ユーロ圏の諸国は欧州債務危機を解決しようと、協議を重ねている。参加国に財政均衡を義務付ける財政協定、重債務国を支援する欧州金融安定化基金(EFSF)の拡充、創設が予定されている欧州安定メカニズム(ESM)の支援能力拡大といった安全網拡充、ユーロ圏全体で共同債を発行して資金を調達し、財政健全国が財政悪化国を支える「ユーロ債」構想等が方策として議論されている。
これらのうち、財政協定は3月のEU首脳会議で署名し、平成25年(2013)の発効を目指している。内容は、協定違反国に対して最大でGDPの0.1%の制裁金を科す、毎年度の構造的財政赤字をGDP比0.5%未満に抑えることを憲法などに明記する、法整備を怠るとEU司法裁判所の判断に基づき制裁金を科すなどの案が伝えられる。
協定案は英国を除くEU加盟26か国が概ね合意しており、実現するだろう。だが、資金の提供や共同債の発行のように、自国が他国を助けるために負担を増やすことは、簡単に引き受けられる話ではない。助けると言っても、フランスは国債を格下げされ、イタリアはIMF監視下、スペインは失業率20%、特に若者は40%とEUで最悪。多少優良な国は経済規模が小さく、大きな手助けにはならない。危機対応を支えられる唯一の国は、事実上ドイツだけである。
そのドイツは、メルケル首相が財政規律の強化と金融取引課税の導入を主張し、自らの負担が増す安全網拡充や共同債の導入は拒み続けている。ドイツの世論も首相を支持している。ドイツの国民は、ギリシャなど放漫財政の国をなぜ自分たちが助けねばならないのか、と否定的な意見が多い。メルケル首相に、ドイツ国民を他国の債務危機を救うために自己犠牲的な献身を訴え、説得できるだけの主張があるようには見えない。またもしメルケル首相が積極支援を打ち出したら、支持率は低下し、政権は不安定になるだろう。
EU諸国は、統一ヨーロッパという理想にとらわれ、また市場の機能への期待を膨らませすぎて、資本の論理と国家の論理の違い、市場経済と国民経済の違いを軽く考えてしまったのだろう。私は、統一ヨーロッパの実現には懐疑的で拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」にそのことを書いたが、ヨーロッパ人が統合を試みるなら、範囲をヨーロッパ先進国クラブに止めて時間をかけて統一機構を確立し、その後に参加国を厳選して増やした方が、よかっただろう。また経済については、統一通貨の創設を急がず、各国経済の統合を深く進めてから、通貨統合を進めた方がよかっただろう。ドイツ・フランスとギリシャ・ポルトガルでは、経済格差が大きく、一つの通貨で結びつけるのは、土台無理がある。ロスチャイルド家やビルダーバーグ・クラブに参加する欧州の所有者集団・経営者集団に方針があるか分からないが、国家間の位相で見る限り、欧州債務危機が多国的に進行するなか、ドイツがどこまで耐え堪え得るか、ドイツ次第の状況と思われる。
以下は関連する報道記事。
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●産経新聞 平成24年1月24日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120124-00000097-san-bus_all
財政協定厳格化を協議 欧州財務相会合 ギリシャ問題も議論
産経新聞 1月24日(火)7時55分配信
【ベルリン=宮下日出男】ユーロ圏17カ国の財務相は23日、ブリュッセルで会合を開き、参加国に財政均衡を義務付ける財政協定をめぐり協議した。最終草案には協定違反国に対し最大で国内総生産(GDP)の0・1%の制裁金を科すことを盛り込み協定の厳格化を図る。会合では、重債務国への支援網の拡充やギリシャの債務削減も議論。ただ、小出しの対策を示すにとどまれば、市場の不信感が高まるのは避けられない。
財政協定は、30日の欧州連合(EU)首脳会議での合意をへて、3月の署名を目指す。最低12カ国が批准すれば、2013年から発効する見通しだ。
草案では、毎年度の構造的財政赤字をGDP比0・5%未満に抑えることを憲法などに明記するよう参加国に義務づける。
