ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

対中防衛論9~日本を守るために団結しよう

2021-04-30 08:38:47 | 国際関係
●高い確率で起こり得る未来

 米中対決で中国が勝利した場合に予想される日本とアジア太平洋地域の未来は、悲惨なものとなることが高い確率で予想される。まさかと思う人が多いかも知れない。だが、今から80年前の昭和16年(1941年)の今日、4月30日、そのわずか4年4ヶ月ほど後に、日本が米国に占領され、東京が焼け野原になり、台湾も朝鮮も失い、日本の歴史や道徳が否定されてしまうことを予想していた人は、ほとんどいなかっただろう。しかし、そういうマサカが、現実に起こった。
 オーストラリアの元スポーツ観光省大臣アンドリュー・トムソンが書いた『世界の未来は日本にかかっている~中国の侵略を阻止せよ!』は、日本人に警告と奮起を呼びかける書である。
 トムソンは言う。「中国が軍事力増強と超限戦を行使して、日豪の二国を属国にしようとしている現実を直視しなければなりません。私たちは、アメリカの庇護に永遠に依存することはできません。日本が法の支配を維持し、来るべき中国との軍事衝突に備えることが非常に重要です」
 「クアッドのメンバーはこの地域を守る準備をしなければなりませんが、アメリカの深刻な内部分裂のために、オーストラリアと日本はクアッドでもっとも大きな役割を果たさなければならないという厳しい現実があります」
 「日本は憲法を改正し、尖閣諸島だけでなく台湾を守るために海上で戦う準備をしなければなりません」
 「台湾が降伏すれば、世界は大惨事に陥り、日本は主権を失うことになるでしょう」
 「日本だけが世界を救うことができるのです」と。
 国際関係アナリストの北野幸伯氏は、氏の発行するメール・マガジン「ロシア政治経済ジャーナル」に、本書について、次のように書いている。

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(略)『世界の未来は日本にかかっている~中国の侵略を阻止せよ!』には、「米中覇権戦争で中国が勝利したらどうなる?」というシミュレーションが書かれています。
 要点だけピックアップしてみましょう。
 まず、「中国勝利」までのプロセスは?

・中国が台湾を侵略し、戦争がはじまる。
・中国は、アメリカ、日本、オーストラリアに、大々的なサイバー攻撃を仕掛ける。
・中国は佐世保とグアムにミサイルの飽和攻撃を実施し、米軍の佐世保海軍基地とグアムの空軍基地を破壊する。
・この時日本人5000人と、米軍人300人が亡くなる。
・習近平は、横須賀に核攻撃すると脅迫しつつ、同時に停戦をオファーする。
・中国の要求は、「台湾の占領を邪魔しない見返りに、日本、アメリカへの攻撃を停止する」こと。
・アメリカ大統領は、これに同意する。
・停戦合意が成立し、人民解放軍は、台湾を占領。
・台湾は、消滅する。

 これで、中国は、いったん勝利しました。
 しかし、つづきがあります。

・中国からのサイバー攻撃で、日本、アメリカの経済はボロボロになり、大量の失業者が出る。
・中国は、日本に「21か条の要求」を突きつける。
・日本が要求に同意しない場合、中国は、「中東、欧州、オーストラリアから石油、ガス、穀物が入らないようにする」と脅迫する。
・中国は、アメリカ、インド、オーストラリアとの同盟関係「クアッド」を終わらせるよう要求。
・日米安保は解消され、米軍はすべて日本から撤退する。
・日本は「尖閣は中国領」と認める(認めさせられる)。
・沖縄県は中国によって独立を強制され、「琉球王国」が復活する。
(もちろん、実態は、中国の属国。)
・その際、自衛隊は、沖縄から完全撤退する。
・中国企業が続々と東証に上場。中国政府は、日本の機関投資家に、中国企業株購入を強制する。
・日本の外貨準備の3分の1は人民元になる。
・日本の米国債購入は、禁止される。
・中国企業は、日本の機関投資家から調達した莫大な資金を使い、日本企業を激安価格で買いあさる。
・中国は、「中国、日本、韓国」からなる「東アジア自由同盟」をつくり、事実上、日韓経済を支配する。
・これに反対するテレビ局、新聞、雑誌は、報道、出版を禁止される。
(つまり中国本土がそうであるように、言論の自由は消え
る。)
・日本の義務教育は、すべて中国語によって行われるようになる。

 ここまでは、オーストラリアの元副外相アンドリュー・トムソンさんの本に書かれていることです。
 私が少し補足しておきましょう。

・中国は、ウイグル人100万人を強制収容している。同じように、「反中的言動」をしてきた日本人を大量に強制収容所に送る。
・中国は、ウイグル女性に不妊手術を強制し、民族絶滅政策を実施している。
同じように、日本の女性は不妊手術を強制され、日本人は絶滅に向かう。
@必読参照↓
https://www.newsweekjapan.jp/.../2020/07/post-93907.php
・中国は、共産主義、無神論ベースの国である。それで、神道、仏教、キリスト教は、事実上禁止される。神社、寺院、教会は、ことごとく破壊される。ひきつづき何かの信仰をもつ人は、イスラム教を信じるウイグル人、チベット仏教を信じるチベット人同様、殺されたり、強制収容所送りにされる。
・チベット仏教のトップ・ダライラマは、亡命を余儀なくされた。
同じように神道のトップである天皇陛下は、イギリスへの亡命を余儀なくされる。
・中国は、チベット仏教ナンバー2のパンチェンラマを拘束し、自分たちで勝手に別のパンチェンラマを選んでしまった。同じように、日本にも「中国共産党が選んだ天皇陛下」が誕生する。
 
 私が書いたことは、すべて中国が、中国、チベット、ウイグルでした事実を基に予想しています。だから、「バリバリあり得ること」なのです。こんな「ディストピア」に住みたくなければ、私たちは決心しなければなりません。(略)
―――――――

●結びに~日本を守るために団結しよう

 共産中国は、凄まじい勢いで軍拡を続けている。世界最強の軍隊を作り、2049年の中華人民共和国創設100周年までに世界覇権を握ろうとしている。世界的な覇権の確立という戦略的な目標を持って、ここ数年内にも台湾、尖閣諸島の略取、西太平洋の制海権の獲得を狙っている。
 わが国は、共産中国の軍拡の過程と現状を踏まえ、日米の連携を軸とした国際協力を組織し、対中防衛体制の強化を急がねばならない。とりわけ尖閣諸島を守ることは沖縄を守ることであり、沖縄を守ることは日本を守ることである。日本を守るための努力が、インド太平洋地域の平和と安定に寄与する道でもある。
 今こそ日本人は団結し、最善を尽くさなければならない。そのために最も必要なこと、それは日本人が自己本来の精神、日本精神を取り戻すことである。日本精神の復興なくして、日本は自らの運命を切り開くことは出来ない。

