ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

ユダヤ145~ユダヤ教の二面性への対処

2017-12-31 10:47:16 | ユダヤ的価値観
ユダヤ教の二面性に対処する

 第五に為すべきことは、ユダヤ教の二面性を理解し、これに対処することである。ユダヤ教は民族宗教だが、その教えには民族的特殊性と人類的普遍性の両面がある。この点について、ユダヤ人の歴史家マックス・ディモントの著書『ユダヤ人の歴史~世界史の潮流の中で』で、ユダヤ思想には民族主義と普遍主義の二面性があり、その二面性がユダヤ民族の生き残りの方法となっていると説いている。
 私見によれば、ディモントは民族主義をよく定義していない。近代以前にネイションは存在しないので、近代以前から現代までを一貫する思想をいうのであれば、ナショナリズムではなくエスニシズムというべきである。また民族主義と普遍主義は、対概念にはならない。普遍の反対語は特殊である。そこで、私は、ディモントにおける民族主義と普遍主義という対比を、民族的特殊性と人類的普遍性に置き換えて理解する。
 ディモントの説くところでは、民族主義はユダヤ人の選民思想であり、神の言葉を伝える者としてのユダヤ人のアイデンティティを保持することが、ユダヤ民族の生存に必要であるとする主張である。また普遍主義は人類に普遍的なメッセージを世界に伝えることであって、そのために世界の数々の中心地にユダヤ人が存在することが必要だとする主張である、とディモントは述べる。
 ディモントによると、彼のいう民族主義を唱えた最初の預言者はホセアであり、普遍主義を説いた最初の預言者はアモスである。また、アモスの普遍主義思想を発展させてユダヤ教の普遍主義を構築したのが、預言者イザヤである。イザヤの普遍主義思想とは「人類は兄弟である」という言葉に象徴されている。「人類は兄弟である」と説く普遍主義は、ホセアの唱えたユダヤ人は選ばれた民であるとする民族主義とは正反対の思想である。
 ディモントによれば、民族主義のためには、イスラエルという国家が必要である。しかし、国家は滅ぶ可能性がある。そこで、ユダヤ教を存続させるためには、イスラエルの外にディアスポラのユダヤ人が存在することが必要である。そして、ディアスポラのユダヤ人は、単にユダヤ教を守るだけでなく、ユダヤ教が教える人類に普遍的な価値を広める責務がある、とディモントは述べている。
 私見を述べると、ユダヤ教史上最高のラビと言われる紀元後2世紀のラビ・アキバは、ユダヤ教を一言で言うと、「レビ記」19章18節の「あなた自身を愛するように隣人を愛しなさい」であると述べている。イエスもまた「汝の隣人を愛せよ」と教えたが、ユダヤ教における隣人とは、ユダヤの宗教的・民族的共同体の仲間である。仲間を愛する愛は、選民の間に限る条件付つきの愛である。人類への普遍的・無差別的な愛ではなく、特殊的・差別的な愛である。なぜなら彼らの隣人愛のもとは、神ヤーウェのユダヤ民族への愛であり、その神の愛は選民のみに限定されているからである。ユダヤ教徒の隣人愛が普遍的・無差別的な人類愛に高まるには、神ヤーウェによる選民という思想を脱却しなければならないだろう。
 馬淵睦夫は、著書『世界を操る支配者の正体』で、次のように言う。「ユダヤ教はあくまでユダヤ人のための民族宗教であって、世界宗教ではない。ユダヤ教の掟はユダヤ人のみを対象としたものだから、彼らは私たち異邦人をユダヤ教に改宗させようとしているのではなく、人類に普遍的であるとみなす思想、『人類は兄弟』のような平等思想や、共産主義、グローバリズムを世界に広めようとするのである。いわば、彼らが普遍的とみなす思想へ私たちを改宗させようと試みているのである」
 「グローバリズムは民族主義を否定すると言っても、ユダヤ人のみには民族主義が許されている。グローバリズムの下ではユダヤ人以外の民族主義は認められていないということは、グローバル社会において民族主義的なものはすべてユダヤ人が独占するのである」
 「グローバリズムはユダヤ普遍思想であって、その担い手であるディアスポラ・ユダヤ人はグローバリズムを世界に拡大させることによって、ユダヤ民族とイスラエル国家の安泰を図っているのだと言える」と。
 私見を述べると、馬淵が把握を試みているのは、ユダヤ民族という選民とこれを支持する非ユダヤ人が世界的な支配集団となり、他の諸民族・諸国民は脱ナショナリズム化させて、人類的普遍性の思想を持たせることである。ここには、ユダヤ人は自らの民族的特殊性の教えを堅持し、一方、他民族には人類的普遍性の思想を広めることで、イスラエルの安全とユダヤ民族の繁栄を確保できるという考え方がある。このように、ユダヤ人は、ユダヤ教にある民族的特殊性と人類的普遍性の二面性を発揮することで、民族の生き残りを図っていると理解される。
 こうしたユダヤ教の二面性を理解し、これに対処する必要がある。

●アメリカ=イスラエル連合に方向転換を促す

 第6に為すべきことは、アメリカ=イスラエル連合に方向転換を促すことである。まずこの連合の宗教的基盤について書くと、ディモントが注目するホセアの民族的特殊性の教えは、シナイ契約によって選民思想を樹立したモーゼに淵源する。一言で言えば、ユダヤ民族は神に選ばれた民であり、神と契約を結んでいる唯一の民族であるという思想である。一方、イザヤの人類的普遍性の教えは、イエスによってユダヤ民族の枠を超えて、諸民族に広める教えへと発展した。一言で言えば、「汝の隣人を愛せよ」という思想である。
 民族的特殊性を核心とするユダヤ教は民族宗教のままだが、人類的普遍性を説くキリスト教は世界宗教となった。キリスト教は、エスニックなユダヤ教と対立する。また、ローマ帝国、ゲルマン社会等の諸民族に固有の宗教を捨てさせ、脱エスニシズムの教えを広布した。だが、16世紀に至って、ヨーロッパで逆流が起った。ヨーロッパに深く浸透したカトリック教会が腐敗を極め、これに抗議するプロテスタンティズムが現れたことにより、キリスト教の一部が再ユダヤ教化したのである。その結果、ユダヤ民族は元来のエスニックなユダヤ教を堅持し、そのユダヤ民族を再ユダヤ教化したキリスト教徒が取り囲むという関係が生まれた。さらに、20世紀後半に至り、人類的普遍性の教えを信奉するキリスト教徒の社会が、宗教的・民族的特殊性を持つユダヤ教徒の社会を守る同盟関係が作られた。それが、アメリカ=イスラエル連合である。アメリカ=イスラエル連合は、ユダヤ教の民族的特殊性と人類的普遍性という二面性が、キリスト教を介して、国家間の関係に発展したものである。
 かつては、ユダヤ人のすべてがディアスポラだった。しかし、今はイスラエルに所属・居住するユダヤ人が、国民国家を形成している。彼らは、イスラエルという本国を防衛し、その拡張を図っている。一方、ユダヤ人の一部はディアスポラであり続け、本国外から本国の維持・発展に寄与している。主に米国に居住するユダヤ人がこの役割を担っている。ユダヤ人が多数、世界的な覇権国家アメリカに居住して、ロビー活動を行うことで、アメリカの政治・外交をイスラエルの国益にかなうものへと誘導している。それによって、アメリカのナショナリズムを、イスラエルのナショナリズムに寄与するものに変形させている。それゆえ、ユダヤ人は、もはや単なるディアスポラではない。元ディアスポラであり、現在は半分がディアスポラであることを利用して、本国の安全と民族の繁栄を追求するという高度な本国連携型のナショナリズムを展開している。
 今日、アメリカ=イスラエル連合は、国際社会でグローバリズムを推進するエンジンとなっている。またアメリカ=ユダヤ文化を普及することによって、ユダヤ的価値観を世界に普及しつつある。その活動は、ユダヤ民族のナショナリズムを強化し、他民族の脱ナショナリズムを促進するものともなっている。それゆえ、ユダヤ的価値観の超克のためには、非ユダヤ民族におけるナショナリズムを保持するだけでなく、アメリカ=イスラエル連合を世界の諸国民・諸民族の共存共栄に寄与するものに方向転換することが重要な課題となる。
 グローバリズムは、アメリカ=イスラエル連合を要として、ユダヤ=キリスト教による人類の教化を進め、ユダヤ教徒という選民とその支持者である非ユダヤ人が世界を統治する体制の樹立を目指す思想・運動となっている。グローバリズムを通じて世界に浸透しつつあるユダヤ的価値観を超克するためには、その核心にあるユダヤ教の在り方が問われねばならない。

 次回に続く。
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今年の10大ニュース(平成29年、2017年)

