントンの主張は、大きく異なるものではない。トッドもハンチントンも、アメリカの長期的な衰退を予測している点は共通する。また、帝国的な国家から大国の一つに戻ることを勧める点も共通している。
 私もまた日本人の立場から、アメリカの超長期的な衰退を予想する。そして、アメリカは、超大国から大国の一つに地位に移行していくだろうと推測する。日本人は、そうした超長期的な展望のもとに、日本のあり方を考え、対米関係、対中関係を考えなければならない。
 私は、アメリカの強欲的資本主義と中国の貪欲的共産主義には反対する。しかし、反米でも反中でもない。アメリカには、建国理念の再興と多民族の協和を期待する。中国には民主化と伝統的道徳の復活を期待する。そして、日本は、独立主権国家としての自立性を回復し、米中を含む諸国家との共存共栄の道を進むべしと考える。文明学的に言えば、日本文明は、一個の文明としての独自性を自覚し、西洋文明・シナ文明等との共存共栄を図り、世界の平和と発展に貢献すべしと主張する。

 次回に続く。

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トッドの人口学・国際論27

2010-01-16 08:48:00 | 文明
●イスラム諸国より中国こそ脅威

 トッドは、近代化が世界的に広まっていくと予想する。ただし、世界的な近代化はイコール西洋化ではなく、各社会は文化の多様性を保持しつつ近代化することが可能だと見る。私は、近代化とは「生活全般の合理化」と理解するが、とりわけ科学技術や資本主義は、最も普及しやすい。民衆の政治参加制度としてのデモクラシーも、自由化の程度の違いはあれ、広がっていくだろう。そういう部分では、トッドの言うように、諸文明は「接近」する。それは世界が安定に向かう要因である。しかし、国家異なった文明の間で、近代化した国家同士が、科学兵器で武装した軍事力でぶつかり合う可能性は、依然存在する。
 かつては、西洋文明の内部で、スペインとイギリス、イギリスとドイツ、またアメリカとドイツ等が争った。これは、覇権国家と対抗国家の争いである。欧州勢が衰えた後は、アメリカとソ連という二大超大国が争った。これは、ハンチントンによれば、西洋文明と東方正教文明の中核国家同士による世界覇権をめぐる争いである。私の見方では、ユダヤ=キリスト教系諸文明の内部における争いであった。ソ連が崩壊すると、超大国アメリカの一極支配という世界史上かつてない地球的な規模の大帝国が出現したかと見えた。ハンチントンは、これは一時的なもので、間もなく、一極・多極体制となったとする。
 ハンチントンは、今日の世界は一つの超大国(アメリカ)と複数の大国からなる一極・多極体制だと把握する。そして、将来的にはアメリカの地位が相対的に低下し、真の多極体制になると予想している。また最終的には「キリスト教文明」対「イスラム・儒教文明連合」の対立の時代を迎えるだろうとも予測する。ハンチントンは、こうした文明間の衝突に備えるため、アメリカとヨーロッパの連合を説く。西洋文明をともにする米欧が協力して、イスラム文明の諸国やシナ文明の中国に対応することを提唱する。
 しかし、イスラム文明には、自他ともに認める中核国家がない。イランは地域大国ではあるが、宗教はシーア派、民族はペルシャ系であり、スンニ派アラブ諸国を結集できない。イスラム文明とシナ文明の連合が形成されるとすれば、主導権を取るのは、中国である。ハンチントンは、中国の潜在的脅威を、1990年代前半から深く認識している。アメリカにとっても日本にとっても、今後、中国への対応が重要になることを明確に述べている。

●中国を中心とした「イスラム・儒教文明連合」が

 ハンチントンの予測は的中し、近代化を進める中国は、増大する軍事力と経済力によって、アメリカの脅威となっている。中国は、東アジアにおける地域大国であるだけでなく、世界覇権国家アメリカに挑戦しようとしている。これは、西洋文明とシナ文明の中核国家同士の争いである。中国は、中華思想をもって、19世紀清王朝末期に失った地域覇権を取り戻そうとしている。「キリスト教文明」対「イスラム・儒教文明連合」の対立が現実になるとすれば、世界覇権をかけた米中対決となるだろう。ハンチントンは、日本は、「アメリカが最終的に唯一の超大国としての支配的な地位を失いそうだと見れば、日本は中国と手を結ぶ可能性が高い」と指摘し、アメリカ指導層に日米の連携強化を促した。
 この点において、トッドの中国理解は浅い。トッドは、イスラム諸国が近代化し、過激な行動が鎮静化することを強調する反面、中国とイスラム諸国の連携を具体的に論じていない。しかし、2001年(平成13年)6月、中国はロシアとともに上海協力機構を作った。9・11の3ヶ月前のことである。上海協力機構には、中央アジアのイスラム諸国、カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタンが参加している。イランやインド等もオブザーバーとして参加しており、イランは正式に加盟する動きがある。中国はまたイランやバングラデッシュの間で、核開発やミサイル製造の技術供与を行っている。こうした中国とイスラム諸国の連携は、「イスラム・儒教文明連合」へと発展しうる可能性を秘めている。また、より広く、ユーラシア大陸に非西洋文明の多文明諸国連合が形成されつつあるとも言える。これらの動きは、多極化とともに多文明化が進みつつあることを示す動向である。

