goo blog サービス終了のお知らせ 

ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

COP26~人類は気候変動を生き延びられるか5

2021-11-24 10:17:01 | 地球環境
 COP26について、杉山大志氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)が、産経新聞11月22日付に大局的な見方を書きました。「中国は何一つ譲らず、完全に独り勝ち」「先進各国は脱炭素で自滅する」という見方です。氏の専門は、温暖化問題およびエネルギー政策です。

産経新聞 2021.11.22付けより
 「COP26のポイントは2つある。まず、中国は何一つ譲らず、完全に独り勝ちだったということだ。2030年まで石炭火力も作り続ける一方、脱炭素化の目標は先進国が50年としたのに対し、中国は60年とするなど結局、所期のポジションから一歩も引かなかった。
 もう一つは、先進各国は50年の脱炭素をCOPの場でも宣言しただけでなく、毎年、進捗をチェックすると自分たちから言い出したことだ。これは勝手に自分たちの首を絞めているようなものだ。先進国は、二酸化炭素(CO2)を減らし、開発途上国にも多大な資金援助をすると約束したが、米国を筆頭に、各国国内で議会の承認を得られる見込みは低い。来年のCOPで早速、進捗を確認するとしたが、ほぼ間違いなく言行不一致で猛烈に糾弾されるのではないか。(略)
 COP26では石炭火力の議論が特に注目されたが、最終的には「段階的な削減努力」との文言にとどまった。英国政府や環境団体は「石炭は終焉」と言いはやして回ったが、そんなことはない。日本政府は、一定割合の石炭火力を堅持する方針だが、それに変更を迫るようなものではない。これは重要な点だ。
 原子力の存在も重要だ。COP26ではあまり話題にならなかったが、フランスや東欧を筆頭に、本当に脱炭素を進めるならば原子力が大事だ、というのが世界的な流れになっている。日本も原発の再稼働はもちろん、新増設や新技術の開発などに乗り出すべきだ。
 現在、世界的にエネルギー価格が高騰し、再生可能エネルギー優先の脱炭素政策は早くも問題が露呈した。現実的に脱炭素を目指すならば、再エネ最優先の考え方を今からでも見直し、原子力のさらなる利用を考えるべきだ」

 杉山氏は、同じ趣旨の記事「COP26閉幕:脱炭素で自滅する先進国を尻目に中国は高笑い」を11月15日付のDaily WiLL オンラインにも書いています。
https://web-willmagazine.com/energy-environment/1C2hs?fbclid=IwAR0whvn9NAN6FEaSz_Ak6eXmgUD7D0U_1oRTYrKDuqEQ92ovQtJnf-1eJSU
 
 私は、杉山氏の「中国は何一つ譲らず、完全に独り勝ち」「先進各国は脱炭素で自滅する」という見方、及び石炭火力と原子力の活用が必要という意見に賛同します。
 ところで、地球環境問題に関する政治家や専門家の見解には、重大な点が欠けています。杉山氏も同様です。中国の環境政策を世界戦略とリンクしてとらえていないことです。中国は、2030年まで石炭火力も作り続ける一方、脱炭素化の目標を2060年としていますが、この環境政策のスケジュールと、世界的な覇権奪取のスケジュールを重ね合わせてとらえなければいけません。
 中国は、「中華民族の偉大な復興」の下に「人類運命共同体」を構築するとして、2035年までに西太平洋の軍事的覇権を握り、2049年の中華人民共和国創設100周年までに世界覇権を握るという方針を打ち出しています。また、この方針のもとに世界最強の軍隊を保有する計画を進めています。特に海軍の増強に力を入れており、中国は既に海軍の艦船の数で米国を抜き、世界最大の海軍を持つに至っています。また、急速に核弾頭保有数を増やし、従来の「最小限の抑止力」の核戦略を変えて核戦力の急速な拡大を図っています。
 ここで中国の地球環境政策のスケジュールと世界的な覇権奪取のスケジュールを重ね合わせると、次のようになります。

・2030年まで石炭火力も作り続ける
・2035年までに西太平洋の軍事的覇権を握る
・2049年までに世界覇権を握る
・2060年に脱炭素化の目標を実現する

 もしこのスケジュール通りに進んだら、2050年の地球は、中国の非協力によって地球温暖化を抑えられず、気候変動による環境の破壊が進む中で、米国をはじめとする先進国は衰退を続け、中国が軍事的・経済的に支配する世界となるでしょう。それを共産党政府は「人類運命共同体」の実現と称し、「中華民族」の繁栄のために、他の国民・民族を利用・搾取し、また生存の危機にさらす恐るべき社会となるでしょう。

関連掲示
・拙稿「『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』の衝撃」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09o.htm

※本稿を含む「COP26~人類は気候変動を生き延びられるか」の全文を下記に掲示しています。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09.htm
 目次から30へ

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

************************************

COP26~人類は気候変動を生き延びられるか4

2021-11-16 11:19:26 | 地球環境
●合意文書「グラスゴー気候協定」を採択

2021.11.16
 COP26は11月12日までの予定でしたが、交渉は難航。会期を1日延長して議論を続け、11月13日、合意文書「グラスゴー気候協定」を採択して閉幕しました。
 文書の採択を受け、議長国・英国のジョンソン首相は「大きな前進」と表明し、「私たちは石炭(火力発電)を段階的に削減する史上初の国際合意と、(産業革命前と比べた気温上昇を)1.5度に抑える行程表を手にすることができた」と評価しました。
 ブルームバーグの記事は「1.5度に抑えるパリ協定の努力目標を辛うじて踏襲する内容となった」が、「最大の争点の解決は将来に持ち越された」と伝えました。

