ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

インド47~唯識説の理論

2020-01-30 09:32:51 | 心と宗教
●唯識説

◆仏教の認識論
 次に、空の思想と並び立つ唯識の理論に移る。唯識の理論に関して述べるには、まず仏教の認識論から書く必要がある。唯識論は、仏教の認識論の深化・発展だからである。
 仏教は解脱を目指す教えであり、業(行為)を生み出すのは無明であると説き、煩悩の消滅を目指す。それゆえ、その教えは、修行の実践のために心のあり方を分析する認識論が中心となっている。仏教の認識論は、六入、十二処、十二界を挙げる。
 六入とは、眼・耳・鼻・舌・身・意をいう。六根とも呼ぶ。これらのうち、5番目の身は触覚器官である。最初の五つは感覚器官であるのに対し、意は思考器官に当たる。
 六入に六境を加えて、十二処という。六境とは、色・声・香・味・触・法をいう。これらのうち、色は色彩と形状、触は熱さ寒さ等、法は考えられる事物に当たる。境とは、感覚と思考の対象と見ることができる。
 十二処に六識を加えて、十八界という。六識とは、眼識・耳識・鼻識・舌識・身識・意識をいう。これらは、感覚と思考の器官によって生じる内容と見ることができる。
 仏教では、六入、十二処、十二界という分析をもとに、認識は器官が対象をとらえる結果として、内容が生じると説く。この関係は、認識の器官、対象、内容という三つの要素で構成される。特徴的なのは、この構造において、認識の主体は問題にされないことである。認識の主体を立てると、何らかの形で自我や霊魂の存在を認めざるを得なくなる。これは、無我説と矛盾してしまう。そこで、認識の主体を立てることなく、認識の器官を所有し、認識の内容を統合するものを明らかにしなければならない。この課題のもとに、認識の主体を立てずに認識を論じるのが、大乗仏教の認識論である。そして、空の思想による無我説に基づいて認識の理論を展開したのが、唯識説である。

◆唯識説の理論
 西洋哲学では、万物の根本を精神的なものとし、物質的なものはその所産であるとする考え方を、唯心論(spiritualism)いう。この反対は、その逆を説く唯物論(materialism)である。(註1)
 近代西洋哲学の主客二項図式に則って言えば、唯心論には、神の心が世界を創造したとする客観的唯心論と、人間の心が世界を生み出しているとする主観的唯心論がある。便宜的にこの分類に従うならば、大乗仏教は、後者の主観的唯心論の一種である。この思想を体系的に説いたものが、唯識説である。
 唯識説は、純粋な精神作用に対象を含む一切のあり方を包括する理論である。この理論を展開した宗派を唯識派という。インド中北部で4世紀初めころ、マイトレーヤ(弥勒)が創始し、アサンガ(無著)、ヴァスバンドウ(世親)が大成した。
 ヴァスバンドウは、生年320年頃、没年400年頃と伝えられる。北インド生まれで、出家してはじめ説一切有部、次に経量部を学んで、『阿毘達磨倶舎論』を著わし、部派仏教の教義を集大成するとともに、大乗仏教を批判した。しかし、兄・アサンガに従って大乗仏教に転じ、アサンガが発展させた唯識説をさらに進めて、『唯識三十頌』『摂大乗論釈』等を著し、唯識説を完成させた。
 唯識派は、その理論がヨーガの実践に支えられるものであることから、瑜伽行唯識派ともいう。同派は中観派と並ぶインド大乗仏教の二大主流になった。また、チベット、シナ、日本等に広く伝わった。シナには玄奘が伝え、法相宗を開き、日本にも伝えられた。


(1)唯心論の一種に、観念論(idealism)がある。観念論は、西洋文明に特有のイデアを原理とする思想である。イデア論、イデア主義ともいう。ギリシャのプラトンに発し、アリストテレスが体系化し、それを摂取したヨーロッパで、キリスト教の理論に応用され、スコラ神学、バークリー、カント、ヘーゲル等が展開した。インド文明の唯心論は、イデアの概念がなく、イデア論的唯心論とは異なる非イデア論的唯心論である。

 次回に続く。

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 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
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猛威の新型コロナウイルスは中国の細菌兵器か?

2020-01-29 09:53:41 | 国際関係
 中国武漢で発生した新型コロナウイルスによる肺炎は、感染が早いのが特徴とされます。伝染病の感染力を表す基本再生産数(RO)は、1918年のスペイン風邪が1.8だったのに比べ、今回の新型肺炎は、米英の専門家の分析では 3.6~4.0と極めて高く、世界的なパンデミックになる可能性があると警告されています。
 1月28日現在、新型コロナウイルスによる肺炎による死者は106人、感染者は4500人以上と報道されています。この数字を基にすると、致命率は2.36%です。SARS(重症急性呼吸器症候群)は致命率9.6%、MERS(中東呼吸器症候群)は致命率34.4%でしたから、これらと比べると、現在のところ、新型コロナウイルスは、広まるのは早いが、致命率は低いと見られます。
 ただし、WHOでSARSの対応にあたったという専門家によると、ウイルスは人体で増殖する、その際、コピーミスで変異が起こり、病毒が増す可能性があるとのことです。
 なお、実際の感染者は10万人以上とか25万人以上ではないかという専門家たちの推測があり、また、武漢市から4人に1人が重症化と伝える医師がいるなど、様々な情報があり、報道がどの程度、実態を伝えているかは、わかりません。

 英紙デイリーメールは武漢国立生物安全実験室から漏れたウイルスが今回のパンデミックの原因だと報じました。米紙ワシントンタイムズも同様の見方の記事を流しました。この点に関して、月刊『中国』編集長の鳴霞女史が重要情報を語っている動画がネット上に掲示されています。電話による会話のため細部はよく聞き取れませんが、概略下記のような内容と思われます。

・国連は武漢生物化学研究所で病毒を人民解放軍が作った証拠を発見した。
・この病毒は2018年に完成していた。ワクチンが製造されている。
・武漢市は全部封鎖され、死者がいっぱい出ているが、人民解放軍が武漢市に入った。彼らは全員予防注射を打ってる。
・中国は、生物化学兵器の製造を禁止する国際条約に違反して、生物兵器を開発していた。
・アメリカも国連もそれをつかんでいる。国連はこれからそれを発表する。その準備をしている。
・世界中で中国の飛行機や船の出入りがすべて止められる。出入国禁止に。
・中国の海外の資産が凍結される。
・これで中国共産党が終わる。
https://www.youtube.com/watch?v=vXvFXO9ydyU
https://youtu.be/PoHTZMJQWCY

 もしこれが事実なら、中国共産党は、国連やアメリカに、生物兵器製造の発表、出入国禁止、海外資産凍結をさせまいと躍起になって、あらゆる手段を取るでしょう(要人の強迫・買収・襲撃、サイバー攻撃、謀略宣伝、経済的対抗措置等)国内でも、権力の維持に必死になり、反政府運動、クーデタを抑圧するため、武力、情報統制力を強力に行使するでしょう。簡単に中国共産党が終わるとは思えません。共産党の支配を終わらせられる力が国内で組織されているかどうかによります。

