ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

人類史上最も危険な思想1

2006-11-30 10:25:06 | 国際関係
●中国の核開発

 共産中国は、建国後の数年間、1950年代にアメリカから核兵器で繰り返し威嚇された。朝鮮戦争、インドシナ戦争、大陳諸島解放作戦の際である。中国は威嚇に屈するしかなかった。
 平松茂雄氏によると、その経験から毛沢東は、核兵器の開発を決断し、核兵器を保有してアメリカの世界支配に挑戦するという国家目標を掲げた。この国家目標を実現するために、中国は核兵器開発を最優先する国家戦略を立て、以後約50年間、国力を集中して核兵器を開発してきた。(平松茂雄著『中国、核ミサイルの標的』角川Oneテーマ21)
 いまや中国は、アメリカ本土に到達する核兵器を保有して、アメリカを核攻撃すると威嚇するにいたっている。そして、核の破壊力を裏づけとして、極めて危険な思想が、中国指導部に現れている。

●朱成虎少将の核先制攻撃発言

 朱成虎空軍少将の名は、その危険思想とともに、世界に知られている。朱は、中国人民解放軍の最高学府である国防大学の防務学院長という立場にある。人民解放軍の「健軍の父」と呼ばれる朱徳元帥の孫だという。
 朱少将は、平成17年(2005)7月14日、香港駐在の外国人記者大陸訪問団との会見の席で、次のような発言をした。記者の「米国が台湾海峡の戦争に介入したら、中国はどのように対応するか」という質問に答えての発言である。

 「米国がミサイルや誘導兵器で中国の領土を攻撃するなら、中国は核兵器で反撃せざるを得ない」「中国の領土には、中国軍の艦艇や戦闘機も含まれる」「中国は西安以東の都市の全てが破壊されることを覚悟しており」「米国も当然西海岸の100以上、もしくは200以上、さらにはもっと多くの都市が中国によって破壊されることを覚悟しなければならない」

 この発言は、核の先制不使用の原則を否定するものである。中国は、核兵器をアメリカの核攻撃に対する抑止力として保有するのではなく、台湾侵攻にアメリカが軍事介入したら、核先制攻撃を行う意思があると言うのである。当然、中国はアメリカの報復攻撃を受ける。しかし、それによって西安以東の都市つまり北京・上海・天津・南京・武漢・瀋陽・鄭州・広州等のすべてが壊滅しようとも、戦う。そういう覚悟を持って、アメリカ本土の主要都市を核攻撃すると威嚇している。もし核で米中相撃つならば、中国は、人口・産業の大部分を失う。アメリカも、同様となるだろう。

 朱は、広島・長崎に投下された原爆という兵器の恐ろしさを、理解していないに違いない。核兵器はその後、総量と破壊力を増し、今日万が一、全面核戦争になれば、地球の人口の7割が失われ、地球は、放射能に広く汚染されるだけでなく、「ニュークリアー・ウィンター(核の冬)」という劇的な寒冷化を引き起こすだろう。
 
●朱発言は中国指導部の共有思想

 朱少将の発言は、尋常ではない。しかし、彼の発言は、気の狂った一人の軍人が、妄想を述べているのではない。中国の国防大学とは、人民解放軍の幹部を養成する最高教育機関である。朱は、その大学の上級の教官として、軍人に軍事思想を教育し、民衆に国防意識を広める指導的立場にある。
 黄文雄氏は、朱の発言について、「中国は言論統制の国であり、ことに軍という組織内部では、個人的な発言など許されないから、そのように見てしかるべきである」と述べている。(黄文雄著『米中が激突する日』PHP)

 そもそもこの香港における記者会見は、中国外務省が設けたものだった。朱の発言に関し、中共中央書記処は、「わが国への侵略的軍事挑発に対する不動の決意と立場を表明しただけ」としている。同処は、胡錦濤主席、温家宝首相、呉邦国全人代常務委員長にも審議を求め、彼らは「朱の個人的発言」であるとして同意を示した。また、中央軍事委員会の三人の副首席(全員が上将)は、「朱発言は基本的には間違っていない」「朱発言は、党中央の方針に従ったものにすぎない」という報告を出している。

 私は、朱発言は、共産中国の戦略思想と理解すべきと思う。中国共産党の指導部は、朱の発言を通じて、アメリカ・日本・台湾に対し、台湾侵攻の意思を示し、核による恫喝を行ったのである。
 
 次回に続く。
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拉致問題に迫る映画「めぐみ」

2006-11-29 11:08:00 | 国際関係
 昨日、「めぐみー引き裂かれた家族の30年」を観た。

 この映画は、北朝鮮による拉致問題に迫るドキュメンタリーである。
 昭和52年11月15日、当時13歳の横田めぐみさんが行方不明になった。この映画は、めぐみさんを探し続ける横田夫妻の活動を中心に、家族の写真、関係者の証言、ニュース映像等を編集して、拉致問題を描いている。
 製作は、在米カナダ人のクリス・シェリダン、パティ・キム夫妻。海外では大きな反響を呼び起こし、アジア・アメリカ映画祭で「最優秀ドキュメンタリー賞」を獲得するなど高い評価を得ている。

 最近までこの問題を知らなかった外国人が衝撃を受け、事の経緯を調べ、被害者家族に会い、驚き、共感し、怒り、自分たちが知ったことをそのまま世界に伝えたいと造ったものだろう。そういう真摯な姿勢が全体に感じられる。
 拉致問題とは何なのか、テレビや新聞の報道よりもっと事実を知りたいという人には、この映画は最適だと思う。この問題について既に深く知り、何らかの取り組みをしてきた人にも、新たに知ることが多くあるだろう。