 以下、各種報道の内容を整理したもの。

◆合意点

・世界の気温上昇を産業革命前から1.5度以内に抑えるという「パリ協定」の努力目標に関して、「努力を追求する」と明記した。議長国・英国の当初案は「努力する」だったが、「努力を追求する」と修正して合意されたもの。
・石炭火力については、議長国・英国が「段階的な廃止(phase-out)」の表記を盛り込むことを目指していた。だが、表現を弱め、「段階的な削減(phase-down)」に変更された。
 採択の直前にインドが、「途上国は貧困撲滅などに取り組まねばならないのに、なぜ石炭を段階的に廃止する約束ができるのか」と当初の文書案に疑問を突き付けた。これに世界最大の温室効果ガス排出国であり、「途上国代表」を自任する中国が同調したことで流れが変わった。
・先進国が技術支援などを通して途上国の温室効果ガスの排出量を減らした場合、その削減量を先進国の削減分として計上できる「市場メカニズム」について合意した。市場メカニズムは、途上国の温暖化対策を促進する狙いがあるが、パリ協定以後、運用ルールが定まっていなかった。6年越しの交渉が決着した。
・先進国から途上国への資金支援では、2020年までに年間1000億ドル(約11兆円)を支出するとした目標が未達成であることについて、途上国側から「約束違反だ」との不満が上がった。文書では「深い遺憾」を表明。先進国が早期に実現することを改めて約束した。背後で中国が途上国に働きかけた。先進国と途上国の対立に中国がつけ込むいびつな構造は、今後の気候変動対策の足かせになると予想される。

◆批判と不満

・今回の合意は中国や米国、インドなど温室効果ガスの主要排出国が向こう数十年かけて約束を守るという前提に依存している。だが、約束を守らなかった場合の罰則はない。
・石炭使用の「段階的な廃止」が「段階的な削減」に変更され内容が後退したことに代表らから反発の声が出た。欧州連合(EU)やスイス、島しょ国の閣僚らが「表現の変更に失望した」と表明した。だが、採択には反対しなかった。
・日本の石炭火力発電の技術は、環境への負荷の少なさで世界最高水準。どうしてわが国は日本の石炭火力発電の技術をCOP26で大いにアピールし、議長国イギリスに有効性を理解させ、米国・中国・インド等に活用を求めなかったのか。
・環境活動家からは、途上国のクリーンエネルギー移行や気候変動対策を富裕国が財務面で支援する取り組みが十分ではないという批判の声がある。極左の活動家は中国共産党と連携していると見られ、中国の姿勢を批判していない。

◆今後の予定

・2022年のCOP27はエジプト、23年のCOP28はアラブ首長国連邦(UAE)で開くことが固まった。

◆COP26の期間の上記以外の動き

・英国などは11月2日、2030年までに温室効果ガスの吸収源となる森林の減少を食い止めるとの共同宣言を発表。参加した100カ国超は世界全体の森林面積の約85%を占める。
・英国は11月10日、全世界の新車販売を40年までに電気自動車(EV)などに切り替えるとの宣言を公表したが、2大市場である米中のほか、日本やドイツも賛同しなかった。

◆1.5度目標達成への見通し

・COP26の合意文書「グラスゴー気候協定」の採択を受け、シャルマ議長は1,5度目標の達成に「望みを残せた」と述べた。だが、達成への道筋はまだ描き切れていない。合意文書は2030年の削減目標を2022年末までに再検討するよう各国に求めたが、「必要に応じて」とのただし書きが付いた。目標達成には、排出量を2030年までに2010年比で45%削減する必要があるとされる。だが、国連の最新分析によれば、各国が掲げる削減目標では30年の排出量は10年比で13.7%増えてしまうという見通しである。
・このまま2030年に至った時は、以後、1,5度目標の達成は極めて困難になるだろう。中国・米国・インド・ロシア等の排出量の多い国が大きく政策を転換し、また先進国と途上国が生存のために協力し合うとともに、脱炭素化を飛躍的に推進する技術の開発・普及なくして、人類が気候変動を生き延びることはできなくなるだろう。

関連掲示
・拙稿「『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』の衝撃」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09o.htm

※本稿を含む「COP26~人類は気候変動を生き延びられるか」の全文を下記に掲示しています。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09.htm
 目次から30へ

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

************************************

COP26~人類は気候変動を生き延びられるか3

2021-11-12 10:27:11 | 地球環境
 COP26は11月12日までの予定。大詰めの段階ですが、各国の立場は様々で、どこまで合意ができるかまだ不透明です。以下は報道のまとめ。

●成果文書案のやりとり

共同通信の記事より 2021.11.10
 「国連気候変動枠組み条約事務局が10日、世界の気温上昇の幅について『1・5度に抑えるための努力を追求すると決意する』との内容を含む、同条約第26回締約国会議(COP26)で採択を目指す文書の草案を発表した。草案には『石炭と、化石燃料への補助金の段階的廃止を加速するよう、締約国に求める』と記載された。
 日本は二酸化炭素(CO2)排出が多い石炭火力の国内利用を続けており、対応が求められそうだ。
 文書草案は、パリ協定の目標に合致するよう、2030年の温室効果ガス排出削減目標を22年末までに再検討し、強化することも各国に求めたCOP26議長国の英国が各国から意見を聞いて草案を作成。各国は、文書の合意を目指して議論する」

時事通信の記事より 2021.11.11
 「(略)議長国・英国が10日示した成果文書の原案について、NGOや途上国から『(内容が)不十分』と批判の声が上がっている。
 国際協力団体オックスファム代表団は声明で、『人々は前例のない異常気象の下での暮らしを強いられ、さらなる貧困へと追い込まれている。(原案は)そうした気候変動問題の緊急性に対応していない』と一蹴。『温室効果ガス排出量削減の設定目標をさらに野心的なものにする姿勢が明確でない』とし、『より良い合意』策定に向けて協議を続けるよう促した」

●ゼロエミッション車への切り替え

産経新聞の記事より 2021.11.10
 「(略)議長国を務める英国は10日、全世界の新車販売について、2040年までに走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しない『ゼロエミッション車』に切り替えるとの宣言を発表した。20カ国以上が賛同したが、日本や米国、中国、ドイツは加わらなかった。2大市場である米中の不参加で、温室効果ガス削減の効果は不透明とみられる。
 『ゼロエミッション車100%への移行加速のCOP26宣言』と銘打たれた文書では、世界全体で40年までに、主要市場では遅くとも35年までに新車販売の全てをゼロエミッション車にする目標が明記された。ゼロエミッション車には、電気自動車(EV)などが含まれる」

