ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

中国からインドへ本格的なシフトを

2012-09-30 08:53:34 | 国際関係
 私は、以前から中国偏重をやめ、インドに重点をシフトしたほうがよいという意見を述べてきた。今回の尖閣諸島を巡る中国政府の無法かつ強硬な姿勢、軍と政府に操作された反日デモの暴虐ぶりを見て、いよいよ中国からインドに積極的にシフトすべきだと思う。既に日本企業は中国からベトナム、カンボジア、ミャンマー等への移転を検討しているようであり、それらの国々ももちろんよい。だが、インドとの協力・連携は、さらに大きな可能性をわが国にもたらすと思う。
 産経新聞平成24年9月25日号に載った「インド紙が『尖閣対立は日印経済拡大の好機』という記事が私の目を引いた。最初にその記事を転載する。

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http://sankei.jp.msn.com/world/news/120925/asi12092519020001-n1.htm
 【ニューデリー=岩田智雄】インド有力紙タイムズ・オブ・インディアは、日本による沖縄県・尖閣諸島の国有化以降、日中関係が悪化していることについて、「インド政府には、日本政府と経済的関係の幅を拡大する申し分のない好機だ」として、インドが日本の投資を引き寄せるチャンスだとの社説を掲載した。
 24日付の社説は、「中国における反日感情の再燃は一定の経済的代価を伴う」とし、「インドは、政府が実行しつつあり、これから拡大すると期待される新たな外国直接投資政策によって、日本の貿易や投資のシェアをより拡大できるだろう」と分析した。
 その上で、「インド政府は日本政府に対し、成長しうる中国の代替地を提供するため、あらゆる手立てを尽くすべきだ」と提言するとともに、「日本企業も、中国にあるような地政学的問題に束縛されずに済むだろう」と締めくくった。
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 「ザ・タイムズ・オブ・インディア(The Times of India)」は、インドの日刊紙で、英字新聞としての発行数は世界最多を誇る。同紙のサイトに、元の記事が載っている。全文は次の通り。

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http://timesofindia.indiatimes.com/home/opinion/edit-page/With-anti-Japanese-sentiment-flaring-in-China-this-is-a-good-time-to-draw-Japanese-investment/articleshow/16518959.cms

COMMENT
With anti-Japanese sentiment flaring in China, this is a good time to draw Japanese investment
The writer has posted comments on this articleSep 24, 2012, 12.00AM IST

The latest flare-up of anti-Japan sentiment in China has created the perfect moment for New Delhi to broaden the scope of its economic relations with Tokyo. In over a hundred Chinese cities, there have been mass demonstrations and an outpouring of vicious anti-Japan rhetoric. Japanese cars on the streets have been trashed and a number of Japanese factories in China such as Toyota, Honda, Nissan and Panasonic shut down for a few days. The cause of this tension - another round of disputes of the contested islands known as the Senkaku to Japan and Diaoyu to China - is unlikely to be resolved any time soon.
Given that China is Japan's largest trading partner and trade between the two countries was worth $350 billion in 2011, these flare-ups have a quantifiable economic cost, as Japan discovered during previous periods of tension in 2002 and 2010. On the other hand, India - particularly with the new FDI policies the government is implementing and will hopefully expand upon - could do with a far greater share of Japanese trade and investment. Trade is expected to hit $25 billion by 2015, a paltry sum. A 2010 survey by the Japan Bank for International Cooperation saw India topping the list as the most attractive FDI destination over the next 10 years, overtaking China. There has been concrete proof of Japanese interest such as investment worth $4.5 billion in the Delhi-Mumbai Industrial Corridor Project. New Delhi must do all it can to provide Tokyo with a viable alternative destination, where Japanese business would not be held hostage to geostrategic issues as it is in China.
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 産経の記事は、元の記事の要点をよく伝えている。ただし、最後の文にある hostage は質とか人質の意味で使われる言葉で、「束縛」というより強い意味を持つ。その意味を生かして訳すと、「日本の企業活動は中国では地政学的問題で人質に取られている。だが、インドではそういうことがない」という主旨の主張だろう。
 かつてピーター・ドラッガーは、「インドへの投資のほうが中国より魅力的である」と予想した。「巨大な軍と農村の余剰を都会の製造業が吸収するという社会構造の変化を中国に望むのは無理だろう」と述べ、「なによりも教育を受けたエンジニア、スペシャリストがインドに大量に育っている」と指摘している。
 インドは、今世紀半ばには経済規模で中国を抜くと見られている。そのインドと中国は、対照的である。――反日的な中国と、親日的なインド。共産主義の中国と、デモクラシーのインド。日本のODAに感謝するどころかゆすりたかりのようにする中国と、日本の援助に感謝するインド。約束無視・権利侵害を平気でする中国と、国際的な商慣習を守るインド。核ミサイルを日本に向けて恫喝する中国と、シーレーンの防衛に協力を求めるインド。国内に多くの矛盾が高まり崩壊の可能性のある中国と、若々しい成長力をもったインド。
 中国の政治的・経済的重要性は言うまでもないが、日本人としての誇りを捨ててまで、目先の利益のために、中国共産党に媚び、おもねることはない。インドという良き友との付き合いを深めながら、共産中国との関係は国益をもとに主体的に調整していけば良い。
 私は、尖閣問題を機に、中国偏重をやめ、インドに本格的にシフトすべきだと思う。

関連掲示
・拙稿「中国偏重からインドへのシフト」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12.htm
 目次から23へ
・拙稿「インドへの協力・連携の拡大を~シン首相の国会演説と日印新時代」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12d.htm

人権13~生命と人間

2012-09-29 13:49:03 | 人権
●生命と人間

 今日、人間の尊厳の基礎づけは、生命から考察する必要があると私は思う。世界人権宣言をはじめ国際人権規約、あるいは地域的なものである欧州人権条約、米州人権条約、アフリカ人権憲章のどの人権条約も、すべての個人が生命に対する権利をもっていることを規定している。そして生命に対する権利をすべての人権のリストの冒頭に置いている。それゆえ、人間の尊厳の基礎づけには、生命の考察から始めなければならない。
 たとえば、国際人権規約の自由権規約は、第6条1項に次のように定める。「すべての人間は、生命に対する固有の権利を有する。この権利は、法律によって保護される。何人も、恣意的にその生命を奪われない。」
 自由権規約委員会は、この条文に定める生命権を、「人間の至高の権利(the supreme right of the human being)」であり、「すべての人権の基礎である」と評価している。
 確かに人は生命を奪われるとすべての権利を失う。したがって、生命に対する権利は、最も基礎的な権利である。自由権規約は、第4条1項にて国家の緊急事態の時は、条約で保障する権利のいくつかについてその効力を一時的に停止することを認めている。これを国家の derogation の権利と言う。derogation は効力停止あるいは条約上の義務からの離脱を意味する。だが、生命権は、緊急時であっても効力を停止できない権利 non-derogable right とされている。
 生命権は、生命の価値を認め、これを権利として保障しようとするものである。生存権ともいう。確かに人間の尊厳は生命の尊厳に基づくことは間違いない。だが、人間は他の生物を食料として摂取することによってのみ、生存することができる。もしすべての生命に尊厳があるとし、それを尊重するならば、人間は他の生物を食することができず、絶滅するしかないだろう。ベジタリアン(菜食主義者)は動物を食料にするのはいけないが、植物なら食料にしてよいと考えるが、これも生命の尊厳という考えとは矛盾する。それゆえ、人間にとって貴いのは、生命一般ではなく、人間的生命であることを認めねばならない。他の動物・植物等の生命に価値を認めるとしても、人間的生命とは区別し、人間は自らの生命を相対的に価値の高いものと暗黙の裡にみなしているのである。
 ただし、人間的生命に尊厳を認めるとしても、私はこの尊厳は絶対的なものではないことを認識する必要があると思う。人間は、国家や社会の秩序を守るために、規範に従って人の生命を奪うことがある。犯罪者の処刑や戦争における敵の殲滅がそうである。他人の生命を救うために、自らの生命を懸けることもある。親が子を守る時、軍人が国を守る時などがそうである。また、人間は、より価値のあるもののために、生命を捧げることもある。誇りや名誉のために、命を捨てる場合がそうである。それゆえ、生命は大切な、価値あるものではあるが、絶対的なものではない。相対的な価値である。そうした生命の尊厳を絶対的な価値として、人間の尊厳を説くならば、矛盾を生じ、欺瞞となりさえする。
 それゆえ、生命的な価値以外に、人間の尊厳を根拠づける価値が必要である。人間は生命ある存在というだけなら、他の生物と同じであるが、知恵と自由を持ち、文化を創造し、発展させるものである点に特徴がある。それゆえ、文化の創造・発展に価値を置き、その価値を人間の尊厳の根拠とすることができる。ここで文化とは、人間の社会の持つ生活・活動の総体、つまり慣習・知識・制度・科学・芸術等を意味する。
 私は、生命的価値と文化的価値を合わせて、人間の尊厳を考えるべきだと思う。文化には、物質面と精神面がある。すなわち、大まかに言って、経済・科学・技術などの外面的・物質的所産と宗教・道徳・芸術などの内面的・精神的所産がある。前者を物質文化、後者を精神文化と呼ぶならば、文化的価値には、物質文化的価値と精神文化的価値がある。略して物質的価値、精神的価値ともいう。私は、これらの価値の間に、「生命的価値<物質的価値<精神的価値」という三つの段階があると考える。
 精神とは、理性だけでなく感性を含み、また霊性・徳性を孕むものである。理性的・感性的かつ霊性的・徳性的な精神の働きが生み出す価値が、精神的価値である。ここで先に述べた人格という概念を用いるならば、この精神的価値を実現し、体得するものが、人格である。人間に人格を認め、人格の形成・成長・発展をめざすことは、精神的な価値を認め、個人における精神的価値の増大をいうものである。私は、生命的・物質的・精神的という重層的な価値を創造するものとして、人間をとらえ、そこに人間の尊厳を基礎づけたいと思うのである。