2017-12-30 09:49:28 | 時事
 今年(平成29年、2017年)は、1月20日に米国大統領に就任したドナルド・トランプ大統領が世界に重大な影響を与えた年だった。「アメリカ・ファースト」の方針のもと、環太平洋連携協定(TPP)から離脱、地球温暖化対策の国際枠組みを脱退を進めるなど、米国はオバマ政権時代とは正反対の方向に進みだした。だが、政権の支持率は戦後最低。政権中枢の辞任・解任が相次ぎ、政府高官の空席が多数あり、さらに選挙期間中、トランプ陣営がロシアと共謀した疑惑を追及されるなど、政権の不安定な状態が続いている。来年(平成30年、2018年)11月の中間選挙で有権者の票が共和党から民主党に多く流れ、政権が一層不安定になる可能がある。
 中東では、米軍中心の有志連合等の支援を受けた地元勢力が、いわゆる「イスラーム国」(ISIL)の掃討作戦を展開していたが、本年10月末までにイラク北部モスルとシリア北部ラッカが陥落した。それによって中東情勢が安定に向かうかと思われていたところに、12月6日トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定し、大使館を同市に移すと発表。パレスチナ人やアラブ諸国が抗議し、21日には国連の臨時総会で首都認定を無効とする決議案が採択された。組織としては壊滅したとしてもISILの残党やその同調者によるテロが止まるわけではない。エルサレム問題は来年、世界を揺るがす最大級の問題となるだろう。
 一方、東アジアでは、トランプ政権発足後、北朝鮮の金正恩が核・ミサイル開発を加速。トランプと金の激しい応酬が続くなか、北朝鮮はICBMの実験を重ねて、11月には米本土全域を射程に収める「火星15」の試射に成功。これに先立つ9月には、6回目の核実験で水爆を完成したと発表。これを重大な脅威とする米国は外交による解決を試みつつも、軍事行動も辞さぬ構えて圧力を強化。米朝の緊張は、開戦近しと予想させるレベルに高まっている。
 北朝鮮の核・ミサイル開発は、わが国にとっても重大な脅威である。8月と9月に発射された弾道ミサイルは、北海道上空を越えて太平洋に落下した。全国瞬時警報システム(Jアラート)が稼働する事態となり、国民の多くが北の脅威を強く感じるようになった。安倍首相は、米国との連携を強化し、11月に初来日したトランプ大統領とともに日米首脳の固いきずなを世界にアピールした。また、政府は、防衛力の強化のため、巡航ミサイルやイージス・アショアの導入を決めた。
 わが国にとって長期的にさらに大きな脅威となっているのが、中国である。10月に5年に1度の中国共産党大会が開かれ、「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」が党規約に明記された。これによって、自身を毛沢東、鄧小平と同等の地位に高めた習総書記兼国家主席は、今大会の人事で後継者となり得る次世代の人材を政治局常務委に入れず、長期政権を樹立した。独裁体制を確立する狙いと見られる。
 厳しい国際環境をわが国が生き抜いていくには、GHQから押し付けられた憲法を、日本人自らの手で改正し、国家の再建を行うことが不可欠である。安倍首相は、5月3日に自民党総裁として、2020年に新憲法施行という目標を明言した。その後、10月22日に行われた衆院選挙に、自民党は初めて憲法改正を公約に掲げて選挙に臨み、自公が3分の2、改憲勢力が8割を占める大勝となった。来年は、国会で憲法改正の議論が加速され、早期に改正案が作られ、国民投票の実施に進むことが期待される。
 さて、昨年9月今上陛下がテレビ放送でお気持ち表明をされ、数年のうちに譲位をされたい意向を示された。これを承って、安倍政権は有識者会議を設立、国会で関連法を制定し、平成31年4月30日に譲位、5月1日に即位・改元という重要日程を決めた。天皇は日本国および日本国民統合の象徴であり、皇位の安定的な継承は、憲法改正の実現とともに、わが国の根幹に係る重大な課題である。
 わが国は大きな節目を迎えている。日本人が日本精神を取り戻し、日本の再建を進めることが、国民一人一人の幸福と発展につながる。またそれが世界の平和と発展への貢献となる。

 来年も、どうぞよろしくお願いいたします。皆様、よい年をお迎えください。

 以下は、時事通信社による今年の10大ニュース。

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時事通信社が選ぶ10大ニュース(2017年)
https://www.jiji.com/jc/d4?p=jtn217&d=d4_oldnews

<国内>

【1位】天皇退位、2019年4月末に

 政府は12月8日の閣議で天皇陛下が退位される日を「2019年4月30日」と定めた政令を決定し、13日に公布した。同年5月1日に皇太子さまが新天皇に即位する。即位と同じ日に改元も行われ、平成は30年と4カ月で幕を下ろすことになる。天皇退位は1817年の光格天皇以来約200年ぶりで、現行憲法下では初めて。新元号は来年中に発表される方向だ。
 今年6月に成立した退位を可能にする特例法は、施行日に天皇陛下が退位し、皇太子さまが直ちに新天皇に即位すると規定。特例法に基づき、12月1日に約25年ぶりの皇室会議を宮内庁で開き、三権の長や皇族らの意見を聴いた。天皇・皇后両陛下の退位後の称号は「上皇」「上皇后」、秋篠宮さまは皇位継承順位第1位の「皇嗣(こうし)」となる。
 
【2位】衆院選で自民大勝、民進が分裂

 安倍晋三首相の政権運営への評価が最大の争点となった第48回衆院選は10月22日に投開票され、自民党が公示前勢力に迫る284議席を獲得して大勝した。投票率は53.68%で、戦後最低だった前回に次ぐ低水準。11月1日に召集された特別国会で第98代首相に指名された安倍首相は同日夜、全閣僚を再任し、第4次安倍内閣を発足させた。
 衆院選に先立ち、小池百合子東京都知事は希望の党を結成。野党第1党だった民進党は公認候補を擁立せず、希望に公認を申請する異例の方針を決めた。だが、小池氏は憲法観などの不一致がある場合「排除する」と述べ、全面合流を拒否。枝野幸男元官房長官らは立憲民主党を結成、その他は無所属で出馬と、民進党は3分裂した。小池氏の発言が響いて希望は失速、立憲は躍進した。
 
【3位】森友・加計・日報、政権揺るがす

 学校法人「森友学園」への国有地格安売却と「加計学園」の獣医学部新設をめぐり、安倍晋三首相や周辺の関与の可能性が疑惑として浮上、国会で問題化した。南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報問題は稲田朋美防衛相辞任に発展。政権の足元は揺らぎ、内閣支持率は急落した。
 国が森友学園に売却した国有地は、同学園が開学を予定した小学校用地。首相夫人の昭恵氏が名誉校長に就任していた。首相が関与を否定したことから野党は「役所の忖度(そんたく)があったのではないか」と追及した。加計学園問題では、獣医学部新設は「総理のご意向」と記された政府の内部文書の存在が発覚。防衛省では、廃棄されたはずのPKO派遣部隊日報の保管が明らかになり、文民統制の面で課題を残した。
 
【4位】「ものづくり」信頼揺らぐ

 日産自動車、神戸製鋼所などで、製造現場の不正行為が相次ぎ発覚した。日産とSUBARU(スバル)では資格のない従業員が完成車の検査を行っていた。神鋼は品質データの改ざんなどを繰り返した。同様の不正は、素材大手の三菱マテリアルや財界総理と呼ばれる経団連会長を出す東レの子会社にも飛び火。産業界に衝撃が走った。
 一連の不正で、ルールを無視したずさんな品質管理や、安全性に対するモラル低下があらわになった。こうした製造現場の実態を把握してこなかった経営陣にも厳しい目が向けられ、企業統治の在り方が問われた。神鋼グループの工場では、日本工業規格(JIS)認証の取り消しや一時停止が続出。日本が世界に誇ってきた高品質な「ものづくり」への信頼が大きく揺らいだ。
 
【5位】アパートに9遺体、男を逮捕

 神奈川県座間市のアパート一室で10月末、行方不明者の捜索をしていた警視庁の捜査員がクーラーボックスなどに入れられた複数の遺体を発見した。被害者は女子高校生3人を含む1都4県の15~26歳で、女性8人と男性1人。警視庁は住人の白石隆浩容疑者(27)を死体遺棄容疑で逮捕した。9人全員の殺害を認めており、同庁は殺人容疑で再逮捕した。
 被害女性はいずれも、インターネット上の交流サイトで自殺願望を書き込むなどしていた。白石容疑者はツイッターで「首吊(つ)り士」と名乗り、被害者らと接触。8月末以降、部屋に誘い込み、ロープで首つり状態にして殺害した。遺体は切断し、一部はごみとして捨てていた。「金目的」と供述しているが矛盾する点もあり、全容解明が待たれる。
 
