ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

中国:社会的焦燥感の行方

2011-08-31 10:05:44 | 時事
 8月13日の日記に中国高速鉄道事故に関する中国メディアの動きについて書いた。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/d/20110813
 今回の事故は、中国の国内で、国民が政府や当局に怒りや不満を表したり、メディアが政府の指示・命令に従わずに、批判的な報道をしたり、これまでにない動きが見られた。このことに関して、石平氏は、産経新聞平成23年8月4日の「石平のChina Watch」に「反旗を翻した中国メディア」と題した記事を書いた。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/110804/chn11080408030001-n1.htm
 石氏は、そこで、「当局の人命軽視と政権の報道統制に対し、一部の国内メディアはもはや昔のようにただ屈従するのではなく、むしろ果敢に立ち上がって集団的反乱を試みた。その背景には、人権に対する国民の意識の高まりと、市場経済の中で生きていくために民衆の声を代弁しなければならなくなったメディアの立場の変化があろう。そこから浮かび上がってきたのは『民衆+メディアVS政権』という見事な対立構図である。この対立構図の成立こそが、今後の中国の激変を予感させる画期的な出来事であろうと感じるのである」と述べた。
 中国の民主化について、決して簡単なことのようには述べない石氏が、「今後の中国の激変を予感させる画期的な出来事」と言ったことは注目に値すると私は思った。
 石氏は、18日の「China Watch」に「13億人の社会的焦燥感 激変と混迷の『乱世』突入への前兆」という記事を書いた。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/110818/chn11081811390004-n1.htm
 ここで石氏は、共産党中央党校の呉忠民教授を引く。呉氏は、中国社会について、「現在、焦燥感なるものがこの社会ほとんどすべての構成員に広がっている」「焦燥感がこれほど広がっているのは中国の歴史上でも珍しいケースであり、戦乱の時代以外にはあまり見たことのない深刻な状況である」と述べている。
 石氏は「世界史的に見ても、ある国において、労働者からエリートまでのすべての国民がえたいの知れぬ焦燥感や不安に駆り立てられているような状況はたいてい、革命や動乱がやってくる直前のそれである」と言う。そして、「貧富の格差の拡大や腐敗の蔓延が深刻化して物価も高騰し経済が大変な難局にさしかかっている中、改革開放以来の中国の経済成長路線と社会安定戦略がすでに自らの限界にぶつかって行き詰まりの様相を呈している。それこそが『社会的焦燥感の蔓延』を生み出した深層的原因であろう。もちろん、このような社会的現象の広がりはまた、中国社会が今後において激変と混迷の『乱世』に突入していくことの前兆でもある」と書いている。
 ここのところ、中国では出稼ぎ労働者の大規模暴動、集団的騒乱事件、市民の抗議デモなど、民衆の反乱が全国に広がっている。この状態を石氏は、「中国社会全体はあたかも「革命前夜」のような騒然たる雰囲気となっている」ととらえる。そして、先の中国高速鉄道事故で民衆の不満と反発が爆発寸前にまで高まったとし、「この一件を見ても、13億国民の『社会的焦燥感』がやがて大きなエネルギーと化して急激な変革を引き起こすに至る日はそう遠くない。そう私は確信している。」と述べている。
 8月4日の記事では、「民衆+メディアVS政権」という対立構図の成立が、「今後の中国の激変を予感させる画期的な出来事であろうと感じるのである」と石氏は書いていたが、このたびの記事では、「13億国民の『社会的焦燥感』がやがて大きなエネルギーと化して急激な変革を引き起こすに至る日はそう遠くない」と確信していると書いている。
 ここで注意したいのは、石氏が言う「急激な変革」を、日本人の多くが期待するような民主化ないしジャスミン革命と理解してよいかどうかである。というのは、拙稿「中国の『大逆流』と民主化のゆくえ」に書いたように、石氏の見解は、もともと中国で単純に民主化が実現するというものではない。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12h.htm
 平成21年に刊行された著書『中国大逆流 絶望の「天安門20年」と戦慄の未来像」(KKベストセラーズ)で、石氏は次のように書いていた。
「国民の多くが『08憲章』の下に集結して民主化の道を開くというシナリオよりも、『毛沢東への先祖返り』としての『革命』が起きてくる可能性はもっと現実的であろう」と。つまり、民主化よりも毛沢東崇拝への逆流が、中国で起こっている。さらに、その逆流は、中国のファッショ化へと進むおそれがある。それが、「中国大逆流」の意味するところである。
 中国経済の崩壊は、共産党の政権基盤を揺るがす。そこで共産党政権は、どう出るか。石氏は次のように予想を述べた。
 「外部的危機を作り出すことによって、国民の目を内部の危機から逸らし、『民族の大義』を掲げることによって国民のウルトラ・ナショナリズム情念を最大限に煽り立て、対外的冒険に走ることによって国内の危機を乗り越えていく」と。
 中国が、来るべき内部の危機を乗り越えていくために、「対外冒険的な軍国化」の道を歩むとすれば、「日本にとって安全保障上の大問題」である石氏は警告する。軍国主義化した中国の共産党政権が対外的な暴走を始めた場合、矛先は台湾海峡か東シナ海がターゲットになる。経済の崩壊、暴動の激発で、中国国内が収拾のつかない大混乱に陥ってしまった場合、「共産党政権は巨大な軍事力をバックにして一気に台湾併合に動き出す可能性が十分あるし、台湾併合の前哨戦として、尖閣諸島進攻を断行するかもしれない」と石氏は予想する。「国内がどれほどの危機的な状況に陥ったとしても、尖閣諸島か台湾を奪うことさえ出来れば、共産党政権は国民からの熱狂的な支持を受け、一気に局面を打開して危機を乗り越えられる」というのが、その理由である。
 そこで石氏は、言う。「今の日本は、中国国内の動向を左右できるほどの力を持たないから、できることはただ一つ、自らの守りを固めていざという時の『危機』に備えていくことではなかろうか」と。「そのためには、アメリカによって押し付けられた『平和憲法』なるものを一日も早く改正して、自衛隊に国防軍としての名誉と法的地位を与えて国防を強化させ、国家体制を固めておかなければならない。そして、国家と民族の存続を断固として守る意思を示した上で、中国共産党政権に対しては、台湾や尖閣諸島、および東シナ海にたいするいかなる侵略的冒険も、日本国としてけっして許さないという強くメッセージを送り続けるべきであろう」。そして、「日本がかくの如く強くなって毅然とした姿勢を取ることによってはじめて、日本と東アジアの平和が保たれるであろう。日本が相応の実力と国家防衛の強い意志を持つことは、中国共産党政権の対外的冒険を思いとどまらせるための大きな抑制力となるからである」と石氏は、『中国大逆流』に書いていた。
 私は、『中国大逆流』における石氏の予想、及び日本の取るべき方策への意見におおむね賛同する。それゆえ、現在中国で広がっている「社会的焦燥感」が「急激な変革」を引き起こす場合においても、そのまま民主化が進むというシナリオは、一つのかなり単純なシナリオでしかない。民主化ではなく、社会主義の第二革命に向うシナリオや、おさまりどころのない混乱が何年も続くというシナリオも考えられる。また、民衆の政府への不満が愛国主義や毛沢東崇拝に吸収されて、中国の「ファッショ化」が進められ、対外的な軍事行動に向う可能性もある。
 わが国は、中国でどういう展開が起ころうとも、しっかりと国を守っていくための備えをしなければならない。
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救国の経済学50~丹羽春喜氏

