ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

脱貧困の社会事業~ユヌス6

2009-07-31 08:54:18 | 経済
●利己的人間観の転換

 ソーシャルビジネスは、資本制的企業とは異なる企業のあり方を示している。その根底には、人間観の違いがある。
 近代西欧に現れた経済学は、利潤最大化を原則とする一つのモデルのみで思考してきた。この思考は、人間は個人の利益追求のみに関心があるという人間観に基づく。ユヌスは、著書「貧困のない世界を創る」で、現代の経済学は「人間はただお金だけを動機、満足、幸福の唯一の源とする一次元的な生き物だとする前提」に立っていると言う。
 これに対し、ユヌスは、人間は多次元的であり、利己的な面だけでなく、私利私欲を超えて他人のために何かをしたいという面もあるととらえる。人間は、単に利己的な生き物ではない。私見を言えば、親子の愛は、無償のものである。夫婦の愛も、同様である。兄弟や友人の間でも、無私の献身はある。さらに広く隣人愛や国家・民族への愛、人類愛に基づく行為もある。人間のこうした部分は経済学の対象から除外されてきた。しかし、慈善活動や寄付、社会奉仕は、単に倫理的行為ではなく、社会的な経済活動の一部をなす。
 そして、こうした人間の利他的な面を生かす企業を起こしたいと考えたのが、ユヌスのソーシャルビジネスであると考えられる。ここには経済学における人間観の転換がある。利己的な人間観から利他性を持った人間観への転換である。

 ユヌスは、著書に次のように書いている。
 「人間の根深い特性の一つは、他の人々のために良い行いをしたいという願望だ。それは既存のビジネスでは完全に無視される人間性の一つである。ソーシャルビジネスはこの人間の渇望を満たす。だから人々は惹きつけられるのだ」と。
 さらにユヌスは、次のように言う。
 「人々は人生の意味を求めているのだ。それは私たちの世界をよりよい場所にするために、あなたが本分を尽くしているということを知ることからのみ得られる意味なのである。ソーシャルビジネスはこの『意味』を提供する。だから人々は応じるのだ」と。
 ユヌスがこのように語っているように、ソーシャルビジネスでは、出資者も労働者も「他の人のために良い行いをしたいという願望」がかなう。その行いを通じて、自分の人生に意味を見出す。もっと言えば、生きがいを感じ、自分の存在に意味を感じるのだ。
 今年(2009年、平成21年)3月の来日講演でユヌスは言う。
 「若者は目標がないといわれる。50年前、社会主義がわれわれを魅了したが、その夢はいまなくなった。夢がなくなると挑戦をしなくなる。ソーシャルビジネスを話題にすればエキサイティングな会話が広がるはずだ。どういう問題があって、どうやったら解決できるかを考えるのだ」と。

●共同存在的・共有生命的な人間のあり方

 私見を述べると、人間は集団的な動物であり、生命を集団的に共有している。決して個人は、自立した原子的な存在ではない。父母という親があって自分がある。先祖があって子孫がある。男女が結びつくことで、初めて人間の生命は継承される。人間の存在は、単に「ある」ということではない。人間は、生きて存在する。人間は、存在論的には共同存在的であり、かつ共有生命的である。またそれゆえに、認識論的には共同主観的・間主体的である。
 共同存在的・共有生命的な人間には、利己的な面がある。それは、自己の保存のために必要な機能である。しかし、人間には同時に利他的な面がある。それは集団の維持・繁栄のために必要な機能である。利己的になりすぎると、他者否定・他者犠牲となる。利他的になりすぎると自己否定・自己犠牲となる。利己的・利他的のどちらに偏りすぎても、自他のどちらかが成り立たない。
 人間は集団的な動物であり、その基本的集団は家族である。家族は、共有生命的な人間の単位集団である。家族という単位集団は、時間的には先祖や子孫へと、生命的に連なり、空間的には親族や地域共同体へと、社会的に広がる。その時間的・空間的かつ生命的・社会的な関係の中に、各個人が生きて存在する。個人は、こうした関係の中に、親を通じて生まれてきた。またいつか死んでいく。人は時間的に有限の存在である。しかし、異性と結びつき、子どもを生み育て、さらに子孫をつくることによって、超個体的に生命を維持・発展させることができる。
 家族において、人は親子・夫婦が共に生き、共に栄える関係にある。その関係は、利己・利他の一致による共存共栄の関係である。この関係が、人間の社会的関係の原型である。自他一如の共存共栄の道こそ、人間の共同存在的・共有生命的な本質を実現するものである。

 このような観点から見ると、資本主義は利己主義に偏り、慈善事業は利他主義に偏り、一面的である。その中間において、利己・利他一致の道を目指すのが、ソーシャルビジネスであると理解できる。
 家族のためになり、他人のためになり、皆のためになるというときに、人は生きがいを感じ、自分の居場所を見出し、自分の行いに喜びを感じる。その喜びは、自己の個人的な欲求の満足よりも、遥かに強い。これは共同存在的・共有生命的な人間本質にかなった行為だからである。しかもその行為が単に利他的でなく、自分自身の成長・向上になるときに、人は自己実現の道を歩むことが出来る。自他が互いに自己実現を促し合い、協同的・相助的に自己実現が行われる。そのような社会が共同体であり、個人主義でも全体主義でもない共存共栄の社会である。経済の仕組みは、こうした共同存在的・共有生命的な人間本質にかなったものに変えていかなければならない。経済とは、人間の生命・生活の物質的な部分の生産・消費の活動にすぎないからである。

 次回に続く。
コメント

米中の戦略経済対話終わる

2009-07-30 09:49:22 | 国際関係
 7月27~28日、ワシントンで米中の戦略経済対話が行なわれた。冒頭、オバマ大統領は、「米国と中国の関係が、21世紀を形作る。そしてそれは、世界中のどの2国間関係と同様に重要である」と述べ、中国重視の姿勢を鮮明にした。国際社会において、米中2国が主導的な地位に立つ構図が、一層強まりそうである。
 しかし、米中とも足元は定かでない。世界経済危機により、アメリカは、従来以上に中国への依存なくして経済を維持できなくなっている。中国も経済的な危機が深まっており、崩壊の兆しが色濃く出ている。米中の戦略的提携の強化が、新しい二極体制へと進むか、それも米中共倒れによる真の多極化に至るか、ポイントは経済の改革に成功するかどうかにかかっている。またその改革が、従来の最大利益追求型の資本主義の焼き直しか、それとも資本主義の欠陥の根本的な改善を進めるかによって、大きく方向性が分かれる。米中がどう変わり、どう動くかに、これから10~20年の世界の動きの焦点があると思う。
 そうしたなかで、わが国はどのように国益を維持・追及し、世界の中の日本であり続けるか。現在の自民党も民主党も、国家再建の根本的な方策と中長期的な戦略が欠けている。国民生活の防衛も大切だが、日本の興亡を見すえた論議が必要である。
 以下は、報道のクリップ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
●産経新聞 平成21年7月27日号

http://sankei.jp.msn.com/world/america/090727/amr0907272330011-n1.htm
オバマ米大統領「米中がどの2国間関係より重要」戦略経済対話で
2009.7.27 23:29

