ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

仏教108~明恵(続)、貞永式目と神仏の尊信

2021-01-31 10:18:48 | 心と宗教
◆明恵(続き)

・思想
 1221年(承久3年)、明恵が48歳の時、承久の乱が起こった。この時、後鳥羽上皇方の兵が、栂尾の高山寺に逃れてきた。明恵は、彼らをかくまったため、北条氏の側にとらえられた。その際、明恵は、2年後に鎌倉幕府の三代執権となる北条泰時に対し、「救いを求める者は、今後も助けたい。それがいけないというのなら、私の首をはねよ」と言った。その態度の情け深く、また毅然としていることに、泰時は感心した。そして、後日、明恵のもとを訪れた。
 すると明恵は、承久の乱の処置について、泰時を諫めた。「わが国においては、万物ことごとく天皇のものであり、たとえ死ねと言われても、天皇の命令には決して逆らってはいけない。それなのに、武威によって官軍を亡ぼし、太上天皇を遠島に遷(うつ)すとは、理に背く振る舞いである」と。
 乱の後、北条氏は、天皇を代え、三上皇を島流しにした。国家権力を掌中にした北条氏に対し、ものを言うことのできる者はいなかった。しかし、明恵は畏れず、為政者の泰時を叱り、日本の国柄を説いて武士のあるべき姿を諭したのである。泰時も、もともと尊皇の心を持っていたので、明恵の言葉は痛く響くものがあったのだろう。以来、泰時は明恵を人生の師と仰ぐようになった。
 いったい仏教の僧侶である明恵がなぜ、わが国は天皇のものであり、泰時らの行為は理に背く振る舞いである、と諭したのだろうか。
 明恵は両親を幼くして亡くし、天涯孤独の身で仏教の道に入り、修行を重ね、徳の高い名僧となった。「山のはに われもいりなむ 月もいれ よなよなごとに またともとせむ」ーーこれは月を友として明恵が詠んだ歌の一つである。月を友とするというように、明恵は、自然の風物、身に触れるすべてのものに、深い情をもって接した。明恵は刈藻島(かるもじま)という島で行をしたことがあった。島から帰った後に、自然の豊かなその島が恋しくなって、手紙を書いた。宛名は「島殿」となっていた。使いの者が「いったい誰に、手紙を届ければよろしいのでしょうか」とたずねたところ、「『栂尾の明恵房のもとよりの文にて候』と島の真ん中で読み上げてきなさい」と答えたという。
 こうして自然と一つとなって暮らした明恵は、自然のままであることを大切にした。
 仏教には、王権を認め、国家の鎮護を祈るという教えがある。また明恵が修めた華厳経には、すべてをあるがままに肯定するという思想がある。こうした考え方は、「人はあるべきやうはと云、七文字を保つべきなり」という明恵の遺訓に表れている。弟子の喜海が記したと伝えられるこの言葉は、『明恵上人伝記』や『沙石集』では、「王は王らしく、臣は臣らしく、民は民らしくふるまうべきだ」と解釈されている。つまり、王とは天皇であり、臣とは天皇に仕える者、貴族や官僚や武士であり、民とは一般の庶民である。明恵は、天皇と臣下と庶民、それぞれが分を守って振る舞うことが、自然な姿だというのである。
 この考え方は、明恵の独創ではない。古代から我が国に受け継がれてきた考え方でもある。鎌倉時代にもそれが当然のこととして、人々に定着していたのである。それは、日本の国は、天照大神の子孫である皇室が治めることが、あるべき姿であると思われていたことが前提となっている。皇室の権威は神話に根差したものであり、文字が使用される前の時代から伝わっている神的かつ伝統的な権威である。日本人は、この国は皇室が治める国であり、各自が在るべきように振舞うことを、自然な姿として受け止め続けてきた。
 明恵は、このようなわが国の国柄と、日本人のあるべき姿を、泰時に説いて聞かたわけである。強大な武力を持つ権力者に、説教をするということは、並みの度胸ではできない。そこに明恵の精神力の強さや人格の高潔さがうかがわれる。
 明恵は、泰時に対し、「天下を治める立場の者一人が無欲になれば、世の中は治まる」という教訓を与えた。泰時はこれを肝に銘じて、実際の政治に生かした。泰時自身、「自分が天下を治めえたことは、ひとえに明恵上人の御恩である」と常々人に語った。自分の家の板塀が壊れて内部が見えるほどになっても気にせず、御家人たちが修理を申し出ても、泰時は無用の出費だと断った。裁判の処理も道理に適って明快だったので、武士の信望を集めた。
 承久の乱では朝廷から実質的に権力を奪った泰時だったが、三代執権になると、我が国の国柄の根本を損なわぬよう、朝廷の権威を侵さずに、武家政治を行うことに努めた。泰時は、人に与えること多く、自らおごることの少ない誠実な人間だった。善政に努め、厳正な裁判を行い、高位高官を望むことはなかった。彼によって、頼朝以来の武家政治は基礎が確立された。そして、こうした泰時に、明恵は日本的宗教の指導者として、日本人及び日本国の為政者としてのあり方を教えたのである。

◆貞永式目と神仏の尊信
 
 三代執権、として北条泰時は武士が守るべきことを文書化し、武士に規範を与えた。その文書が1232年(貞永元年)に制定された関東御成敗式目(貞永式目)である。同じ年に、泰時の師・明恵は亡くなった。
 貞永式目は、武家の慣習と道理を成文化したもので、日常的な道徳、御家人の所領に関すること、守護・地頭の権利と義務、裁判、家族制度等を定めている。
 律令はシナから継受した法だったが、式目はわが国独自のものだった。武士という戦士の階級が政権を担った歴史は、シナや朝鮮には見られないものである。その武士が初めて日本の固有法をつくったのである。式目の第1条は、神社を崇敬することである。「神は人の敬によって威を増し、人は神の徳によって運を添う。然れば則ち、恒例の祭祀陵夷(りょうい)を致さず、如在の礼奠怠慢せしむることなかれ……」。第2条は、仏寺を興隆することである。「寺社異なりと雖(いえど)も、崇敬は之れ同じ。……」。すなわち、式目は、武士に信仰の大切さを示すことから始まっている。
 貞永式目は、室町幕府にも基本法典として用いられ、戦国大名の分国法にも影響を与えた。庶民には読み書きの手本として、数世紀にわたって活用され、日本人全体に親しまれた。その道徳の中に、神仏を共に尊べという事項がまず挙げられていたのである。
 こうして、仏教は神道とともに、日本人の道徳を形成するものとして、深く社会に定着した。

 次回に続く。

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バイデン政権の米国と世界2~島田洋一氏

2021-01-30 10:37:56 | 国際関係
 国際政治学者で福井県立大学教授の島田洋一氏は、2020年8月米大統領選挙の前に発刊した著書『3年後に世界が中国を破滅させる』(ビジネス社)で、もしバイデン大統領が誕生した場合について予想を書きました。私は昨年11月16日にその内容を抜粋し、主題別に整理してブログに掲示しました。
 まず、その掲示文をここに再掲します。

<バイデンという政治家>

・タイプと力量
 「バイデンは、自分は次のような批判を受けてきたと率直に振り返る。①しゃべり過ぎる、②論理的でなく感情に動かされる、③汗をかいて結果を出す姿勢に乏しい。
 バイデン自身が引用する、あるベテラン記者の総括によれば、『ジュージューと焼き音はするがステーキが出てこない。鑑賞馬であって労働馬ではない』ということになる。要するに、熱のこもった立派な演説はするが、結果につなげる政治力、突破力がないというわけである」
 バイデンは「外交通を任じながら、半世紀近い政治家生活を通じて特筆すべき実績がなく、ポーズだけの男というのが大方の評価である」

・高齢・病歴・認知症
 バイデンは「加齢とともに、思考力、集中力の一段の低下も隠せない。過去に頭部動脈瘤切除の大手術を2度受けていて、体に無理が効かない上、認知症の徴候も見せている。大統領になった場合、日々の儀式や行事をこなすのみで、あとは隠居に近い生活を送るのではないかと言われる。政策決定、実行においては、勢いを増す党内左翼勢力に押し込まれ、流される可能性が高い。実質的に大統領不在の、ホワイトハウスならぬホワイトアウト・ハウス、すなわち豪風雪の中で方向感覚を失うに似た状態に陥るという危惧の声もある」

<内政>

・治安の悪化
 「バイデン政権が誕生した場合、まず大いに懸念されるのは治安の悪化である。『差別反対』を口実にした暴動とそれに付随した略奪放火が大規模に起きたのは、おしなべてBLMに迎合する民主党市長や知事のいる地域である。それら首長は、路上極左勢力との話し合い姿勢をアピールし、警察や州兵の適宜適切な動員を忌避する傾向がある。・・・民主党政権となれば、軍の治安出動をハナから悪として否定し、最後の抑止力も失われる可能性が高い」

<外交>

・基本姿勢
 バイデンは「自らを中道左派と位置付ける」が、「外交安全保障政策では安定と多国間協調を重視する現状維持派である」。
 「例えば、1980年代にレーガン大統領が打ち出したミサイル防衛構想(SDI)にバイデンは強く意を唱えた。軍拡競争を招き米ソ関係が不安定になるとの理由である。レーガンの対ソ政策はまさにソ連崩壊、すなわち積極的な不安定化を目指すものだったが、バイデンにはそうした発想は理解できない。米ソ関係は半永久的な平和共存以外ありえず、ソ連崩壊など非現実的な夢想に過ぎないのである。実際の歴史は、バイデンの固定観念はおろかレーガンの『無夢』さえはるかに超える展開を見せたわけだが・・・」
 「オバマ大統領は、地上軍の海外派兵には嫌ったものの、特殊部隊やドローンを使ったテロリスト除去作戦には積極的だった。アルカイダの首魁オサマ・ビンラディン殺害が典型例である。その際、政権内で、『失敗した場合の政治的打撃が大きい』と最後まで反対したのがバイデンだった。・・・表では、テロリストに正義の鉄槌を下すと力強く繰り返しながら、ありうる政治的マイナスを理由に実行を渋るあたりがバイデンらしい」
 「オバマ政権で同僚だったロバート・ゲイツ元国防長官が、バイデンについて、回顧録にこう記している。『・・・彼は過去40年間、ほとんどあらゆる主要な外交安保政策について判断を誤ってきた。・・・』」
 「日本の安全保障にとってとりわけ憂慮すべきは、バイデンを含む民主党主流派が『民主社会主義者』を自称する左派のサンダース・グループに擦り寄る姿勢を強めていることである」「トランプは『本能と思い付きだけ』で不安定だとボルトンは言うが、民主党バイデン政権になれば、本能に著しく背馳する左翼イデオロギーの方向に、一時の思い付きでなく邁進しかねない」