2011-08-30 08:47:00 | 経済
 本稿は、今回で第50回となる。全部で65回ほどになる見込みである。

●政府貨幣の前例となる明治維新の太政官札

 政府貨幣発行の実例としては、米国の南北戦争のさいのグリーン・バック紙幣と第1次大戦のときの英国のカレンシー・ノートが有名である。丹羽氏は「ともに、国家存亡の危機からこの両国を救った偉大な成功例」だと言う。
 わが国にも、政府貨幣発行の大成功例がある。明治維新の開始期に発行された太政官札(だじょうかんさつ)である。丹羽氏は、政府貨幣発行特権の発動策に関し、この太政官札の例を強調する。
 慶応3年10月14日(1867年11月9日)、大政奉還が行われ、朝廷を中心とする新政府ができた。だが、新政府は当初、財政的基盤が非常に弱かった。戊辰戦争を継続するにも資金が不足していた。このとき、新政府の財政担当となったのが、由利公正である。由利は、横井小楠の弟子であり、福井藩の経営で実績を上げた。その手腕を買った坂本龍馬が、新政府の財政担当を担えるのは由利しかないと推薦し、岩倉具視らに登用された人物である。
 由利は、新政府の財源を調達するため、政府紙幣の発行を提案した。それが太政官札である。
 丹羽氏は次のように評価している。新政府は、太政官札(後には民部省札)を大量に発行し、「それを財源として文明開化のための諸施策への支出を思い切って積極的に行ない、経済の高度成長と急速な近代化を実現しえた」と。(「正統派的ケインズ政策の有効性」)
 丹羽氏は、『月刊日本』平成15年7月号に掲載した「スティグリッツ氏の提案は間違ってはいない」で大意、次のように述べている。
 「坂本龍馬と光岡八郎(由利公正)の夜を徹しての協議(慶応3年10月末)で基本方針が定められ、慶応4年(明治元年)2月から実施されはじめた太政官札の発行は、客観的に見れば、明治維新を成功させるうえで、まさに決定打として役立った施策であったのである。
 すなわち、王政復古の大号令が発せられた慶応3年末から戊辰戦争が終わった直後の明治2年の9月までの期間をとって見てみると、当時の維新政府は、戊辰戦争のための戦費をも含めて5129万円の財政支出を行なっているのであるが、そのうちの実に93.6パーセントにあたる4800万円が太政官札という不換政府紙幣の発行による造幣益でまかなわれているのである」。
 当時の政府は、まだ基盤が脆弱で、威令も十分には行なわれていなかった。租税を組織的に徴収するようになったのは、明治4年(1871)に断行された廃藩置県の後である。当初、政府の財政は、累卵の上に立っているような危ない状況にあった。そのような中で発行された太政官札は、戊辰戦争の戦費支出を含む巨額の財政支出の93.6パーセントをまかなった。 
 「太政官札発行による造幣益が、もしも無かったとしたならば、維新政府は存続しえずに崩壊していたにちがいない。このことを想起するならば、当時、維新政府が太政官札の発行を断行しえたことこそが、維新の大業を成功させた決定的な要因であったと、考えねばならないのである」と丹羽氏は言う。
 太政官札発行開始の2年後に、小額紙幣として、民部省札の発行が始まった。これも不換政府紙幣だった。明治5年(1872)からは、太政官札と民部省札は、印刷を巧緻なものとした『新紙幣』と呼ばれる紙幣に取り替えられた。

 次回に続く。
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鬱陵島視察拒否の3議員は語る

2011-08-29 08:49:12 | 時事
 8月1日、韓国・鬱陵島を視察する計画で、ソウルの金浦空港に降り立った自民党国会議員、新藤義孝氏、佐藤正久氏、稲田朋美氏の3名は、韓国政府によって入国を拒否された。3名は、自民党の「領土に関する特命委員会」の委員である。
 韓国政府の鬱陵島視察拒否について3名の議員がそれぞれ意見を述べている。それを収集して掲載し、この問題についての参考に供したい。

●新藤義孝衆議院議員

 新藤氏は、自身のサイトに掲載した「週刊新藤第226号 韓国・鬱陵島視察で起こったこと〜竹島問題の解決なくして真の日韓友好なし〜」に、次のように書いている。
 「当日は朝 8 時55分の飛行機で羽田を出発し、11時過ぎに金浦空港に到着しました。空港に着くと韓国の入国管理事務所の担当者が私たちを別室に案内しました。
 私たちはパスポート提出を要求され、そのチェックが行われました。約30分後、韓国側は唐突に「身体の安全が確保できないこと、及び、日韓関係に悪い影響を与えること、を理由にあなたたちの入国は認められない」と宣言したのです。
 私たちはこの宣告を全く納得できませんでした。そもそも入国の目的や視察の内容等について何も尋ねられていなかったのです。このような一方的な措置が、適正な入国審査手続きすらなく行われることは、法治国家のすることではありません。
 さらに、入国禁止の根拠となる法令を尋ねると、韓国出入国管理法第11条 1 項第 3 号であると返答がありました。しかし、この条文は「『韓国の利益や公共の安全を害する行為をする恐れがあると認めるに足りる相当の理由がある者』の入国を禁止することができる」というものです。
 私たちはデモも集会も行わず、ただ視察に行くだけです。公共の安全を害する行為を行う恐れがあるのは、私たちに抗議する韓国人デモ隊の方です。
 そしてデモを鎮圧し、治安を維持するのは韓国政府の役割です。暴力犯罪者やテロリストに適用する法律を、法解釈をねじ曲げて私たちに適用するのは道理が通りません」。
http://www.shindo.gr.jp/2011/08/226.php