 【ワシントン=山本秀也】米中両政府による初の包括的な戦略経済対話が27日、ワシントンで開幕した。冒頭、オバマ米大統領は「米中関係が世界のどの2国間関係より重要だ」と述べ、突出した対中重視の姿勢を表明した。今回から議題となる地域安全保障では、「東アジアの核軍拡競争」との表現で、北朝鮮の核保有が日韓の核武装を促す危険を示唆し、米中が共同で朝鮮半島の非核化を実現する必要を訴えた。
 オバマ大統領は、経済分野に政治、安全保障分野を加えた閣僚レベルの米中戦略経済対話について、「積極的で建設的、包括的な米中関係」への重要な一歩だと表明。米中双方に根強い相手への警戒感を否定し、国際社会で中国が強大なメンバーとなることを歓迎する考えを明らかにした。(略)

●毎日新聞 平成21年7月28日号

http://mainichi.jp/select/world/america/news/20090728k0000m030115000c.html
米中対話:戦略・経済で話し合い 事実上の「G2」が始動

【ワシントン小松健一、斉藤信宏】米国と中国が経済、政治、安全保障の分野で新しい協力関係を閣僚レベルで討議する初の「米中戦略・経済対話」が27日、2日間の日程でワシントンで始まった。ブッシュ前政権時代の経済分野の対話を包括的な枠組みに拡充し、世界規模の課題に対する「責任の共有」を通して、21世紀の米中関係の基礎をつくる試み。米中2カ国による事実上の「G2」の始動ともいえる。
 オバマ大統領は開会式で演説し、「米中が相互利益を発展させることで世界は良い方向に向かう」と指摘。持続的で広範な協力を通じて「米中関係は21世紀を形成する」と強調した。中国の胡錦濤国家主席も開会に合わせ「両国は人類の平和と発展など重要な案件について一緒に責任を負うべきだ」とのメッセージを寄せた。
 同対話は戦略分野をクリントン国務長官と戴秉国国務委員(副首相級)、経済分野をガイトナー財務長官と王岐山副首相がそれぞれ共同議長を務める。(略)

●産経新聞 平成21年7月28日号

http://sankei.jp.msn.com/world/china/090728/chn0907281804004-n1.htm
オバマ米大統領の中国重視、真意は? 「G2論」の影も
2009.7.28 18:04
 【ワシントン=山本秀也】オバマ米大統領は27日、ワシントンでの米中戦略経済対話の冒頭、両国関係について「世界のどの2国間関係より重要だ」と述べた。この発言は政治、経済分野で存在感を増す中国を重要視するオバマ政権の外交姿勢を反映したものだ。両大国が世界の秩序を決めるという「G2論」の影も浮かぶ。
 ただ、東アジアに詳しい米国の識者は、大統領の対中重視がただちに「日米同盟に影響を与えることはない」と分析している。
 オバマ大統領は、戦略経済対話の開幕式で繰り返し中国を重視する方針を表明した。今回から議題となった地域安全保障でも、北朝鮮の核開発が「東アジアの核軍拡競争」を招く危険性を指摘しつつ、日韓の核武装を抑える必要性を示唆し、朝鮮半島の非核化に向けた協力を中国側に促した。
 東アジアにおける米国の同盟国である日韓には、ニクソン大統領の訪中(1972年)で繰り広げられた「米中頭越し外交」の記憶が残る。ブレジンスキー元大統領補佐官ら民主党政権の元高官らが、オバマ政権の発足直後から米中両大国による「G2論」を語ってきたこともあり、今回の対話は、オバマ政権の対中政策を占う試金石として注目されていた。
オバマ大統領の対中姿勢について、日米関係に詳しい米バンダービルト大学のジェームス・アワー教授は「東西冷戦時代、旧ソ連が米国の外交、防衛政策上の主な懸念対象だったように、オバマ大統領は経済、外交、さらに防衛政策でも中国に懸念を感じているのではないか」とみる。中国重視の姿勢は、「緊密な関係」とイコールではないという見方だ。
 米中戦略経済対話など関係の拡大が日米同盟に与える影響について、アワー教授は、中国の重要性が増そうとも「日米同盟の重要性は今後さらに高まるはずだ」と指摘する。中国問題の専門家であるカーネギー国際平和財団のダグラス・パール副所長も、日本の国際貢献の実績に言及し「オバマ政権が日本の重要度を低減させることはない」と語る。
 ただ、両氏は、北朝鮮の核開発に刺激され日本が核武装に走る可能性については違った見方を示す。パール副所長は「米国が核の傘への完全な保証を日本に与え続ける限り、近隣で核軍拡競争が起きることはないだろう」と指摘。これに対し、アワー教授は「もし北朝鮮の核保有が容認され続けるならば、韓国、台湾、さらに日本までも核兵器保有へと動くだろう。これが大統領が指摘した核軍拡競争であり、北の核保有を許さない重要性もこの点にある」と話す。

●毎日新聞 平成21年7月29日号

http://mainichi.jp/select/world/news/20090729k0000e030022000c.html
米中対話:気候変動対策で提携 6カ国協議再開努力も確認
 【ワシントン小松健一】米中両国が経済や安全保障、気候変動など世界の課題を閣僚級で討議し、新たな協力関係構築を目指す「米中戦略・経済対話」の初会合は28日、2日間の日程を終えて終了した。両国は気候変動対策とクリーンエネルギー開発の提携を進める覚書に調印した。会議終了後に発表された共同報道文では、地球温暖化に関する京都議定書後の国際的枠組みに向けた協力の促進を確認した。
 また、北朝鮮核問題についても、6カ国協議再開と朝鮮半島の非核化実現に努力し、国連安保理決議に基づく対北朝鮮制裁措置の履行が重要との認識で一致。焦点の世界経済や金融システムの安定化でも協調姿勢を鮮明にした。主要8カ国(G8)、20カ国・地域(G20)会議を包括するテーマで連携を確認したことで、米中主導の構図が強まりそうだ。
 閉会後の共同記者会見でクリントン米国務長官は「21世紀の積極的で包括的な米中関係の基盤を作った」と評価。中国の王岐山副首相も「完全な成功だ」と語った。
 クリントン長官は気候変動対策について「経済、外交、安全保障などあらゆる課題が収れんされる」と述べ、米中の緊密な関係の必要性を強調した。
 覚書はクリーンエネルギー開発、「低炭素」経済への移行などで協力を進め、温室効果ガス削減に取り組むことをうたった。削減の数値目標など具体策は盛り込んでいないが、「今後の協力の枠組み」(米政府当局者)を規定した。オバマ政権は中国との協議を加速し、気候変動対策の土台をつくり、インドなど新興国にも参加を呼びかけたい考えだ。
 ただ米国が、温室効果ガス削減の義務化と目標設定を拒む中国との関係を重視した場合、大幅な削減を目指す欧州連合(EU)などとの調整が難しくなる局面も予想される。
 会合ではイラン核問題、核不拡散体制、中国の人権問題なども協議。クリントン長官は「人権問題のような合意できない分野もあり、具体的な成果はすぐには生まれないかもしれないが、率直な意見交換ができた」と語った。