・対中国政策
 「対中国政策においてもバイデンは、懲罰関税を連鎖的に発動したトランプと異なり、できるだけオバマ政権の平和共存、微調整路線に戻ろうとするだろう」

・対北朝鮮政策
 「対北朝鮮政策は、上院議員時代に補佐官として重用した名うての宥和派フランク・ジャヌージに委ねる可能性が高い。北の見せかけの核『凍結』措置に、援助や制裁緩和で応じてしまうのではないか危惧される」
 「民主党外交に一定の役割を果たすと見られるスーザン・ライス元大統領安保補佐官は、北による核ミサイル保有を容認した上で平和共存の道を探るべきと主張したことで知られる」
(註 島田氏は書いていないが、バイデン政権となった場合、スーザン・ライスは国務長官の有力候補と見られる)

・対イラン政策
 「イランとの合意をまとめたのはアメリカのオバマ政権であり、バイデン政権になれば、再び合意に復帰する可能性が高い」
 「トランプの圧力強化路線からオバマ時代末期の制裁解除、経済交流拡大路線へ回帰するだろう。イラン神権政権の金庫に巨額の核ミサイル開発資金、テロ支援基金が流れ込みかねない」
 「2020年1月3日、イラン傘下の武装集団による攻撃で米軍関係者に死傷者が出たことを受け、トランプ政権は、イランの対外破壊活動の責任者ソレイマニ司令官(革命防衛隊コッズ部隊長)の殺害作戦を実行した」「バイデンは、自分が大統領なら実行命令を出さなかったと明言している」

・日本の安全保障への影響
 「日本の安全保障にとってとりわけ憂慮すべきは、バイデンを含む民主党主流派が『民主社会主義者』を自称する左派のサンダース・グループに擦り寄る姿勢を強めていることである」。サンダースは「民主党は右過ぎるとして党籍は取っていない。あくまで民主党と統一会派を組む無所属議員である」
 「最大の懸念材料は、サンダースが外交安全保障において徹底した『非介入主義』を取る点である。サンダース派が閣僚、補佐官クラスで多数入れば、民主党政権はこの方向に傾きかねない」
 サンダースは「軍事力は自国防衛の場合に限り、海外派兵は一切しない」という方針。「手続き論においても、自国防衛以外の軍事力行使には、議会の明示的な承認が必要と主張する」「例えば中国軍が尖閣諸島に上陸した場合、サンダース派は、米軍の直接介入には反対するだろう。少なくとも議会の事前承認が必要と主張するだろう。内外政策でサンダース派の支持を要する案件を抱えていた場合は、バイデン大統領がその方向に引きずられない保証はない。当然それは、中国側のリスク計算に影響を与えるだろう」
 「サンダースや愛弟子のAOC(註 アレクサンドリア・オカシオコルテス上院議員)は徹底した反炭素主義者でもある。石油・石炭・天然ガスから速やかに脱却し、太陽光、風力を中心とする再生可能エネルギーに完全転換すべきことを説く。また高福祉や脱炭素インフラ整備の費用を確保するため、軍事費を徹底的に整理削減すべきことも説く。
 その二つの要請が相まみえる点として、サンダースは、中東を起点とする石油輸送ルートの米軍による防護を速やかに打ち切るように求めている。アメリカ自身が石油から脱却する以上、シーレーン防衛に国益はない。他国に石油依存からの脱却を促すためにも、米軍が輸送ルートを保護してはならないのである。
 バイデン大統領は身内からこうした圧力を受け続けることになる。仮にある程度でも実行され、米軍がペルシャ湾周辺への関与を減らせば、石油の9割近くを中東に頼る日本にとって由々しき事態となろう」

 さて、本年1月20日にバイデンが大統領に就任した前後に、島田氏はバイデン政権に関する予想を書きました。基本的には、上記の著書での見方と同じ見方を示しています。補足的になる部分を掲載します。

●月刊「Hanadaプラス」1月21日付の寄稿記事「バイデン大統領で日本は最悪事態も」より
 「対中政策においては、バイデンはトランプ流の積極攻勢路線を捨て、オバマ時代の平和共存、微調整路線に戻ろうとするだろう。
 バイデンはトランプと違って、自分は同盟国との協調や多国間の枠組を重視すると強調してきた。一見、日本にとって好都合な話に聞こえる。 しかし、中国の体制転換といった歴史的課題に取り組むに当たっては、同盟国の政府や企業であれ、足を引っ張る行為に対して制裁で臨む冷徹さも必要である。
 典型例が、『中共の情報機関、保衛機関の傘下企業』(オブライエン安保補佐官)と言われる情報通信機器最大手ファーウェイへの対応である。米議会の強硬保守派とトランプ政権がタッグを組んで進めたファーウェイ排除に、同盟国の多くは消極的だった。バイデンが言うように、コンセンサスを重視し、とりわけ消極的なドイツの説得に時間を費やしていたなら、今頃、5G(第5世代移動通信システム)市場はファーウェイに席巻されていただろう。情報通信の世界は展開が早い。同盟国間の合意形成に過度にこだわるならば、それ自体が中共を利する行為となる」
 「バイデン政権で懸念されるのは、トランプ時代に軌道に乗ったFBI捜査の『中国シフト』を解除し、捜査資源を、人種偏見に侵された(と民主党が主張する)警察組織や反同性愛的な宗教団体、『環境破壊に邁進する』石油関連企業などに傾斜注入しかねないことだ。当然、中共関連の捜査は疎かになる。
 他国の捜査方針の話だけに、日本政府にできることは少ないが、FBIや司法省が『中国シフト』を維持するよう様々な機会に米側に意見具申すべきだろう。もっともそのためには、日本自身がしっかり『中国シフト』を敷く必要がある」

●夕刊フジ1月21日付の取材記事「バイデン新政権が抱える5大リスク 対中・コロナ・分断・日米・経済…『期待と不安』が交錯、『中国暴走』阻止できるか」より
 「バイデン氏の大統領就任をどう見るか。
 米国政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は『かつてのケネディ大統領やレーガン大統領の演説のように、記憶に残るフレーズがなく、これと言った特徴もなかった』と、バイデン氏の就任演説を評したうえで、続けた。
 『バイデン氏は、議事堂襲撃事件をめぐり、俳優のアーノルド・シュワルツェネッガー氏がトランプ支持者をナチスにたとえて批判したメッセージをリツイートしていた。こうした姿勢では、国民の団結は難しいのではないか。米中関係では、トランプ前政権の対中強硬姿勢を引き継ぐことを期待したいが、バイデン氏もハリス氏も、ウイグルや香港における人権問題に関する発信が非常に少ない。バイデンの外交チームは、かつての“イラン核合意”で、譲歩を重ねる姿勢を見せた経緯がある。日本は米国にしっかりとクギをさす必要がある』」

 島田氏は、急進左派の影響でバイデン政権の主要閣僚や外交・安全保障担当者に左派が多く入ることを強く懸念していましたが、1月20日にスタートした政権はそこまで左傾せず、オバマ政権に近い立ち位置の布陣となりました。いわば中道色の政権です。民主党が大統領、上院の多数、下院の多数の三つとも押さえる「ブルーウェイブ」を実現したにもかかわらず、政権が中道的になったのは、トランプが7400万票取るなど共和党も善戦しており、また選挙の不正への批判・不満が高揚しており、あまり左傾した布陣では政権運営に支障が出るからと見られます。

 島田洋一氏は、バイデン政権の発足後、重要人物について身体検査を行ないました。ハリス副大統領、ケリー気候変動問題担当大統領特使、ブリンケン国務長官などを鋭く批評しています。テレビ番組の常連として出演する米国通の学者、専門家には、これ程、深い学識を以って明確に分析し、歯に衣着せずに発言する有識者はおりません。
 以下、Hanada プラス 2021年2月号の記事「バイデン政権を身体検査する!」から注目すべき点を抜粋・編集して掲載します。

・世界で最も警戒すべき左翼カマラ・ハリス
 「議会での投票記録から『最も左翼的な上院議員』に位置づけられるハリスだが、『カメレオン左翼』と揶揄されるように、状況に応じて『体色変化』させる無定見ぶりから、保守派は言うまでもなく、極左からも中道リベラルからも『信頼できる同志』とは認められていない」
 「ハリスにおける最大の懸念材料は、その対中姿勢である」「2020年12月2日、中国共産党(以下、中共)の影響下にある香港の裁判所が、『違法集会煽動』などの罪で、数名の民主活動家に実刑判決を下した。そのなかには、若い女性闘士の周庭も含まれている(禁錮10カ月)。当然、弱者の人権の守護神をもって任じ、女性でアジア系(母方)である旨も強調してきたカマラ・ハリスから、周庭を励まし、中共を厳しく非難するコメントが出るはずと期待したが(というとになるが)、案の定、何の批判的発信も見られなかった。見事にゼロである」
 「ハリスが選挙向けに2019年に出した著書『我々が抱く真実』(The Truths We Hold、未邦訳)を通読しても、中国の人権に関して一行の記述もない」
 「同じく女性リーダーとして中共と対峙する台湾の蔡英文総統にエールを送ってもよさそうだが、著書でも演説でも、管見の限り、全く触れたことがない。蔡英文はおろか台湾問題自体、視野に入っていないごとくだ」