 私はこの映画を通じて、改めて母・早紀江さんの愛情と信念の強さに心打たれた。それとともに、私は、父・滋さんの姿に感動した。13歳の娘を奪われた両親は、どんな思いだったことだろう。滋さんは、決してあきらめることなく、妻とともに約30年間、ほとんど休まず、ひたむきに活動を続けてきた。今は、難病を抱えながら、なお戦い続けている。親の役割、父親の責任、人間の愛情について、痛く考えさせられた。

 横田夫妻は、めぐみさんは生きていると信じている。遺骨と称するものを突きつけられても、くじけなかった。
 インタビューに答えて元北朝鮮工作員の安明進さんは言った。「めぐみさんは生きています。金正日の息子に日本語を教えています」と。

 拉致されたのは、個人個人の日本人である。しかし、蹂躙されているのは、日本という国、そして日本人そのものである。
 日本は、これでいいのか。

 一人でも多くの人に見ていただきたく、お勧めしたい。
http://megumi.gyao.jp

参考資料
・拙稿「北朝鮮による拉致とは何か」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion08e.htm
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中国が台湾統一をするならば6

2006-11-28 13:36:47 | 国際関係
 今回が最終回。

●中国が台湾を併合したら

 中国が台湾併合に成功した後、日本はどうなるだろうか。
平松茂雄氏は、次のように予想する。
 「台湾が中国に軍事統一された場合、台湾には大規模な海軍基地がつくられるであろう。そこから大量の潜水艦がバシー海峡から南シナ海、さらに西太平洋に展開された場合、日本のシーレーンは中国の強い影響下に入ってしまう」(平松茂雄著『中国は日本を併合する』講談社インターナショナル)

 日本が輸入している原油の91%は、マラッカ海峡を通っている。同海峡から南シナ海を航行した船舶のほとんどは、バシー海峡を通過して日本の港湾に到達する。バシー海峡は、台湾とフィリピンの間にあり、シーレーンの重要部分をなす。
 シーレーンで輸送する石油を止められたら、日本経済は窮地に陥る。すなわち、中国が台湾統一をするならば、日本は中国に生殺与奪の権を握られたも同然である。

 ここで私たちは、大東亜戦争のときのことを振り返って見る必要がある。昭和16年7月、アメリカは日本への石油の輸出を禁止した。これで日本は追い詰められた。石油は、近代工業と国防に不可欠である。石油を止められることは、のど元を両手で締め上げられるようなものである。
 日本の指導層は、なんとか外交で打開の道を探ろうとした。しかし、アメリカは交渉を延ばしに延ばしたうえで、ハル・ノートを突きつけてきた。アメリカの強硬な姿勢にたじろいだ日本の指導層は、冷静に国際情勢を判断することができなかった。座して屈するより、戦いに活路を見出そうとし、米英戦争を開始した。その結果、開国以来ない大敗を喫した。
 対米戦争は、日本の指導層が計画的に準備したのではない。石油を止められたことが、決定的だった。

 もし今日、シーレーンを中国に押さえられたら、産業と国民生活への影響は、戦前の比ではない。戦後の文明は石油文明とも言われるように、石油は血液にも等しい。石油が止まれば、わが国は一気に危機に陥る。再び、わが国は、国家・国民の運命を賭けた選択を迫られることになるだろう。

●日本人はどうする?

 台湾が中国に取られたら日本は窮地に陥る。マスメディアは北朝鮮については報道し、国民の関心は高い。北朝鮮の核開発・ノドン・テポドンの問題は、多くの国民が危機感を持っている。
 しかし、北よりはるかに重大な危機は、西南の海から迫ってきている。北の核は完成しているかどうか確証がない。私はすでに数発以上の核兵器を持っているだろと思うが、それとても中国の核ミサイルの数・質とは比べものにならない。
 中国は既に数百発の核ミサイルを日本に向けて配備している。ミサイルは全自動化しており、ボタン一つで、日本の主要都市を壊滅させることができる。

 中国は、こうした核攻撃力の裏づけを持って台湾を統一しようとしている。中国が台湾を軍事侵攻するとき、わが国はどう対処すべきか。わが国は即、当事者となるのである。このことの理解が重要だ。
 平松茂雄氏は、著書『中国、核ミサイルの標的』(角川Oneテーマ21)で次のように言う。
 中国が台湾に侵攻するとき、「中国は米国の軍事介入を阻止するために、大陸間弾道ミサイルあるいは原子力潜水艦搭載の弾道ミサイルで、米国の主要都市を核攻撃すると威嚇するであろう。さらに日本の横須賀にある米海軍基地から空母機動艦隊が出動しないように、あるいは沖縄の米軍基地から攻撃機が発進しないように、日本に向けて首都、東京を核攻撃すると威嚇するであろう」。

 この時、日本は、中国の威嚇に屈服するか。アメリカとの強固な同盟を誇示することによって中国に手を引かせるか、二者選択を迫られる。
 わが国が独立と自尊を捨てて中国の恫喝に屈すれば、日米同盟は破綻し、わが国は共産中国に飲み込まれることになってしまうだろう。
 それゆえ、台湾侵攻の際、米国が断固として中国の核兵器に立ち向かうかどうかは、一つには、日本政府の決断にかかっている。政府の決断とは、国民の決断である。