読売新聞の記事より 2021.11.11
 「英グラスゴーで開催中の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、日本や米国、英国、ドイツなど約20か国・地域が、電気自動車(EV)をはじめ二酸化炭素(CO2)を排出しない「ゼロエミッション車」の普及に向けた実行計画をまとめたことが10日、分かった」
 「COP26では、英国やスウェーデンなど約20か国が2040年までに世界の新車販売のすべてをゼロエミッション車とする目標に合意した。日米やドイツは参加していないが、EV市場の拡大を見据えて各国で協力体制を築く」
 「計画によると、EV用の充電インフラを普及させるため、各国で民間企業に投資を促す政策をとる。また、メーカーが同じ条件で開発や販売を競えるように、走行性能について統一の基準を検討する。車載電池の価値を評価するための基準をつくり、中古車市場で売買しやすくする。
 サプライチェーン(供給網)の強化でも協力する。EVは1回の充電で走れる距離がガソリン車よりも短く、充電は早くても30分かかる。電池の高性能化には希少金属が必要なため、産出国である中国やアフリカなどから安定して調達できる体制づくりで連携する。

●米中のかけひき

時事通信の記事より 2021.11.11
 「米中両政府は(略)COP26で、2020年代に気候変動対策で協力する共同宣言を発表した。これまで外交的に対立を深めてきた両国の共同宣言は異例。米中は温室効果ガスの世界1、2位の排出国で、大詰めを迎えたCOP26の議論にも影響を与えそうだ。中国政府によると、米中両政府は再生可能エネルギーの普及や電力部門の脱炭素化などで協力を進めることで一致した」

産経新聞の記事より 2021.11.11
 「外交や経済で対立する両国だが、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を舞台に「協調」の演出を優先させた形だ。ただ、中国は一段の対策強化には依然、慎重姿勢をみせており、温度差も否めない」
 「共同宣言は2020年代が『重要な10年間』だと指摘。バイデン米政権が30年までの対策強化を重視する方針に呼応した格好だ。ただし、焦点となった温室効果ガス排出削減目標や、強力な温室効果ガスの『メタン』対策で、中国に具体的な対策強化を義務づけるような言及は避けており、これにより中国側に受け入れの余地ができたもようだ。
 米国など100以上の国・地域は2日にメタンの排出量を30年までに20年比で3割削減することで合意したが、中国は参加を見送った。これは従来の目標や対策の強化につながるものだった。中国は共同宣言で、メタンに関する中国独自の行動計画をつくると表明したが、同合意に参加するかどうかは明言していない」

国際政治学者・島田洋一氏のコメント
 「米国の昨年度の電源構成は、火力(化石燃料)60%、原子力20%、再エネ20%。再エネ20%の内訳は風力8.4%、水力7.3%、太陽光2.3%。
 ジョン・ケリー気候変動特使は2035年までに火力全廃と言うが、少なくとも米国は実行不可能だろう。日本の政治家はバイデン政権の言葉ではなく、米国の現実を見なければならない。なおアメリカは小型原子炉の開発に動いている」

●原子力発電の見直し

TBSのニュースより 2021.11.10
 「フランスのマクロン大統領は、原子力発電所の建設再開を発表しました。エネルギーの脱炭素化といった気候変動問題への対応などを理由としています。
 マクロン大統領は9日のテレビ演説で、『外国に依存せず適正価格でエネルギーを購入するためには、省エネとともに国内の脱炭素のエネルギー生産に投資しなければならない』として、原子力発電所の建設を再開すると発表しました。
 フランス政府は電力の原発依存度を2035年には現在の70%から50%に引き下げる計画ですが、有力紙『ル・モンド』によりますと、EPR=ヨーロッパ加圧水型炉と呼ばれる原発6基の新設を検討しているということです。新規のEPR着工は2007年以来となります。
 ヨーロッパでは最近、天然ガスの価格が高騰していることに加え、温室効果ガス削減の手段として原子力を見直す動きが進んでいます」

島田洋一氏のコメント
 「『原発への支持が首脳会議でこれほど明確に幅広く示されたことはなかった』(マクロン仏大統領、EU首脳会議後の会見で)。米国も小型原子炉の利用、輸出に踏み出した。反原発幻想に浸る『井の中の日本』は完全に梯子を外されつつある」

