今年(平成28年、2016年)は、世界的にグローバリズムの進展からナショナリズムの復興へと大きな歴史的な変化が始まった年として歴史に刻まれるだろう。イギリスは、6月の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めた。大量の移民の流入で失業や生活苦が増加していること、主権を制限されEUの規制に縛られること等への反発が背景にある。離脱決定は、フランス、オランダ、イタリア等の反EU・反ユーロの政党への追い風となっている。
そうした状況で、アメリカでは、11月8日に行われた大統領選挙でドナルド・トランプが「まさか」の勝利を獲得した。トランプは、不法移民の流入禁止、犯罪歴のある不法移民の強制送還等を主張し、大衆の不満を吸い上げて「トランプ現象」を巻き起こした。トランプの勝利は、欧州におけるナショナリズムの復興を勢いづけている。来年1月の大統領就任後、テロ対策の強化、TPPからの離脱、中国への強硬姿勢、ロシアとの関係改善等の政策が実行されれば、世界全体に大きな影響を与えるに違いない。
とりわけ焦点になるのは、中東である。シリア内戦は6年目に入り、犠牲者は30万人を超えた。100万人以上の難民が発生し、ヨーロッパや周辺諸国に避難・移住している。ロシアの積極的な支援を受けたアサド政権軍は、12月に最大都市アレッポを制圧した。米国を出し抜いたロシアが主導して停戦合意が進められつつある。欧・米・露・イラク等によるいわゆる「イスラーム国(ISIL)」への掃討戦は、一定の戦果を挙げている。だが、イスラーム教過激派は、欧米・アジア等の各地でテロを拡散させており、収束の兆しは見えない。トランプ政権がどのような中東政策を行うか注目される。
今年は、わが国にとっても国際情勢が一段と厳しさを増した一年だった。北朝鮮は、1月と9月に2回核実験を強行した。また長距離弾道ミサイル、中距離弾道ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイルの発射実験を繰り返した。韓国の朴槿恵大統領は、北朝鮮を強く非難し、THAADの配備など米国との連携を強めてきた。ところが、親友への機密資料の提供、ミル財団等への資金提供の強要が発覚し、12月9日国会で弾劾訴追案が可決された。来年前半に退陣する公算が大きい。親北左派勢力が伸長しており、半島情勢がにわかに不安定になっている。
中国は、南シナ海の軍事拠点化をさらに進め、人工島に地対空ミサイル、対艦巡航ミサイル、戦闘機等を配備した。東シナ海では、機関砲を搭載した公船が領海侵犯を繰り返している。早ければ来年春には、排水量1万トンを超える海警船が配備されるとみられる。12月10日には戦闘機を含む中国軍機6機が、沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡の公海上空を飛行し、空自戦闘機が緊急発進を行った。25日には、中国初の空母「遼寧」が宮古海峡を太平洋に向けて通過するのが初めて確認された。中国の海洋進出は一層積極性を増している。
ロシアは、北方領土を含むクリール諸島の開発計画を進めているが、今年5月から北方領土を含む極東地域の土地をロシア国民に無償で分け与える制度を始めた。そのうえに、択捉、国後両島に新たな駐屯地を建設するなど、北方領土の軍事拠点化を急速に進めている。12月15、16日、安倍首相はプーチン大統領を日本に呼んで首脳会談をし、ロシアが望む経済協力では8項目提案など政府、民間合わせて82件の成果文書を交わした。領土返還には進展が得られなかった。
こうした状況ではあるが、今年は、世界における日本の存在感が増した年だった。5月26日、伊勢志摩サミットに参加した世界の主要国G7の首脳がそろって、伊勢神宮に参拝した。日本の安倍首相を中心にして首脳たちが並び、内宮の神殿の前で撮られた映像が世界中に配信された。この21世紀に、日本を中心として各国が共存共栄する世界が建設されていくことが、目に見える形で示されたと思う。
翌27日のオバマ米大統領の広島訪問は、現職の大統領による初の訪問となった。一方、安倍信三首相は12月26、27日に米ハワイ州の真珠湾をオバマ大統領とともに訪問し、犠牲者を慰霊した。日米の和解は、人類の融和への大きな道しるべとなる。この歴史的な和解の実現は、わが国の首相が安倍氏、米国の大統領がオバマでなければ、出来なかったに違いない。
厳しい国際環境をわが国が生き抜いていくには、GHQから押し付けられた憲法を、日本人自らの手で改正し、国家の再建を行うことが不可欠である。幸い7月10日の参院選の結果、衆参両院でいわゆる改憲勢力が3分の2を超えた。これにより、国会が憲法改正の発議をすることが戦後初めて可能になった。だが、野党の反対や自民党内の慎重論の強まりによって、憲法改正の審議は遅々としている。憲法改正の目標時期は早くて30年秋と観測される状況である。どのような抵抗があろうとも、それを乗り越えて、憲法を改正しなければ、日本の再建は決してできない。
わが国は日本国及び日本国民統合の象徴として、天皇陛下を頂いている。今上陛下は、8月8日テレビ放送でお気持ち表明をされ、数年のうちに譲位をされたい意向を示された。これを承って、安倍政権は有識者会議を設立し、専門家からの意見聴取が行われ、対応が検討されている。来年早期に答申が出される見込みである。譲位を可能にするにせよ、摂政を置くにせよ、わが国は大きな節目に近づいている。天皇陛下のお気持ちにどのようにお応えするかという課題は、憲法改正の実現とともに、わが国の根幹に係る重大な課題である。
日本人が日本精神を取り戻し、一致協力することが、国民一人一人の幸福と発展につながる。また日本を再建することが、世界の平和と発展への貢献となる。日本人は、正念場を迎えている。
