安倍政権において、政府は少子高齢化に伴って激減する労働力人口の穴埋め策として、移民の大量受け入れの本格的な検討に入ったと報じられている。内閣府は毎年20万人を受け入れることで、合計特殊出生率が人口を維持できる2・07に回復すれば、今後100年間は人口の大幅減を避けられると試算している。経済財政諮問会議の専門調査会を中心に議論を進め、年内に報告書をまとめる方針だという。
私は、移民問題・移民政策はわが国の運命を左右する重大な案件と考える。この件に関しては、拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」をマイサイトに掲載している。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09i.htm
その第6章にて「移民受け入れ1000万人計画」の危険性について書いた。自民党・民主党の双方に外国人移民の大量増加をめざす動きがある。自民党は、同党の国家戦略本部に「日本型移民国家への道プロジェクトチーム」を設置し、平成20年(2008)6月に「人材開国!日本型移民国家への道」という報告書を福田康夫首相(当時)に提出した。この報告書は、今後50年間に、わが国の総人口の1割に匹敵する1000万人の移民を受け入れるという提言をしたものである。こうした動きは、財界における大量移民を求める動きに呼応したものである。
今回は、政府機関の内閣府が主導している。試算では、2012年に8973万人だった20~74歳人口が、このままなら2110年に2578万人に減る。しかし、移民を入れれば7227万人になるとしている。毎年20万人を受け入れるとすれば、現在のように高度な専門性や技術を持つ人材に限定するのをやめ、単純労働を解禁することになるだろう。それによって、なし崩しに事実上の移民を拡大するというやり方と考えられる。
政府は、移民受け入れの方向に世論を喚起するのと並行して、外国人労働者の受け入れ要件の緩和を先行させる考えである。東日本大震災の復興や東京五輪に向けて建設業を中心に人手不足となっていることから、最長3年の「技能実習制度の受け入れ期間を5年に延長し、日本への再入国も認める。また介護職は現在、介護福祉士の国家試験に合格しなければ、日本で働き続けることはできないが、介護職も技能実習制度に加えること等も検討している。改革案は6月にまとめる新たな成長戦略に反映させる予定という。
だが、移民を多数受け入れたがために、深刻な社会問題を抱えるようになった国が少なくない。先の拙稿にオランダ、ドイツ、ノルウェー、カナダ、オーストラリア等の例を書いたが、本年2月、スイスでは、国民投票の結果、移民流入規制を行うことが承認された。カナダでは、政府が投資移民制度の廃止を決めたと発表した。続いて、そのスイス、カナダの例について書く。
以下は、関連する報道記事。
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●産経新聞
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140313/plc14031319260010-n1.htm
毎年20万人の移民受け入れ 政府が本格検討開始
2014.3.13 19:24
政府が、少子高齢化に伴って激減する労働力人口の穴埋め策として、移民の大量受け入れの本格的な検討に入った。内閣府は毎年20万人を受け入れることで、合計特殊出生率が人口を維持できる2・07に回復すれば、今後100年間は人口の大幅減を避けられると試算している。経済財政諮問会議の専門調査会を中心に議論を進め、年内に報告書をまとめる方針。ただ、大量受け入れには単純労働者を認めることが不可欠で、反対論も強まりそうだ。
現在、外国人労働者は高度人材などに制限されており、日本国籍を付与する移民の大量受け入れとなれば国策の大転換となる。
日本で働く外国人の届け出数(昨年10月末)は72万人弱で、前年より約3万5千人増えた。20万人はその6倍近い数だ。
政府が移民の大量受け入れの検討に乗り出したのは、勤労世代の減少による経済や社会への影響が現実になり始めたため。成長戦略では女性や高齢者の活用を打ち出す一方で、移民も有力な選択肢として位置付けることにした。
試算では、2012年に8973万人だった20~74歳人口が、現状のままであれば2110年に2578万人に減る。しかし、移民を入れた場合は7227万人になるとしている。
だが、移民政策には雇用への影響や文化摩擦、治安悪化への懸念が強い。しかも、現在は外国人労働者は高度な専門性や技術を持つ人材などに限定しているが、毎年20万人を受け入れることになれば高度人材だけでは難しい。単純労働に門戸を開く必要が出てくる。
政府は移民議論と並行して、外国人労働者の受け入れ拡大を先行させる考え。
東日本大震災の復興や東京五輪に向けて建設業を中心に人手不足が拡大していることから、最長3年となっている技能実習制度の受け入れ期間延長や、介護職種を対象に加えることなどを検討している。改革案は6月にまとめる新たな成長戦略に反映させる。
こうした専門性や技能が高くない労働者の期間延長案には「実質的な単純労働解禁で、移民受け入れへの布石」(自民党議員)との批判が出ている。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140313/plc14031319180009-n1.htm