【6位】桐生、ついに9秒台

 陸上の男子100メートルで、桐生祥秀(22)=東洋大=がついに10秒の壁を突破する9秒98を記録した。9月9日に福井市で開催された日本学生対校選手権。伊東浩司が1998年にマークした10秒00の日本記録を19年ぶりに0秒02更新し、日本選手で初めて9秒台の領域に踏み込んだ。
 これまで9秒台をマークしたのは大半が北中米やアフリカの黒人選手。アジア勢ではアフリカ出身でカタールに国籍を変更した2人と、2015年に9秒99を出した蘇炳添(中国)の計3人しかいなかった。桐生は13年に10秒01を記録してから期待を背負い、以後4年を費やして歴史的なタイムを手に入れた。ライバルたちも触発され、山県亮太(セイコー)が9月24日に日本歴代2位に並ぶ10秒00を記録。来季も相乗効果が期待される。
 
【7位】「共謀罪」法が成立

 「共謀罪」の構成要件を改め「テロ等準備罪」を新設した改正組織犯罪処罰法が6月15日、成立した。施行は7月11日。277の犯罪を計画段階で処罰可能とする内容で、政府は2020年東京五輪・パラリンピック開催に向け、テロ防止に必要と主張する。一方、野党や専門家は、捜査当局による恣意(しい)的な運用を懸念している。
 共謀罪創設は過去に3度廃案となったが、政府は今回、適用対象を「組織的犯罪集団」とし、物品の手配など「実行準備行為」を要件と定めた。だが、その定義は曖昧で、内心の自由への侵害や日常的な監視につながりかねないとの指摘がある。同法には自民、公明両党と日本維新の会などが賛成。与党は参院で、委員会採決を省略して本会議で可決させる異例の手法を用いた。
 
【8位】九州北部豪雨で死者・不明41人

 7月5~6日を中心に台風3号と梅雨前線の影響で「九州北部豪雨」が発生し、福岡、大分両県で死者38人、行方不明者3人となった。3号は九州北部を横断し、気象庁は5日に両県に大雨特別警報を発表。大規模な土砂崩れや河川の氾濫が起き、大量の流木で家屋や鉄道の鉄橋などが流された。不明者の捜索が長引き、農林水産業に大きな被害が生じた。政府は激甚災害に指定し、自治体の災害復旧事業への補助率をかさ上げした。
 台風は5号が8月7~8日に近畿・北陸を縦断。秋にも日本列島への上陸が相次ぎ、18号が9月17~18日に九州南部と四国、近畿、北陸を縦断したほか、21号が10月23日に東海と関東を縦断した。総務省消防庁によると、死者は5号で2人、18号で5人、21号で8人に上った。
 
【9位】将棋の藤井四段が29連勝

 中学3年生の最年少将棋棋士、藤井聡太四段(15)が6月、昨年10月のプロデビューから負け知らずで30年ぶりに歴代最多連勝記録(28連勝)を塗り替える29連勝を達成した。当時14歳ながら、「望外」「僥倖(ぎょうこう)」など難しい言葉を使うキャラクターも話題となり、対局中の食事内容まで報道される社会現象に発展した。
 これまでに中学生で棋士になったのは、今年引退し、「ひふみん」の愛称で親しまれている加藤一二三・九段(77)、十七世名人の資格を持つ谷川浩司九段(55)、前人未到の永世7冠を達成した羽生善治2冠(47)=竜王、棋聖=、永世竜王の資格を持つ渡辺明棋王(33)の4人。連勝が途切れた後も藤井四段は高い勝率を保っており、今後も偉大な先輩らを超える活躍が期待される。
 
【10位】電通に有罪、働き方改革へ機運

 広告最大手の電通が10月、過労自殺した新入社員を含む4人に違法な残業をさせていた労働基準法違反罪に問われ、東京簡裁で罰金50万円の有罪判決を言い渡された。当初は検察側が書面審理の略式起訴を求めたが、簡裁は正式裁判を決定。公開の法廷で社長が謝罪し再発防止を誓う異例の展開をたどり、判決は「尊い命が奪われ看過できない」と指弾した。
 日本を代表する企業で起きた過労自殺は判決の1年前、母親の実名告発で明らかになり、会社の利益のため身を粉にして働く企業文化や取引慣行に疑問を投げ掛けた。政府が3月に策定した働き方改革実行計画では長時間労働是正策として「月100時間未満」の残業規制が打ち出され、「かつての『モーレツ社員』という考え方自体を否定していく」とうたわれた。
 
<海外>

【1位】北朝鮮、核・ミサイル開発加速

 北朝鮮はトランプ米政権発足後に核ミサイル開発を加速させ、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を繰り返し、9月には6回目の核実験を強行した。11月には射程1万3000キロに及ぶとみられる新型ICBM「火星15」を高角度のロフテッド軌道で発射し、「米本土全域を攻撃できる」と主張した。米国は経済封鎖に加えて軍事的威嚇の強化で対抗、米朝間の緊張が高まった。
 8月と9月に発射した弾道ミサイルは、日本上空を越えて太平洋に落下した。政府は全国瞬時警報システム(Jアラート)を通じて、国民に避難を呼び掛けたほか、自衛隊は米空母などとの共同訓練を日本海などで行った。防衛省は対応能力強化に向け陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を早期に導入する方針だ。
 
【2位】トランプ米政権発足、混乱続く

 昨年の米大統領選で既存政治に不信を抱く白人労働者の心を捉え、予想外の勝利を収めた共和党のドナルド・トランプ氏が1月20日、第45代米大統領に就任した。トランプ氏は就任演説で「米国第一主義」を宣言し、直後に環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を指示。国際協調を掲げたオバマ前政権からの様変わりは世界に衝撃を与えた。
 トランプ氏は地球温暖化対策の国際枠組み脱退も表明。内政ではイスラム圏からの入国禁止や国境の壁建設を打ち出した。ただ、幹部の解任が相次ぎ、トランプ氏とティラーソン国務長官の不和も伝えられるなど、政権運営は不安定なまま。ロシアがトランプ陣営と共謀し大統領選に介入した疑惑はフリン前大統領補佐官の訴追に発展し、政権を揺るがし続けている。
 
【3位】中国、習近平氏「1強」確立

 5年に1度の中国共産党大会が10月に開かれ、習近平総書記(国家主席)の名を冠した指導理念「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」が党規約に明記された。習氏は2012年の政権発足以来、反腐敗闘争での政敵打倒、言論統制での異論排除という特異な政治手法で権力を固め、2期目を迎え「1強」を完全確立させた。
 習氏は党大会政治報告で、建国100周年を迎える今世紀半ばまでに「社会主義現代化強国」になると宣言。「建国」の毛沢東、「富国」のトウ小平を意識し、「強国」路線に基づく長期戦略を示した。人事では自身の後継者となり得る若手指導者を最高指導部・政治局常務委に入れず、慣例を破って長期政権で臨む意向を示した。常務委の下の政治局員にはかつての部下らを大量登用した。
 
【4位】IS、拠点陥落で事実上崩壊

 日本人を含む外国人人質殺害事件や欧米諸国での大規模テロを引き起こして国際社会を震撼(しんかん)させた過激派組織「イスラム国」(IS)は2017年、米軍主導の有志連合などの支援を受けた地元勢力の作戦によりイラクとシリアの大半で駆逐された。ISの2大活動拠点だったイラク北部モスルとシリア北部ラッカも陥落し、組織としては事実上崩壊した。
 ISは14年、イラクとシリアで急速に伸長した。指導者バグダディ容疑者はイスラム教の預言者ムハンマドの代理人「カリフ」と称し、一時は両国にまたがる広大な地域を支配する疑似国家を構築。恐怖支配体制を敷いた。異なる宗教・宗派や文化を敵視するISの過激思想は現在も拡散したままで、世界各地で共鳴者によるテロの脅威が続いている。
 
【5位】韓国大統領罷免、文在寅政権発足

 韓国の朴槿恵大統領(当時)の親友、崔順実氏による国政介入事件で、憲法裁判所は3月10日、世論に押される形で「容認できない重大な憲法、法律違反があった」として朴氏の弾劾を妥当と判断。史上初めて大統領が弾劾により罷免される事態となった。不訴追特権を失った朴氏は3月31日に収賄などの容疑で逮捕され、4月17日に起訴された。事件は2016年10月に発覚。同12月に国会が朴氏の弾劾訴追案を可決していた。
 17年5月9日の大統領選挙では、朴氏罷免を受けて保守勢力は低迷した。朴氏退陣を求めて繰り広げられた「ろうそく集会」を主導した革新勢力は「共に民主党」の文在寅候補を支持。文氏は「積弊(積もった弊害)清算」を訴えて勝利し、盧武鉉政権以来9年ぶりに革新政権が誕生した。
 
【6位】欧州テロ、選挙で右派伸長

 2015年にパリで起きた風刺週刊紙本社銃撃事件以降、欧州ではテロが続発。容疑者の中には難民申請者も含まれていたため、「反難民」「反イスラム」を掲げる右派政党が大政党に対する不満の受け皿となって支持を伸ばした。
 3月のオランダ下院選では、極右・自由党(PVV)が議席数を増やした。5月の仏大統領選では、極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首が与党候補らを破って決選投票に進出。9月のドイツ連邦議会(下院)選では新興右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が国政進出を果たした。10月のオーストリア国民議会(下院)選挙(総選挙)では、厳しい難民政策を掲げる保守系の国民党が第1党に躍進、第3党の極右野党・自由党と連立交渉を進めている。