●佐藤正久参議院議員

 佐藤氏は、8月15日靖国神社で行われた第25回戦没者追悼中央国民集会で、大意、次のように語った。
 「先日、私たちは、韓国・鬱陵島視察のため、韓国に渡りましたが、残念ながら金浦空港で入国拒否。ただ、韓国政府は自民党国会議員の行動に驚いたようでした。
 なぜならば、これまでは歴史問題を出すと、日本政府は低姿勢で謝罪するのが当然のような感じがありましたが、今回は、韓国政府が入国を拒否すると言っても、自民党議員は堂々と金浦空港に降り立ったからです。これは今までにない日本人の行動として、韓国には衝撃だったようです。
 その証拠に、韓国政府は、空港で我々の入国目的や行動予定を確認する余裕すらなかった。更には、入国禁止の根拠とする法規を示してほしいと言ったら、その文書すら準備をしていなかった。あれから2週間経った今でも韓国政府は、答えを返せていません。
 更に、韓国メディアの中にも、騒ぎすぎだとの反省もあるようです。大騒ぎした結果、韓国国会の竹島開催も延期になった他、日韓間に竹島領土問題があることを国際社会に周知してしまった。更には関心がない日本国民の意識を呼び覚ましてしまったとも。
 実際に、韓国から帰国後、今回の件で竹島問題の存在を知ったとのメールが届いたりしました。また日本青年会議所が日本の高校生約400人に国境の調査をしたところ、北方領土、竹島、尖閣の正解者はたった7人(約2%)との調査結果もあります。笑えない現実です。今、問われているのは韓国政府の対応ではなく、日本人の領土・主権意識です」
http://east.tegelog.jp/index.php?blogid=24&catid=164

●稲田朋美衆議院議員

 稲田氏は、産経新聞平成23年8月18日の「正論」に次のように書いた。
 「もとより、誰を入国させるかはその国の主権国家としての自由である。だが、友好国の国民代表の入国を拒否するのであれば、正当な法的根拠を示すのが民主主義・法治国家としての礼儀だろう。韓国政府が示した「テロリスト」条項の適用など到底納得できない。日本にも同様の条項があるが、それに基づき入国を拒否したのは過去1回だけで、あくまで最後の最後に使うと法務省は強調する。真の拒否理由は、私たちが竹島は日本固有の領土だと唱える政治家だという点にあったのだろう」
 「日韓両国の正式な場で早急に、竹島問題の議論を開始しなければならない。そのために国会に竹島特別委員会を、内閣には竹島対策室を設けるべきである。ただし、話し合いでの解決は難しかろう。過去2回とも、韓国の反対で付託を果たせてはいないものの、国際司法裁判所にこの問題を提訴することも並行して試みるべきだ。
 韓国による竹島の実効支配は、自民党政権下で領土防衛のための自衛権を行使しなかったことの帰結でもある。尖閣諸島の“竹島化”を何としても防ぐためには、断固、領土を守る意思と行動が不可欠だ。竹島、尖閣、北方領土の領有の正当性を、学校できちんと教育することも始めなければならない。これらの島の位置も理解されていないのでは話にならない。行動しなければ何事も始まらない。その行動はしかし、続けていかなければ意味がない。強い意思と毅然とした行動なくして領土を守ることはできないのである」
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110818/plc11081802520004-n1.htm

●自民党は本気で出直せ

 以前にも書いたが、あえて繰り返す。
 今回の出来事は、わが国の政治の実態を、改めて浮き彫りにした。民主党政権は、韓国政府に抗議したが、形式的なもので、日韓の外交問題にしたくないという思惑が見て取れる。それ以上に際立ったのは、自民党内の統一のなさである。入国を拒否された自民党国会議員3名は、同党の「領土に関する特命委員会」の代表として訪韓する予定だったが、結局、国会議員3名は、特命委員会の代表としてではなく、個人として訪韓したという扱いにされた。自民党は、韓国の竹島実効支配強化に抗議し、民主党政権を「弱腰」と批判してきたのだから、現在の執行部は姿勢を改めるべきである。
 多くの国民は、今回の代表選を通じても、民主党政権のあまりのひどさにあきれ、一日も早い政権交代を願っている。だが、最大野党の自民党がこういう体たらくでは、国民の願いは行き場がなくなってしまう。自民党は、再び政権を担える政党に再生できるよう、立党の精神に帰り、本気で出直しをしてもらいたい。

・拙稿「自民党は立党の精神に帰れ」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13e.htm
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救国の経済学49~丹羽春喜氏

2011-08-28 08:36:37 | 経済
●丹羽氏の高橋案・田村案への論評

 丹羽氏は、高橋洋一氏、田村秀男氏の政府紙幣発行論をどのように論評しているだろうか。
 丹羽氏は、平成21年(2009)4月、「政府紙幣発行問題の大論争を総括する」という論文を発表し、自らの見解を明らかにしている。
 「実は、政府紙幣を新規に発行するという高橋氏・田村氏の政策案には、見逃しえない問題点がある」と丹羽氏は指摘する。「ちょっと考えればすぐわかるように、現行の日銀券と併行的に、新規に政府紙幣を実際に発行・流通させるためには、国内に無数に存在する種々様々な自動販売機やATMなどを全てやり換えねばならない。このことをとってみただけでも、諸種の社会的トラブルがきわめて数多く発生するであろうということは、明らかなところであろう。しかも、現在の日銀券の流通額が約76兆円程度のものなのであるから、それに加えて新規に政府紙幣を数十兆円、数百兆円も発行・流通させることは無理である。高橋洋一氏が提言している25兆円でも、かなり難しい。そして、肝心の景気振興政策の規模そのものが、その額に制限されてしまい、しかも線香花火のように短期的に一回だけ実施される施策にすぎないというのであれば、現下の大不況を克服するには、あまりにも非力である。ましてや、800兆円を超す国家負債の処理ということにまでなると、まったく役に立たない」と言う。
 丹羽氏は、自らについて、「私自身(丹羽)は、十数年も以前から、『国(政府)の貨幣発行特権』(seigniorage、セイニャーリッジ権限)の発動によって国の財政危機を救い、わが国の経済の興隆をはかれと提言し続けてきた者であり、いわば元祖である」と述べる。そして、次のように言う。 
 「しかし、私は、『国(政府)の貨幣発行特権』を活用するやり方としては、政府紙幣を刷らないで、しかも、トラブル的な問題も起こさずに政府財政のための『打ち出の小槌』となるような、『スマートで容易な方式があるよ!』と指摘・詳述し、それを採用・実施することこそが『救国の秘策』のための秘策であると、今日まで提言し続けてきたのである」と。
 ここが重要な点で、丹羽氏は政府紙幣つまりお札を印刷して流通させるという案ではない。
 「『スマートでトラブル的な問題も起こさない容易な方式』とは、国(政府)が無限に持っている無形金融資産である貨幣発行特権のうちから、所定の必要額ぶん(たとえば、500~600兆円ぶん)を、政府が(ある程度はディスカウントでもして)日銀に売り、其の代金は、日銀から政府の口座に電子信号で振り込むことにするというやり方である。しかも、このことは、現行法でも、十分に可能なことである。この方式であれば、新規の「政府紙幣」をわざわざ印刷・発行するようなことをしなくても、そして、言うまでもなく、増税をするわけでもなく、政府の負債を増やすこともなく、事実上、政府の財政財源のための無限の「打ち出の小槌」が確保されることになるのである」
 それゆえ、政府貨幣発行特権の発動には、政府紙幣を印刷する政府紙幣発行論と、電子信号振込み論がある。前者と後者は混同されてはならない。
 丹羽氏は、次のようにも書いている。「実は、私自身は、『国(政府)の貨幣発行特権』という『打ち出の小槌』を財政財源として活用するための、私自身が推奨・提言してきたやり方を、単なる緊急処置的な劇薬の一回限りの投与だなどとは、毛頭、考えていない。マクロ的なデフレ・ギャップ、インフレ・ギャップの正しく注意深い計測と観察を怠らずに、採用・実施するのであれば、それを長期的に常用することによってこそ、わが国の経済と財政は、きわめて健全化され、活力に満ちて興隆への軌道に乗るはずだと、私は論証し続けてきた。正統派的なケインズ主義的総需要管理政策の理論構成からすれば、そう考えざるをえないのである」と。
 そして、丹羽氏は自らについて、次のように述べる。「すなわち、私は、高橋洋一氏や田村秀男氏が提言してきたようなレベルよりも、さらに踏み込んで、はるかにスケールの大きな高次元の財政政策・経済政策システムを構想し、それを実現すべきだと提言してきたわけである」と。
 エコノミストであれ素人であれ、丹羽氏の主張を批評するには、高橋氏・田村氏との方法と理論の違いを認識した上で批評する必要があることを強調しておきたい。