 次回に続く。

米大統領候補ロムニーの日本知らず

2012-09-28 08:48:43 | 国際関係
 尖閣諸島を巡って日中間の緊張が強まり、日米同盟の緊密化が一層求められる情勢である。その一方、泥沼化した普天間基地の移設問題や安全性の懸念が指摘されるオスプレイの配備問題など、日米間には解決すべき問題が多くある。それゆえ、米国大統領は、わが国に対する強い関心と正しい理解を持つ人物であることが望ましい。
 本年11月6日、アメリカ大統領選挙が行われる。8月28日、共和党はロムニーを大統領選の候補者に正式指名した。続いて民主党は9月6日、再選を目指すオバマ大統領を候補者に正式指名した。予想通り、オバマ対ロムニーの決戦となる。
 今回の選挙について、私は、拙稿「オバマVSロムニー~2012年米国大統領選挙の行方」を書き、7月4日からマイサイトに掲載している。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12m.htm
 そこに書いたことの一つに、オバマとロムニーの対日本政策の比較がある。オバマが日本を重視するのに対し、ロムニーは日本への関心が低く、むしろ批判的な態度がうかがわれる。ロムニーの公式ウェブサイトで、外交・安全保障政策について日本への言及は3カ所しかない。それは「中国・東アジア」という項目においてで、内容のほとんどは中国に関する論述。その中で日本への言及は、「30年間で中国は目覚ましい成長を遂げ、日本を追い越して世界第2の経済大国になった」という部分。次いで、対北朝鮮政策に関して「われわれの緊密な同盟国である韓国と日本」「韓国と日本との関係を活性化させるには」と韓国の次に国名を並べただけ。日本そのものについては、具体的に書いていない。こうしたロムニーの日本に対する姿勢を、ウォールストリート・ジャーナル紙は「穏やかに軽視」と書いた。
 ロムニーは平成22年(2010)に『ノー・アポロジー(謝罪せず)』という直を出しており、そこには、「米国がアジアへの関与を弱めると日本が信じるなら、米国との距離を遠ざけるものであり、中国と同盟せざるを得なくなるだろう」「(日本は)1970年代に米国の自動車メーカーと性能や低価格で競争をしておいしい思いをした」「2005年型の赤いマスタングのオープンカーの格好よさとうなるようなエンジン音に匹敵するものは、日本から生まれていない」などと書いているという。
 こうした文章から受ける印象は、ロムニーは、日本についてほとんど知識がなく、日本はビジネスの競争相手という意識があるだけで、アジア太平洋における重要な同盟国という理解を持っていないのではないか、という疑問である。もしロムニーが次期大統領になった場合、日本への理解を深め、日米関係の重要性に目覚めないと、日本にとってもアメリカにとってもマイナスの事態を生じるだろう。そして、それこそ中国を利することになるだろう。特に尖閣諸島の戦略的重要性を理解することが重要である。私は、先の拙稿にこのように書いた。
 報道によると、ロムニーは8月9日、ニューヨークで開いた資金集めパーティーで、「われわれは日本ではない。10年あるいは1世紀にわたる衰退と苦難に陥っている国にはならない」と述べ、オバマ政権下では日本と同様に米国は没落すると強調したという。オバマ政権を批判する材料として日本を例に挙げたものだが、わが国に対する無知をさらけ出している。発言を伝えた米国の政治関連サイトには「同盟国日本への侮辱だ」「日本の歴史に対する理解が極めて不正確」などと批判の投書が相次いでいるという。過去10年ないし20年というなら、確かにが国は「衰退と苦難」に陥っている。だが、わが国を「1世紀にわたる衰退と苦難に陥っている国」と言うのは、間違いも甚だしい。ロムニーは、日本の歴史についてごく基本的な知識もないようである。これがアメリカの大統領になるかもしれない人物かと思うと、首をかしげる。共和党には、もっとまともな候補はいなかったのだろうか。

 ところで、先の拙稿には、ロムニーの外交・安全保障のスタッフとブレーンについて書いたが、ロバート・ゼーリック前世界銀行総裁が、ロムニーの政権移行チームの外交・安全保障問題担当となり、共和党内外に波紋を広げているという。
 ゼーリックは、ブッシュ子政権では約4年間、米通商代表部(USTR)代表を務め、その後、国務副長官に転じ、約1年半、米国外交の実務に携わった。CFRの会員であり、ネオコンの一人である。ビルダーバーグ・クラブは、ブッシュ子政権時代、ネオコンを毎年会議に招いたが、ゼーリックも会議に招かれている。
 ゼーリックは、ゴールドマン・サックスの社員時代には、対中ビジネスの拡大に努めた。米通商代表部(USTR)代表になると、中国の世界貿易機関(WTO)加盟を推進した。また国務副長官時代には、中国に国際社会での責任を果たさせるために、ブッシュ子政権がそれまで中国を「戦略的競争相手」と位置づけていたのをやめ、「責任ある利害共有者」に転換することを提唱した。その一方、日本との次官級戦略対話には一度も応じず、「親中派のパンダ外交」と揶揄(やゆ)された。
 国務副長官を退職後は、再びゴールドマン・サックスに雇用され、同社の国際戦略部のマネージング・ディレクター兼代表となった。その後、2007年7月世界銀行の総裁となり、本年6月に退任した。世銀総裁時代には、台湾出身ながら中国本土で経済学の権威として活躍した林毅夫氏を上級副総裁兼主任エコノミストに抜擢した。国際通貨基金(IMF)の副専務理事も中国が獲得したが、いずれも中国政府の強い後押しがあったとされる。
 このようにゼーリックは、ネオコンでありながら、米資による中国ビジネスの強力な推進者である。こうした人物が、ロムニーの政権移行チームの外交・安全保障問題担当となっている。ロムニーが大統領になった時は、当然政府高官に指名されるだろう。ロムニーは中国を為替操作国に認定することを公言し、軍事面でも太平洋地域で米国の強い軍事力を維持するとして対中強硬路線を表明している。だが、過去の米国歴代政権には一面で対中強硬路線を取りながら、ビジネスでは中国でのビジネス・チャンスを拡大した例がある。またゴールドマン・サックスのような私企業は米国政府に多くの人材を送り、政府そのものを経済活動に利用してきている。ロムニー政権が実現した場合、こうした前例に似た政権となる可能性が出てきている。

 オバマVSロムニーの戦いは、現時点では接戦と見られるが、ロムニーがやや優勢という世論調査もある。もしロムニーが次期大統領になった場合、彼の日本への関心の低さとスタッフのネオコンと中国への傾きが、日本と世界にとって大きなマイナスにならないよう、今後是正されることを願うところである。

 以下は関連する報道記事。

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●産経新聞 平成24年8月10日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/120810/amr12081019420002-n1.htm
【米大統領選】
ロムニー氏「日本は1世紀にわたる衰退の国」
2012.8.10 19:41 [米国]