【7位】マレーシア空港で金正男氏暗殺

 北朝鮮の故金正日朝鮮労働党総書記の長男で、金正恩党委員長の異母兄・金正男氏が2月13日、マレーシアのクアラルンプール国際空港で女2人から顔に液体を塗り付けられ殺害された。遺体からは化学兵器の神経剤VXが検出された。化学兵器を大量に保有し、正恩体制の正統性を脅かす恐れがある正男氏を敵視していた北朝鮮当局の関与が疑われた。
 逮捕・起訴されたベトナム、インドネシア国籍の実行犯2人は「いたずら動画への出演と思っていた」と無罪を主張。黒幕とみられる北朝鮮国籍容疑者への捜査協力要請を北朝鮮側は拒否し、マレーシアとの関係が悪化した。北朝鮮が事実上の人質としたマレーシア人9人と正男氏の遺体を交換する形で決着したが、事件の真相が解明される見通しは立っていない。

【8位】ミャンマーからロヒンギャ難民

 ミャンマー西部ラカイン州でイスラム系少数民族ロヒンギャの武装集団が8月25日、警察施設などを攻撃し、政府の治安部隊と本格的に衝突した。ロヒンギャの村では放火や性暴力が相次いで発生。隣国バングラデシュへ逃れたロヒンギャ難民は60万人以上に達した。国際的な関心が高まる中、9月の国連総会でロヒンギャ迫害を「民族浄化」と批判する声などが相次ぎ、ミャンマー政府への圧力が強まった。
 ミャンマーで多数派の仏教徒はロヒンギャを差別してきたが、1962年に始まった軍政時代にその傾向は強まった。民政移管後の現在も、政府はロヒンギャを「バングラデシュからの不法移民」と見なし、国民と認めていない。ロヒンギャは2012年にも仏教徒との衝突で、約200人が殺害された。
 
【9位】NYダウ、2万4000ドル突破

 ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均の終値は11月30日、史上初めて2万4000ドルを突破した。トランプ米政権が1月に発足。政権の積極的な経済政策を期待した「トランプ相場」に市場は沸き立ち、1月に2万ドルの大台に乗って以降、1年を通じて最高値を繰り返し塗り替えた。米国や中国など主要各国の経済が軒並み好調を維持し、米企業で好決算が相次いだことも追い風となった。
 さらに、政権が11月、中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長に財務次官や投資ファンド共同経営者を歴任したパウエル理事を指名したことも株価を支えた。現執行部からの昇格により、イエレン議長(来年2月に退任)の経済政策が踏襲され、低金利環境がしばらく続くとの安心感が市場に広がった。

【10位】国連、核禁止条約採択

 核兵器の使用や保有、製造などを幅広く法的に禁止する「核兵器禁止条約」が7月、国連で122カ国の賛成を得て採択された。核兵器に絡む活動を違法化する条約が国連で採択されるのは初めて。12月には各国政府などに同条約への参加を促す活動を続けている国際的なNGOの連合体「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」がノーベル平和賞を受賞。ノルウェー・ノーベル賞委員会はICANが「核兵器禁止と廃絶への協力を各国に約束させる原動力となった」と評価した。
 核軍縮の停滞を背景に、非保有国の主導で交渉が進んだ条約は「核廃絶に向けた大きな機運」(田上富久長崎市長)と歓迎の声が上がる一方、核保有国や「核の傘」に入る日本は条約に参加しておらず、核軍縮実現に向けたハードルは高い。
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ヨーロッパは移民問題で揺れている6

2017-12-29 08:49:28 | 国際関係
●結びに~対岸の火事ではない

 2016年6月、英国は国民投票の結果、EUを離脱することを決めた。この決定が、各国のリベラル・ナショナリズムの政党を勢いづけた。さらに同年11月のアメリカ大統領選挙で、「アメリカ・ファースト」を掲げ、不法移民の本国送還やメキシコとの国境に壁を建設等の政策を訴えたドナルド・トランプが勝利すると、これが一層の追い風になった。
 2016年12月のオーストリアの大統領選挙のやり直し決選投票では、リベラル・ナショナリズムの政党の候補者ノルベルト・ホーファーが、親EU・移民受け入れの候補者に敗れたものの、大接戦を演じた。またイタリアでは国民投票でEU追従的な憲法改正案が否決され、マッテオ・レンツィ首相が辞任を表明した。
 2017年3月のオランダの下院総選挙は、自由党が第一党になるか注目されたが、ルッテ首相率いるグローバリズム的リージョナリズムの中道右派の与党・自由民主党が第一党を維持し、自由党は伸び悩んだ。しかし、これに対抗するため与党が移民政策を抑制的なものに変えるなど、一定の影響力を与えている。
 4~5月のフランス大統領選挙では、国民戦線のマリーヌ・ルペンが台風の目となると見られた。第一回投票では中道系独立候補のエマニュエル・マクロンに僅差の2位につけた。しかし、一騎打ちの決選投票では、保守・中道・リベラルの票がマクロンに集まり、大差で敗れた。6月の国民議会選挙では、国民戦線はごくわずかの議席しか獲得できなかった。
 9月のドイツ総選挙では、アンゲラ・メルケル首相が率いるCDU/CSUが第1党の座を確保したが、議席を大きく減らした。難民の受け入れに反対するAfDが初めて議席を獲得しただけでなく一気に第3党に躍進し、議会運営や政策決定にも影響を及ぼす勢力となった。それとともにメルケルは、選挙後未だ連立政権を組むことが出来ず、他党と交渉が続いており、場合によっては再選挙の可能性も出てきている。
 他の国々では、チェコで10月に下院選が行われ、EUに懐疑的な中道右派「ANO」が第1党になった。東欧諸国は、西欧など多くの国が目指す難民受け入れの分担制度の恒久化に反対しており、EU内の東西の軋轢が増している。
 また同じ10月、スペインのカタルーニャ州議会が独立宣言を可決した。税制の不公平など、州民の積年の不満が噴出したものである。これに対し、スペイン国会上院は、憲法の規定に基づいて自治権停止を宣言した。プチデモン州首相はその座を追われ、逮捕を避けるためベルギーに避難した。しかし、中央政府が主導した12月21日の州議会選挙では、独立反対の政党が第一党になったものの、独立支持勢力が過半数を維持した。独立を巡って州民は分裂状態になている。同州は経済的に豊かで外国からの投資も多い。スペインから離脱する事態になれば、スペイン経済に大きな打撃となるに違いない。スペインは、EUで財政状況が特に悪い国々として、ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャとともにPIIGSの一角をなす。スペインの経済悪化は、PIIGSの他の国々をはじめ、EU諸国全体にとっても負の影響を与えるだろう。
 EUやユーロを維持しようとする勢力にとって、反難民・移民の政党が各国で台頭していることは、深刻な脅威である。彼らは、2017年に先のオランダ総選挙、仏大統領選で反EU勢力が権力を奪取するという事態を回避でき、EU推進を前面に掲げたマクロンが仏大統領になったことで、欧州統合の流れに勢いを取り戻した。ヨーロッパの支配集団である巨大国際金融資本家や欧州の王侯・貴族等は、強力な資金力を駆使して、情報操作や世論の誘導をしているところだろう。
 2017年12月15日、EU首脳会議が閉幕した。EUへの悪影響を最少化するため、各国の首脳らは英国の離脱交渉を前進させ、EU重要改革の論議に本格的に着手した。この会議でEUは、加盟国の本格的な防衛協力体制「常設軍事協力枠組み」(PESCO)を正式に発足した。防衛協力は1950年代の試みが頓挫した後、停滞していたが、今回前進できたことは統合への推進力となる。また、難民・移民対策やユーロ圏改革については、今年(2018年)6月に一定の合意を得ることを目標に議論を本格化させた。ただし、この問題こそ、EU加盟国のそれぞれの国内で、また西欧など多くの国と東欧諸国との間で、最も激しい対立を生じている事柄であり、合意形成は非常に困難だろう。
 こうした各国の状態及びEU首脳部の動きを合わせ見ると、反EU、反ユーロ、反グローバリズム、反リージョナリズムの動きが一直線に進むとは見られない。EUやユーロを維持しようとする勢力は巨大であり、また現状維持を望んだり、急激な変化を警戒する有権者は多いからである。しかし、それでもなお反EU、反ユーロ、反グローバリズム、反リージョナリズムの動きが長期的には段々、強まっていくことが予想される。

 ヨーロッパを揺るがしている移民問題は、世界的な大問題となっている。これは、わが国にとって、決して対岸の火事ではない。これから移民を積極的に受け入れ、移民を1000万人にまで増やそうという計画があるからである。1000万人の移民を受け入れるとすれば、そのほとんどは、共産党支配下の中国からの移民となる。これがどれほど危険なことか、移民問題で国家の方針を誤れば、日本は中国に呑み込まれ、衰滅に至る。ご関心のある方は、拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」の第4章以降をお読みください。(了)
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09i.htm
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ユダヤ144~グローバリズムを克服、ナショナリズムを保持