 次回から付録資料を掲示。

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

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仏教145~西欧では「虚無の信仰」と恐れられる

2021-04-29 08:42:17 | 心と宗教
●仏教は「虚無の信仰」と恐れられる

 仏教を知った西欧知識人の多くは、これを恐れた。そのことを明らかにしたのが、フランスの哲学者ロジェ=ポル・ドロワである。
 ドロワの著書『虚無の信仰―西欧はなぜ仏教を怖れたか』によると、19世紀の西欧の知識人は、仏教は霊魂の消滅を願うものであり、「虚無の信仰」だとして非難した。虚無の信仰とされた理由は、仏教が目標とする涅槃(ニルヴァーナ)の意味するものが、西洋人には理解できなかったからである。そして、彼らは、やがて西欧全体がこの不気味な宗教に呑み込まれて、底知れぬ暗黒の中に引きずり込まれるのではないかと恐れた。
 ドロワは、「本書は近代ヨーロッパ史の一時期を扱っている。それは、西洋の学者たちが仏教の教義を学術的なレベルで発見した時期である。本書で特に考察の対象としたのは、この発見が生みだした空想の産物である。東洋学の専門家の研究成果をもとにして、ドイツ、フランスの哲学者は、架空の、ニヒリズムの仏教なるものをつくりあげた。そこに、『虚無の信仰』が出現したのである」と書いている。
 西欧では、19世紀のはじめからインド学・仏教学が大きく発展し、仏教に関する正しい知識がヨーロッパに伝えられつつあった。だが、西欧の思想家たちは、専門家による学術的な成果を無視し、かえって仏教に対する恐怖は増大した。
 ドロワは、仏教を虚無の信仰としてとらえた知識人として、フランスのクーザン、ルヌヴィエ、テーヌ、ルナン等の思想家だけでなく、ドイツのヘーゲル、ショーペンハウアー、ニーチェ等の思想家を挙げている。
 最初に仏教を「虚無の信仰」と決めつけたのは、ヘーゲルで、1820年代だとされる。ヘーゲルは、キリスト教プロテスタンティズムに基づく体系哲学を構築した。彼は、哲学的観点から、仏教はひたすら自己の魂の消滅をめざす「虚無の信仰」だと決めつけた。1820年代末のことである。ドロワは、ショーペンハウアーとニーチェも仏教を「虚無の信仰」ととらえたという。私はこの点に関しては異論がある。彼らについては、後の項目に書く。
 ドロワは、フランスの思想家たちが、仏教の涅槃を aneantissement(アネアンティスマン)という言葉で理解したことが重要だったことを指摘している。この言葉の動詞は aneantir(アネアンティール)で「何かをなくすこと」「何かを消滅させること」を意味する。aneantissementが仏教の教義に使われたとき、涅槃は「魂の消滅」を意味すると理解された。「魂の消滅」という言葉によって、仏教に「自我の破壊」「意識の消失」「思考の停止」という特徴が付けられ、誤解が拡大した。
 ドロワによると、仏教にこれらの特徴が付与されたのは、1844年に東洋学者のウジェーヌ・ビュルヌフが『インド仏教史序説』を発表してからである。ビュルヌフは、本書で仏教の修行について、「涅槃(ニルヴァーナ)、すなわち完全なる魂の消滅(アネアンティスマン)の状態に入り、身体と魂の決定的な破壊が行われた」と書いた。ローマ・カトリック教会の説教師や宣教師は、この見解を拡張解釈し、「あらゆる属性、あらゆる行為、あらゆる懈怠が次々に破壊された後には、もはや空虚な空間のなかにただひとつの休息(涅槃)しか残っていない」と断定した。彼らにとって、涅槃は虚無そのものであり、サタンの行為そのものだった。
 キリスト教徒にとっては「魂の消滅」は、恐るべきことだった。魂が消滅するならば、キリスト教の神の救済を得られなくなるからである。それゆえ、仏教は、神によって救われるべき魂を消滅させる教えであると誤解し、仏教に恐怖を感じ、悪の宗教だという極端な攻撃までが現れたのだろう。
 ドロワは、こうした事態をある文化が異なる文化と出会った時に起こる事態だと見ている。人間は、自らの価値を根本から否定する他者を恐れる。自らの文化に異なる文化が侵入し、自らの文化を根底から覆してしまうのではないかと恐怖する。西欧人が仏教を「虚無の信仰」として恐れたのは、そうした反応だったことをドロワは、指摘している。
 19世紀の西欧で仏教が恐れられたのは、科学の発達によってキリスト教の権威が揺らぎ、キリスト教の信仰への疑問を持つ者が現れ出した時期だったことが関係しているだろう。次に述べるショーペンハウアーとニーチェは、この時代において、仏教をドロワのいう「虚無の信仰」としてではなく、独自の解釈で理解して自らの思想を展開した哲学者である。

 次回に続く。

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 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
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対中防衛論8~超限戦による習近平・中華共産主義の野望を破れ

2021-04-27 10:16:51 | 国際関係
●超限戦による習近平・中華共産主義の野望を破れ

 共産中国の軍事思想は、20世紀末に大きく変化した。従来の戦争の限界を超えた「超限戦」という考え方を取るようになった。
 元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は、「中国が仕かける超限戦の実態と人民解放軍改革」と題した論文に、次のように書いている。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45997
 「超限戦は、中国人民解放軍の大佐2人(喬良と王湘穂)が1999年に発表し、発表された当初から世界的に大きな反響を呼んだが、現在の中国やロシアの動向を観察すると、両国は超限戦を実践していると言える。
 超限戦は、湾岸戦争(1990年~1991年)などにおける米軍の戦略、作戦、戦術を研究して導き出された戦略であり、中国の孫子の兵法をも融合したものである。
 超限戦は、文字通りに『限界を超えた戦争』であり、あらゆる制約や境界(作戦空間、軍事と非軍事、正規と非正規、国際法、倫理など)を超越し、あらゆる手段を駆使する『制約のない戦争(Unrestricted Warfare)』である。
 正規軍同士の戦いである通常戦のみならず、非軍事組織を使った非正規戦、外交戦、国家テロ戦、金融戦、サイバー戦、三戦(広報戦、心理戦、法律戦)などを駆使し、目的を達成しようとする戦略である。
 倫理や法の支配さえも無視をする極めて厄介な戦争観である。
 中国は、現在この瞬間、超限戦を遂行している。例えば、平時からサイバー戦を多用し情報窃取などを行っているし、三戦(広報戦、心理戦、法律戦)を多用し、東シナ海や南シナ海で『準軍事手段を活用した戦争に至らない作戦』(POSOW:Paramilitary Operation Short of War)を多用している。
 POSOWの典型例は、南シナ海で領土問題を抱える諸国に対して、海軍の艦船を直接使用することなく、漁船、武装民兵、海警局の監視船などの準軍事的な手段を駆使し、中国の主張を強制している。『戦わずして勝つ』伝統を持つ中国は、軍事力の行使をしなくても様々な手段を駆使した戦いを実践しているのである」
 渡部氏が「あらゆる制約や境界を超越し、あらゆる手段を駆使する『制約のない戦争』」であり、「倫理や法の支配さえも無視をする極めて厄介な戦争観」と書いていることは、一言で言えば「目的のためには手段を選ばない」ということである。そして、この「目的のためには手段を選ばない」という思想こそ、共産主義の革命運動の特徴である。革命は正義であり、正義の実現のためには、どのようなことも許されるということある。私は、このような見方から、超限戦は、共産主義国家・中国でこそ生み出された考え方だと思う。
 中国共産党の軍隊である人民解放軍が行う戦争は、単に領土を拡大するための戦争ではない。社会主義を世界に広めるための戦争であり、革命戦争と見るべきである。そこには、資本主義から社会主義への移行は、歴史的な必然だとするマルクス=エンゲルスの歴史観がある。レーニンは、彼らの唯物史観に立って、ロシア革命を指導した。ドストエフスキーは「もし神が存在しないとすれば、人間にはすべてが許される」と苦悩したが、神も霊も信じない共産主義者、神の罰も霊の祟りも恐れない唯物論者は、革命を実現するために、いかなる非道悪行をも正当化する。謀略と粛清がロシアの大地を赤く染めた。ソ連は、革命の根拠地国家であり、コミンテルンは革命を世界に広めるための国際的な工作機関として活動した。中国共産党は、こうした世界革命戦略のもとに、コミンテルンの中国支部として1921年に設立された。今年がその結党100周年の年である。
 ソ連の崩壊後、唯物史観や革命戦争という考え方は、歴史の彼方に消え去ったと思っている人が多い。だが、中国において共産主義を信奉する者たちは、いかに経済が発展し、資本主義社会以上に資本主義的な経済社会となっても、こうした歴史観・戦争観を持ち続けているに違いない。そして、こうした思想を固く信じている指導者が、習近平なのである。
 トランプ政権の安全保障担当の大統領補佐官を務めたマット・ポッティンジャーによると、習近平は2013年(平成25年)に共産党の中央委員会のメンバーに向けて行った演説で、次のように語ったとのことである。
 「共産主義は幻想に過ぎないと考える人がいる。だが、資本主義社会の基本的な矛盾についてのマルクスとエンゲルスの分析は時代遅れにはなっていない。資本主義は必ず滅び、社会主義が必ず勝利を収めることは必然的な流れである。この道は曲がりくねっているが、それでも最終的に資本主義の滅亡と社会主義の勝利に至るだろう」
 この発言から、習近平は、マルクス=エンゲルスの唯物史観に基づいて、資本主義から社会主義への移行を歴史的な必然と考えていることが分かる。そして、彼は、その必然性を現実化するための戦略を立てて計画的に行動しているのである。
 われわれは、この点をよく認識することが必要である。そして、習近平においては、社会主義の実現を歴史的必然と信じる思想と、それを世界的に実現するのは中華民族であり、中国共産党の最高指導者である自分だという思い込みが合体しているところに、強い信念が生じているのである。
 マルクス主義は本来、民族を超えた階級闘争の思想だが、旧ソ連でレーニン、スターリンが共産党官僚による統制主義の理論に変え、中国で毛沢東がこれに中華思想を注入し、さらに習近平が漢族のナショナリズムを付加した。習近平は愚鈍に見えるが、彼の個人的な権力欲と民族的な復讐心が燃えたぎる中華共産主義を侮ってはならない。
 中華共産主義は、古代的な華夷秩序の思想と共産主義の独裁体制が合体したものである。中国共産党は、まずシナ大陸でチベット、ウイグル、モンゴル等の少数民族への支配を進めて来た。新彊ウイグル地区で、ウイグル人への激しい迫害が行われている。米欧諸国は、その迫害をジェノサイド(民族絶滅)として非難している。習近平は、人口の1割に上る約100万人を強制収容所に収容し、漢族に同化させるための教育をし、女性に不妊手術を強制し、性的暴行を繰り返すなど、民族を消滅させる政策を行っている。文化大革命や法輪功弾圧で伝えられて来た凄惨な虐待を思い起こさせる。唯物論的共産主義を教育された者には、権力に従うことの他に道徳も良心もない。悪逆非道をやめさせるには、それを命令し許容している共産党を除く以外に、方法はない。もし国際社会がそれに失敗したら、現在ウイグル人に対して行われていることが、世界各地で行われるようになる。なかでも日本人は、最も激しい虐待を受けることになるだろう。共産党によって、中国の国民は反日的な感情を徹底的に植え付けられているからである。日本人が自らの運命をかけてこの危機を乗り越えるには、中国共産党の思想・戦略・計画をしっかり理解して対応しなければならない。
 2020年(令和2年)10月、共産中国で注目すべき図書が発行された。中国国防大学教授の劉明福の著書『新時代の中国の強軍夢』である。習近平体制下での「強軍夢」の位置づけ、意義、その狙いと戦略思想、実現に至る時間表などを論述したものであり、元陸将補で軍事研究家の矢野義昭氏が内容を紹介し、分析を行なっている。
 矢野氏の論文は、「中国の国防大教授が明かす台湾統一への戦略と日程表 中国共産党が夢想する世界制覇は実現するのか」と題され、JBPress 2020.12.21付に掲載された。矢野氏がこの論文の結論部に書いていることは、極めて重要である。
 「中国共産党の独裁体制が維持される限り、『2049年には世界最強の軍隊を建設する』との習近平氏が掲げた『強軍夢』に向けて、中国共産党は長期一貫した国家資源の投資を継続するとみるべきである。
 今後も中国の軍事的な脅威は持続し、我々がそれに対抗して軍事的抑止能力と対処力を向上させなければ、力の均衡が破れ、紛争が生起する恐れが高まる。
 また戦ったとしても敗北し、あるいは戦わずして政治的に屈し、中国の最終目標達成前に日本も台湾も各個に撃破されていく恐れもある。
 これからの10年から30年は、世界制覇の野望を露わにして邁進する中国共産党の軍事的脅威を抑止し制圧するための苦しい戦いが続くであろう。
 しかし、勝ち目がないわけではない。中国共産党の脅威に直面している世界の多くの国々、とりわけ米国はじめ、台湾、インド、豪州、東南アジアなどの諸国と連携しつつ、日本自身が自立防衛態勢を高めるならば、十分に勝算はある。
 日本は、中国との対峙態勢における前線国家の立場にある。
 日本はまた、今世紀半ばになり人口が1億人に減少しても、依然として世界的な経済・科学技術大国の地位を維持し、インド太平洋での米国の最も重要な同盟国であり続けるとみられている。
 日本が、インド太平洋地域の安定と繁栄に果たす役割は極めて重要であり、日本の去就が、インド太平洋戦略の成否を決すると言っても過言ではない。
 日本の責任は今後とも極めて重大であり、その期待と責任に応え得る自立防衛態勢を確立することは、現在の日本にとり最大の課題と言えよう。
 防衛力の増勢には少なくとも十年を要する。残された時間は多くない」と。
 私は、劉明福著『新時代の中国の強軍夢』と本書に関する矢野氏の論文を非常に重要なものと考えている。そこで、拙稿に付録資料として付加し、同憂の方々の参考に供したい。