・警戒すべきジョン・ケリー
 「バイデンが発表した政権幹部人事のうち、中国との関係で大いに警戒を要するのが、ジョン・ケリー元国務長官(1943年生)の『気候変動問題担当大統領特使』への起用である」
 「ケリーはオバマ政権時代に、国務長官としてイラン核合意をまとめた名うての宥和派である」
 「バイデンやケリーは、オバマ政権の最高幹部として、イラン核合意を大きな外交成果と喧伝してきた。将来的に、その『成功体験』を北(註 北朝鮮)にも適用しようという誘惑に駆られかねない。日本としては常にその可能性を念頭に置き、早め早めに牽制していく必要がある」
 「気候変動問題こそ最大の脅威と位置付ける民主党政権のもと、閣僚待遇の気候変動特使として、ケリーは特に中国との踏み込んだ炭素削減合意を目指して交渉を急ぐだろう。中国側は、ケリーに花を持たせるような画期的合意案をちらつかせつつ(統計数字をいくらでも操作できる体制なので、守るつもりはない)、協議に臨む条件として、台湾への武器供与停止、懲罰関税撤廃、ファーウェイ締め付け中止、人権問題棚上げなどを強く求めてくるはずである。イラン核合意の前例に照らせば、ケリーは際限なく譲歩したうえ、相手のコミットを確保するため、『中国のセールスマン』かと言われるような行動を取りかねない」
 「2020年の選挙期間中、バイデン選対本部の気候変動作業部会において共同委員長を務めたのが、ケリーとAOCだった。AOCを切り込み隊長とする民主党内極左は、ケリーの補佐官はじめ『環境ポジション』に左派を分厚く配置するよう、ホワイトハウスに強くプレッシャーを掛けていくだろう」

・小物感漂うブリンケン、サリバン、タイ
 「イラン核合意の『仕上げ段階』でケリー国務長官を副長官として支えたのが、バイデンが新政権の国務長官に指名したアントニー・ブリンケン(1962年生)である」
 「ブリンケンは、議員や首長など選挙の洗礼を経る公的ポジションに就いたことはない。いわば党官僚タイプ」「仮に国務長官のブリンケンあたりがブレーキを掛けようとしても、ケリーのほうがはるかに政治力が上である。ほんの四年前まで、国務省で上司と部下の関係にあったブリンケンを、ケリーは自分のスタッフくらいにしか見ていないのではないか」
 「バイデンが大統領安保補佐官に指名したジェイク・サリバン(1976年生)も年来の腹心で、ブリンケンと経歴の似た党官僚タイプである」「調整型かつ党益優先型の安保補佐官になると見られている」
 「交渉の場で中国の不正を追及すべき通商代表には、その分野で実務経験を有するアジア系女性のキャサリン・タイが起用された。議会スタッフから閣僚級ポストへと一足飛びの大抜擢だが、単に多様性アピールの人事でないことを望みたい」
 「ブリンケン、サリバン、タイいずれも『小物感』は否めず、対中政策において、大物宥和主義者のケリーあたりが主導権を握らないか、大いに懸念される」

・黒人の国防長官オースティンは対中国向きでない
 「バイデンは、国防長官に黒人のロイド・オースティン退役陸軍大将を指名した」
 「オースティン国防長官予定者は紛れもない黒人である。ただ陸軍出身で最終ポジションが中央軍司令官(中東地域をカバー)だったため、中国を主敵に海空軍、宇宙軍、核ミサイル戦力中心の戦略を構築すべき時代の要請にそぐわない、という人事権者のバイデンに向けた批判も少なからず出ている」

・対北朝鮮ではバイデンの野心が問題
 「問題は、バイデン政権が、北の『段階的』非核化を交渉によって実現しようとの野心を抱いて動き出した時である。バイデンの場合、実務協議を国務省に委ねる可能性が高い。国務省は体質的に交渉のための交渉に走りがちで、相手に『協議を打ち切る』と凄まれると反射的に譲歩を考える傾向がある」
 「バイデンが上院外交委員長時代に、ブリンケン主席補佐官の下で、東アジア・太平洋問題補佐官を務めた」のが、フランク・ジャヌージ(現マンスフィールド財団理事長)。「二人の関係から見て、ブリンケンが国務長官となれば、北朝鮮との実務交渉を担う国務次官補辺りに起用される可能性も出てくる。ジャヌージは筋金入りの宥和派」で、「私(註 島田氏)も7、8回面談したが、『一歩一歩互いに歩み寄りながら』というスタンスを崩さない。『それは米側が繰り返し北に騙されてきたパターンだ』と反論しても、『他に手段はない』と頑なである。核ミサイルに加え、拉致問題を重視する日本にとっては、なし崩し的に制裁解除に向かう深刻な事態となりかねず、しっかり釘を刺していく必要がある」
 「イラン核合意の実務交渉を担い、対北宥和派としても知られるウェンディ・シャーマンも、対北交渉に絡む要職に就くかもしれない。彼女は独善的で、日本の意見に素直に耳を傾けるといった姿勢は、かねてよりない。要注意である」

 最後の項目に北朝鮮のことを挙げましたが、島田氏がバイデン政権で最も危ういと見るのは北朝鮮政策です。島田氏は、「北朝鮮に拉致された日本人を救出するため の全国協議会」の副会長として、長年拉致問題の解決に取り組んできた行動的な学者です。
 島田氏は、産経新聞令和3年1月22日付けに次のように書きました。
 「今月19日、上院の公聴会で、北の核凍結などと引き換えに徐々に制裁を解除する『段階的』アプローチ(北が求めてきたのが正にそれである)を考えるかと聞かれたブリンケン新国務長官は、明確に否定せず、ただ政策全般を見直すとのみ答えた。また、アジア政策を統括する『インド太平洋調整官』に就いたキャンベル元国務次官補は、北朝鮮が挑発的な行動に出る前に素早く交渉に入らねばならないと強調している。この『見直し』や『素早い交渉』が、オバマ政権時代のイラン核合意(2015年)の線に沿って行われるなら、日本にとって破滅的な展開となろう。ところがバイデン政権の外交チームは、当時副大統領のバイデン氏を筆頭に、国務長官だったケリー氏、国務副長官だったブリンケン氏、交渉代表を務めたシャーマン氏(註 国務副長官に就任)など、イラン核合意を『オバマ外交最大の成果』と位置付ける人々が中核の布陣となっている」と。
 「日本としては米側が『イラン・モデル』で対北政策を進めることがないよう、強く釘を刺していかねばならない。通常の外交ルートで宥和派のバイデン政権に働きかけるだけでは不十分である。単に糠に釘で終わりかねない。理念的に明確で、次期大統領候補でもあるペンス前副大統領、ポンペオ前国務長官、ルビオ、クルーズ両上院議員、ヘイリー元国連大使、そしてなお影響力を保つだろうトランプ前大統領ら、政権を突き上げるだけの発信力を持った共和党の実力者ともしっかり意思疎通を図っていかねばならない。それができるのは、今の日本では安倍晋三前首相だけだろう。年齢的に再登板の可能性もある安倍氏が、肩書はどうあれ、実質的な首相特使として会談を求めれば、野党の立場に追いやられ時に疎外感を覚える共和党の政治家たちはみな喜んで応じるはずだ」と。
 
 次回に続く。

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仏教107~明恵の生涯と思想

2021-01-29 08:41:20 | 心と宗教
●既成仏教の動き
 
 鎌倉時代には、次々に現れる新宗派の活動に刺激を受けて、既成の宗派の側でも改革の運動が興った。禅宗を除く新宗派は、戒律を軽視したり、ほとんど無視した。これに対して、法相宗の貞慶(じょうけい)、華厳宗の明恵(みょうえ)、律宗の叡尊・忍性(にんしょう)等が戒律の復興運動を進めた。彼らは、特に称名念仏の流行によって、解脱を目指す修行が軽んじられることを批判し、自ら厳格な修行を実践し、また弟子に教えた。彼らには、社会奉仕活動や貧民・病人の救済活動に尽力した者が多い。仏教の本来の姿を求めて戒律を重んじた僧侶が、民衆の幸福のために利他的な活動に献身したことは、特筆されるべきことである。
 武家が勢力を強めるなか、天台宗の座主となった慈円は、武家に好意を寄せ、公武協調を主張する歴史書、『愚管抄』を著した。本書は、仏教の立場から日本の歴史の中に現れている道理をとらえ、それに基づいて日本国のあるべき姿を明らかにしようとしたわが国初の歴史哲学の書でもある。
 日蓮が予言した元寇の時には、既成仏教の指導者が皇族とともに日本防衛のための祈願を行なった。これは国家仏教の伝統による実践だった。神風が吹いて日本が守られたというとらえ方が出て、神国思想が発達したのは、既成仏教の指導者が鎮護国家の祈願を積極的に行ったことと無関係ではない。
 鎌倉時代の仏教というと、一般に新宗派の革新性や民衆化が強調されるが、既成の仏教においても、このような真摯な努力や社会貢献、国家公共への献身があったことを見落としてはならない。
 既成仏教の指導者たちの中で、特に注目したいのは、明恵と叡尊である。

◆明恵

・生涯
 明恵は、鎌倉時代初期の華厳宗の僧侶で、華厳宗中興の祖とされる。生年は1173年(承安3年)、没年は1232年(寛喜4年)である。生年は法然より40年遅く、親鸞とは同年である。
 16歳で出家し、東大寺戒壇院で受戒し、華厳教学や倶舎論を学んだ。衰退していた華厳宗を再興しようという志を起し、修行と読書思索の生活を続けながら、密教の研究も行った。
 釈迦を熱烈に敬慕し、インドに渡航しようとしたが、奈良の春日大社の春日権現の託宣により、計画を果たせなかった。春日大社は、藤原氏の祖先神・天児屋命等を祭神とするが、本地垂迹説により、不空羂索観音・薬師如来・地蔵菩薩・十一面観音を本地仏としている。
 インド行きを諦めた明恵は、シナから新しい禅を伝えた栄西のもとで禅を修めた。明恵は、新宗派である禅宗を排斥するのではなく、学びの対象としたのである。
34歳の時、後鳥羽上皇より京都の栂尾山を賜り、高山寺(こうざんじ)を復興して、華厳宗再興の道場とした。
 もともと仏教の実践の目標は、輪廻転生の世界からの解脱である。基本は、出家して修行することである。その実践には、戒・定・慧の三つが備わっていなければならない。戒は戒律、定は瞑想、慧は悟りの智慧を意味する。戒を守り、定を修めることによって、慧が得られるとする。
 明恵は、戒・定・慧の三学の改革を主張し、戒としては菩薩戒、定としては華厳経を読誦しながらの座禅、慧としては華厳宗と真言宗の教理を総合した教義を打ち出して、戒律を順守して学問の研究と修行の実践を行うあり方を示した。
 新宗派に対しては、39歳の時に『摧邪輪』を著して、法然が『選択本願念仏集』で説く専修念仏は邪道であると批判し、浄土宗教団に論戦を仕掛けた。法然が亡くなった年のことである。明恵は、特に法然が菩提心を無用としていること、また他の宗派を正しい浄土信仰をはばむ群賊扱いしていることの二点は許しがたいとし、法然は「近代の法滅の主」であり、「三世仏家の大怨敵、一切衆生の悪知識」と呼んで強く非難した。
 明恵は、栄西がシナから持ち帰った茶の栽培を受け継ぎ、その普及に尽くしたことでも知られる。