世論喚起? 外国人単純労働の段階的解禁への布石? 政府、異例の検討
2014.3.13 19:16
国論を二分する移民政策について、政府が正面から取り上げたのは異例だ。ただ、内閣府の試算は希望的数値を前提としており、今回は人口減少対策の「1つの選択肢」になり得ることを国民に印象付ける意味合いが強そうだ。政府は世論喚起によって国民の“移民アレルギー”を薄めながら、他方で外国人の単純労働を段階的に解禁し、なし崩しに「事実上の移民」を拡大する作戦に出ようとしている。
「50年間で1千万人というのは、相当インパクトのある移民という話だ」
「全体として10人に1人ぐらいはアコモデート(許容)できる範囲ではないか」
2月24日に行われた経済財政諮問会議の専門調査会では、内閣府が示した移民試算について活発な議論が交わされた。
安倍晋三首相も同月13日の衆院予算委員会で「国の将来の形や国民生活全体に関する問題として、国民的議論を経た上で多様な角度から検討する必要がある」と答弁しており、移民議論の機運が急速に盛り上がりをみせ始めている。
だが、内閣府の試算には現在1・41の合計特殊出生率が2・07に回復するとの楽観的な前提が置かれている。しかも、出生率回復には、移民として来日した人が子供をもうけることを織り込んでいる。前提そのものへの批判も予想され、「実現へのハードルは高い」(自民党反対派議員)などの受け止めが多い。
しかし、「100年後まで1億1千万人の総人口を維持し、労働力人口の減少幅も抑えられることを示した意味は大きい」(自民党中堅)との評価もあり、印象付けは一定の成果を収めた形だ。
一方、政府が力点を置くのが、移民議論と並行して進める外国人労働者の受け入れ要件の緩和だ。移民政策は自民党内に反対論が多いことに加え、「国民の理解を得るために時間を費やしていては目前に迫った労働力不足に対応できない」(内閣府幹部)との危機感があるためだ。
第一弾は人手不足が深刻化する建設業への対策だ。技能実習制度を見直し、最長3年の受け入れ期間を5年に延長し、日本への再入国も認める方向だ。
しかし、最大の焦点になりそうなのが介護職種の緩和だ。現行では経済連携協定(EPA)に基づき介護福祉士の国家試験に合格しなければ、日本で働き続けることはできない。このため介護職も技能実習制度に加えようというのだ。
これが認められると、国家試験の受験意思のない低技術の介護実習生が大量に来日する可能性があり、単純労働解禁の突破口となりかねない。反対派は「長期滞在できる単純労働者は事実上の移民だ。大量に入るとなれば、移民受け入れを容認したのと同じだ。国家の根幹をなす問題を、なし崩しに変えることは許されない」(閣僚経験者)と警戒を強めている。
途上国支援の技能実習制度を労働力不足の穴埋め目的で拡大することにも異論があり、議論は難航も予想される。(河合雅司)
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次回に続く。
私は、移民問題・移民政策はわが国の運命を左右する重大な案件と考える。この件に関しては、拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」をマイサイトに掲載している。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09i.htm
その第6章にて「移民受け入れ1000万人計画」の危険性について書いた。自民党・民主党の双方に外国人移民の大量増加をめざす動きがある。自民党は、同党の国家戦略本部に「日本型移民国家への道プロジェクトチーム」を設置し、平成20年(2008)6月に「人材開国!日本型移民国家への道」という報告書を福田康夫首相(当時)に提出した。この報告書は、今後50年間に、わが国の総人口の1割に匹敵する1000万人の移民を受け入れるという提言をしたものである。こうした動きは、財界における大量移民を求める動きに呼応したものである。
今回は、政府機関の内閣府が主導している。試算では、2012年に8973万人だった20~74歳人口が、このままなら2110年に2578万人に減る。しかし、移民を入れれば7227万人になるとしている。毎年20万人を受け入れるとすれば、現在のように高度な専門性や技術を持つ人材に限定するのをやめ、単純労働を解禁することになるだろう。それによって、なし崩しに事実上の移民を拡大するというやり方と考えられる。
政府は、移民受け入れの方向に世論を喚起するのと並行して、外国人労働者の受け入れ要件の緩和を先行させる考えである。東日本大震災の復興や東京五輪に向けて建設業を中心に人手不足となっていることから、最長3年の「技能実習制度の受け入れ期間を5年に延長し、日本への再入国も認める。また介護職は現在、介護福祉士の国家試験に合格しなければ、日本で働き続けることはできないが、介護職も技能実習制度に加えること等も検討している。改革案は6月にまとめる新たな成長戦略に反映させる予定という。
だが、移民を多数受け入れたがために、深刻な社会問題を抱えるようになった国が少なくない。先の拙稿にオランダ、ドイツ、ノルウェー、カナダ、オーストラリア等の例を書いたが、本年2月、スイスでは、国民投票の結果、移民流入規制を行うことが承認された。カナダでは、政府が投資移民制度の廃止を決めたと発表した。続いて、そのスイス、カナダの例について書く。
以下は、関連する報道記事。
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●産経新聞