 次回に続く。

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 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
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 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
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仏教144~仏教と西洋文明の関わり

2021-04-26 08:37:41 | 心と宗教
●仏教と西洋文明の関わり

 紀元前4世紀、マケドニアの王アレクサンドロスはギリシャ地方を征服した後、東方遠征を行った。ペルシャ帝国を滅ぼし、インダス川流域にまで進出して大帝国をつくった。ここでギリシャ人は仏教と出会った。また、2世紀前半、インドのクシャーナ朝では、陸路でローマ帝国との交易が盛んに行われた。インド文明では、ヘレニズムの影響によって、ガンダーラ王国で仏像彫刻が造られた。だが、古代ギリシャ=ローマ文明では、仏教がギリシャ人、ローマ人に影響を与えることは、ほとんどなかった。
 ローマ帝国の滅亡後、地中海からアルプス以北の地域でヨーロッパ文明が発達した。14世紀、ヴェネチア商人のマルコ・ポーロは、アジア諸国を旅して、『東方見聞録』を書いた。モンゴル帝国時代のシナで、甘粛省の大仏寺を訪れ、釈迦の涅槃像を見たという。
 15世紀末、ヴァスコ・ダ・ガマがインド航路を開き、16世紀半ばからイエズス会がインド各地でキリスト教の宣教をした。17世紀からイギリス、オランダ、フランスがインドに進出した。サンスクリット語に精通したイエズス会の宣教師が現れ、ヒンドゥー教や仏教がヨーロッパに伝えられたが、キリスト教関係者以外の知識人に知られることはなかった。
 変化が現れたのは、18世紀の後半だった。1757年のプラッシーの戦いでフランスを破ったイギリスは、以後、インドの諸国を次々に征服し、植民地化を進めていった。インドに裁判官として赴任していた言語学者・東洋学者のウィリアム・ジョーンズは、1786年に驚くべき発見をした。サンスクリット語とギリシャ語・ラテン語等の欧州系諸言語、古代ペルシャ語の語彙と文法に類似点があることを発見したのである。そして、これらの諸言語は共通の祖語から分岐したという説を発表した。
 フランスやイギリスから植民地の統治のため、官僚や研究者等がインドに行き、現地の宗教や文化を調査・研究した。それによって、インド学が興隆した。インド学とは、インド文明の古典であるヴェーダや叙事詩、仏教やジャイナ教の文献等を対象として、それらが記された言語や思想を研究しようとするものである。
 フランスの東洋学者アンクティル・デュペロンは、志願兵としてインドに渡り、1771年にゾロアスター教の聖典アヴェスターのフランス語訳を行った。1804年にはウパニシャッドのペルシャ語訳である『ウプネカット』のラテン語訳を成し遂げた。サンスクリット語ができなかったので、ラテン語に重訳したのである。ウパニシャッドの翻訳は、ヨーロッパ人にインド思想の独創性と深遠さを知らしめることになった。
 ドイツでサンスクリット語に関心を向けた者の一人が、兄アウグストともにドイツ・ロマン主義文学運動の中心となっていたフリードリッヒ・シュレーゲルだった。ロマン主義は、17世紀以来の古典主義・合理主義に反抗し、感情・個性・自由等を尊重して、自然との一体感、神秘的な体験や無限なものへの憧れを表現した。フリードリッヒは、ノヴァーリスらとの前期ロマン派の解散後、サンスクリット語の研究を行ない、1808年に比較言語学的な論文『インド人の言語と知恵』を発表した。アウグストも東洋語の研究に進んだ。彼ら以後も言語学者たちの研究が続けられ、19世紀後半には、インド・ヨーロッパ語族という一大語族の存在が証明された。
 1814年に、フランスのコレージュ・ド・フランスにサンスクリット語の講座が開設され、以後ヨーロッパ各地の大学に同語の語講座が開設されて研究が進められた。特にイギリスとドイツで、インドへの関心が高かまった。イギリスはインドを植民地化して統治していたから当然だが、後進国のドイツは国民形成のため民族のアイデンティティのルーツを求める志向が強かったことによる。
 Buddhism(仏教)という言葉がはじめて現れたのはフランス語で、1817年にミシェル=ジャン・オズレーが使ったのが最初とされる。それまでは、「仏教」というまとまった形でのとらえ方ができていなかった。「仏教」という概念が成立したことにより、インド学の一部として仏教学が成立した。ヨーロッパ人は、サンスクリット語やパーリ語を習得し、近代西洋文明が培ってきた実証的・客観的な方法による文献研究を行った。それによって、近代仏教学が成立した。
 現存のサンスクリット語の仏教聖典のほとんどは、ネパール仏教において継承されてきたものである。例外は、中央アジアやチベットなどで発見されたわずかな遺稿にとどまる。チベットでは聖典がサンスクリット語からチベット語に翻訳されたが、ネパールでは翻訳されずにそのまま文献が継承されてきた。イギリスの外交官ブライアン・ホートン・ホジソンは、1820年からネパールでサンスクリット語の仏教聖典を多数収集し、本国に送った。また、チベット語に訳された大蔵経等も収集した。
 欧米では、こうした豊富な文献・資料をもとに研究が進められた。近代西欧の実証的・客観的な研究の方法論は、明治時代にヨーロッパに留学した南条文雄、高楠順次郎等によって、日本にもたらされた。また、日本の研究者が欧米のインド学者・仏教学者に対して、日本で千年以上の年月の間に蓄積されてきた学識を伝えるという交流が開かれた。
 欧米のインド学・仏教学の発達によって、仏教は哲学者や社会学者、精神医学者、神秘思想家等の関心を引くことになった。