 次回に続く。

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米大統領選挙、陰謀論と嘲わずに調査報道せよ~施光恒氏

2021-01-28 10:26:46 | 国際関係
 九州大学教授・施光恒(せ・てるひさ)氏は、人権・国際正義・ナショナリズム等について注目すべき研究をしている政治学者である。
 施氏は、産経新聞令和3年1月20日付に、「米国民の分断解消に必要なこと」と題した記事を書いた。
 施氏は、この記事で1月6日の米連邦議事堂侵入占拠事件に触れ、「なぜトランプ陣営の呼びかけに応じ、あれだけの大群衆が全米各地から集まったのか。不正選挙に関するトランプ氏側の主張が大手マスコミや政府機関に不当にもほとんど取り上げられていないと感じたからだ。大手マスコミの見方では不正選挙の主張は『陰謀論』にすぎない。しかしトランプ陣営が進行役を務め各地の議会で開いた公聴会では非常に多くの宣誓供述書付きの証人が名乗り出ているし、大規模な不正があったとする大統領補佐官ピーター・ナバロ氏による詳細な報告書もある。実際、各種世論調査では共和党支持者の大半が不正選挙はあったと感じている」と書いている。
 わが国の有識者が全国紙上にこのような事実を書くのは、まれである。また、全国紙がこのような見解を載せるのも、ごく少ない。大統領選挙の結果が確定し、こうした意見を出しても社会的な評価を失う危険性がなくなったので、ようやく出始めたのかもしれない。施氏は、国立大学かつ旧制帝大の九州大学の現職の教授である点も特筆されよう。
 施氏は、次のように続ける。
 「大手マスコミはこれらもやはり一笑に付すのかもしれない。だが、かなりの割合の国民を陰謀論者と嘲ってしまえば民主主義は成り立たない。国民融和を果たすには、不正があったと考える国民が多数に上るという事実を見つめ、遅ればせながら超党派的な調査委員会を作るべきだ。またマスコミも否定するだけでなく、調査報道を行うべきだ。例えば、証人に独自にインタビューしてみるべきである。そうしなければ多くの米国民が大手マスコミに不信を抱き、世論の分断は加速化するだけだ」
 また、施氏は、米国社会の分断について、次のように述べている。
 「そもそも米国民の分断が生じたのはトランプ氏のせいではない。1990年代後半ごろから米国では『エリート層対庶民層』の分断が社会問題化していた。庶民層からの後押しで2016年の選挙で当選したのがトランプ氏である。
 分断を生んだ原因はグローバル化の進展である。グローバル化が進めば、グローバルな企業や投資家と、一般国民との間の利害は大きく乖離する。グローバルな企業や投資家は政策形成に大きな影響を及ぼすがゆえに、各国の政治は各々の国民を第一とするものではなくなった。(略)
 トランプ氏の『米国第一』というスローガンはグローバル・エリートの手から庶民に政治の主導権を取り戻すという意味合いが強い。こうした背景を顧みずトランプ陣営や支持者の声を抑圧しても米国民の分断は解消されない。庶民の声に真摯に耳を傾けると同時に、グローバル化の歪みの是正を他国との連携の下、真剣に模索すべきだ。そうしなければ大手マスコミやIT企業、政府諸機関に対する庶民層の不信は増し、民主国家・米国の土台は揺らぐばかりだ」と。
 以下は、施氏の記事の全文。

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●産経新聞 令和3年1月20日

https://special.sankei.com/f/seiron/article/20210120/0001.html
米国民の分断解消に必要なこと 九州大学教授・施光恒
2021.1.20

≪背景にある大衆の疎外感≫
 トランプ氏に関する最近の米国や日本の大手マスコミに載る論評や報道を見ていると違和感ばかりを覚える。米国社会の分断をいっそう深め、民主国家・米国の土台を揺るがせ、ひいては東アジアの安定を損なうものではないか。
 大半の論評や報道は以下のようなものだ。米国民の分断を煽(あお)ったのはトランプ氏である。今月6日に議事堂への乱入が生じ、死者が出たのはトランプ氏のせいだ。だから弾劾されて当然だ。トランプ氏や支持者の言論をツイッターなどが規制するのも仕方がない。
 このような報道や論評は米国社会の分断の原因を大きく見誤っている。これでは分断は解消されるどころか深まる一方である。
 6日の議事堂への乱入の件について、一方的にトランプ氏側に全責任を課し糾弾しても問題の解決にはつながらない。むろんトランプ氏の側にも責任はある。大集会を企画するのであれば、アンティファなど反対勢力による攪乱(かくらん)も予想したうえでしっかりとした警備を手配すべきだった。
 だが、もっと大きな視野で事態を見つめる必要もある。なぜトランプ陣営の呼びかけに応じ、あれだけの大群衆が全米各地から集まったのか。
 不正選挙に関するトランプ氏側の主張が大手マスコミや政府機関に不当にもほとんど取り上げられていないと感じたからだ。大手マスコミの見方では不正選挙の主張は「陰謀論」にすぎない。
 しかしトランプ陣営が進行役を務め各地の議会で開いた公聴会では非常に多くの宣誓供述書付きの証人が名乗り出ているし、大規模な不正があったとする大統領補佐官ピーター・ナバロ氏による詳細な報告書もある。実際、各種世論調査では共和党支持者の大半が不正選挙はあったと感じている。
 大手マスコミはこれらもやはり一笑に付すのかもしれない。だが、かなりの割合の国民を陰謀論者と嘲(あざけ)ってしまえば民主主義は成り立たない。国民融和を果たすには、不正があったと考える国民が多数に上るという事実を見つめ、遅ればせながら超党派的な調査委員会を作るべきだ。

≪言論規制の異常さ≫
 またマスコミも否定するだけでなく、調査報道を行うべきだ。例えば、証人に独自にインタビューしてみるべきである。そうしなければ多くの米国民が大手マスコミに不信を抱き、世論の分断は加速化するだけだ。
 トランプ氏に対するツイッターなど大手IT企業の対応も異常だった。トランプ陣営だけでなく支持者のアカウントにも大掛かりな規制をかけた。驚いたのは、保守派が多く集まるパーラーというSNSは、アマゾンにホストを置いていたのだが、アマゾンがサーバーの使用を禁じたため、パーラー自体が使用できなくなった。保守派の情報交換を事実上禁止してしまったと言っても過言ではない。
 トランプ氏がかつて出演した映画から氏の登場シーンを削る動きまである。まさに中国やかつてのソ連などの権威主義国家を思い起こさせる情報統制である。
 規制をかけるIT企業やそれを許容する大手マスコミは、トランプ陣営や支持者の情報発信は治安を脅かす恐れがあると言う。だが中国など権威主義国家が言論統制を行う際の理由付けも大半の場合、治安の維持であることを忘れてはならない。

≪分断の主因はグローバル化≫
 そもそも米国民の分断が生じたのはトランプ氏のせいではない。1990年代後半ごろから米国では「エリート層対庶民層」の分断が社会問題化していた。庶民層からの後押しで2016年の選挙で当選したのがトランプ氏である。
 分断を生んだ原因はグローバル化の進展である。グローバル化が進めば、グローバルな企業や投資家と、一般国民との間の利害は大きく乖離する。グローバルな企業や投資家は政策形成に大きな影響を及ぼすがゆえに、各国の政治は各々(おのおの)の国民を第一とするものではなくなった。
 例えば、日本の高度経済成長を支えた元大蔵官僚でエコノミストの下村治氏は1980年代後半の時点ですでにこれを予想していた。「多国籍企業というのは国民経済の利点についてはまったく考えない。ところがアメリカの経済思想には多国籍企業の思想が強く反映しているため、どうしても国民経済を無視しがちになってしまう」(『日本は悪くない 悪いのはアメリカだ』1987年)。
 トランプ氏の「米国第一」というスローガンはグローバル・エリートの手から庶民に政治の主導権を取り戻すという意味合いが強い。こうした背景を顧みずトランプ陣営や支持者の声を抑圧しても米国民の分断は解消されない。
 庶民の声に真摯(しんし)に耳を傾けると同時に、グローバル化の歪(ゆが)みの是正を他国との連携の下、真剣に模索すべきだ。そうしなければ大手マスコミやIT企業、政府諸機関に対する庶民層の不信は増し、民主国家・米国の土台は揺らぐばかりだ。(せ てるひさ)
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仏教106~往生の条件、女性の往生・成仏

2021-01-27 10:24:29 | 心と宗教
●往生の条件

 わが国においては、平安時代から往生伝が編纂された。民衆に対して、難解な教理よりも具体的な事例を示して布教することが編纂の目的だった。986年(寛和2年)ころ、天台僧の慶滋保胤(よししげ・やすたね)がまとめた『日本往生極楽記』を嚆矢とする。本書が出たのは、源信の『往生要集』の刊行の翌年と考えられる。
 平安時代以降、多数書かれた往生伝には、死の間際である臨終の時から死の直後において、往生者が極楽に行ったかどうかを判定する基準や往生の段階(上品、中品、下品)を測る尺度として注目される現象が書かれている。すなわち、室内にたちこめる香気、空に響く音楽、あたりに輝きわたる光、死者の身にまつわる紫雲、夢による往生者からの極楽往生の知らせ等である。それらの現象の中に、眠るように息を引き取る、死後に遺体が柔らかい、顔色が変わらない、遺体が腐敗しない、それが数日から数十日続く等がある。
 平安時代の種々の往生伝は、往生した者の条件として、信仰面と人格面の条件を挙げる。信仰面の条件は、読経・念仏・写経等を熱心に実践したことである。人格面の条件は、慈悲・素直・正直・素直・柔和等を備えていることである。これら両面の条件を兼備することが、往生できるとして、その事例が記録された。その記録が事実であったか、伝説であったかどうかは不明である。
 鎌倉時代の新興宗派の指導者のうち、親鸞、」日蓮は悪人でも成仏できるという教えを説いた。多くの罪悪を犯した人間でも悔い改めて熱心に信心すれば往生できるという思想ゆえ、人格的条件は重視されない。彼らや法然・道元は女性も成仏できるという教えを説いた。詳しくは次の項目に書くが、彼らのうち日蓮は『法華経』だけが女性の成仏を説いているとし、女性に対して『法華経』の信仰のみで成仏できるとし、まったく人格的条件を求めていない。その後、ひどい悪妻でも南無妙法蓮華経を唱えれば往生できるという事例が往生伝に現れた。
 ここで鎌倉時代以降にも言及するならば、江戸時代にも往生伝が編纂された。徳川幕府の宗教政策のもと、浄土真宗では、幕府の民衆教化の方針を受けて、往生の人格的条件に忠孝を中心とする儒教的な徳目が加えられた。