 次回に続く。

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トッドの人口学・国際論26

2010-01-10 08:45:43 | 文明
●中国の将来予測

 今後の中国を中長期的にどう見るか。トッドは、近代のシナについて、移行期の危機のパターンが中国でも見られるとして、「文明の接近」に次のように書く。「男性識字化50%のハードル越えは、1942年頃に起こり、共産主義は1949年に勝利する。1963年頃に起こる女性の過半数の識字化は、1970年頃に始まる出生率の低下に道を開くが、それだけでなく、1966年から1977年の、文化大革命と錯乱的な毛沢東主義への道もまた開くのである」と。
 トッドの理論を中国に当てはめれば、出生率の低下が進むに従って、移行期の危機は収まり、暴力は鎮静化し、やがて中国は民主化すると予想されよう。旧ソ連では、移行期危機の後に民主化運動が起こり、共産主義体制が崩壊して、一定の民主化がされた。
 中国は、文化大革命の終焉以後、移行期の危機は終了したと見ることが出来るだろうか。確かに紅衛兵による過激な行動は、なくなった。小平は、経済の建て直しを進め、中国は経済発展の道に進んだ。経済成長の過程で、中国に欧米の思想が入り、東欧の民主化運動も影響を与えた。平成元年(1989)天安門広場に民主化を求める学生・青年が集まったが、彼らの運動は、共産党の軍によって鎮圧された。以後、中国では、民主化運動に厳しい弾圧が続いている。
 共産党政府は、昭和54年(1979)に一人っ子政策を開始した。人口の増加に法規制を加えて、出産または受胎に計画原理を導入したものである。女性の識字化に伴う意識の変化がもたらす出生率の低下とは異なり、政府が出生率を低下させたのである。
 また、中国は、平成元年(1989)から猛烈な軍拡を続けている。また共産党政府は、平成5年(1993)以後、江沢民のもと反日愛国主義の教育を行なった。国民は、統制の中で、日本への憎悪と敵愾心をたきつけられている。特に若い世代がそうである。それが、過激な反日的行動となって現われている。急激な経済成長は、社会的な矛盾を生み、都市と農村、富裕層と貧困層の格差を拡大している。平成17年(2005)には年間約9万件の暴動が起きたと政府が発表した。その後、公式発表がないのは、一層深刻になっているからだろう。とりわけ世界経済危機の影響で失業や賃金不払い等により生活を破壊された国民が多くなっている。増大する国民の不満をそらすために、中国政府がファッショ化し、周辺国へ侵攻を行なう危険性がある。

●文明学的な見方が必要

 こうした中国の動向に、トッドの移行期理論は、単純には当てはまらない。ある国家が近代化する過程には、トッドが西欧諸国の歴史から抽出した一般的傾向は存在する。すなわち、識字率の上昇、脱宗教化、出生率の低下、移行期の危機とその後の安定化である。しかし、個々の国家が近代化する過程では、その国家が置かれた国際環境や、社会の支配構造、政府の政策等が重要な条件として作用する。中国の場合、共産党が統治し、統制主義的な政策を行っている点は、旧ソ連と相似的な点があるが、中国独自の特殊な現象も表われている。
 そうした中国が今後、穏健なリベラル・デモクラシーの国家に変わっていくかどうかという問題は、日本にとっても、アジアにとっても、世界全体にとっても、重大な関心事である。トッドは、人類の人口が均衡化し、世界は政治的に安定すると予想するが、そのような世界が実現するためには、中国の民主化は不可欠の条件である。私は、超長期的には、中国は民主化されると考えている。共産党の独裁体制は終焉し、リベラル・デモクラシーが浸透するだろう。しかし、中長期的には、むしろ中国は巨大な帝国への道を歩んでおり、対外的に膨張政策を行う可能性が高い。世界覇権国家アメリカに対抗し、東アジアでの地域覇権を獲得し、世界覇権を奪い取ろうとしていくだろう。
 こうした中国の将来を予想するには、トッドの理論だけでは限界がある。文明学とそれにもとづく国際関係の理論が必要である。中国の将来だけでなく、現代の世界の構造を把握し、人類の課題を明らかにするためにも、文明学とそれにもとづく国際関係論は、有効な概念と有益な分析を提供してくれるのである。
 