 【ワシントン=佐々木類】米大統領選で共和党候補に内定しているロムニー前マサチューセッツ州知事(65)が9日、ニューヨーク市で開いた資金集めパーティーで、オバマ政権を批判する材料として日本を例に挙げ、「われわれは日本ではない。10年あるいは1世紀にわたる衰退と苦難に陥っている国にはならない」と述べ、オバマ政権下では日本と同様に米国は没落すると強調した。米政治関連サイトが一斉に報じた。
 ロムニー氏は、「(オバマ政権がスタートした)過去3年間とはまったく違った経済の苦境に立たされている」とも述べた。発言を伝えたサイトの中には「同盟国日本への侮辱だ」「日本の歴史に対する理解が極めて不正確」などと批判の投書が相次いでいる。
 ロムニー氏の失言は今に始まったわけではなく「わたしは従業員を解雇するのが好きだ」「わたしも失業者だ」などと“金満家”的な失言が身内の共和党からも批判されたばかり。
 ロムニー氏はつい最近も資金集めの外遊先で、「英国は五輪開催において準備不足」「エルサレムはイスラエルの首都」と発言するなど、英国はじめ米国内からも「外交音痴」(オバマ陣営)と懸念する声が出ていた。
 ロムニー氏は2010年に出版した自著「ノー・アポロジー(謝罪せず)」でも、「日本と違って、米国は失敗を恐れない」「米国がアジアへの関与を弱めると信じるならば、日本は中国と同盟せざるを得なくなるだろう」と語っていた。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/120811/amr12081100070000-n1.htm
【米大統領選】
波紋広げる対中姿勢 ゼーリック前世銀総裁がロムニー選対入り 
2012.8.11 00:06

 【ワシントン=佐々木類、柿内公輔】ゼーリック前世界銀行総裁が、ロムニー前マサチューセッツ州知事(65)の政権移行チームに非公式に加わっていることが判明、共和党内外に波紋を広げている。ロムニー選対幹部が米外交専門サイト「ザ・ケーブル」に明らかにした。
 ゼーリック氏が就任したのは、ロムニー選対が9月に設置予定の政権移行チーム内の外交・安全保障問題担当。同氏は今年6月に世銀総裁を退任後、ハーバード大の上級研究員に転身したが、「総裁在任中からロムニー政権下での国務長官ポストを狙って猟官運動をしていた」(ロムニー選対関係者)という。
 ゼーリック氏の重要ポストへの起用に否定的な見方が出ているのは、国務副長官時代にみせた「現実主義者」という顔のほか、「親中派」として知られ、対中強硬路線を支持する共和党タカ派に「忌み嫌われる存在」(米紙ワシントン・ポスト)であるためだ。
 同氏はブッシュ政権で国務副長官を務めていた2006年、中国に国際社会での責任を果たさせるために、従来の「戦略的競争相手」というブッシュ政権1期目の方針を転換。本来は経済用語の「責任ある利害共有者」という新たな概念を提唱する一方、日本との次官級戦略対話には一度も応じず、「親中派のパンダ外交」と揶揄(やゆ)された。
 世銀総裁時代、台湾出身ながら中国本土で経済学の権威として活躍した林毅夫氏を上級副総裁兼主任エコノミストに抜擢。国際通貨基金(IMF)の副専務理事も中国が獲得したが、いずれも中国政府の強い後押しがあったとされる。
 ゼーリック氏は、米金融大手ゴールドマン・サックス時代、対中ビジネスの拡大に努め、ブッシュ政権の1期目は米通商代表部(USTR)代表として中国の世界貿易機関(WTO)加盟を推進した。
 一方、ロムニー氏は為替問題で「中国を為替操作国に認定する」と述べ、軍事面で「太平洋地域で米国の強い軍事力を維持する」と対中強硬路線を表明。「ゼーリック氏とは対中政策でソリが合わない」(選対幹部)との観測もある。
 ただ、今年2月に世銀総裁として訪中した際、経済政策の転換を厳しく迫る報告書を発表。ロムニー政権入りを視野に「親中派」イメージの払拭を図ったともみられており、ゼーリック氏の差配が注目される。
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安倍自民党新総裁に期待する

2012-09-27 07:25:48 | 時事
 安倍晋三氏が、自民党総裁選挙で40年ぶりという決選投票を勝ち抜き、自民党新総裁に就任した。いま日本を率いるに最もふさわしい政治家が、総裁になった。次は解散総選挙で政権交代を実現することである。私は安倍氏に首相として再登板することを期待する。



 私は4月11日に安倍氏と懇談する機会があり、12日の日記に次のように書いた。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/befc56908168c8154caa599642de2f1e
 「指導者には、人を指導し、集団を統率する能力がなければならない。指導力を生み出す要素は、知力、体力、胆力、そして仁愛である。安倍氏は体力に弱点を抱えていたが、現在健康状態は良好なようで、意欲に満ち、活力に溢れている。私は、懇話での安倍氏の話を聴き、それまで演説や著書から私が受けていた印象以上に、安倍氏は物の見方が根本的かつ長期的、発想が戦略的かつ現実的であり、また類まれな記憶力と明確な判断力を持つ人物だと思った。あと必要なのは、次代を拓く若いブレーンではないか。
 保守を自認する人々の間では、安倍氏にもう一度首相をやってもらいたいと待望する人が多い。私もその一人である。わが国は、かつてない国難にある。この国難を突破すべく、安倍氏にはぜひその天性の能力を、日本のために再度発揮してほしいと思う」
 また、5月1~2日の日記に安倍氏の講演等に基づく発言を紹介した。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/f2545d4bb561a2ef49ba47894b93b5c1

 さて、安倍氏は、約6年前の平成18年9月26日総理大臣になると、「戦後レジームからの脱却」を掲げ、主に健康上の理由から退任するまでの約1年というわずかの期間に、憲法改正に向けた国民投票法の制定、教育基本法の改正、防衛庁の防衛省への格上げを実現した。また、河野談話の狭義の強制性を否定する閣議決定、100年ぶりの国家公務員制度改革への着手等を行った。
 安倍氏は今回、健康を大きく回復し、再び日本を率いるため、自民党総裁の座に復帰した。総裁選選挙に臨むに当たり、安倍氏は「日本再起。強い日本で、新しい『日本の朝』へ」と題した公約を発表した。公約では「憲法改正と教育再生に全力」との目標を掲げた。サイトで自らの政策を謳い、PDF版の政策集も掲載している。
http://www.s-abe.or.jp/policy
 この政策集と総裁選の過程及び総裁就任後の発言等をもとに、私は安倍氏は主に次のような政策を実行しようとしていると見る。

・憲法改正
 憲法必要な発議要件(96条)は国会議員の3分の2から2分の1に緩和する。

・官邸機能の強化
 安倍内閣で進めた日本版NSC(国家安全保障会議)を創設する。

・国防の充実
 集団的自衛権の行使を可能にする。

・日米同盟の強化
 日米同盟の強化。その上で中国と戦略的互恵関係を築く。

・尖閣防衛
 命を掛けて守る覚悟と決意を示す。
 国家管理をさらに進める。
 排他的経済水域、12海里には外国船を断固として入れない。

・拉致問題
 解決に全力を尽くす。
 
・慰安婦問題・歴史認識
 河野談話を見直し、修正を確定する。宮沢談話・村山談話も見直し、新たな談話を出す。

・教育再生
 誰もが日本に生まれたことを喜び、誇りに思うことができる国創りを目指す。
 教育委員会制度や教科書検定・採択制度を見直す。

・デフレ脱却
 デフレを脱却し、成長力底上げによる所得向上・雇用創出。
 政府と日銀が協力して大胆な金融政策を行う。
 円高を是正し、経済を成長させる。
 消費税はデフレが続いている間は、上げない。

・成長戦略
 「日本経済再生本部」を創設し、新たな成長戦略を策定する。

・TPP
 TPPの「聖域なき関税撤廃」に反対する。
 経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)を推進する。

・皇室制度
 男系継承の伝統を堅持し、女系継承の道を開く女性宮家創設に反対する。

 私は概ねこれらの政策に賛成である。安倍氏は、靖国神社については、「国の指導者が参拝し、英霊に尊崇の念を表するのは当然だ。首相在任中に参拝できなかったのは痛恨の極みだ」と事実上、参拝する考えを表明している。この点も支持できる。
 安倍氏には再度首相になってもらい、日本の再建のため、上記の政策を大胆に、またすみやかに実行してもらいたいと思う。とりわけ憲法改正が最重要である。5月2日の日記の最後に次のように書いたとおりだからである。
 「尖閣防衛と拉致問題は、根が同じ問題である。戦後日本の国家体制、その核心にある憲法第9条を改正しなければ、国民の生命も領土も守れない。そのことを本当に分かっている政治家が、国家を指導するのでなければ、日本の安全と繁栄は維持できない。また如何にすぐれた、また志高い政治家であっても、今の憲法のままでは、思うような政治はできない。日本再建に憲法改正は急務である」