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140313/plc14031319260010-n1.htm
毎年20万人の移民受け入れ 政府が本格検討開始
2014.3.13 19:24
政府が、少子高齢化に伴って激減する労働力人口の穴埋め策として、移民の大量受け入れの本格的な検討に入った。内閣府は毎年20万人を受け入れることで、合計特殊出生率が人口を維持できる2・07に回復すれば、今後100年間は人口の大幅減を避けられると試算している。経済財政諮問会議の専門調査会を中心に議論を進め、年内に報告書をまとめる方針。ただ、大量受け入れには単純労働者を認めることが不可欠で、反対論も強まりそうだ。
現在、外国人労働者は高度人材などに制限されており、日本国籍を付与する移民の大量受け入れとなれば国策の大転換となる。
日本で働く外国人の届け出数(昨年10月末)は72万人弱で、前年より約3万5千人増えた。20万人はその6倍近い数だ。
政府が移民の大量受け入れの検討に乗り出したのは、勤労世代の減少による経済や社会への影響が現実になり始めたため。成長戦略では女性や高齢者の活用を打ち出す一方で、移民も有力な選択肢として位置付けることにした。
試算では、2012年に8973万人だった20~74歳人口が、現状のままであれば2110年に2578万人に減る。しかし、移民を入れた場合は7227万人になるとしている。
だが、移民政策には雇用への影響や文化摩擦、治安悪化への懸念が強い。しかも、現在は外国人労働者は高度な専門性や技術を持つ人材などに限定しているが、毎年20万人を受け入れることになれば高度人材だけでは難しい。単純労働に門戸を開く必要が出てくる。
政府は移民議論と並行して、外国人労働者の受け入れ拡大を先行させる考え。
東日本大震災の復興や東京五輪に向けて建設業を中心に人手不足が拡大していることから、最長3年となっている技能実習制度の受け入れ期間延長や、介護職種を対象に加えることなどを検討している。改革案は6月にまとめる新たな成長戦略に反映させる。
こうした専門性や技能が高くない労働者の期間延長案には「実質的な単純労働解禁で、移民受け入れへの布石」(自民党議員)との批判が出ている。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140313/plc14031319180009-n1.htm
世論喚起? 外国人単純労働の段階的解禁への布石? 政府、異例の検討
2014.3.13 19:16
国論を二分する移民政策について、政府が正面から取り上げたのは異例だ。ただ、内閣府の試算は希望的数値を前提としており、今回は人口減少対策の「1つの選択肢」になり得ることを国民に印象付ける意味合いが強そうだ。政府は世論喚起によって国民の“移民アレルギー”を薄めながら、他方で外国人の単純労働を段階的に解禁し、なし崩しに「事実上の移民」を拡大する作戦に出ようとしている。
「50年間で1千万人というのは、相当インパクトのある移民という話だ」
「全体として10人に1人ぐらいはアコモデート(許容)できる範囲ではないか」
2月24日に行われた経済財政諮問会議の専門調査会では、内閣府が示した移民試算について活発な議論が交わされた。
安倍晋三首相も同月13日の衆院予算委員会で「国の将来の形や国民生活全体に関する問題として、国民的議論を経た上で多様な角度から検討する必要がある」と答弁しており、移民議論の機運が急速に盛り上がりをみせ始めている。
だが、内閣府の試算には現在1・41の合計特殊出生率が2・07に回復するとの楽観的な前提が置かれている。しかも、出生率回復には、移民として来日した人が子供をもうけることを織り込んでいる。前提そのものへの批判も予想され、「実現へのハードルは高い」(自民党反対派議員)などの受け止めが多い。
しかし、「100年後まで1億1千万人の総人口を維持し、労働力人口の減少幅も抑えられることを示した意味は大きい」(自民党中堅)との評価もあり、印象付けは一定の成果を収めた形だ。
一方、政府が力点を置くのが、移民議論と並行して進める外国人労働者の受け入れ要件の緩和だ。移民政策は自民党内に反対論が多いことに加え、「国民の理解を得るために時間を費やしていては目前に迫った労働力不足に対応できない」(内閣府幹部)との危機感があるためだ。
第一弾は人手不足が深刻化する建設業への対策だ。技能実習制度を見直し、最長3年の受け入れ期間を5年に延長し、日本への再入国も認める方向だ。
しかし、最大の焦点になりそうなのが介護職種の緩和だ。現行では経済連携協定(EPA)に基づき介護福祉士の国家試験に合格しなければ、日本で働き続けることはできない。このため介護職も技能実習制度に加えようというのだ。
これが認められると、国家試験の受験意思のない低技術の介護実習生が大量に来日する可能性があり、単純労働解禁の突破口となりかねない。反対派は「長期滞在できる単純労働者は事実上の移民だ。大量に入るとなれば、移民受け入れを容認したのと同じだ。国家の根幹をなす問題を、なし崩しに変えることは許されない」(閣僚経験者)と警戒を強めている。
途上国支援の技能実習制度を労働力不足の穴埋め目的で拡大することにも異論があり、議論は難航も予想される。(河合雅司)
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次回に続く。