●産経新聞 平成21年7月29日号

http://sankei.jp.msn.com/world/america/090729/amr0907291004002-n1.htm
均衡した成長促進で協調 米中戦略経済対話が閉幕
2009.7.29 10:02
 【ワシントン=渡辺浩生】米中間の経済・安全保障問題を幅広く話し合う米中戦略経済対話が28日、2日間の討議を終えて閉幕した。両国は国際的な金融危機克服のために「均衡し、持続可能な経済成長」を促進することで一致。金融システムの安定と貿易・投資の一段の開放に向けて協力し、国際通貨基金(IMF)など国際金融機関における中国など新興国の発言権強化で協調することで一致した。
 共同声明によると、米国が自国消費に、中国が米国への輸出にそれぞれ過度に依存した経済成長の在り方を転換するため、具体的には米国が貯蓄率を、中国は消費の対国内総生産(GDP)比率をそれぞれ引き上げる措置を取ることで合意した。
 また、米国は危機脱却後、大型景気対策や米連邦準備制度理事会(FRB)による量的緩和政策など危機対応策を元に戻し、2013年までに財政赤字の対GDP比率を「持続可能な水準」に引き下げると表明。中国はサービス産業の発展や社会保障改革に取り組むとしている。
 さらに、金融システム強化に向けて米国は金融規制監督制度改革、中国は金利の自由化や外資系銀行の参入業務の拡大などの促進を継続。ただし、ドル基軸体制の見直しや中国当局による為替市場への介入など米中間の利害が対立する問題について、突っ込んだ議論は回避されたとみられる。
 一方、エネルギー消費で世界2大大国でもある米中は温暖化問題の対処に共通の役割と利益を有しているとして、地球気候変動とエネルギー・環境の協力強化に関する覚書を結んだ。
 環境技術の共同研究や開発を促進するほか、温室効果ガス排出削減の次期枠組み(ポスト京都議定書)の合意期限である12月の国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)の成功に向けた協調で一致したとしているが、2050年までの排出削減目標など米中の意見が対立する中身には踏み込まなかった。
 クリントン国務長官とともに米側の代表を務めたガイトナー財務長官は終了後の会見で「われわれは両国のみならず世界経済のバランスのとれた成長に向け、広範囲な協力の枠組みで合意した」と強調した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コメント (2)   トラックバック (1)

脱貧困の社会事業~ユヌス5

2009-07-29 08:51:59 | 経済
●ソーシャルビジネスとは

 ユヌスがここ数年、新たに打ち出しているのが、ソーシャルビジネスである。ソーシャルビジネスという言葉には、まだ定訳がない。私は、今のところ、短く言う時は「社会的企業」、説明的に言う時は「無配当型社会的目標達成企業」と訳すことにしている。また、グラミン銀行の金融とソーシャルビジネスの企業活動を総称する時は、社会事業と呼ぶことにする。
 グラミン銀行は融資だけでなく、さまざまな事業を展開している。その事業は一般の企業とは異なる方針で経営されている。その独自の経営形態を表す言葉が、ソーシャルビジネスである。
 ユヌスは、従来の企業は「最大利益追求型企業」だが、ソーシャルビジネスは「社会的な目標を達成するために考えられた企業」だと言う。ソーシャルビジネスは、普通の企業と同じように利益を目指す。しかし、株式への配当はない。得た利益は、すべて設立の目的である社会的な事業に投入される。こうすることで、企業として採算を維持しながら社会的に必要な事業を拡大していくことができる。配当はないが、出資者は投資金を何年かかけて回収できる。
 ユヌスは「貧困のない世界を創る」に次のように書いている。
 「ソーシャルビジネスは、企業として設計され、経営されるものである。製品やサービス、顧客、市場、費用、そして利益を伴っている。しかし、企業の利益最大化の原理は、社会的利益の原則に置き換えられている。投資家を喜ばせるために最大限の財務上の利益を集めようとするのではなく、ソーシャルビジネスは社会的な目標を達成しようとするのである」と。
 ソーシャルビジネスは、慈善事業ではない。慈善事業では、事業者は資金を一回使えばなくなってしまう。出資者にはお金は戻ってこない。ソーシャルビジネスの場合は、資金は回収が出来、半永久的に事業を続けられる。会社は目的である社会的利益を追求できる。出資者には出資金が戻ってくる。
 ただし、慈善事業も必要だとユヌスは言う。災害時、津波、地震等で被災者を救うには、すぐ救援のできる慈善事業が必要である。しかし、緊急事態が済んだ後はソーシャルビジネスで行ったほうが、より有効な事業ができるというのである。

●情報通信・環境調和等の事業を展開

 ユヌスは、グラミン銀行の経営を行いながら、従来の企業とは異なるソーシャルビジネスを設立し、様々な事業を展開してきた。その過程は試行錯誤の繰り返しだったようだが、現在では25の企業が活動している。
 そのうちの一つがグラミン・フォンである。グラミン・フォンは1996年に設立され、現在ではバングラデッシュ最大の企業になっている。同社は、全国の村々で携帯電話貸与のサービスを展開している。サービスに当たるのは、約30万人いるテレフォン・レディたちである。電話線を敷く固定電話ではなく、携帯電話を貸与することで、人々に情報と通信を提供している。
 情報通信の分野では、グラミン・テレコム(1995年設立)とグラミン・コミュニケーションズ(1997年設立)もある。両社は、農村地域にインターネットによる利益をもたらしている。発展途上国であるがゆえに、情報通信の発達の各段階を飛び越して、インターネットを利用することができている。
 環境問題に取り組むグラミン・シャクティという企業もある。同社は1996年に設立された。ソーラー住宅と生物燃料システムを推進し、地元の女性たちを太陽エネルギー関連の電子部品の生産に従事させ、訓練している。
 グラミン銀行は、これら以外にも多くの企業を設立し、社会的な目標の達成に努めている。ユヌスは、ソーシャルビジネスを使うと社会インフラの整備を急速に進められると言う。たとえば、道路を建設した場合は、企業・団体からは通行料を取り、貧しい人々は無料とする。そういうやり方で、インフラの整備を進めることが出来ると言う。