結びに私事だが、本年8月私はネットで言論活動をはじめてから20年となった。これからも健康で通信活動が出来る限り、インターネットを利用して、言論活動を行っていきたいと思う。
来年も、どうぞよろしくお願いいたします。皆様、よい年をお迎えください。
以下は、時事通信社による今年の10大ニュース。国内編で天皇陛下について、「退位」という誤った用語を使い、また小池都知事誕生と豊洲市場・オリンピック問題、民主党・蓮舫代表の二重国籍事件が入っていないのは、大きな欠陥である。
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時事通信社が選ぶ10大ニュース(2016年)特集
<国内>
【1位】天皇陛下、退位の意向示唆
天皇陛下が、天皇の地位を皇太子さまに譲る意向を示されていることが7月に表面化した。陛下は8月8日、「退位」という言葉は避けながらも、その意向を強く示唆する内容の「お気持ち」を国民に向け発表した。
約11分間のビデオメッセージで陛下は「立場上、現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら、私個人としてこれまでに考えてきたこと」と断った上で、「次第に進む身体の衰えを考慮する時、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」などと述べた。お気持ち表明を受け、政府は「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」を設置。公務の在り方や退位の是非、退位制度化など8項目について、専門家から意見聴取するなど検討を進めている。
【2位】熊本地震、死者150人超
4月14日午後9時26分ごろ、熊本県を震源とする地震が発生し、同県益城町で震度7を観測した。地震の規模(マグニチュード=M)は6.5で、震度7が記録されたのは2011年3月の東日本大震災以来。16日午前1時25分ごろにも益城町と西原村で震度7の地震が起き、1995年の阪神大震災と同規模のM7.3を記録した。連続した地震活動で震度7が2回観測されたのは49年に震度6の上に7が新設されて以来初めてで、気象庁は14日の地震が前震、16日が本震との見解を示した。
地震による直接死と関連死を合わせた死者は150人を超えた。住宅被害は約17万8000棟に上り、うち約8300棟が全壊。熊本城も天守閣の屋根瓦が剥がれしゃちほこが落下するなど、大きな被害を受けた。
【3位】米大統領、歴史的な広島訪問
オバマ米大統領は5月27日、現職の米大統領として初めて被爆地・広島を訪れ、平和記念公園の原爆死没者慰霊碑に献花した。被爆地訪問はオバマ氏が2009年1月の就任時から模索し、任期最後の年に実現した。原爆投下の事実と向き合うよう米大統領に求めてきた被爆者にとっても、長年の願いがかなう歴史的訪問となった。
オバマ氏は主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に出席後、広島入りし、安倍晋三首相とともに平和記念資料館(原爆資料館)や原爆ドームを視察。式典に参列した被爆者とも言葉を交わした。献花後の演説では「われわれには歴史を直視し、何をしなければならないか自問する共通の責任がある」と述べ、就任以来掲げてきた「核兵器なき世界」を追求する重要性を訴えた。
【4位】安倍首相、真珠湾慰霊へ
安倍首相は12月26、27日に米ハワイ・オアフ島を訪れ、第2次世界大戦で日米開戦の舞台となった真珠湾(パールハーバー)をオバマ米大統領とともに訪問し、犠牲者を慰霊する。日本の現職首相が米大統領とともに真珠湾を訪問するのは初めて。旧日本軍の奇襲攻撃から75年目の節目に、かつての敵国同士が和解し、強固な同盟関係を築いたことを国際社会にアピールする。
オバマ氏は5月、米国が原子爆弾を投下した広島を現職大統領として初訪問しており、首相の真珠湾訪問はその返礼の意味合いもある。首相は、湾内に沈没した戦艦アリゾナの上に追悼施設として建設された「アリゾナ記念館」をオバマ氏とともに訪れ、献花し、所感を述べる予定。ただ、直接的な謝罪は盛り込まない方向だ。
【5位】消費増税、再延期
安倍首相は6月1日、17年4月に予定していた消費税率10%への引き上げを19年10月に2年半先送りすることを表明した。新興国経済の減速など、世界経済が直面するさまざまなリスクを理由に挙げた。もともと予定していた15年10月から17年4月に先延ばししたことに続き、延期はこれで2度目となる。酒類・外食を除く飲食料品と新聞に適用する軽減税率の導入も同様に2年半先送りした。
安倍首相はこれに先立ち、5月の伊勢志摩サミットで08年のリーマン・ショック時と現在を比較した資料を各国首脳に提示して延期の道筋を付けた。消費税増税を回避し、経済成長に軸足を置く姿勢を鮮明にしたが、延期に対し安倍政権の経済政策「アベノミクス」の行き詰まりとの批判も出た。
【6位】参院選で改憲勢力3分の2に
第24回参院選が6月22日公示、7月10日投開票の日程で行われ、自民、公明両党と憲法改正に前向きな勢力が、非改選議席と合わせ改憲発議に必要な参院定数の3分の2(162)を超えた。衆院では既に自公両党だけで3分の2を超えており、改憲を党是とする自民党にとって発議に向けた環境が一段と整った。
国政選挙では初めて選挙権年齢が18歳に引き下げられたこの選挙で、自民党は追加公認1人を含め56議席、公明党は14議席を獲得。野党では、改憲に積極的な当時のおおさか維新の会も7議席を得た。日本のこころを大切にする党を加えた4党の非改選議席は計84議席で、改憲に賛成する無所属議員ら4人を合わせると165議席に達した。一方、安倍政権下での改憲に反対する民進党は改選45議席を32に減らした。
【7位】障害者施設で19人殺害