 以下、随時掲載。

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

************************************

COP26~人類は気候変動を生き延びられるか2

2021-11-09 10:16:24 | 地球環境
●森林を維持し、メタンの排出を減らす

 COP26は、11月1日から12日までの12日間の日程で行われています。
 11月2日には、首脳級会合を開催しました。100以上の国・地域の首脳が参加し、温暖化対策の強化や途上国への資金支援などを表明。米国や日本など参加した首脳らは、2030年までに温室効果ガスの吸収源となる森林の減少を食い止めるとの共同宣言を発表しました。参加した100カ国超は世界全体の森林面積の約85%を占め、画期的な宣言となります。また、多くの参加国は、二酸化炭素(CO2)より温室効果が高いメタンの排出を30年までに20年比3割削減することで合意したとも発表しました。メタンは温室効果ガスでは二酸化炭素に次ぐ排出量を占め、実現すれば、0.2度の気温上昇を防げる可能性があるとされます。
 首脳級会合の終了後、米国のバイデン大統領は、「私が参加したことで世界がアメリカとそのリーダーシップの役割をどのように見ているかに大きな影響を与えた。率直に言って、中国が姿を見せなかったのは大きな過ちだったと思う」と話しました。COP26に対面式で参加しなかった中国の習近平国家主席を名指しで批判したもの。ただし、軍事力をそう題し続ける中国との関係については、「競争であり、衝突である必要はない」と強調しました。同じく欠席したロシアのプーチン大統領に対しても「世界中の人々やCOP26に参加しているすべての人々に影響を与える力を失った」と批判しました。
 インドのモディ首相は、首脳級会合で演説し、温室効果ガス排出量を2070年までに実質ゼロにする目標を表明。インドが排出ゼロの目標時期を公表するのは初めてです。インドは中国、米国に次いで排出量が世界で3番目に多く、目標の提示は気候変動対策の前進につながります。しかし、日米欧が2050年までに2050年までに実質ゼロにする目標を掲げて取り組んでいるのに対し、インドはその20年先に目標を置くという消極的なもの。世界最大の温室効果ガス排出国である中国やロシアなどは、2060年までとする目標を掲げているので、さらに10年先とするインドの2070年は中露を喜ばせるものです。
 中国・インドは先進国と発展途上国の立場の違いを利用し、自らは発展途上国側に立っています。途上国には、多くの温室効果ガスを排出してきた先進国が温暖化対策でより大きな責任を担うべきだという考えが強くあります。そのため先進国は途上国の対策に資金援助をしています。先進国は2020年までに年間1千億ドル(約11兆円)を拠出し、25年までこの規模を維持すると約束しました。目標は現時点で未達だが、途上国は2026年以降も支援の継続・拡充を求めています。
 COP26で各国が合意した温暖化対策が実行されれば、国際的枠組み「パリ協定」の目標に近づくとした分析結果を、複数の国際機関が公表しました。
 国際エネルギー機関(IEA)の分析結果は、今世紀末までの上昇幅が1.8度になるというもの。ファティ・ビロル事務局長は、この分析結果を「大ニュース」とツイートしつつも、努力目標である1.5度には届いておらず、「もっと(努力が)必要だ」とコメントしました。
 「国連の気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)に加わる科学者らの調査機関「クライメート・リソース」の分析結果は、1.9度。パリ協定で「2度を大きく下回る」とした長期目標に近づいたので「歴史的瞬間だ」と評価。ただし、現在の合意だけでは30年頃に上昇幅が1.5度に達するから「道のりは遠い」と指摘しています。

●石炭火力発電をどうするか

 ところで、COP26の議長国・英国は11月4日、40カ国以上が石炭火力発電を段階的に廃止することを目指す声明に賛同したと発表しました。石炭火力が気温上昇の「唯一最大の原因」であり、クリーンエネルギーへの移行を早急に進めるべきだと指摘。先進諸国は2030年代まで、世界全体では40年代までに石炭火力を廃止する方針を盛り込んでいます。既に石炭火力からの撤退を宣言していた英国やフランスなどに加え、ベトナムやポーランドなど23カ国も声明に加わったとのことです。
 ただし、発電コストの安い石炭火力を主要電源とする中国やインド、石炭産業を擁する日本、米国、豪州などは声明に加わっていません。わが国は、2030年度に総発電量の19%を石炭火力でまかなうとしたエネルギー基本計画を10月に閣議決定しました。石油・天然ガスを自国で産出できないわが国は、新たなエネルギー体系に移行するまでの期間、石炭を利用せざるを得ません。わが国は、石炭火力について、環境に配慮した高い技術を持っています。
 以下は、J-Power のサイトよりの要約です。
 石炭が燃焼すると SOx(硫黄酸化物)、NOx(窒素酸化物)、煤塵が発生します。日本は過去40年以上にわたり環境対策技術や効率的な燃焼方法を開発するなど環境負荷を低減する努力を行ってきた結果、世界の石炭火力を牽引する存在となりました。日本の石炭火力はSOxやNOxの排出量はきわめて少なく、欧米と比べてもクリーンなレベルを誇っています。
 また、石炭は、同じ電気をつくる場合、燃焼によって発生するCO2は天然ガスと比べると2倍近くになりますが、日本の石炭火力は蒸気タービンの圧力や温度を超々臨界圧という極限まで上昇させる方法で、欧米やアジア諸国に比べ高い発電効率を実現しています。仮に日本のベストプラクティス(最高水準性能)を排出の多い米国、中国、インドに適用した場合には、日本のCO2総排出量より多い約 12億t-CO2の削減効果があると試算されています。
 わが国の石炭火力の継続必要性について各国の理解を得るために、もっとわが国の石炭火力発電の技術の高さをアピールすべきだと思います。

●温室効果ガスの排出削減量取り引きの国際ルールで合意できるか

 COP26は、11月6日で前半が終了し、8日から閣僚級などによる詰めの交渉が始まりました。
 NHKの11月7日のニュースによると、後半は、パリ協定を着実に実施するためのルール作りなどをめぐる交渉が行われます。温室効果ガスの排出削減量を取り引きできる国際ルールや、各国が排出削減の達成状況を国連に報告する共通のフォーマットなどが具体的な論点となるとの見通しです。
 パリ協定第6条は、資金や技術の支援を行って海外の温室効果ガスの排出量を減らした場合、国連の認証を受けて自国の削減分として組み込んだり、政府間や民間で取り引きできるなどの制度を定めました。その制度の実施に向けたルール作りは、2018年のCOP24で議論されましたが、翌年のCOP25でも合意に至らず、パリ協定に基づくほかのルールが合意される中で、パリ協定の「最後のピース」と呼ばれています。
 協議が難航している主な理由は、一部の発展途上国が、京都議定書のもとで認証されていた削減量を、新たな枠組みであるパリ協定のもとでも活用できるよう主張したのに対し、先進国などが新たな削減につながらないとして難色を示し、紛糾したためとされます。また、削減量を支援した国と支援された国で二重に計上しないルールなどもさらなる検討が必要とされてきました。
 このルールが定まれば、企業などが海外での排出削減につながる事業を行うメリットが大きくなって「脱炭素ビジネス」が活性化し、各国の経済成長と気候変動の抑制につながると期待されています。
 COP26で各国が合意点を見いだすことができるのか、パリ協定の「最後のピース」をめぐる交渉は、会期末まで続く見通しと伝えられます。

関連掲示
・拙稿「『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』の衝撃」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09o.htm