 次回に続く。
コメント   トラックバック (1)

「パル判決書」を世界に発信

2009-07-28 06:26:51 | 歴史
 「史実を世界に発信する会」(代表 加瀬英明氏)は、7月24日、渡部昇一氏による『パル判決書の真実』の英訳全文をサイトに掲示した。また同時に世界のマスコミ・学者・政治家等に案内文を発信した。 
 下記は、同会による通知である。英語を話す外国人を友人・知人にお持ちの方は、ぜひご活用願いたい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
http://news-hassin.sejp.net/?eid=1265053

2009.07.24 Friday
author : 発信する会:サイト管理者
SDHF Newsletter No. 16: 『パル判決書の真実』(渡部昇一)英訳全文をアップ

 『パル判決書の真実』(PHP)の序文で渡部先生は「東京裁判についてはもう知る必要がない。われわれが知る必要があるのは『パル判決書』のみである。」と書いています。
 『パル判決書』こそは、マッカーサー自身が認めた東京裁判の誤りを先行的に指摘した書であり、大東亜戦争、昭和史の真実を述べた書でもあります。
 700ページを越える『パル判決書』の重要なポイントを、判決書からの直接引用によってまとめ上げたのが『パル判決書の真実』です。この英訳版によって、世界の心ある人々に『パル判決書』を知ってもらい大東亜戦争の真実を知ってもらえるものと期待しています。
 発信する会のサイトに掲載するとともに、下記の案内を世界のマスコミ・学者・政治家等に発信しました。               

 史実を世界に発信する会 茂木


 The Tokyo Trials and the Truth of “Pal’s Judgment”

Of the eleven judges at the Tokyo Trials, only Radhabinod Pal had specialized in international law. Basing his position strictly on the law and rules of evidence,
he maintained that the Tokyo Trials were in error. He wrote a dissidenting judgment, in which he concluded that “each and everyone of the accused
must be found tnot guilty of each and every one of the charges in the indictment and should be acquitted of those charges.”
Prof. Watanabe introduces the major points of the 700 page “Judgment” by directly quoting Pal’s words in his book “The Tokyo Trials and the Truth of the Pal’s Judgment.”
You can read summary and the whole text at our site:

Summary: http://www.sdh-fact.com/CL02_1/63_S2.pdf
The whole text: http://www.sdh-fact.com/CL02_1/63_S4.pdf

Any questions are welcome.

Sincerely,

MOTEKI Hiromichi
Deputy Chairman and Secretary General
Society for the Dissemination of Historical Fact
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コメント

脱貧困の社会事業~ユヌス4

2009-07-27 08:53:51 | 経済
●単なる融資ではなく、生活の向上運動

 グラミン銀行では、利用者に約束をさせる。借り手は「16カ条の決意」を学ぶ。その内容は次のとおりである。

1.私たちはグラミン銀行の4つの原則である規律、団結、勇気、勤勉に従い、どんな人生を歩むことになっても、それを実現することを誓います。
2.私たちは家族に繁栄をもたらします。
3.私たちは壊れかけた家には住みません。私たちは家を直し、出来るだけ早く新しい家を建てられるように働きます。
4.私たちは一年中野菜を育てます。私たちは、その野菜をたくさん食べ、残りがあれば売りに出します。
5.種まきの時期には、私たちはできるだけ多くの種をまきます。
6.私たちは家族の人数をなるべく増やさないように家族計画を行います。出費を少なくします。健康に留意します。
7.私たちは子どもに教育を受けさせます。教育を受けさせられるような収入を得られるようにします。
8.私たちはいつでも子供たちや、周囲の環境を清潔にしておきます。
9.私たちは簡易トイレをこしらえ、それを使います。
10.私たちは飲む前に水を沸騰させるか、ミョウバンを使います。私たちは、砒素を取り除くためにピッチャーのフィルターを使います。
11.私たちは息子が結婚するときには、持参金を要求せず、娘が結婚するときには持参金を渡しません。私たちは持参金の呪いにセンターを巻き込まないようにします。私たちは幼い子供同士の結婚を認めません。
12.私たちは誰かに不正を押し付けることも許しません。
13.私たちはより高い収入を得るために、みんなで集まってより大きな投資を始めます。
14.私たちはいつもお互いに助け合います。もし誰かが困難に陥ったら、その人を助けます。
15.どこかのセンターで規則違反があったときには、私たちはそこへ出かけていって、規則を回復するのを助けます。
16.私たちはあらゆる社会活動にそろって参加します。

 これらの16カ条は、銀行がお金を貸す人に守らせる約束を大きく超えている。グラミン銀行は、単にお金を貸して返済を求めるのではなく、人々が貧困から抜け出して、生活を向上させることを誓わせているのだ。これは、生活向上運動といえる。

 ユヌスは、グラミン銀行が「16カ条の決意」を採用するようになってから、ほとんどすべての借り手が学齢に達した子どもを入学させるようになったという。融資による貧困からの脱出が、教育の普及をもたらしているのである。しかも、グラミン銀行は、上級学校に行く子どもには奨学金を出し、教育ローンも提供している。現在3万5千人が利用しているという。