7月26日未明、相模原市緑区の知的障害者施設「津久井やまゆり園」にナイフを持った男が侵入し、19~70歳の入所者男女19人を殺害、27人に重軽傷を負わせた。神奈川県警は殺人などの容疑で元職員植松聖容疑者(26)を逮捕した。
同容疑者は同施設に非常勤職員として勤務していたが、2月に「重度障害者を殺す」と話したため施設が県警に連絡、退職扱いとなった。妄想性障害などと診断され措置入院となったが、その後入院の必要性は消失したとされ、3月に退院していた。しかし逮捕後も「障害者は社会を不幸にする」「国が許可してくれなかったので仕方なくやった」などと常軌を逸した独善的主張を繰り返しており、横浜地検は9月以降鑑定留置して精神鑑定を行い、刑事責任能力の有無を調べている。
【8位】日銀、マイナス金利を初導入
日銀は1月29日の金融政策決定会合で、金融機関が日銀に預ける当座預金の一部について、利子をマイナスにする「マイナス金利政策」の導入を決めた。2月16日にスタートし、マイナス0.1%の金利を適用した。日銀にお金を預けると、金融機関は通常、利息を受け取れるが、逆に「手数料」を取られる。国内では初めて。
導入後、長期金利が一時マイナスとなり、住宅ローン金利などが低下するといった効果はあった。しかし、金融機関の収益悪化や年金・保険の運用難を招き、金融界などは猛反発。日銀はその後、「(消費者の)マインド面を通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある」などと副作用を認めた。主要中央銀行では、欧州中央銀行(ECB)が14年6月に導入している。
【9位】日ロ、北方四島で共同経済活動へ
安倍首相は12月15、16日、ロシアのプーチン大統領と、山口県長門市と東京都内で会談し、北方四島での共同経済活動に向けた協議を始めることで合意した。懸案の北方領土問題を含む平和条約締結につなげる狙いがある。活動は両国の法的立場を害さないことが前提で、実現しても領土問題の解決に結び付くかは不透明だ。
両首脳が首相官邸で発表した「プレス向け声明」は、4島での共同経済活動に関する協議を開始することが「平和条約締結に向けて重要な一歩になり得るとの相互理解に達した」と明記。両首脳が締結に向け「真摯(しんし)な決意を表明した」ことも盛り込んだ。ただ、首相は会談後の共同記者会見で、領土問題について「解決にはまだまだ困難な道が続く」と認めた。
【10位】リオ五輪、過去最多41メダル
南米で初開催となった第31回夏季オリンピック・リオデジャネイロ大会が8月5日から21日までブラジルのリオデジャネイロなどで開催された。スローガンに「新しい世界」と掲げた大会には、史上最多の205カ国・地域から1万人を超える選手が参加。初めて「難民選手団」も結成された。次回の20年東京五輪・パラリンピックを控える日本は、過去最多だった前回12年ロンドン大会の38個を上回るメダル41個(金12、銀8、銅21)を獲得し、4年後に弾みをつけた。
開幕直前に国ぐるみのドーピングが発覚したロシアの参加問題で揺れ、世界各地で頻発するテロも懸念されたが、大きな混乱はなかった。障害者スポーツの祭典、リオ・パラリンピック大会は9月7日から18日まで開かれた。
<海外>
【1位】米大統領選でトランプ氏勝利
米共和党のドナルド・トランプ氏(70)が11月8日投開票の大統領選で、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官(69)を破る番狂わせを演じた。排外的主張を掲げ、暴言も辞さない実業家のトランプ氏は、既存政治への不満を吸い上げて「トランプ現象」を巻き起こし、ポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭を印象付けた。
トランプ氏は、メキシコ国境への壁の建設を柱とする不法移民対策を唱え、在日米軍の駐留経費の全額負担を求める考えも表明。就任初日に実行する政策として、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を挙げた。その後も「一つの中国」政策に縛られる必要はないと述べ、台湾の蔡英文総統と電話会談するなど、型破りな言動を続けており、米国の動向をめぐり不透明感が深まっている。
【2位】英国がEU離脱決定
英国は6月の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めた。「東欧からの移民流入で職が奪われている」との不満やEUの規制に縛られることへの反発などが背景。EUから加盟国が抜けるのは初めてで、経済規模で2位、そして世界の金融センター、シティーを擁する英国の離脱は、経済のみならず政治的に大きな打撃となる。来年に大統領選を控えるフランスなどでは反EUの右派政党が勢いづいている。
英国のメイ首相は、来年3月までにEUに離脱を通告し、交渉を開始する方針。労働移民制限はできないものの、EU単一市場からは出ずに自由貿易の恩恵を受けられる形態か、単一市場から離脱し移民制限を徹底する選択肢が検討されている。離脱後の関係は交渉の結果次第で大きく異なりそうだ。
【3位】世界でテロ頻発、邦人も犠牲に
昨年に続き、世界各地で「イスラム国」(IS)など過激組織が関与したとみられるテロが相次いだ。7月にはバングラデシュの首都ダッカで、外国人に人気の飲食店が襲撃され、人質20人が死亡する立てこもり事件が発生。国際協力機構(JICA)のインフラプロジェクトに携わっていた日本人男女7人も犠牲になった。
ブリュッセルでは3月、空港などを狙った同時テロで30人以上が死亡。7月にはフランス南部ニースで花火見物客にトラックが突入し86人が死亡した。米ニューヨークでも9月、2001年の同時テロ以来のテロが発生。インターネットなどを通じ過激思想に染まる「ホームグロウン(国産)型」や、外部組織と直接関わりのない「ローンウルフ(一匹おおかみ)型」の犯行も指摘された。