 以下、随時掲載。

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

************************************

COP26~人類は気候変動を生き延びられるか1

2021-11-08 10:39:49 | 地球環境
●平均気温上昇を1.5度に抑える取り組み

 本年(令和3年、2021年)11月1日から、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が、英国のグラスゴーで開催されています。
 COPとは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)を批准するすべての国(締約国)が参加する会議であり、最高意思決定機関です。今回は26回目の締約国会議なのでCOP26と呼びます。
 COP26の開催に当たり、議長国・英国のチャールズ皇太子は、各国で熱波や山火事、洪水、干ばつなどが増加している中、COP26は気候変動から世界を救う「最後のチャンスの場」だと世界の指導者に訴えました。
 2020年に本格始動した温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は、世界の気温を産業革命前から2度未満に抑えることを目標とし、できれば1.5度未満とする努力目標を掲げています。
 2015年のCOP21において採択された「パリ協定」は、平均気温の上昇を、産業革命前を基準に2度より十分低く抑え、さらに1.5度目標を追求するとしました。
 2018年、ドルー・シンデルらが専門誌『ネイチャー・クライメート・チェンジ』に発表した研究は、温暖化が1.5度か2度かで、被害がどう変わるか計算しました。それによると、わずか0.5度の違いで、気候変動の影響による死者が1億5000万人以上増えると予測されます。死因は、酷暑、食糧不足、感染症等です。
 同じ年10月に発表された「国連の気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の特別報告書「1.5度の地球温暖化」では、平均気温の上昇の0.5度の違いで、死者が数億人増えると試算されました。IPCCが特別報告書で、2度と1.5度では気象や環境への影響に大きな差があると指摘したことにより、1.5度未満を目指す機運が国際的に高まっています。今回のCOP26では、目標に近づける道筋をつけられるかが焦点となっています。
 IPCC第1作業部会は、本年(2021年)8月9日、第6次評価報告書を公表し、温室効果ガスを多く排出すると、2021~40年に産業革命前と比べた世界の平均気温の上昇幅が1.5度を超える可能性が非常に高いとしました。直近の分析よりも10年近く早まりました。温暖化が加速しているということです。
 同報告書は、世界の平均気温が2011~20年に約1.09度上昇したと指摘し、向こう数十年の間に二酸化炭素などの排出を大幅に減少しない限り、21世紀中に上昇幅が1.5度か2度を超えるとの見方を示しました。さらに、今世紀末には最大3.3~5.7度上昇する可能性があると警告しました。
 また、1度の上昇で、50年に1度という高温は4.8倍になっており、10年に1度の大雨も1.3倍になっていると試算しました。平均気温の上昇が1.5度になると、50年に1度という高温は8.6倍、10年に1度という大雨の頻度は1.5倍になるとしています。さらに2度までいけば、50年に1度の高温は13.9倍、10年に1度の大雨は1.7倍になると予測しています。
 同報告書は、地球温暖化が手に負えなくなる状況に危険なほど近づいており、人類に責任があることは「疑う余地がない」と表明しました。
 同報告書について、産経新聞2021年8月11日付の社説「主張」は、私の年来の主張に通じることを次のように書きました。
 「IPCCの今回の報告書に率先して対応すべきは中国である。中国の二酸化炭素排出量は世界全体の約3割を占め、世界1位であるだけでなく、2位の米国に倍する突出した規模だ。 
 にもかかわらず、中国は今後9年間、二酸化炭素の排出増を続けることを公言している。さらには中国から低効率の石炭火力発電が途上国に広まる可能性もある。
 中国が舵を切らないかぎり、大気中の二酸化炭素濃度の増加は止まらない。習近平国家主席が今回のIPCCの報告書の警鐘を馬耳東風で聞き流すことのないよう、COP26での先進各国による強い説得を期待する」
 地球温暖化の主な原因は人間の活動ではないという見方、化石燃料を大量に使う経済活動を規制する必要はないという意見がありますが、それらの論は論者の意図に関わらず、共産中国の政策を容認または側面支援する結果になります。
 中国は、二酸化炭素を出しまくって経済成長し、その経済力で猛烈な軍拡をし、その軍事力で世界覇権を獲得しようとしています。地球環境を破壊しながら世界支配を実現しようとしているわけです。温暖化問題は、こういう観点からも論じる必要があります。
 さて、先に書いたIPCCの特別報告書「1.5度の地球温暖化」に基づくならば、気温上昇を1.5度未満に抑えるという目標の実現には、2030年には世界全体の温室効果ガス排出量を2010年比で約45%削減し、2050年ごろに「実質ゼロ」に抑える必要があります。また社会のあらゆる側面における大転換が急務です。しかし、いまの各国の目標では、逆に排出量は増加してしまいます。各国が一致して、削減目標の引き上げに進んでいけるのか、今回のCOP26の議論が注目されるところです。
 COP26議長国のジョンソン英首相は、気温上昇を1.5度に抑えるために、(1)石炭の段階的廃止の加速、(2)森林破壊の削減、(3)電気自動車への切り替えの加速、(4)再生可能エネルギーへの投資奨励を重視しています。また、自然保護のための適応や気候変動対策への資金も一つの重要な目標として掲げています。