 次回に続く。
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トッドの移民論と日本70

2011-08-27 10:29:56 | 国際関係
●中国人不法滞在者への対処

 今日、中国人問題を考える際、坂東忠信氏のりポートは欠かせない。
 坂東氏は、警察官として18年、うち刑事、通訳捜査官として約9年間、北京語を使って中国人に接近、中国人犯罪者を逮捕し、取り調べをしたという経歴の人物。他の中国事情専門家や一般の学者・ジャーナリストの持ち得ない経験をもとにしたリポートは、独自の光彩を放っている。
 平成10年(1998)末、日本の中国人の登録外国人は27.2万人だった。以後、1年で5万人というハイペースで増加した。これと並行して、平成10年代には、東京などで中国人を主とする不法滞在者が増えた。当時、警察官だった坂東氏によると、不法滞在者の増加に対処するため、平成15年(2003)末から「65条渡し」と呼ばれるものが施行された。氏の著書「日本が中国の自治区になる」(産経新聞出版、2010年)によると、「警察、検察、入管が話し合い、むちゃくちゃな数の中国人をはじめとする外国人犯罪者の処理について、入管法第65条を適用することで合意した」のだと言う。
 第65条の内容は、簡単に言うと、警察が逮捕したオーバーステイに関しては、余罪がない限り、入国管理局に直送、強制退去とするという処分である。オーバーステイとは、合法的に入国した後、滞在期限を過ぎても不法滞在する者である。密航者は含まない。坂東氏によると、「65条渡し」によって、「多くの不法滞在者を検挙と同時に入管送りにしたため、密入国者は恐れをなして姿を消し」た。
 ところが、こういう効果はあったものの、平成18~19年ころから再び中国人が増えてきた。ちなみに中国人の登録外国人が約60万6千人となり、初めて韓国人・朝鮮人の登録者数を抜いたのが、平成19年(2007)だった。

●増える中国人の入国方法

 一体、中国人は、近年なぜ増えているのか。坂東氏は、先の著書に、5つの方法を書いている。どれも、不法入国ではなく、不法滞在ではない。合法的な入国方法である。しかし、その実態は、驚くべきものである。
 第1は、なりすましである。他人になりすまして合法的に入国する方法である。坂東氏によると、これは「いまや中国国内でも定着しつつある戸籍売買を、海外渡航に転用したもの」で、「戸籍の売買による正規入国の方法」である。「どんな人間でも、前科者でもスパイでもお金さえ払えば、他人になり済まして安全確実に正規ルートで来日し、安心して日本でお金を稼ぐことができる」。「立件はほぼ不可能」で、「もう密入国する必要はない」と言う。
 第2は、残留孤児の偽装である。「偽名を使って公証役場に根回しし、残留孤児である証明書を作成させ、これを提出して正規旅券をゲット、来日する方法」だと坂東氏は説明する。「今日本に滞在する残留孤児関係者のほぼ9割が偽者であり、同様の偽装工作で来日して正規滞在している」と言う。恐るべき工作である。残留孤児と聞いたら、偽者という可能性を想定して慎重に対応した方がよい。

 次回に続く。
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前原氏は首相に相応しい人物か

2011-08-26 08:52:44 | 時事
 民主党代表選に前原誠司氏が出馬した。各種世論調査では、代表候補のうち人気第1位であり、順当にいけば、これまで最有力と見られた野田氏に勝って、党代表となり、次期首相となる見込みである。ただし、小沢一郎氏が党内最大勢力として数の力をふるい、別の候補を推せば、その候補が勝つ可能性もある。その場合は、小沢院政の確立となるだろう。もっとも、土壇場で、前原氏・小沢氏が互いの利益のために手を結ぶ展開も考えられる。
 前原氏は、氏の政治団体が京都市内の在日韓国人女性から献金を受けていたことが判明し、3月に外相を辞任したばかり。責任の重さを認め引責辞任したはずだが、わすか5か月で代表戦に出るというのは、節操のない政治家である。
 前原氏は、民主党の中では保守的な言動で知られ、外交・安全保障政策では国益に立って日米同盟の堅持をうたう。だがその一方で、仙石官房副長官が後見人であり、旧社会党系の左派勢力にも通じる。小沢氏には距離を置きながらも、小沢氏と渡部恒三氏の間を取り持ってみせた。中国の軍事力増強に警戒感を述べる反面、歴史認識では媚中派と大差ない。どれが真の顔か、つかみにくい政治家である。
 私は、今回の民主党代表選には、主に三つの争点があると思うが、その第一である増税の是非については、前原氏はデフレ脱却が優先とする。第二の親小沢氏か反小沢については、前原氏は、小沢氏の党員資格停止処分は党の決定ゆえ維持すべきという考えを表明。第三の与野党大連立か否かについては、働きかけは必要だが、代表戦の争点にすべきでないという考えらしい。このようではある。
 ところで、私は、6年ほど前、前原氏が民主党代表になった際、一文を書いた。その一部を再掲する。平成17年(2005)10月2日のものである。