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インド46~大乗仏教の無我説、空、中観派

2020-01-28 13:25:42 | 心と宗教
●大乗仏教の無我説

 釈迦は、自我を現象としては認めるが、それが恒常不変のものではないことを示して、現世への執着を捨てさせ、涅槃寂静という目標を明確にして修行に専念させようとした。これが釈迦の無我説の主旨と私は考える。
 仮に自我はそれ自体で存在する実体ではなく、恒常不変の本質を持たないとするとしても、自我の存在を全く認めないならば、因果応報の主体がなくなる。行為をする者とその結果を受ける者との同一性が成り立たない。また、輪廻転生をする主体もないことになる。だが、輪廻転生する霊魂を認めないならば、解脱を目指す必要もなくなってしまう。死んだら身体の消滅とともに、五蘊が消散し、精神(我)も消滅するという唯物論的な考え方を排除できない。
 この難問を解決するために、大乗仏教はアートマン(我)としての自我を全く否定する無我説を説きつつ、自我に替わるものを打ち出す思想を発達させた。それが空の思想と唯識説である。

●空の思想

 空(シューニヤ)とは、すべてのものは、みな因縁によって起こる仮の相であり、実体性がなく固定した本質を持たないことをいう。空の思想では、説一切有部が説く事物の構成要素としての法はすべて本性を持たないとして、その実体性を否定する。この思想は、般若経の経典群で多く説かれ、ナーガールジュナ(竜樹)によって体系化された。

◆般若経
 空の思想を表した経典の代表的なものが、般若経である。般若経は一個の経典の名称ではなく、般若経という名のつく経典の総称である。紀元前後からの約100年間に個々に成立したと見られる。
 般若経に基づく思想では、すべてのものの本性は固定的なものではないことを、自性空(じしょうくう)と呼ぶ。そして、悟りに達するために、すべてのものを空と観じて執着を離れるべきことを説く。
 般若経は、悟りに達するために、六つの修行を挙げる。この修行を波羅蜜(パーラミター)という。波羅蜜には、布施、持戒、忍辱、精進、禅定、般若の6つがあり、これらを六波羅蜜と呼ぶ。
 第一の布施波羅蜜は、分け与えることであり、喜捨を行なうこと、仏法について教えることなどをいう。第二の持戒波羅蜜は、戒律を守り、自己を反省すること。第三の忍辱波羅蜜は、完全な忍耐を行うこと。第四の精進波羅蜜は、努力を尽くすこと。第五の禅定波羅蜜は、心を特定の対象に集中して統一すること。第六の般若波羅蜜は、すべてを空と観じる最高の智慧を完成させることをいう。第1から第5までの5つの波羅蜜は、最後の般若波羅蜜を成就するための階梯である。
 般若経は、波羅蜜の実践を通じて、空の智恵を得ることを目指す。般若経の要諦を表す『般若心経』に「色即是空、空即是色」という言葉がある。この名句は「諸法皆空」の思想を端的に表すものである。
 空の思想は、般若経の経典群以外に、浄土系経典、『法華経』、『華厳経』等にも盛られている。

◆ナーガールジュナと中観派
 空の思想を体系化したのが、ナーガールジュナ(竜樹)である。ナーガールジュナは、生年150年頃、没年250年ごろとされる。南インドのバラモンの出身で、最初、部派仏教を学んだ後、大乗仏教に転じた。
 縁起説によれば、すべてのものは原因・条件の結果として成り立っており、何一つとしてそれ自体で存在するものはない。ところが、説一切有部は、三世実有・法体恒有の説に立って、一定の性質をもって実在する諸法相互の関係を縁起と説いた。ナーガールジュナは、『中論頌』『大智度論』等を著して、これに反論し、独立の実体や固定した本質すなわち自性を立てようとする考えを完全に否定し、あらゆるものは無自性すなわち空であると説いた。この説は、虚無を説くものではなく、それ自体で存在する実体を否定し、すべてのものを関係においてとらえる見方である。
 ナーガールジュナは、縁起を因縁によって生起することととらえているだけではなく、相互依存の関係と理解している。AとBが互いに因となり果となり、双方が互いを規定し合い、相互依存関係を通じて、AとBが同時に決まるとする。それゆえ、時間的に継起する因果関係だけでなく、非時間的な依存関係をも因縁と理解するものといえるだろう。
 空は、有ではなく無でもない。有と無は対立する概念だが、空はその両者を超えた概念である。ただし、単にそれらを否定したものではない。空は有でも無でもないが、同時に、空は有であり無であり、また、有と無以外のものでもある、とナーガールジュナは説いているからである。この論理は、アリストテレスの形式論理学及びそれを基礎とした近代西欧の論理学では、論理と認められない。だが、この言わば論理を超えた論理が、空を示唆するものである。私は、論理を使って論理を超え、言語的な思考を停止させて、悟りに導こうとするものではないかと思う。
 ナーガールジュナは、すべてのものは空であるが、それを相対的な日常的立場からは有と見るとして、空を説きながら空に執着しない中道を説いた。これを中観と称し、中観派が形成された。
 彼の思想は弟子のアーリヤデーバ (提婆) に継承され、以後の大乗仏教各派に多大な影響を与えた。シナに伝えられて三論宗となり、わが国では南都六宗の一つとなっている。
 ナーガールジュナの空論は精緻なものだが難解であるため、一部に空の思想を虚無主義ととらえる誤解を生じるようになった。

 次回に続く。

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新型コロナウイルスがパンデミックに

2020-01-27 13:23:31 | 国際関係
 中国・武漢市で発生した新型コロナウイルスは、中国政府の隠蔽体質、官僚主義的対応で、感染が国際的に拡大しています。中国が影響力を振うWHOは緊急事態宣言を見送りましたが、武漢市はパンデミックの様相を呈しつつあります。人口1100万人の武漢市が中央政府によって封鎖されました。武漢市長は、封鎖がされる前に、市内から500万人が逃げ出したと発表しました。
 この危機的状況の中で、春節による中国人の大移動が行われています。最悪のタイミングです。感染している可能性のある中国人が、どんどん旅行で日本に来ています。政府は、まず中国人旅行者を本国に帰還させなければなりません。わが国政府は、米国、台湾、フィリピン等の素早い対応に学んで、感染拡大の防止に全力を挙げるべきです。

◆中国の実態

●報道から

https://blog.goo.ne.jp/jiuhime007/e/8a07fa4e74314f58f7446a2ca5270673
 新型コロナウイルスによる肺炎患者が500人以上確認された中国・武漢で1月21日から22日にかけて調査を行った重症急性呼吸器症候群(SARS)専門家で香港大学教授の管軼(グアン・イー)氏は、現地メディアの「財新」の取材に対して、「保守的に見積もっても、今回の感染規模はSARSの10倍以上だろう。武漢は既に制御不能だ」と語った。
 管氏は2003年にSARSが爆発的に流行したとき、感染源を市場の野生動物と突き止めて政府に対策を進言、一層の感染拡大を防いだことで知られる。