 次回に続く。

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

************************************

地球温暖化が加速~IPCCの警告と中国という核心的問題

2021-08-21 10:09:03 | 地球環境
 国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会は8月9日、第6次評価報告書を公表。温室効果ガスを多く排出すると、2021~40年に産業革命前と比べた世界の平均気温の上昇幅が1・5度を超える可能性が非常に高いとしました。直近の分析よりも10年近く早まりました。温暖化が加速しているということです。
 同報告書は、世界の平均気温が2011~20年に約1・09度上昇したと指摘。向こう数十年の間に二酸化炭素などの排出を大幅に減少しない限り、21世紀中に上昇幅が1・5度か2度を超えるとの見方を示しました。さらに、今世紀末には最大3・3~5・7度上昇する可能性があると警告しました。
 同報告書について、ロイターの記事は、地球温暖化が手に負えなくなる状況に危険なほど近づいており、人類に責任があることは「疑う余地がない」と報告書は表明したと強調しました。地球の平均気温は「疑いなく人間の活動によって引き起こされた」排出によって、すでに産業革命前の平均から1.1度上昇しており、大気中の汚染の緩和効果がなければさらに0.5度上昇していたとみられるとも紹介しています。
 デイビッド・ウォレス・ウェルズが、2019年に出した著書『地球に住めなくなる日―「気候崩壊」の避けられない真実』(NHK出版)に書いた灼熱の地球の現実化が早まりそうな勢いです。私は本書の紹介文を下記に掲示しています。
 拙稿「『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』の衝撃」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09o.htm
 産経新聞は、8月11日の社説「主張」に、私の年来の主張に通じることを次のように書きました。
 「IPCCの今回の報告書に率先して対応すべきは中国である。中国の二酸化炭素排出量は世界全体の約3割を占め、世界1位であるだけでなく、2位の米国に倍する突出した規模だ。 
 にもかかわらず、中国は今後9年間、二酸化炭素の排出増を続けることを公言している。さらには中国から低効率の石炭火力発電が途上国に広まる可能性もある。
 中国が舵を切らないかぎり、大気中の二酸化炭素濃度の増加は止まらない。習近平国家主席が今回のIPCCの報告書の警鐘を馬耳東風で聞き流すことのないよう、COP26での先進各国による強い説得を期待する」
 地球温暖化の主な原因は人間の活動ではないという見方、化石燃料を大量に使う経済活動を規制する必要はないという意見がありますが、それらの論は論者の意図に関わらず、共産中国の政策を容認または側面支援する結果になります。
 中国は、二酸化炭素を出しまくって経済成長し、その経済力で猛烈な軍拡をし、その軍事力で世界覇権を獲得しようとしています。地球環境を破壊しながら世界支配を実現しようとしているわけです。温暖化問題は、こういう観点からも論じる必要があります。産経の社説はそこまで書いていませんが。

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

************************************

衝撃の書『地球に住めなくなる日』の紹介

2020-11-12 17:53:34 | 地球環境
 本年3月、デイビッド・ウォレス・ウェルズの著書『地球に住めなくなる日―「気候崩壊」の避けられない真実』の邦訳版が出版されました。衝撃的な本です。わが国が2050年まで、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにし、脱炭素社会の実現を目指すにあたり、本書は基本的な情報を提供するものと思います。マイサイトに本書の内容を紹介するページを設けましたので、ご案内します。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09o.htm

 以下、本稿の「はじめに」から掲載します。

--------------------------------------------------
 菅義偉首相は、本年(令和2年、2020年)10月26日、就任後初の所信表明演説で、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言した。私は、この方針を強く支持する。
 地球環境保護の主張は、今日左翼が主に行うようになっているが、最も激しく自然破壊を行なって来たのは、旧ソ連や共産中国である。
 今日、地球環境保護の取り組みが急務だが、この課題は、共産中国の民主化・自由化を実現することなくして、成功しない。なぜなら、共産中国こそ、地球環境破壊の最大の要因だからである。それだけでなく、共産中国は人類の文明を自滅に導く最大の要因にもなっている。私は、そうした観点から、中華共産主義の克服が現在の世界人類の第一の課題と考えるので、共産中国を批判することなく、中国の世界的な覇権拡大を容認する左翼の環境保護運動を欺瞞と見なしている。
 古来、日本人は人と人の調和とともに、人と自然との調和を大切にしてきた。わが国の保守には、日本の伝統・文化・国柄を尊重する「伝統尊重的な保守」と、アメリカ一極構造となった世界でアメリカニズム・グローバリズムに順応する「経済優先的な保守」がある。近年、伝統尊重的な保守派は、経済優先的な保守派の影響を受け、自然との調和という日本人の伝統的な精神を見失いがちになっている。私は、日本人は伝統的な精神を取り戻し、経済発展と環境保護の一体化を進めるべきだと考える。
 さて、本年は世界に最大級の影響をもたらす出来事が二つ起った。中国武漢発の新型コロナウイルスの感染拡大と、米国の大統領選挙の混乱である。私は、これらに関する情報に多く触れ、また多く発信してきた。しかし、私が最大の衝撃を受けたのは、地球環境問題に関する真に危機的な報告である。
 米国のジャーナリスト、デイビッド・ウォレス・ウェルズの著書『地球に住めなくなる日―「気候崩壊」の避けられない真実』が、その衝撃をもたらした。わが国が2050年まで、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにし、脱炭素社会の実現を目指すにあたり、本書は基本的な情報を提供するものと思う。
 デイビッド・ウォレス・ウェルズは、2017年(平成29年)7月、地球の気候変動の最悪の予測を明らかにした特集記事 ”The Uninhabitable Earth(居住できない地球)”を、ニューヨーク・マガジンに発表した。この記事は、同誌史上最高の閲覧数を獲得した。同誌の副編集長であるウォレス・ウェルズは、シンクタンク「新米国研究機構(NAF: New America Foundation)」のナショナル・フェローという肩書を持つ。2019年に、記事と同じタイトルの書籍を刊行すると、ニューヨーク・タイムズ、サンデー・タイムズ両紙のベストセラーリストにランクインするなどし、世界的に大反響を呼んだ。本書は、『地球に住めなくなる日―「気候崩壊」の避けられない真実』という邦題で、NHK出版から、本年(2020年、令和2年)3月に発行された。
 NHK出版は、自社のウェブサイトに、次のように書いて、本書の内容を紹介している。
 「今世紀末までに日本を含むアジアの大部分が居住不可能」「4℃の上昇で北極圏にヤシの木が生える」など、気候変動をめぐる数々の衝撃的な予測で世界的な反響を呼んだ『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』が、遂に日本登場。はたして「戦慄の未来」は訪れるのか? われわれに救いの道は残されているのか? 2020年3月14日(金)の発売に先がけ、本書よりその一部を抜粋して全3回にわたってご紹介します」
https://nhkbook-hiraku.com/n/nf705e3769deb
 また、WIRED のサイトは、次のように書いて、本書の内容を一部掲載している。
 「長引く山火事や頻発する水害など、いま地球の気候変動はますます加速しているように見える。だが「地球のためのディープテック」の第一歩は、「いま何が起こっているのか」という現状を正確に把握することから始まる。そのためには、世界的なベストセラーとなった本書がうってつけだろう。デイビッド・ウォレス・ウェルズの『The Uninhabitable Earth: Life After Warming』からは、気候崩壊の連鎖反応のあとに何が起こるのかが綴られている。それは衝撃的ではあるが、決して脅しや脚色ではない未来なのだ。2020年3月の待望の邦訳刊行を前に、『WIRED』日本版がピックアップした第4章、第5章を先行公開する」
https://wired.jp/2020/03/07/the-uninhabitable-earth-life-after-warming/