●マイクロクレジットの世界的な広がり

 ユヌスが始めたマイクロクレジットは、バングラデッシュから多くの開発途上国に広がった。それらの国々では、NPOや政府機関、あるいは企業経営者が始めた何千もの組織が、グラミン銀行の成功を見習って、マイクロクレジットを行っている。今では世界の約60カ国で、1億人以上もの貧しい人々がマイクロクレジットの恩恵を受けるようになっているという。
 グラミン銀行自体は、バングラデッシュの国内だけで運営されている。「他国にはいかなる支店も部門もない。また、私たちは、世界のどこかで運営されているマイクロクレジット組織と提携しているわけでもないし、そういった組織に対して何の責任も持たない」とユヌスは著書に書いている。
 またユヌスは言う。「マイクロクレジットはアジアで最も大きく広がった。しかし、また、それはアフリカ、ラテンアメリカの国、そして中東にも足がかりを持っている。マイクロクレジットは合衆国を含む世界の多くの国の貧しい人々の間で動き始めている。これらのプログラムの多くが、その運営方法をグラミン銀行にならっている」と。
 しかし、グラミン銀行は、バングラデッシュで自国に合ったやり方で脱貧困の取り組みをしているのであり、他の国では、自分の国にあったやり方を工夫すればよいのである。ここで、ユヌスが、「マイクロクレジットは合衆国を含む世界の多くの国の貧しい人々の間で動き始めている」と書いていることは注目に値する。私見を述べると、世界で最も富裕な国であるアメリカ合衆国にも、困窮者が多数存在する。大富豪が多数いるにも関わらず、富は一部に集中し、わずかな助けを求めている人々にはめぐってこない。アメリカはそうした自国の社会構造を世界規模に拡大しようとしてきた。アメリカ文明の世界化は、自由とデモクラシーのもとに、貧富の格差の世界化を生み出している。
 ユヌスは言う。「貧しい人々にお金を貸すために、どんな国にも多くのお金が用意されている。それを流動させ、貧しい人々が使えるようにすることがすべての課題なのだ」と。これは非常に重要な発言である。私見によれば、現代の資本主義は、一部に巨大な富が集中し、多くの人々は貧困にあえいでいる。体の一部に巨大なできものが出来て、そこに血液が滞っているようなものである。お金は、本来血液のように、全身に満遍なく、循環すべきものである。それによって、全体が健やかに成長する。富の配分、所得の再配分は、人類の社会が調和をもって発展するために不可欠な課題である。

 次回に続く。
コメント

トッドの人口学・国際論2

2009-07-25 09:36:44 | 文明
●トッドは、アメリカ帝国の解体をも予想する

 2002年(平成12年)、トッドは世界にその名を知られることになる著書を出した。それが、「帝国以後」(藤原書店)である。当時、アメリカは、ソ連崩壊後の唯一の超大国として、比類ない軍事力を誇っていた。しかし、アメリカ帝国は2050年前後までに解体する、という大胆な予測を、トッドは公表した。同書はフランスやドイツでベストセラーとなった。翌年には、わが国でも邦訳が出て、論議を呼んだ。
 本書でトッドは言う。「最近10年間に起きたこととは、どういうことなのか? 帝国の実質を備えた二つの帝国が対決していたが、そのうち一つ、ソビエト帝国は崩れ去った。もう一つのアメリカ帝国の方もまた、解体の過程に入っている。しかしながら共産主義の唐突な転落は、アメリカ合衆国の絶対的な勢力伸張という幻想を産み出した。ソ連の、次いでロシアの崩壊の後、アメリカは地球全域にその覇権を広げることができると思い込んだが、実はその時すでに、己の勢力圏への統制も弱まりつつあったのである」と。
 ソ連崩壊後、アメリカは、帝国への道を歩み始めた。アメリカは、基軸通貨ドルの力をもって、世界を経済的に主導している。クリントン政権は、IT革命を推進し、経済的な優位を一層確固としたものとした。同政権末期からアメリカは軍拡路線を進め、ブッシュ子政権は、2001年のいわゆる9・11、アメリカ同時多発テロ事件以後、軍事費を増大し、圧倒的な軍事力を誇っている。
 しかし、トッドは、こうした一般の見方に異論を唱え、アメリカ帝国の脆弱性を指摘する。アメリカは、クリントン政権の途中、1997年(平成9年)から他国への経済的依存性を強め、他国への依存なくして繁栄を維持できなくなっている。また軍事的には、他の大国と戦争のできるほどの力はない。そこでアメリカは、己が世界にとって不可欠なものであることを証明するために、「弱者を攻める」という政策を取っている。アメリカは、1990年代に中東で湾岸戦争・イラク攻撃を行なった。トッドは、アメリカは、イラクなどを世界に対する脅威に仕立て上げ、弱小国にのみ武力を行使する「演劇的小規模軍事行動」によって、己の必要性を世界に納得させようとしているのだ、と指摘する。

●本来のアメリカに戻れ

 トッドは、現在の世界について、次のように言う。「自由を保護するためにアメリカ合衆国に特段の活動が必要とされるような、世界的脅威はない。今日地球上にのしかかる全世界的均衡を乱す脅威は唯一つ、保護者から略奪者へと変質した、アメリカそのものなのである」と。
 トッドによると、世界はいま「二重の逆転」に直面している。かつて、世界はアメリカの経済力に依存していた。それが今日では、逆にアメリカが世界に経済的に依存するように逆転している。「アメリカは、相対的な経済力に関しては随分と落ち込んだとしても、世界経済全体から金を取り立てる能力を大量に増加させることに成功したのだ。つまりアメリカは客観的には略奪をこととする存在になったわけである」とトッドは批判する。
 「二重の逆転」のもうひとつは、デモクラシーが世界に広まりつつ一方、米欧の民主主義先進国では寡頭制に変わってきているという逆転である。「デモクラシーは現在、それが弱体であったところで前進しつつあり、それが強力であったところでは後退しつつあるのだ」とトッドは言う。
 トッドは、歴史的に見て、帝国には、軍事的・経済的強制力とイデオロギー上の普遍主義が必要だという。ところがこれらの資質が、アメリカには欠けていると指摘する。「その一つは、全世界の現在の搾取水準を維持するには、その軍事的・経済的強制力が不十分であるということ、二つ目は、そのイデオロギー上の普遍主義は衰退しつつあり、平和と繁栄を保証すると同時に搾取するため、人々と諸国民を平等主義的に扱うことができなくなっている、という点である」と。
 そして、トッドは、次のように明言する。「この二つの基準に照らしてみると、アメリカは著しい不足振りを呈する。それを検討するなら、2050年前後にはアメリカ帝国は存在しないだろうと、確実に予言することが出来る」と。
 こうしてトッドは、アメリカ帝国の衰退を予想する。そしてアメリカに対しては、帝国であろうとすることを止め、普通の国民国家に戻るよう勧めている。「世界が必要としているのは、アメリカが消え去ることではなく、民主主義的で自由主義的にして、かつ生産力の旺盛な本来のアメリカに立ち戻ることなのである」と。
 トッドの著書「帝国以後」は2002年(平成15年)刊行の書である。トッドは、この本で、「今後数年ないし数ケ月間に、アメリカ合衆国に投資したヨーロッパとアジアの金融機関は大金を失うことになるだろうと予言することができる。株価の下落はアメリカ合衆国に投下された外国資産が蒸発してしまう第一段階に過ぎない」と書いている。2008年(平成20年)に世界経済危機が顕在化したが、トッドは危機の到来を警告していたのである。アメリカが経済的・金融的に強大さを誇っていた時期に、こうした予測を公言していたトッドは、慧眼の士である。