 次回に続く。

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
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 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
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対中防衛論7~領域警備法を制定すべし

2021-04-25 08:36:43 | 国際関係
●領域警備法を制定すべし

 尖閣諸島の防衛体制を強化するための方策の中に、領域警備法の制定がある。私は、2012年(平成24年)から、同法の制定が急務であると主張している。
 海警法による新たな事態へ対応として、現在自民党内では法整備に関する議論もされているという。既存の法律を改正するのがよいか、新たに領域警備法を制定するのがよいか、様々な意見が出ているとのことである。
 2月26日、自民党の国防議員連盟は、尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返す中国海警局の公船に対応するため、海上保安庁法や自衛隊法の改正を求める提言骨子をまとめたと報じられた。領域警備法を新設するのではなく、既存の法を改正して対処しようという発想によるものである。提言骨子の要点は、次の通りである。

・領有権の主張を目的として日本の領海内を航行する外国船が退去要求に従わない事態に対して、海上保安庁が武器使用を含め国際法上可能な限りの対応ができるようにするため、海上保安庁法を改正して、「領海保全任務(仮称)」を明記すること。
・政府は、退去要求に応じない外国船の行動が「重大凶悪犯罪」に該当すれば、危害射撃が可能との法解釈を示しているが、主権侵害を強行する外国船の行動を犯罪として対処するのは、そぐわないとの指摘もあることから、法改正を検討すべき。
・警察と陸上自衛隊の連携をシームレスに行うため、自衛隊法に「領域警備行動」を追加すること。
 「領域警備行動」は事前に「領域」を指定した上で陸上を展開。警察の能力では対応できない場合、防衛出動に移行することを想定。中国の海上民兵は30万人以上とされ、その人員や能力は警察を上回っている可能性が高いことや、占領された後に奪還する作戦は、多くの困難が伴うため、自衛隊が先んじて展開することが必要。
・中国海警法の改正で「管轄海域」上空での武器使用も可能となったため、自衛隊法に「航空警備行動(仮称)」を追加すること。
・尖閣周辺に自衛隊を展開させるには時間がかかることから、防衛出動の発令の迅速化を検討すべき。

 私は、このような発想で既存の法を改正するより、新たに包括的な領域整備法を新設するのがよいと考える。わが国の海上保安庁は、あくまで警察力を担う組織に過ぎず、海保の巡視船では、「第2海軍化」した中国海警局の船舶には対応できない。しかも、老朽化が著しく、耐用年数を超えている船舶が多くなっているという。今から新たな船舶を作っても、所詮、海警局の船舶には太刀打ちできない。海保の警察力だけでは尖閣は守れないことは明らかなのであり、防衛力を担う自衛隊との連携の強化が急務である。それを実現するには、既存の法を改正するより、新たに包括的な領域警備法を制定し、既存の法は、それに合わせて同時に改正すればよいと私は考える。
 私は、2012年(平成24年)にマイサイトに掲示した拙稿「尖閣を守り、沖縄を、日本を守れ」第5章(2)「領域警備法の制定を急げ」に、次のように書いた。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12o.htm

 「尖閣を守るため、わが国は領土と主権を守るための法整備を至急断行する必要がある。
 平成24年8月29日に海上保安庁法と外国船舶航行法は、一応の改正がなった。海上保安庁法の改正で、海上保安官に離島での陸上警察権を与えた。尖閣に不法上陸する外国人らを海上保安官が警察官に代わり捜査・逮捕することができるようになった。また、外国船舶航行法の改正で、巡視船艇が違法船舶に立ち入り検査なく退去命令を発することができるようになった。だが、海上保安官の権限を拡大しただけでは、領土・領海は守れない。相手が民間人の間はいいが、軍隊が攻めてきたときは、海上警察では対抗できない。そこで、早急に行うべきものが、領域警備法の制定である。
 自衛隊には、わが国の領土・領海を不法に侵害する行為を排除する領域警備規定が付与されていない。そのため、現状では外国軍が領土・領海を侵犯したとき、わが国はまともに自国を守ることが出来ない状態である。普通の国では、領域警備は軍隊が担う。領域警備は治安維持ではなく、国防を目的とする防衛作用である。自衛隊法を改正し、自衛隊に領域警備の任を与える必要がある。また武器使用を国際法規に準拠させるよう改める必要がある。自衛隊は自衛隊法82条に海上警備行動が定められており、発令の前例はある。ただし、93条により権限は警察官職務執行法・海上保安庁法の準用と規制されている。自衛官の武器の使用は警察官に係る規定に準ずるとされており、海上警備行動では限界がある。中国の動きに対し、首相は戦後初の防衛出動を命じる覚悟をしていないと、いざとなってから検討するのでは、後手に回る。そこで領域警備法を制定し、いわば防衛出動を常時発令した状態にしておかないと、日本への侵攻に即応できない。
 現状では自衛隊は法規上、領域警備ができないため、侵攻を未然に防ぐことはできず、占領されてから出動するしかない」
 「わが国の政府は、国防に関する施策に非常に消極的な姿勢を続けてきた。現行憲法でできることさえ、やっていない。現状は領域警備の法整備ができていない。尖閣を守るには、領域警備法の制定が急務である。
 現状では海上保安庁が対応できない場合は、海上警備行動に基づいて自衛隊が行動するのだが、海保と同じ警察行動しかとれない。先に触れた自衛隊の尖閣奪還作戦は、現行法のもとでの計画ゆえ、内容が弱い。領域警備法を制定し、幅広く行動ができるようにする必要がある。そして、海保と海自との連携を強化し、海上警備行動が発令される前の段階でも、警戒にあたる海自艦艇などに対し、外国船を抑止するための武器使用権限を与えるべきである。特に平時から常に自衛隊が海保、警察を支援できる法体系を整え、武器使用基準も定めることが、国の総力を結集するための領域警備法の要であり、海上警備行動、治安・防衛出動に至るまで自衛隊が間断なく対処できる法的枠組みとなると思う。
 自衛隊の領域警備は法整備だけででき、海上保安庁の警察力強化と違い、時間も予算もかからない。自衛隊員の常駐は、実効支配を大きく強化させる方策である。無人島でも自己完結的に行動できる組織は、自衛隊しかない。
 ただし、領域警備を法制化し、自衛隊を領域警備に当てても、なお独立主権国家の国家安全保障としては、周辺諸国に大きく劣る。防衛力を高めることによってのみ、尖閣奪取を狙う侵攻戦争への抑止力となる。そこで次の課題となるのが集団的自衛権の行使、専守防衛から戦略守勢への転換、そして国家安全保障を充実するための憲法改正である」と。