2017-12-27 08:51:14 | ユダヤ的価値観
●グローバリズムを克服する

 第三に為すべきことは、グローバリズムの克服である。グローバリズムについては、前章までに何度か書いたが、グローバリズムはグローバリゼイションを戦略的に進める思想であり、ユダヤ的価値観を世界的に普及させようとする思想である。地球規模の単一市場・統一政府を目指すものであり、地球統一主義または地球覇権主義である。私は、グローバリズムは近代西洋文明が生み出した思想の典型であり、またその頂点だと考える。
 1990年代から、21世紀にかけて、世界的にグローバリゼイションが急速に進んでいる。グローバリゼイションは、国境を越えた交通・貿易・通信が発達し、人・もの・カネ・情報の移動・流通が全地球的な規模で行われるようになる現象である。これに伴い、技術・金融・法制度等の世界標準が形成されつつある。グローバリゼイションは、アメリカ主導で進められ、アメリカの標準を世界の標準として普及する動きとなった。この動きは、アメリカの国益を追求する手段として推進された。またアメリカの伝統・習慣・言語・制度等を他国に押し付けるアメリカナイゼイションの拡張ともなった。今日のアメリカ文化は、イギリスで発達したアングロ・サクソン=ユダヤ的な文化がアメリカでさらに独自性を加えて発達したアメリカ=ユダヤ文化である。その核心には、ユダヤ的価値観がある。それゆえ、グローバリゼイションは、アメリカを通じてユダヤ的価値観が世界的に普及していく現象ともなっている。
 このグローバリゼイションを戦略的に進める思想が、グローバリズムである。20世紀前半から、欧米の所有者集団は、彼らに仕える経営者集団を使って、資本の論理によって国家の論理を超え、全世界で単一政府、単一市場、単一銀行、単一通貨を実現する思想を発展させてきた。その思想が、グローバリズムのもとになっている。
 グローバリズムが出現する前、近現代の世界では、ナショナリズムとインターナショナリズムの戦いが繰り広げられてきた。具体的には、国家と市場、国民と階級の戦いである。インターナショナリズムには、主に市場中心の資本主義と、国家(政府)の否定を目指す共産主義がある。国家否定的共産主義のインターナショナショナリズムは、共産主義の内部矛盾によって大きく後退した。一方、冷戦終焉後、市場中心的資本主義のインターナショナリズムは隆盛し、地球規模のものになった。これがグローバリズムである。
 グローバリズムは、経済的には、世界資本主義の思想である。巨大国際金融資本が主体となって、国民国家の枠組みを壊して広域市場を作り出し、最大限の経済的利益を追求するために、経済的合理主義を地球規模で実現しようとする思想である。諸文明・諸民族が持つ伝統的な商慣習や文化的秩序は、グローバルな経済活動の障害になるとして、廃止させようとする。
 元ウクライナ大使の馬淵睦夫は、外交官としての実務経験をもとに、グローバリズムについて独自の考察を行っている。著書『国難の正体』で、馬淵は「グローバリズムという発想は、歴史的に見ればユダヤ的思考が果たした役割が大きいと思われる」とし、ユダヤ人は国民・国家を超えて「世界全体を単一市場」とすることを目指していると書いている。
 馬淵によれば「グローバル化した市場はマネーの価値のみで動くから、マネーを支配する者が市場を支配する」。それによって、「国家を支配し、世界を支配する」。「マネーの完全支配を目指す国際銀行家たちは、論理の必然として全世界を支配することが彼らの最終目標となる」「国際銀行家たちの仕事に内在している論理が世界制覇、世界政府の樹立という結論になる」と馬淵は述べている。馬淵は、著書『世界を操る支配者の正体』で、グローバリズムとは国際銀行家たちが支配する世界市場及び世界政府を創造しようとする地球規模の運動である、と定義している。
 私見を述べると、グローバリズムは、政治的には、既存の国家を超えた統一世界政府を目指す思想である。第1次世界大戦後に始まった世界政府建設運動が、第2次大戦後、ヨーロッパでEUという広域共同体を生み出した。この動きの延長線上に、地球規模の統一政府がある。それゆえ、グローバリズムは、資本主義的な経済合理主義に基づく地球統一主義または地球覇権主義である。
 グローバリズムは、21世紀の世界において、ユダヤ的価値観を全地球規模で普及・徹底する思想・運動となっている。ロスチャイルド家を中心とするユダヤ系国際金融資本家と、彼らとユダヤ的価値観を共にするロックフェラー家を中心とする非ユダヤ系資本家がこれを推進していると見られる。推進には巨大国際金融資本によって莫大な資金が投入され、優れた頭脳と最新の技術が集められ、政治的・経済的な国際機関、学術・教育・研究機関、マスメディア等が推進の手段になっていると考えられる。
 ユダヤ的価値観の超克のためには、このグローバリズムの克服が必要である。

●ナショナリズムを保持する

 第四に為すべきことは、諸国民・諸民族がナショナリズムを保持することである。
 ユダヤ人の指導層及び非ユダヤ人でユダヤ的価値観を共にする者たちは、現代世界の支配集団、すなわち所有者集団と経営者集団の重要部分を占め、グローバリズムを世界戦略として推し進めている。
 世界戦略としてのグローバリズムは、ユダヤ民族におけるナショナリズムの強化と、他民族における脱ナショナリズムの促進を戦術に含んでいる。ユダヤ人及びユダヤ人に同調する非ユダヤ人の大衆は、シオニズム的なナショナリズムを信奉または支持することで、意識するとしないとに関わらず、支配集団によるグローバリズムの推進に参画していることになる。
 ナショナリズムについては、第5章の現代におけるユダヤ人の様々な思想の項目に書いた。再度になるが、私はナショナリズムを次のように定義している。ナショナリズムとは、エスニック・グループをはじめとする集団が、一定の領域における主権を獲得して、またその主権を行使するネイションとその国家を発展させようとする思想・運動である。また、西洋文明の近代以前及び非西洋文明にも広く見られるエスニシズムの特殊な形態であり、近代西欧的な主権国家の形成・発展にかかるエスニシズムである。
 ユダヤ人のナショナリズムは、エスニックで宗教的なナショナリズムである。イスラエル建国後は、本国においては対外拡張型、本国外においては本国連携型のナショナリズムとなっている。イスラエルは、数次にわたる中東戦争を戦い、周囲に対して対外拡張的な行動を行ってきた。それとともに、イスラエル国外にいるユダヤ人が本国と連携して、本国の安全と民族の繁栄を追求している。
 ユダヤ的ナショナリズムは、宗教的には、ユダヤ教徒が救世主(メサイア)を中心として世界の統治者になろうとする思想に裏付けられている。ユダヤ教は民族宗教であるので、他民族をユダヤ教に改宗させようとはしない。選民は少数の集団に限定され、他の多数を選民に加えることをしない。選民が選民であり続けるには、非選民が必要であり、選民と非選民の差別が不可欠だからである。
 この差別のもと、ユダヤ人の指導層は、ユダヤ民族・ユダヤ教徒が生き延び、宗教的な世界統治を実現しようとするための世界政策を行う。そのために、自民族のナショナリズムを強化する。同時に、他民族のナショナリズムを弱めようとして、脱ナショナリズムを促進する。ユダヤ人のみがナショナリズムを堅持し、他民族はナショナリズムを失っていくように誘導する。親イスラエルの国家以外の国は、ナショナリズムによって集団が団結しないようにする。そのための方法として、集団の内部を分裂・対立させる。個人の意識を強め、個人主義化する。自由主義的な資本主義、インターナショナリズム的な社会主義、世界市民主義的なコスモポリタニズム等は、思想・立場の違いにかかわらず、それぞれこの目的に適う部分がある。ユダヤ人の指導層が抱く将来の世界像は、中心部をユダヤ教及びユダヤ的ナショナリズムを堅持するユダヤ人とその支持者による極少数の集団が占め、周辺部はナショナリズムを失い、固有の宗教を失った諸民族の大多数の集団が居住する社会と想像される。
 このようにグローバリズムのもとでのナショナリズム/脱ナショナリズムを複合した戦術が、ユダヤ的価値観に基づく世界戦略に含まれている、と私は考える。これに対抗するには、非ユダヤ民族がナショナリズムを保持することが必要である。独自の伝統・慣習・文化等に価値を見出し、尊重・維持する考え方や生き方を保つことである。そのうえで、特定の民族集団が世界を支配するのではなく、様々な民族が個性を保ちながら共存調和できる指導原理を探究し、普及していかなければならない。