●西村幸祐‏ 氏のツイートから

2020.1.25
 2日前1/23武漢の病院の電話。病院はパンク、患者が溢れかえって2次3次感染が酷い。人手が足りなすぎるので100人単位で医療従事者を寄越せ。医者も感染30人が入院。武漢はもう駄目、300人収容のうちの病院に1万人来て病院の回りは病人だらけだ。全員感染している可能性があり

 道路でもバタバタ人が死んでいる。政府は何をしている。食料も水も足りない。この世の地獄だ。くそったれ、と電話の医師は叫んだ。この日、中国共産党の資金が流れ込んでいる連合国(国連)のWHO(世界保健機構)は、コロナウイルスの発生に非常事態の宣言を見合わせた。最低のシステムが出来上がっている

 武漢の病院の1シーン。「朝から4人の遺体が廊下に置かれている」というコメントが入っている。未知のウイルスによる死者の遺体が病院の廊下に長時間放置されている。これは地獄だ。大急ぎで大規模な土木工事を始めたのも解る。死体を遺棄する穴や感染者を入れる収容所がすぐにでも必要だからだ。

●布路川梶太氏のツイートから

2020.1.25
 3番目の情報源(地元の医師の証言映像)では、9万人が感染していると。最初の2人は10万人と言っています。信頼性は非常に高い。さらに医師は、1人が14人に感染させる可能性があると。しかし中国疾病管理予防センターは1月22日に感染症者の増加はないと述べた。

●河添恵子氏のツイートから

2020.1.26
 湖北航天医院の医師が、意を決して外界に訴えたという記事。「湖北省で感染者数は10万人を超え、病院が地獄と化し、助けを求めパニックになっている。が、湖北省政府は事実隠蔽のため、物資は十分あると語り、外部からの援助を拒絶している」と。これが殺人鬼と同義語の中国政府の真実の姿です。

◆日本の対応

●門田隆将氏のツイートから

2020.1.25
 いよいよ中国でパンデミックが始まった。機内で自己申告の質問票を配布するという“対策”を採った安倍政権を嘲笑うように武漢、いや中国全土から日本での治療を目指す人々が押し寄せている。だが国会では今も野党によって「さくら~、さくら~」が歌われている。これが危機管理ゼロ、機能不全国家の姿。

●報道から

2020.1.26
 安倍総理大臣は「新型コロナウイルスに関連して中国の武漢市内の閉鎖が進んでいることから、この週末、武漢在住の日本人への意向確認を随時行うとともに、希望者の帰国に向けた具体的な検討を進めてきた」と述べました。
 そのうえで「その結果、チャーター機などの手当てのめどがついたことから、中国政府との調整が整いしだい、チャーター機などあらゆる手段を追求して希望者全員を帰国させることとした」と述べました。

●河添恵子氏のツイートから

2020.1.26
 安倍政権の対応。今頃?遅すぎでしょう? ふざけてる! 旧正月で大量に日本に中国人が押し寄せている。日本の病院で診察を受け、日本人の皆にウイルスまき散らす!! 潜伏期間は数日、そして家族の1人が感染したら80%以上が感染している。

◆原因

●西村幸祐氏のツイートから

2020.1.26
 英紙デイリーメールは武漢国立生物安全実験室から漏れたウイルスが今回のパンデミックの原因だと報じた。事実の確証はないが僕に入る様々な情報と照らすと可能性はあり細菌兵器研究の噂も。3年前に米の研究者が警告していた。2004年に北京の実験室からSARSウイルスが流出した

●河添恵子氏のツイートから

2020.1.26
 中国科学院武漢病毒研究所(武漢のウイルス研究所)は、新型コロナウイルスの発症現場、海鮮市場から32km。台湾人の某有名医師は「生物化学兵器の実験で使われた動物たちが、海鮮市場に転売されたに決まっている」。ハクビシン、キツネ、野ウサギ、クジャク、カリ、サソリ、ワニ、蛇…コアラまで(驚)

インド45~法華経、観音信仰、弥勒菩薩

2020-01-25 08:54:28 | 心と宗教
●『法華経』

 阿弥陀信仰は仏教の有神教化の早期の例だが、さらに発展した段階の例の一つが、『法華経』の信仰である。
 『法華経』は、紀元前後にインド北部で成立したと見られる。『妙法蓮華経』が正式名称であり、「蓮華のような素晴らしい教えを説く経」を意味する。蓮は泥の中から現れるが、その花は泥に汚されることなく、白く美しく咲くことから、この経典の名称に使われている。
 『法華経』が成立する前、大乗仏教では、出家者より在家者の優位を説く経典が現れていた。『維摩経』は、在家者が出家者をやっつける筋書きであり、菩薩の理想像を在家の維摩居士の姿に描いている。また、『勝鬘経』は、国王の娘である勝鬘夫人が釈迦の神通力を受けて在家信仰を鼓吹した。
 『法華経』は、前半を迹門(しゃくもん)、後半を本門と呼ぶ。迹門においては、それまで大乗仏教の一部が部派仏教の出家者は悟りを得ることができないとしていたのと異なり、釈迦の教えを聴いて悟りを求める声聞(しょうもん)、師を持たずに悟りを求める縁覚(えんがく)も、悟りを得ることができるとした。
 大乗仏教では、乗り物のたとえを使って、声聞乗、縁覚乗といういわゆる小乗の二乗と、大乗の菩薩乗という三つの道があるとする。部派仏教では菩薩乗を説かず、かわりに仏乗すなわち仏の乗り物を立てる。これに対し、『法華経』は、声聞乗、縁覚乗、菩薩乗の三乗は一乗すなわち一仏乗に導くための方便であり、真実なる一乗によって一切衆生が等しく成仏し得ると説いている。これは小乗の二乗を否定せずに包摂するもので、寛容で宥和的な思想である。
 本門においては、歴史上の釈迦は方便すなわち衆生を正しい教えに導くための手段として現れた姿にすぎず、本当は永遠の過去から存在し、常住・不滅であることを強調する。この本来の仏を「久遠(くおん)の本仏」という。ここには、宇宙の根本原理であるブラフマンとヴィシュヌを同一視して最高神とするヒンドゥー教の影響が濃厚である。
 『法華経』本門の思想は、阿弥陀信仰より仏教の有神教化が一段と進んだものである。釈迦を超人化・神格化した仏教は、釈迦を一種の人間神とした。次にこの人間神を宇宙神に高め、さらに宇宙神が人間の姿を取って歴史的世界に出現したものが釈迦であると理解し直した。その理解に立って、『法華経』が編まれたと解することができる。
 『法華経』には、個人の救済だけでなく鎮護国家の思想があり、『金光明経』、『仁王経』とともに鎮護国家の経典としても重視された。
 『法華経』は、非仏教徒に仏教の信仰を勧めるとともに、仏教徒を含むすべての者に対して『法華経』を崇拝すべきことを説いている。「南無妙法蓮華経」を唱える儀礼は、この経典の題目を唱えて「『法華経』に帰依します」という信条を告白するものである。経典自体の神聖化は、ヴェーダの宗教がヴェーダ文献を聖典とすることに類似している。
 『法華経』は「経典中の王」と呼ばれ、シナでは天台智顗、日本では聖徳太子、最澄等が重んじ、日蓮はこの経典を絶対とする日蓮宗を開いた。