 この掲示文を書いてから、8年以上が経過した。最後に書いた集団的自衛権の行使は限定的な形ではあるけれども一応可能になった。だが、領域警備法の制定は未だ実現していない。もたもたしていると、中国から電撃的な侵攻を受け、尖閣諸島及びその周辺の領海を略取されてしまう。悔いを千載に残す事態にならぬよう、領域警備法を制定して法整備を進めるべきである。
 領域警備法の制定は、法案の立案、国会での審議に最短でも数か月を要する。先に書いた尖閣諸島の公務員常駐は、法整備を待つまでなく、政治の判断で実行できる。領域警備法のもとでわが国の防衛力を有効に発揮するには、防衛の原則から外れた政治用語に過ぎない専守防衛から戦略守勢に転換することが必要である。さらに、憲法を改正して、中国の侵攻から日本を守ることのできる国家安全保障体制を構築する必要がある。

 次回に続く。

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 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

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仏教143~悟り体験の比較・考察、悟り体験と異常心理

2021-04-24 10:12:46 | 心と宗教
◆悟り体験の比較・考察

 大竹によると、悟り体験は、さまざまな修行を通じて得ることができる。悟り体験を得るための修行には、公案を用いるもの、声を聞く主体は何かと疑うもの、密教の本尊に加行(かぎょう)するもの、念仏をするもの、唱題をするもの等である。どれか特定の修行には限らない。大竹は、「悟り体験を得るために重要なのは、公案や疑い、本尊、念仏、題目などとひとつになることであるようである。ひとつになることが重要なのであって、何とひとつになるかは大きな問題ではない」と書いている。「ひとつになる」というのは、その行為や対象に集中すること、専心、専一という意味と理解される。
 日本における悟り体験は禅によるものが多いが、大竹は「禅そのものは大乗仏教の教理と直接関係しない瞑想テクニックに過ぎない」と指摘する。実際、仏教の禅は、インド文明に古くから伝わるヨーガの瞑想法の一種である。その起源は、インダス文明にさかのぼると見られる。釈迦が取り入れて、仏教の基本的な行法とした。シナでは、サンスクリット語のディヤーナを音写して禅那と訳し、その禅那を省略して、禅または坐の字を加えて座禅という。
 インド文明のヨーガの修行には、8段階がある。禁戒(ヤーマ)、歓戒(ニヤーマ)、座法(アーサナ)、調気法(プラーナーヤーマ)、制感(プラーティヤーハーラ)、凝念(ダーラナ)、禅定(ディヤーナ)、三昧(サマーディ)である。禅定は、このうちの第7段階にあたる。ディヤーナは静慮とも訳し得る。積極的な努力をすることなく深く集中している状態で、自他の分け隔てがなくなるとされる。
 ヨーガの瞑想は三昧(サマーディ)を目指す。サマーディの原義は「結合させること」であり、そこから「心を一点に集中させること」を意味するようになり、ヨーガでは精神集中が深まりきった究極の境地を指す。深い瞑想の中で自他の差別が解消され、融合・結合が達成された状態とされる。サマーディを目指すヨーガの実習の過程で修行者が体験する内容には、悟り体験とみることのできるものがある。
 大竹は、ヒンドゥー教に言及していない。その一方、悟り体験は大乗仏教によらなくとも得られるとして、キリスト教徒として来日し、禅によって悟り体験を得た人々が少なからずいると報告する。その例として、イレーヌ・マキネスを挙げている。彼女はカトリック修道女で、宣教師として来日した。曹洞宗から独立し、曹洞宗と臨済宗の双方の修行法を採り入れた三宝教団で参禅して見性し、修道女のまま三宝教団の老師となったという。大竹は、「キリスト教徒が禅によって悟り体験を得ることができる以上、悟り体験は大乗仏教と不可分のものではない」と述べている。
 さらに、「悟り体験はいかなる宗教の信者によっても(あるいは無神論者によっても)得られ、それぞれが信ずる宗教の文脈に即して(あるいはいかなる宗教の文脈からも離れて)理解されるものと考えられる」と述べている。大竹が「無神論者」という言葉で何を意味しているかは不明だが、そもそも本来の仏教は無神教であり、それがインド文明の宗教の影響を受けて有神教化したものである。

◆悟り体験と異常心理

 大竹は、悟り体験を得るための修行には、公案、疑い、本尊、念仏、題目等があり、それらとひとつになることが重要だという。このことに関して、大竹は、「それらとひとつになることによって、通常の心である“自我の殻”をなくしていく時、悟り体験を得る者がいるのみならず、精神異常に陥る者もいる」ということに、注意を促している。発狂して憤死した例を著書に挙げている。
 私見を述べると、禅仏教には、禅病という言葉がある。座禅を行なっているうちに、頭痛や吐き気、発熱、体の震えなど、身体に異変を感じたり、急に激しい感情に襲われたり、幻聴・幻覚などが起こったりすることをいう。特に意識の拡張により自我が膨張し、心のバランスを崩した状態を、魔境という。魔境に入ると、実際には悟りに達していないのに、幻覚によって仏や菩薩との一体感を持ち、誇大妄想に陥ることがある。
 大竹は、悟り体験と精神異常を対比して、次のように書いている。「五段階から構成されている典型的な悟り体験のうち、第五段階である叡智獲得体験においては叡智が獲得される。一方、異常心理においては叡智は獲得されない。悟り体験においては歓喜が起こったのちに叡智が獲得されるのであるが、異常心理においてはけたけた笑いなどをもたらす多幸感が起こったのちにむしろ知性が低下するのである」と。
 そして、次のように考察している。「おそらくは、通常の心である“自我の殻”をなくしていく時、修行に堪えうる精神状態の者には悟り体験がもたらされ、修行に堪えない精神状態の者には精神異常がもたらされるのだろう。もしそうだとするならば、人によっては無理に通常の心である“自我の殻”をなくそうとすることは危険であるかもしれない」という。また「ビジネスマン向けの自己啓発セミナーなどのうちに、異常心理を人為的に作り出して通常の心を変えようとするものもある。そのような人為的に作り出された異常心理が、あたかも悟り体験と同じであるかのように見まがわれることもありうるが、異常心理は危険であり、異常心理を人為的に作り出すことは充分に警戒されるべきである」と警告している。
 今日、アメリカを中心に仏教系の様々な瞑想法が広がっている。後にアメリカ仏教の項目に書くが、テーラワーダ仏教系のインサイト・メディテーション、マインドフルネスや心理療法への応用等が知られる。仏教は、もともと出家して解脱を目指す宗教であり、修行の過程で現れる精神的な現象に対応し、それを乗り越えて、修行を進める知恵や経験が蓄積されてきたものと見られる。ところが、修行における危険性やそれへの対処法について無知であったり、軽視した状態で、安易に熱心に修行を行うと、大きな失敗に陥る可能性がある。
 日本仏教は、昭和戦後期、平成時代、そして令和の時代と活動を続けている。現代の日本仏教は、欧米における仏教の理解や活動に影響を与えたり、逆に欧米から影響を受けている点もある。また、現代の日本人には、仏教の伝統的な概念を西洋の哲学や心理学の概念を用いて理解する傾向が見られる。そこで、西洋文明における展開を書いた後に、現代日本の仏教についてあらためて書くことにしたい。

