ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

原発事故、米欧の協力受け入れて解決策を

2011-03-31 10:12:13 | 時事
 東京電力・勝俣恒久会長が記者会見で初めて1~4号機の廃炉を明言した。日本政府は事故発生直後、米国の協力申し出を断っていた。3月11日、東日本大震災発生約1時間後、ルース駐日大使は首相官邸に電話し、全面支援意思を伝えた。また翌日、米政府は米軍の出動を正式に申し入れたが、日本政府はその申し出を断った。官邸も東京電力も事態の重大性を感知できず、自分たちの手で収拾できると軽く考えていたのだろう。
 米側の提案は廃炉を前提にしたものだった。今週号の週刊文春(4月7日号)が詳細を書いている。米政府が考えている唯一の対処方法は、米軍の特殊部隊によって、原発を外からコンクリートで封じ込める案である。空から天井つきコンクリートのフレームを降ろし、外壁を作る。コンクリートや鉛を投下するといった案である。ルート米政府はその準備をしており、具体的な作戦計画も設備もあるという。
 最初から廃炉を前提とすれば、事故解決の戦略と見とおしが立つ。廃炉戦略であれば、水素爆発や汚染水などによる事態の拡大・悪化を免れた可能性は高い。米政府の申し出を拒んだのは、戦略的思考のない政府、経営利益に固執する東電の体質だろう。非常事態宣言を発せず、東電に廃炉を指導できない政府。いまごろ廃炉、しかも6機のうち4機のみの廃炉を言う東電。ともに指導陣は、即刻姿勢を改めるべきである。
 大阪大学大学院の山口彰教授によると、日本は原子力の技術は高いが、危機管理、アクシデント・マネジメントのノウハウに欠ける。アメリカは1979年のスリーマイル島原発事故の経験がある。ヨ-ロッパは1986年のチェリブイリ事故への対処の経験がある。わが国は、危機管理の意識・技術が弱いので、米欧諸国に協力を求め、人類の英知を結集して、事故解決にあたるべきである。東電の協力要請により、フランスから原子力企業アレバの最高経営責任者が来日するなど、国際的な協力体制が強化されてきたのは、事故解決への前進となることと思う。
 わが国では汚染水をタンカーで回収する案、特殊な布で仮設建屋で覆う案、遠隔操作のロボットを使用する案等が検討されている。もはや福島原発事故は、日本国内の問題ではない。全世界的な問題である。現在の人類が持つ能力・技術をすべて投入して、原発事故の解決策を決め、それを断行することに期待する。

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●産経新聞 平成23年3月30日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/110331/amr11033100040000-n1.htm
【放射能漏れ】
米非公式に原発管理全面支援を打診 官邸は返答せず“主導権”に警戒感?
2011.3.30 23:59
 【ワシントン=佐々木類】東日本大地震に伴う福島第1原発の事故発生からまもなく、米政府が非公式に、原子炉冷却を含む原発の制御に全面的に協力すると日本政府に申し入れていたことが日米外交筋の話で分かった。日本政府と東京電力の初期対応に対する不信から、原発の被害封じ込めを米側が主導しようという事実上の意思表示となったが、日本側からの返事はなかったという。
 同筋によると、1、4号機に続き3号機も損傷の恐れが出てきた震災発生から数日後の3月中旬、複数の米政府関係者が、原子炉の冷却と事故後の福島第1原発の被害管理に関する全面的な支援を非公式に日本側に申し入れてきた。
 申し入れは外交ルートを通じて日本政府に伝えられたが、首相官邸から米政府への返事はなかったという。その背景について同筋は「原発事故管理の“主導権”が米側に移ることに日本政府が抱いた警戒感があった」と指摘している。
 米国の打診は、日本における放射能被害の拡大を懸念すると同時に、カリフォルニアなど米本土西海岸へ放射性物質が上陸する危険を重視したものだった。
 一方、イランによるテロ支援活動に詳しい米ノンフィクション作家、ケン・ティンマーマン氏は自身のブログで「11日夜(米国時間)から12日未明にかけて行われたホワイトハウスの会議で、原子炉冷却のため大型発電機の空輸が決まったが、日本政府が提案を拒否した」という米政府高官の話を紹介した。
原子炉の冷却をめぐっては実際、クリントン国務長官が11日に公の席で「日本に冷却剤を空輸した」と発言し、その後国務省が否定した経緯がある。
 枝野幸男官房長官は18日、「米政府が原子炉冷却に関する技術的支援を申し入れたのを日本政府が断った」という一部報道に「少なくとも政府、官邸としてそうした事実は全く認識していない」と否定した。

●朝日新聞 平成23年3月30日

http://www.asahi.com/national/update/0329/TKY201103290495_01.html



 東京電力福島第一原発で、建屋が吹き飛んだ1、3、4号機に、特殊な布をかぶせて放射性物質の飛散を防ぐ策を菅内閣が検討している。原子炉を安定して冷却するための電源復旧などに向けた作業環境を確保するためだ。タービン建屋地下に漏れ出した高濃度の放射能を含む汚染水の対策には、汚染水をタンカーで回収する案も出ている。東電の作業は難航しており、より大がかりな計画が必要との認識だ。
 関係者が朝日新聞社の取材に明らかにした。二つの対策は、放射性物質が原子炉から出続けていることで、原子炉の冷却作業がうまく
進まなくなったため、急きょ出てきた。自然環境に大量の放射性物質をまき散らせていることへのあせりもある。
 大気への飛散対策では、まず1~4号機の建物内に付着している放射性物質に、特別な塗料を吹き付けて、閉じこめる。
 次に、原子炉建屋の上部を失っている1、3、4号機の壊れた部分を、特殊な布製の仮設建屋で覆う。密閉すると再び水素爆発が起きる危険性が出てくるため、フィルター付きの換気設備を取り付けることも検討している。
 タンカーで回収する方法は、強い放射性物質を含む汚染水の存在が、電線敷設やポンプなど各機器の復旧など、原子炉を冷やすために
必要な作業の妨げになっていることや、水量が増え海にあふれ出る危険性が指摘され始めたため、首相官邸を中心に28日に浮上した。
 具体的には、第一原発の港湾部に空のタンカーを横付けし、2号機などに大量にたまっている放射性物質で汚染された水をポンプなどを
使って移す案が出された。
 ただし、国土交通省などから、大型のタンカーをつけられる岸壁施設が整備されていない、など慎重な意見が出た。ポンプで水を移す際の作業員の安全が確保できない、といった反対意見も広がった。菅内閣はこのほかにも、厳しい放射線環境下で人間が作業することには限界があるため、ロボットを使ったり、機材をリモコンで操作したりするなどの対応も、産業界や米国と連携して考えている。
 第一原発の事故問題などを担当する首相補佐官に任命された馬淵澄夫・前国土交通相が、細野豪志・首相補佐官とともにチームをつくり、対策を練り始めた。
 対策チームには関係省庁や原子力安全委員会などの関係機関、東京電力、原発設備に関係する電機メーカー、ゼネコンなどが入っている。米国からも原子力規制委員会が参加している。
 チームは「遮蔽(しゃへい)」「リモートコントロール」「燃料取り出し・移送」の三つの班に分かれ、検討作業を進めている。
 「燃料取り出し・移送」班は、建屋が倒壊した場合、どうやって破損した燃料を取り出し、どこに運ぶかを検討している。
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天皇皇后両陛下が被災者をお見舞い