 次回に続く。
コメント

脱貧困の社会事業~ユヌス3

2009-07-23 08:46:26 | 経済
●返済率は98.6パーセント

 グラミン銀行について、ユヌスは著書「貧困のない世界を創る」に次のように書いている。
 「創設以来、グラミン銀行は総額60億ドルの相当のローンを行なっている」「バングラデッシュでは、貧しい家庭の80%にマイクロクレジットがゆきわたっている」
 わずか27ドルをポケットマネーで貸すことから始まった小額融資が、約30年後に、2億3千万倍に増大し、バングラデッシュの多数の家庭に行き渡っているのである。
 マイクロクレジットは、30~40ドル相当の小額であることが多い。ユヌスは言う、「たとえ小額であっても、元手を手にすることで、人々は人生を変えられるのだ」「ビジネスを生み出す基盤として小額融資を受けることで、彼らの家族を貧困から脱出させることができるのである」と。
 「最も重要なのは、グラミン銀行の内部調査によれば、5年かそれ以上銀行の借り手となっている人々の64パーセントが、貧困線を越えることができていることだ」とユヌスは言う。「この31年間にバングラデッシュに限っては、何百万もの家族がマイクロクレジットの助けによって経済環境を改善することができたのである」。
 これは、大変素晴らしいことである。
 そして驚くべきことは、「返済率は現在、98.6パーセント」だという点にある。実に驚異的な数字である。一般の銀行は、困窮者は相手にしない。融資において担保を必要とする。しかし、そういう銀行が今日では不良債権を抱えて、経営危機に陥っている。これに対し、無担保で融資するグラミン銀行は、「まさに経営がうまくいっている銀行のように、着実に利益を上げている」とユヌスは言う。これは、銀行業に関する常識を覆す事実である。
 どうしてこんなにうまく脱貧困の自助努力と、銀行の健全経営が両立するのか。

●5人一組、女性がほとんど

 グラミン銀行が融資をする際、個人には貸さない。5人一組とし、互いが連帯保証人となるようにしている。このやり方は、試行錯誤の後に確立したやり方だという。
 「5人の仲間の一人がお金を借りたいときには、残りの4人から許可を得なければならない。それぞれの借り手が自分のローンに責任を持つが、小さな社会的ネットワークとしてのグループは、互いに励ましあうことで精神的なサポートになる」とユヌスは書いている。わが国には、江戸時代に五人組という隣保組織があった。五人組には貸借の立会いと連印の義務があったので、その一点では似た所がある。
 驚くべきことに、グラミン銀行の借り手は、ほとんどが女性である。今年(2009年)3月現在、800万人にのぼる利用者の97%は、女性だという。
 ユヌスは、著書に次のように書いている。「貧しい女性を信用して貸し付けると、男性に貸し付けるよりも家族に利益がもたらされる」「男性はお金を稼ぐとそれを自分のために費やす傾向があるが、女性はお金を稼ぐと家族全員、特に子供に利益をもたらすのだ。したがって女性に貸し付けることは、結局、家族全員への経済的利益とともに、地域の共同体全体に社会的利益をもたらす。滝のような効果を引き起こす」と。
確かに男性は、どこの社会でも、小銭が入ると遊んで使ってしまう傾向がある。しかし、伝統的な社会で女性にお金を使えるようにさせ、借りたお金で自家労働させるというのは、大変な苦労があったに違いない。

●人を信用し、創造性を引き出す

 ユヌスは今年3月に来日した際に行なった講演で、大意次のように語った。
 「よくグラミン銀行の成功の秘訣は何かと聞かれる。とりたてて調査したわけではないが、普通の銀行と反対のことをしただけなのだ。金持ちではなく貧しい人たちに貸した。男ではなく女性に貸した。都市部ではなく農村部で貸した。それから銀行員は窓口に座っているのではなく、利用者の家に出向いた。それだけのことである。私たちには契約書もないし、問題が起きたときのための弁護士もいない。信用すれば信頼されるというのが、借り手との関係である」と。
 ユヌスの言葉を解すれば、まず既成の発想を捨て、農村に行って直接人々に当たり、本当に人々が求めているものをつかみ取ったのだろう。そして彼の根底にあるのは、人を信じることである。
 ただし、グラミン銀行は慈善団体ではない。借り手は、自分自身で作り出す仕事を通して返済しなければならない。バングラデッシュはイスラムを国教とする、伝統的なイスラム金融では利子を取らないが、グラミン銀行は違う。企業として利益を出し、社会的な事業を拡大するために、利子を取る。銀行は、借り手に自立自活することを求める。小額を得た借り手は、一所懸命に働いて、きちんと返そうとする。金利は年率20%である。わが国の利息制限法では、元本10万円未満の金利は20%、10万円から100万円未満は18%ゆえ、消費者金融と変わらない年率である。
 グラミン銀行は、1984年に住宅ローンを導入した。住宅ローンの金利は8%。わが国では3~4%が多いから、これも決して低くない。本気で働かなければ、返済できない。しかし、貧しい人々が求める小額の融資は、その人々の内なる創造性を引き出すのだ。
 ユヌスは著書で言う。「開発の最初の、そして最も重要な仕事は、個々の人間の内部にある創造性のエンジンのスイッチを入れることだ。人々の創造的なエネルギーを花開かせるようなものでなく、貧しい人々の物理的な要求に応えたり、仕事を提供したりするにすぎないプログラムでは、真の開発プログラムとは言えないのだ。だからグラミン銀行は、貧しい人々に施し物や交付金ではなく、信用貸付を提供しているのである」と。
 これぞ信用貸しの精神といえるだろう。そして、本来の金融のあり方も、ここにあるのではないだろうか。

 次回に続く。
コメント

脱貧困の社会事業~ユヌス2

2009-07-22 09:44:47 | 経済
●ムハマド・ユヌスという人物

 本年(平成21年)6月4日、NHKテレビで、「未来への提言 ムハマド・ユヌス~世界を救うソーシャルビジネス」という番組があった。私は、知人から教えられ、彼が録ったDVDを見た。ユヌスについて何も知らなかった私は、ユヌスの活動と提言に感動した。それからユヌスの著書「貧困のない世界を創る」(2008年、早川書房)や来日の際の講演記録等を読んだ。ユヌスは「バングラデッシュの二宮金次郎」とでもいうべき偉人である。
 ムハマド・ユヌスは、バングラデッシュで貧困をなくすための取り組みをしている銀行家である。2006年度のノーベル平和賞を受賞した。彼が創始したマイクロクレジット(無担保小額融資)が世界約60カ国に広がり、多くの人々を貧困から抜け出させていることが評価されたものである。
 ユヌスは、銀行業を通じて貧困の撲滅に取り組んでいるだけでなく、数年前からソーシャルビジネス(無配当投資型社会事業)と呼ばれる新しい企業活動を展開している。ソーシャルビジネスは、資本制的企業のあり方を改善するための具体的な形態を示すものとなっている。