また、法整備を怠ると、EU司法裁判所の判断に基づき制裁金を科し、制裁金は、今年7月に創設される恒久的な安全網、欧州安定メカニズム(ESM)に払い込まれるようにする。ESMの支援を受けられるのは、財政協定参加国に限定する方向だ。
会合ではこのほか、重債務国を支援する欧州金融安定化基金(EFSF)の拡充についても話し合う。EUは昨年10月、支援能力を4400億ユーロ(約44兆円)から増やすことで合意。ただ、負担増を嫌うドイツの反対が強く、「大きな進展はないだろう」(金融筋)とみられている。
ギリシャの債務削減をめぐる民間投資家との交渉についても協議。ギリシャ政府はそれをふまえ、再度、民間側と交渉する。
ただ、この交渉も難航する可能性がある。EUなどによる追加支援は、ギリシャ政府と債権者の合意が前提。一方、ギリシャは3月20日に約145億ユーロの国債償還を控える。
合意できず追加支援が得られなければ、債務不履行(デフォルト)懸念が強まる。
EUは各国の世論に配慮して危機対応を“漸進主義”で進めてきた。これに対し危機収束への市場の落胆や不安が募れば、ユーロの売り圧力が再び高まり「対円で年内に1ユーロ=80円台までユーロ安が進む恐れがある」(エコノミスト)との声があがる。
●産経新聞 平成24年1月27日
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120127/erp12012720590005-n1.htm
【欧州債務危機】
安全網拡充、動かぬドイツ 財政規律強化を優先
2012.1.27 20:58
【ベルリン=宮下日出男】欧州債務危機の打開に向け、ドイツに一層の貢献を求める圧力が強まる中、財政規律強化を優先させるメルケル首相はユーロ圏諸国に対する財政支援に消極姿勢を崩さない。頑固な首相をドイツの世論も後押ししている。30日の欧州連合(EU)首脳会議を目前に世界がしびれを切らす中、欧州一の経済大国が動く気配はまだみられない。
「経常赤字国が緊縮策をとるなら、経常黒字国がユーロを支えなければならない」。キャメロン英首相は26日、スイスで開催中の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で強調した。欧州諸国への輸出で稼ぐドイツへの当てつけであるのは明らかだった。
フランスが国債の最上級格付けを失って以降、危機対応を支えられる唯一の国は事実上ドイツだけになった。7月に創設予定の欧州安定メカニズム(ESM)の支援能力拡大といった安全網拡充にドイツの支援は欠かせない。
しかし、ドイツは財政規律の強化と金融取引課税の導入という“引き締め策”を主張する一方、自国の負担が増す安全網拡充やユーロ共同債の導入は拒み続けている。メルケル首相と二人三脚で歩んできたサルコジ仏大統領は、4月の大統領選を控え国内の支持率が低迷し、欧州危機対応への指導力にも陰りがみえる。
そうした中、ドイツへの圧力強化の流れを決定的にしたのは国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事だ。メルケル氏と22日に今年2度目の会談を行い、翌23日のベルリンでの講演では、欧州危機が第二次世界大戦前のような世界的不況を招く恐れを指摘し、「財政的ゆとりのある国が支援すべきだ」と主張した。
著名投資家ジョージ・ソロス氏もダボス会議での講演で、ドイツの政策は「(デフレが債務膨張に連鎖する)『債務スパイラル』を招く」と警告した。
しかし、メルケル氏は25日のダボスでの演説で、安全網拡充に「信頼性はいつまで続くのか」「守れない約束はしてはならない」と改めて否定的な見解を表明。26日には、30日のEU首脳会議の中心テーマは財政規律強化の財政協定と成長・雇用対策になるとの見通しを語り、安全網拡充策が示される見込みは薄い。
ドイツ国民には、自国の堅調な経済は過去の低迷時に改革を断行した結果との認識から「放漫財政の国をなぜ助けるのか」との疑問が根強い。最近の世論調査では、メルケル氏の仕事ぶりを評価する意見が過去約2年間で最高の73%に上った。独メディアは、ドイツへの圧力に対し「首相一人が全員を助けられるとの幻想を抱かせるだけだ」(ミュンヘナー・メルクア紙)とも伝えている。