◆観音信仰
 『法華経』の本門には、観世音菩薩普門品という章がある。観世音菩薩が一切衆生を救うことを説くもので、独立して『観音経』となり、観音信仰の経典となった。
 観音信仰は、4~5世紀以降に顕著になった。観音は観世音菩薩あるいは観自在菩薩の略称で、もとはアヴァローキテーシュヴァラの漢訳である。
 観音信仰は現世利益を求める信仰と結びつき、様々な利益に応じて変化身(へんげしん)が現れるようになった。衆生の求めによって姿を変えるとされ、三十三身が最もよく知られる。輪廻転生の世界を六道すなわち地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人間道・天上道という六つの領域に分け、それぞれの領域にある衆生を救う菩薩として、六観音が立てられた。十一面観音には、多くの顔を持つヒンドゥー教の神々の影響が見られる。また千手観音は、千手千眼観自在菩薩の略称で、千の眼を持つインドラや千の手を持つヴィシュヌやシヴァの影響である。ここにも仏教のヒンドゥー化が明確に現れている。

●仏の三身説

 釈迦の超人化・神格化の結果、仏の三身説が成立した。これは、仏を法身(ほっしん)・報身(ほうじん)応身(おうじん)の三相で考える説である。
 法身は、永遠なる宇宙の理法そのものとしてとらえた仏のあり方である。法身仏とは、法そのもの、永遠不滅の真理であり、釈迦の本体である。『法華経』の久遠の本仏は、法身仏であり、『華厳経』の毘盧遮那仏、『大日経』の大日如来もそうである。
 報身は、過去の修行によって成就した仏のあり方である。報身仏とは、修行の結果、願を成就して仏身を得たものである。すでに自ら仏となりながら、さらに衆生済度(しゅじょうさいど)のために様々な姿を取って利他の働きを行ずる諸仏をさす。済度とは法を説いて迷いから救って、悟りを開かせることをいう。阿弥陀仏または阿弥陀如来、薬師仏または薬師如来は、過去の修行によって仏となり、一切衆生の救済者となった報身仏とされている。菩薩ではなく仏陀である。
 応身は、仮に相手に応じて出現した仏のあり方である。応身仏とは、衆生を救うために、仏が如来や菩薩等の種々の姿を取って権(仮)に現れたものである。法が人格化した存在であり、歴史上に出現した釈迦は、これとされる。仏の化身であり、権現と呼ばれる。
 仏の三身説もまた明らかにヒンドゥー教の影響である。法身仏は、ヒンドゥー教におけるブラフマンに相当する。ヴィシュヌはブラフマンと同一とされるから、法身仏は、ヴィシュヌにも当たる。法身仏と応身仏の関係は、ヴィシュヌとその化身に対応する。ヴィシュヌの第9番目の化身が、ゴータマ・ブッダとされている。
 ヒンドゥー教では、実在した人間と考えられるクリシュナが超人化され、神の化身とされた。釈迦は紛れもなく実在の人物だが、その超人化・神格化には、クリシュナの場合と似た展開が見られる。その一方で、違いもある。クリシュナは軍人の英雄が民衆によって神格化され、神の化身に祀り上げられたのに対し、釈迦は修行によって悟りに達した覚者が仏の応身とされている。
 このことに関連して、釈迦が原型となって過去の諸仏や菩薩等が生み出されたことについても、修行の実践による悟りという体験が不可欠である。ヒンドゥー教の化身は神の現れであるから、修行によって悟る必要がない。そのうえ、魚、亀、猪など人間ではない動物が、神の化身とされている。こうした動物が修行して悟ったのではない。
 なお、仏教には、ヒンドゥー教にはない報身仏があることも、特徴の一つとなっている。

●弥勒菩薩

 ヒンドゥー教は、釈迦をヴィシュヌの第9番目の化身とする。また将来、第10番目の化身カルキが現れると信じられている。この未来の救済者の観念が仏教に影響したものと考えられるのが、弥勒菩薩である。
 弥勒は、マイトレーヤの音写による漢訳である。現在、兜率天で修行中の菩薩であり、釈迦入滅の56億7000万年後に、この世に下生して、釈迦の救いに洩れた衆生を救済すると信じられている。
 マイトレーヤの名は、ヴェーダの宗教の神ミトラと似ている。ミトラは、先の項目に書いたように契約神・軍神・太陽神とされ、特に歴代のペルシャ王朝で国家の守護神として崇拝された。ゾロアスターの宗教改革後も、民衆の間でミトラ信仰が続き、ミトラを太陽神・光明神にして万物の豊穣を司る神と仰ぐミトラ教が現れ、紀元前1世紀からローマ帝国に伝わった。インドでも、民衆の信仰を集めた。このミトラ教のミトラが仏教に取り入れられ、マイトレーヤすなわち弥勒菩薩となったと考えられる。ミトラ教には、ゾロアスター教から受け継いだ未来の救世主の思想があり、これとヒンドゥー教のカルキの観念が結合し、仏教の菩薩となったものだろう。
 弥勒菩薩は、実在の人物が理想化されたものという説がある。釈迦の弟子でアジタというバラモン出身の出家者の伝説がもとになっている。弥勒信仰は、紀元後3世紀半ばまでに形成され、一時は盛んだったと見られる。インドには、多くの弥勒像が残っている。また、弥勒三部経と呼ばれる『弥勒下生経』、『弥勒大成仏経』、『弥勒上生経』が作られた。

 次回に続く。

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対米緊張関係で揺れるイラン2

2020-01-24 09:35:51 | 国際関係
 わが国のマスメディアの多くは、米軍によって殺害されたソレイマニ司令官をイランの「英雄」とし、彼の死を悲しむイラン国民の姿を盛んに報道した。その映像を見る視聴者は、米国が非道卑劣な行為をしたという見方へと自ずと誘導される。
 だが、イスラム思想研究者の飯山陽氏は、1月11日イランに関するNHK等の報道の偏向を指摘し、実態は下記のようだと伝えている。

 「イランの国内外の反体制派にとってソレイマニは『英雄などではなく、独裁的なイラン革命体制の象徴だ。ソレイマニの死を受け、SNS上にはイラン人たちの喜びの声やトランプ大統領への感謝の声などがあふれた。同時に『イラン人はソレイマニが大嫌い』というハッシュタグをつけたツイートも目立った」
 「2011年から始まったシリア内戦では、アサド政権を支えるため中東各地からシーア派民兵を集めて投入し、反体制派を町ごと包囲して人々を飢えさせて降伏に追い込むという極めて残忍かつ非人道的作戦でマダーヤー、クサイル、ザバダーニーなど数々の反体制派拠点を陥落させた。毒ガスなどの化学兵器使用を指示したのも彼だとされる。これらの作戦により殺害されたり、故郷を追われたりした人は数十万人とも数百万人とも言われる」
 「米当局は米権益へのさらなる攻撃を抑止するためにソレイマニを殺害したと発表した。しかしそれは同時に、彼の指令、工作活動により今後迫害される可能性のあった中東の多くの人々の命を救うことにもなった。中東での暴力の抑止効果は多大である。ソレイマニ殺害という米作戦は、田中教授(ほそかわ註 田中浩一郎氏、慶應義塾大学)の言うように中東に『火をつけた』のではない。ソレイマニが着火し中東で燃え広がっていた『火を消した』のだ。全く正反対である」