●マイクロクレジットをするグラミン銀行

 ユヌスの国・バングラデッシュは、世界の最貧国の一つである。日本の半分以下の面積に、1億5千万人の人口が住む。国民の4割は、1日2ドル以下の生活をしている。
 この国でユヌスは、グラミン銀行を経営している。グラミン銀行はマイクロクレジットを行なう銀行である。小額の融資をすることで、多くの人が最底辺の生活を抜け出すことを支援してきた。
 ユヌスは裕福な宝石商の家に生まれた。アメリカに留学し、経済学の博士号を取得した。その後、アメリカの大学で准教授をしていたが、1971年バングラデッシュの独立を機に帰国し、チッタゴン大学の経済学部長に就任した。アメリカ帰りのエリート学者だったユヌスが、どうして象牙の塔を出て、貧困の海に乗り出していったのか。
 きっかけは、1976年、ユヌスがチッタゴン大学の経済学部長だったとき、大学の隣にあるジョブラ村の人々にお金を貸したことによる。ジョブラ村では、村人が竹細工等をする元手を高利貸しに借りていた。ユヌスが調べたところ、42人で合計27ドル借りていた。村人はそのわずかな借金を返せず、いくら働いても高利貸しへの返済に追われていた。ユヌスは、ポケットマネーで27ドルを貸した。村人はみなものすごく喜んだ。それによって村人は、高利貸しに頼らなくて良くなった。
この体験によってユヌスは、貧しい人々が自立するために、小口の融資を行なうこととし、自ら銀行業を開始した。それが、グラミン銀行である。グラミンは、田舎とか村という意味である。グラミン銀行は「村の銀行」である。
 普通、貧しい人々は信用できないとされ、銀行からお金を借りられない。借りるとなれば、高利貸しに頼るしかない。しかし、グラミン銀行は、貧しい人たちにお金を必要なだけ貸す。融資に担保はいらない。無担保で竹細工、陶器作り、家畜等のために、3千円なり4千円なりの小額を融資する。そのわずかのお金を借りられることで、困窮者たちが貧困から抜けられているのである。
 グラミン銀行の本部は、バングラデッシュの首都ダッカにある。国内に2千5百の支店があり、2万3千人のスタッフが働いている。

 次回に続く。

コメント

脱貧困の社会事業~ユヌス1

2009-07-20 09:52:26 | 経済
 エマニュエル・トッドに関する小論「人口は均衡し世界は安定へ」は、週1回掲載する。これとは別に、その折々に関心のあることについて書く。本稿は、その一つである。

●資本主義をどう改革するか

 アメリカのサブプライム・ローンの破綻に端を発した経済危機は、2008年(平成20年)9月15日のリーマン・ショックによって、世界的な金融危機に拡大した。その影響は、実体経済に及び、アメリカ自動車産業のビッグ3のうち、ゼネラル・モータースとクライスラーは経営破綻に至った。わが国でも、消費の縮小、失業者の増大、新規採用の取り消し等が生じている。さらに大きな打撃を受けた中国では、経済崩壊の予兆が現れている。
 このたびの世界経済危機は、1929年(昭和4年)の世界大恐慌以来の出来事であり、資本主義の欠陥が改めて明らかになった。とりわけ強欲的・賭博的な資本主義の持つ破壊性が明確になった。
 資本主義は完全なシステムではない。しかし、社会主義・共産主義は、これに替わる選択肢ではない。ロシア革命以来の共産主義の実験は、ことごとく失敗に終わっている。共産主義は、資本主義と全く異なるものではなく、資本主義の統制的形態にすぎない。資本主義の矛盾を止揚するどころか、新しい支配階級を生み出し、共産党の独裁や個人崇拝、経済の停滞、環境の破壊等を生んだ。私たちは、共産主義への逆戻りではなく、資本主義の欠陥を補って、これを改善する道を進まねばならない。

 では、資本主義の欠陥を補って改善を行うには、何をなすべきか。どうすれば、資本主義の暴走を抑え、人類に有益なものとできるか。
私は今回の歴史的な経済危機を体験し、次のような課題の実行がポイントだと考えている。

①欲望の抑制
 資本主義は欲望を解放し、利潤最大化のため欲望を際限なく増大させる。その結果、戦争や環境破壊や貧富の差が生まれる。人類の生存と調和のためには、欲望を抑制するための規範や制度が必要である。

②金融機関への規制
 1929年大恐慌後、大恐慌発生の原因が追究され、金融機関に規制がかけられた。ところが新自由主義はその規制を廃止させた。そこに生まれたのが、強欲的・賭博的資本主義である。改めて金融機関への規制が必要である。

③中央銀行制度の廃止
 17世紀西欧に部分準備金と債務通貨の制度が現れた。無から富を生む仕組みが、私有中央銀行制度の基礎にある。欲望の追求を抑制するには、この制度を廃止し、政府が通貨の発行権を持つ必要がある。

④新しい国際金融機関の創出
 ④の改革は、各国内にとどまらず、国際的な規模で断行されねばならない。IMF・IBRD等の国際機関は、部分準備金と債務通貨による中央銀行制度に基づいている。これに替わる国際金融機関の創出が必要である。

⑤太陽エネルギーの活用
 近代資本主義は、19世紀には石炭、20世紀には石油を燃料として発達した。化石燃料は偏在し、投機の対象となる。化石燃料に依存する限り、資本主義の根本的な改革はできない。太陽光を中心とした自然エネルギーへの転換が必要である。

⑥資本制的企業の公益化
 資本制的企業は利潤最大化の原則によって活動している。その原理が、欲望の放恣や、それによる環境破壊、格差拡大等を生み出している。私的な利益の追求が同時に公共的な利益の実現になるような企業へと改革する必要がある。

 六つの課題を挙げたが、そのうち最後の資本制的企業の改革について、画期的な活動をしている人物に、バングラデッシュの銀行家ムハマド・ユヌスがいる。本稿は、2006年度ノーベル平和賞を受賞したユヌスの実践と提言の概要をまとめ、⑥の参考にするものである。

 次回に続く。
コメント   トラックバック (1)