【4位】韓国大統領の弾劾案可決
韓国の朴槿恵大統領の長年の親友、崔順実被告が、自らが主導して設立した財団に、大統領府の後押しで財閥から寄付金を拠出させたほか、大統領の演説草案などが事前に提供されていたことなどが発覚。政策や政府人事に介入したとされる。検察は崔被告らを11月に起訴し、朴大統領も「共謀関係にあった」と認定した。
大統領の支持率は4%まで下落し、ソウル中心部で1987年の民主化以降最大規模の退陣要求集会が開かれた。大統領は来年4月辞任の意向を表明したが、世論の憤りは収まらず、12月9日、弾劾訴追案が野党3党と与党非主流派などの賛成で可決された。憲法裁判所が妥当性を判断するが、来年前半には退陣する公算が大きい。任期途中の大統領辞任は民主化以降、初めてとなる。
【5位】北朝鮮が2回の核実験
北朝鮮は1月6日に4回目となる核実験を実施した。初の水素爆弾実験に成功したと主張しているが、否定的な見方が強い。9月9日には5回目の核実験を行い、核弾頭の威力を判定する核爆発実験が成功したと発表した。2006年の初回以来、ほぼ3年に1回の間隔で核実験を強行してきたが、年2回は異例のハイペース。計6回の実験により、ミサイル搭載に向けた核弾頭の小型化が進んでいるとみられる。
北朝鮮はこれと並行し、2月7日に「人工衛星打ち上げ」と称して、事実上の長距離弾道ミサイルを発射。さらに中距離弾道ミサイル「ムスダン」や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)も相次いで発射した。国際社会は「安全保障上の脅威は新たな段階に入っている」(安倍晋三首相)と懸念を強めている。
【6位】シリア内戦泥沼化で大量難民
シリア内戦は泥沼の様相が続いた。11年3月に始まった内戦は6年目に入り、犠牲者は30万人を超えた。アサド大統領退陣を求める米英仏やアラブ諸国などが反体制派を支えてきたが、ロシアがアサド政権を軍事面で支援。過激派組織「イスラム国」(IS)も入り交じり、混迷を深めている。関係国の仲介で停戦が何度も試みられたが、破綻を繰り返し、戦闘終結の兆しは見えない。
政権軍は12月に最大都市アレッポを制圧した。反体制派は主要な都市部の全拠点を失い、政権軍の優位が鮮明となっている。一方、シリアなどから欧州に渡る難民の数は昨年比で減少しつつも依然高水準のままだ。欧州に渡航後、イスラム過激派に共鳴してテロを引き起こす「戦闘員予備軍」の摘発が各地で続いている。
【7位】TPP、12カ国署名も漂流へ
日米、オーストラリアなど12カ国は2月4日、環太平洋連携協定(TPP)に署名した。関税削減・撤廃を通じ市場を開放し、知的財産権保護など幅広い貿易・投資の共通ルールを作る枠組みで、実現すれば人口8億人、世界の国内総生産(GDP)の約4割を占める巨大経済圏が誕生する。発効には域内GDPの85%以上を占める6カ国以上の承認が必要だ。
ニュージーランドが11月に承認手続きを完了、日本は12月9日、協定が参院本会議で承認され、関連法も成立した。しかし、トランプ次期米大統領は、TPPの枠組みからの離脱方針を明言。発効に欠かせない米国の承認が見込めず、協定の漂流が不可避となった。TPPを成長戦略の柱に位置付けている安倍政権の通商政策は、見直しを迫られている。
【8位】地球温暖化対策のパリ協定発効
20年以降の地球温暖化対策の新たな国際的枠組み「パリ協定」が11月4日発効した。協定は、昨年末にパリで開かれた国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択された。途上国を含む全ての条約加盟国が温室効果ガス削減に取り組み、産業革命前からの平均気温の上昇を2度未満に抑える目標を掲げる。
批准国の温室ガス排出量が世界の総排出量の55%以上になることなどが発効要件だったが、2大排出国の米中が今年9月に批准し、採択から1年足らずのスピード発効となった。11月7~19日にモロッコで開かれたCOP22では、協定の実施ルールを18年に決めることで合意した。日本は11月8日に批准したが遅れが響き、批准国による第1回締約国会議に正式参加できなかった。
【9位】米大統領、88年ぶりキューバ訪問
オバマ米大統領は3月、現職の大統領として88年ぶりにキューバを訪問し、首都ハバナでラウル・カストロ国家評議会議長と会談した。オバマ大統領は記者会見で「両国の新たな日だ」と強調する一方、キューバに人権改善を促した。これに対しカストロ議長は「最大の障害は経済制裁だ」と禁輸措置の全面解除を要求し、人権外交の難しさをにじませた。
両国は1961年に国交を断絶。米国が2014年12月にキューバとの国交正常化方針を発表し、昨年7月に国交を回復していた。オバマ氏は大統領権限で制裁緩和に取り組んできたが、議会の反対で依然、全面解除には至っていない。トランプ次期大統領も選挙中、キューバ制裁の解除に否定的な態度を取っており、全面解除は見通せない状況だ。
【10位】パナマ文書で税回避明らかに
4月にタックスヘイブン(租税回避地)の利用実態を暴露した内部資料がパナマの法律事務所から流出。約21万法人に上るペーパーカンパニーの情報などに基づき、多国籍企業や政治家などが所得税や法人税が極端に低いタックスヘイブンに所得を移転し、租税回避を行っていることが明らかになった。アイスランドのグンロイグソン首相(当時)は資産隠しの疑惑が浮上し、辞任。日本の企業や個人も記載されていた。
批判の高まりを受け、5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)では過度な税逃れの防止策作りを主導していくことを確認した。経済協力開発機構(OECD)は具体案で合意。悪質なタックスヘイブン国・地域を特定して制裁対象のブラックリストに載せるための3要件を決定した。