 飯山氏の記事を読むと、独裁体制に反対の人びとが相当多くいそうな印象を受けるが、イランの国内統制は非常に強く、反体制派は厳しく弾圧されており、一部の政党は活動を禁止されたり、国外に亡命して活動している状態である。
 イランでは、昨年11月に大規模なデモが起こった。その結果を伝える下記の記事からも、厳しい状況がうかがわれる。

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●産経新聞 令和元年11月27日

https://www.sankei.com/.../news/191127/wor1911270007-n1.html
イランデモで死者450人以上 反体制派が発表
2019.11.27 08:55|国際|米州

 【ワシントン=住井亨介】イランの在外反体制派組織「イラン国民抵抗評議会」(NCRI)は26日、米首都ワシントンでイラン各地での反政府デモについて記者会見し、当局による鎮圧行動などによって450人以上が死亡したと発表した。負傷者は4千人以上、逮捕者は1万人以上いるとし、イランへ調査団を派遣するよう国際社会に呼びかけた。
 NCRIによると、イラン国内の支援者からの情報を基に数字を集計した。デモはイラン全土に広がり、176都市で発生。死者のうち154人の身元を確認したという。鎮圧に関わったイラン革命防衛隊などの当局者87人も特定した。
 NCRIのサムサミ米国代表は「国際社会は即座に(市民の)殺害と逮捕をやめるよう(イランに)要求すべきだ」と訴えた。
 国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは25日、治安部隊の発砲などにより少なくとも143人が死亡したと発表している。
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 イランが米軍及び有志国軍が駐留するイラク軍基地を攻撃した1月8日、イランの首都テヘランのイマーム・ホメイニ空港から離陸したウクライナ国際航空機が墜落した。176人が搭乗していたとみられ、全員が死亡したという。イランは、当初旅客機側の「技術的な問題」だという見方を発表していたが、墜落時の映像等が世界的に報道されると、イランはイラン軍がミサイルを誤射して撃墜したと認めた。人的ミスによる撃墜で、故意ではなかったとしている。
 米国などはウクライナ機の墜落原因がイラン軍の誤射だった可能性が高いと指摘していたが、イランは「真っ赤なウソだ」と反発していた。だが、イラン軍の誤射だったと認めたことで、イランの方がウソをついていたことが露呈した。これに対し、イランで政府に抗議するデモが起こった。軍が抗議デモに発砲し、1500人が死んだと報じられた。昨年11月のデモの死者が450人以上とすれば、その3倍以上の死者が出たことになる。
 このデモに関して、評論家の宮崎正弘氏は、メルマガ「国際情勢解題」の1月14日版に、イランの深刻な国内事情を書いた。

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 過日のイランに於ける抗議デモ、つまり狂信的宗教政権と、それを暴力で守る革命防衛隊の「政府」を、イランの民衆がいかに思っているかを象徴した。
 軍が抗議デモに発砲し、1500名が死んだと報じられた。死者1500名? 天安門事件ではないか。

 イランのインフレ、じつはもの凄いことになっている。
 賃金は上がらず、若者に職はなく、物価だけが暴騰をつづけ、ついに民衆はテヘラン政権の無能に怒りを爆発させた。対米戦争? ソレイマニ司令官が殺害された報復。そういう繰り言を言う前に、われわれの生活をナントカしろ、というわけだ。

 これまで問題視されたことがないが、イランの人口動態の激変ぶりが露骨だ。
 少子化が急速に進んで僅か三年前の四分の一、五年前の五分の一、つまりイラン人が子供を産まなくなったのではなく、生活苦で子供を作れなくなったと見るべきなのだ。

 庶民の台所を直撃した猛烈インフレは、つぎにベネズエラ型に移行する可能性がある。ベネズエラは、生活困窮、無政府状態。450万人の国民がブラジル、コロンビアなどへ逃げた。米国の制裁で命綱の原油輸出が出来ず、経済回復は到底望めない状況である。

 イランから経済難民として外国へ逃げるといっても、西隣のイラクは治安が悪い(悪化させたのはイランだが)、東隣のアフガニスタンもパキスタンも難民を受け入れる素地はない。両国はイランより遙か以前に経済が破綻している。
 結局、ホルムズ海峡を越えて対岸のオマーン、カタールへ?

 過剰防衛の誤断でウクライナの旅客機を撃墜したことをイランは認めた。国民はデモを連日組織し、ついにはスレイマニ司令官の追悼ポスターをはがし始めた。
 次に起きることは何か?
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 米国は、抑制的な対応をし、軍事攻撃を続けて戦争になるのを避け、経済制裁を強化する方針を取っている。この経済制裁によってインフレがさらに激化すれば、イラン国民の政府への批判が強まるだろう。その動きが体制の変革にまで高揚するか、それとも現政権が反政府運動を徹底的に鎮圧するか、注目される。

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 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
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インド44~仏教のヒンドゥー化、阿弥陀信仰

2020-01-22 13:15:26 | 心と宗教
●仏教のヒンドゥー化

 大乗仏教は、在家者を中心とする信仰である。在家者は、現実社会で家庭生活・職業生活をしており、出家者のように修行生活を送ることはできない。そのため、自力による解脱は、ほとんど不可能である。そこで在家者は、他力による救済を求めた。釈迦が超人化・神格化され、救済者として崇拝されるようになったのに続いて、過去仏の信仰が現れ、さらに如来(タターガタ)や菩薩(ボーディサットヴァ)への信仰が生まれた。如来とは、ブッダの尊称の一つである。釈迦如来以外に、阿弥陀如来・薬師如来等が創り出された。菩薩とは、ブッダに次ぐ修行者である。観音・弥勒・普賢・勢至・文殊等の菩薩が立てられていった。これらは、超人的存在であり、一種の神格である。如来や菩薩への信仰は、本来無神教である仏教が有神教化したものである。この現象が意味しているのは、仏教へのヒンドゥー教の影響である。本稿では、仏教がヒンドゥー教の影響を受けて変化していった現象を、仏教のヒンドゥー化と呼ぶ。
 なお、菩薩について補足すると、菩薩とは、自利とともに、一切衆生の救済を誓願して実践する修行者をいう。だが、救済を祈願する信仰対象をいったり、大乗仏教を信奉するすべての者をいうなど、多義的である。
 仏教のヒンドゥー化には、早くから現れた兆候がある。第一は、聖地巡礼である。ヒンドゥー教徒は、神話や叙事詩と結びついた聖地への巡礼を行っていた。仏教徒は、これをまねて釈迦の由来の地に巡礼するようになった。第二は、仏像がヒンドゥー教の神々が身に付ける装身具を付けるようになったことである。装身具には、宝冠や瓔珞(ようらく)等がある。第三に、ヒンドゥー教の神像礼拝の祭儀であるプージャーにならって、仏像に花や香を供え、歌舞を奉納するようになったことである。
 これらの兆候は、もともとヒンドゥー教的な信仰を持っていた人々が、仏教に帰依した後も、以前からの慣習を保っていたためと考えられる。大乗仏教出現以降のインド仏教の歴史は、ヒンドゥー化の進行の過程となった。