 中国は、共産主義の国である。さらに近年ファシズム的な傾向を明らかにしている。自由やデモクラシーは認めない。人権を無視する。人命を尊重しない。
 わが国が中国の属国になるということは、日本人が自由を失い、デモクラシーを停止され、人権を奪われ、人命をも損なわれることになる。ただ生き延びるために、ファシズム的共産主義に屈服することは、自分の魂を自ら捨てることになるだろう。
 それでもいいのか。今日、日本人は、真剣に考えるべき時にある。(了)
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中国が台湾統一をするならば5

2006-11-27 10:00:14 | 国際関係
●海中からアメリカ本土を攻撃可能に

 地上設置型のミサイルは、発射前に破壊してしまうことができる。しかし、移動式のものは、破壊が難しい。さらに海中深く潜行する潜水艦は、すべてを見つけ出して破壊することは不可能である。仮に地上ミサイルが全部破壊されても、中国は潜水艦から核攻撃する能力を保つだろう。その能力があることによって、相手の攻撃を抑止することもできる。
 中国海軍は、猛烈な勢いで潜水艦を増やしている。平成17年(2005)6月16日、中国は94型潜水艦から大陸間弾道弾の発射に成功した。このミサイルは、東シナ海の海中から中国内陸部の砂漠地帯の目標地点と見られる地域に飛んだ。この実験の成功は、中国が日本だけでなくアメリカ本土も攻撃できるようになり、ワシントンやニューヨークを一撃のもとに壊滅させることができることになったことを意味する。命中率は、アメリカ海軍の原子力潜水艦から発射されるトライデントミサイルに匹敵すると見られている。
 アメリカ国防総省は、この新型ミサイルをJL-2と命名した。JL-2は、3つないし8つの核弾頭を装備できると見られる。JL-2を搭載した94型潜水艦は、核の第一撃能力を持つ。中国の最新型潜水艦は、アメリカ海軍の監視の及ばない海中からミサイルを発射し、相手が気づかないうちに、第一撃で敵の頭脳部・心臓部を壊滅させてしまうことができることになったわけである。

 中国は、平成22年(2010)には、94型潜水艦を数隻保有することになると見られている。一隻の潜水艦が、16発のJL-2ミサイルを装備する。そうなると、中国は、アメリカの大都市のすべてを、いつでも同時に核攻撃できる力を持つことになる。早ければ中国は、平成22年にアメリカと並ぶ核大国の立場を確立することになるという観測がある。

●アメリカは対中戦争に勝てるか

 都知事の石原慎太郎氏は、平成17年(2005)11月3日に、米国の首都ワシントンで行なった講演で次のように語った。
 「戦争はしょせん生命の消耗戦だ。米国はイラクで米兵が2000人死んだだけで大騒ぎするが、生命に対する価値観がまったくない中国は、憂いなしに戦争をはじめることができる。戦禍が拡大すればするほど、生命の価値にこだわる米国は勝つことができない。生命に非常に無神経な指導者が、米国との緊張が高まったときにどういう挙に出るか、われわれは冷戦時代より、はるかに危険度の高い緊張の中にある」
 「米中間で紛争が起きた場合には、中国にとって一番目障りな日米安保をたたくために、もし核を落とすなら沖縄に落とすだろう。あるいは東京を狙うだろう」と。

 石原氏が、米中間の紛争について言及したのは、中国の台湾侵攻を想定したものだろう。
 この発言に関し、平松茂雄氏は、著書『中国、核ミサイルの標的』(角川Oneテーマ21)で次のように述べている。
 「もし台湾有事となれば、米軍が駐留する日本は中国にとってまさに敵国です。横須賀の米海軍基地から空母が出航し、沖縄の米空軍基地から攻撃機が出撃することになるから、中国の標的となるのは当然です。その場合、米国は本当に中国に核報復攻撃してくれるでしょうか。日本に対して、中国の核兵器の照準は常に合わされています。中国はボタンを押すだけで、日本に核兵器を落とせるのです」と。
 台湾侵攻の際、中国は、アメリカ軍の介入を阻止しようとする。介入すれば在日米軍基地のある沖縄や、東京・大阪等を核攻撃すると恫喝するだろう。

 中国人民解放軍の最高学府である国防大学の防務学院長、朱成虎少将は、香港駐在の外国人記者大陸訪問団との会見の席で次のように述べた。これは「米国が台湾を海峡の戦争に介入したら、中国はどのように対応するか」という質問に答えてのものである。
 「米国がミサイルや誘導兵器で中国の領土を攻撃するなら、中国は核兵器で反撃せざるを得ない」「中国の領土には、中国軍の艦艇や戦闘機も含まれる」「中国は西安以東の都市の全てが破壊されることを覚悟しており」「米国も当然西海岸の100以上、もしくは200以上、さらにはもっと多くの都市が中国によって破壊されることを覚悟しなければならない」と。

 アメリカが台湾侵攻に軍事介入する場合、中国には、現在のところ、通常兵器でアメリカに勝つ能力はない。そこで、中国は、アメリカ本土の主要都市を核攻撃すると威嚇して軍事介入を断念させようとするだろう。
 アメリカは、デモクラシーの国であり、国民の人命を尊重する国である。台湾がいかに戦略的に重要とはいえ、数百万人の自国民の生命を賭けてまで台湾を守ろうとするだろうか。時の政権の戦略思想によるだろうが、いかなる犠牲を払っても断固として台湾を守るという可能性は低いと思う。