「維新の会」は支持率が急落

2012-09-26 08:43:46 | 橋下
 私は、9月11~12日の日記に、「衆院選予測:自民236、民主89で維新は58と躍進」と書いた。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/ff283ccb3493ea70078eddf86b5f1393
 この拙稿は「週刊文春」9月6日号の政治広報システム研究所代表の久保田正志氏と週刊文春取材班による予測に基づく。久保田氏の予測では、自民大勝、民主大敗で、政権再交代が起こる。維新は小選挙区24議席、比例34議席の合計58議席と予測される。自民は単独で政権を発足するまでには及ばず、新たな連立政権を組む。自民党が従来のリベラル系路線で行くのか、保守系路線で行くのかが、新たな政権の方向性を決める。保守系路線ならば、自民+維新+たち日の296議席または自民+維新の294議席で過半数の241議席を超える。維新は、この予測よりさらに議席を伸ばす可能性がある。もし橋下徹氏が衆院選に自ら出馬すれば、もっと伸びるだろうと私は書いた。
 その後、橋下氏は、国政政党として「日本維新の会」を立ち上げる準備を進めている。ここ数日内に、結成となるだろう。だが、維新は、これから旗揚げだというのに、支持率が急速に低下している。最近の読売新聞の世論調査では、比例代表投票先は、維新16%(自民31%、、民主14%)。朝日では維新5%(自民23%、民主15%)。政党支持率になると、読売では維新2%(自民21%、民主15%)。朝日では維新3%(民主16%、自民15%)だった。政党支持率が、2~3%とはひどく低調である。新聞によって読者層が違うとはいえ、大きな傾向は見て取れる。
 9月11~12日の日記で紹介したが、8月1~2日に行った産経新聞社とFNNの合同世論調査では、維新が次期衆院選の比例代表投票先として約24%で、自民党22%、民主党17%を抑えてトップだった。うち東京での維新の支持率は、14.7%だった。ところが、9月13日に放送されたフジテレビ番組「新報道2001」が首都圏で行った調査では、支持率9.4%。同じく23日に放送された調査では、支持率4.8%。14.7%→9・4%→4.8%と約10ポイントの低下、約3分の1への減少は、劇的な急落である。
 新党立ち上げへの過程が、維新に期待を寄せた人々の期待を裏切っているのだろう。考えられる原因はいくつかある。

・維新八策は依然として検討が不十分であり、国政政党としての政策が具体的になっていない。
・橋下氏は、プライベートな時間を国政に充てると言っており、国政への姿勢が甘い。
・現時点で、橋下氏は次期衆院選に出馬しないという意向を表しているが、氏に匹敵するような国政を担うリーダーとなる人材がいない。
・国政政党の代表が国会議員ではなく、大阪にいながら国政政党を運営できるのかという疑問がわく。
・国政政党を設立するため、現職の国会議員を募り、政党要件を満たそうとしたが、合流した国会議員に実力者がいない。
・自民・民主等から維新に乗り換えた国会議員が、選挙目当ての印象を与えている。
・公開討論会がお粗末で、幻滅を与えた。
・橋下氏の最近の発言に、見識が疑われることがある。

等々である。
 これらの諸原因により、維新への期待は萎んできているようである。最後の橋下氏の最近の発言については、別に掲示する。

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●産経新聞 平成24年9月23日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120923/stt12092321550009-n1.htm
「日本維新」支持率が急落 「新報道2001」世論調査
2012.9.23 21:54 [世論調査]

 橋下徹大阪市長が代表に就く新党「日本維新の会」の支持率が急激に減少していることが、23日のフジテレビ番組「新報道2001」の世論調査(20日実施)で明らかになった。首都圏に限定した調査とはいえ、国政政党としての政策が具体性に欠ける点や、現時点で橋下氏が次期衆院選に出馬しない意向を示すなど党運営のしくみの分かりにくさが、支持率の低下につながっているとみられる。
 同調査によると、日本維新の首都圏での支持率は4・8%で、前週13日の調査(9・4%)からほぼ半減した。産経新聞社とFNNが1、2日に実施した合同世論調査での「大阪維新の会」の支持率(東京)14・7%と比べると、約10ポイントの大幅な減少となった。
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中国の流動人口2.3億人への備え~石平氏

2012-09-25 10:12:13 | 国際関係
 8月14日私は日記に「中国経済に全面衰退の兆候~石平氏」と題した文章を書いた。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/bc80844de9912845943f94dd946ab118
 その中で、私は次のように書いた。
 「私自身は、中国は典型的な外需依存型経済であること、リベラル・デモクラシーによる国民経済の形成ができていないこと、一人っ子政策により今後急速に高齢化が進むこと、人口変動に対応する社会保障政策ができていないこと、環境保全に配慮しない経済成長のため水・土壌・大気等の汚染がはなはだしいこと等により、中国経済は一度、衰退に転じると、現在の共産党支配体制では容易に反転できず、もっと長期間にわたって衰退を続けるだろうと予想する。衰退期に移りつつある中国は、国内的には政府批判と民主化の要求を抑圧して共産党の支配体制を維持するために専制化を強める動きが出る可能性がある。対外的には資源と利権を確保するために覇権主義的な行動を展開するに違いない。また日本を含む海外各国に人口の拡散を促進し、人口の圧力を利用するだろう」と。
 最後の海外への人口の拡散による人口圧力の利用については、中国で仕事を得られない若い世代で海外に移住する者が一層増加することが予想される。中国では相当の高学歴でも就職が困難になっている。それは、膨大な失業者の中の一部に過ぎない。彼らのうち相当部分がわが国に向かってくる。
 8月6日、中国の各メディアは、昨平成23(2011)年末に中国全国の流動人口は史上最高の2億3千万人に達し、その8割は農村戸籍を持ち、平均年齢は28歳であるという政府機関の報告を伝えた。2億3千万人とはすごい数字だが、その8割とは約1億8千5百万人である。石平氏は、平成24年8月16日付の産経新聞「China Watch」で早速この問題を取り上げた。
 石氏によると、中国でいう流動人口とは、「安定した生活基盤を持たず、職場と住居を転々とする人々」のことである。その大半は農村部から流れてきた「農民工」である。中国が高度成長を続けてきた間、農民工に仕事を与えてきたのは、対外輸出の急成長と固定資産投資の継続的拡大だった。だが、昨年後半から、世界的経済不況と中国国内の生産コストの上昇が原因で対外輸出が大幅に減速し、金融引き締めのなかで公共事業投資が激減し、さらに不動産バブルの崩壊が始まった。職を失った農民工の「帰郷ラッシュ」が始まっているが、20代の農民工の多くは都市部で成長した世代であり、農村部に帰っても耕す農地はなく、農作業のことも分からない。そこで「農村には帰れず都市部にとどまっても満足に職に就けない彼らの存在は当然、深刻な社会問題となってくる。その人数が億単位に達していれば、それこそが政権にとって大変危険な「不安定要素」となろう」と石氏は言う。「今の中国共産党政権は果たして、億人単位の現代流民の集団的憤怒の爆発を防ぐことができるのだろうか。もしそれがうまくできなかったら、天下を揺るがす大乱が近いうちに起きる可能性もないわけでもないだろう」と石氏は見解を述べている。
 問題は、この億単位の流民の不満のエネルギーが共産党支配体制を打破し、中国の民主化を推し進めるか、共産党がそのエネルギーを吸収して政権の基盤強化に利用し、対外的な覇権主義的行動に向けるかである。私は前者に大いに期待するが、現状では後者の展開の可能性の方が高い。覇権主義的な行動は、尖閣諸島・沖縄等への侵攻という軍事的な行動が最も懸念され、また海外への戦略的な移住による諸国のシナ化という人口学的な行動も懸念される。わが国は、国家の再建を急ぎ、軍事的には国防をしっかり固めるとともに、経済社会政策では中国人移民を規制する態勢を確立することが必要である。
 以下、石平氏の記事を掲載する。

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●産経新聞 平成24年8月16日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/120816/chn12081611020004-n1.htm
【石平のChina Watch】
「流動人口2.3億人」の危険
2012.8.16 11:02