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そうした状況で、アメリカでは、11月8日に行われた大統領選挙でドナルド・トランプが「まさか」の勝利を獲得した。トランプは、不法移民の流入禁止、犯罪歴のある不法移民の強制送還等を主張し、大衆の不満を吸い上げて「トランプ現象」を巻き起こした。トランプの勝利は、欧州におけるナショナリズムの復興を勢いづけている。来年1月の大統領就任後、テロ対策の強化、TPPからの離脱、中国への強硬姿勢、ロシアとの関係改善等の政策が実行されれば、世界全体に大きな影響を与えるに違いない。
とりわけ焦点になるのは、中東である。シリア内戦は6年目に入り、犠牲者は30万人を超えた。100万人以上の難民が発生し、ヨーロッパや周辺諸国に避難・移住している。ロシアの積極的な支援を受けたアサド政権軍は、12月に最大都市アレッポを制圧した。米国を出し抜いたロシアが主導して停戦合意が進められつつある。欧・米・露・イラク等によるいわゆる「イスラーム国(ISIL)」への掃討戦は、一定の戦果を挙げている。だが、イスラーム教過激派は、欧米・アジア等の各地でテロを拡散させており、収束の兆しは見えない。トランプ政権がどのような中東政策を行うか注目される。
今年は、わが国にとっても国際情勢が一段と厳しさを増した一年だった。北朝鮮は、1月と9月に2回核実験を強行した。また長距離弾道ミサイル、中距離弾道ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイルの発射実験を繰り返した。韓国の朴槿恵大統領は、北朝鮮を強く非難し、THAADの配備など米国との連携を強めてきた。ところが、親友への機密資料の提供、ミル財団等への資金提供の強要が発覚し、12月9日国会で弾劾訴追案が可決された。来年前半に退陣する公算が大きい。親北左派勢力が伸長しており、半島情勢がにわかに不安定になっている。
中国は、南シナ海の軍事拠点化をさらに進め、人工島に地対空ミサイル、対艦巡航ミサイル、戦闘機等を配備した。東シナ海では、機関砲を搭載した公船が領海侵犯を繰り返している。早ければ来年春には、排水量1万トンを超える海警船が配備されるとみられる。12月10日には戦闘機を含む中国軍機6機が、沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡の公海上空を飛行し、空自戦闘機が緊急発進を行った。25日には、中国初の空母「遼寧」が宮古海峡を太平洋に向けて通過するのが初めて確認された。中国の海洋進出は一層積極性を増している。
ロシアは、北方領土を含むクリール諸島の開発計画を進めているが、今年5月から北方領土を含む極東地域の土地をロシア国民に無償で分け与える制度を始めた。そのうえに、択捉、国後両島に新たな駐屯地を建設するなど、北方領土の軍事拠点化を急速に進めている。12月15、16日、安倍首相はプーチン大統領を日本に呼んで首脳会談をし、ロシアが望む経済協力では8項目提案など政府、民間合わせて82件の成果文書を交わした。領土返還には進展が得られなかった。
こうした状況ではあるが、今年は、世界における日本の存在感が増した年だった。5月26日、伊勢志摩サミットに参加した世界の主要国G7の首脳がそろって、伊勢神宮に参拝した。日本の安倍首相を中心にして首脳たちが並び、内宮の神殿の前で撮られた映像が世界中に配信された。この21世紀に、日本を中心として各国が共存共栄する世界が建設されていくことが、目に見える形で示されたと思う。
翌27日のオバマ米大統領の広島訪問は、現職の大統領による初の訪問となった。一方、安倍信三首相は12月26、27日に米ハワイ州の真珠湾をオバマ大統領とともに訪問し、犠牲者を慰霊した。日米の和解は、人類の融和への大きな道しるべとなる。この歴史的な和解の実現は、わが国の首相が安倍氏、米国の大統領がオバマでなければ、出来なかったに違いない。
厳しい国際環境をわが国が生き抜いていくには、GHQから押し付けられた憲法を、日本人自らの手で改正し、国家の再建を行うことが不可欠である。幸い7月10日の参院選の結果、衆参両院でいわゆる改憲勢力が3分の2を超えた。これにより、国会が憲法改正の発議をすることが戦後初めて可能になった。だが、野党の反対や自民党内の慎重論の強まりによって、憲法改正の審議は遅々としている。憲法改正の目標時期は早くて30年秋と観測される状況である。どのような抵抗があろうとも、それを乗り越えて、憲法を改正しなければ、日本の再建は決してできない。
わが国は日本国及び日本国民統合の象徴として、天皇陛下を頂いている。今上陛下は、8月8日テレビ放送でお気持ち表明をされ、数年のうちに譲位をされたい意向を示された。これを承って、安倍政権は有識者会議を設立し、専門家からの意見聴取が行われ、対応が検討されている。来年早期に答申が出される見込みである。譲位を可能にするにせよ、摂政を置くにせよ、わが国は大きな節目に近づいている。天皇陛下のお気持ちにどのようにお応えするかという課題は、憲法改正の実現とともに、わが国の根幹に係る重大な課題である。
日本人が日本精神を取り戻し、一致協力することが、国民一人一人の幸福と発展につながる。また日本を再建することが、世界の平和と発展への貢献となる。日本人は、正念場を迎えている。
結びに私事だが、本年8月私はネットで言論活動をはじめてから20年となった。これからも健康で通信活動が出来る限り、インターネットを利用して、言論活動を行っていきたいと思う。
来年も、どうぞよろしくお願いいたします。皆様、よい年をお迎えください。