2011-03-31 09:35:01 | 時事



 東日本大震災の発生後、天皇陛下は3月16日、国民に対してビデオ・メッセージでお言葉を述べられた。また、このたび天皇・皇后両陛下は、被災者へのお見舞いをされた。
 わが国の天皇は、常に国民と共にあり、国民の幸福と安寧を願っておられる。原発事故により、放射性物質の拡散が首都圏にも及び、また事故の拡大が懸念されるなかにあっても、都内の皇居に留まられ、計画停電が実行されると、皇居で自主停電として毎日電気を一切使わないようにして、国民と苦難を共にされている。
 わが国は皇室を中心とした国柄であり、天皇と国民は苦楽を共にしてきた。長い歴史の中で日本人が一致して、強い団結力を発揮するのは、天皇を中心として、心を一つにした時であった。そこに、いま見失われている日本精神がある。日本人は、国柄を誇りに思い、日本を信じて、この国難を乗り切ろう。

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●産経新聞 平成23年3月31日

http://sankei.jp.msn.com/life/news/110331/imp11033101240000-n1.htm
両陛下、都内の避難所をご訪問 すべてのグループに声をおかけに
2011.3.31 01:16

 天皇、皇后両陛下は30日、東日本大震災の被災者約290人が避難している東京都足立区の東京武道館を訪問された。両陛下が被災者を直接見舞われたのは初めて。
 両陛下は「お大事にね」「少し休めましたか?」などと、すべてのグループに声をかけられた=写真(いずれも代表撮影)。福島県浪江町から避難してきた養護学校講師、浮渡(うきと)健次さん(34)は「本当に心配してくださっている気持ちが伝わってきた」と話した。都関係者らからの説明を省略し、予定時間を上回る約50分を被災者のお見舞いに費やされた。
 両陛下は災害状況に心を痛め、16日にはビデオを通じ、国民に向けてお言葉を述べられた。お住まいの皇居・御所では、「国民と困難を分かち合いたい」として、数時間にわたり、明かりや暖房など電気を一切使わない「自主停電」を15日に開始された。側近によると、以降、毎日続けられている。
 福島県から避難している被災者が9割以上を占める東京武道館(東京都足立区)。ジャンパー姿の天皇陛下は30日、皇后さまとともに、家族らが暮らす区画を1つずつ回られた。
 目線を落とし、ひざまずきながら熱心に話を聞かれた陛下は、「本当にご心配でしょう」「ご家族は大丈夫ですか」などと被災者を案じ、複数の避難所を転々とした話を聞くと、「大変ですね」と同情された。
皇后さまは乳幼児を抱える母親に「ミルクやおむつはあるの?」「屋外で遊ぶところはあるんですか?」とご質問。子供の前でお手玉をされる場面もあり、周囲に笑いが広がった。
 多くの避難者は、両陛下と話していないときも、正座を崩さず両陛下を目で追った。涙を浮かべる姿もあった。
 即位後、陛下は大規模な自然災害が起きるたび、皇后さまとともに可能な限り速やかに現地を訪問されてきた。平成7年の阪神大震災では、震災後約2週間で兵庫県に入られている。
 今回の災害からもすでに20日目を迎えたが、現地に入るには警備面の負担などを考えると時期が早いとして、まずは都内の避難所を訪問された。
 両陛下はほかにも「現段階でできること」を考え、実行されている。お言葉を述べた映像の公表や、御所での「自主停電」。宮内庁の御料牧場(栃木)の生産品の卵、野菜を避難所に届けたり、那須御用邸(同)の職員用の風呂が避難者に開放されたりした前例のない取り組みも、両陛下のご発案だった。
 両陛下が心を砕かれる一方で、皇室に関する根拠のない話がネットを通じて出回っている。陛下や皇族方が、余震や放射線の影響を避けるため「京都に移動された」などとする内容だ。
 震災以降、各種行事の出席を中止し、公の場に出る機会が少なくなったことが背景にあるようだ。陛下のお言葉のビデオが発表された16日以降は「映像は海外で撮影された」という根拠のない話も登場した。
 真偽を会見で問われた宮内庁幹部はこう答えた。「答えるには及ばない。陛下がどこにいらっしゃるかは、みなさんが一番ご存じのはずです」
 両陛下は災害直後から、「一日でも早く被災地を訪れたい」と、一貫して強く願われているという。
(芦川雄大、篠原那美)
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関連掲示
・拙稿「天皇陛下のお言葉~東日本大震災に際して」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/d/20110316
・天皇と国柄についての拙稿を、マイサイトの「日本の心」のページに掲載
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/j-mind02.htm
 国柄
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/j-mind10.htm
 君と民

TPPの狙いは金融と投資~東谷暁氏

2011-03-30 11:13:35 | 経済
 大多数がTPP参加に賛成という趨勢のなかで、東日本大震災が起こった。管首相は昨日の参院予算委員会で、TPP参加の結論を6月以降に先送りする考えを示した。これを機に、TPP参加を止め、大震災からの復興に集中すべきである。
 私は、アメリカはTPPで日本を食い物にして、生き延びようとしているのではないかという疑念を持っている。以前にも書いたが、TPPはプラザ合意、金融ビッグバン、長銀の買収、郵政民営化等の流れの先端にあると思われる。平成19年ごろ、アメリカは日本を金融的に従属させる体制を、あと一歩で完成させるところまで来ていた。しかし、サブプライム・ローンが破綻し、金融危機が始まった。平成20年(2008)9月15日、リーマン・ショックが起こり、アメリカ経済が打撃を受け、大恐慌以来の世界的な経済危機が広がった。この結果、日本は、アメリカの自失によって、かろうじて土俵際で踏みとどまった。
 だが、逆転のチャンスを得た日本は、有効な政策を実行できていない。政府は、デフレの脱却を目指して、積極的な経済成長政策を推進すべきなのだが、麻生政権は小規模な財政出動で中途半端な政策に終わり、政権に就いた民主党は鳩山政権、菅政権ともわが国の経済を一層低迷させてきた。そのため、逆転のチャンスは生かされず、日本は再びアメリカの攻勢に押されている。それが、TPPの参加問題ではないか、と私は見ている。
 先に中野剛志氏(京都大学大学院助教)の主張を紹介したが、この度は東谷暁氏のTPPに関する主張を掲載する。東谷氏は、郵政民営化問題の最中に、『民営化の虚妄』(祥伝社)を出して、問題のポイントを明らかにしてくれたジャーナリストである。この度の主張では、アメリカ版TPPは「年次改革要望書」でアメリカが日本に要望してきたことを実現しようとするものであることを看破している。
 TPPへの参加をやめ、東日本大震災からの復興に集中すべし。
 以下転載する。

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●産経新聞 平成23年1月5日

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110106/fnc11010619090081-n1.htm
【今日の突破口】
ジャーナリスト・東谷暁 ちょっと待てTPP
2011.1.5 02:47