 次回に続く。
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トッドの人口学・国際論25

2010-01-02 13:34:49 | 文明
 新年初の掲示は、エマヌエル・トッドに関するシリーズの続きから。

●家族構造から見た中国論

 トッドは、「帝国以後」や「文明の接近」でイスラムを多く論じる。それは、ハンチントンへの反論となっている。しかし、イスラム諸国は、世界の脅威となるだけの軍事力を持っていない。それに比べ、中国は核大国であり、ICBMはアメリカ本土を射程に入れている。さらに猛烈な勢いで軍拡を進め、平成元年(1989年)以後、中国の軍事費は、毎年二桁以上、増加している。トッドは、中国の存在を過小評価している。21世紀の世界の動向を予測する際、まず論ずべきは、イスラム諸国よりも中国である。
 トッドの中国理解は、家族構造の分析に基づく。トッドは、シナは外婚制共同体家族が主たる地域だとする。南部には、直系家族が分布する。外婚制共同体家族は、権威と平等を価値とする。それが、ロシアと同じく、シナに共産主義が浸透した条件である。シナが主に外婚制共同体家族に変わったのは、秦によるシナの統一以後である。秦の軍事的優位は、父系共同体家族であることを一因としていた。これに比し、秦の東方の六国は、儒教経典に書かれた直系家族だった。儒教は、秦以降、外婚制共同体家族の平等の価値観によって、兄弟の序列を重視しなくなった。さらにその権威の価値観を反映したのが、法家思想である。
 こうした中国理解をもって、トッドは、平成17年(2004年)に来日した際、日本と中国の関係について、次のように語った。「日本の選択」所収の討論においてである。
 「家族構造の点で見ると、核家族で自由で平等である家族関係というものがフランスの中心です。ドイツの場合は権威的で不平等ですから、違ったベースを人類学的持っているわけです。しかし、和解が可能でした。だからその点でいけば、中国と日本は全く家族形態が伝統的に違うけれども、それぞれの多様性、違いを維持しながら、相互に補完し合うような関係をつくっていくことは、独仏の場合にそうであったように、不可能ではないだろうと思います」と。また、トッドは「日中の接近が起こり、さらにヨーロッパと日本の健全な経済がさらに接近した場合、これは新しい世界経済のエンジンになっていくでしょう」と述べている。

●今は中国より欧州と提携を、とトッドは勧める

 ただし、トッドは、平成17年時点の中国については、次のように語っている。「中国は大きなポテンシャル、潜在的な可能性を持っています。しかし、まだまだ開発途上国です。経済バランスでは、アメリカ向けの輸出に依存しています。(略)まだ中国は主要なアクターにはなりきってはいないと私は思います。もちろん北朝鮮の問題に対しては、中国が持っている切り札は大きい。しかし金融の面、通貨の面、あるいは経済の面でまだ大きなアクターにはなっていない」と。
 討論に参加した榊原英資夫氏と小倉和夫氏は、日本にとって中長期的に中国との関係が重要であることを主張した。これに対し、トッドは「今日の議論を通して、びっくりしたのは、日本の方々がいかに中国を重視しているかということです」と感想を語った。トッドは、中国は大きな潜在的可能性を持っているが、まだ開発途上国であり、国際社会で主要なアクターになりきっていないという見方である。そして、中国より、ヨーロッパとの連携を日本に求める。
 「短期的には、やはり日本とヨーロッパのユーロ圏。これが世界の経済だけでなくて世界の情勢を考えていく上で重要です」とトッドは語り、アメリカ、ヨーロッパ、日本という三極において、「ヨーロッパと日本の間の協調関係、協議が欠落している」「緊急の世界的な課題を解くためには、日欧の協議は非常に必要だということを結論として述べたいと思います」と討論の最後を締めくくっている。