以下は、時事通信社による今年の10大ニュース。国内編で天皇陛下について、「退位」という誤った用語を使い、また小池都知事誕生と豊洲市場・オリンピック問題、民主党・蓮舫代表の二重国籍事件が入っていないのは、大きな欠陥である。
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時事通信社が選ぶ10大ニュース(2016年)特集
<国内>
【1位】天皇陛下、退位の意向示唆
天皇陛下が、天皇の地位を皇太子さまに譲る意向を示されていることが7月に表面化した。陛下は8月8日、「退位」という言葉は避けながらも、その意向を強く示唆する内容の「お気持ち」を国民に向け発表した。
約11分間のビデオメッセージで陛下は「立場上、現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら、私個人としてこれまでに考えてきたこと」と断った上で、「次第に進む身体の衰えを考慮する時、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」などと述べた。お気持ち表明を受け、政府は「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」を設置。公務の在り方や退位の是非、退位制度化など8項目について、専門家から意見聴取するなど検討を進めている。
【2位】熊本地震、死者150人超
4月14日午後9時26分ごろ、熊本県を震源とする地震が発生し、同県益城町で震度7を観測した。地震の規模(マグニチュード=M)は6.5で、震度7が記録されたのは2011年3月の東日本大震災以来。16日午前1時25分ごろにも益城町と西原村で震度7の地震が起き、1995年の阪神大震災と同規模のM7.3を記録した。連続した地震活動で震度7が2回観測されたのは49年に震度6の上に7が新設されて以来初めてで、気象庁は14日の地震が前震、16日が本震との見解を示した。
地震による直接死と関連死を合わせた死者は150人を超えた。住宅被害は約17万8000棟に上り、うち約8300棟が全壊。熊本城も天守閣の屋根瓦が剥がれしゃちほこが落下するなど、大きな被害を受けた。
【3位】米大統領、歴史的な広島訪問
オバマ米大統領は5月27日、現職の米大統領として初めて被爆地・広島を訪れ、平和記念公園の原爆死没者慰霊碑に献花した。被爆地訪問はオバマ氏が2009年1月の就任時から模索し、任期最後の年に実現した。原爆投下の事実と向き合うよう米大統領に求めてきた被爆者にとっても、長年の願いがかなう歴史的訪問となった。
オバマ氏は主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に出席後、広島入りし、安倍晋三首相とともに平和記念資料館(原爆資料館)や原爆ドームを視察。式典に参列した被爆者とも言葉を交わした。献花後の演説では「われわれには歴史を直視し、何をしなければならないか自問する共通の責任がある」と述べ、就任以来掲げてきた「核兵器なき世界」を追求する重要性を訴えた。
【4位】安倍首相、真珠湾慰霊へ
安倍首相は12月26、27日に米ハワイ・オアフ島を訪れ、第2次世界大戦で日米開戦の舞台となった真珠湾(パールハーバー)をオバマ米大統領とともに訪問し、犠牲者を慰霊する。日本の現職首相が米大統領とともに真珠湾を訪問するのは初めて。旧日本軍の奇襲攻撃から75年目の節目に、かつての敵国同士が和解し、強固な同盟関係を築いたことを国際社会にアピールする。
オバマ氏は5月、米国が原子爆弾を投下した広島を現職大統領として初訪問しており、首相の真珠湾訪問はその返礼の意味合いもある。首相は、湾内に沈没した戦艦アリゾナの上に追悼施設として建設された「アリゾナ記念館」をオバマ氏とともに訪れ、献花し、所感を述べる予定。ただ、直接的な謝罪は盛り込まない方向だ。
【5位】消費増税、再延期
安倍首相は6月1日、17年4月に予定していた消費税率10%への引き上げを19年10月に2年半先送りすることを表明した。新興国経済の減速など、世界経済が直面するさまざまなリスクを理由に挙げた。もともと予定していた15年10月から17年4月に先延ばししたことに続き、延期はこれで2度目となる。酒類・外食を除く飲食料品と新聞に適用する軽減税率の導入も同様に2年半先送りした。
安倍首相はこれに先立ち、5月の伊勢志摩サミットで08年のリーマン・ショック時と現在を比較した資料を各国首脳に提示して延期の道筋を付けた。消費税増税を回避し、経済成長に軸足を置く姿勢を鮮明にしたが、延期に対し安倍政権の経済政策「アベノミクス」の行き詰まりとの批判も出た。
【6位】参院選で改憲勢力3分の2に
第24回参院選が6月22日公示、7月10日投開票の日程で行われ、自民、公明両党と憲法改正に前向きな勢力が、非改選議席と合わせ改憲発議に必要な参院定数の3分の2(162)を超えた。衆院では既に自公両党だけで3分の2を超えており、改憲を党是とする自民党にとって発議に向けた環境が一段と整った。
国政選挙では初めて選挙権年齢が18歳に引き下げられたこの選挙で、自民党は追加公認1人を含め56議席、公明党は14議席を獲得。野党では、改憲に積極的な当時のおおさか維新の会も7議席を得た。日本のこころを大切にする党を加えた4党の非改選議席は計84議席で、改憲に賛成する無所属議員ら4人を合わせると165議席に達した。一方、安倍政権下での改憲に反対する民進党は改選45議席を32に減らした。
【7位】障害者施設で19人殺害
7月26日未明、相模原市緑区の知的障害者施設「津久井やまゆり園」にナイフを持った男が侵入し、19~70歳の入所者男女19人を殺害、27人に重軽傷を負わせた。神奈川県警は殺人などの容疑で元職員植松聖容疑者(26)を逮捕した。