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 民主党の新代表・前原誠司氏は、43歳。「民主党を闘う集団に変える」と言って、政界に清新の風を送っている。松下政経塾出身、安全保障・外交の政策通で、憲法改正に賛成だという。労働組合との依存関係も改めるという。何でも「反自民」だった従来の民主党がこれで変わるかもしれないと、一部には期待を寄せる人がいるようだ。
 前原氏が憲法、特に第9条の改正、防衛力の整備に積極的というのは結構なことである。しかし、そこに日本の伝統・文化・国柄に基づいた確かな国家観・歴史観の裏づけがなければ、本当に国を守ることにはならない。この点、前原氏の意見には、はなはだ疑問が多い。ネット上でいろいろな人々が明らかにしているところによると、氏は、以下のような考えを持っている。

・首相の靖国神社参拝――反対
・いわゆる「A級戦犯」の分祀――賛成
・外国人地方参政権付与――賛成
・外国人労働者受け入れ――賛成
・扶桑社の教科書の採択――反対
・中国へのODA供与終了――反対
・北朝鮮への経済支援打ち切り――反対

 上記のように、靖国、教科書、ODA等で非常に中国寄りであり、また参政権では韓国に、経済支援では北朝鮮を利する考えを、前原氏は持っている。わが国の国益は、中国・韓国・北朝鮮に譲歩・妥協することで守られると錯覚しているようだ。
 民主党はマニフェストに「開かれた国益」と書き、日中関係の再構築、日韓関係の強化、東アジア共同体の構築を掲げている。また、党の憲法提言に「国家主権の移譲や主権の共有へ、アジアとの共生」いうビジョンを打ち出している。また沖縄に「一国二制度」を取り入れて、「自立・独立」型経済を作り上げ、「東アジア」の拠点の一つとなるようにするという「沖縄ビジョン」を提案している。
 民主党のマニフェストや憲法提言にそって、前原氏の意見を敷衍するとどうなるか。憲法を変えて自主防衛力を高めたうえで、沖縄から米軍基地をなくす。東アジアにおける米国の影響力を弱め、日米安保を破棄し、中国・コリアと結んだ東アジア共同体をつくる。少子高齢化のわが国に、中国人・コリア人を多く居住させ、参政権を与え、長期的には日本が一個の国家ではなく、日・中・朝の三族共和のひとつの地域に変貌する。それによって、中国共産党の東アジアでの覇権が確立される。日本文明は自立性を失い、シナ文明圏の群小列島と化す。このような展開となるおそれがあると思う。(略)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=42316755&owner_id=525191

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 上記の拙稿から約6年。前原氏も内外の状況も変わった点はあるが、氏の本質的な部分は変わっていないと思う。
 拙稿を書いて間もなく、前原氏は、自殺した永田議員の偽せメール事件で、代表を引責辞任した。裏付けのないものに勢いで乗っかる軽率さを見せた。脇が甘い。民主党が政権を取ると、国交相になったが、八ツ場ダム問題で地元の声を聞くことなく突然建設中止を宣言。ところが、自分は途中交代し、どうするか答えが出ていない。続いて外務大臣になると、尖閣沖中国漁船衝突事件が起こった。外交に強いと見られていた前原氏だが、菅首相・仙石官房長官とともに、中国への弱腰外交で世界に恥をさらした。その後、外国人献金問題で辞任。外務大臣が外国人から献金を受けていたのは、重大な過失ゆえ辞任が当然とはいえ、前原氏は説明責任を果たさないまま辞任し、その後も釈明をしていない。
 前原氏が民主党の代表に選ばれるのは民主党内のことだが、わが国の総理大臣となるには、問題が多いと私は思う。
 前原氏については、政治とカネ、北朝鮮との関係、暴力団とのつながり等、ほかにもいろいろな情報がネット上に、書かれてきた。例えば、次のサイトは、そうした情報を収集して掲示している。情報の質は玉石混交かと思うが、果たして前原氏が日本国の総理大臣になるに相応しい人物かどうか考えるのに、一つの参考にはなるだろう。諺にいわく「火のないところに煙は立たぬ」。
http://muroutahito.blog33.fc2.com/blog-entry-216.html
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救国の経済学48~丹羽春喜氏

2011-08-25 06:54:23 | 経済
●丹羽案と高橋洋一案・田村秀男案の違い

 丹羽氏の政府貨幣発行特権の発動論に対し、これに似た政策案を説くエコノミストがいる。丹羽氏は、そうしたエコノミストとして高橋洋一氏と田村秀男氏を挙げて論評している。まず高橋氏・田村氏の主張を紹介し、その後に丹羽氏の論評を掲載する。
 財務省出身の高橋洋一氏は、平成20年(2008)12月ごろから、政府紙幣25兆円の発行を提言して、マスメディアの注目を集めた。異論反論が多く上がるなか、産経新聞編集委員の田村秀男氏は、高橋氏の提言に賛同する意見を表した。
 産経新聞平成21年(2009)1月13日号は、1面トップで「いまこそ『100年に一度の対策』を」と題した田村氏の提案記事を載せた。田村氏は「世界はいま、『100年に1度』の経済危機を迎えている」とし、「100年に1度の危機には100年に1度の対策を打ち出し、危機を好機に変える戦略が問われている」と説く。そして、①日銀券とは別の政府紙幣、②相続税免除の無利子国債、③円建て米国債を引き付けの三つを提案した。このうち、①が政府紙幣に関する意見である。
 田村氏は、政府がお札を刷る政府紙幣は「発行費用は紙と印刷代で済むから、政府は財政赤字を増やさずに巨額の発行益を財源にすることができる。まるで政府が「打ち出の小づち」を振るような話だが、きちんとした経済理論的な根拠もある」という。
 「打ち出の小づち」は丹羽氏のキャッチフレーズだが、田村氏は丹羽氏の名前を挙げず、丹羽氏の理論を引用しない。また丹羽氏は政府紙幣を印刷せずに政府貨幣発行特権を発動する案を提唱しており、田村氏の理解は正確でない。
 田村氏は、記事において「物価が下がり続けるデフレスパイラルとは、モノやヒトの労働の量がカネに比べて過剰なのだから、カネの供給量を増やせばよい」「日銀券に比べ、政府紙幣には政治主導という利点がある。政策目的に応じて政府紙幣による財源を柔軟に充当できる。給付金としてばらまくことで個人消費を喚起するのも一案だが、失業者対策などの社会保障財源に回す、さらには民間の新たな地球環境プロジェクトを補助し、日本版『グリーン・ニューディール』を推進するのも手だろう」と言う。
 「給付金としてばらまく」というのは、丹羽氏の臨時ボーナスの支給を指すのだろう。田村氏は、最後に次のように言う。「もちろん、政府紙幣の発行額には限度もある。高橋洋一東洋大学教授は、その発行適正規模を『25兆円』とみている」と。
 丹羽氏の発行規模は600兆円だが、田村氏はそれも引用しない。高橋氏の25兆円に触れるのみである。もともとの提唱者に触れずに、亜流の高橋氏のみを紹介するのは、公明正大な姿勢ではない。