 以下、これら2種のサイトに掲載された文書を編集し、抜粋された文章が本書のどの部分に当たるかを補う形にして転載する。
--------------------------------------------------

************* 著書のご案内 ****************

 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

************************************

「米国はパリ協定離脱宣言を撤回すべし」をアップ

2017-07-06 09:30:09 | 地球環境
 6月17日から7月4日にかけてブログとMIXIに連載した米国のパリ協定離脱宣言に関する拙稿をまとめ、一部加筆してマイサイトに掲示しました。通してお読みになりたい方は、下記へどうぞ。

■米国はパリ協定離脱宣言を撤回すべし
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09n.htm

米国はパリ協定離脱宣言を撤回すべし6

2017-07-04 09:46:37 | 地球環境
●科学は万能ではないが、人為的原因の削減は人間の責任

 トランプ政権の環境政策への批判が強まる一方、米国には気候変動問題の全容や解決策が科学的に解明済みだと考える「科学万能主義」を戒める声もある。
 産経新聞6月12日付のワシントン支局・小雲規生記者は、次のように伝えている。
 ジョージア工科大学の元教授で気候変動問題の専門家、ジュディス・カリー氏は、本年3月、米下院科学・宇宙・技術委員会での公聴会で「IPCCの結論を確信をもって受け入れることは正当化できない」と述べた。気候変動に関する歴史的なデータは不十分なうえ、将来の気温の変化を予測するための計算モデルは極めて複雑で完成形があるわけではない。複雑なモデルには前提条件をわずかに変えるだけで、長期的な予測結果が大きく揺らぐ性質もある。にも関わらず連邦政府の支援を受ける研究機関や大学は研究者に対して、IPCC報告書に象徴される統一見解に従うよう「圧力」をかけている、とカリー氏は述べた。
 ピュリツァー賞の受賞者で現在、米紙ニューヨーク・タイムズのコラムニストのブレット・スティーブンス氏は、IPCC報告書について「洗練されたものではあるが、間違っている可能性からは逃れられない」と指摘し、「科学について完全に正しいと主張することは科学の理念に背くことになる」と主張している。
 また1980年代からNYTなどで気候変動問題を取材してきたジャーナリストのアンドリュー・レブキン氏は、「分からない問題が存在することを過小評価すれば、かえって問題を解決しようとしない人たちに力を貸すことになる」として、科学で未来を完全に予測できないことを認めたうえで、幅広い解決策を模索するべきだとする。
 小雲記者は、上記のような専門家やライターの見解を引くとともに、「米国における立場の違いは科学的な知識の有無ではなく、所属するコミュニティーに左右されるとの指摘もあり、離脱派と残留派の対立は「文化戦争」の様相を呈している」と述べている。
 ロイター通信が6月6日に発表した米国の世論調査によると、パリ協定離脱への支持は、全体では39%という低水準だった。しかし、共和党支持層では70%、民主党支持層では17%と好対照をなした。どの政党を支持するかで、離脱への賛否が大きく分かれる。
 同じ傾向が2013年のある世論調査でも見られた。大気中のCO2の増加が気温上昇を引き起こしていると科学者の多くが考えていることについて、共和・民主の両党の支持層で認知度に大きな違いはなかった。しかし、「人間が地球温暖化を引き起こしていると信じているか」との質問に、民主党支持層は80%超が同意したが、共和党支持層は約25%の同意に留まった。イエール大学のダン・カーン教授は、「人々が気候変動について何を信じるかは、知識に左右されるのではなく、回答者がどういう社会的なグループに属しているかに左右される」と述べているという。カーン氏は、気候変動問題をめぐる対立への注目が高まるなかで自分が属しているグループと異なる意見を持つことは、グループ内での立場を危うくすると指摘し、「合理的な人間ならば、自分が属しているグループ内で大勢となっている意見を取り入れるだろう」と見ている。小雲記者は「気候変動問題をめぐる米国内の対立は科学的な知見とは無関係な、経済や社会、地域などに深く根ざした文化間の戦争状態にあるといえそうだ」と書いている。
 私見を述べると、IPCCの評価報告書は、地球温暖化の原因をすべて人工的なものだとは断定していないのではないか。第5評価報告書は「人間による影響が20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な原因であった可能性が極めて高い」という書き方をしている。数百万年から数億年という超長期的な時間の幅で考えると、現在地球に起っている気候変動には自然的な原因があることも考えられる。太陽黒点の活動や地球自体の物理的な変化も考えられる。しかし、人為的な原因が全くないとは考えられない。産業革命後の急速な産業の発達による温暖化効果ガスの排出の影響を過小評価してはいけないと思うし、まったくその効果を否定する一部の科学者の姿勢には疑問を感じる。仮に自然的原因と人為的原因が重合していると考えても、人為的な原因については削減を図ることが必要だし、それは人間の責任として努力すべきことだろう。事は温暖化に限らない。全地球規模で沙漠化、森林消失、大気・土壌・水質・海洋お汚染、種の大量絶滅等々が進行している。これら全体への取り組みと、地球温暖化の対処は、切り離せない課題である。
 産業革命以来、経済的な発展に猛進し、環境との調和を軽視してきたことが、現在の人類文明と地球生態系の危機を生み出している。そのことへの真摯な反省なく、温暖化問題への取り組みよりも、自国の労働者の雇用や自国民の経済的利益の確保を優先する姿勢は、長期的に見た時には、子供や孫、またその先の世代の将来を損なうことになるだろう。