 次回に続く。

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対中防衛論6~中国海警法への対応、敵基地攻撃能力の取得

2021-04-23 10:09:26 | 国際関係
●中国海警法への対応を急げ

 私は、40年以上前から、日本人が自ら国を守るために、憲法を改正することを訴えてきている。2006年(平成18年)には、「日本再建のための新憲法――ほそかわ私案」を発表した。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion08h.htm
 また、集団的自衛権を行使すべきことも長年訴えて来た。2008年(平成20年)には「集団的自衛権は行使すべし」を書いた。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion08n.htm
 集団的自衛権については、2015年(平成27年)に安保関連法案が成立したことにより、限定的な行使が可能になった。尖閣諸島を中国に侵攻された時などを想定した法整備だった。
 安保関連法では、自衛権を行使するのは、「我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」事態に限る。これを「存立危機事態」と呼ぶ。
 武力行使は、こうした「明白な危険」があるとともに、「これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと」「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」という三つの要件を満たす必要があるとしている。
 武力行使の要件が非常に厳しいが、一歩前進にはなった。だが、領域警備法の制定は実現できないまま、今日に至っている。この間、共産中国は着々と尖閣侵攻の準備を進めて来た。そして、本年2021年(令和3年)2月1日、海警法を施行した。これは、中国の国内法でありながら、国際的に極めて大きな影響を及ぼす法律である。
 中国は近年、他国との権益争いで「法律を武器」とする姿勢を鮮明にしている。習近平国家主席は、2020年(令和2年)11月の演説で「対外問題に関わる法整備を加速し、立法、法執行、司法の手段で闘争し、国家主権や核心的利益を守る」と述べた。海警法は、こうした法整備の一環である。
 中国海警局は、既に海軍の一部に組み入れられおり、中央軍事委員会の武装警察に編入され、海軍少将が指揮している。海警局の船舶は機関砲を備えるなど重装備化が進み、軍と一体的に活動している。海警局の「第2海軍化」である。
 海警法の最大の問題点は、海警局は国家主権や管轄権が侵害されれば、武器使用を含むあらゆる措置で排除できるとしたことである。また管轄権が及ぶとする範囲も問題である。同法は、法執行権限が及ぶ範囲を「管轄海域」と規定した。中国の最高裁(最高人民法院)は「管轄海域」を「内水、領海、接続水域、排他的経済水域(EEZ)、大陸棚、及び中国が管轄するその他の海域」としている。対象が極めて広い上に、「中国が管轄するその他の海域」とは、どういう範囲か不明である。勝手にいくらでも範囲を拡大できてしまう。
 国際法では、法執行権限を制限なく執行できるのは、領海内であっても違法操業船や海賊船に限られる。他国の軍艦や公船に対しては、執行権限が制限される。だが、海警法は、対象範囲を「管轄海域」と曖昧にし、外国公船が「管轄海域」で不法行為をすれば「強制退去・曳航などの措置を取る権利がある」と定めた。
 同法はまた「管轄海域」の島や洋上にある構造物を強制撤去する権限も盛り込んだ。他国が領有している島であっても、中国が自国の「管轄海域」だと主張して、島にある構造物を強制撤去することを正当化するものとなる。例えば、わが国が尖閣諸島にヘリポートなど何らかの構造物を設置した場合、これを海警法の規定を根拠として破壊するだろう。
海警法の施行によって、中国の尖閣諸島周辺での活動がさらに活発になることが懸念される。海警への警戒感は、南シナ海で中国と領有権を争う東南アジア諸国でも強まっている。海警法は、中国が積極的な海洋進出によって、領海・領土を拡張するための法律と見られる。インド太平洋地域で侵攻戦争を起こすための戦争準備の一環だろう。
 中国の海警法施行後、自民党では、対応が議論されているという。論点の一つは、武器使用である。政府は、2月25日、自民党国防部会・安全保障調査会の合同会議で、尖閣諸島を自国の領土と主張する中国海警局の船が尖閣諸島への接近・上陸を試みた場合、重大凶悪犯罪とみなして危害を与える「危害射撃」が可能との見解を示した。
 国際法上は、他国の領域内であっても外国軍艦・公船には特別な法的地位が認められる「主権免除」の原則があり、危害射撃は原則として「正当防衛・緊急避難」に限定される。ただ、国連海洋法条約では領海内で外国公船が「無害でない通航」を行う場合、「必要な措置」を取ることができるとしている。
 海上保安庁の武器使用については、海上保安庁法20条に規定があり、1項で警察官職務執行法7条を準用するとしている。7条は凶悪犯罪に対する武器使用を認めており、今回の危害射撃はここに依拠する。海警船に対し、正当防衛・緊急避難以外で危害射撃ができると政府が説明したのは初めてである。
 政府はこれまで、領海に侵入した海警船に対し、退去要求などを行った上で従わない場合には船をぶつけて強制的に進路を変える「接舷規制」を行い、それでも突破された際には危害を与えない船体射撃を行うと説明してきた。こうした一連の対応に、危害射撃を加えたものである。
 翌26日、加藤勝信官房長官は記者会見で、外国公船などが沖縄県・尖閣諸島への上陸目的で領海侵入した場合、海上保安官が相手に危害を加える「危害射撃」を行えるとの見解を示した。「死刑または無期、長期3年以上の懲役」に当たる凶悪犯罪であれば「武器使用で人に危害を与えることも許容される」と述べた。これによって政府見解が広く国民に示された。
 海保の危害射撃が可能という見解が示されたことは、一歩前進である。だが、このことが中国側に対して、どれほどの抑止力になるかは大いに疑問である。海警局の船舶の武器装備と海保の船舶のそれには圧倒的な差がある。また自衛隊員が海上警備行動を行う場合、自衛官の武器の使用は警察官に係る規定に準ずるとされているから、軍隊としての高度な戦闘能力を発揮することは出来ない。

●敵基地攻撃能力の取得が必要

 ここで関連して述べたいのが、敵基地攻撃能力の取得である。わが国は、イージス艦や地対空誘導弾パトリオット(PAC3)で迎撃するミサイル防衛システムを保有している。中国・北朝鮮のミサイル攻撃から日本を防衛するためには、これだけでは迎撃能力が不十分であり、政府は地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」2基を配備する計画を立てた。だが、様々な批判と候補地からの抵抗が起こり、2020年(令和2年)6月に計画を断念した。当時首相だった安倍晋三氏は、この時、敵基地攻撃能力の取得を検討する考えを表明し、同9月の首相談話で「(ミサイル)迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができるのか」と問うた。そして、ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針について与党との協議を経て、同年末までに「あるべき方策」を示すと語った。
 私は、迎撃システムを強化するだけでは、国民の生命と財産、主権と独立を守ることは出来ないと考える。周辺国の攻撃を防ぐには懲罰的・報復的な抑止力となる「敵基地攻撃能力」の保有が必要である。安倍氏は、その必要性をしっかり認識していた。しかし、安倍氏は先の談話を発した直後に健康上の理由で首相を辞任し、10月に菅義偉氏が後継首相となった。
 菅政権は、12月政府・与党で突っ込んだ議論もないまま、閣議決定で、敵基地攻撃能力に関する結論を先送りした。検討の期限も示していない。敵基地攻撃能力に否定的な姿勢の公明党に配慮し、連立政権の維持と、2021年(令和3年)10月までに行わねばならない衆議院総選挙への思惑が先に立った判断だろう。中国及び北朝鮮のミサイル攻撃の脅威が強まっている中で、誠に残念な姿勢である。
 菅政権は、敵基地攻撃能力に関する結論を先送りする一方、閣議で「イージス・アショア」の代替策として、海上自衛隊に「イージス・システム搭載艦」2隻を新造すると決めた。また、島嶼防衛のために、陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾の射程を延ばし、遠方から敵を叩く「スタンド・オフ・ミサイル」として開発することも決めた。陸自の車両からだけでなく空自機や海自艦船からも発射できるようにするという。加藤官房長官は「敵基地攻撃を目的としたものではない」と述べたが、専門家は政策転換をすれば巡航ミサイルとして相手領域内への攻撃に転用するができると指摘している。新型ミサイルを製造するだけで政策を変更しなければ、その潜在能力を生かすことは出来ない。活用するには、関連装備の調達や作戦計画の策定・訓練も必要である。政府は、国防の強化のために、敵基地攻撃能力を取得するという決断をすべきである。

 次回に続く。

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仏教142~悟り体験の5段階

2021-04-22 10:30:09 | 心と宗教
◆悟り体験の5段階

 第1部第四章「実践」の「修行」の項目に、悟りには段階があることを書いた。ここでの文脈で言い換えれば、悟り体験には(1)自他亡失体験、(2)真如顕現体験、(3)自我解消体験、(4)基層転換体験、(5)叡智獲得体験の5段階がある。インド、シナ、日本における仏教の歴史をたどったところで、その詳細を述べたい。この項目も大竹に多くを負っている。

第1段階 自他亡失体験
 大竹によると、自他亡失体験とは、「いまだ通常の心である“自我の殻”を残しているにせよ、自己と他者との隔てを亡失して、ただ心のみとなる体験」である。自他亡失体験はしばしば悟り体験と見なされるが、少なくとも臨済宗においてはいまだ悟り体験と見なされない。悟り体験が始まるのは、次の段階からである。