 次回に続く。
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中国が台湾統一をするならば4

2006-11-25 05:57:02 | 国際関係
●中国は核で威嚇する

 中国は既に核による第一撃能力を持っている。核弾頭を搭載した大陸間弾道弾ミサイルを開発・配備している。台湾侵攻の際、中国は、米軍の介入を阻止するため、日本の米軍基地や東京を核攻撃すると言って威嚇するだろう。

 中国はすでに射程2000キロメートルの移動式で全自動化された中距離弾道ミサイル「東風21」」を配備している。
 「東風21」は、日本全土を射程内に収めている。北朝鮮の核開発はまだ開発途上であり、たとえ核兵器を保有しているとしても数発程度だけだ。だが中国のほうはすでに数百発も実戦配備し、しかも日本をターゲットにした核開発が現実に進んでいる。
 中国のある軍事誌は、「近代産業が集中している島国日本に100万トン級の核弾頭を20発落とせば、日本は地上から消える」という物騒な軍事評論家の見方を堂々と載せていたことがある、という。

 地上設置型のミサイルだけでなく、中国は、アメリカの第一線クラスの戦闘爆撃機に匹敵するJ10戦闘爆撃機を大量に生産している。J10はミサイルを搭載して日本列島に飛来し攻撃する能力を持つ。

 さらに、アメリカの出方によっては、中国は、アメリカの本土を核攻撃すると威嚇することもできる。そしてアメリカに対して、在日米軍の撤退を要求した場合、アメリカがその要求を受け入れざるを得なくなる可能性も出てくる。
 
●中国の大陸間弾道弾

 中国の大陸間弾道ミサイルは、1万2000キロメートル以上飛んで、ワシントン、ニューヨークを含む米国東部海岸に到達することができる。
 中国のミサイル技術は、急速に向上している。平成15年(2003)、中国は「神舟5号」による最初の有人宇宙船の打ち上げを行った。17年10月12日には、「神舟6号」による第2回目の有人宇宙船の打ち上げに成功した。有人宇宙船の打ち上げ成功は、ミサイル誘導技術の向上を意味する。
 有人宇宙船を打ち上げるロケットは、アメリカ本土に届く大陸間弾道ミサイルを発射するロケットを利用する。中国が、有人宇宙船を予定の軌道に正確に投入したことは、大陸間弾道ミサイルにより、アメリカを核弾頭で正確に攻撃できる能力を備えたことを示している。

 アメリカは、ニューヨークやワシントンを核攻撃されることと、台湾を防衛することとのどちらを選ぶか。多数の国民の生命を犠牲にしても台湾を守るとは考えにくい。中国は、核の恫喝でアメリカの介入を阻止できれば、台湾は脅すだけで政治的に統一できると考えているのではないか。これも、戦わずに勝つという孫子の兵法の現代的な実践だろう。

 中国の核ミサイルについて、精度が劣っているとして、それほど脅威を認めない専門家もいる。しかし、核兵器の場合は、攻撃目標から数百メートル外れて落下しても、破壊力にそれほど違いはない。既に中国は十分な量と質の核を持っている現実を見るべきだと思う。

 次回に続く。
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中国が台湾統一をするならば3

2006-11-24 09:43:47 | 国際関係
●「超限戦」という戦闘方式

 中国が台湾を侵攻する場合、どのような作戦を取るだろうか。従来の戦争の考え方を超えた作戦を行うだろう。中国は、これまでの戦闘方式の限界を破る新しい方式を採用している。これを「超限戦」という。「限界を超越する戦争」である。
 平成11年(1999)、喬良と王湘穂という人民解放軍の二人の空軍大佐が本を書いた。問題の書『超限戦~21世紀の新しい戦争』(共同通信社)は、「コンピュータ攻撃、暗殺、爆弾テロ、麻薬密輸、生物・科学兵器、金融錯乱、宣伝・脅迫、環境破壊、メディア戦等」、これまでタブーとされてきたあらゆる手段を動員して戦争を遂行することを説いている。

 私の理解するところ、「超限戦」とは、従来の国家間の戦争の仕方に、共産党の戦術思想を加えたものだろう。共産党の戦術思想とは、国際法を無視した何でもありのやり方である。目的のためには手段を選ばず、勝つためにはあらゆることをするというものである。国際信義とか人権といった考えは、そこにはない。
 台湾侵攻においては、「超限戦」の実行として、軍事的な攻撃より、まずインターネットでハッカー攻撃を行うだろう。コンピュータをやられれば、国家機能は麻痺するし、金融も麻痺してしまう。その一方で、各所で誰がやったか分からないテロ攻撃を行なう。そういう手段で台湾国民を心理的に屈服させれば、最少の力で侵攻を成功させることができる。それが、現代の新しい戦争、超限戦の考え方である。

●中国はどのような軍事行動をとるか

 実際に中国が人民解放軍を動かして台湾を侵攻するとなった場合、どのような作戦を取るだろうか。平松茂雄氏は、著書『中国、核ミサイルの標的』(角川Oneテーマ21)で次のように書いている。
 台湾侵攻の際、現在のところ、「中国空軍には制空権を掌握するだけの能力」がない。そこで「短距離弾道ミサイルを大量に集中的に発射し、台湾の政治・軍事指揮中枢、通信施設、空軍施設などを一挙に破壊して、台湾の作戦能力を殲滅する作戦」を取るだろう、と平松氏は言う。
 台湾は米国の支援により、多段階かつ大量のミサイル防御網の構築を意図しているが、台湾内部には、この推進に反対する勢力がある。仮に「中国はTMD(戦域ミサイル防衛)システム構築後の台湾をミサイル攻撃する場合には、少数のミサイル攻撃では効果がないので、間違いなく大規模な数百発のミサイルによる同時急襲攻撃になるであろう。そうなると、台湾のミサイル防衛システムはその何割かは迎撃できても、多数突破される可能性が高い」と平松氏は予想する。