 いま、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加が推進されようとしている。支持者はこの協定によって日本の輸出が伸びると主張し、いま機会を失えば永遠に世界に後れをとるという。しかし、菅直人政権はあまりにも性急に事を進めようとしており、不自然な感がするのは否めない。いや、もっといえばどこか胡散(うさん)臭さが付きまとっているのだ。
 これまでも経済新聞を中心に、日本は自由貿易協定(FTA)の締結が遅れていると喧伝(けんでん)されてきた。しかし、自由貿易推進について日本は、先進国とは世界貿易機関(WTO)の枠組みで、途上国とは知的財産権などを加えたFTAである経済連携協定(EPA)で交渉するといった、それなりの戦略性のある姿勢で臨んできたといえる。
 FTAが促進されてきたのはWTOでの合意が難しいからだが、WTOが多国間主義であるのに対し、2国間あるいは地域に限定されるFTAは大国や経済的に特化した国に有利となる。小国や複雑な経済を持つ国は慎重になるのが当然なのだ。それがいま突然のTPP参加である。
 もともと平成17年に誕生したTPPはブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポールなど、経済規模が比較的小さい国の地域協定だった。ところが、20年に米国が突如、参加に熱心になった。米国が金融危機に陥ったからで、翌年、米国通商代表部から議会に提出された文書でも、自国の「輸出増加、雇用増大」が目的だと直截(ちょくせつ)に述べている。
 日本ではTPPで輸出を増やすなどと論じられているが、通貨戦争の最中、米国主導のTPPという他人の土俵に入って、なぜ日本の輸出が増加するのか、説得力のある議論を聞いたことがない。尖閣問題や北方領土問題で焦った菅政権が「農業を売って安全保障を買い戻そうとしている」といわれる所以(ゆえん)だが、それではあまりに筋が違いすぎるだろう。
 しかも、TPPの対象となるのは農業だけではない。米国はWTOにおいてもサービスの貿易にかんする一般協定(GATS)に力を入れて、金融、医療、法律といった分野のサービスの輸出を熱心に追求してきた。それは、米国が締結したFTAや地域協定を見てもあきらかだ。
 4カ国で始めたTPP合意書では第12章でサービスから金融と航空を除外しているが、方向性をうたう第1章では金融を含むすべての領域の自由化を主張し、合意分野の拡大を奨励している。いまの参加国内にも反TPPの動きがあるが、これはTPP推進の背後に米金融界の圧力が見え隠れするからに他ならない。
 そもそも、農業についても、日本は食料自給率が4割程度の世界に名だたる農産物の輸入大国なのだ。コメやコンニャクの関税率が高いことは否定しないが、農産物輸出国に対しては、十分貢献をしている。
 拙速にTPPに参加すれば、農産物だけでなく、近い将来、金融、医療、法律などのサービスも意に反して輸入増加せざるをえなくなる。米韓FTAを見れば分かるように、簡易保険のさらなる市場開放も強いられる。これまでは「要望」だったものが法的拘束力のある「協定」となるのだ。菅政権はこの12日に米国との協議に入るというが、私たちはいま「ちょっと待てTPP」と叫ぶべきだろう。

●日本の息吹 平成23年4月号

東谷暁「TPPの正体」

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は、アメリカの参加表明によって、その性格を一変した。その主たる狙いは、「金融」と「投資」だ。“平成の開国”の正体を暴く!

オリジナルTPPとアメリカ版TPPの違い

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の狙いが、日本に農産物を輸出するだけのものではないことは、すでに多くの人が指摘してきた。前原誠司外相(当時)の「農業などの第1次産業の1・5%が、残りの98・5%を犠牲にしている」という発言を、そのまま信じている人は、さすがに減った。しかし、それでもTPPが日本農業を活性化してくれると信じている人はまだ多いのである。
 もともとTPPは経済規模の小さな四カ国による地域経済協定だった。ところが、アメリカが2008年に参加を表明し、オバマ政権がアメリカの輸出と雇用増大のための政策として掲げたときから、このオリジナルTPPは、アメリカ版TPPへと性格を大きく変えることになった。
 今年1月中旬に「日米貿易フォーラム」でアメリカと情報交換をしてから、日本政府は慌ただしく24作業部会を作ったが、その構成をみれば、新たに生まれつつあるアメリカ版TPPの概要を知ることができる。そこにはもちろん農業もあるが、サービス、電気通信、ネット販売、環境、労働などの項目のひとつにすぎない。注目すべきは、オリジナルTPPにはなかったのに、アメリカ版TPPで登場してきている項目で、それは「金融」と「投資」である。これがアメリカの主たる狙いだといってよいだろう。
 アメリカ経済は、80年代から主力が工業製品から金融を含むサービスに移行し、90年代のWTO(世界貿易機関)でも、GATS(サービスの貿易に関する一般協定)を主導してきた。ここでいう「サービス」とは金融、保険、法律、コンサルティングなどを含む第3次産業を意味し、いまやアメリカ経済の75%を占めるにいたったが、輸出に占める割合は30%にすぎない。そこで、輸出拡大が話題になるとき、金融を含むサービスの輸出が課題とされてきたわけである。
 90年代以降の日米経済交渉は、「日米保険協議」「日本国政府及びアメリカ合衆国による金融サービスに関する措置」「日米投資イニシアティブ」、そして、それらを包含する『年次改革要望書』に見られるように、金融と投資が常に中心となってきた。投資のさらなる自由化は、ウォール街にとってぜひともTPPで受け入れさせたい項目だろう。

アメリカ系企業が日本に押し寄せる!

 こうして見てくると、アメリカ版TPPで日本に要求されるのは、「郵政民営化の見直し」で頓挫しかけている簡易保険の市場開放や農協の「共済」の市場開放であり、また、『要望書』で繰り返し圧力をかけてきた外国人弁護士の日本人弁護士なみの待遇、さらに、項目にはないが投資対象とした医療ビジネスの規制緩和などが含まれることになる。
 事実、行政刷新会議の「規制・制度改革に関する分科会」は、昨年10月に菅首相がTPPへの参加を言い出してからにわかに活気づき、医療については「保険外併用療養(いわゆる「混合診療」)の原則解禁」「外国人医師の国内診療」、また、林業についても「許可要件の見直し」などが検討されてきた。
 農業も同じことで、この分野でも「投資」の観点から「農業生産法人の緩和」が検討されている。すでに2009年の農地法改正によって「地域農業と調和」という曖昧な基準をクリアすれば外資で農地を手に入れ農業生産法人に投資することができる。それなのにTPPを前提にさらに緩和すると菅首相はいうのだから規制はなくなるということだ。
 農業への影響を考えるさいに、コメの流入だけを考えていても、その全体像をとらえたことにはならない。私はアメリカの多国籍アグリビジネスが、日本の農業にその巨大な触手を伸ばすのではないかと危惧している。
 アメリカが推進したNAFTA(北米自由貿易協定)にはカナダとメキシコが参加したが、10年を経ずしてカナダは、輸出牛肉加工の7割、小麦製粉も7割、麦芽製造は9割、油糧種子加工も9割弱がアメリカ系アグリビジネス傘下に収められた。メキシコはいまや輸出農産物の75%がアメリカ向けとなり、逆にアメリカ産のトウモロコシが関税なしで輸入されて国内を席巻してしまった。
 もちろん、同じことが日本に起こるわけではない。これまでは、農産物輸入では日本の商社が日本国内でのアメリカ系アグリビジネスの跋扈を阻止してきた。しかし、最近の農業改革論者がいうように、日本の農産物を輸出することになったとき、これまでの構図がそのまま継続するのかは分からない。
 いまのように日本の農業の問題をすべて農協のせいにして、これまで農協が支えてきた加工プロセスを民間企業に開放すればよいとするいまの改革では、外資が農業や農業生産法人に投資し、加工プロセスの多くを押さえるという事態もありえる。そうなれば農業改革論者が主張するように、日本の農産物は輸出されるようになるかもしれない。しかし、その多くがアメリカ系企業となってしまう。
 農林業だけでなく、金融、保険、法律、医療等、幅広い分野で、アメリカ系企業に席巻される! それがTPPによってもたらされる日本の未来図なのである。
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参考資料
・中野剛志著「TPP亡国論」(集英社新書)

関連掲示(TPP関係)
・拙稿「TPPはトロイの木馬~中野剛志氏」
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1662698925&owner_id=525191
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/d/20110125
・拙稿「中野剛志氏のTPP反対論」
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1664731251&owner_id=525191
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/d/20110129

関連掲示(年次改革要望書・郵政民営化・医療・健保等)
・拙稿「アメリカに収奪される日本~プラザ合意から郵政民営化への展開」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion13d.htm
・拙稿「簡保の次は医療・健保が狙い」 20090524
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1176264395&owner_id=525191
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/d/20090524

プルトニウム検出の意味とは?