 次回に続く。
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ヨーロッパは移民問題で揺れている5

2017-12-26 08:52:26 | 国際関係
フランスの移民問題

 2017年4~5月のフランス大統領選挙は、世界的な関心を集めた。前年6月イギリスが国民投票でEUを離脱を決めたので、フランスはどうなるかが注目されたのである。
 英国のEU離脱を「ブレグジット(Brexit)」という。これに対し、フランスのEU離脱を「フレグジット(Frexit)」という。英国は、EUでは外様である。だが、フランスは、ドイツと並ぶEU二本柱の一つである。独仏の連携が、ヨーロッパにおける広域共同体を生み出し、EUへと発展させてきた。また、英国と違って、フランスはユーロ使用国である。それゆえ、フレグジットは、ブレグジット以上に、EUに強力な打撃を与えるに違いない。フランスが離脱すれば、その他の欧州各国でも、反EU、脱ユーロの勢力が増進し、次々に離脱が進むと予想される。EUは単なる規模の縮小にとどまらず、ドイツを中心とした再編を余儀なくされ、解体の道を進むかもしれない。こうしたことが予想される中で、2017年のフランス大統領選挙は行われた。
 今日、フランスは、欧州諸国の中でもイスラーム教徒の絶対数が多いことで知られる。比率も、人口の8%ほどを占める。私は、どこの国でも移民の数があまり多くなると、移民政策が機能しなくなって移民問題は深刻化すると考える。その境界値は人口の5%と考える。フランスの人口比率は、その境界値を超えてしまっている。
 2015年(平成27年)11月13日パリで同時多発テロ事件が起こり、130人が死亡し、約350名が負傷した。フランスでは第2次世界大戦後、最悪のテロ事件となった。
 戦後、フランス政府は、移民として流入するマグレブ人イスラーム教徒に対して、フランス社会への統合を重視してきた。だが、統合はうまくいかず、フランスの移民の多くは今日、貧困にさらされている。失業者が多く、若者は50%以上が失業している。彼らの多くは、差別や就職難等について、強い不満を持っている。そうした者たちの中から、イスラーム教過激派の思想の影響を受ける者が現れている。ISILなどが流し続ける「自国内でのテロ」の呼び掛けに触発される者もいる。こうした「ホームグロウン(自国育ち)」と呼ばれるテロリストの増加が、パリ同時多発テロ事件によって浮かび上がった。
 第2次世界大戦後、戦後フランスの政治を担ってきた主要政党は、共和党と社会党である。ともに非宗教的な政党である。両党の違いは、自由主義と社会主義の違いである。だが、どちらもEUを支持しており、EU支持勢力の中の右派と左派の違いでしかない。両党ともグローバリズム的なリージョナリズムに拠っている。仏共和党は、1990年代からイギリスやアメリカの新自由主義の影響を強く受けて、新自由主義が主流となっている。仏社会党は、社会主義ではあるが、穏健な民主社会主義である。これらの政党は、政治思想の違いはあるが、脱国家・脱国民の方向性を共有している。ヨーロッパにおいて、グローバリズム的なリージョナリズムに対抗する思想は、反グローバリズムかつ反リージョナリズムのナショナリズムである。この立場に立つのが、国民戦線(FN)である。
 FNは、ユダヤ人排外主義・反移民とネイションの強化を主張するジャン=マリー・ルペン党首に率いられて、1980年代に勢力を拡張した。「極右」と呼ばれるが、ファシズムではなく、リベラル・ナショナリズムの政党である。娘のマリーヌが2代目党首になると、排外主義のトーンを下げ、社会保障重視政策を掲げて支持者を拡大してきた。
 マリーヌ・ルペンは、2015年11月、パリで同時多発テロが起きた後、「イスラーム主義はフランスの価値観に合わない」と移民受け入れの適正化を主張し、EUが進める自由貿易を批判して、社会党の基盤である労働者層に支持を広げてきた。2016年6月、英国のEU離脱が決まると、ルペンはこれを歓迎し、「フランスにはEU離脱のための理由が、英国以上にある。その理由はフランスはユーロ圏に属し、シェンゲン協定に加盟しているからだ」と語った。シェンゲン協定は、ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可する協定である。域内の移動の自由を保障する取り決めである。
 2016年11月に米大統領選挙でトランプが勝利した時、マリーヌ・ルペンは、「イギリスがEU離脱を決めたのに続いて、トランプが勝利した。我々はトランプが差し出した手を握って進まねばならない」と述べた。
 彼女の父ジャン=マリーは、2002年の大統領選で社会党候補を破って決選投票に進んだ。だが、社会党はFN政権を阻止するため、保守系のシラク大統領(当時)を支持し、シラクが約8割の得票率で圧勝した。娘マリーヌにとっては、親子二代の大統領への挑戦となっている。経済改革に失敗した共和・社会の二大政党及び既成政治家に対する批判がかつてなく強まるなか、マリーヌは2017年の大統領選挙に立候補した。
 彼女は、大統領に当選したら、「EU離脱の是非を問う国民投票を実施する」と公約した。「離脱により、わが国はドイツや欧州官僚から主権を取り戻す」と主張している。FN副党首のフロリアン・フィリッポも、「我々が政権の座に就いたら、まず6カ月以内にユーロの使用を取りやめ、フランを再導入する」と断言した。
 仏大統領選は2回投票制で、最初の投票で過半数を得票した候補がいない場合、上位2人が決選投票に進む仕組みである。第1回投票では中道系独立候補の新星エマニュエル・マクロンが1位となり、ルペンは僅差の2位だった。マクロンは、ロスチャイルド系の銀行の副頭取だった俊英であり、背後にはロスチャイルド家と欧米の支配階層、巨大国際金融資本家がいる。マクロンとルペン、二人の一騎打ちとなった決選投票では、保守・中道・リベラルの票がマクロンに集まり、5月7日フランス史上最も若い39歳の大統領が誕生した。得票はマクロン66.1%、ルペン33.9%の大差だった。この結果、グローバリズム的リージョナリズムが継続され、フランスはEUとユーロの参加国の地位を維持した。
 大統領選挙に続いて、2017年6月には国民議会選挙が行われた。国民議会は下院に当たる。ここでは、マクロン大統領が設立した中道新党「共和国前進!」が圧勝し、単独過半数を獲得した。協力政党の「民主運動」と合わせて350議席、定数577議席の6割超を占めた。仏政界を長年けん引してきた共和党・社会党の2大政党は大きく議席を減らし、政治地図が大きく塗り替わった。一方、国民戦線は、大統領選挙とは打って変わって、勢いを失い、僅か8議席しか獲得できなかった。これが一時的な後退なのか、決定的な退潮なのかは、まだ予測できない。

 次回に続く。
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ユダヤ143~ユダヤ的価値観の超克のためになすべきこと

2017-12-25 11:09:01 | ユダヤ的価値観
 拙稿「ユダヤ的価値観の超克~新文明創造のために」は、最終章に入る。本章では、これまでの記述を踏まえて、ユダヤ的価値観をいかに超克するか、またいかにして新しい地球文明を創造するかという本稿全体の主題について述べたい。
 予め要旨を書くと、人類が現在世界を覆っている近代西洋文明の弊害を解決するには、ユダヤ的価値観の超克が必要である。それには、ユダヤ的価値観を普及させてきた資本主義を人類全体を益するものに転換し、またグローバリズムから諸国・諸民族が共存共栄できるものへと指導原理を転換しなければならない。ユダヤ的価値観は、根本的にはユダヤ教の教義に基づくものゆえ、ユダヤ教内部からの改革が期待される。改革のためには、非セム系一神教文明群の側から改革を促進することが必要である。特に日本文明には、重要な役割がある。また、これに加えて、人類は唯物論的人間観を脱却し、心霊論的人間観を確立しなければならない。そして、精神的・道徳的な向上を促す宇宙的な力を受け入れて、核戦争と地球環境破壊による自滅の危機を乗り越え、物心調和・共存共栄の新文明を建設すべき時に、人類は直面している。