 ミサイル防衛システムを突破したミサイルは、台湾の軍事施設や、場合によっては都市部に多大な破壊をもたらすだろう。台湾が独力で国土防衛をすることは、難しくなる。ここで、米軍が動かなければ台湾に勝ち目はほとんどない。
 これに対し中国は、米国が軍事介入できないような状況をつくることが必須の条件になる。軍事介入を防ぐうえで重要なポイントは、アメリカ海軍の介入を阻止することである。
 すでに中国海軍は、西太平洋海域に進出している。その目的の一つは、アメリカの海軍空母機動艦隊の介入を阻止して、台湾を併合することにあるだろう。

 これだけではない。中国は、アメリカ海軍の介入を防ぐために、着々と手を打っている。平松氏は、平成18年6月6日、東京の文京シビックホールで行った講演で、大意次のように語ったという。
 中国は、わが国の沖ノ鳥島付近の排他的経済水域に入り込んで、海底調査を実施している。その目的は、台湾有事に備えて、アメリカ海軍の航空母艦や原子力潜水艦を妨害するための潜水艦の航行あるいは機雷を敷設するためのものである。グアムの基地から、米軍が台湾へ来られないようにするのが狙いである。日本政府は、日本側の経済水域での中国の調査に許可を出している。中国は、非常に詳細な調査を行っている。これは潜水艦作戦のための調査だろう、と。

 私見を述べると、日本政府が中国の調査に許可を出しているのは、実に愚かなことをしたものだ。単なる無責任か、事なかれ主義か、米中二股の事大主義か。結果は中国を利するとともに、日米同盟にとってマイナスになり、自分の首を絞めることになることは明らかである。
 上記のように、中国は、アメリカが台湾を支援できないように手を打っている。台湾侵攻の場合、アメリカが中国と戦うとすれば、沖縄や横須賀の基地の軍を動かすことになる。すでに中国は、これらの基地を攻撃する力を有していると見られている。中国は、核兵器で在日米軍基地や東京・大阪等を攻撃すると恫喝するだろう。
 問題は、中国の核にどう対応するかに帰着する。

 次回に続く。
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中国が台湾統一をするならば2

2006-11-23 09:05:16 | 国際関係
●侵攻の時期はいつか

 平和的な方法で台湾を併合できなければ、いずれ中国は軍事的な手段をもって台湾の統一を試みるだろう。
 軍事行動に出る可能性が最も大きいのは、中国が台湾に対し、絶対的な軍事的優位に立ったときである。アメリカの国際評価戦略センターの報告によると、中国は、ベトナムやフィリピンなどとの領有権紛争でも見られたように、軍事バランスが中国側に決定的に有利になったところで、一気に軍事攻撃をかけるパターンがあるという。
 現在のところ、中国は台湾侵攻において制空権を得るだけの力がない。しかし、中台の軍事バランスは2010年代に入ると、中国側に有利に傾くと推測されている。その段階になると、侵攻を行なう可能性が高いと考えられる。2020年の前後5年ころという観測もある。アメリカ国防省の見方でも、中国共産党の見方でも、この年代には、中国は圧倒的な優位を確立していると見られている。

 独立を望む台湾人にとっては、中国が対外的に平和国家の路線を維持し、台湾に軍事的な優位を確立するまでの間が、独立を達成するために残された機会となるだろう。そのタイムリミットは、軍事的な観点からは、北京オリンピックが開催される平成20年(2008)年から、上海万国博覧会が開催される22年のころまでと見られる。この点で、2年後の総統選挙は、台湾人にとって、非常に重要な選択となる。
 平松茂雄氏は、「台湾にとってのタイムリミットは、同時に日本のタイムリミットを意味する」と言う。国際情勢の変化によって、こういう見方が当たるかどうかはわからないが、傾聴すべき意見だと思う。含意の説明は、次の項目に譲ることにする。
 まず平成20年から22年にかけての時期は、わが国にとって、安全と繁栄にかかわる重要な時期と考えて対処したほうがよいだろう。2年ないし数年のうちに中国と台湾の間で重要な事態が生じうると言っても、わが国の多くの人にはぴんと来ないだろう。戦後の日本はあまりにも平和であり、アメリカの保護のもとで、平和ボケ、保護ボケになっているからである。

 実は、中国国内には近年、「早期侵攻論」が主張され、平成18年(2006)つまり今年あたり侵攻すべきという論もあるという。台湾で独立派が優勢になる前に攻め取ろうというのだろう。中国全体がファッショ的な傾向を強めているから、こういう好戦的な意見の存在も軽視できない。
 もし台湾が独立の動きを起こしたら、中国はすぐさま警告と制裁を行うだろう。経済封鎖から段階的に行い、台湾がこれに屈しなければ、中国は、軍事的な有利であるか否かにかかわらず、軍事行動を起こすだろう。それだけ、中国にとって台湾の存在は重要なのである。

●日本にとっての台湾問題の重要性

 台湾の問題は、台湾だけの問題ではない。わが国にとっても、極めて重要な問題である。中国が台湾を併合すれば、日本は台湾海峡・バシー海峡というシーレーンの重要な拠点を押さえたことになる。バシー海峡は、台湾とフィリピンの間の海峡である。
 戦前の日本では、満蒙はわが国の「生命線」と呼ばれた。生命線とは、手相の話ではない。生きるか死ぬか、国が自存できるか否かがかかっている、絶対に守らなければならない地域のことをいう。今日、台湾はわが国の新たな「生命線」となっている。