 今月6日、中国の各メディアは国家人口と計画生育委員会がまとめた「中国流動人口発展報告2012」の主な内容を伝えた。それによると、2011年末に中国全国の流動人口は史上最高の2・3億人に達しており、その8割は農村戸籍を持つ者で、平均年齢は28歳であるという。
 中国でいう「流動人口」とは、要するに安定した生活基盤を持たず、職場と住居を転々とする人々のことを指している。
 日本の総人口より1億も多い人々がこのような不安定な生活をしていることはまさに驚くべき「中国的現実」だ。そういう人々の大半が農村部から流れてきた「農民工」であることは、上述の「8割が農村戸籍」という数字によっても示されている。
 これまで、それほど大勢の「農民工」に生活の糧を与えてきたのは、中国の高度成長を支えてきた対外輸出の急成長と固定資産投資の継続的拡大である。沿岸地域の輸出向け加工産業が繁栄すると、内陸部農村出身の若者たちが大量に「集団就職」してくる。
 そして不動産投資や公共事業投資が盛んであったときには、農民工の多くが建設現場の労働力として吸収された。つまり、高度成長が継続している間は、農民工が「流動人口」となっていても、異郷の都市部で何とか生計を立てることができた。
 だが、2011年後半から、世界的経済不況と中国国内の生産コストの上昇が原因で中国の対外輸出が大幅に減速してしまい、金融引き締めのなかで公共事業投資が激減した。それに加えて、不動産バブルの崩壊が始まると、全国的な「大普請ブーム」はもはや過去のものとなりつつある。その結果、多くの農民工が輸出産業と建設現場から「余剰労働力」として吐き出される羽目になった。
 今年7月に入ってから、中国の沿岸地域で企業倒産とリストラの嵐が吹き荒れている中で、職を失った農民工の「帰郷ラッシュ」が始まっていることが国内の各メディアによって報じられている。それはまさに、農民工の置かれている厳しい現状の表れであろう。
 都市部で職を失って帰郷できるのはまだ良い方である。前述の「報告」が示しているように、現在の農民工たちの平均年齢は28歳で、20代が大半である。いわば「農民工2世」の彼らの多くは実は都市部で成長していてすでに「農民」ではなくなっている。彼らはいまさら農村部に帰っても耕す農地はないし、農作業のことは何も分からない。彼らにはもはや、「帰郷」すべき「郷」というものがないのである。
 だが、農村には帰れず都市部にとどまっても満足に職に就けない彼らの存在は当然、深刻な社会問題となってくる。その人数が億単位に達していれば、それこそが政権にとって大変危険な「不安定要素」となろう。中国共産党中央党学校が発行する「学習時報」の8月6日号が「新世代農民工の集団的焦燥感に注目せよ」との原稿を掲載し「新世代農民工たちの焦燥感が集団的憤怒に発展するのを防ぐべきだ」と論じたのは、まさにこの問題に対する政権の危機感の表れであろう。
 中国の歴史上、農村部で生活基盤を失い都市部に流れてくる「流民」の存在は常に王朝にとって大いなる脅威である。行き場を失った流民の暴発はいつも、王朝崩壊の引き金となるからだ。今の中国共産党政権は果たして、億人単位の「現代流民」の「集団的憤怒」の爆発を防ぐことができるのだろうか。もしそれがうまくできなかったら、天下を揺るがす大乱が「近いうち」に起きる可能性もないわけでもないだろう。
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関連掲示
・拙稿「中国の大逆流と民主化のゆくえ」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12h.htm
・拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion09i.htm
 第5章 中国人移民にどう対応するか
 第6章 移民受け入れ1000万人計画

尖閣周辺を徘徊する中国公船とは

2012-09-24 08:53:26 | 尖閣
 尖閣諸島周辺のわが国領海内に、中国の漁業監視船や海洋調査船が多数、出没するようになった。これらの中国公船と中国海軍はどういう関係にあるのだろうか。
 防衛大学校教授・村井友秀氏は、6月7日産経新聞「正論」欄に「海監も漁政も中国海軍の手駒だ」という記事を書いた。この記事が参考になる。
 中国は、1982年に国連海洋法条約が採択されると、海上保安機関を強化した。90年代に、国土資源部国家海洋局中国海監総隊、農業部漁業局、公安部公安辺防海警総隊等を組織した。
 国家海洋局中国海監総隊は、国家海洋局の命で、中国の管轄海域を巡視し、中国の海洋権益に対する侵犯、海洋資源と環境を損なう違法行為を発見し排除することを任務とする。制度上は政府の管轄下に置かれながら、海軍が実質的に管理している。海軍の予備部隊として、平時は違法行為を取り締まり、戦時は軍に編入されることになっているという。海洋調査船「海監」を保有する。
 「海監」の最新鋭である「海監50」は、排水量3300トンでヘリ搭載仕様であり、海上自衛隊の艦艇でいえば、きりクラス護衛艦の規模である。
 農業部漁業局は、漁業監視船「漁政」を保有する。海軍の潜水艦救難艦を改造した「漁政311」やヘリコプターを2機搭載できる「漁政310」等を持つ。公安部公安辺防海警総隊を海警という。海警は海軍のミサイルフリゲート艦を改造した巡視船を保有する。
 これらのことから分かるのは、中国の海上保安機関の船は改造された軍艦であり、海上保安機関は中国海軍と共同行動を取る組織だということである。なお、村井氏の説明では、海監は組織の名称であり、海監の保有する海洋監視船を略して海監とも呼び、同様に漁政も組織の名前と保有する監視船をともに漁政と呼んでいる。
 村井氏は、中国の権力構造についても述べている。氏の見方では、共産党は最高権力機関であるが、軍の最高機関である中央軍事委員会は、共産党の最高機関である政治局と並立する。軍と党が並立し、党の下に政府(国務院)が存在し、政府は党の決定を実行する機関に過ぎない。
 中央軍事委員会は、10人の軍人と2人の文民で構成されている。文民の2人、(胡錦濤国家主席と習近平副主席は軍事専門家ではなく、中央軍事委での軍事に関する議論では軍人が強い影響力を持つ。軍人の強い影響下でなされた中央軍事委決定は、胡主席の意向として政治局内で強い影響力を持つ。軍の意向が党の意向として国家を動かしているというのが、村井氏の見方である。
 現状を補足するならば、既に中国では、政策の策定・調整の主導権が、胡主席から習副主席に移っており、尖閣問題で中国の一連の強硬な対抗策を主導しているのは、習氏だと見られる。軍を背景に持つ習氏によって、中国が強硬路線に全面転換することが予測される状況である。
 中国が尖閣侵攻に踏み切る場合、中国の海上保安機関は、中国海軍と一体となって、軍事行動を取るだろう。現在の海監・漁政の動きは、そのための偵察や準備と考えられる。これに対し、わが国は、海上保安庁と海上自衛隊の連携が進んでおらず、海上の警察力及び防衛力を総合的に機能させることができない状態にある。侵攻作戦は、相手の準備が整っていないうちに襲うのが、定石である。わが国の西方防衛は、累卵の危きにある。防衛体制の整備を急がねばならない。
 以下は、村井氏の寄稿記事。

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●産経新聞 平成24年6月7日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120607/plc12060703360003-n1.htm
【正論】
「尖閣」危機 防衛大学校教授・村井友秀 海監も漁政も中国海軍の手駒だ
2012.6.7 03:35

 尖閣諸島周辺の日本領海内に最近、中国漁船に続いて、中国政府の漁業監視船や海洋調査船が徘徊(はいかい)・漂泊するようになった。中国では、漁船も海上民兵として海軍の指揮下で行動することがある。それでは、中国公船と海軍との関係はどうなのか、考察する。

≪軍の意向が党通じ国家動かす≫
 中国共産党政権は「鉄砲から生まれた」といわれるように、戦争の中で軍の力によって成立した政権であり、中共政権における軍の影響力は絶大である。現在の中共政権の政治構造をみると、共産党が最高権力機関であるが、軍の最高機関である中央軍事委員会は、共産党の最高機関である政治局と並立する機関である。中央軍事委員会主席は胡錦濤氏、政治局のトップも、党総書記にして国家主席の胡氏である。軍と党が並立し、党の下に政府が存在する構造である。政府(国務院)は党の決定を実行する機関に過ぎない。
 中央軍事委員会は、10人の軍人と2人の文民(胡主席と習近平副主席)で構成されている。軍人の委員の内訳は、副主席2人、国防部長、総参謀長、総政治部主任、総後勤部長、総装備部長、海軍司令官、空軍司令官、第二砲兵(ミサイル)司令官である。
 胡主席と習副主席は軍事専門家ではなく、中央軍事委での軍事に関する議論では軍人が強い影響力を持つ。毛沢東やトウ小平は文民指導者であると同時に実戦で軍隊を指揮した経歴があり、軍人に対し強いカリスマ性を持っていた。胡氏の前任の党総書記兼国家主席の江沢民や胡氏には軍歴がなく、軍人への影響力は限られる。
 他方、政治局では胡氏は最大の影響力を持つ。したがって、軍人の強い影響下でなされた中央軍事委決定は、胡主席の意向として政治局内で強い影響力を持つ。つまり軍の意向が党の意向として国家を動かしているのである。