2011-03-30 01:14:46 | 時事
 プルトニウムは自然界には存在しない元素である。核分裂の連鎖反応を起こさないウラン238の原子核に中性子をぶつけると、中性子が原子核に吸収され、プルトニウム239になる。
 プルトニウムは、その名「プルートー(冥府の王)」のとおり、危険性の高い物質である。強い放射能を持ち、半減期が24000年と極めて長い。また化学的にも毒性が強い。ダイオキシンと並ぶ、人類が創り出し最悪の物質の一つである。プルトニウムはアルファ線を出す。アルファ線は透過力が弱く、空気中でほとんど拡散せず、水の外には出ない。しかし、呼吸などで体内に入ると、肺にとどまってガンを引き起こす危険性がある。
 プルトニウムは、原子炉内でウラン燃料が中性子を吸収すると生成される。福島原発でも、ウラン燃料を使っている1、2号機でプルトニムは生成される。しかし、3号機では、プルトニウムにウランを混ぜた混合酸化物(MOX)を燃料にするプルサーマル発電を行っている。それゆえ、3号機の燃料棒が破損して溶解すると、1、2号機よりも多くのプルトニムを放出する可能性がある。この場合、危険性が大きくなる。
 福島で原発事故が発生後、3号機ではMOX燃料が使用されていることを知る人々は、プルトニムの放出の有無に強い関心を持ってきた。私もその一人である。ところが、東電・原子力安全保安委員会等の記者会見では、そのことに触れず、テレビ・新聞等のマスメディアも、そのことに触れなかった。私は報道規制がされていたのではないかと疑念を持っている。
 それが、27日の記者会見で、東電はプルトニウムの調査をしていないことが明らかになり、にわかに話題になった。ところが、その日のうちに、東電の説明は、既にプルトニウム調査を進めているという内容に変わった。そして、28日、原発敷地内の5か所の土壌からプルトニウムが検出されたと発表された。検出された量は少ない。1、2号機のウラン燃料から出たものか、3号機のMOX燃料から出たものかは、わかっていない。だが、原子炉から出たと思われるプルトニウムが検出されたことの意味するものは、大きい。
 プルトニウムが検出されたからか、29日の産経新聞の記事では、プルサーマル発電やMOX燃料について積極的に述べている。それによると、燃料を閉じ込めるペレットからプルトニウムが溶け出す温度は2700度程度と極めて高い。プルトニウムの漏出は、燃料棒がそれほどの高温になるほど、深刻な損傷を受けた可能性を示している。別の記事では、プルトニウムが検出された意味について、Q&A形式で載せている。これは、わかりやすい。
 以下それらの記事を掲載する。

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●産経新聞 平成23年3月29日
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110329/dst11032921030059-n1.htm

プルトニウム漏出、燃料深刻ダメージ裏付け 体内被曝の防止急務
2011.3.29 20:58

 東京電力福島第1原子力発電所の土壌から毒性の強いプルトニウムが検出され、健康や環境への影響に不安が高まっている。濃度はごく微量で作業員を含め人体への影響はないという。ただ、外部漏出は、原子炉内の燃料棒が高熱で深刻なダメージを受けたことを裏付けるものだ。漏出元や経路も特定できていない。これ以上の漏出を防ぐための監視と対策が急務となっている。
 「高温で発生し重さもある。それが出るくらい燃料が損傷し、本来の閉じ込め機能が破られた」
 経済産業省原子力安全・保安院は、事態の深刻さに危機感を強めている。
 燃料を閉じ込めるペレットからプルトニウムが溶け出す温度は2700度程度と極めて高い。漏出は、燃料棒を覆うジルコニウム合金製の「被覆管」が溶けるとされる1200度程度を大きく上回る温度に上昇し、深刻な損傷を受けた可能性を示している。
 燃料棒の間には、震災時に中性子を吸収する制御棒が装填(そうてん)されており、核分裂は止まっているので新たなプルトニウムは生成されていない。ただ、運転時に生成されたものの漏出が続く恐れは否定できない。
 問題となる漏出経路について、大阪大の宮崎慶次名誉教授(原子力工学)は、「プルトニウムが溶けて水と接するとこまかい粒子状になり、これが水の蒸発といっしょに周りに出ている可能性がある」と指摘する。酸化物となったプルトニウム粒子は質量が重く、30キロ以上飛ぶことは考えにくいとしている。
 また、原子炉内から漏れ出たとみられるタービン建屋地下にたまっている高濃度の汚染水に含まれている可能性もあるが、東電は現時点で調査していない。
 どこから漏れているかも不明だ。プルトニウムは発電時のウランの核分裂に伴って生成され、4年間の使用後で燃料全体の最大1%程度になる。3号機で使われているプルサーマル用のプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料棒には3~4%含まれている。1、2号機の燃料棒にも1%以下で含まれており、東電は「どの原子炉か分からない」とする。
 貯蔵プールの使用済み燃料から漏出している恐れもあるが、東電や保安院は損傷している可能性は低いとみている。
 作業への影響では、プルトニウムが出す放射線は透過力が弱く、紙1枚で遮れるレベルだ。ただ、肺に取り込まれると発がんの危険性があり、宮崎教授は「放射線被曝(ひばく)と同時に内部被曝の防止も徹底する必要がある」と警告している。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110329/dst11032914350033-n1.htm
【放射能漏れ】
プルトニウムQ&A 検出にはどんな意味があるのか
2011.3.29 14:31

 東京電力福島第1原発の敷地内の土壌から、毒性の極めて強いプルトニウムが検出された。どんな意味があるのだろう。

Q プルトニウムの特徴は。
A 人体への影響が極めて大きいアルファ線を出し、呼吸などで体内に入ると骨や肺に沈着して、強い発がん性を帯びるため非常に厄介だ。同位体のうち、代表的なプルトニウム239の半減期は約2万4千年と非常に長く、体内に入ると放射線を出し続け、排出されにくい。核分裂を起こし膨大なエネルギーを出すため、核兵器の材料にもなる。

Q アルファ線とは。
A 透過力が弱く、空気中では3センチも進めず、水も通り抜けられない。しかし、人体に入ったときの影響力はヨウ素などから出るガンマ線の約20倍とも言われている。

Q 健康への影響は。
A 今回検出されたうち、事故の影響と考えられるプルトニウム238の濃度は、2地点のうちの高い方で土壌1キロ当たり0・54ベクレル。東電は「通常の土壌中の濃度と同じ。人体に問題になるものではない」と説明している。経済産業省原子力安全・保安院や専門家も、ただちに健康に影響はないとの見解だ。

Q どこまで放出されているのか。
A プルトニウムは重い元素であり、遠くには飛びにくいと考えられている。ただ、今回は原子炉建屋の外でも高濃度の放射性物質が検出されており、専門家は「動向をチェックすることが必要だ」と指摘。東電は今後も土壌を定期的に採取して調べるとしている。

Q 今回の事故でこれまでに検出されたヨウ素やセシウムとはどう違うのか。
A 気体となって放出されるヨウ素やセシウムと違い、プルトニウムは沸点が約3232度と非常に高く、気体状になる前に溶け出したと考えられる。これは、損傷した燃料そのものが水に混ざって外に出ている可能性があることを意味し、より深刻な状況になったといえる。

Q どこから出てきたのか。
A 3号機ではプルトニウムにウランを混ぜた混合酸化物(MOX)を燃料にするプルサーマルを実施しているので、ここから出た可能性がある。ただ、プルトニウムは原子炉内でウラン燃料が中性子を吸収すると生成されるため、ほかの号機の燃料にも含まれている。現時点では出所の特定は難しい。

Q 今後の対策は。
A これ以上放出が続かないようにしなければならない。燃料が損傷するのを抑えるため、原子炉や使用済み燃料プールの冷却をこれまで以上に強化し、封じ込めることが求められる。
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日本復活へのケインズ再考26