 平松茂雄氏は言う。「日米からすれば、台湾は西太平洋防衛の要の島である。とくに日本にとっては生命線であり、ここが中国の手に落ちれば、日本が窒息することは必定である」「仮に台湾が占領され、日本のシーレーンが中国に扼された場合、そのとき日本は簡単に、その国の属国となってしまうだろう」と。(平松茂雄著『中国は日本を併合する』講談社インターナショナル)
 日本人でこのことを理解している人は、まだまだ少ない。わが国の産業も国民生活も、石油なしには成り立たない。中東と日本を結ぶシーレーンの要に台湾がある。台湾が中国の掌中に入れば、わが国の運命は中国の手に握られる。だから、台湾問題は、日本自体の問題となっている。政府もマスメディアも、このことの重大性を、国民に周知しようとしていない。
 平松茂雄氏が「台湾にとってのタイムリミットは、同時に日本のタイムリミットを意味する」と言うのは、上記引用のような事情があるからである。

●中国側の事情による行動

 仮に台湾人がここ数年、独立への道を選ばなかった場合、台湾の地位は現状維持が続く。一方、中国は、軍事力の増強を続ける。よほど政治的経済的に行き詰まるか、政策の大転換がされない限り、増強がされる。2010年代に入ると、台湾侵攻に十分な優位を得るだろう。そして、それまでに平和的に台湾を統一できていなければ、いずれ台湾統一に着手することになるだろう。そこからの時間の幅は、数年から15年以内くらいと見られる。

 中国が台湾に軍事行動を起こすとすれば、戦闘による損害、国際社会の反発、各国からの制裁等、リスクも大きい。この点について、黄文雄氏は、著書『米中が激突する日』(PHP)で次のように言っている。
 「おそらくあらゆる犠牲を覚悟したうえでの開戦であるから、やはりそれは、国内矛盾、亡国亡党の危機に直面したときではないだろうか。それにより、つまり追い詰められ、暴発し、賭けに出る形で武力行使をするという公算は決して低くはないのである」「最も大きな侵攻の危機(略)は共産主義体制が危機に直面したときである。この国は、それだけの理由で台湾に対して冒険的行動に出ると私は見ている。もちろんそのときには、アメリカは軍事介入し、これが米中戦争のきっかけとなるはずだ」と。
 黄氏は、中国の危機を強調し、日本の台湾への協力を強く求める論者ゆえ、政治的に割り引いて受け止めたほうがよいと思うが、中国については、バブルの崩壊や、格差拡大による暴動の頻発、環境破壊の恐るべき進行等が伝えられており、内部の矛盾が増大していることは間違いない。共産党支配体制が揺らぐとき、国民の不満をそらすために、対外的な軍事行動に打って出る可能性はあると思う。ただし、こういう行動は、最もリスクが大きいものであり、活路を求めての一か八かの行動となるだろう。

 次回に続く。
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中国が台湾統一をするならば1

2006-11-22 12:11:42 | 国際関係
 私は、ここのところ「『フランス敗れたり』に学ぶ」「『ショーダウン』~米中対決」「共産中国の覇権主義」「共産中国の国家目標」等、中国に関することを書いてきた。真の日中友好にとって、共産主義、とりわけファシズム的共産主義が、決定的な障害となっている。
 上記の拙稿で、何度か台湾をめぐる問題に触れた。今回は、中国による台湾統一の可能性について書きたい。これは、わが国の自由と独立、平和と繁栄に関わる極めて重大な事柄である。

●中国が台湾を統一したい理由

 台湾統一は、中国共産党にとって、どうしても成し遂げなければならない課題のようである。
 かつてシナ大陸には、中華民国があった。中国共産党は、内戦を通じて、国民党政府を台湾に駆逐した。蒋介石は、台湾に侵攻し、ここに中華民国政府を移した。大陸では、共産党による中華人民共和国が建設された。その結果、中華民国と中華人民共和国が並立する状態となった。中国共産党が政権の正統性を誇示し、世界戦略を進めるためには、中華民国台湾を併合し、「祖国の統一」を成し遂げなければならない。これが政治的・思想的理由だろう。

 しかし、台湾統一の現実的な理由は、実利的なものである。軍事評論家の平松茂雄氏は、中国共産党が台湾に固執するのは「ひとえに台湾の戦略的地政学的位置の重要性にある」と言っている。中国が太平洋に進出するために、「重要なカギとなる位置に存在するのが台湾」なのである。
 台湾は東シナ海と南シナ海の間に位置し、渤海・黄海・東シナ海と南シナ海を二分する位置にある。もし中国が台湾を併合できれば、中国は太平洋に面した国になる。

 中国は今や米国、日本に次ぐ世界で第三位の石油輸入国である。インド洋・南シナ海・東シナ海を通る海路は、これまでは日本にとって中東の石油を運ぶシーレーンだった。しかし、これからは、中国のシーレーンにもなる。石油の確保のため、中国は、太平洋だけでなく、インド洋への進出を着々と進めつつある。
 台湾人の評論家・黄文雄氏は、次ぎのように言っている。
 「台湾を確保しなければ、中国の勢力は海に進出できない。それが達成されれば、アジア、太平洋への覇権確立は可能になるし、さらにはインド洋への戦力拡大も可能になる。だから台湾併呑は中国にとり、自らの生存にかかわる大きな課題なのだ」
 しかし、中国の台湾侵攻を、アメリカは黙って見ているはずがない。黄氏は、次のように言う。
 「台湾はアメリカにとってはアジア・太平洋防衛の砦という要衝である。もちろん日本にとっても、ここが陥れば自らの生存に関わってくるほどの絶対国防圏といっていいほどだ。だから台中戦争は避けられないし、日中再戦、米中衝突も必至と見るべきだろう」と。(黄文雄著『米中が激突する日』PHP)