●女性の往生・成仏

 次に、先の項目で触れた女性の往生・成仏について書く。
 釈迦は、女性の出家者をサンガ(僧伽、教団)に受け入れ、女性にも解脱を目指す出家修行の道を開いた。これは、当時のインドでは、画期的なことだった。だが、その後の仏教では、女性は救われがたいものという考え方が強かった。菩薩がすべて男性であることも、女性は悟りに達し得ないものという考えによるものだろう。
 わが国の鎌倉仏教では、女性の救済の可能性が問題になった。
 『無量寿経』で、阿弥陀仏は第十八願で悪人・女人を区別することなく往生させることを誓っている。さらに第三十五願で、女人の往生を誓っている。法然は、著書『無量寿経釈』で、なぜ阿弥陀仏は特別に女性だけのために誓願を立てたかを論じた。法然によれば、女性は阿弥陀仏の名号を唱えると、死後、阿弥陀仏の大願力によって、男性に変えられる。そして、阿弥陀仏は男性に変わった女性の手を取り、極楽往生させてくれるとした。女性が女性のままの姿で極楽往生できるのではなく、変成男子、転女成男を通じての女人往生を説くものである。
 法然の弟子の親鸞は、法然が変成男子による女人往生論を説いたのに従い、同様の女人往生論を説いた。悪人正機を説いた親鸞にしてなお、女性が女性のままで往生できるという思想は持っていなかった。
 『法華経』は、女人成仏を説いている。同経の女人成仏も、やはり変成男子、転女成男によるものである。日蓮は、女性は諸仏に成仏を拒否されているが、『法華経』だけが女性の成仏を説いているとして、これを強調した。諸経のうちで最高の『法華経』が女性の成仏を保証しているのだから、他の経典に嫌われても何も心配ないと説いた。
 法然、親鸞、日蓮より、女性の救済を積極的に説いたのが、道元である。道元は、仏教修行の聖域で女性を差別している古代仏教を厳しく批判した。『正法眼蔵』に「三界のうちでも、十方の仏土でも、すべていずれの界に比丘尼が行けないところがあろうか。誰かこの比丘尼の行動を妨げることがあろうか。(中略)女性を男子と差別して、成仏から閉め出そうすることは、まったく世間の人を騙し迷わす大馬鹿者の考えである」と書いている。このように、道元が修行と成仏における男女平等を説いたことは、インド、シナ、日本の仏教史を通じて珍しく、高く評価されるべきことである。

 次回に続く。

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「トランプVSバイデン② ~不正多数・外国介入の疑惑の選挙でバイデンが大統領に」をアップ

2021-01-26 10:29:26 | 国際関係
 マイサイトに拙稿「トランプVSバイデン② ~不正多数・外国介入の疑惑の選挙でバイデンが大統領に」を掲示しました。
 私は、この度の米大統領選挙について、昨年11月1日に「トランプVSバイデン① ~2020年世界コロナ禍の中の米大統領選挙」を掲示しましたが、本日掲示したのは、昨年11月3日の投票日から本年1月20日の新大統領就任日までの期間にSNSに書いたものを、ドキュメント形式で編集したものです。
 史上かつてない大規模で組織的な不正行為が行われた選挙において、主要メディアによる情報操作のもと、事実・真相を明らかにしようとする果敢な報告や憶測・期待交じりの未確認情報、撹乱工作や愉快犯による作り話など、真偽交々の情報が流れ飛ぶ中で、私なりに日々分析と予想を繰り返した生々しい記録です。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-12.htm

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バイデン政権の米国と世界1~イアン・ブレマー

2021-01-25 08:45:16 | 国際関係
 米国では不正多数・外国介入の疑惑の選挙の結果、バイデン大統領が誕生しました。バイデン政権のもとで米国と世界はどうなるか、内外の有識者の見方を掲載します。

●米国新大統領が2021年の「最大のリスク」

 国際政治学者イアン・ブレマーが代表を務める国際情勢分析機関「ユーラシア・グループ」が、「2021年のトップリスク」という報告書を発表しました。最大のリスクは、次の米大統領と指摘しています。古森義久産経新聞ワシントン駐在客員特派員のJBPress1月13日付の記事を抜粋・編集して掲載します。

 報告書は、新しい年の国際リスクの1位は「第46代アメリカ大統領」と明記。2位は「新型コロナウイルス」、3位は「気候変動」、4位は「米中緊迫の拡大」と続く。
 ブレマーは民主党支持、トランプ批判で知られるが、「バイデン次期大統領は米国民からの信託という点では1976年に当選したジミー・カーター大統領以来、最も弱いといえよう」と述べ、米国内の極端な政治分裂の状況に加えて、バイデンは高齢のため2期目はないとの予測をマイナス要因として強調している。
 ブレマーはこの報告書で以下の骨子を指摘している(註 抜粋)。

・もはや化石のように固まった米国内の政治的分断と国際的な米国の地位や指導力の低下によって、バイデン大統領は手足を縛られた状態となり、バイデン氏自身の能力や活力の限界によって統治は大幅に制約される。
・バイデン氏自身は国際情勢に対して指導力を発揮しようと試みるだろうが、まず米国が新型コロナウイルスの世界最大の感染に効果的に対処できないという現実が、国際的な信頼度を激しく低下させるだろう。
・中国の無法な行動を非難し、抑止するというバイデン政権の基本方針は、共和党と一致する部分も多い。だが、ヨーロッパがつい最近、中国との投資の包括的な合意を成立させたように、国際的には、米国の強固な対中政策を阻む要因も多い。
・トランプ支持層では70%以上とみられる多数派がトランプ氏の「バイデン陣営の不正選挙」の主張を支持し、バイデン氏が「大統領ポストを盗んだ」という認識を隠さない。この種の主張のほとんどは裁判の場などで排除されたが、連邦議会の合同会議では上院8人、下院130余人の議員が最後まで「バイデン陣営の選挙不正」を主張し続けた。
・世界の主要各国の首脳を見わたしても、その首脳の座につくための選挙の結果が国民の多くに否定されるという指導者はまず存在しない。その特殊な状況がバイデン氏の内外での統治の深刻な足かせとなる。また政策面でも、「アメリカ第一」主義はトランプ大統領の退陣にもかかわらず米国民の広い層で支持され、バイデン政権への制約となる。

 次に私見を述べます。
 この報告書は1月4日に発表されたもので、当然6日の議事堂侵入占拠事件の影響は、考慮されていません。この事件後、米国内での分断・対立は激化しつつあります。新政権の正統性を認める者対認めない者、共和党内でのトランプ排除派対トランプ擁護派、トランプ支持者内での武闘派対穏健派等の対立が、これまでの米国社会の極端な格差拡大、複雑多様な人種対立、共通規範の喪失という要素に加わり、分断・対立を一層深刻化させるでしょう。この状況がバイデン政権にプラスに働くとは考えられません。ブレマーがバイデン大統領こそ、本年の国際社会の最大のリスクとした判断は、確かな見方です。

 ブレマーは、産経新聞の「自由/強権 知は語る」シリーズで、インタビューに応えて、国際情勢について語りました。1月16日の紙面に掲載された記事で、ブレマーは、バイデンは「カーター大統領以来、最も弱いリーダーとなるだろう」と予想しており、このインタビューでは、そうしたバイデン次期政権発足を念頭に、米中関係に関する予想を述べています。特に科学技術の分野での米中の競争に注目する見方を示しています。興味深い個所を抜粋で掲載します。

ーー米中対立に新技術はどう影響するか。
 (略)「米中間、日中間の経済的な相互依存は非常に強いため、(過去のような)冷戦構造に発展するとは思わないが、相互依存は薄れる。(略)」

ーーブレマーさんが「T2」と呼ぶハイテク分野の米中競争の展望は
 「中国でも技術発展の鍵を握るのは民間企業だ。だが、(アリババ集団の傘下の金融会社)アンド・グループのように、国家に支配されているはずの民間部門と政府の争いが起き始めた。米国ではフェイスブックやグーグルに対する独占禁止法違反の訴訟が起き、中国に対抗する上で必要な自国ハイテク企業の強化とは真逆の事態が起きている」
 「米国民は巨大IT企業に怒りを感じているが、その理由は(表現の自由の制限や過度な節税など)さまざまだ。その結果、一貫した(ハイテク強化の)戦略的政策を作るのが難しい。こうした事情がT2の競合関係を冷戦時代よりはるかに複雑にするだろう」

ーー米中が環境対策で協力することで、互いに接近するとの見方が出ている。
 「間違った見方だ。中国は環境問題を地政学的な思惑で見ている。電気自動車(EV)や太陽光・風力、原子力発電の技術展開で優位に立ちたいのだ。米国はポスト化石燃料時代に中国がエネルギー大国になるのを極めて厄介に思うだろう。米中は(エネルギーでも)競争関係となる」(略)

 次に私見を述べます。
 ブレマーは、「G0(ゼロ)論」で知られます。G0論とは、現在の世界を有力な指導国のない世界ととらえる見方です。私は、ブレマーの「G0」というとらえ方は、唯一の超大国によるリーダーシップの不在を強調する一方、米中という二大国の対立をうまく表現できていないと思います。そのことをブレマー自身がある程度、意識するようになったのか、彼は近年、テクノロジー(科学技術)の分野で米中が競い合う構図を「T2」と呼び、テクノロジーの分野では米中が抜きん出た存在であり、特にハイテク分野における米中の競争が世界における国際関係に大きな影響を与えるという見方を打ち出しているようです。
 ブレマーが「T2」と呼ぶような状況がなぜ生まれたか。その大きな原因は、中国が米国から先端技術や軍事技術を盗んできたことにあります。米連邦議会は、中国による技術盗取を防ぐために輸出管理改革法(ECRA)、国防権限法(NDAA)等を制定し、トランプはそれらを法的根拠として、果敢に厳しい対中政策を行いました。5Gにおけるファーウェイの排除等です。しかし、中国は米大統領選挙に介入し、トランプの再選を妨害し、バイデンを擁立することに成功しました。息子ハンターともども中国企業との関係が疑われるバイデンの下では、米国の対中政策の実効性は大きく低下するでしょう。そこに「T2」におけるバイデン大統領という「最大のリスク」があります。ブレマーは民主党支持でトランプ批判派であるため、こうした問題を掘り下げておらず、状況をよく把握できていません。