●阿弥陀信仰

 大乗経典のうち特に古いものの一つに、『大阿弥陀経』がある。浄土系経典の最初期のものである。ここにおける阿弥陀信仰は、早期に仏教の有神教化が鮮明になったものである。
 阿弥陀信仰は、現世に出現したゴータマ・ブッダへの信仰ではなく、西方の極楽浄土にいるとされる阿弥陀仏または阿弥陀如来への信仰である。阿弥陀はアミターバすなわち無量光、またはアミターユスすなわち無量寿を漢訳したものであり、阿弥陀如来とは、「無量の光あるいは寿命を持つ仏」を意味する。
 阿弥陀信仰には、ペルシャの宗教の影響が見られる。ペルシャで盛んだったミトラ信仰のミトラは太陽神であり、またゾロアスター教の最高神アフラ・マズダは光の神である。阿弥陀如来が無量の光を持つ仏とされたのは、こうしたペルシャ系の太陽神・光明神を仏教の中に取り入れたものと考えられる。
 また、ヒンドゥー教の影響があるとも考えられる。ヴィシュヌは、太陽が光り照らす働きを神格化したものであり、太陽神にして光の神である。ヴィシュヌ信仰は、紀元前後から徐々に盛んになったので、これが阿弥陀信仰を誘発したり、ヴィシュヌを信仰していたヒンドゥー教徒が仏教徒となって阿弥陀信仰に転じたりした可能性がある。
 もとがミトラにせよ、ヴィシュヌにせよ、阿弥陀信仰は、阿弥陀仏という一種の神格への信仰であり、仏教の有神教化をはっきりと示すものである。それは、すなわち仏教のヒンドゥー化の現象である。
 阿弥陀信仰は、死後、西方の極楽浄土に往って生まれることを望む。これを極楽往生という。インドの阿弥陀信仰は、浄土に生まれた後、阿弥陀如来の説法を聞いて修行をして悟ることを目指す。それゆえ、信仰だけでなく、修行も必要だとする。ところが、わが国における阿弥陀信仰は、浄土真宗の開祖・親鸞の教えが典型的であるように、「南無阿弥陀仏」すなわち「阿弥陀仏に帰依します」と唱えるだけで、誰もが阿弥陀如来のいる極楽浄土に往生できると信じるようになった。これは、完全他力である。自力による修行は、必要ないわけである。また、浄土に生まれることが最終目的とされ、ただ浄土への往生を願うものとなった。日本人は、仏教を通じてインド文明の輪廻転生の観念を受け入れたが、この極楽往生の願いは、仏教の多生説より、神道の単生説に近いものになっている。
 阿弥陀信仰に基づく浄土経典は多くあるが、日本では、『無量寿経』、『観無量寿経』、『阿弥陀経』の三つを浄土三部経と総称している。

 次回に続く。

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対米緊張関係で揺れるイラン1

2020-01-21 10:32:14 | 国際関係
 1月3日米国は、イラン革命防衛隊の海外作戦を担当するコッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官を無人機による攻撃で殺害した。これに対し、イランは8日、米軍及び有志国軍が駐留するイラク軍基地2か所を地対地ミサイルで攻撃した。イランは米軍兵士80人を殺害したと発表したが、米国は人命被害はないと発表した。
 昨年10月から1月8日までの経緯について、河野太郎防衛大臣がブログに経緯の詳細を書いた。

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https://www.taro.org/…/%e3%82%a4%e3%83%a9%e3%82%af%e3%81%a7…
イラクで何が起こったのか
ごまめの歯ぎしり ,防衛大臣
2020.01.08

 2020年1月8日(日本時間)、イランから発射されたミサイルが米軍及び有志国も駐留するアル・アサド及びエルビルの二つのイラク軍基地に着弾しました。イラン革命防衛隊は、地対地ミサイルの発射を発表しています。
 イラクで何が起きたのか、公開情報で時系列に見ていきます。

 2019年10月以降、イラクで米軍が駐留する基地に対する攻撃が多発しました。
 バグダッドで10月2日、タジ空軍基地で10月28日、バグダッドで10月30日、アサド空軍基地で12月3日、バラド空軍基地で12月5日、バグダッドで12月9日、12月12日、ロケット弾などでの攻撃がありました。
 アメリカ人には被害はなかったもののアメリカはソレイマニ司令官の関与を主張。
 12月27日、対ISIL有志連合が駐留するイラク中部キルクークのイラク軍基地にロケット弾30発以上が着弾し、米軍が契約する民間人が1人死亡、米軍兵士4人とイラク治安部隊2人が負傷しました。
 29日、アメリカはこの攻撃を含む米軍への相次ぐ攻撃を行ったとしてイスラム教シーア派の武装組織カタイブ・ヒズボラの拠点5カ所(イラク西部3カ所及びシリア東部2カ所)へ「防御的対応」として精密攻撃を実施。
 12月31日、カタイブ・ヒズボラに対する米軍による攻撃に反発したイラクの民衆がバグダッドにあるアメリカ大使館を襲撃し、大使館の建物が損傷し、米国務省はイラク在住のアメリカ国民に対し、イラク国外への退去を要請。
 アメリカは、イランと関係の深いシーア派民兵組織がデモを扇動し、デモの中に民兵組織の制服を着た構成員を確認したと主張。
 同日、大使館防護を目的にクウェートから海兵隊を緊急展開するとともに、エスパー国防長官が空挺師団から一個大隊(約750人)を緊急展開する計画を発表。
 1月2日、エスパー国防長官は、イランとその代理勢力がアメリカへの攻撃を実施する兆候がある、局面は変化し、米軍はイランへの先制攻撃を辞さずと警告。
 1月3日現地時間00:30、ソレイマニ司令官の搭乗機がバグダッド国際空港に着陸。司令官は車両に乗車。
 空港を出発し、貨物ターミナル付近を走行しているところに米無人機から発射された誘導ミサイルが命中し、司令官は死亡、同乗していたカタイブ・ヒズボラのムハンディス司令官も死亡。
 3日、トランプ大統領が、戦争を開始するためではなく防ぐための攻撃だと主張。
 同じく3日、イランの最高指導者ハメネイ師は3日間の喪に服すこと及びその後の報復を宣言し、イランの国連大使は国連事務総長宛ての書簡で自衛権の行使を示唆。
 1月4日、バグダッド市内のアメリカ大使館が所在するグリーンゾーンにロケット弾2発が着弾しイラク人3人が負傷し、さらに米軍が駐留するバグダッド北部のバラド空軍基地にロケット弾3発が着弾。
 トランプ大統領はイランが報復すれば、アメリカはイランの重要な施設52カ所を攻撃すると警告。
 米国防省は、中東地域に米軍3000人を追加派遣すると発表したとの報道。
 1月5日、ハメネイ師の軍事顧問がイランは米軍施設に直接報復すると発言したとの報道。
 イランは核合意の濃縮能力に関する制限を遵守せずと表明するもIAEAとの協力関係は維持する旨を発表。
 5日、イラクの議会は米軍その他の外国部隊の撤退を求める決議を可決。
 1月6日、テヘランでソレイマニ司令官の葬儀が行われ、国営メディアは数百万人が集まったとの報道。
 イラクのアブドルマハディ暫定首相は米大使に対し、駐留部隊の撤退への協力を要請。
 1月8日(日本時間)、イランから発射されたミサイルが米軍及び有志国も駐留するアル・アサド及びエルビルの二つのイラク軍基地に着弾。イラン革命防衛隊は、地対地ミサイルの発射を発表。