第2段階 真如顕現体験
 真如顕現体験とは、「“自我の殻”を破って、真如が顕現する体験」である。真如とは、法無我である。諸法無我・一切皆空ともいえる。大竹によると、臨済宗では、顕現した真如を見ることを見性と呼び、真如顕現体験からが悟り体験と認められる。

 ここまでの二つの段階について、大竹は、自他亡失体験は、“自我の殻”を残しているにせよ、自己と他者との隔てを亡失して、ただ心のみとなる体験であるとし、真如顕現体験は、 “自我の殻”を破って、真如が顕現する体験であるとしている。そして、「このような唯心(唯識)から真如への移行」は、「唯識派の根本聖典である『解深密経(げじんみつきょう)』における見道の叙述と似かよっている」と指摘している。

第3段階 自我解消体験
 自我解消体験とは、「真如が顕現したことによって、通常の心である“自我の殻”が解消される体験」である。大竹は、「“自我の殻”が解消されるに伴い、“自我の殻”に閉じ込められていたものが全世界へと放散される」という。その時、「全世界はしばしば燦然たる光を放つかのように感じられる」。さらに、「“自我の殻”が解消された時、あらゆるものと一緒になって歓喜がしばしば感じられる」と述べている。

第4段階 基層転換体験
 基層転換体験は、「“自我の殻”が解消されたことによって、存在の基層が従来の基層から転換する体験」である。存在の基層とは仏教で言う五蘊であり、現代的に言えば心(精神)と身体(肉体)である。大竹は、「心の変容については、それまで心の外側にあった全世界がその後は心の内側にあるかのようにしばしば感じられる」とし、「身の変容については、発汗、震動、皮膚感覚消失などがしばしば起こる」としている。

第5段階 叡智獲得体験
 叡智獲得体験とは、「存在の基層が従来の基層から転換したことによって、かつてない叡智を獲得する体験」である。臨済宗においては、公案の解決によって、叡智の獲得が確認される。公案という謎めいた課題とそれに関する問答は、悟り体験を実際に得られているかどうかを、既に体験している者が他の修行者に口頭試問するものと考えられる。
 大竹は、「絶大な叡智獲得体験において、超能力のレベルに達するほどの叡智がしばしば獲得される」という。いわゆる六神通すなわち天眼通・天耳通・他心通・宿命通・神足通・漏尽通である。

 大竹によると、第三段階である自我解消体験と、第四段階である基層転換体験とは真如顕現体験の直後にほぼ同時に起こる。第五段階である叡智獲得体験はそれらが終わった後に起こるという。
 大竹は、基層転換体験と叡智獲得体験は、4世紀インドのアサンガ(無著)の『阿毘達磨集論』における見道の叙述と似かよっていると指摘している。この指摘が正しければ、悟りへの道において第五段階の叡智獲得体験にまで至ったとしても、まだ三道の最初である見道の段階であり、その先に修道、無学道があるということである。叡智獲得体験まで至った聖人でさえ、四向四果の8階位のうちの最初の階位である預流向にあるにすぎないのである。
 大竹は、悟り体験の研究を踏まえて、大乗仏教に関して次のように述べている。大乗仏教は、自利と利他との二つを完成して仏となることを目的としている。ヴァスバンドゥ(世親)は、『大乗荘厳経論』において、自利と利他とは大乗仏教の六波羅蜜多と次のような関係があるとしている。般若経の六波羅蜜とは部分的に異なることに注意願いたい。

 自利:精進波羅蜜多(努力の完成)、静慮波羅蜜多(瞑想の完成)、般若波羅蜜多(叡智の完成)
 利他:施波波羅蜜多(施与の完成)、戒波波羅蜜多(道徳性の完成)、忍辱波羅蜜多(忍耐の完成)
 
 大竹は、この分類を踏まえて次のように書いている。「悟り体験」は「自利を完成するための手段」である。それを手段として、「精進(努力)、静慮(瞑想)、般若(叡智)を完成させるのみならず、進んで施波(施与)、戒波(道徳性)、忍辱(忍耐)をも完成させねばならないのである」と。
 私見を述べると、ここで重要なのは、厳しい修行生活によって、何らかのレベルの悟り体験を得た者や、大乗仏教の六波羅蜜多を相当程度、完成させた者においても、人生の最後に大安楽往生できたという報告は、ごくまれであることである。また、大安楽往生を達成するのに悟り体験は必要ないことが、現代において大塚寛一先生のもとで大安楽往生をしている多数の人々の体験記録から知ることができる。なお、大塚寛一先生の教えは仏教ではないから、六波羅蜜多の完成は直接関係がない。そのことは、六波羅蜜多の完成もまた大安楽往生の達成に必要なものではないことを意味する。

 次回に続く。

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対中防衛論5~尖閣諸島に公務員を常駐すべし

2021-04-21 10:14:59 | 国際関係

●尖閣諸島に公務員を常駐すべし

 わが国にとって、現在、中国の軍事侵攻の脅威を最も強く受けているのは、尖閣諸島である。尖閣を取られたら、次は沖縄が狙われる。沖縄を取られたら、日本は窮地に陥る。
 日米は、尖閣諸島の防衛のため、尖閣周辺での共同演習の実施など、具体的な行動を加速すべきであると先に書いた。そこで重要なのは、わが国が領土領海を守る意思を、具体的な行動によって明確に示すことである。そのために、速やかに実施すべきことの一つが、尖閣に公務員を常駐することである。
 自民党は2013年(平成25年)に、尖閣諸島について次の政策を提示した。
 「わが国の領土でありながら無人島政策を続ける尖閣諸島について、政策を見直し実効支配を強化します。島を守るための公務員の常駐や、周辺漁業環境の整備や支援策を検討し、島及び海域の安定的な維持管理に努めます」(総合政策集「ファイル2013」)
 これは、事実上の公約である。だが、全く実行されていない。この点について、潮匡人氏(軍事ジャーナリスト)は、最近次のように述べている。
 「この公約の中で、一番わかりやすい公約が公務員の常駐である。これはやるか、やらないかが、明確にわかる。他の周辺漁業環境の整備や支援策については、小さな話を大きく膨らませて、やったと言い張れれば、認めざるを得ないこともあるが、公務員の常駐はそうはいかない。公務員の常駐については、検討を行った気配すらないわけで、これは明確な公約違反である。私は、今後の菅政権を見ていくにあたって、これが大きなメルクマールになると考えている」(『尖閣諸島が本当に危ない!』宝島社)
 国会議員の動きは鈍かったが、ようやく元環境相・衆議院議員の原田義昭氏が『尖閣に公務員の常設を』と題した勉強会を本年4月に発足させた。同会は「国の公務員を常駐させて自国の『行政組織を整備する』ことは当然のことであり、また中国など国際社会に対する日本の主権、施政権の象徴ともなる。国の強い政治的決意さえ有れば難しいことではなく他の尖閣運動と協働しながら国民の総意を結集することで、政府、行政の具体的行動を即時に引き出そう」「日本が自国内で自国の行政を施行するのに何の躊躇も要らない、法律も条約も要らない、直ぐにでも実施できる。尖閣には『領土問題は存在しない』との立場を身を以て示することにもなる」と主張している。この勉強会が発展し、具体的な政策を提言して、一日も早く尖閣諸島への公務員の常駐を実現することを期待する。
 ところで、尖閣防衛のための動きが全くないわけではない。2016年(平成28年)3月、防衛省は、南西諸島の防衛力強化のため、日本最西端の沖縄県・与那国島に陸上自衛隊の駐屯地と沿岸監視隊を創設した。与那国島の北方約150キロに尖閣諸島がある。与那国島の部隊は約160人で編成され、周辺の海や空で活動する船舶や航空機をレーダーで監視する。監視隊は実戦部隊ではないが、有事の際、拠点となる駐屯地があれば、部隊や装備を即座に緊急展開させることが可能となる。続いて、政府は、2019年(平成31年)3月、陸自は沖縄県の宮古島、鹿児島県の奄美大島に駐屯地を新設した。2020年(令和2年)3月には、宮古島駐屯地に地対艦、地対空両ミサイル部隊の約240人を配備した。同駐屯地の規模は警備部隊などと合わせ計約700人となった。ミサイル部隊は、沖縄本島と宮古島間の海・空域を頻繁に通過する中国軍の艦船や航空機をけん制する狙いがある。防衛省は、石垣島への自衛隊配備計画を進めている。警備部隊、地対艦ミサイル部隊、地対空ミサイル部隊を配備し、総勢500~600人規模を想定している。南西諸島での駐屯地建設は石垣島が最後となる。開設は2023年(令和5年)春頃と見られる。
 これに加わる新たな動きとして、防衛省は、電磁波を使う陸上自衛隊の電子戦専門部隊を令和5年度末までに、沖縄県の与那国島と長崎県の対馬に配備する計画である。北海道から九州にかけた「列島の弧」と九州・沖縄の「南西の弧」という2つの弧を描く形で10カ所以上に部隊を配置し、電子戦で先行する中国とロシアに対抗する構えを築くものである。
 図3は、電子戦に関する地図である。