 次回に続く。

関連掲示
・拙稿「世界コロナ危機をどう見るか~イアン・ブレマー」
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/7964ce2a31752b5e91ac3660b8039f44

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仏教105~道元の生涯と思想(続き)

2021-01-24 10:17:40 | 心と宗教
◆道元(続き)

・思想
 道元の思想は、畢生の大著『正法眼蔵』に表された。本書は、現成公案(げんじょうこうあん)の巻から始まる。そこに道元の思想が集約されている。
 現成とは仏法の真理が実現されていること、公案とは眼前に突き付けられた課題を意味する言葉である。道元の著作は、ありのままの真理とその悟りを表わそうとしたものだろうが、文言は極めて難解である。
 第2節に、「自己をはこびて万法を修証するを迷とす、万法すすみて自己を修証するはさとりなり。迷を大悟するは仏なり、悟に大迷なるは衆生なり。さらに悟上に得悟する漢あり、迷中又迷の漢あり。仏のまさしく仏なるときは、自己は仏なりと覚知することをもちゐず。しかあれども証仏なり、仏を証しもてゆく」とある。
 大意は、「自己を運んで、あらゆる事物の真理を解明しようとすることを迷いという。あらゆる事物の真理が進み来て自己を解明するのが悟りである。迷いを大悟したのは諸々の仏であり、悟りに大いに迷っているのが衆生である。さらに悟った上にも悟りを得る人があり、迷いに迷いを重ねる人もある。諸々の仏たちがまさしく仏である時には、自ら仏であると自覚することはない。しかし、それが仏を証明している。そのようにして仏を証明していくのである」ということだろう。独特の発想と表現であり、正確に他の言葉に置き換えることは出来ない。冒頭の一文は、近代西欧哲学の用語でいえば、「自己の意識を働かせて、すべての事物の真理を認識しようとすることを迷いという。自己の意識を越え、すべての事物の真理が自ずと認識されることが悟りである」と解することもできよう。第2節の後ろの部分に、「身心を挙して色を見取し、身心を挙して声を聴取するに、したしく会取すれども、かがみに影をやどすがごとくにあらず、水と月とのごとくにあらず。一方を証するときは一方はくらし」とある。
 大意は、「全身全霊を傾けて事物の形を見て取り、また事物の音を聴き取る時、自己と事物が一体であると感じ取られる。だが、それは鏡に物が映るとか、水に月が映るというような関係とは違う。それらの場合は、一方を明らかにすると、一方は明らかでなくなる」ということだろう。
 そして、第3節に最も有名な言葉がある。「仏道をならふといふは、自己をならふ也。自己をならふといふは、自己をわするるなり。自己をわするるといふは、万法に証せらるるなり。万法に証せらるるといふは、自己の身心および他己の身心をして脱落せしむるなり」。
 大意は、「仏道を学ぶことは、自己を学ぶことである。自己を学ぶとは、自己を忘れることである。自己を忘れるとは、すべての事物の真理によって、自己が明らかにされることである。すべての事物の真理によって自己が明らかされるということは、自己の身心も他者の身心も脱落せしめることである」ということだろう。ここでは、「身心脱落(しんじんだつらく)という表現が使われている。この言葉は、体と心の束縛から自由になりれ、無我になった状態を意味すると思われる。複雑なのは、単に「自己の身心」を脱落させるだけでなく、「他己の身心」も脱落させると言っていることである。私は、自己の身心も他者の身心も脱落して、自他の区別を超え、自己と万物の区別もなくなった悟りの境地を示唆するものではないかと思う。
 上記は『正法眼蔵』の最初の部分に過ぎないが、座禅の実践を通じて通常の意識とは異なる状態に達した経験を持つ道元が、独特の言葉遣いによって、その境地を表わそうとしたものだろう。
 こうした境地を説く道元が説く座禅とは、仏になるための修行ではない。もともと仏である者が仏として座禅することである。それが、道元の只管打坐の深義と考えられる。
 仏法の真理は、釈迦から各宗派の祖師たちによって正しく伝えられてきた、と道元は言う。それを正伝の仏法という。道元は、禅宗の本旨は、シナの禅宗が五家七宗に分かれる以前にあり、釈迦にさかのぼる正伝の仏法にあることを強調した。そして、自らの教えを、ただ「仏道」と呼んだ。それは、彼が釈迦の教えの正しい継承と再現に努めたからだろう。
 道元は、自分が行う仏法を禅宗とか達磨宗等の名称で呼ばなかった。曹洞宗という名称も否定した。また、念仏思想や、加持祈祷、末法思想等も否定し、本来の仏教に帰ろうとした。
 だが、道元の説く仏道は、釈迦が説いた仏法そのものではない。釈迦が説いた教えは、千数百年の歳月とその間のインド・西域・シナの風土を通じて、様々な変遷を経て、道元の時代の日本に伝わった。仏性論にしても、大乗仏教の思想的な展開の中で現れた理論である。そのため、道元の教えは、仏教の原点を目指す一つの仕方であって、原点そのものにはなり得ない。また、それゆえに、多様に分岐・発展した仏教の諸宗派を統合し帰一せしめるものともなり得なかったのである。

・曹洞宗
 道元の死後、鎌倉時代後期に、瑩山(けいざん)が出て、能登国(石川県)に総持寺を建立し、永平寺と並ぶ大本山とした。明治時代の火災を原因に現在の横浜市内に移転した。道元の時代から加持祈祷や儀礼的要素を一部取り入れていたが、瑩山はそれを継承して曹洞宗の大衆化を図ったことにより、一般庶民にも禅を広めた。臨済宗が上層階級に護持されたのとは、対照的である。
 
 次回に続く。

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米大統領選挙・続34~バイデンが第46代大統領に就任、トランプは再起を誓った

2021-01-23 10:07:01 | 国際関係
 最終回。

2021.1.22
 陰謀論と揶揄される論者たちが近年、強く警戒し、危険視しているのが、ダボス会議の「グレート・リセット」計画。オーストラリアのモリソン首相がこの計画に反対を表明。大紀元の記事より。
 「世界経済フォーラム(WEF)は昨年10月、2021年の年次総会(通称ダボス会議)のテーマを「グレート・リセット(The Great Reset)」とし、パンデミックを契機に、世界の経済・社会秩序の広範かつ抜本的な変革を提唱すると発表した。
 この計画について、スコット・モリソン豪首相は「私たちにリセットは不要だ」と明言し、反対姿勢を鮮明にした」
 「モリソン首相は、パンデミック不況は「世界の資本主義や自由市場に基づく自由民主主義的価値観の失敗の産物ではない」とし、オーストラリアが価値観や経済制度を「リセット(再設定)」する必要はないと述べた。「これらの価値観こそが、世界が知る限りの平和と繁栄の偉大な時代と、それを支える世界的な制度の基礎を築いたのだ」「これらの価値観こそが、今、パンデミック不況からの経済回復の原動力にならなければならない」。また、「これらの価値観は、経済成長や貧困の緩和、女性のエンパワーメント、環境の持続可能性、気候変動への適応、さらには多国籍犯罪や過激主義への対抗など、あらゆる問題の解決を導く最善の方法でもある」と同首相は述べた。「健康と福祉のセーフティネットを備えた民主主義が、最高の行政のモデルであることに変わりはない。私たちは経済制度を再設定する必要はなく、ただ努力し続ける必要がある」と力説した」
 「オーストラリアのワンネーション党の党首であるポーリン・ハンソン(Pauline Hanson)上院議員」は「「WEFはグレート・リセット計画を通じて教育から社会契約、労働条件に至るまで、私たちの社会と経済のあらゆる側面を刷新しようとしている」とし、オーストラリアがこの計画を採用すれば、壊滅的な結果を招くと警告した」
 同氏は「世界経済フォーラムのグレート・リセット計画は、グローバリゼーションがすべてであり、各国に民主主義を失わせ、社会主義(左翼)のマルクス主義的世界観を押し付けることを目的としている」と語った」
 「WEFは公式サイトで、各国政府は、パンデミックによって引き起こされた社会的・経済的問題に対処し、いわゆる「1930年代の大恐慌以来の最悪の不景気」を回避するために、抜本的な対策を講じる必要があると主張している。「米国から中国まで、すべての国が参加しなければならない。石油・ガスからハイテクまで、すべての産業を変革しなければならない。要するに、資本主義の『グレート・リセット』が必要なのだ」とWEFはウェブサイト上でこう述べている。
 世界経済フォーラムの創設者で「グレート・リセット」構想の発起人であるクラウス・シュワブ(Klaus Schwab)氏は、この計画が世界を危機から救い、より良い世界を作ると主張している。
 シュワブ氏は2017年1月10日、中国国営新華社通信とのインタビューで、国家戦略の実行を通じて新技術の発展とイノベーションを推進する中国政府の「先見性」を称賛し、反グローバリズムや保守主義の風潮を抑える上で、中国政府がグローバルリーダーとして重要な役割を果たすことを期待すると述べた」
 最後の部分に書かれていること。「グレート・リセット」計画の主唱者、シュワブが、国家戦略の実行を通じて新技術の発展とイノベーションを推進する中国政府の「先見性」を称賛し、反グローバリズムや保守主義の風潮を抑える上で、中国政府がグローバルリーダーとして重要な役割を果たすことを期待しているという点が重要です。
 モリソンが首相を務めるオーストラリアは、クライブ・ハミルトンが著書『目に見えぬ侵略』『見えない手』に描いたように共産中国の支配を受ける寸前まで行き、そこから自由と民主主義を守るために奮闘している国。だからこそ、モリソンは、中華共産主義と親和的な「グレート・リセット」計画に強く反対していると見られます。
 アメリカは、トランプが「アメリカ・ファースト」の政策を4年間推進しました。今回の大統領選挙は、トランプ対「世界的な所有者集団」の戦いであり、「世界的な所有者集団」は圧倒的な資金力と情報操作でトランプの再選を阻止し、バイデンの擁立に成功しました。「グローバル・リセット」計画は「世界的な所有者集団」が進めるグローバリズムの大戦略である可能性があります。
 トランプの政策は「グローバル・リセット」計画とは相入れないものでしたが、バイデンの政策は「グレート・リセット」計画と親和的です。しかもバイデン自身が親中的であり、中国共産党の選挙干渉によって政権を奪取しました。バイデン政権のもとで、中華共産主義と親和的な「グレート・リセット」計画が推進され、グローバリズムが一段と強力に進められる恐れがあります。これに対抗するには、モリソンのようなナショナリズムを各国で復興し、また各国が連携して、一元支配的なグローバリズムではなく、共存共栄のインターナショナリズムを実現する必要があります。