●方法は和戦両用

 中国としてもアメリカと対決するのは、安易にできることではない。できるだけアメリカを刺激せず、介入の口実を与えずに実質的に併合できれば、理想的だろう。
 政略・戦略の両方に通じた国家最高指導者は、武力を誇示しつつ、戦わずして勝つ道、最小の労力で最大の成果を挙げる道を考えるだろう。武力攻撃の恫喝をかけながら、経済の力で親中派を増大させ、民主的に台湾人の多数意思で併合をなしえれば、アメリカと戦火を交えることなく、国際社会の非難を受けることもなく、目的を達成できる。中国の資本は台湾のマスコミの8割を買収し、親中的な世論の醸成を推進させている。
 黄文雄氏は、「中国は、台湾の大陸出身者である国民党や親民党を扶翼し、それらに台湾防衛に不可欠なアメリカからの防衛兵器購入に反対させ、そして2008年の総統選挙で政権を奪取させ、中国の傀儡政権をつくらせようとするなど、中国併呑の『環境整備』を着々と進めている」という。2年後の平成20年の総統選挙は、自主独立派の苦戦が予想されており、予断を許さない。

 東アジアにおける平和的手段による併合には、日韓併合の例がある。日本は明治37年(1904)、日韓協約で、世界で初めて韓国の独立を認めた。その後、明治43年(1910)、両国による条約締結により、合法的に日韓併合が行われた。主要諸国の了解を得ての併合だった。
 中国の場合は、台湾を独立した国家とは認めていない。独立しようとするのを阻止して、自国に呑み込みたいのである。しかも、反国家分裂法を制定して、武力行使を辞さないことを国法としている。これは、戦前の日本より、はるかに帝国主義的・覇権主義的な姿勢である。 

 現在の中国の方針の下では、台湾併合には、二つの方法があるだろう、と帝京大学教授の志方俊之氏は言う。(『無防備列島』海竜社) 氏によると、一つの方法は、香港の場合のように、一国二制度を台湾に受け入れさせ、台湾を「第二の香港」にする方法である。香港では、政治・経済は別の制度を取っても、軍事は人民解放軍が担当している。これをさらに進めた方法が、台湾独自の軍事力を認める名目的な一国二制度である。独自の軍事力と言っても、人民解放軍を補完するような編成にし、基地や港湾を貸借すれば、実質的には指揮下に組み込める。
 これに対し、台湾が独立を宣言し、憲法を改正した場合は、中国は警告と制裁を行うだろう。経済封鎖から段階的に行い、台湾がこれに屈しなければ、中国は軍事行動を起こすに違いない。

 次回に続く。
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日本人の美徳のまとめ

2006-11-21 11:01:03 | 日本精神
「日本人の美徳~道と徳」と題して連載したものを一本にまとめ、私のサイトに掲載しました。
 表題を「日本における道と徳~日本人の美徳を取り戻すために」と改めました。
 通して読んでみたい方がおられましたら、以下へどうぞ。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion04c.htm
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日本人の美徳~道と徳7

2006-11-20 09:47:39 | 日本精神
教育勅語の道徳と「和」の精神

 道を踏み行うことによって、徳が身につく。教育勅語の説く道を行うことにより、天皇と国民には、徳が共有される。その徳とは、天皇における「仁」であり、国民における「忠孝」である。そして、天皇が「仁」を行い、国民が「忠」を行い、各家庭に「孝」が行われている状態を表す理念が、「和」であると私は考えている。

 古来、日本人は、人と人、人と自然の調和を心がけてきた。古くから国名を「わ」と呼び、「倭」を嫌って「和」の字をあてた。国の中心となる「やまと(山門)」には、「大和」の字をあてた。いかに日本人が「和」を重視してきたかを示すものだろう。
 聖徳太子は、「和」を十七条憲法に明文化し、国家国民の理念として確立した。ここで太子は、「仁」「忠」「孝」を具体的に述べてはいない。第6条に「君に忠」「民に仁」という文言はあるが、「孝」の文字は登場しない。それゆえ、私が、天皇が「仁」を行い、国民が「忠」を行い、各家庭に「孝」が行われている状態を表す理念を「和」というのは、太子の言葉そのものによるのではない。