 次回に続く。
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トッドの人口学・国際論24

2009-12-26 09:34:08 | 文明
●東アジアにおける日本の進路

 トッドは、日本に対し、アメリカから自立し、欧露と連携すべしと説く。これは東アジアの情勢をよく理解していない見方だが、トッドは東アジアにおける日本の立場に一定の理解を示してはいる。
 「日本の選択」におけるトッドの主張を要約すれば、次のようになる。
 日本の状況は、ヨーロッパのフランスやドイツよりももっと複雑だ。その理由は、第一にアジアにはアジア共同体も統一通貨もない。第二に日本はアジアで孤立している。第三に日本は安保理の常任理事国でもない。従って、日本の切り札は少ないから、アメリカ・システム解体を受け止めることがなかなかできない。
 東アジアの戦略環境はヨーロッパよりもはるかに複雑だ。日本には独仏露枢軸に相当するものがない。日本はドイツに比べて、自立した安定要因になるための条件が整っていない。さらにヨーロッパではフランスとイギリスが核を持ち、いわゆる核の安全保障があるのに対し、日本は核を保有せず、アメリカの核の傘の下にある。
 このようにトッドは見ている。その上で、次のように言う。
 「短期的に見た場合に地政学的な地位から日本がいまのような政策、対米協調を最優先させるような政策をとっているのを、私は理解できます」「しかし中期的な展望に立った場合は違います」「冷戦後、特に1990年代以降大きく世界のジオポリティック(註 地政学的)な情勢が変わって、アメリカはいま世界の安定要因ではなくて、むしろ不安定要因になりつつあります。したがって、事態は変わったのです。中期的に見た場合、アメリカが日本の安定の保護者であるという保証はないと私は見ています」と。
 アメリカは、衰退の過程に入っている。トッドは、2050年前後までにアメリカ帝国は解体する予想する。そして、トッドは、日本がアメリカから自立し、欧露と連携すべしと説く。一部の日本人は、この主張に賛同し、日欧露の連携の道を探っている。しかし、ここは、慎重に検討すべきである。
 わが国は、かつてナチス・ドイツ、イタリアと同盟を結んだことで、アメリカを敵に回して、敗北した。また、ロシアとの間には、旧ソ連時代から北方領土を不法占拠されている問題があり、長年の交渉によっても解決していない。EUやロシアとの協調は、ドル一辺倒の外貨準備をユーロに分散したり、ロシアから石油・天然ガスを輸入し、資源の輸入元を分散できるというメリットはある。しかし、わが国の軍事的な安全保障という点では、独仏露は日米同盟に替わる同盟関係に発展し得る国々ではない。
 何より私の見るところ、21世紀は、西洋文明の衰退とアジア諸文明の興隆が明確に進む時代となる。ヨーロッパやロシアとの協調は必要であるが、日本にとって最重要の政策とはなりえない。日本は、大西洋やユーラシアより、太平洋にしっかり重心を置くべきである。

●核保有という選択肢
 
 トッドが日本に自立を勧める際、最も議論を呼んだのは、彼が核保有も選択肢に入れるべきと発言したことである。「日本の選択」での先の討論で、トッドは次のように言う。
 「核なしで日本が本当に自立できるのか」という問いに対する見解である。「核保有のオプションは無視できません」。フランス人のロジックに立った場合、「核というものは軍国主義の表現ではない」「ヨーロッパの平和のためには、独仏の和解はもちろんだが、核による安全保障が必要不可欠であるとド・ゴールは考えた」とトッドは述べる。そして、「アメリカ・システムの崩壊という危機的状況になった場合、日本がこの核保有というオプションをまったく真剣に考えないで外交的な自立を考えていくことができるとは思えません」「アジアでの安定のため、相互の破壊を避けるためには、日本に小規模の核抑止力を持ってくれと国際世論が要求するかもしれません。そういうオプションもあり得るということを、申し上げたいわけです」とトッドは発言している。
 今日、わが国では、一つの選択肢として核抑止力の保有が国民の間でも、議論されるようになっている。トッドの発言は、平成16年(2004年)の日本に一石を投じたのである。
 私の見るところ、アメリカは衰えつつあるが、5~10年で急激に衰亡するとは考えにくい。大規模な戦争や破局的な環境破壊が起こらなければ、20~40年という長期にわたって、徐々にアメリカは衰退していくと考えられる。それゆえ、日本の自立は、独立主権国家としての本来のあり方を実現しつつ、アメリカと対等な同盟関係を築くように進めることが大切である。自立即反米ではなく、自立即対等という道をめざすべきである。核保有に関しても、保有を図る場合は、核保有即反米ではなく、アメリカとの同盟関係を維持しながら、東アジアの安全保障体制を強めるための核抑止力の保有を検討すべきだと思う。