2021.1.22
 首都ワシントンで行われた就任式でのバイデン米新大統領の演説より。
 「きょうはアメリカの日であり、民主主義の日だ。民主主義が勝利を収めた」
 「われわれは政治的な過激主義や白人至上主義、それに国内テロの台頭に立ち向かい打ち破らなければならない。こうした課題を乗り越えアメリカの心を取り戻し未来を確かなものにするためには結束が必要だ。私はアメリカの国民と国家を結束させることに全霊をささげる。怒りや憎悪、過激主義、暴力や伝染病などと闘うために」
 「お互いの声に再び耳を傾けよう。理解し合い向き合い敬意を示そう。政治は何も立ちはだかるすべてのものを破壊する燃えさかる炎である必要はない。事実そのものが改ざんされ、作り出される文化を拒絶しなくてはならない」
 「きょう、アメリカ史上初めての女性として、カマラ・ハリス副大統領が就任の宣誓を行った。物事を変えることは可能なのだ」
 「私はすべてのアメリカ人のための大統領になることを誓う。私を支持した人のためと同じぐらい、支持しなかった人のためにも懸命に闘う」
 「われわれは同盟を修復し再び世界に関与する。力を示すだけでなく、模範となることで世界を導いていく」
 「いまは試練の時だ。民主主義と真実への攻撃、猛威をふるうウイルス、格差の拡大、人種差別、気候変動、そして世界でどのような役割を果たすか。アメリカはこれらすべてに同時に向き合い、かつてないほど重大な責任を果たさなければならない」
 「神と、皆さん全員に約束する。私は憲法を守る。民主主義を守る。アメリカを守る。そして、アメリカの物語をともに紡いでいこう。恐怖ではなく希望の、分断ではなく結束の、暗闇ではなく光の物語を」

 不正な手段で選挙で盗んだ大「盗」領による偽善に満ちたスピーチですね。
一方、汚いやり方で二期目の大統領の座を奪われたトランプは、アンドリュース空軍基地での離任式典で、潔く、また堂々としたスピーチ。

 「信じられないような4年間だった」「われわれは共に多くのことを成し遂げた」
 (新政権について)「彼らは大きな成功を収めるだろう。彼らには本当に素晴らしいことをするための基盤がある」
 「私は今度も皆さんにために戦う」
 「何らかの形で、また私たちは戻ってくる。近いうちにまた会いましょう」

 "We will be back in some form."--- We はトランプ自身だけでなくトランプ・ファミリーやトランプ支持グループを含むでしょう。in some form が、どういう形になるのかわかりませんが、捲土重来を期待したいと思います。(了)

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米大統領選挙・続33~1月20日新大統領就任前に緊張・対立が増大

2021-01-22 10:34:35 | 国際関係
 1月19日から20日の掲示のまとめです。

2021.1.19
 バイデン次期大統領は、1月20日の就任から最初の数日間で、現在米国に住む1100万人の不法滞在者に市民権を付与する法律を議会に導入する計画。この発表を聞いた中南米の国民が米国へ流入する動き。ホンジュラスからグアテマラに向かって、多数の移民希望者が群れをなして移動。

共同通信の記事より
 「中米グアテマラのメディアによると、隣国ホンジュラスから米国を目指す移民集団(キャラバン)約9千人が17日、グアテマラ入りし、治安当局者と衝突した。米国でバイデン次期大統領が近く就任することから、移民政策の緩和を期待し参加者が増えているとみられる。
 当局者は移民に催涙ガスを浴びせた。17日までに約千人をホンジュラスに送還したという。世界最悪水準の治安や困窮から逃避、中米から米国に向かう人々はたびたび大規模な集団化している」
 Mei さんのツイ―トによると、移民研究センターは、金曜日にホンジュラスのサンペドロスラを出発した移民キャラバンは、1月20日までに「楽園」すなわち米国に到着する見込みと発表。メキシコはグアテマラとの国境を強化して侵入防止の構え。
 トランプが断行した不法移民対策を止めたならば、米国の国境から堤防を越水するように不法移民が侵入し、やがて堤防が決壊。米国の自壊が加速されるでしょう。

2021.1.19
 トランプ大統領の自己恩赦問題。ロイターの記事より
 「トランプ米大統領は恩赦を与えたり減刑を認める100件以上のリストを19日の発表に向けて準備しているが(略)、関係筋によると、トランプ氏は自身への恩赦や、これまでに側近らと協議したことがある家族への予防的な恩赦を現時点で計画していないという」
 
 それが賢明です。

2021.1.19
 米大統領選挙について、日本のジャーナリストの大多数は、米主要メディアの報道の翻訳・紹介をするばかり。この中で、産経新聞の古森義久記者は、バランスに配慮した報道を貫いている数少ないジャーナリストの一人。blogos の記事より。
 「(註 1月6日連邦議会議事堂侵入占拠事件後)アメリカの国政の場ではトランプ大統領に対する弾劾の動きが最大の課題となった。連邦議会の下院は反トランプでまとまる民主党がすでに弾劾訴追案を可決した。ほとんど審議も討論もないままの一気の表決だった。この民主党のトランプ大統領糾弾は主要メディアのほとんどに固く支援されている。というよりも民主党と主要メディアは一体の反トランプ複合体のようである。この場合の主要メディアとはおなじみ、一貫したトランプ糾弾キャンペーンで知られるニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNNテレビなどを指す」
(註 今回の大統領選挙では、三大ネットワークすなわちABC・CBS・NBC、ロイター、AP、BBC等もほぼ同じ論調だった)
 「現実にはアメリカでは国政レベルでも国民レベルでも、このトランプ断罪の動きに反対する声も広範に存在するのだ。まずトランプ大統領自身が支持者たちには議会に抗議をするにしても、あくまで『平和的に』と強調していた事実をあげて、民主党側の弾劾は根拠のない『魔女狩り』だと宣言する」
(註 トランプは、行動を呼びかけ「議事堂へ歩いて行こう」と語ったが、議事堂に押し入れとは訴えていない)
 「連邦議会でも上院下院ともに共和党議員の大多数が民主党側の大統領弾劾には反対し、その弾劾には根拠がないと反論する。だが主要メディアはアメリカ、日本ともに、その共和党側の主張をほとんど取り上げない。無視しているといえよう。この態度は公正ではない。一つの大きなテーマに対して二つの対立する意見があれば、メディアの任務としてはまず両方の主張を報じるのが基本だろう。客観的、中立的な両論併記である。そのうえで、メディア自体の見解として、どちらの主張に理があるかを伝えればよい。ところが現状ではトランプ陣営側の主張はまず報じられないのだ」
 「トランプ陣営に同情的な保守系の政治評論家グレグ・ジャレット氏はこの民主党と主要メディアのトランプ陣営への総攻撃を『悪魔化』(demonization)と呼んだ。自らの敵を実態とは異なる邪悪なイメージの言葉で形容して、まるで悪魔(demon)であるかのような虚像を作る攻撃手法である。
 ジャレット氏が民主党びいきではない数少ない主要メディアのFOXテレビで1月9日に発表した論評は次のようだった。
 『民主党指導部とその支持メディアのいまの目的はトランプ大統領をその任期の最後の2週間のうちに悪魔化することなのだ。いまその反トランプ陣営が求める大統領の即時解任を目的とする弾劾や憲法修正25条の発動は要件を満たさず、実現しないことは明確だ。この弾劾と修正25条という攻撃は4年前にトランプ氏が大統領に就任したときにも、まさに民主党側が叫んだ邪悪なレッテル貼りの悪魔化だった』」
(註 悪魔化は、普通の女性を魔女 witch と呼んで迫害する魔女狩りと同種の行為。西方キリスト教に特徴的)
 「今回の民主党側の弾劾の動きに対して正面からその非や欠陥を指摘する専門家も少なくない。そのなかには著名な法学者も含まれている。
 『大統領の言葉は憲法修正第1条の言論の自由の権利で保護されている。民主党の弾劾はその”言葉”だけを標的にしているから憲法違反の疑いが浮かぶ。暴力はあくまで排すべきだが、大統領の言論の自由の権利行使を懲罰する民主党の動きも危険だといえる。下院での審議は討論も証拠提示もなく欠陥だらけだった。この種の大統領攻撃はこんごのアメリカ政治に危険な前例を残すだろう』(ハーバード大学名誉教授の憲法学者アラン・ダーショウイッツ氏)
 『大統領をその退任後に在任中の言動を処罰の対象にして弾劾することは、憲法違反になるという法解釈もあり、確実な規則はない。今回の民主党の動きはそのあたりの考慮もなく、衝動に駆られたような動きだ。大統領の退任後の政治活動を禁じることも目的としており、倫理や道義、さらには国益を考えてというよりも、党派闘争での政治的動機があらわのようにみえる。そもそも退任する大統領を解任するというのは、すでに着陸した飛行機をもう一度、着陸させようとするのに等しい』(ジョージワシントン大学教授の法学者ジョナサン・ターリー氏)
 ダーショウイッツ、ターリー両教授とも政治的には保守派とはされるが、憲法や法律一般に関しての知識ではともに高く評価される専門家である。そのような人物たちの民主党批判の見解には重みがあろう。だが民主党支持の主要メディアはもちろんその種の見解は報じない。
 こうしたアメリカでの異見の存在を知ることは、アメリカ政治全体の現実を理解するうえで、欠かせないだろう」

2021.1.19
 米大統領選挙に関する朝日新聞の記事より。
 「バイデン次期米大統領について、ワシントン・ポストとABCニュースは17日、米国民の世論調査で、32%が『大統領選で正当に勝利しなかった』と答えたことを明らかにした。特に共和党支持層は7割は『正当に勝利しなかった』と答えており、トランプ大統領の『不正選挙』の主張が、強い影響を与えていることが改めて浮かんだ」
 ワシントン・ポストや ABC などの主要メディアが口をそろえて、あれほど、トランプは証拠のない主張を繰り返していると一貫して報道し続けても、なお 32% はバイデンは大統領選で正当に勝利しなかったと考えているのです。