≪外交部などは軍に逆らえず≫
 政府の一機関である外交部や国家海洋局も、政府を通じた党決定に従って行動する。中国では、党と並ぶ権力を持つ軍が、党の下にある政府の一機関である外交部を無視することはあっても、外交部が軍の意向に逆らうことはあり得ない。同様に、政府の一機関の国家海洋局が軍の意向を無視して行動することもあり得ない。
 国家海洋局は1964年、「国防と国民経済建設に服する」機関として創設され、制度上は政府の管轄下に置かれながら、海軍が実質的に管理してきた。82年に国連海洋法条約が採択されると、中国は海上保安機関を強化して、90年代には、国土資源部国家海洋局中国海監総隊(海監)、農業部漁業局(漁政)、公安部公安辺防海警総隊(海警)、交通運輸部中国海事局(海巡)、海関総署密輸取締局(海関)を組織した。
 海警は海軍のミサイルフリゲート艦を改造した巡視船を保有し、漁政は、海軍の潜水艦救難艦を改造した「漁政311」やヘリコプターを2機搭載できる「漁政310」を保有する。漁政は南シナ海でインドネシア、ベトナム、フィリピンの漁船、巡視船や海軍の艦艇を威嚇し発砲している。
 海監は国家海洋局の命で、中国の管轄海域を巡視し、中国の海洋権益に対する侵犯、海洋資源と環境を損なう違法行為を発見し排除することを任務とする。「海軍の予備部隊として、平時は違法行為を取り締まり、戦時は軍に編入される」ことになっている。

≪防衛力の縮小は侵略を誘う≫
 2009年には、中国海軍、中国公船、漁船が共同して、米海軍調査船の活動を妨害するという事件が発生した。国家海洋局海監総隊常務副総隊長は、「国際法上、係争海域に関して2つの慣例がある。第一はその場所が有効に管理されているか否かであり、第二は実際の支配が歴史による証明に勝るということだ」「中国海監は管轄海域内で必ず自身の存在を明示し、有効な管轄を体現しなければならない」と述べている。
 尖閣諸島周辺を遊弋(ゆうよく)し、中国の実効支配を誇示することは、海監の重要な任務なのである。
 中国の末端組織はバラバラに行動しているように見えることがあるが、それは右手と左手の動きの違いにすぎず、頭は一つだ。中国の頭は共産党であり軍である。中国軍は合理的な組織で、コストが利益を上回ると判断すれば行動を止める。日本の防衛力が強化されれば中国軍のコストは上昇し、軍事行動に出る動機は小さくなる。逆に日本の防衛力が縮小すれば、中国軍のコストは低下し軍事行動の魅力は増大する。日本の防衛力縮小は中国に軍事行動を取るよう挑発しているようなものだ。
 侵略を撃退できる十分な軍事力に支えられた、「尖閣諸島は日本の核心的利益である」という日本政府の強い決意表明は、中国軍の思考回路に影響を与える。
 「大きな棍棒を持って、静かに話す」(セオドア・ルーズベルト米大統領)というのが、古今東西の外交の基本なのである。(むらい ともひで)
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習近平主導体制に応じ、尖閣を守れ

2012-09-23 08:44:17 | 尖閣
 今秋開催予定の第18回中国共産党大会で習近平・国家副主席が党の最高指導者に昇進する。シナ系評論家の石平氏は、8月31日の産経新聞「China Watch」に、次のように書いた。
 「来年3月の全国人民大会では習氏はさらに国家主席に就任する予定である」「中国政府は『尖閣が中国の領土・核心的利益』だと主張してきた手前、日本側の尖閣の土地購入の実行に対して『習近平政権』は強硬姿勢に打って出るしかない。さもなければ、国民と軍部から猛反発を食らって誕生したばかりの新政権がいきなり、つまずくことにもなりかねないからだ。それを避けるために習近平政権はおそらく必死になって日本側の動きを封じ込めようとするのであろう。場合によっては来年の4月を待たずにして、今秋に習近平氏が党のトップとなったときに、日本に対する攻勢が早くも始まってしまう可能性がある」と。
 産経新聞の中国スぺシャリスト、矢板明夫記者によると、既に中国では、政策の策定・調整の主導権が、胡錦濤国家主席から習国家副主席に移っており、尖閣問題で中国の一連の強硬な対抗策を主導しているのは、習氏だという。胡政権による対日協調路線が中国の国益を損なったとして、実質上否定された形であり、「中国政府の今後の対日政策は、習氏主導の下で、強硬路線に全面転換しそうだ」と矢板氏は書いている。
 8月10日の韓国の李明博大統領による竹島上陸や日本世論で強まる中国批判などを受け、状況が一変したらしい。
 9月19日習副主席は、中国を訪問したパネッタ米国防長官に対し、尖閣問題への不介入を要求した。日米を分断し、日本を孤立化させる狙いがあるものと考えられる。またわが国政府による国有化を「茶番」と断じた。習氏は尖閣問題で外交の前面に立つことで、自分の存在感を強め、権力基盤を一層固めようとしているのだろう。
 次期国家主席となる習近平氏は、人民解放軍の軍内保守派に支持基盤をもつ。対日協調路線を取る胡氏は、日本製品の不買運動や大規模な反日デモの展開には否定的だったが、習氏はこれを容認し推奨した。国連に対し東シナ海の大陸棚延伸案を正式に提出することも決定した。尖閣周辺海域を中国の排他的経済水域(EEZ)と正式宣言することに道を開き、日本と共同で資源開発する可能性を封印した。中国メディアの反日キャンペーンや、尖閣周辺海域に監視船などを送り込んだことも含め、すべて習氏が指示しているという。既に習近平時代は始まっていると見たほうが良い。そして、習近平氏が国家主席の座に就けば、以後、10年間は、習体制が続くことになるだろう。
 習氏は故習仲勲副首相を父とし、太子党すなわち中国共産党の高級幹部の子弟等で特権的地位にいる者たちのリーダーである。太子党と対立するのが団派、すなわち共産主義青年団出身者のグループである。その首領は、胡錦濤主席である。
 習氏は大学卒業後、北京の中央軍事委本部に勤め、その後の地方党・政府勤務でも各地で軍の分区書記を兼務してきた。軍とのつながりが強い。胡氏が共青団出身で軍との関係が浅いため、軍権掌握に苦労してきたのとは対照的だ。
 習氏は、また上海出身者による上海派の首領・江沢民のグループに連なっている。習氏は「ミニ江沢民」と呼ばれ、江氏同様、思想面では強硬派である。習氏は、21年秋、新疆ウイグル自治区で発生した騒乱事件で武力鎮圧を主張、温家宝首相ら穏健派と対立したと伝えられる。
 日本に対しては、胡主席は江沢民政権の反日民族主義政策を改めようとしたが、軍部は東シナ海の油田開発や尖閣諸島問題などで強硬策をとるよう圧力をかけてきた。江前主席が推挙した習氏が国家主席となると、対日政策は逆戻りすると見られてきた。既にそれが始まっているわけである。
 習氏は毛沢東を賛美する。朝鮮戦争を「侵略に立ち向かった正義の戦争」と断じてはばからない。22年10月朝鮮戦争参戦60周年行事で、老兵を前に「帝国主義侵略者が中国人民に強いた反侵略戦争の勝利」と「中朝両国軍の団結」を謳歌し、称賛した。
 習氏は、毛沢東思想を強調することによって、毛思想の影響が濃厚な軍を中心にした勢力の支持を固めてきた。習氏を推してきた軍部は、国内の経済的・社会的危機の中で、発言力を強めている。習氏が国家主席になれば、指導部への軍の影響力はこれまで以上に強まるだろう。
 中国では、現状への不満から民衆の間に毛沢東崇拝が復活しつつある。その度合いはまだ分からないが、共産党政権は、民衆の毛沢東崇拝のエネルギーを、愛国主義の中に吸収して、政権の基盤強化に利用し、対外侵攻を不満のはけ口にする可能性がある。またそれによって、一気に体制のファッショ化を進めるおそれがある。
 習近平政権が誕生するのはこれからだが、わが国は、既に習氏が中国の対日政策の主導権を握っていると見て、強硬化する中国に対して、領土と主権を守る覚悟と備えが必要である。

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●産経新聞 平成24年9月19日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/120919/chn12091911090003-n1.htm
【尖閣国有化】
対日強硬策、習近平氏が主導 韓国大統領の竹島上陸など機に一変
2012.9.19 11:06