2011-03-29 09:12:42 | 経済
 最終回。

●アメリカの日本への圧力と構造改革

 急速に経済成長をする日本は、大きな抵抗にあった。1980年代からアメリカが日本への外交攻勢を強めたのである。昭和60年(1985)のプラザ合意により、わが国のバブルが始まった。翌61年(86)、「前川レポート」が発表された。この報告書は、内需拡大、市場開放、金融自由化等を打ち出し、その後の日本の経済政策の基本方針になった。下村治は、日本の市場開放を強硬に求めるアメリカ政府を批判した。62年(87)に『日本は悪くない。悪いのはアメリカだ』(文春文庫)という著書を出して、題名どおりの主張をした。下村は、次のように述べている。
 「アメリカ経済が節度を失いはじめるにつれて世界経済にも動揺がはじまり、ついにはIMF体制が崩壊するに至ってしまった。この状態をレーガン大統領がさらに大々的に破壊してしまったのが現状である。(略)アメリカが従来持ち合わせた節度を回復しなければ、世界経済は安定できないのである。もちろん日本経済がその一部を占めるのはいうまでもないことだ」と。
また下村は、「前川レポート」は「日本の健全さを捨てさせるものだ」と喝破した。「この報告書が言う体質改善というのは、働く意欲を阻害し、勤労精神・貯蓄精神をゆるめ、節度ある経済・財政運営の気構えをなくして、もっと気楽な気持ちで鷹揚にカネをばらまき、怠けて遊ぶようにしなさい、ということである。そうすれば生活はよくなると。これはどこか狂っている」と批判した。
 バブルは、はじけた。下村の懸念どおり、日本はおかしくなった。だが、その後も下村の主張は無視された。1980年代から、わが国の経済学者・官僚は、アメリカを席巻した新自由主義・新古典派経済学の影響を強く受けるようになった。下村のような日本的かつケインズ主義的なエコノミストは、政府や学界の中枢にはほとんどいなくなってしまった。わが国は戦前には、ケインズ以前にケインズ的な政策を立案し、自ら実行し、デフレを脱却した高橋是清がいる。また戦後には、ケネディ政権に関与したアメリカ・ケインジアン以上にケインズ的な政策を成功させ、高度経済成長を実現した下村治がいる。こうした高橋=下村の政策を理論化し、独自の経済学を創出することこそ、日本のエコノミストの課題だろう。しかし、大勢は、アメリカ追従的な方向に進んでいった。
 冷戦の終焉後、アメリカはグローバリズムを打ち出した。わが国の政策担当者はそれに同調し、追従する市場原理主義的な政策を立案した。それが構造改革政策である。

●日本経済再興を提唱するケインズ主義

 橋本=小泉構造改革は、日本土着の直系家族的な集団主義的資本主義を、アングロ・サクソンの絶対核家族的な個人主義的資本主義に変造するものだった。経済や社会における伝統的な価値観や制度を破壊し、外来の価値観を植え付ける。それによって、米欧の資本が日本に進出し、日本を支配しやすくする。それを日本人が代理して推進するのが、橋本=小泉構造改革だった。
 橋本内閣の失政でわが国はデフレに陥った。デフレ下ではケインズの総需要政策による積極財政が有効である。ところが政府は、ケインズの理論ではなく、新自由主義・市場原理主義の政策を強行した。とりわけ小泉内閣では竹中平蔵氏が経済閣僚となってこれを強行した。
 フリードマン=ルーカスの理論はアメリカ主導のグローバリズムを裏付ける働きをし、ケインズの理論はグローバリズムに抗して国民国家を守るナショナリズムを補強する働きをした。かつては、マルクス主義・共産主義に対抗したケインズ主義が、今度は新自由主義・市場原理主義に対抗するものとなった。
 自らケインズ主義者と公言する数少ないエコノミストである丹羽春喜氏は、新自由主義・新古典派経済学が優勢になった1980年代から、これらを理論的に批判し、いち早くケインズ主義の復権を訴えてきた。丹羽氏はレーガン政権の政策の矛盾を指摘し、ボルカーFRB議長のマネタリズムによる金融政策を批判した。バブルが崩壊してわが国が1990年代の不況に落ち込むと、平成6年(1994)に「救国の秘策」を発表した。これは別稿「『救国の秘策』がある!~丹羽春喜氏」で紹介した政府の貨幣発行特権の発動によって、ケインズ的総需要管理政策を行い、日本経済を再興する政策である。
 丹羽氏は、橋本=小泉構造改革の時代も、それ以降も、一貫して新自由主義・新古典派経済学による反ケインズ主義を批判し、「救国の秘策」を訴えてきた。丹羽氏とは別に宍戸駿太郎氏、山家悠仁夫氏、菊池英博氏、田村秀男氏、三橋貴明氏らも、ケインズ主義的な政策を提言し、政府に政策の転換を求めてきた。これらの各氏は、主に国債の発行を財源調達の方法とする。だが、わが国では反ケインズ主義が支配的であり、こうした政策提言は国民の注目を集めるまでにいたっていなかった。
 そこに勃発したのが、平成19年(2007)のサブプライム・ローンの破綻であり、翌20年(08)のリーマン・ショックである。世界的に経済危機が広がると、各国でケインズが復活した。わが国でもまたケインズが復活した。新自由主義・市場原理主義は、厳しく批判されねばならない。そして私は、ケインズ及びケインズ主義の理論と主張は、日本復活に不可欠の経済理論として、再評価すべきだと思う。
 また世界的には、自らケインズの流れを組むというスティグリッツの提案が注目されている。スティグリッツは、グローバル化をよりよく機能させるという観点から、世界的なレベルでの総需要管理政策、国際経済機関の運営の民主化、ケインズのバンコールを具体化した世界貨幣の発行、経済への倫理の復活等を唱えている。日本復活と、世界的な経済改革が合体すれば、日本経済・世界経済は大きく改良され、人類社会は向上・発展できるだろう。

●結びに

 本稿の連載中、平成23年(2011)3月11日に、東日本大震災が起こった。国内観測史上最大のマグニチュード9.0の大地震だった。大地震は津波と原子力発電所の事故を引き起こし、戦後最大の災害となった。被害は甚大で、死者・行方不明者は2万7000人以上、道路・建物等の直接的被害は政府の概算で16~25兆円に上る。計画停電や原発事故の産業への影響を加えると30兆円とも言われる。GDPの6%にもなる損失である。
 この未曾有の国難を乗り越えて、日本を復興するには、指導者の決断と国民の団結が必要である。国家の復興は、国民の精神の復興に始まる。日本人が日本精神を取り戻し、一致団結することが、日本復活の道である。
 経済の面に関して言えば、デフレ・円高で苦境にある日本は、震災でさらなる打撃を受けた。被災地や産業の復興を進めるには、巨額の費用を要する。しっかりした経済政策を立てねばならない。ここにおいて私は、これまでわが国を誤らせてきた新自由主義・市場原理主義と訣別して、ケインズを再評価し、その理論・政策・思想をよく参考にして、日本復活の経済政策を策定すべきだと考える。その具体策については、ブログで随時掲載していきたい。

参考資料
・ケインズ著『雇用・利子および貨幣の一般理論』(東洋経済新報社)
・『世界の名著 ケインズ・ハロッド』(中央公論社)
・伊東光晴著『ケインズ』(岩波書店)『現代に生きるケインズ』(岩波新書)
・宇沢弘文著『ケインズ「一般理論」を読む』(岩波現代文庫)
・丹羽春喜著『ケインズ主義の復権~レーガノミックスの崩壊と日本経済』(ビジネス社)『ケインズは生きている~「長期不況」脱出の活路』(ビジネス社)
・ 吉川洋著『いまこそケインズとシュンペーターに学べ』(ダイヤモンド社)
・根井雅弘著『市場主義のたそがれ~新自由主義の光と影』(中公新書)『入門経済学の歴史』(ちくま新書)
・スキデルスキー著『なにがケインズを復活させたのか?』(日本経済新聞出版社)
・中野剛志著『国力論~経済ナショナリズムの系譜』(以文社)『恐慌の黙示録』(東洋経済新報社)
・スティグリッツ著『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』『フリーフォール~グローバル経済はどこまで落ちるのか』(徳間書店)

福島原発、汚染水処理の方法は?

