ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

トランプ時代の始まり~暴走か変革か11

2016-12-26 08:48:49 | 国際関係
EUの動向

 11月8日、米国の大統領選挙で、トランプが勝つという「まさか」の結果が生じた。次に地域別にトランプ現象の影響を見ていきたい。
 まず最も注目されるのは、トランプ現象のヨーロッパへの波及である。
 欧州連合(EU)は、国民国家の枠組みを超えた超国家的(トランスナショナル)な広域組織である。1991年のマーストリヒト条約で通貨統合や共通外交など、加盟国に国家主権の一部移譲を求めることが決まった。2004年に、民主化が進んだ東欧諸国など10カ国が新たに加盟し、25カ国が加盟する拡大EUとなった。東欧諸国のEU加盟は、冷戦終結で分断の歴史に終止符を打った東西ヨーロッパが、統合という新たな段階に入ったことを示す出来事となった。EUの東方拡大で、域内人口4億5000万人、国内総生産10兆ドルを超える巨大経済圏が誕生した。現在は28カ国となっている。
 EUは独自の官僚制を持ち、EU官僚が超国家的広域共同体の統治を行っている。彼らは各国の選挙で選ばれるのではなく、民衆の代表ではない。そうしたエリートが各国の主権の上に立って、EUを運営している。その背後には、ヨーロッパの支配集団、王侯・貴族や巨大国際金融資本家が存在する。
 彼ら所有者集団の意思を受けた経営者集団であるEU官僚は、個々の国家を超えた欧州憲法をつくろとした。欧州憲法条約は、EUの全加盟国(当時25か国)が批准しなければ発効しないが、独仏連合の片割れであるフランスでは、国民投票の結果否決された。そのため、条約案の見直しがされ、修正が加えられた。文面から「憲法」という表現を削り、単なる「改革条約」という呼称に変えた。これが通称リスボン条約である。リスボン条約は、理念的なヨーロッパ統合の将来像を掲げることを回避し、統一より連合という緩やかな組織を目指すものとなっている。2009年(平成21年)12月1日に発効した。だが、ヨーロッパには、連合的な組織であっても、自国の主権を制限したり、中央で決めた規制を課したりするEUそのものに反発する人々がおり、近年目覚ましく増加している。
 反発は、単一通貨ユーロにも向けられている。EU加盟国のうち、イギリス、ポーランド、ハンガリー、デンマークなどの9カ国は自国通貨を維持している。残り19カ国はユーロを採用している。ユーロ採用国は、財政政策を自国の判断で行う権限は持っている。国債発行、政府支出拡大等を行うことができる。ただし、毎年の財政赤字をGDPの3%以下に抑え、公的財務残高をGDPの60%以下に抑えなければならない。その枠内で財政政策を行うとしても、財政政策は本来、金融政策と連動しなければならない。ところが、各国は金融政策については権限を持たない。ドイツ・フランクフルトに本拠を置くECB(欧州中央銀行)に委ねている。経済的な主権をEUに一部移譲していることによる弊害は、リーマンショック後に強く現れた。ユーロ採用国は深刻な経済危機から抜け出ようとしているが、自国の判断で金融政策を行えないため、有効な景気対策を打てないのである。
 EU及びユーロに対する反発は、年々ヨーロッパの多くの国で強まってきていた。英国は、EUには参加しているが、ユーロは採用していない。自国通貨を使い続けている。しかし、EU官僚が決める政策、特に移民政策への反発が増大し、2016年6月の国民投票でEU離脱が決定した。この決定は、大陸諸国の反EU・反ユーロ勢力を勢いづけた。そこに、今度は、アメリカからトランプショックが押し寄せたのである。
 米国の大統領選挙後、2016年12月4日にオーストリアで大統領選が行われた。リベラル・ナショナリズムの政党の候補者が、親EU・移民受け入れの候補者に敗れたものの、大接戦を演じた。同日イタリアで行われた国民投票では、EU追従的な憲法改正案が否決され、レンツィ首相が辞任を表明した。2017年に入ると、3月にオランダの総選挙、4~5月にフランスの大統領選、9月にドイツの総選挙が続く。これらの国々で、リベラル・ナショナリズムの政党がどの程度、勢力を伸長するかは、以後のEUのあり方に関わる。特にドイツと並んでEUの二大柱となっているフランスがEUやユーロ圏から離脱することになれば、EUは屋台骨が揺らぐだろう。続いて、各国の動きを見ていきたい。

 次回に続く。

関連掲示
・拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion09i.htm