 日本政府は情勢の分析を進めると同時に、今後の変化を見極めるべく努力をしていきます。
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 イランは、イラク軍基地攻撃後、ロウハニ大統領が、米国は、イランのソレイマニ司令官という「腕を切り落とした」かもしれないが、イランは報復として中東地域の米国の「足」を切り落とすと述べた。また、最高指導者アリ・ハメネイは、米国に「顔への平手打ち」を食らわせたと表現した。
だが、イランは、攻撃を実施するとともに米国に書簡を送り、戦争をする意思はないことを伝えていたとのことであり、また基地攻撃は人命損傷を避けた仕方だったと見られ、トランプ政権はさらなる報復攻撃をせず、経済制裁で対抗することを表明した。当面事態の拡大はなさそうである。
 ただし、イランの服喪期間は40日で、それが明ける2月11日がイスラム革命記念日ということから、その日以降に報復攻撃が行なわれる可能性があると警戒する専門家もいる。イランの外交は2枚舌どころか3枚、4枚の舌があるのかと思われるほど巧妙なものなので、予断を許さない。
 イラン革命防衛隊は直接、作戦行動を実施せず、その影響下にある各地の軍事組織が米軍に対して小規模な攻撃を繰り返す可能性もある。イランの影響を受けているテロ集団がテロを行なうことも警戒される。

 次回に続く。

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インド43~大乗仏教の勃興

2020-01-20 09:32:55 | 心と宗教
●釈迦の超人化・神格化

 釈迦は、ヴェーダの神々を否定することでブラフマンからダルマへという「神から法へ」の転換を行った。だが、釈迦の入滅後、釈迦は単なる人間ではないとして、超人化されるようになった。釈迦の生涯を伝える話には、多くの神話的要素が加えられていった。釈迦は、超人的存在として崇拝され、人々がその慈悲にすがる信仰の対象となり、救済者としての神に似た性格を持つことになった。一種の神格化である。この超人化・神格化によって、今度は「法から神へ」の逆行が起った。
 その兆しとなったのが、仏塔信仰である。

●仏塔信仰

 部派仏教の時代に、在家者の間で、釈迦の遺骨を納めた仏塔を中心とする信仰が起った。釈迦の遺骨は、舎利または仏舎利といわれる。分骨された舎利を収めるため、ストゥーパ(卒塔婆)と呼ばれる塔が、在家者によって造られた。その仏塔を中心として、在家者の集団が生まれた。インド文明では本来、墓を造らない。そうした社会において、釈迦の遺骨を守る信仰が発達したことは、釈迦の超人化・神格化への動きである。
 超人化・神格化が進む中で、釈迦は最初のブッダ(目覚めた人、悟りを得た人)ではなく、彼以前にもブッダが何人か存在したという過去仏の信仰が現れた。やがて釈迦は歴代のブッダのうちの6人目とされた。在家者の中にはヴェーダの宗教から改宗した者たちが少なくなかっただろうから、歴代のブッダへの信仰はヴェーダの宗教の中にあった信仰が仏教に持ち込まれたものかもしれない。
 こうしたことから、仏塔信仰が大乗仏教の起源となったとする見方がある。これを大乗仏塔起源説という。

●新たな経典の出現

 部派仏教の盛んななか、紀元前後の時期から新しい性格を持った経典が現れ出した。その内容は、釈迦が折々に説いた教えを集成したものとは違い、新たな思想を表現したものである。それらの経典のうち、特に古いと考えられているのは、『般舟三昧経』、『阿閦仏国経』、『大阿弥陀経』である。続いて、般若経の経典群、浄土系経典、『法華経』、『華厳経』等が作られた。後代のものになるほど、経典に神話的要素や文学的色彩が目立つようになった。

●大乗仏教の勃興

 一連の新経典が立脚するのは、出家者が個人の解脱を目指す立場ではなく、在家者を中心として大衆の救済を求める立場である。自分が解脱して涅槃寂静に至ることを目指すことを自利、一切衆生の救済を助けることを利他という。自利より利他を尊ぶ立場の信仰運動から興ったのが、大乗仏教である。また、一連の新経典を大乗経典と呼ぶ。
 大乗とはマハー・ヤーナの漢訳で、「大きな乗り物」を意味する。乗り物とは、川のこちら側から向こう岸へと渡る船をイメージしたものであり、迷いの世界である此岸から悟りの世界である彼岸へ行くための手段である。
 大乗に対する小乗はヒーナ・ヤーナの漢訳で、「小さな乗り物」または「劣った乗り物」を意味する。これは、大乗仏教の側から部派仏教を呼んだ蔑称である。現在では、世界宗教会議での合意により、小乗仏教という言葉は使用しない。インド仏教史上では部派仏教と呼ぶ。

●クシャーナ朝における発展

 マウリヤ朝の衰滅後、インドは小国が興亡する分裂時代を経て、紀元後1世紀に、イラン系の遊牧民族クシャーン人がインド北西部に支配を及ぼして統一国家を作り、クシャーナ朝が成立した。彼らを月氏と呼ぶ。月氏の支配はインド南部には及ばなかった。
 2世紀前半、クシャーナ朝のカニシカ王は仏教を篤く保護した。当時の仏教の主流は大乗仏教に替わっていた。クシャーナ朝では、陸路でローマ帝国との交易が盛んに行われた。そのため、ギリシャ=ローマ文明のヘレニズムの影響によって、ガンダーラで多くの仏像彫刻が造られた。
この頃から、大乗仏教はパミールを越え、西域を経てシナ、さらに朝鮮や日本に伝わった。この地域に伝来した仏教を、北伝仏教という。一方、部派仏教のうち保守的で権威のある上座部仏教は、スリランカやビルマ、タイ等に広がったので、その名称で呼ぶか、または南伝仏教という。

 次回に続く。

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 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
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『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
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台湾は地政学的に重要~楊海英氏