2021.1.20
 トランプ大統領が19日午後、大統領を退任し、ホワイトハウスを離れるにあたって、スピーチを行ない、その動画を公開しました。
 トランプは「今週、アメリカでは新政権が発足し、我々はその政権がうまくアメリカを安全で繁栄した国であり続けるさせることを祈っている」と述べました。バイデン次期大統領の名前を挙げず、大統領選での自らの敗北に触れませんでした。
 米国の利益を最優先する「アメリカ・ファースト」によって「世界史上最も偉大な経済を確立した」などと主張し、「我々はだれもが想像していた以上のことを成し遂げた」と4年間の任期を振り返りました。米国史上初めて2度目の弾劾訴追を受ける原因となった連邦議会議事堂侵入占拠事件については「(政治的な暴力は)決して容認されない」と述べ、自身の責任には触れませんでした。
 演説の最後に「私は水曜日(1月20日)正午、新政権に権力を移譲する準備をしているが、我々の始めた運動は始まったばかりだということを皆さんにはわかってもらいたい」と述べ、2024年の大統領選への出馬も含めた今後も政治運動を継続していくことを示唆しました。
 ホワイトハウスは、公式発表サイトで、このスピーチを “Farewell Address of President Donald J. Trump”(ドナルド・J・トランプ大統領の告別演説)としています。
 上院での弾劾訴追の決議を避けることが第一です。決議されると、以後、公職に就くことができなくなります。2024年の大統領選挙への出馬、共和党におけるトランプ主義の維持、バイデン政権の根底からの揺さぶり、腐敗した米国社会の変革への可能性を保つために、ここは隠忍自重し、捲土重来を図るべきです。「負けるが勝ち」のことわざもあります。

2021.1.20
 産経新聞・古森義久記者が、米国の弾劾訴追に関する記事を書きました。日本の主要メディアが民主党側に偏った報道をしているのに対し、弾劾訴追に反対する意見を紹介し、両論を併記してメディアが取るべき姿勢を示しています。あえて記事の全文を掲載します。

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 ジョセフ・バイデン新大統領の就任式を迎えた米国では、同時にドナルド・トランプ大統領に対する弾劾決議が議会にかけられている。任期終了で退任する大統領をなお追いかけて「解任」を求めるという異例の措置だが、この民主党側の動きには米国で反対意見も広く存在する。しかし日本の主要メディアはそうした反対意見をほとんど報じない。

見通しが立っていない上院での審議
 弾劾訴追案は連邦議会の下院に1月11日に提出され、13日に可決されるという異例のスピードで進められた。
 1月6日にトランプ支持者の一部が連邦議事堂に乱入した。トランプ大統領がその前の演説で「内乱を扇動した」として大統領解任を求めるのが弾劾訴追の趣旨である。
 表決では、共和党議員のうち10人が造反して大統領批判へと回り、賛成が232、反対が197となった。弾劾案はこれから上院に回されるが、1月19日の段階では、いつ上院に提案されるのかまだ決まっていない。
 上院では大統領解任には100人の議員のうちの3分の2の賛成が必要とされる。そのためには共和党議員50人のうち17人の造反が必要となるが、17人以上が造反する見通しはまずないとされる。またトランプ大統領の任期が切れる1月20日正午までに上院での審議が始まる見通しも立っていない。
 こうした異例ずくめの弾劾の動きに対して、民主党を支持する大手メディアのニューヨーク・タイムズやCNNテレビなどが大々的に弾劾推進キャンペーンを展開している。

法律家の観点から弾劾反対論を唱えたシャピロ氏
 だが、一方で懐疑論や反対論も多い。その代表的な例を紹介しよう。
 大手紙のウォール・ストリート・ジャーナルは、1月11日付の紙面で「トランプ氏に扇動の罪はない」という見出しの長文の寄稿記事を掲載した。筆者は弁護士のジェフリー・スコット・シャピロ氏である。2010年代に首都ワシントンの連邦検事を務め、首都でのデモや集会での違法暴力行動を取り締まった経験を持つ法律家だ。
 シャピロ氏の主張は以下のような骨子だった。

・私は検事として首都での街頭集会や抗議活動での違法行動を取り締まり、議会での抗議や公園などでの集会を含めて、違法行為があれば、その責任者を刑事訴追してきた。その経験からしても、また今回の騒動の事実関係からみても、トランプ大統領は弾劾決議にあるような「内乱の扇動」はしていない。
・トランプ大統領に敵対的なジャーナリストや議員たちは、同大統領が1月6日のワシントンでの集会で「もっと激しく戦え(fight much harder.)」「勇敢な上下両院の議員たちを激励しよう」「弱さでは、この国を取り戻すことはできない」などと述べたことを、「内乱扇動」や「暴力鼓舞」と断じている。だが、その断定には法的な根拠がない。
・トランプ大統領はその演説で「みなさんは議事堂に向かって平和的かつ愛国的に行進し、自分たちの声を(議員たちに)聞かせるだろう」と語りかけていた。「平和的」という言葉に意味がある。ワシントンでの演説の場は暴力のない集会だった。その後に起きるような暴力や破壊をその集会と一体にすることはできない。
・首都ワシントンの法律では、「内乱」や「暴動」は、実際の暴力や破壊、そして他者に対する脅威となる行動を指す。だがトランプ大統領が出席していた集会にはそうした要素はなにもなかった。「内乱」に相当する行動が起きたのは集会の終了後であり、集会に参加していた人間のごく一部によって引き起こされたのだ。だから大統領の責任とすることには無理がある。
・大統領の反対勢力は「怒っていたアメリカ国民の感情を大統領が煽った」と非難するが、そのことだけでは刑法違反の要件を満たさない。刑法違反ではない言論は、憲法が保証する言論の自由によって保護される。連邦議会の議員たちはその憲法の順守を誓約して議員となったはずだ。

 以上のように、シャピロ氏は法律家の観点から弾劾反対論を唱えた。

トランプ大統領の実績を否定したい民主党
 では、弾劾の動きを政治的にみると、どうなのか。
 大統領を解任すべきか否かという重大な案件にもかかわらず、弾劾訴追案の議事は民主党が主体となって異様な速さで進められた。なにしろ提案から表決まで2日たらずだったのだ。
 重要な法案や決議案の審議では必ず前提となる公聴会や証人喚問もなかった。1月6日の議会乱入の事実関係の検証もなかった。民主、共和両党の議員による細かな討論もなかった。とにかく拙速だったのである。
 下院で弾劾に反対する共和党側の代表といえるジム・ジョーダン議員が、民主党側の動きの政治的な側面や特徴を説明した。ジョーダン議員は下院の司法委員会の共和党側筆頭メンバーである。
 同議員は自らの見解をワシントンの保守系政治紙「ワシントン・エグザミナー」に語り、1月14日付の紙面にその記事が掲載された。「下院がトランプ氏の2度目の弾劾へ進むが、訴追の成立や解任はないだろう」という見出しの記事だった。
 ジョーダン議員の見解の骨子は以下の通りである。

・下院の民主党勢力はトランプ大統領を就任時からなんとかして選挙以外の方法で除去しようと努め、その手段として弾劾を使ってきた。過去4年間、一貫してその試みを続け、2019年12月には「ウクライナ疑惑」を使って下院での弾劾案の可決に成功したが、上院で排除された。
・民主党の狙いはとにかくトランプ大統領に打撃を与え、辞任に追い込むことだ。そしてトランプ大統領の過去4年間の業績を抹殺することを目指してきた。その業績とは減税、経済改善、雇用拡大、国境の安全保障、外交政策の前進などだ。トランプ大統領の賛同者、支持者のすべてを否定し、存在しないことにしたいのだ。
・民主党側でも、ナンシー・ペロシ下院議長が2018年に公開の場で「トランプ大統領の統治を止めるために、なぜ各地でもっと内乱が起きないのか」と述べたことがある。この種の発言こそ暴力や内乱の扇動ではないか。だが民主党支持の大手メディアは決して民主党側に批判の矛先を向けることはない。不公正な二重基準なのだ。

 以上のような共和党議員の主張を知ると、いまの弾劾推進の動きも、正義や道義の追及というよりも民主、共和の両政党の生臭い政争にみえてくる。両方の意見を知ることの重要性、つまりメディアにとっては両論の並記という姿勢が求められるところだろう。

 以下の点は、特に重要です。
 ワシントンD.C.の連邦検事の経験者の経験と今回の騒動の事実関係からみて、トランプは弾劾決議にあるような「内乱の扇動」はしていないこと。「内乱扇動」や「暴力鼓舞」と断定する法的な根拠がないこと。刑法違反ではない言論は、憲法が保証する言論の自由によって保護されること。
 大統領を解任すべきか否かという重大な案件にもかかわらず、下院での審議は提案から表決まで2日たらずだったこと。重要な法案や決議案の審議では必ず前提となる公聴会や証人喚問がなく、1月6日の事件の事実関係の検証がなく、民主・共和両党の議員による細かな討論もなかったこと。
 刑事事件は通常、一般の裁判所で行われますが、弾劾裁判は連邦議会で行われます。弾劾訴追の審議は、連邦最高裁で行う裁判と同レベルの審理が必要です。上院における弾劾裁判の裁判長役は、ジョン・ロバーツ最高裁長官が行います。下院議員は検察の役割、上院議員は判事と陪審員の役割を担います。上院では、本件を政治的な抗争の道具とするのではなく、米国の最後の良識を示してほしいものだと思います。

2021.1.20
 ポンぺオ米国務長官は、共産中国が新疆ウイグル自治区でウイグル族などイスラーム教徒の少数民族に対して「ジェノサイド(民族大量虐殺)と犯罪」を犯したことを認定。バイデン新政権も共産中国へのこの厳しい姿勢をしっかり受け継ぐべきです。バイデンもハリスも、ウイグルや香港における人権問題に関する発信は非常に少ないことが指摘されており、人権の擁護を唱えながら、共産中国に対する批判は消極的なので、ポンペオは国務長官として最後にジェノサイド認定をしたことで、この問題から新政権が逃げられないように枠をはめたものと思います。

 次回に続く。

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