2011-03-29 09:00:58 | 時事
 今朝の日テレの朝7時のニュース。福島第1原発の汚染水がトレンチに溜まっている件について、東大教授の寺井隆幸氏が解説。「汚染水をタンクに溜めて水を蒸発させ、放射性物質のみを残してセメントで固めて閉じ込める方法を検討している」との主旨の話し。
 ヨーロッパの専門機関によると、既に福島原発から、チェルノブイリ原発事故の際の1~2割の放射性物質が放出されている。チェルノブイリでは、最後は原発を丸ごとセメントで固めて、閉じ込めた。福島での妙策に期待する。
 以下は関連する記事。

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●産経新聞 平成23年3月28日

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110328/dst11032819080049-n1.htm
福島原発・2号機の立て坑から高放射線量の水 地下から漏れ出す?
2011.3.28 19:08

 東京電力は28日、東日本大震災で深刻な被害を受けた福島第1原子力発電所で、1~3号機の海側にある深さ約16~26メートルの3つの立て坑から高い放射線量の水があふれ出しそうになっていると発表した。2号機の立て坑では、水面の放射線量が1時間あたり1千ミリシーベルト以上に達している。1~3号機の地下1階にたまっている水が漏れ出したとみられる。
 この立て坑は、冷却用の海水をタービン建屋まで運ぶ配管が通っている通路「トレンチ」に降りるためのもの。1号機では深さ16・1メートルに対して残り10センチのところまで水面が到達。深さ15・9メートルの2号機の立て坑では残り1メートル、深さ25・7メートルの3号機では残り1・5メートルまで水面が上がっている。
 2号機の立て坑の水面の表面の放射線量は1時間があたり1千ミリシーベルト以上。1号機は0・4ミリシーベルトだった。3号機は周辺のがれきが障害となって測定できていない。
 立て坑には通常、水が通ることはない。東電は1~3号機のタービン建屋の地下1階で見つかった水の放射線量と、立て坑の水の放射線量の値が近いことから、地下の水が何らかのかたちでトレンチに流れ込んでいるとみている。
 それぞれのトレンチは高さ2・6~4・4メートル。横幅が2・4~3・7メートル。長さは162~74メートルあるという。東電は最も放射線量が高い2号機では、「トレンチ内に高放射性物質濃度の水が6千立方メートルたまっている可能性もある」としている。
 東電社員が27日午後3時半ごろ、それぞれの立て坑の水位が上がっていることが気づいた。1号機では水が海にあふれ出さないように土嚢(どのう)を積むなどの措置を行っている。

●読売新聞 平成23年3月28日

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110328-OYT1T00577.htm
放射性物質放出、チェルノブイリ1~2割の試算

 ウィーンの気象地球力学中央研究所は、東日本巨大地震被災直後の3日間(12~14日)に、福島第一原子力発電所から大気中に放出された放射性ヨウ素は、チェルノブイリ原発事故の10日間で放出された量の約2割に相当するという試算結果を公表した。
 核実験全面禁止条約機構(CTBTO、本部=ウィーン)が、群馬県高崎市など世界各地に置いた監視拠点24か所で検知した放射性物質データをもとに分析した。
 一方、フランス放射線防護原子力安全研究所は、日本国内の観測データをもとに、12~22日に同原発から放出されたヨウ素やセシウムなどの量は、チェルノブイリ事故の放出量の1割との暫定値を公表している。同研究所の声明によると、試算は米原子力規制委員会や欧州の技術安全ネットワーク、フィンランドの原子力当局とも議論をしたうえで行われた。
(2011年3月28日14時42分 読売新聞)
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福島原発、トレンチほぼ満杯、プルトニウム検出

2011-03-29 00:44:47 | 時事
 さきほどの28日23:30からのフジテレビ「ニュースJAPAN」。福島第1原発2号機のトレンチについて報じた。以下は記憶によるメモ。

 タービン建屋から放射能汚染水が流れ込んでいるのが、外にあるトレンチ。原子炉内の10万倍の放射線量の水が、トレンチにたまっている。秋元優里アナによると、トレンチの深さは約16メートル、長さ約76メートル。その地下抗に放射能汚染水がたまり、1号機では地表まであと10センチ、2号機はあと1メートル。トレンチの地表部から海までは55メートル。地下浸透の可能性もある。
 解説は、東工大助教の澤田哲生氏。氏によると、トレンチは、普段水の入る場所ではない、配管を通すためのもの。配管をしたあとは、すきまをシールドでふさぐから、水は入らない。地震の影響で、シールドがずれたりして、水がトレンチに流れたのかもしれない、とのこと。
 秋元アナによると、トレンチは人が入って作業できるくらいの空間。容積は、6000立方メートル。
 記者会見でこの件について質問を受けた原子力安全委員会の班目(まだらめ)春樹委員長は、この事態に「大変驚いており、大変憂慮している」とコメント。
 水は高きから低きに流れる。このままでは、やがて原子炉から出た高濃度の放射性物質を含む大量の水が、海に流れ込む。数時間後か、数十時間後かは不明だが。

 零時ごろ、秋元アナが、いま入ったニュースとして、「原発の敷地内5か所で採取した土壌から、プルトニウムが検出された」と速報。一言だけで、どの程度の量か、どこで調査した結果等の説明はない。
 出ましたね、プルトニウム。

 明日には、詳細が報道されるだろう。

■追記
201103290615

 プルトニウムの件、時事通信が詳細を伝えていたので、転載する。

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http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=4&id=1550367
微量のプルトニウム検出=損傷燃料棒から放出―東電「問題ないレベル」・福島原発
(時事通信社 - 03月29日 01:03)

 東京電力は28日、福島第1原発の敷地内5カ所で21、22両日に採取した土壌から、微量のプルトニウム238と同239、240を検出したと発表した。このうち1号機から西北西へ約500メートル離れたグラウンド付近と北へ約500メートル離れた固体廃棄物貯蔵庫前の2カ所で検出されたプルトニウムは、今回の事故で損傷した核燃料棒から出てきたと考えられる。
 記者会見した武藤栄副社長は「ご心配をおかけしておわび申し上げる」と謝罪した。
 東京電力によると、濃度は過去に海外で行われた大気圏内核実験により国内各地に降ったプルトニウムと同様のレベルであり、人体には問題なく、復旧作業にも影響ないという。
 原子炉と使用済み核燃料プールのどちらから放出されたかは不明。3号機の原子炉は一部に通常のウラン燃料と異なるウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX燃料)を使っていたが、どの燃料棒から出たかも特定できないという。武藤副社長は「全体として放射性物質が出てくる量を少なくしたい」と述べた。
 グラウンド付近の土から検出されたプルトニウム238は1キログラム当たり0.54ベクレル、239と240が同0.27ベクレル。固体廃棄物貯蔵庫前の土は、238が0.18ベクレル、239と240が0.19ベクレル。
 分析は日本原子力研究開発機構が23日から実施。プルトニウムの検出には1週間近くかかるという。東電は今後も3カ所で週2回土壌を採取し、分析を続ける。
 経済産業省原子力安全・保安院の西山英彦審議官は29日未明の記者会見で、「人体に影響ない濃度だが、楽観はしていない。本来の閉じ込め機能が破られているという意味で、憂うべき事態だと考えている」と話した。 
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放射能汚染水の処理は容易ならず

2011-03-28 19:54:23 | 時事
 私は、福島原発事故に関し、昨日の日記「プルトニウム調査はされていない」の「■追記2」に、次のように書いた。
 「東電は、たまり水を復水機にいれる方法を取ろうとしているが、汚染された水は外に捨てられないから、物理的な容量を超えると、建物の外にあふれ出す。私には、このように考えられる。
 総理大臣は、すみやかに非常事態宣言を発し、国家の力、人類の知恵をすべて結集し、考え得る最善の方法を講じて、対処すべきである。」と。
 素人目だが、本日はまた一歩、事態が悪化したように見える。国家非常事態宣言は発せられないまま、じわじわと危機は高まっている。