●政府貨幣の形態・規模や経済理論が異なる

 さて、高橋氏の政府紙幣発行論には反対意見が多く、高橋氏は、産経新聞平成21年(2009)2月13日号で、「日銀が何もしないのならば、政府がやるしかないではないか」と論じ、自らの主張を変えずに、「政府紙幣25兆円で危機克服を!」と訴えた。田村秀男氏は同紙同号で、「円高の今が、政府紙幣発行の好機だ!」と力説した。
 高橋氏の意見が載ったのは、インタビュー記事「政府紙幣25兆円発行せよ」というインタビュー記事である。その主要部分を引用する。
 「(略)私が提案しているのが、政府紙幣25兆円を発行し、日銀の量的緩和で25兆円を供給、さらに『埋蔵金』25兆円を活用し、計75兆円の資金を市中に供給するプランだ。2、3年で集中的に行い、さまざまな政策を組み合わせれば多方面に効果が出るはずだ。
 実は政府紙幣は経済政策としてとっぴではない。バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長の持論でもあり、ノーベル賞を受賞した米経済学者スティグリッツ・米コロンビア大教授も2003年の来日時に提唱している。日銀や財務省は批判にならない批判をしているが、要するにインフレを懸念しているだけではないのか。
 だが、大デフレ時のインフレは良薬だ。デフレは例えれば氷風呂。政府紙幣は熱湯。普段のお湯ならやけどをするが、氷風呂なら熱湯を入れない方が凍え死ぬ。日銀が何もしないのならば政府がやるしかない。
 政府は通貨法で記念事業として1万円までの通貨を発行できるので、法改正は必要ない。政府紙幣は国債の日銀引き受けと同じ効果を持つが、政府だけで実行可能となる点が異なる。
 『インフレ懸念の観点から歯止めが必要だ』と言うならば『インフレ率3%になれば発行をやめる』など物価安定目標を定めればよい。これは同時に財政規律の確保にもつながる」
 これが高橋氏の政府紙幣発行論の要旨である。政府紙幣の発行、量的緩和、埋蔵金の活用を組み合わせた政策である。政府紙幣の発行という点は、丹羽氏の主張と似ているが、紙幣を印刷発行することや発行額の規模など、丹羽氏の主張とは異なっている。特に政府貨幣発行は、どういう経済理論に基づくものか、はっきりしない。
 実は、高橋氏は、小泉=竹中政権において、構造改革政策を推進した財務官僚である。退官後は、自民党の中川秀直氏を代表格とする「上げ潮派」のブレーンとして知られる。「上げ潮派」は、小泉=竹中政権の構造改革を継承する立場である。高橋氏の経済理論は、フリードマン=ルーカスの系統の新古典派に基づくものであり、政府貨幣の発行という丹羽氏と似た政策を提唱してはいるが、ケインズ主義と異なる立場で政府紙幣の発行を説いているのである。
 発行する政府貨幣の形態や規模の違いを認識せず、ケインズ主義か新古典派か拠って立つ経済理論も確認せず、丹羽氏と高橋氏を同類のように扱うエコノミストは、基本的な理解を欠いている。まともに丹羽氏の著書や論文を読んで検討しているとは思えない。

 次回に続く。
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子ども手当を廃止し親学の振興を

2011-08-24 08:46:32 | 時事
 子ども手当が、廃止される見込みとなった。私は、当初から子ども手当に反対した。、その理由の一つは家庭道徳においてマイナスが大きいことである。貧富の差はあれ、親が一生懸命働いて子供を育てる、その姿に子供は感謝し、親の背中を見て成長していくものである。ところが、国が家庭に子ども手当を配り、子供はその金で自分が学校に行っているし、生活費にもなっているとわかると、親に感謝しなくなるだろう。親は「誰のお陰でご飯を食べられると思っているんだ!」などと叱れなくなる。子供も親に向かって、「俺は父さん、母さんに養われてんじゃないよ!」などと言い出すだろう。
 親が子供を愛情を持って育て、子供はその親に感謝する。そこに家庭道徳の重要な要素がある。子ども手当の配布によって、家庭教育は基盤から崩壊するおそれがある。
 子供手当には、子供は国家が育てるという社会主義的な発想が根底にある。ソ連が行なった育児の社会化が原型である。また親子関係を単なる個人と個人の関係にして個人主義を徹底し、また女性の母性的役割をなくすフェミニズムを浸透させようという思想が、社会主義的発想と融合している。
 日本の家庭を解体し、日本を全く違う社会に変える。その動きの一環が子ども手当だと私は見ている。子ども手当と夫婦別姓は、別のものではない。ともに個人主義を徹底して、家族を解体する作用をする。子ども手当と夫婦別姓がセットで作用するとき、親子・夫婦の絆がゆるみ、家族の個別化・アトム化が進む。
 私は、このように考えてきた。