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これらのうち、財政協定は3月のEU首脳会議で署名し、平成25年(2013)の発効を目指している。内容は、協定違反国に対して最大でGDPの0.1%の制裁金を科す、毎年度の構造的財政赤字をGDP比0.5%未満に抑えることを憲法などに明記する、法整備を怠るとEU司法裁判所の判断に基づき制裁金を科すなどの案が伝えられる。
協定案は英国を除くEU加盟26か国が概ね合意しており、実現するだろう。だが、資金の提供や共同債の発行のように、自国が他国を助けるために負担を増やすことは、簡単に引き受けられる話ではない。助けると言っても、フランスは国債を格下げされ、イタリアはIMF監視下、スペインは失業率20%、特に若者は40%とEUで最悪。多少優良な国は経済規模が小さく、大きな手助けにはならない。危機対応を支えられる唯一の国は、事実上ドイツだけである。
そのドイツは、メルケル首相が財政規律の強化と金融取引課税の導入を主張し、自らの負担が増す安全網拡充や共同債の導入は拒み続けている。ドイツの世論も首相を支持している。ドイツの国民は、ギリシャなど放漫財政の国をなぜ自分たちが助けねばならないのか、と否定的な意見が多い。メルケル首相に、ドイツ国民を他国の債務危機を救うために自己犠牲的な献身を訴え、説得できるだけの主張があるようには見えない。またもしメルケル首相が積極支援を打ち出したら、支持率は低下し、政権は不安定になるだろう。
EU諸国は、統一ヨーロッパという理想にとらわれ、また市場の機能への期待を膨らませすぎて、資本の論理と国家の論理の違い、市場経済と国民経済の違いを軽く考えてしまったのだろう。私は、統一ヨーロッパの実現には懐疑的で拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」にそのことを書いたが、ヨーロッパ人が統合を試みるなら、範囲をヨーロッパ先進国クラブに止めて時間をかけて統一機構を確立し、その後に参加国を厳選して増やした方が、よかっただろう。また経済については、統一通貨の創設を急がず、各国経済の統合を深く進めてから、通貨統合を進めた方がよかっただろう。ドイツ・フランスとギリシャ・ポルトガルでは、経済格差が大きく、一つの通貨で結びつけるのは、土台無理がある。ロスチャイルド家やビルダーバーグ・クラブに参加する欧州の所有者集団・経営者集団に方針があるか分からないが、国家間の位相で見る限り、欧州債務危機が多国的に進行するなか、ドイツがどこまで耐え堪え得るか、ドイツ次第の状況と思われる。
以下は関連する報道記事。
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●産経新聞 平成24年1月24日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120124-00000097-san-bus_all
財政協定厳格化を協議 欧州財務相会合 ギリシャ問題も議論
産経新聞 1月24日(火)7時55分配信
【ベルリン=宮下日出男】ユーロ圏17カ国の財務相は23日、ブリュッセルで会合を開き、参加国に財政均衡を義務付ける財政協定をめぐり協議した。最終草案には協定違反国に対し最大で国内総生産(GDP)の0・1%の制裁金を科すことを盛り込み協定の厳格化を図る。会合では、重債務国への支援網の拡充やギリシャの債務削減も議論。ただ、小出しの対策を示すにとどまれば、市場の不信感が高まるのは避けられない。
財政協定は、30日の欧州連合(EU)首脳会議での合意をへて、3月の署名を目指す。最低12カ国が批准すれば、2013年から発効する見通しだ。
草案では、毎年度の構造的財政赤字をGDP比0・5%未満に抑えることを憲法などに明記するよう参加国に義務づける。
また、法整備を怠ると、EU司法裁判所の判断に基づき制裁金を科し、制裁金は、今年7月に創設される恒久的な安全網、欧州安定メカニズム(ESM)に払い込まれるようにする。ESMの支援を受けられるのは、財政協定参加国に限定する方向だ。