 【北京=矢板明夫】日本政府による沖縄県・尖閣諸島の国有化を受け、中国で一連の強硬な対抗策を主導しているのは、胡錦濤国家主席ではなく、中国共産党の次期総書記に内定している習近平国家副主席であることが分かった。胡政権による対日協調路線が中国の国益を損なったとして、実質上否定された形。中国政府の今後の対日政策は、習氏主導の下で、強硬路線に全面転換しそうだ。
 複数の共産党筋が18日までに明らかにした。それによれば、元・現指導者らが集まった8月初めの北戴河会議までは、党指導部内では尖閣問題を穏便に処理する考えが主流だった。「尖閣諸島を開発しない」などの条件付きで、日本政府の尖閣国有化についても容認する姿勢を示していた。
 しかし、8月10日の韓国の李明博大統領による竹島上陸や日本世論で強まる中国批判などを受け、状況が一変した。「なぜ、中国だけが日本に弱腰なのか」と党内から批判が上がり、保守派らが主張する「国有化断固反対」の意見が大半を占めるようになったという。
 9月初めには、胡主席を支えてきた腹心の令計画氏が、政権の大番頭役である党中央弁公庁主任のポストを外され、習氏の青年期の親友、栗戦書氏が就任。政策の策定・調整の主導権が習氏グループ側に移った。
 軍内保守派に支持基盤をもつ習氏による、日本の尖閣国有化への対抗措置は胡政権の対日政策とは大きく異なる。胡氏はこれまで、日本製品の不買運動や大規模な反日デモの展開には否定的だったが、習氏はこれを容認し推奨した。
 また、国連に対し東シナ海の大陸棚延伸案を正式に提出することも決定。尖閣周辺海域を中国の排他的経済水域(EEZ)と正式宣言することに道を開き、日本と共同で資源開発する可能性を封印した。これは、2008年の胡主席と福田康夫首相(当時)の合意を実質的に否定する意味を持つ。このほか、中国メディアの反日キャンペーンや、尖閣周辺海域に監視船などを送り込んだことも含め、すべて習氏が栗氏を通じて指示した結果だという。
 習氏が今月約2週間姿を見せなかったのは、一時体調を崩していたことと、党大会準備や尖閣対応で忙しかったためだと証言する党関係者もいる。習氏が対日強硬姿勢をとる背景には、強いリーダーのイメージを作り出し、軍・党内の支持基盤を固める狙いもある。
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人権12~人間の尊厳

2012-09-22 09:22:02 | 人権
●人間の尊厳

 世界人権宣言は、第1条に「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」と記す。また「宣言」を具体化した国際人権規約は、人権を「人間の固有の尊厳」に由来するものとしている。自由権規約は次のように始まる。
 「この規約の締約国は、国際連合憲章において宣明された原則によれば、人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利を認めることが世界における自由、正義及び平和の基礎をなすものであることを考慮し、これらの権利が人間の固有の尊厳に由来することを認め、……」
 この項で言及したいのは、人間の「尊厳」についてである。「尊厳」は、英語dignityの訳語である。dignity の原義は「価値のあること」。そこから「尊さ、尊厳、価値、貴重さ」などを意味する。「尊厳」という漢語については、「広辞苑」は「とうとくおごそかで、おかしがたいこと」と解説している。
 では、なぜ人間には尊厳、言い換えれば価値があるのか。実は、世界人権宣言は、人間の尊厳を謳いながら、その尊厳について具体的に書いていない。それ以降の国際人権規約や各種国際人権条約も、同様である。その状態で、国際人権文書は、人間の尊厳という価値観の上に、人権の体系を組み立てている。そして、世界の大多数の国々がその文書に賛同し、参加している。これは奇妙な状態である、と言わねばならない。
 世界人権宣言や国際人権規約は、現在世界的に広く受け入れられている文書である。その文書に人間の尊厳について具体的に書かれていない。そのため、人類は、なぜ人間は尊厳を持つのか、その価値の根拠は何か、という問いに対し、まだ文化・文明・宗教・思想の違いを超えて広く受け入れられる回答を持つに至っていない。哲学、法学、政治学、人類学等において、さまざまな議論がされてきたが、まだ世界的な定説はない。世界共通の認識を確立できていないのである。
 私は、人間の尊厳という観念の背景には、キリスト教及びカントの哲学があると思う。近代西欧から世界に広がった人権の観念のもとにあるのは、ユダヤ=キリスト教の教義である。ユダヤ民族が生み出した宗教では、人間は神(ヤーウェ)が創造したものであると教える。神が偉大であるゆえに、神の被造物である人間は尊厳を持つ。しかも、人間は神の似姿として造られたとされる。人間は他の生物とは異なる存在であり、地上のすべてを支配すべきものとされる。
 ユダヤ教から生まれたキリスト教は、ローマ帝国の国教となり、近代西洋文明の一要素となった。人間の尊厳という観念は、キリスト教の神学に、受け継がれてきた。教父アウグスティヌスやトマス・アクイナスは、著書に人間の尊厳という観念を表している。彼らの思想は、古いようでいて、決して過去の遺物ではない。21世紀の現代においても、カトリックを中心として、信心深いキリスト教徒に、基本的な世界観・価値観を与えているからである。そこでは、人間の理性は、キリスト教的な全知全能の神の英知を、不完全な形で分有したものとされる。この観念がキリスト教神学にとまるものであったなら、非キリスト教社会に広がることはなかっただろう。キリスト教を信じない者には、そもそも人間は神(ヤーウェ)の被造物という考えは認められない。私は、人間の尊厳という観念が非キリスト教社会に受け入れられるものとなったのは、カントの哲学によるところが大きいと考える。
 私は先に、ロックの思想は17世紀以降、この21世紀まで、世界に甚大な影響を与えており、その重要性は、マルクスやニーチェやフロイトの比ではないと書いた。ロックの思想が世界に広まり、そのうえにカントの哲学が浸透している。象徴的に言えば、ロック=カント的な人間観が今日の世界に普及した人間観のもとにあると見ることができる。ロック=カント的な人間観とは、人間は、生まれながらに自由かつ平等であり、個人の意識とともに、理性に従って道徳的な実践を行う自律的な人格を持つ、という人間観である。
 カントは、18世紀西欧の「啓蒙の世紀」を代表する哲学者であり、アメリカ独立戦争やフランス革命を同時代として生きた。西欧では、天動説から地動説への転回をきっかけに、中世的な世界観が大きく揺らいだ。カントは、科学と道徳の両立を図って、宗教の独自性を認め、科学的理性的な認識の範囲と限界を定めつつ、神・霊魂・来世という形而上的なものを志向する人間の人間性を肯定し、理性に従って道徳的な実践を行う自由で自律的な人格を持つ者としての人間の尊厳を説いた。
 このようにカントは、人間の尊厳を伝統的なキリスト教の教義から離れて、近代的な哲学によって意味づけ直した。それによって、人間の尊厳という観念は、世俗化の進む西欧社会でも維持され、同時に非キリスト教社会にも伝播し得るものとなった。その観念は、今も世界に広まりつつある。
 ところが、その一方、大元の欧米では、19世紀半ば、ダーウィンの進化論が登場し、人間は神が創造したものではなく、猿から進化したものだという理論が広まった。また、西洋とキリスト教の歴史と現状を考察したニーチェが、「神は死んだ」と言い、ニヒリズムの到来を予言した。こうして、キリスト教的な神の存在を疑ったり、否定したりする思想が社会に影響を及ぼすようになった。ここで、仮に神という超越的な観念を排除すれば、そこには、人間の尊厳という観念のみが残ることになる。
 近代西欧には、科学技術の発達によって、人間は宇宙のすべてを知り、自然を支配することが可能だという考えが、早くから存在した。16世紀後半のフランシス・ベーコンに始まって、ホッブス、サン・シモン、コント等が主張してきた。18世紀以降、こうした科学万能の思想が影響力を強めていった。19世紀後半から20世紀へと進むに従って、欧米では人間の理性への過信や傲りが高じた。とりわけ二度にわたる世界大戦、そして核兵器の登場は、科学と理性について、深刻な反省を要する出来事だった。
 だが、非キリスト教社会は、近代西洋文明が直面している根本問題を徹底的に議論することなく、人間の尊厳という観念を受け入れ、国連憲章や世界人権宣言に賛同・参加してきている。世界の大多数の国々が西欧における近代化の成果、すなわち科学技術や資本主義、主権国家や合理主義等を摂取するのと同時に、人権という観念を輸入したのである。そして、人間の尊厳という観念は、深く検討されることなく、21世紀においても時が経過し続けているのである。