 子ども手当の廃止に当たり、家庭教育、特に親のあり方を真剣に考え直すべきである。私は、日本を立て直すには、教育が大切であり、教育は家庭における子どものしつけに始まると思う。子どものしつけをするには、しつけのできる親を育てる必要がある。そこで、親になるための勉強、親が親らしくできるようになるための訓練、すなわち親学(おやがく)が求められている。
 平成13年3月、わが国で「親学会」が発足した。以来、さまざまな専門家・教育者が集まって親学の研究・教育を行なってきた。
 一般財団法人「親学推進協会」理事長をしている高橋史朗明星大学教授は、次のように書いている。
 「『親学』の基礎・基本の第一は、教育の原点は家庭にあり、親は人生最初の教師であって、教育の第一義的責任を負うということである。(略)第二は、胎児期、乳児期、幼児期前期、幼児期後期、児童期、思春期という子供の発達段階によって、家庭教育で配慮すべき点が異なるということである。(略)第三は、父性と母性の役割を明確にすることである。父性とは『切る』特性で『義愛』であり、母性とは『包み込む』特性で『慈愛』である」と。(『続・親学のすすめ』)
 私は、親学は国を挙げて大いに普及・振興すべき課題だと思うが、現状では民間団体が連携して、地道に普及に努めているところである。なかでも高橋氏が理事長を務める「親学推進協会」は、平成18年に埼玉県を拠点として活動を開始し、今日に至っている。
 高橋氏は、7月23日の産経新聞に、「『親学』は道徳教育の土台」という記事を書いた。
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110723/trd11072307400000-n1.htm
 記事の中で、高橋氏は読売新聞社が行った政府による道徳教育の強化方針に関する世論調査の結果について書いている。この調査は、平成19年(2007)8月4~5日に実施された。安倍晋三内閣の時期で、前年の平成18年12月に、戦後初めて教育基本法が改正され、政府は道徳教育の強化を進めようとしていた。読売の調査は、道徳教育の強化を検討している政府の方針について聞いたところ、賛成が「どちらかといえば」も含めて92%。反対は「どちらかといえば」を含めて6%だった。「最近、日本人のマナーが悪くなったと感じることがある」と感じるのは、「よく」「ときどき」を合わせて88%。マナー悪化の原因については、「家庭でのしつけに問題」が77%だった。
 だが、その後の内閣は、道徳教育の強化を積極的に進めているとは言えない。家庭教育や親のあり方にまで踏み込んで、日本を変えようという動きになっていないのは、非常に残念である。
 高橋氏は、「わが国のこれまでの子育て支援策は、保育サービスの量的拡大による働く女性の子育て負担の軽減を目指す少子化対策として位置づけられてきたが、親の役割について学び、親として成長することを支援する『親育ち』支援こそが求められている」とし、「これから親となる者の『親になるための学習』と『親としての学習』に本格的に取り組むことが道徳教育の土台になることを明確に位置づけ国民運動を展開する必要があろう」と述べている。
 同感である。私は、日本の復興は日本精神の復興からという意見を述べているが、日本精神の復興においては、教育、特に家庭教育が重要である。親学の普及・振興には、教育基本法を再改正して、そのことを盛り込み、国民全体で取り組む運動を起すことが必要だと思う。

関連掲示
・拙稿「『親学』を学ぼう、広めよう」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion02j.htm
・拙稿「日本再建のため、教育基本法の再改正を~ほそかわ私案」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion02e.htm
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救国の経済学47~丹羽春喜氏

2011-08-23 08:51:26 | 経済
●「救国の秘策」は、ケインズ的政策の応用

 丹羽氏の「救国の秘策」は、デフレ下の日本で行うべきと丹羽氏が提唱する政策である。この政策は、単に景気対策として行う対症療法ではない。ケインズ経済学の理論に基づいて、総需要管理政策の一貫として、デフレの時にはこう行うべしという政策である。
 丹羽氏は、著書『ケインズ主義の復権』で、ケインズの理論について、次のように述べている。
 「ケインズ的な政策の中心部分はマクロ的に見て、デフレ・ギャップもインフレ・ギャップも発生しないような最適な水準に総需要を維持し、それによって最適な雇用水準や操業度がもたらされるような生産活動の水準を、マクロ的に保っていくということである。このような狙いで、いわゆる機能的財政主義によって、フィスカル・ポリシー(註 財政政策)を運営し、総需要を調整していこうというわけである」
 この点についての基本的な理解が必要である。ケインズ的な政策は、総需要管理政策であり、デフレの時にはデフレを脱し、インフレの時にはインフレを抑え、最適な水準に総需要を維持し、最適な雇用水準や操業度がもたらされるような生産活動の水準を保っていこうとする政策である。
 丹羽氏は、次のようにも書いている。「機能的財政が有効に総需要管理をなしうるためには、国家財政収支の帳じりは、総需要抑制のためには黒字、総需要拡大のためには赤字であるべきであり、均衡財政に固執するような政策をとってはならないというのが、近代的財政政策の最も重要な基本原理である」
 財政についてはこの点が重要であり、財政の「赤字」と聞けば、まるで家計の「赤字」と同じように錯覚して、「赤字」はよくないと考えるのは、基本的な理解を欠いたものである。
 もう一点、丹羽氏は、次のように書いている。「生産・供給能力を十分に発揮した時に達成されるべき国民総生産、つまり、完全雇用・完全操業水準に対応する国民総生産の額に比べて、実現すると予測される総需要の額がそれを下回り、いわゆるデフレ・ギャップが生じる恐れの濃い年度においては、このギャップを埋めて経済活動を完全雇用・完全操業水準まで回復させるに足るだけ、赤字財政によって経済に購買力を注入し、それとは逆に、前者よりも後者が上回り、インフレ・ギャップが生じる恐れが強い年度においては、このギャップを取り去って需要インフレの発生を防ぐに足るだけ、黒字財政を実施することによって経済から購買力を吸い上げねばならないのである。
 いうまでもなく、このような財政政策運営の方式は、ケインズ以後の機能的財政主義の近代的財政政策理論に基づく国民経済予算の考え方である。すなわち、ケインズ的政策は、このようにして自動化されうるのである」。
 丹羽氏の「救国の秘策」が、単に景気対策として行う対症療法ではなく、ケインズ経済学の理論に基づいて、総需要管理政策の一貫として、デフレの時にはこう行うべしという政策であることは、明らかである。当然、インフレの時はまったく違う政策を行うものとなる。
 なお、機能的財政主義は、ケインジアンであるアバ・ラーナーが確立した財政政策理論である。ケインズの理論そのものではない。ケインズ理論を発展させたケインズ主義の理論である。

●デフレ脱却とインフレ・ターゲット

 さて、「救国の秘策」の詳細についての説明を結ぶに当たり、脱デフレ政策とインフレ・ターゲット政策の関係に関する丹羽氏の見解に触れておきたい。インフレ・ターゲット政策は、ポール・クルーグマンが一時、日本に勧めていたものだが、丹羽氏は、わが国の経済状況では、その実施は不可能と言う。「小泉首相への建白書」(平成14年)で、次のように書いている。
「デフレ・ギャップがきわめて巨大なわが国経済の現状(内閣府ならびに旧経済企画庁はそれを秘匿してきましたが)のもとでは、インフレ・ギャップを発生させて物価を上昇させるといったことは、どんなに、それをやろうとしても、現実には全くできない相談なのですから、『インフレ・ターゲット』政策の実施ということも、そもそも、不可能です」と。
 そして「デフレ・ギャップとインフレ・ギャップは、同時に発生することはありえない。インフレ・ターゲット政策が可能になるのは、デフレを脱却し、適度なインフレに転じた段階での話である」と述べている。
 確かに、デフレ・ギャップとインフレ・ギャップが同仁発生することは原理的にあり得ない。またわが国は巨大なデフレ・ギャップが存在するので、急にデフレからインフレに転じることは、考えられない。その点で、現状の日本でインフレを心配して、インフレ・ターゲット政策を説くことは、季節外れである。ただし、ケインズ主義的な総需要管理政策は、デフレの時はデフレ脱却の政策を、インフレの時はインフレ抑制の政策を行う。そのことを明らかにしておくために、デフレを脱却して適度なインフレに転じた段階では、適切なインフレ目標(2.5~3.5%)を掲げて、財政金融政策を行うという方針を打ち出しておくことは、良いことだと私は思う。その段階に行くまでが大仕事だが、その仕事は、ただのデフレ脱却策ではなく、総合的な経済政策だということを、国民に明確に示すことができると思う。