2020-01-17 14:25:39 | 国際関係
 1月11日に行われた台湾の選挙では、蔡英文氏が過去最多得票を更新して再選された。台湾の人民の多数は、中国共産党による「一国二制度」の導入にNOを突き付けた。副総統となった頼清徳氏は自他ともに認める独立派ゆえ、次期蔡政権は、これまで以上に独立志向を強めると見られる。立法院の立法委員選挙でも、民進党が過半数を維持し、今後4年間の政権運営の基盤が安定した。ひとまず台湾が中国の覇権主義にのみこまれることは、防がれた。
 日本人は、台湾の地政学的な重要性を深く理解する必要がある。その重要性について、静岡大学教授・楊海英氏が、産経新聞令和2年1月9日付に次のように書いている。
 「台湾は日本のエネルギー輸入のシーレーン上にある。中国がもし台湾を「解放」して自国に併呑すれば、日本が今まで以上に対中宥和(ゆうわ)政策を実施しても、生かすも殺すも主導権は北京に握られてしまう。経済の大動脈が牛耳られれば、衰退は止められず、中華人民共和国の「自治区」になる以外に選択肢はなくなる。
 それだけではない。もし台湾が陥落すれば、中国が軍事戦略上に位置づける第2列島線も悠々と突破され、沖縄から対馬を経て、北極に向かう長大な防衛上の弧線も人民解放軍の掌中に入る。そこから始まるのは太平洋の東西二分で米中の覇権争いが大和の空を凌駕する形で展開されることになる。
 日本政府は民主主義制度で選ばれた台湾を今まで以上に積極的に支援しなければ、悪夢は現実となる危険性がある。そして香港も新疆のウイグル人も、チベット人と内モンゴル自治区のモンゴル人も未来への希望を失う。果たして政府は今後、台湾とどんな付き合いをするのかが問われている」と。
 以下は、楊氏の記事の全文。

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●産経新聞 令和2年1月9日

年頭にあたり 「香港・ウイグル人権法」論議を 文化人類学者、静岡大学教授・楊海英
2020.1.9

 2020(令和2)年が明けた。日本と世界にとって、どんな一年になるのか。実は日本政府の行動が国内のみならず、国際社会にも大きな影響を与える年となりそうだ。

≪地政学的に重要な台湾≫
 まず台湾の総統選であるが、民進党の候補で現職の蔡英文氏の当選確実の勢いは止まらない。蔡氏の最大の「援軍」はほかでもない中国の習近平総書記(国家主席)だ。習氏は昨年の1月早々に演説し、一国二制度を台湾にも適用、武力による侵攻も辞さない強硬な態度を示したことで台湾の遠心力を加速させた。
 私は以前に台湾の国立大学、それも国民党系の幹部養成校が前身の伝統校で教鞭(きょうべん)を執ったことがあり、今も若い学生たちと交流を続けている。「天然独」即(すなわ)ち「生まれながらの台湾独立派」が圧倒的に多いのが、台湾の若年層の政治的思想的特徴である。若い人たちは台湾の未来について真剣に考えているし、政府の進める経済面での脱中国政策も実りつつある。
 台湾は日本のエネルギー輸入のシーレーン上にある。中国がもし台湾を「解放」して自国に併呑(へいどん)すれば、日本が今まで以上に対中宥和(ゆうわ)政策を実施しても、生かすも殺すも主導権は北京に握られてしまう。経済の大動脈が牛耳られれば、衰退は止められず、中華人民共和国の「自治区」になる以外に選択肢はなくなる。
 それだけではない。もし台湾が陥落すれば、中国が軍事戦略上に位置づける第2列島線も悠々と突破され、沖縄から対馬を経て、北極に向かう長大な防衛上の弧線も人民解放軍の掌中に入る。そこから始まるのは太平洋の東西二分で米中の覇権争いが大和の空を凌駕(りょうが)する形で展開されることになる。
 日本政府は民主主義制度で選ばれた台湾を今まで以上に積極的に支援しなければ、悪夢は現実となる危険性がある。そして香港も新疆のウイグル人も、チベット人と内モンゴル自治区のモンゴル人も未来への希望を失う。果たして政府は今後、台湾とどんな付き合いをするのかが問われている。

≪ポスト五輪の戦略が必要≫
 靖国神社など各地の桜の頃、世界最大の独裁国家の習近平氏が、日本に「国賓」として訪れる見込みだ。習氏の訪問で尖閣諸島周辺海域への中国公船の侵入はストップし、一方的なガス田開発も止まるか。そして歴史問題で事あるごとに日本にくぎを刺す牽制(けんせい)手法を改めるか否か。拘束された十数人もの日本人にいつ自由を与えるのか。ウイグル人を100万人単位で強制収容所に閉じ込める強権的政策を中止するのか。日本国民にとってこれらの問題はどれも喉(のど)に刺さった棘(とげ)のような存在で、明確な解決が示されない限り、「国賓」待遇は令和新時代のスタートに冷水を浴びせる結末になる。
 習氏の訪問で陰翳(いんえい)に包まれる日本は暑い夏に五輪を開催する。前回の1964年東京五輪の年に、中国は新疆ウイグル自治区で原爆の実験を強行し、平和祭典と逆の暴挙に打って出た。今回も安心はできない。それでも、もてなしの精神で日本国民は世界各国からの賓客を迎え、無事に閉幕へと導かれる自信を持っている。
 問題はその後だ。2025年には「大阪・関西万博」の開催が予定され、多くの日本人はそこに次の希望を託すだろう。1970年の万博の際には「人類の進歩と調和」精神が貫徹されていた。
 私も岡本太郎氏らがデザインした「太陽の塔」が建つ万博公園にある国立民族学博物館で人類学を学び、偉大な先達たちの薫陶を受けた。来る万博に如何(いか)なる希望を寄託しどんな将来に日本国を牽引していくのかという国家ビジョンはまだ開催に反映されていない。

≪国会で世界見渡した論戦を≫
 21世紀に入った日本は今、隣国からの核脅威にさらされている。唯一の被爆国であるとともに、米国の「核の傘」の下にいる日本は核武装すべきか否かのタブーを破ろうとしない。「核の傘」を差し出す同盟国米国に対して「反抗する」かのような対中宥和姿勢を強める現政権の異質ぶりは、日本が未(いま)だに「戦後レジーム」から飛躍できていない証左ではないか。
 その同盟国も秋には大統領選を控えている。特段の異変がない限り、安倍晋三首相の親友トランプ氏は再選されるだろう。同盟の上に更に「ディール(取引)」を重ねるトランプ氏の目に、対中宥和姿勢が懸念材料にならないことを祈りたい。
 安倍一強政権に対し、スキャンダル探しに終始していては野党に将来がない。16年ぶりに党綱領の改定を進め、中国批判を強める共産党にはぜひ自民党より先駆けて「香港・新疆ウイグル人権法」を国会に提出してほしい。こうした法案を議論の材料に、台湾からペルシャ湾へと、更にはユーラシア全体を照射した建設的な論戦が新年の国会で繰り広げられれば、日本の将来にも一抹の明るい光が見えてくるに違いない。(よう かいえい)
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 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
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 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
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