 次回に続く。
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トッドの人口学・国際論23

2009-12-19 10:22:28 | 文明
●アメリカから自立して欧露と連携を、と助言

 次に、トッドが今日の日本に対して述べる助言について記したい。
 トッドは、著書「帝国以後」において、アメリカ帝国の弱さを指摘し、アメリカ帝国は2050年前後までに解体すると予想している。「帝国以後」の邦訳出版後、日本人向けに刊行された「『帝国以後』と日本の選択」(2006年、藤原書店)という本がある。本書において、トッドは、アメリカの覇権の下から脱し、自立することを日本人に促している。それはあくまでヨーロッパ人の立場から、他者としての日本に自立を勧めるものである。私自身は、わが国が独立主権国家として憲法を改正し、国防を充実して、主体的な外交を行なうことを持論としている。それゆえ、トッドの助言は、当然のことを外国人の立場で言ってくれたものと思っている。
 最初に現代日本に対するトッドの理解を記しておく。トッドは「日本の選択」に収められた対談で次のように述べている。「第2次大戦の犯罪は日本の犯罪がよく語られていますけれども、その何倍ものものがドイツにはあった。ところが日本の場合はパール・ハーバー、これははるかに自分の力を凌駕する大国に向かってカミカゼをやったわけです。これの評価も、いろいろな角度から考えなければならないと私は思っています」と。この見方は、単なる日本悪玉論ではない。
 また戦後日本については、同じく「日本の選択」で概ね次のように語っている。「第2次大戦の敗者であり、アメリカによって負かされ、そしてアメリカによって改造された二つの国、そして経済大国になったのはドイツと日本です」「大戦で負けた二大大国ドイツと日本は、アメリカ・システムの二本の柱でした。ドイツも日本も主要な輸出工業国です。この二国を支配している限り、合衆国は本当の意味で世界の主人でした」と。トッドは、日本がアメリカに対し、従属的な立場にあることを認識している。ただし、トッドは、わが国がアメリカによってどのように改造されたのか、アメリカの占領政策、特に東京裁判と憲法の押し付けについては、理解が深くないようである。
 トッドは、「帝国以後」で、日本に対し、アメリカから自立し、ヨーロッパと連携することを提案する。日欧連携論である。トッドは、ヨーロッパとロシアによるユーラシア連合を唱えており、その連合は進みつつある。それゆえ、トッドの提案は、欧露の連携に日本が参入することを求めるものとなる。

 トッドの助言は、私の理解するところ、三つの認識に基づいている。
 第一に、ヨーロッパはイラク戦争によってアメリカから離脱しつつあり、また既に経済的技術的にアメリカを乗り越えているという認識である。
 「日本の選択」に収められた平成16年(2004年)来日時の講演で、トッドは次のように言う。「ユーラシア大国の東と西とでは、アメリカ・システムの解体を受け入れるスピードが違う」「ヨーロッパのほうが早く受け入れている。ドイツが統一し、フランスと組み、そしてロシアとも組んで、独仏露の枢軸ができつつあります。ですからアメリカなしでやっていけます」と。
 第二に、日欧は同質的という認識である。
 トッドによれば、日本は、ドイツ・スェーデン等と同じく家族構造が直系家族であり、近代化がされ、脱宗教化している。トッドは、先ほどの講演でトッドは、日本とヨーロッパの協調を強調する。「日本はもともと農村社会で、非常に急速に産業化し、安定した社会をつくっている」。だから日本は「ヨーロッパ的、ヨーロッパに近い社会」であり、「ヨーロッパと同質的で、協調してやっていけるベースを持った社会だということを申し上げたいのです」と述べている。
 第三に、多極化する世界で日本の役割は重要という認識である。
 トッドは、「日本の選択」に収められた榊原英資氏、小倉和夫氏との討論で、次のように発言している。「世界の安定と成長のために、日本がいま一番重要なキーファクターになりつつある」。アメリカの「一極システムになることによって、世界は不安定要因が増えた」「多極的な、あるいはマルチラテラルな協調関係をつくっていく必要がある。そのためには、日本の役割が重要だ」と。
 トッドは、以上の三つの認識に基づいて、欧露の連携に日本も加わるよう求める。独仏露の枢軸に参加して、共にアメリカに対抗し、多極化を進め、多極体制の世界政治を主導しようという呼びかけである。
 「帝国以後」でトッドは、将来の国際政治の中心は、アメリカではなく国際連合になると想定していた。そして、日本が安全保障理事会の常任理事国になることを支持し、ドイツとフランスは常任理事国の地位を共有することを提案している。

 次回に続く。

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