 電子戦とは、電波などの電磁波を利用した戦いで、(1)相手の通信機器やレーダーに強い電波などを当てて機能を妨げる電子攻撃(2)電波の周波数変更や出力増加で相手の電子攻撃を無効化する電子防護(3)攻撃と防護のため相手の使用電波を把握する電子戦支援があるとされる。
 尖閣諸島への中国の挑発活発化を踏まえ、沖縄県内の他の自衛隊拠点への電子戦部隊の配備も検討していると伝えられる。共産中国との有事に日米で共同対処をする上で、前線に位置して能力も米軍より優れている自衛隊の電子戦部隊は大きな役割を果たせるとのことである。
 中国による南西方面の離島侵攻で電子戦の対象となる電磁波は、多くの情報を伝えることができたり、レーダーで使用したりする超短波(VHF)やマイクロ波(SHF)が中心という。VHFやSHFは数十キロしか届かず、奄美・与那国両駐屯地をはじめ、電子戦部隊を細かく分散配置をするのはそのためで、地の利も生かして自衛隊が主導する作戦になると、産経新聞の記事が報じた。
 この点でも実効性のある対応を急ぎ進めてもらいたいと思う。

 次回に続く。

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 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
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仏教141~悟りへの道と覚醒体験

2021-04-19 08:48:33 | 心と宗教
●悟りへの道と覚醒体験

 第1部第四章「実践」の「修行」の項目に、悟りへの道の諸段階について書いた。インド、シナ、日本の仏教の歴史をたどってきたところで、あらためて悟りへの道の過程について書きたい。この項目は、大竹晋著『「悟り体験」を読む』に多くを負っている。
 仏教の修行者は、段階的に目覚めていく覚醒体験をしながら、悟りへの道を進む。
 インド文明では、出家者が自らの覚醒体験を語ることは、初期仏教、部派仏教、大乗仏教を通じて、まったくといってよいほどなかった。戒律をまとめた書物である律蔵に、それを禁止する規定があるからである。大竹によると、律蔵の中核である『波羅堤木叉(はらだいもくしゃ)』に、「聖者の知見のない比丘がおのれに聖者の知見があると主張すること」は「波羅夷(はらい)」すなわち教団追放と規定されている。そうした比丘が他者からの供養を期待して、おのれに聖者の知見があると主張するならば、教団追放となる。ただし、増上慢(自信過剰)によって主張するものであれば、教団追放とはならない。つまり、増上慢ではなく他者からの供養を期待して主張する場合が教団追放となる。供養とは、三宝(仏・法・僧)または死者の霊に供物を捧げることをいう。ここでは、僧が自分自身への供物を期待して、虚偽の主張をすると、教団追放になるということである。
 こうした厳しい規定があるので、インド文明では出家者が自らの覚醒体験を公表することが、まったくといってよいほどなかったのである。
 ところが、仏教がシナ文明に伝わると、北宋の禅宗において覚醒体験の公表が始まった。ただし、シナの出家者は『波羅堤木叉』を受持していたので、覚醒体験を生前に公表することはなかった。生前にしばしば公表されるようになったのは、日本文明においてであることを、大竹は明らかにした。
 なぜ、日本文明で覚醒体験の記録がしばしば生前に公表されたのか。大竹によると、最澄が『波羅堤木叉』を放棄し、以後、出家者の多くは『波羅堤木叉』を受持していなかったため、覚醒体験を生前に公表することに拘束がなかったからである。ただし、出家者は、弟子たちを励ますために自らの覚醒体験を私的に語るのみだった。出家者が覚醒体験を生前に公表することは、大東亜戦争の戦後において一般的になったと大竹は述べている。

◆日本における「悟り体験」

 日本の大乗仏教では、覚醒体験を伝統的に「悟り」と呼んできた。これを大竹は、「悟り体験」と呼ぶ。日本でいう「悟り体験」は、シナの大乗仏教では見性と呼ばれた覚醒体験であり、インドの大乗仏教における見道に当たる。
 悟りというと、多くの人は、修行者がある時、一気に真理や宇宙の真相、真の自己を理解し、会得することと考える。だが、仏教の歴史を見ると、実際にはそうではない。大竹は、「悟りは決して一回性のものとは限らず、ひとたび悟りを体験した後にふたたび悟りを体験する例は多くある」と指摘する。そして、「その場合、悟りということばは、見道より後の、修道、無学道にも付与されうる。言い換えれば、悟りということばは聖者の知見全般を指すのであって。決して阿羅漢/仏の目覚め(菩提)のみを指すわけではない」と述べている。
 先に第1部第四章の「悟りへの道の初段階」に書いたように、大竹は、仏教の覚醒体験を、自他亡失、真如顕現、自我解消、基層転換、叡智獲得の5段階に分ける。注意すべきは、第五段階の叡智獲得体験にまで至ったとしても、まだ三道の最初である見道の段階であり、その先に修道、無学道があることである。
 さて、大竹によると、鎌倉時代より前、日本には覚醒体験のための定(じょう)を得た者は、いなかった。定とは、禅定のことであり、深い集中状態をいう。日本天台宗では、本覚思想の影響によって、覚醒体験を得なくともよいという考え方が広がった。さらに、平安時代末期以降、末法思想の影響で、末法の時代には覚醒体験を得られないという考え方も広がった。
 ところが、わが国の鎌倉時代に、シナでは、禅によって覚醒体験を得る人が続出したらしい。シナに留学してそれを知った栄西は感激し、臨済宗で参禅し、日本に臨済宗を伝えた。栄西は、末法の時代であっても、インドやシナには覚醒体験を得る人がいるから、参禅すれば日本でも体験者が現れるはずだと主張した。栄西は自らの覚醒体験を書き残しておらず、彼自身がその体験を得たかどうかは不明である。だが、その後の日本では、栄西の説くように、参禅によって覚醒体験を得る修行者が現れた。
 曹洞宗の祖・道元は、見性という呼び方を嫌った。見性とはわれわれ自身に内在する仏性を実見することだが、仏性という概念は、ヒンドゥー教の有我論に類したものに感じられるから、道元は見性の語を嫌ったのだろう。ただし、道元が悟り体験を批判したかと言えば、決してそうではない。道元は覚醒体験を見性ではなく、悟り等と呼んだ。その呼び方が一般化した。大竹が日本における覚醒体験を「悟り体験」と呼ぶのは、道元の呼び方を容れたものである。
 禅宗以外に話を広げると、真言宗では、座禅ではなく、密教の修行によって悟り体験を得た例があるとして、大竹は慈雲飲光の例を挙げている。ただし、真言宗の目標は即身成仏であって、悟り体験にとどまるものではない。これに対し、浄土真宗では、現世で自力によって悟り体験を得ることを重視しない。悟り体験なくして阿弥陀如来の極楽浄土に他力的に往生できると考えるからである。日蓮宗でも現世で自力によって悟り体験を得ることを重視しない。法華経の信仰によって、来世において霊山浄土に転生できるとし、現世において仏国土を建設することを目指すからである。
 大竹は、悟り体験を生前に公開することは、大東亜戦争の敗戦後に一般化したとし、その例を収集している。著名な僧侶として、朝比奈宗源や山田無文等の例を大竹の著書で知ることが出来る。

 次回に続く。

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 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
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