トッドの人口学・国際論1

2009-07-18 13:34:57 | 文明
 拙稿「現代の眺望と人類の課題」を休止し、エマニュエル・トッドに関する連載を行う。30回ほどを予定している。

●人類の重大課題としての人口問題

 1972年(昭和47年)、ローマ・クラブが委嘱した研究グループが「成長の限界」というレポートを発表した。レポートは、人類はエネルギー、環境、食糧、人口等の危機にあることを明らかにした。その20年後、同じグループが「限界を超えて」という新たなレポートを発表した。人類が危機に有効に対処できておらず、危機が一層悪化していることを告げた。レポートは「持続可能な成長」という概念を打ち出し、具体的な行動を提案した。
 それから17年が経過した。長期的危機の解決より、現在の利益を追い求める経済活動は、2008年(平成20年)の世界経済危機によって、壁に激突した。これを機に、アメリカのオバマ大統領はグリーン・ニューディール政策を打ち出し、わが国では「太陽の時代」に向けた新しい産業革命が始まった。
 各国政府が積極的に太陽光発電、電気自動車、砂漠の水田化、水の造成と浄化等の新しい技術を活用することで、エネルギー、環境、食糧、水等の問題は、改善に向いうる。地球温暖化や砂漠化にも、対処する方法はある。しかし、仮にエネルギー、環境、食糧、水等の危機を解決に向けることが出来たとしても、なお重大な課題が残る。その一つが人口問題である。

 30数年前から私が人類にとって最も解決しがたい現象の一つと考えてきたのが、人口の爆発的な増加である。世界の人口は、20世紀初めは16億人だったが、年々増加を続け、1950年頃から特に増加が急テンポになり、「人口爆発」という言葉が使われるようになった。1987年(昭和62年)に人類の人口は50億人を突破し、2007年(平成19年)には66億人になった。2050年の世界人口は91億人になると国連では予想している。世界人口がピークを迎えるのは、21世紀末から22世紀になるだろうともいわれる。
 増え続ける人口は、大量のエネルギーを消費し、環境を悪化させ、食糧を高騰させ、水の争奪を起こし、紛争を激化させる。人口爆発は、新しい技術の活用によるエネルギー、環境、食糧、水等の問題への取り組みを、すべて空しいものとしかねない。だから、人口増加を制止し、「持続可能な成長」のできる範囲内に、世界の人口を安定させる必要がある。
 しかし、では、どうやって安定させるのか。これは難題であるが、私に一つの希望をもたらしてくれたのが、エマニュエル・トッドの予測である。トッドは、フランスの人口学者・歴史学者・家族人類学者であり、家族構造と人口統計の研究に基づいて、世界の人口は21世紀半ばに均衡に向かうと予測している。
 トッドは、1970年代半ばにソ連の崩壊を予測して的中させた。家族構造に注目したトッドの歴史観は「マルクス主義以降の最も巨視的な世界像革命」ともいわれる。2002年(平成14年)には、超大国アメリカの衰退を予想する著書「帝国以後 アメリカ・システムの崩壊」(以後、「帝国以後」)で、世界的に話題を呼んだ。トッドは、サミュエル・P・ハンチントンの「文明の衝突」を批判して、「文明の接近」を予測する。その発言は、文明学や国際関係論に関心を持つ者だけでなく、日本の進路を考える多くの人々に、有効な示唆を与えている。
 本稿は、こうしたエマニュエル・トッドの主張を整理し、考察を行なうものである。

●トッドはソ連の崩壊を予測し、的中させた

 トッドは、ユダヤ系フランス人である。家族は改宗ユダヤ人であり、トッド自身はユダヤ教育を受けていないという。ユダヤ人としての民族意識を持った非ユダヤ教的ユダヤ人と言えるだろう。
 トッドは、1976年(昭和51年)に発表した「最後の転落」で、「10年から30年のうちにソ連は崩壊する」と予測した。小室直樹氏が、書名もズバリ、「ソビエト帝国の崩壊――瀕死のクマが世界であがく」(光文社)を出し、「ソ連の内部崩壊はもう止められない」と書いたのは、80年(55年)である。またラビ・バトラが「資本主義と共産主義の崩壊」に「2000年までに共産主義は崩壊し、2010年前後に資本主義が終焉する」と記したのは、78年(53年)だから、トッドは非常に早い段階で、ソ連の崩壊を予想していたわけである。
 トッドがソ連崩壊論を発表した当時、ソ連研究の専門家は、ソ連では独裁と恐怖政治によってソビエト的人間が作り出されており、全体主義は永遠に続くと考えていた。この説をトッドは否定した。

 トッドによると、西欧の社会では、近代化の過程で、識字率が上昇した後に、出生率が低下するという傾向が一般に見られる。識字率とは、読み書き計算のできる人間の比率である。読み書き計算ができるようになることを、識字化という。出生率とは、わが国でいう合計特殊出生率の略称である。出生率とは、女性が一生の間に産む子供の数の平均である。出生率の低下は、主に女性が出生調節(controle des naissances)をすることによって起こる。出生調節は、産児制限(birth control)のことであり、受胎と出産を含む調節である。
 トッドは、人口統計を分析し、ソ連でも識字率の上昇の後に出生率が低下していることに注目した。これは、西欧と同様に、ソ連が近代化の過程を進んでいることを意味する。識字率の上昇によって、西欧では個人の意識が高まり、民衆の政治参加が行なわれ、市民革命が起こった。ソ連においても、同様にして個人の意識を持った人間が出現する、とトッドは予測した。「正常な人間には共産主義を打倒する能力がある」とトッドは述べ、ソビエト的人間による全体主義の永続説を否定した。
 もう一つ、トッドは、ソ連の乳幼児死亡率に着眼した。乳幼児死亡率とは、1歳以前に死亡した子供の比率である。近代化する社会では通常、乳児死亡率が下がっていく。ところが、ソ連ではそれまで下がり続けていた乳幼児死亡率が、1970年(昭和45年)から再び上がり始めていた。ここにトッドは重要な徴候を見た。乳幼児は、社会の中で一番弱い存在である。その乳幼児の死亡率が上昇しているということは、ソ連の体制が最も弱い部分から崩れ始めている、とトッドは洞察した。
 こうしてトッドは、早くも1976年(昭和51年)に、「10年から30年のうちにソ連は崩壊する」と予測した。ソ連は実際、91年(平成3年)に崩壊した。このことにより、トッドは、現代の予言者と見なされることとなった。
 わが国では、トッドは広く知られているとはいえない。しかし、現代世界で最も注目すべきオピニオン・リーダーの一人だと私は評価する。

 次回に続く。


■追記

本稿を含む拙稿「家族・国家・人口と人類の将来~エマニュエル・トッド」は、下記に掲示しています。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09h.htm
コメント   トラックバック (2)