◆放射能汚染水の処理は課題が多い

 1~3号機のタービン建屋地下には、高い放射線量を示す汚染水がたまっている。放水では限度があるので、冷却装置を復旧させるようとしているのだが、汚染水のため電源復旧作業が遅れている。
 東電は汚染水の排水先として復水器を検討した。1号機は復水器の容量(1600トン)に余裕があったので汚染水の排水作業を進めているが、水量が多く終了のめどがたっていない。2、3号機では復水器がほぼ満水(3000トン)になっているため、現状では排水できない。
 東電は、復水器にたまった水を別の場所へ移送し、その後に、汚染水を復水器へ排水することを検討している。そのためには、復水器内の水を移送するための仮設ポンプの設置が必要である。そこで別の排出先として、淡水をためている復水貯蔵タンクなどを検討しているという。
 こうした状況であるから、電源復旧作業がさらに遅れることは確実である。上記について報じたニュースを掲載する。

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●毎日新聞 平成23年3月28日

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110328k0000e040050000c.html
<福島第1原発>2、3号機の復水器は満水…汚染水移せず

 福島第1原発1~3号機のタービン建屋地下で高い放射線量を出す汚染水が見つかった問題で、東京電力が当面の排水先として予定していた復水器が、2、3号機ではほぼ満水になっており、現状では排水できないことが28日、わかった。【酒造唯】

 東電は、まず復水器にたまった水を別の場所へ移送し、その後に汚染水を復水器へ排水することを検討している。しかし、復水器内の水を移送するための仮設ポンプを新たに設置しなければならず、汚染水のために滞っている電源復旧作業はさらに遅れる見通しになった。
 復水器は、タービンを回した蒸気を海水で冷却して水に戻す巨大な装置。1号機が1600トン、2、3号機は3000トンの蒸気から戻った水を貯蔵できる。
 1号機は復水器の容量に余裕があったため、25日から汚染水の排水作業を開始し、27日には1台だった排水用ポンプを3台に増強して作業を進めている。2、3号機の復水器が満水になっている理由について東電は「原子炉が急激に停止し、復水器の水を排出するためのポンプの電源も止まったため」と説明している。新たな排出先としては、淡水をためている復水貯蔵タンク(二千数百トン)などを検討している。

 毎日新聞 2011年3月28日 11時38分(最終更新 3月28日 13時44分)

●読売新聞 平成23年3月28日

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110328-OYT1T00453.htm?from=main3
原発安定停止へ長期戦、汚染水除去が難航

 東京電力福島第一原子力発電所は、原子炉の本格的な冷却に欠かせない設備が集中するタービン建屋の地下にたまった放射性物質を含む水の除去作業が難航している。2、3号機は汚染水の回収先の復水器が満水であることが判明、1号機の除去作業も水量が多く終了のめどは立っていない。(略)2、4号機の使用済み核燃料一時貯蔵プールが満水になっていることが確認されるなど前進も見られるが、作業の長期化は避けられない見通しだ。(略)
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 問題は、汚染水の処理が難航している間も、高濃度の放射性物質を含む水は、増加し続けているということである。
 28日19:00のNHKテレビのニュースでは、水野解説委員の解説によると、2号機のタービン建屋の汚染水は、量が増えている。私見だが、完全防水の施設でもなければ、水は天井まで行かずとも、外へ漏れ出るだろう。水野氏によると、汚染水はモルタル等を通って建屋の外にあるトレンチに漏れ出ている。トレンチとは、溝や堀のことをいう。汚染水が漏れ出たトレンチは、地下を通って海につながっている。海側のトレンチの水面は、あと数十センチで満杯となり、汚染水は海にあふれ出す形勢らしい。急ぎトレンチの水を抜かねばならないが、量が多く、対処は大きな課題のようである。
 原子炉の水が漏れ出た汚染水が、トレンチを通って海に流れ出したら、海水の汚染の度合いは、ここ数日の数値の比ではなくなるだろう。
 繰り返し、強く要望する。総理大臣は、すみやかに非常事態宣言を発し、国家の力、人類の知恵をすべて結集し、考え得る最善の方法を講じて、対処すべきである。

◆再臨界の可能性は極めて低い

 さて、もう一つの問題として、福島第1原発では、再臨界の発生が懸念されている。
 再臨界とは、再び臨界状態になることである。ネットで調べたところ、臨界状態とは原子炉などで、原子核分裂の連鎖反応が一定の割合で継続している状態をいう。再臨界とは、臨界状態だった原子炉などが、一旦停止するなどして核分裂が止まっている状態になった後に、制御されない状態で核分裂連鎖反応が起き、再び臨界になることである。
 地震や事故などにより炉心が破損したり、非常用ディーゼル発電機などが使えなくなったりして、圧力容器に冷却水を注入する機能を失うと、圧力容器内部の水位が低下し燃料棒が露出する。それによって燃料棒が溶解して、圧力容器の下部に蓄積するなどして大規模に集中して臨界量に達すると、再臨界となる。再臨界が起こると核分裂反応の制御は非常に困難となり、大規模なエネルギーが発生して原子炉内で爆発し、大気中に放射性物質の飛散する結果を招くとされる。
 こうした再臨界の可能性については、「極めて低い」という見解がある。説明が具体的で、分かりやすい。

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●産経新聞 平成23年3月27日

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110327/dst11032718290047-n1.htm
【放射能漏れ】
「再臨界の可能性は極めて低い」 日本システム安全研究所・吉岡律夫代表
2011.3.27 18:28

 福島第1原子力発電所の事故で、今後懸念される最悪の事態の1つは、原子炉の圧力容器内の底に溶融した核燃料が集まるなどして、再び核分裂反応を始める「再臨界」だ。平成11年に茨城県東海村で起きた臨界事故では、再臨界によって、放射性物質(放射能)が拡散したとされるが、今回のケースでは、再臨界の可能性は限りなく低く、仮に起きたとしても汚染拡大の可能性は低い。
 その理由は、原子炉内での臨界がどういう状態で起きるかを考えると分かりやすい。
 臨界は、(1)直径約1センチの核燃料棒を0.5センチ間隔で並べた核燃料集合体を約1センチ間隔で配置し、(2)水で満たした上で、(3)それぞれの核燃料集合体の隙間に挿入した制御棒を引き抜く-という3つの条件がすべてそろわないと起きない。
 今回のケースでは、地震直後に制御棒がただちに挿入されたので、(3)の条件を満たしておらず、再臨界は起きないと考えられる。
 制御棒が抜ける可能性は極めて低いが、仮に抜けたり、核燃料棒が溶融したりして、再臨界が起きた場合はどうなるのか。
 その際のエネルギーは、炉心の水が、高さ約20メートルの圧力容器の天井に届くかどうかのレベルで、爆発して圧力容器が破損し、放射性物質が一気に拡散するなどという事態にはならない。
運転中の原子炉内の臨界では、100万キロワットもの電気を放出する力があるにもかかわらず、一度、原子炉が停止した後の再臨界では、その程度のエネルギーしか発せられないわけだ。
 もう一つ、再臨界が起きる可能性として、使用済み核燃料プールがある。東京電力は「4号機の核燃料プールが再臨界となる可能性は否定できない」との見解を示したが、これについても可能性は極めて低い。
 核燃料プールには、制御棒はないが、核燃料集合体の間隔を、もっとも核分裂が起きやすい約1センチよりも広く取っている。これは、水が核分裂反応の絶対条件である一方、約1センチより広い間隔での一定量は、核燃料集合体同士を遮断し、核分裂反応を起きにくくする効果もあるからだ。このため、核燃料プールでも再臨界が起こる心配はないといっていい。
 以上の通り、原子炉でも核燃料プールでも、再臨界が起きる可能性は非常に低く、放射性物質が大量に放出されるということはありえない。
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 ちょっと、ほっとするね。こういう見方を知る、と。