会合ではこのほか、重債務国を支援する欧州金融安定化基金(EFSF)の拡充についても話し合う。EUは昨年10月、支援能力を4400億ユーロ(約44兆円)から増やすことで合意。ただ、負担増を嫌うドイツの反対が強く、「大きな進展はないだろう」(金融筋)とみられている。
ギリシャの債務削減をめぐる民間投資家との交渉についても協議。ギリシャ政府はそれをふまえ、再度、民間側と交渉する。
ただ、この交渉も難航する可能性がある。EUなどによる追加支援は、ギリシャ政府と債権者の合意が前提。一方、ギリシャは3月20日に約145億ユーロの国債償還を控える。
合意できず追加支援が得られなければ、債務不履行(デフォルト)懸念が強まる。
EUは各国の世論に配慮して危機対応を“漸進主義”で進めてきた。これに対し危機収束への市場の落胆や不安が募れば、ユーロの売り圧力が再び高まり「対円で年内に1ユーロ=80円台までユーロ安が進む恐れがある」(エコノミスト)との声があがる。
●産経新聞 平成24年1月27日
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120127/erp12012720590005-n1.htm
【欧州債務危機】
安全網拡充、動かぬドイツ 財政規律強化を優先
2012.1.27 20:58
【ベルリン=宮下日出男】欧州債務危機の打開に向け、ドイツに一層の貢献を求める圧力が強まる中、財政規律強化を優先させるメルケル首相はユーロ圏諸国に対する財政支援に消極姿勢を崩さない。頑固な首相をドイツの世論も後押ししている。30日の欧州連合(EU)首脳会議を目前に世界がしびれを切らす中、欧州一の経済大国が動く気配はまだみられない。
「経常赤字国が緊縮策をとるなら、経常黒字国がユーロを支えなければならない」。キャメロン英首相は26日、スイスで開催中の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で強調した。欧州諸国への輸出で稼ぐドイツへの当てつけであるのは明らかだった。
フランスが国債の最上級格付けを失って以降、危機対応を支えられる唯一の国は事実上ドイツだけになった。7月に創設予定の欧州安定メカニズム(ESM)の支援能力拡大といった安全網拡充にドイツの支援は欠かせない。
しかし、ドイツは財政規律の強化と金融取引課税の導入という“引き締め策”を主張する一方、自国の負担が増す安全網拡充やユーロ共同債の導入は拒み続けている。メルケル首相と二人三脚で歩んできたサルコジ仏大統領は、4月の大統領選を控え国内の支持率が低迷し、欧州危機対応への指導力にも陰りがみえる。
そうした中、ドイツへの圧力強化の流れを決定的にしたのは国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事だ。メルケル氏と22日に今年2度目の会談を行い、翌23日のベルリンでの講演では、欧州危機が第二次世界大戦前のような世界的不況を招く恐れを指摘し、「財政的ゆとりのある国が支援すべきだ」と主張した。
著名投資家ジョージ・ソロス氏もダボス会議での講演で、ドイツの政策は「(デフレが債務膨張に連鎖する)『債務スパイラル』を招く」と警告した。
しかし、メルケル氏は25日のダボスでの演説で、安全網拡充に「信頼性はいつまで続くのか」「守れない約束はしてはならない」と改めて否定的な見解を表明。26日には、30日のEU首脳会議の中心テーマは財政規律強化の財政協定と成長・雇用対策になるとの見通しを語り、安全網拡充策が示される見込みは薄い。
ドイツ国民には、自国の堅調な経済は過去の低迷時に改革を断行した結果との認識から「放漫財政の国をなぜ助けるのか」との疑問が根強い。最近の世論調査では、メルケル氏の仕事ぶりを評価する意見が過去約2年間で最高の73%に上った。独メディアは、ドイツへの圧力に対し「首相一人が全員を助けられるとの幻想を抱かせるだけだ」(ミュンヘナー・メルクア紙)とも伝えている。
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