 次回に続く。

次は領域警備、そして憲法改正へ~西修氏

2012-09-21 10:21:13 | 尖閣
 駒沢大学名誉教授の西修氏は、保守派の憲法学者である。西氏は、9月7日産経新聞「正論」欄に、「領土・領域は憲法改正して守れ」という文章を書いた。李明博大統領の竹島上陸、中国人活動家の尖閣上陸を受けて、わが国は領土と主権を守るための法整備を至急断行する必要がある。西氏は、そのことを明快に主張している。
 領土と主権を守るための法整備として、西氏は第1弾が海上保安庁法と外国船舶航行法の改正、第2弾が領域整備法の制定、第3弾が憲法改正と説いている。これは多くの人が理解しやすい整理である。
 第1弾の海上保安庁法と外国船舶航行法は、この8月に改正がなった。前者の改正は、海上保安官に離島での陸上警察権を与え、犯罪対処を可能にした。後者の改正は、巡視船艇が違法船舶に立ち入り検査なく退去命令を発することができるようにした。西氏は「海上保安官の権限を拡大したことにより、領域保全の法整備が一歩、前進したといえる」と述べている。
 だが、海上保安官の権限を拡大しただけでは、領土・領海は守れない。相手が民間人の間はいいが、軍隊が攻めてきたときは、海上警察では対抗できない。そこで、早急に行うべきものが、第2弾の領域警備法の制定である。普通の国では、領域警備は軍隊が担う。西氏は、領域警備は治安の維持ではなく「国の安全保持を目的とする防衛作用」であり、「自衛隊法を改正し、自衛隊に領域警備の任を与える必要がある」、また「武器使用も警察官職務執行法を準用させるのではなく、国際法規に準拠させるよう改めるべきだ」という。
 しかし、第3弾として、憲法改正にまで踏み込まなければならない。「なぜなら、現行憲法では、国家主権を保全するための規定は皆無だからである」と西氏は言う。国の平和を維持しつつ、国家主権が侵犯されないようなあらゆる措置を講じることは、「国家が果たすべき最大の任務」であるとして、「憲法を改正して領土・領域の保全を明記する条項を導入することは、国家主権を保持するための当然の帰結といわなければならない」「国家主権を確保するための憲法条項を導入する問題と真摯に向き合うときが、来ていると思う」と西氏は主張している。
 私としては、領土と主権を守るための法整備に、もう一点、集団的自衛権の行使を加えるべきだと思う。集団的自衛権は、国連憲章に盛り込まれている権利である。「国際法上は保有するが、憲法上、行使できない」という政府の立場はおかしい。内閣法制局の官僚による詭弁的な解釈を改め、集団的自衛権を行使できるとする必要がある。法の制定ではなく、解釈変更という広義の法整備である。
 尖閣をめぐり、日中紛争となる可能性がある。展開によっては、日米安保第5条により米軍が出動する。その際、わが国が集団的自衛権を行使できない状態だと、日米は緊密な共同作戦を行えない。仮にわが国が集団的自衛権を行使できないことによって米軍が損害を受け、犠牲者が出た場合、米国世論は日本への不満を高めるだろう。集団的自衛権の行使は、政府の解釈変更によって可能にできる。政府は速やかに権利行使を決断すべきである。
 既に海上保安庁法と外国船舶航行法の改正はなったので、現段階にける法整備は、第1弾に領域警備法の制定、第2弾に集団的自衛権の行使、第3弾に憲法改正とすることで、課題が明確になると思う。
 以下は、西氏の寄稿記事。

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●産経新聞 平成24年9月7日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120907/plc12090703180006-n1.htm
【正論】
駒沢大学名誉教授・西修 領土・領域は憲法改正して守れ
2012.9.7 03:17

 国家主権、とりわけわが国の領域を保全する法体制が早急に整備・強化されなければならない。
 野田佳彦首相は8月24日の記者会見で、韓国国家元首としてあるまじき李明博大統領の島根県・竹島への上陸、香港活動家らの沖縄県・尖閣諸島への上陸を受けて、「わが国の主権に関わる事案が相次いで起こっており、誠に遺憾の極みであり看過できない。国家が果たすべき最大の任務は平和を守り国民の安全を保障し、領土、領海を守ることだ。首相としてこの重大な務めを毅然とした態度で冷静沈着に果たし、不退転の覚悟で臨む決意だ」と明言した。こうした首相の「決意」表明は、遅きに失したとはいえ、評価できる。

≪海上保安庁法改正は第一弾≫
 第一弾として、今国会でようやく「海上保安庁法」と「外国船舶航行法」の改正法が成立した。前者の改正は、海上保安官に離島での陸上警察権を与え、犯罪対処を可能にする。8月15日の香港活動家らの尖閣諸島上陸では、あらかじめ察知されていたので、警察官を配備し、逮捕に踏み切ることができた。今後は警察官が速やかに駆け付けることができないような遠方の離島でも、海上保安官が被疑者に対して質問、捜査、逮捕することができるようになる。
 後者の改正では、活動家らを乗せた船舶が日本領海で停泊、徘徊している場合、海上保安官が立ち入り検査をすることなく、退去の勧告を行うとともに勧告に応じない船舶に対しては、罰則付きで退去命令を発することができるようになる。海上保安官の権限を拡大したことにより、領域保全の法整備が一歩、前進したといえる。

≪領域警備法の制定が第二弾≫
 取るべき第二弾として、新たに領域警備法を制定することが求められる。同法の制定については、平成11(1999)年3月23日に発生した北朝鮮の工作船による領海侵犯事件後に検討されながら、その後、放置された状態になっている。この事件では、巡視船が北朝鮮の工作船を追跡し、至近距離に護衛艦がいたにもかかわらず、「海上警備行動」が発令されるまで何の行動も取ることができず、工作船の領海外への逃走を許すという大失態を演じた。当時の反省が生かされないままになっているというのは不可解極まりない。
 諸外国において、領域警備は、軍隊がその役割の中枢を担う。わが国への領海侵犯は、今後ますますエスカレートし、偽装船団が大量の武器を保有してやって来る可能性がある。領域警備は、治安の維持を目的とする警察作用というより、国の安全保持を目的とする防衛作用と把握すべきである。
 そのような側面から、自衛隊法を改正し、自衛隊に領域警備の任を与える必要がある。自衛隊、海上保安庁、および警察が普段から連携を密にし、共同訓練などを通じて、隙のない領域警備体制を整えておかなければならない。同時に、自衛隊の領域警備時における武器使用も警察官職務執行法を準用させるのではなく、国際法規に準拠させるよう改めるべきだ。
 藤村修官房長官は、8月20日の記者会見で、領域警備法の制定には否定的な発言をしたが、野田首相は、領土、領海を守るために、「不退転の覚悟」を表明したのではなかったのか。もし、藤村発言が中国・韓国に対する「配慮」からなされたということであれば、「弱腰」のそしりは免れまい。

≪現行憲法に主権保全規定なし≫
 そして第三弾として、憲法改正にまで踏み込まなければならない。なぜなら、現行憲法では、国家主権を保全するための規定は皆無だからである。憲法は、前文で「自国の主権を維持」することをうたっているが、その具体的方策を示していない。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意」(前文)しても、何らの方策にもなり得ないし、また、9条には、平和主義の宣明を目的に侵略戦争の放棄や戦力の不保持などが定められているにすぎない。
 国の平和を維持しつつ、国家主権が侵犯されないようなあらゆる措置を講じることは、「国家が果たすべき最大の任務」である。憲法を改正して領土・領域の保全を明記する条項を導入することは、国家主権を保持するための当然の帰結といわなければならない。
 8月31日付産経新聞オピニオン欄には、憲法9条に関するアンケート(4678人から回答)の結果が載っている。それによると、9条改正に92%が賛成し、自衛隊を軍隊と位置付けるべきだとする意見が91%にも達したという。今や、憲法9条改正へのタブー視は払拭されているといってよい。
 9月1日に、21世紀を担う若者の人間力育成を目指して、同紙が主宰する「産経志塾」で講義する機会があった。塾生たちは、私の9条改正論に熱心に耳を傾けてくれた。質問などを通じ、国の守りをどうするのか真剣に考えようという健全な若者が輩出してきていることに安堵した次第である。
 国家主権を確保するための憲法条項を導入する問題と真摯に向き合うときが、来ていると思う。(にし おさむ)
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関連掲示
・領域警備は、拙稿「尖閣~領域警備の法整備を急げ」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/dbd421f984668e2ab95e080d1c7f1846
・集団的自衛権は、拙稿「集団的自衛権は行使すべし」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion08n.htm
・憲法改正は、拙稿「憲法第9条は改正すべし」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion08m.htm