●パリ協定宣言への反発が広がる

 トランプ大統領は、6月1日パリ協定から離脱することを宣言した。米国は温室効果ガス排出量の国別割合で、中国の20.1%に次ぎ、17.9%で第2位を占める。続いて、欧州連合12.1%、ロシア7.5%、インド4.1%、日本3.8%の順である。こうした位置にある米国の離脱が現実になれば、世界全体への影響は、非常に大きなものとなる。米国内では、離脱宣言に反発する州、市、企業、団体等が増えている。その点については、下記の拙稿に書いたので、ここでは繰り返さない。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/f2639e68e540d6d97186b05cca24cef3
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/acd8fdf3d2d4bd319c66a1482731bd2c
 今後の展開が注目される。(了)

米国はパリ協定離脱宣言を撤回すべし5

2017-07-01 08:47:32 | 地球環境
●「トランプの科学」のからくり

 日本経済新聞社シリコンバレー支局の兼松雄一郎記者は、日経電子版2017年4月7日付に、興味深い記事を書いた。
http://college.nikkei.co.jp/article/96391414.html
 その大要は次の通りである。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 トランプ政権は、主要な科学者やメディアの発する情報は嘘なのではないか、との疑いを繰り返しばらまいている。だが、決して科学に対して無知なのではない。科学者の主張を理解した上で、あえて疑いをばらまくのが「トランプの科学」。エリートである科学者たちを否定する階級闘争の『物語』によって大衆を魅了し、意識的に人気取りに利用する。たばこやエネルギー業界のロビイストが使ってきた手法を大衆の娯楽にする政治手法へと昇華させたのが、「トランプの科学」の神髄だ。
 米アリゾナ州トゥーソンの北東の荒野に、アリゾナ大学の研究施設「バイオスフィア2」がある。地球の小型模型として気候変動の影響などが研究されており、宇宙への移住を想定し、閉鎖環境での長期生活実験をしていた。1990年代半ばにコストカッターとしてここに呼ばれたのが、スティーブン・バノン氏だった。「科学者たちの多くはここで観測できる現象が地球でも起きると考えている」と同氏が語る当時のインタビュー動画が残っている。少なくともバノン氏は当時から科学者の多くが温暖化を認めていることを認識していた。ところが、今や、同氏はトランプ政権の首席戦略官となり、政権の温暖化否定政策に大きな影響をふるっている。バノン氏は無知なのではない。科学的な確からしさよりも大衆に受けるメッセージを政治的にあえて選んでいるのだ。
 科学史家のハーバード大教授ナオミ・オレスケス氏は、著書『世界を騙しつづける科学者たち』という本で、次のようなからくりを指摘している。「たばこや温暖化の問題で、権威のある科学者が自分の専門外の分野で疑いをばらまく。少しでも疑う科学者がいれば、主要メディアが両論併記するため、科学的に結論が出ていないということになる。疑いをばらまくことをなりわいとする科学者を業界が支援し、それによって規制を遅らせる。それによって業界が既存の利益構造をできるだけ延命させる」と。
 トランプ政権の態度は「科学の否定」ではない。むしろ前提を疑うという一見科学的な態度を取り、畑違いの科学者の権威に頼り、科学的知見を部分的に引用して主張の中に取り込んでいる。同時に近代科学を近代科学たらしめている事実検証の手続きに対しては、驚くほど不誠実だ。再現可能な形で証拠を示し、相互に検証し合い、共同体として同意した事実を積み上げていく。近代の科学者の共同体が作り上げて来た体系に敬意を払わない。そうした知的に不誠実な振る舞いをしてもトランプ政権が一定の支持を集めるのは、米国において科学者共同体と教育水準が相対的に低い大衆との間に絶望的な知識の断絶があるからだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●米国をはじめとする各国で科学者が行動を起こしている

 トランプ政権に抗議する科学者は、大規模な行動を起こした。2017年4月22日、科学者のデモ行進「マーチ・フォー・サイエンス」が、米ワシントンをはじめ世界各地で開かれた。「地球の日(Earth Day)」に合わせて、展開されたものである。科学者有志がインターネットで呼びかけ、「米科学振興協会(AAAS)」などが支援した。AAASは、世界最大級の学術団体であり、学協会単位の加入もあり、会員総数は12万人を超える。世界で最も権威のある三大学術誌の一つ「Science」を発行していることで知られる。
 行進の当日、ワシントンでは1万人以上(米メディア推計)が参加した。科学者らは、ホワイトハウス前で「温暖化は事実だ」「温暖化は“フェイクニュース”(偽のニュース)じゃない」「科学を黙らせることはできない」「米国に賢さを取り戻せ」などのプラカードを掲げ、連邦議会へ行進した。参加者は、トランプ大統領による地球温暖化の否定やトランプ政権が計画する温暖化対策をはじめ環境関連の研究費カット、環境保護庁や米宇宙局(NASA)などでの科学者の解雇・リストラなどの動きを強く批判し、科学に基づかない政策の後退について反対を表明した。
 主催者発表によると、科学者らによるデモ行進は、世界の600カ所以上で実施され、数十万人が参加した。ロンドンで開かれた集会には、数千人の科学者や市民が参加し、「地球温暖化は現実だ」などと書かれたプラカードを掲げて市内を行進し、トランプ政権に抗議するアメリカの科学者たちに連帯を示そうと訴えた。日本では、東京や茨城県つくば市で集会が行われた。北極にいる探検家もツイッターで参加表明したと伝えられる。
 この日、トランプ米大統領は、「経済成長と環境保護」の両立をめざす現政権にとって「厳密な科学は非常に重要な意味を持つ」とする声明を発表した。トランプ氏は声明で「環境やそのリスクへの理解を深める科学研究の発展に、我が政権は全力で取り組む」「厳密な科学はイデオロギーでなく、誠実な研究と妥協のない議論にかかっていることを心に留めるべきだ」と強調した。ところが、その同じ日に、ツイッターでは「雇用が重要だ」「経済成長が環境保護を強化する」とも発言し、経済重視の立場を改めて表明し、「米国の労働者を傷付けずに環境を守ることは可能だし、そうしなければならない」と訴えた。明らかに本音は、ツイッターの方にある。

 次回に続く。