 次回に続く。
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子ども手当廃止で解散総選挙を

2011-08-22 08:52:50 | 時事
 8月4日、子ども手当が今年度限りで廃止されることが、ほぼ決まった。民主、自民、公明3党の幹事長・政調会長会談で、来年度から自公政権時代の児童手当を復活、拡充することで合意がされたのである。
 子ども手当は、平成21年9月の衆議院総選挙で、民主党最大の目玉政策だった。子ども手当は、典型的なばらまき政策で、景気浮揚効果は期待できず、しかも財源が確保されていない。有権者をエサで釣る悪質な選挙戦術だった。しかも、驚いたことに、在日外国人の子どもや、その海外にいる子どもにまで子ども手当を支給するという。そんなことは、マニフェストに一言も書いていない。民主党政権は、マニフェストは「国民との契約」だと言って、政策を強行したが、「契約」に書いていないことを、勝手に行うのは犯罪である。
 3月11日、東日本大震災が発生した。子ども手当をはじめとするばらまき政策、すなわち高校授業料の無償化、高速道路の無料化、農家の戸別所得補償をやめて、復興財源に充てるべきだという意見が上がった。不要不急の支出をやめて、いま生命・生活の危機にある人々の救援や被災地の復旧に用いるのは、当然の判断である。ところが、民主党は、マニフェストにこだわり、政策の見直しに抵抗した。だが、ここへ来てようやく3党合意により、子ども手当の廃止がほぼ決まった。
 「ほぼ」と私が言うのは、国会で関連法が成立するまでは、単なる政党間の合意に過ぎないからである。民主党は、反自民で権力奪取をめざし、保守系リベラルから、リベラル、左翼の社会民主主義者までが集結した政党である。党としての綱領がなく、党内に一致した理念がない。子ども手当の廃止についても、いつどこで、方針が変わるかもしれない。そういう懸念を感じていたところ、私の心配をはるかに超える形で、とんでもないビラが配られた。
 そのビラは民主党内で作成されたもので、約35万枚が全国の総支部に配られたという。内容は「(子ども手当は)廃止になりません」「3党合意により恒久的な制度になりました」としたうえで、旧児童手当より支給額が増えると強調している。3党合意とは、全く違う主旨のことを書いている。ビラの作成は、民主党広報委員長の藤本祐司参院議員の指示によると伝えられる。どのレベルで判断したのかわからぬが、対内部とはいえ、組織のトップレベルで決めたことと全く違うことを、組織の名称で広報すれば、重大な責任問題となることは、常識だろう。
 民主党の安住淳国対委員長は18日、自民党の逢沢一郎国対委員長と会談し、「迷惑をおかけした」と陳謝したというが、党内の統制・規律はどうなっているのか。一方では、政策合意したほかの政党を欺き、一方では支部の党員・サポーターを欺くつもりだったのか。それとも、党の執行部に対する公然たる造反だろうか。いずれにせよ、これで、民主・自民による大連立の話は、白紙に戻るだろう。このような政党とは信義をもって連立のできるはずがない。
 東日本大震災後、菅首相は、問題解決能力がまったくなく、かえって失政で被害を拡大し、混乱を招くばかりだった。菅首相の辞任を求める声は、全国で高まった。内閣不信任案が提出されると、菅首相は6月2日に辞意を表明し、不信任案の成立を阻んだ。その後、菅首相は辞任時期を明言せず、鳩山前首相から非難された。「史上最低の首相」が「史上最悪の首相」を「ペテン師」と呼んだ。それでも、菅首相は権力の座に執着して延命を図ってきたが、遂に今月中に辞任の見込みとなった。首相が辞任の条件だと後から挙げていた条件の一つである特例公債法案の成立について、子ども手当の廃止を条件に3党が合意したからである。
 民主党は、29日に代表選を行って、30日の新首相指名で政権維持を狙っている。こういう国民不在の党利党略はやめるべきである。子ども手当は、21年衆議院総選挙で民主党が掲げた主要政策だった。その政策を事実上取り下げるのだから、解散総選挙を行い、 国民に信を問うのが、筋道である。
 私は、大震災発生後、当面の対応をするには、与党である民主党を主とした政権で、復旧を進めつつ、改善を図るしかないと考えた。大震災の直後において、衆議院の解散総選挙は、原発事故の対処や復興政策を遅滞させることとなり、現実的でなかった。特に東北地方の被災地では、死者・行方不明者が多く、有権者名簿を消失した自治体もあり、選挙の実施は困難だった。この状況では、当面の対応をしながら、被災地を含む総選挙の実施方法を、期限を決めて策定するしかないと考えた。
 まず菅首相の即刻辞任を求め、首相の交代の後、国難対処のための時限的な大連立を組む。あるいは次善策として、野党から有能な人材が内閣に入って政府の機能を強化して、国家非常事態を乗り切る方法が良いと考えた。どちらの場合も、一定期間後(6ヶ月程度)に解散総選挙を行うことを条件とし、国民に公約したうえで、実行してもらいたいと考えた。
 だがその後、数か月経過した現在、はなはだ不十分ではあるが、緊急的な対応は一定程度進んでいる。また被災地での選挙は、特別に政党を単位とした比例代表制で行うことにすれば、民意を問うことができる。
 民主党は、国民不在の党利党略をやめ、解散総選挙を行って、 国民に信を問うべきである。

参考記事
・産経新聞平成23年8月10日「3党合意 ばらまき見直しが不十分」
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110810/stt11081002410000-n1.htm
・産経新聞平成23年8月18日「子ども手当存続ビラ配布で謝罪 民主・安住氏、自民・逢沢氏に」
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110818/plc11081811460011-n1.htm

関連掲示
・拙稿「今の子ども手当案は、やりすぎ」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/d/20100227
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