同容疑者は同施設に非常勤職員として勤務していたが、2月に「重度障害者を殺す」と話したため施設が県警に連絡、退職扱いとなった。妄想性障害などと診断され措置入院となったが、その後入院の必要性は消失したとされ、3月に退院していた。しかし逮捕後も「障害者は社会を不幸にする」「国が許可してくれなかったので仕方なくやった」などと常軌を逸した独善的主張を繰り返しており、横浜地検は9月以降鑑定留置して精神鑑定を行い、刑事責任能力の有無を調べている。
【8位】日銀、マイナス金利を初導入
日銀は1月29日の金融政策決定会合で、金融機関が日銀に預ける当座預金の一部について、利子をマイナスにする「マイナス金利政策」の導入を決めた。2月16日にスタートし、マイナス0.1%の金利を適用した。日銀にお金を預けると、金融機関は通常、利息を受け取れるが、逆に「手数料」を取られる。国内では初めて。
導入後、長期金利が一時マイナスとなり、住宅ローン金利などが低下するといった効果はあった。しかし、金融機関の収益悪化や年金・保険の運用難を招き、金融界などは猛反発。日銀はその後、「(消費者の)マインド面を通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある」などと副作用を認めた。主要中央銀行では、欧州中央銀行(ECB)が14年6月に導入している。
【9位】日ロ、北方四島で共同経済活動へ
安倍首相は12月15、16日、ロシアのプーチン大統領と、山口県長門市と東京都内で会談し、北方四島での共同経済活動に向けた協議を始めることで合意した。懸案の北方領土問題を含む平和条約締結につなげる狙いがある。活動は両国の法的立場を害さないことが前提で、実現しても領土問題の解決に結び付くかは不透明だ。
両首脳が首相官邸で発表した「プレス向け声明」は、4島での共同経済活動に関する協議を開始することが「平和条約締結に向けて重要な一歩になり得るとの相互理解に達した」と明記。両首脳が締結に向け「真摯(しんし)な決意を表明した」ことも盛り込んだ。ただ、首相は会談後の共同記者会見で、領土問題について「解決にはまだまだ困難な道が続く」と認めた。
【10位】リオ五輪、過去最多41メダル
南米で初開催となった第31回夏季オリンピック・リオデジャネイロ大会が8月5日から21日までブラジルのリオデジャネイロなどで開催された。スローガンに「新しい世界」と掲げた大会には、史上最多の205カ国・地域から1万人を超える選手が参加。初めて「難民選手団」も結成された。次回の20年東京五輪・パラリンピックを控える日本は、過去最多だった前回12年ロンドン大会の38個を上回るメダル41個(金12、銀8、銅21)を獲得し、4年後に弾みをつけた。
開幕直前に国ぐるみのドーピングが発覚したロシアの参加問題で揺れ、世界各地で頻発するテロも懸念されたが、大きな混乱はなかった。障害者スポーツの祭典、リオ・パラリンピック大会は9月7日から18日まで開かれた。
<海外>
【1位】米大統領選でトランプ氏勝利
米共和党のドナルド・トランプ氏(70)が11月8日投開票の大統領選で、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官(69)を破る番狂わせを演じた。排外的主張を掲げ、暴言も辞さない実業家のトランプ氏は、既存政治への不満を吸い上げて「トランプ現象」を巻き起こし、ポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭を印象付けた。
トランプ氏は、メキシコ国境への壁の建設を柱とする不法移民対策を唱え、在日米軍の駐留経費の全額負担を求める考えも表明。就任初日に実行する政策として、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を挙げた。その後も「一つの中国」政策に縛られる必要はないと述べ、台湾の蔡英文総統と電話会談するなど、型破りな言動を続けており、米国の動向をめぐり不透明感が深まっている。
【2位】英国がEU離脱決定
英国は6月の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めた。「東欧からの移民流入で職が奪われている」との不満やEUの規制に縛られることへの反発などが背景。EUから加盟国が抜けるのは初めてで、経済規模で2位、そして世界の金融センター、シティーを擁する英国の離脱は、経済のみならず政治的に大きな打撃となる。来年に大統領選を控えるフランスなどでは反EUの右派政党が勢いづいている。
英国のメイ首相は、来年3月までにEUに離脱を通告し、交渉を開始する方針。労働移民制限はできないものの、EU単一市場からは出ずに自由貿易の恩恵を受けられる形態か、単一市場から離脱し移民制限を徹底する選択肢が検討されている。離脱後の関係は交渉の結果次第で大きく異なりそうだ。
【3位】世界でテロ頻発、邦人も犠牲に
昨年に続き、世界各地で「イスラム国」(IS)など過激組織が関与したとみられるテロが相次いだ。7月にはバングラデシュの首都ダッカで、外国人に人気の飲食店が襲撃され、人質20人が死亡する立てこもり事件が発生。国際協力機構(JICA)のインフラプロジェクトに携わっていた日本人男女7人も犠牲になった。
ブリュッセルでは3月、空港などを狙った同時テロで30人以上が死亡。7月にはフランス南部ニースで花火見物客にトラックが突入し86人が死亡した。米ニューヨークでも9月、2001年の同時テロ以来のテロが発生。インターネットなどを通じ過激思想に染まる「ホームグロウン(国産)型」や、外部組織と直接関わりのない「ローンウルフ(一匹おおかみ)型」の犯行も指摘された。
【4位】韓国大統領の弾劾案可決