(1)超克のためになすべきこと

●新しい文明への転換を目指す

 まず、ユダヤ的価値観の超克のために、為すべきことを挙げたい。(1)新しい文明への転換を目指す、(2)資本主義を改革する、(3)グローバリズムを克服する、(4)ナショナリズムを保持する、(5)ユダヤ教の二面性に対処する、(6)アメリカ=イスラエル連合に方向転換を促すーーこれらの6点である。これらについて書いた後、さらに掘り下げて、宗教・文明・人間観に関して述べていきたい。
 ユダヤ的価値観の超克のために、第1に為すべきことは、新しい文明への転換を目指すことである。現代世界を覆っている西洋近代文明は、西欧発の文明である。ヨーロッパ文明は、ギリシャ=ローマ文明、ユダヤ=キリスト教、ゲルマン民族の文化を三大文化要素としている。それらの要素を持つヨーロッパ文明で、15世紀から近代化すなわち生活全般の合理化が進んだ。近代化は、文化的・社会的・政治的・経済的の4つの領域で、それぞれ進展した。ヨーロッパ文明は、17世紀から北米にも広がった。そこで、私は欧米にまたがる西欧発の文明を、近代西洋文明と呼んでいる。近代西洋文明は世界各地に伝播し続け、各地の諸文明を、あたかもその周辺文明のようにしてきた。
 近代西洋文明は、ルネサンス、地理上の発見、宗教改革、市民革命、科学革命、産業革命、情報通信革命等を通じて、さまざまな思想・運動・理論・制度を生み出した。今日世界に広がっている自由主義、デモクラシー、個人主義、主権、国民国家、ナショナリズム、人権、法治主義、資本主義、社会主義、功利主義(最大幸福主義)、物心二元論、機械論、実験科学等は、近代西洋文明において発生・発達したものである。
 近代西洋文明は、人類に飛躍的な進歩をもたらした。だが、その半面で多くの弊害をもたらした。生活全般の合理化によって、文化・社会・政治・経済に起こった大きな変化は、深刻な問題を生み出した。家族・地域・民族・国家等の共同体が解体され、社会はバラバラの個人の集合となっている。伝統・慣習は否定され、人々は確かな拠り所を失った。国際社会は一個の市場へと変貌し、すべての価値は市場における貨幣価値によって量られる。母なる自然は支配・管理を行う対象となった。
 そうした近代西洋文明の弊害の最たるものは、人類を絶滅しかねない核兵器の開発であり、また文明の土台を危うくする地球環境の破壊である。現代の人類は、世界平和の実現と地球環境の保全を、生存と繁栄に不可欠な二大課題としている。これら二大課題を解決するには、これまで数百年間にわたって、人類を支配してきた近代西洋文明から新しい文明への転換が必要である。その転換のために、本稿が注目するのは、西洋文明の宗教的な中核となっているユダヤ=キリスト教である。とりわけ西方キリスト教文化に溶け込んでいるユダヤ的価値観に焦点を合わせ、それを超克することを本稿の課題としている。
 ユダヤ的価値観の超克なくして、人類は新しい文明に転換することができない。すなわち、物質面と精神面のバランスが取れ、互いに共存共栄でき、また自然と調和できる物心調和・共存共栄の新文明を地球に建設することは、ユダヤ的価値観の超克なくしては、実現できないと考える。

●資本主義を改革する

 第二に為すべきことは、資本主義の改革である。
 ユダヤ的価値観は、物質中心・金銭中心の考え方、自己中心的な態度、対立・闘争の論理、自然の管理・支配の思想である。この価値観は、ユダヤ教の教義に基づいて発達した価値観である。
 ユダヤ教は、富の獲得をよしとし、そのために経済的合理化を推進する。ユダヤ教に基づくユダヤ的価値観は、資本主義の発達とともに、西方キリスト教社会で受け入れられていった。ユダヤ教は、物質中心で拝金主義的な考え方を助長した。その考え方は、自己中心的な態度を取り、対立・闘争の論理を用いる。また、自然を征服・支配し、自然を物質として利用し、金銭的な利益を上げるという考え方でもある。
 ユダヤ人は、近代化するヨーロッパで、経済的な活動の場を求めて移住を繰り返した。14~15世紀にはイタリア諸都市やスペイン、ポルトガルで、17世紀にはオランダのアムステルダムで、17世後半からはイギリスのロンドンで、ユダヤ人は移住するたびに新しい場所で才能を発揮した。ヨーロッパ経済また資本主義システムのその時々の中心地で、ユダヤ人は活躍した。北米、ドイツ等でも移住したユダヤ人が活躍した。20世紀以降、今日まで世界で最も繁栄しているアメリカ合衆国は、イスラエル以外では世界最大のユダヤ人人口を有する国家となっている。また、ユダヤ民族が古代から継承し続けたユダヤ文化は、17世紀後半からイギリスでアングロ・サクソン文化と融合して、アングロ・サクソン=ユダヤ文化となった。18世紀末からアメリカでさらにアメリカ文化と融合して、アメリカ=ユダヤ文化へと発達した。その文化的融合において、ユダヤ的価値観が英米社会に浸透し、さらに近代西洋文明全体に伝播した。そして近代西洋文明の世界化によって、非西洋諸文明にも広がった。その影響は大きく、物質中心・金銭中心の考え方、自己中心的な態度、対立・闘争の論理、自然の管理・支配の思想が、21世紀の世界で優勢になっている。
 資本主義は、ユダヤ的価値観を重要な要素とする近代西洋文明が生み出した社会経済体制である。その最先端にあるのが、情報科学と結びついた金融資本主義である。ユダヤ的価値観は、情報金融資本主義に最も色濃く表れている。それが生み出した体制を改革しないと、人類は欲望の増大によって争い合い、地球を食い荒らし、遂には自滅に至るだろう。
 資本主義を改革する方法は、資本主義を全く否定することからは生まれない。資本主義は合理的かつ組織的な生産を実現し、人類の生活を豊かにした。その合理的かつ組織的な生産様式を維持しつつ、現在の経済活動を利己的・搾取的ではなく、人類全体を益するものにする仕組みに改善することが必要である。
 資本主義が発達する社会は、自由を中心価値とする。所有・契約・移動等の自由が保障されるところに、活発な経済活動が行われる。しかし、自由を中心価値とする社会は、競争の激化と格差の拡大を生む。そこで、社会的な正義を保つためには、自由を中心としつつ、平等を重視する理念とそれを実現するための政策が必要である。そうした政策を一国内だけでなく、世界規模で実施するところに、人類全体の利益を増進する仕組みが作られるだろう。
 そのような仕組みを作るためには、物質的な発展・繁栄だけを追及する価値観ではなく、人間が精神的に成長・向上し、互いに共存共栄し、また自然と調和することを追及する精神文化が興隆しなければならない。この課題において、重要なのが、グローバリズムの克服である。

 次回に続く。
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ヨーロッパは移民問題で揺れている4

2017-12-24 08:50:32 | 国際関係
●オーストリアとイタリアの動向

 英国が国民投票でEU離脱を決め、米国の大統領選でトランプが勝利した後、2016年12月4日、オーストリアとイタリアで重要な出来事があった。オーストリアでは、大統領選挙のやり直し決選投票が行われた、リベラル・ナショナリズムの政党の候補者が、親EU・移民受け入れの候補者に敗れたものの、大接戦を演じた。同じ日、イタリアでは憲法改正に関する国民投票が行われた。その結果、EU追従的な憲法改正案が否決され、首相が辞任を表明することになった。
 オーストリアは2015年に、シリア等からドイツなどに向かう難民・移民の主要な経由国となったことで、国民に反移民感情が強まった。そうした状況で、2016年4月に大統領選挙が行われた。この投票では、反移民・難民を掲げ、EUにも批判的な自由党の候補ノルベルト・ホーファーが、首位に立った。ホーファーは、国民議会(下院)第3議長でもあった。連立与党の社会民主党、国民党の候補は惨敗した。
 5月に決選投票が行われ、ホーファーと、難民らへの寛容姿勢やEUとの関係重視を訴える緑の党前党首、アレクサンダー・ファン・デア・ベレンの一騎打ちとなった。ホーファーがリベラリズムの右派でナショナリズムに拠って立つのに対して、ファン・デア・ベレンはリベラリズムの左派であり、左翼的なインターナショリズムと協調的である。結果は、ベレンが薄氷の勝利を収めた。だが、不正開票で憲法裁判所が再実施を命じた。
 そこで12月4日に大統領選のやり直し決選投票が行われたのである。この選挙は、米国大統領選挙でトランプが勝利した後に、ヨーロッパで初めて行われる重要な選挙だった。選挙期間中、各種世論調査では、両者の支持率は「誤差の範囲の差」とされるほどの大接戦状態だった。ファン・デア・ベレンは米大統領選でのトランプ勝利を「欧州への警鐘」として、「反極右」の結集を呼びかけた。一方、ホーファーは「有権者から離反したエリートは落選する」と強調し、自身も既存政治勢力と一線を画し、追い風にしようと目論んだ。移民・難民流入規制の強化を訴えるとともに、EUは個々の国家を過剰に管理しようとしていると批判して、EUからの離脱を問う国民投票を呼びかけた。
 やり直し選挙は、再びファン・デア・ベレンがホーファーに勝ち、決着がついた。ファン・デア・ベレンの得票率が53.3%、敗れたホーファーは46.7%と、6.6%の差がついた。敗れたもののホーファーの支持者の多くは、若者である。その中には、多文化主義に反対するアイデンティティ回復運動の参加者がいる。この運動は、西欧諸国で若者に広がりつつある運動である。ファン・デア・ベレンは72歳だが、ホーファーは45歳(当時)である。近い将来、ホーファーが大統領になり、オーストリアが政策を大きく転換する可能性は高いと見られている。
 こうしたなか、2017年10月にオーストリア総選挙が行われ、難民受け入れ反対の中道右派・国民党が第1党となる一方、ホーファー率いる自由党が躍進し、第3党となった。12月15日国民党と自由党が連立政権の樹立に合意した。両党は、EUの難民受け入れ分担制に反対するなど、難民・移民政策が共通している。
 イタリアでは、2016年12月のオーストリアの大統領選挙のやり直し決選投票と同日に、憲法改正の是非を問う国民投票が行われた。結果は、反対が約6割で、賛成を大きく上回った。改正案を否決されたマッテオ・レンツィ首相は辞任を表明した。
 賛否が問われた憲法改正案は、イタリア経済の一層のグローバル化を推進するための構造改革を進めやすくするために、議会制度に手をつけようとするものだった。政権側は下院と同等である上院権限の縮小を図ろうとした。イタリアのEUへの追従をさらに進めようとするものである。レンツィ首相が国民投票の結果に進退をかけると発言したことで、事実上の信任投票となった。既存政治を批判する新興の政治組織「五つ星運動」など主要野党は、憲法改正は「首相の権限強化につながる」として反対運動を展開した。レンツィの与党、中道左派の民主党は、停滞する経済に不満を持つ国民の支持を集められなかった。グローバリズムによる「古い改革派」とレンツィ首相が退くことになった。後継のパオロ・ジェンティローニ内閣は、首相の所属する民主党とキリスト教民主主義の政党連合「アレア・ポポラーレ」の連立政権であり、前政権の方針を継承している。
 イタリアは、ドイツ、フランスに次ぐユーロ圏第3位の経済規模を持つ。そのイタリアの銀行の不良債権は約3600億ユーロ(約44兆円)と、ユーロ圏全体の約3分の1を占める。国民投票の結果、巨額の不良債権を抱える銀行の経営再建に影響が出ている。イタリアは国内総生産(GDP)比約130%という、ユーロ圏でギリシャに次ぐ規模の債務を抱えており、財政への警戒感が増している。もしイタリアが金融危機に陥れば、2015年のギリシャの債務危機に続いて、再びユーロ圏が揺さぶられるだろう。
 なお、「五つ星運動」は、著名コメディアン、ベッペ・グリッロが2009年に立ち上げた市民参加型の政治運動体で、既存政党を批判して台頭してきた。汚職撲滅、インターネットによる直接民主主義等を主張し、EUに批判的で、ユーロとともに離脱の是非を問う国民投票の実施を目指している。同党は、2013年の総選挙で躍進した。現在、下院の最大野党で、上院では第2野党となっている。2016年6月の地方選挙ではローマ、トリノの両市長を制し、勢いを増した。2017年6月の地方選挙では大敗を喫したものの、全国的な世論調査ではなお支持率トップを争っている。反移民・反ユーロを掲げる地域政党「北部同盟」などとともに、2018年2月実施予定の総選挙を早期に実施することを求めている。同党が今後、政権に就くような事態となれば、イギリスに次いでイタリアもEU離脱に動くかもしれない。
 オーストリアもイタリアも、上記の政治的な動きは、直接キリスト教の政党によるものではない。だが、これらのキリスト教国の国民の選択は、そのままその国におけるキリスト教の将来を左右することになる。