プルトニウムの調査は進められていた

2011-03-28 10:30:14 | 時事
 昨日午後の記者会見で、東電は「プルトニウムを検出する機器を持っていない。よって測っていない」「放出されていないとはいえない」、機械の入手は「検討中」と答えたと伝えられる。
 ところが、その後の記者会見では、プルトニウムが漏出していないか、福島原発敷地内の土壌を21、22両日に採取し、日本原子力研究開発機構と日本分析センターに回しており、23日から分析が行われていると述べたという。
 なぜ最初の記者会見で質問を受けた際に、こういうことを明らかにしないのか。しっかりしてもらいたい。

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●時事通信社 平成23年3月27日

プルトニウム漏出も調査=土壌採取し分析―東電
(時事通信社 - 03月27日 18:03)

 東京電力は27日、福島第1原発各基の原子炉から、毒性の強いプルトニウムが漏出していないか調べるため、同原発敷地内の土壌を21、22両日に採取したことを明らかにした。
 東電によると、敷地内の5カ所で土壌を採取、日本原子力研究開発機構と日本分析センターに回された。分析は23日から始まり、結論が出るには約1週間かかる。同様の土壌採取は28日からも週2回続けるという。
 プルトニウムは原子炉内でウラン燃料が燃える過程で生成される。
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百兆円の日本復興基金策あり

2011-03-28 08:52:22 | 時事
 私は18日の日記に「震災復興国債の発行を、日本復活のバネに」という記事を書いた。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/d/20110318
 政府は、日銀が全額を引き受ける「震災復興国債」を緊急発行する方針を固めたという報道があったので、それに賛同して書いたものだ。ところが、その後、政府の発表はない。与謝野経済財政再生担当大臣が反対しているという。経財相は中長期的な経済企画に係る大臣ゆえ、与謝野氏が反対では、容易に進まないだろう。
 与謝野氏は政策通で知られるが、大局をとらえることや人心をつかむことができないタイプと見える。こういう政治家をわざわざ野党から一本釣りして、経済財政政策を担当させるとは、菅首相は、よほど判断力や直観力のない凡庸な人物でである。
 いま為すべきは、ケインズの理論、高橋是清の実践を想起し、非常時における経済政策を行うことである。政府・日銀が一体となって、大胆かつすみやかに、復興のための財政・金融政策を実施することが必要である。
 そういう大胆・緻密な政策を打ち出せるエコノミストに、菊池英博氏と丹羽春喜氏がいる。今のところ、彼らから震災復興政策は発表されていないようである。彼らに通じる主張をしている産経新聞の田村秀男編集委員は、100兆円規模の震災復興国債の発行を提案している。18日の日記に田村氏の提案を掲載したが、27日の「日曜経済講座」でも同趣旨の提言をしている。参考に以下掲載する。

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●産経新聞 平成23年3月27日

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110327/fnc11032708140000-n1.htm
【日曜経済講座】
編集委員・田村秀男 「日本大復興」の条件を考える
2011.3.27 08:12

100兆円の日銀資金創出決断を

 中東騒乱に伴う原油高騰やくすぶる欧州の財政危機に加え、東日本大震災は世界経済の先行き不透明感を強めていると欧米の論者が言う。だが、日本にはまだまだ金融面でのゆとりがあり、財政・金融一体で大復興に踏み出せる。必要なのは迅速な政治決断だ。

◆GDP比6%の危機
 未曽有の大震災と大津波被害、さらに原発災害の追い打ちで被害規模は日を追うごとに拡大する。内閣府が23日に発表した震災被害額試算では道路や住宅などへの直接的な被害額が16兆~25兆円になる。民間企業設備の被害や壊れた東京電力福島第1原子力発電所がまき散らした放射能汚染による損害を加えると、優に30兆円を超えるだろう。国内総生産(GDP)比で6%に達する戦後以来の最大の危機、非常時である。
 この際、復興のグランドデザインを描き、そのうえで緊急の災害対策と数年がかりで遂行する大復興プランを実行に移す。東日本に限らず、大都市も地方も産業も電力も大地震に強い日本列島に作り替える。そうもくろむなら復興資金需要は被害額の数倍、100兆円規模を想定してもおかしくない。
 現実には、菅直人内閣も、対決する谷垣禎一自民党も平時の感覚のままという点では同類である。ちまちました財源の捻出で対立する一方では、臨時増税で気脈を通じあう。大正解に目を背け、重箱ならぬ財務官僚の机の引き出しを引っかき回して隅っこから答えを求めようとする。
 国の経済というのは本来、マジックのようである。われわれ一般の家計はストック、つまり資産を失えば、そのまま再起不能になりかねない。ところが国は違う。戦後復興を引き合いに出すまでもなく、国がヒトの頭脳や努力、技術、設備、土地など資源を総動員する。その結果、新たな生産と支出、つまりフローが生まれ、破壊された資産を取り戻すばかりか以前よりもはるかに巨大な資本ストックを築き上げる。
 鍵はおカネにある。国家は国債発行により国民の貯蓄を吸い上げるばかりか、政府と中央銀行は新たにカネを創出して、必要分野に配分できる。財政と金融こそは日本の潜在力、復元力を発揮させる魔法のエンジンである。菅直人首相も谷垣さんもこの際、経世済民の原点に目覚めるべきだ。

◆「阪神」の復興が手本
 阪神大震災後のケースをみてみよう。当時は連立政権で自民、社会、新党さきがけの3党寄り合いだった。社会党の村山富市氏が首相で、首相官邸に危機管理体制はゼロだった。震災勃発当時、村山首相は危機の重大性を認識するのに手間取り、自衛隊の救援出動も遅れた。復興のための財政出動も当初はもたついたが、95年度は3度の補正予算で計3兆3800億円を投入した。国民資産は10兆円規模で破壊されたが、被災した地域や住民ばかりでなく国民全体の努力によりわずか2年間で21兆4150億円も経済規模を拡大するのに成功した。
 グラフは阪神大震災のあった94年度から97年度までのGDPの主要項目別のGDP実質伸び率(いわゆる実質経済成長率)寄与率の変遷である。家計消費は96年度までは一貫して堅調で、94年度の成長すべてを支え、95年度も全体の2・3%成長のうち1・5%を、96年度も2・9%のうち1・7%を占めている。95年度に目覚ましい伸びを示したのが公共投資と民間設備投資である。公共投資は全体で2・3%の成長率のうち0・6%を、設備投資は0・5%を構成した。
 96年度になると、公共投資は削減され成長率を押し下げたが、民間住宅投資が急増し、寄与度は0・6%に、設備投資はさらに加速して同0・8%に達した。しっかりとした個人消費の基盤のうえで、財政支出が設備投資や住宅投資の呼び水となって、カネの流れを躍動させ経済復興が進行したわけである。
 今の日本に財源はある。日銀引き受けによる数十兆円規模の復興国債の発行である。政府はこれまで国民の預貯金を100兆円借り上げて米国債を保有している。それを担保にすれば日銀は楽々と復興国債を引き受けられる。
 円の信認は崩れはしない。日銀は大震災後、緊急に100兆円の資金を金融市場に流し込んだが、円高が続く。海外の投資家は日本国民の貯蓄が財政赤字をまかなえるとみて、日本国債と円を買い、さらに復興期待から底値で日本株買いに出動する気配だ。
 この新財源を復興基金として4、5年がかりで被災地の復興や電力の再構築など大地震に耐えるインフラ整備に充当する。財政資金主導で消費も投資も回復していく。その結果、税収も増えて財政収支の悪化を食い止められる。それが日本の底力というものである。
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