 十七条憲法において、内容として説かれているのは、「忠」のみである。
 すなわち、第12条に「国に二君なく、民に両主(ふたりのあるじ)なし。率土(くにのうち)の兆民(おおみたから)、王(きみ)を以って主とす」とある。すなわち、国の中心は一つである、中心は二つもない。国土も人民も、主は天皇であるとした。また第3条に「詔(みことのり)を承りては必ず謹(つつし)め」とある。太子は、豪族・官僚たちが天皇の言葉に従うように、記している。これらの条文は、天皇に対する「忠」を具体的に説くものといえる。
 「仁」については、具体的な記述はない。明記されていないが、天皇・皇族が「仁」を行なうことが前提とされていると推察される。というのは、第12条に「兆民(おほみたから)」という語がある。民を意味する言葉を「おおみたから」つまり大切な宝物と呼ぶのは、『日本書紀』の神武天皇のくだりと同じである。
 ちなみに、民を意味する言葉には、「億兆」という漢語もある。教育勅語には、「億兆心を一にして」という文言があるが、これを大和言葉で読めば、「おおみかたら心を一にして」となる。
 「孝」については、十七条憲法では、内容的にも触れられていない。しかし、古代の日本人にとって、親を大切にし、祖先を大切に祀ることは、当然のことだった。
 十七条憲法は、仏教について「篤く三法を敬え」として、仏法僧を挙げている。明示された文言だけ読めば、日本を仏教国にするための憲法かと誤解する。聖徳太子は、用命天皇の皇子であり、推古天皇の摂政を務めた。皇室においては、古来の儀式が行われていた。神々を祀り、祖先を祀る儀式である。それは神道、「神の道」「神ながらの道」の実践であり、同時に皇室における「孝」の実践でもある。太子は、憲法に「孝」を盛り込んではいないが、「孝」は言うまでもない前提だったと考えられる。

●「和」の精神と五箇条のご誓文・教育勅語

 聖徳太子の十七条憲法は、日本の国家国民の理念として、「和」を打ち立てたものだった。太子以後、日本人は、「和」の理念のもと、「和」の精神を発展させてきた。
 十七条憲法の約1200年後に発せられた「五箇条の御誓文」にも、聖徳太子の「和」の精神が生きている。第1条の「広く会議を興し、万機公論に決すべし」がそれであり、第2条の「上下(しょうか)心を一にして、盛んに経綸(けいりん)を行ふべし」も同様である。聖徳太子の説いた「和」の理念は、千年の時を超えて、近代日本の建設にも生かされたと言えまよう。

 教育勅語には、「和」の文字はなく、「和」の理念を明示的に述べた文書ではない。しかし、勅語の全体が「和」の精神を表現したものだと、理解することは出来るだろう。
 第1段に「我が皇祖皇宗 国を肇むること宏遠に 徳を樹つること深厚なり。我が臣民 克く忠に克く孝に 億兆心を一にして 世々厥の美を済せるは 此れ我が国体の精華にして 教育の淵源亦実に此に存す」とある。天皇が「仁」を行い、これに対し、国民が「心を一つにして」応えて、忠孝を行う。これはまさに、聖徳太子が目標とした「和」の姿だろう。
 また、最後に「朕爾臣民と倶に挙挙服膺(けんけん)して咸(みな)其の徳を一にせんことを庶ひ幾う」とある。天皇が国民に、道の実践を呼びかけ、天皇と国民が徳を一つにしようとともに努力する。そのあり方は、聖徳太子が、「率土(くにのうち)の兆民(おおみたから)、王(きみ)を以って主とす」と書いたわが国の国柄が、道徳的・精神的にさらに発展した姿だと言えよう。

 日本神話、十七条憲法、五箇条のご誓文、教育勅語等の間には、幾千年幾万年の時を超えて貫かれているものがある。そこに表われているのが、日本人の精神、日本精神なのである。
 日本精神について考察するには、文書の文字に書かれたものだけでなく、文字に記されていない構造を読み取ることが必要だと私は考えている。書いてある文字が思想の全体ではない。日本人は、「言挙げせず」をよしとしてきた。非常に重要なことや、逆に当たり前のことは、あえて書かないできた。文字になっていないことをも、構造として読み取らないと全体を把握できない。私が感得したいと思っているのは、日本神話、十七条憲法、五箇条のご誓文、教育勅語等に通底しているもの、日本人の心の深層に流れてきたものである。思想ではなく、心を感じ取ることなくして、日本精神は語れないと思う。

●日本人の美徳の回復

 明治の日本人が持っていた日本精神は、大正、昭和と進むに従って、徐々に失われた。それが大東亜戦争突入の原因にある。戦後の日本人は、敗戦で自信を失って祖先の伝統を否定した。物質科学の発達によって、神を見失い、自己過信に陥っている。「和の精神」、共存共栄の調和の精神を忘れ、利己主義に陥っている。その結果、日本人としての美徳を失ってきた。
 今では日本人には美徳がある、と日本人が自分で言っても、最近の日本人はどうなっているんだと外国人に言われてしまう。
 安倍首相は、「活力とチャンスと優しさに満ちあふれ、自律の精神を大事にする、世界に開かれた、『美しい国、日本』」を目指すと所信を述べた。首相は、その「美しい国」の姿の第一に、「文化、伝統、自然、歴史を大切にする国」を挙げる。これは、日本のよき伝統を取り戻した姿といえよう。こうした「美しい国」は、国民が、かつて日本人が持っていた徳を取り戻し、徳を身につけてこそ実現できる。そのためには、日本人が古来踏み行ってきた道を思い起こし、日本人の徳の由来・内容を知り、先祖・先人の美徳に学ぶことが必要だと思う。(了)

参考資料
・拙稿「10・8フォーラムの内容」
 「日本人の美徳ー今こそ日本精神を取り戻そう」:中條高徳氏(アサヒビール名誉顧問)+黄文雄氏(評論家・拓殖大学教授)+細川一彦によるディスカッション
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/d/20061103
・ほそかわのサイトの以下の項目
「日本精神」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion04.htm
「和の精神」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/j-mind01.htm
・大東亜戦争については、以下をご参照下さい
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/keynote.htm
 その2「大東亜戦争は、戦う必要がなかった」
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