韓国の朴槿恵大統領の長年の親友、崔順実被告が、自らが主導して設立した財団に、大統領府の後押しで財閥から寄付金を拠出させたほか、大統領の演説草案などが事前に提供されていたことなどが発覚。政策や政府人事に介入したとされる。検察は崔被告らを11月に起訴し、朴大統領も「共謀関係にあった」と認定した。
大統領の支持率は4%まで下落し、ソウル中心部で1987年の民主化以降最大規模の退陣要求集会が開かれた。大統領は来年4月辞任の意向を表明したが、世論の憤りは収まらず、12月9日、弾劾訴追案が野党3党と与党非主流派などの賛成で可決された。憲法裁判所が妥当性を判断するが、来年前半には退陣する公算が大きい。任期途中の大統領辞任は民主化以降、初めてとなる。
【5位】北朝鮮が2回の核実験
北朝鮮は1月6日に4回目となる核実験を実施した。初の水素爆弾実験に成功したと主張しているが、否定的な見方が強い。9月9日には5回目の核実験を行い、核弾頭の威力を判定する核爆発実験が成功したと発表した。2006年の初回以来、ほぼ3年に1回の間隔で核実験を強行してきたが、年2回は異例のハイペース。計6回の実験により、ミサイル搭載に向けた核弾頭の小型化が進んでいるとみられる。
北朝鮮はこれと並行し、2月7日に「人工衛星打ち上げ」と称して、事実上の長距離弾道ミサイルを発射。さらに中距離弾道ミサイル「ムスダン」や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)も相次いで発射した。国際社会は「安全保障上の脅威は新たな段階に入っている」(安倍晋三首相)と懸念を強めている。
【6位】シリア内戦泥沼化で大量難民
シリア内戦は泥沼の様相が続いた。11年3月に始まった内戦は6年目に入り、犠牲者は30万人を超えた。アサド大統領退陣を求める米英仏やアラブ諸国などが反体制派を支えてきたが、ロシアがアサド政権を軍事面で支援。過激派組織「イスラム国」(IS)も入り交じり、混迷を深めている。関係国の仲介で停戦が何度も試みられたが、破綻を繰り返し、戦闘終結の兆しは見えない。
政権軍は12月に最大都市アレッポを制圧した。反体制派は主要な都市部の全拠点を失い、政権軍の優位が鮮明となっている。一方、シリアなどから欧州に渡る難民の数は昨年比で減少しつつも依然高水準のままだ。欧州に渡航後、イスラム過激派に共鳴してテロを引き起こす「戦闘員予備軍」の摘発が各地で続いている。
【7位】TPP、12カ国署名も漂流へ
日米、オーストラリアなど12カ国は2月4日、環太平洋連携協定(TPP)に署名した。関税削減・撤廃を通じ市場を開放し、知的財産権保護など幅広い貿易・投資の共通ルールを作る枠組みで、実現すれば人口8億人、世界の国内総生産(GDP)の約4割を占める巨大経済圏が誕生する。発効には域内GDPの85%以上を占める6カ国以上の承認が必要だ。
ニュージーランドが11月に承認手続きを完了、日本は12月9日、協定が参院本会議で承認され、関連法も成立した。しかし、トランプ次期米大統領は、TPPの枠組みからの離脱方針を明言。発効に欠かせない米国の承認が見込めず、協定の漂流が不可避となった。TPPを成長戦略の柱に位置付けている安倍政権の通商政策は、見直しを迫られている。
【8位】地球温暖化対策のパリ協定発効
20年以降の地球温暖化対策の新たな国際的枠組み「パリ協定」が11月4日発効した。協定は、昨年末にパリで開かれた国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択された。途上国を含む全ての条約加盟国が温室効果ガス削減に取り組み、産業革命前からの平均気温の上昇を2度未満に抑える目標を掲げる。
批准国の温室ガス排出量が世界の総排出量の55%以上になることなどが発効要件だったが、2大排出国の米中が今年9月に批准し、採択から1年足らずのスピード発効となった。11月7~19日にモロッコで開かれたCOP22では、協定の実施ルールを18年に決めることで合意した。日本は11月8日に批准したが遅れが響き、批准国による第1回締約国会議に正式参加できなかった。
【9位】米大統領、88年ぶりキューバ訪問
オバマ米大統領は3月、現職の大統領として88年ぶりにキューバを訪問し、首都ハバナでラウル・カストロ国家評議会議長と会談した。オバマ大統領は記者会見で「両国の新たな日だ」と強調する一方、キューバに人権改善を促した。これに対しカストロ議長は「最大の障害は経済制裁だ」と禁輸措置の全面解除を要求し、人権外交の難しさをにじませた。
両国は1961年に国交を断絶。米国が2014年12月にキューバとの国交正常化方針を発表し、昨年7月に国交を回復していた。オバマ氏は大統領権限で制裁緩和に取り組んできたが、議会の反対で依然、全面解除には至っていない。トランプ次期大統領も選挙中、キューバ制裁の解除に否定的な態度を取っており、全面解除は見通せない状況だ。
【10位】パナマ文書で税回避明らかに
4月にタックスヘイブン(租税回避地)の利用実態を暴露した内部資料がパナマの法律事務所から流出。約21万法人に上るペーパーカンパニーの情報などに基づき、多国籍企業や政治家などが所得税や法人税が極端に低いタックスヘイブンに所得を移転し、租税回避を行っていることが明らかになった。アイスランドのグンロイグソン首相(当時)は資産隠しの疑惑が浮上し、辞任。日本の企業や個人も記載されていた。
批判の高まりを受け、5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)では過度な税逃れの防止策作りを主導していくことを確認した。経済協力開発機構(OECD)は具体案で合意。悪質なタックスヘイブン国・地域を特定して制裁対象のブラックリストに載せるための3要件を決定した。
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