 次回に続く。
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ユダヤ142~アタリは超民主主義に向かう21世紀の歴史を描く

2017-12-23 08:52:50 | ユダヤ的価値観
●アタリは超民主主義に向かう21世紀の歴史を描く

 次に、もう一人、世界的に注目されているユダヤ系フランス人、ジャック・アタリについて書く。
 アタリは、1943年アルジェリア生まれの経済学者である。現代ヨーロッパを代表する知性の一人とされる。トッドがグローバリゼイションを批判するのに対し、アタリは逆にグローバリゼイションを推進する側の頭脳である。
 フランスは今日、欧州連合(EU)においてドイツとともに二大主要国となっている。アタリはそのフランスにあって、社会主義者フランソワ・ミッテランの政権で大統領特別補佐官を務めた。ユダヤ人で新自由主義者のニコラ・サルコジの政権に替わると、ここでも21世紀に向けてフランスを変革するための政策提言を行った「アタリ政策委員会」の委員長を務めた。社会主義者にも新自由主義者にも重用されるということは、アタリが類まれな優秀さを持つことを示す。また、同時に、政治家の背後にいる所有者集団に評価されていると考えられる。
 アタリは、2006年に『21世紀の歴史』を刊行した。歴史と言っても、21世紀の数十年間の未来を予測して書いた本である。本書は、21世紀初頭の世界を次のように概説する。「現状はいたってシンプルである。つまり、市場の力が世界を覆っている。マネーの威力が強まったことは、個人主義が勝利した究極の証であり、これは近代史における激変の核心部分でもある。すなわち、さらなる金銭欲の台頭、金銭の否定、金銭の支配が、歴史を揺り動かしてきたのである。行き着く先は、国家も含め、障害となるすべてのものに対して、マネーで決着をつけることになる」と。
 アタリは、こうした現状認識を以て、50年先の未来を予測する。アメリカ帝国の世界支配は、2035年よりも前に終焉するだろう。次に、超帝国(hyperempire)、超紛争(hyperconflict)、超民主主義(hyperdemocratie)という三つの未来の波が次々と押し寄せてくるという。
 超帝国とは、すべてマネーで決着がつく、究極の市場主義が支配する世界であり、民主主義は雲散霧消し、国家権力は骨抜きとなり、稼いだ者が勝ちという社会である。超紛争とは、国境をまたいで跋扈する様々な暴力集団による破壊的衝突による混沌とした泥沼の紛争である。これらの二つの波は、人類に破滅的被害をもたらす。
 だが、これらの波と同時に超民主主義が高揚する。アタリは、次のように述べる。「2060年ごろ、いや、もっと早い時期に、少なくとも大量の爆弾が炸裂して人類が消滅する以前に、人類は、アメリカ帝国にも、超帝国にも、超紛争にも我慢ならなくなるであろう。そこで、新たな勢力となる愛他主義者、ユニバーサリズムの信者が世界的な力を持ち始めるであろう」「そして、地球レベルで市場と民主主義との間に新たなバランスを次第に見出す」。これが、超民主主義である。「新たなテクノロジーの貢献もあり、世界的・大陸的な制度・機構が、共同体としての生活をまとめ上げていく」。「これらの制度・機構は、無償のサービス、社会的責任、知る権利を推進し、全人類の創造性を結集させ、これを凌駕する世界的インテリジェンスを生み出すだろう。いわゆる利潤追求をすることなしにサービスを生み出す、調和を重視した新たな経済が市場と競合する形で発展していく」。「市場と民主主義は、いずれ過去のコンセプトとなるであろう」とアタリは予測する。
 アタリの描く超民主主義とは、市場民主主義をベースとした利他愛に基づく人類の新たな境地であり、利潤追求自体に大きな意味はなくなり、人類全員があたかも家族のように、他者の幸せが自分の幸せと感じられる社会だとされる。そこにおける新たな経済は、「人類の幸福を中心に据えた、新たな豊かさの実現を目指す経済」であり、企業活動の究極目的は「利潤追求ではなく、社会の調和」になるという。
 アタリは、21世紀のこれからの数十年において、ノマド(nomade)が活躍すると予測する。ノマドとは遊牧民であり、流浪者である。アタリは、人類は1万年ほど前にメソポタミアの地で定住民となったが、21世紀に再びノマドとなる者が増えるとする。ノマドには、3種類ある。生き延びるために移動を強いられる「下層ノマド」(inflanomade)、下層ノマドになることを恐れてヴァーチャルな世界に浸る「ヴァ―チャル・ノマド」、エリートビジネスマン・学者・芸術家・クリエーターなどの「超ノマド」(hypernomade)である。これらのうち、超ノマドが超帝国を管理していくようになるという。
 私見を述べると、アタリのノマドは、歴史的には国境を越えて離散・移動しつつ各地で優れた能力を発揮してきたユダヤ人と重なり合う概念である。現代世界では、地域紛争や民族迫害、環境破壊等による移民が欧米で増えている。またグローバリゼイションの進展の中で、国境を越えて能力を発揮できる場所を求める人間の移動も活発になっている。いわば、非ユダヤ人のユダヤ人化である。そして、超ノマドには、国際的に活動するユダヤ人、及び彼らと同様にユダヤ人的な思想を持って行動をする非ユダヤ人が推定される。
 注意すべきは、アタリは、優秀な超ノマドが管理し、究極の市場主義が支配する超帝国を良しとしていないことである。それは、超紛争とともに破滅的被害を人類にもたらすものだという。そして、アタリは、超民主主義の高揚に期待を寄せ、その担い手は、「愛他主義者、ユニバーサリズムの信者」だという。愛他主義は利己心より利他心を優先する考え方であり、ユニバーサリズムは普遍主義であり、コスモポリタニズムの一種だろう。だが、アタリにおいて「愛他主義者、ユニバーサリズムの信者」と超ノマドとの関係は、はっきりしない。前者は後者の一部なのか、それとも異質なものなのか。前者はどのようにして、超帝国と超紛争の破滅的被害の広がる中から出現して増加し、人類全員があたかも家族のように他者の幸せが自分の幸せと感じられる社会へと世界を導いていくのか。これらについて、アタリは具体的に書いていない。また、アタリには、人間には自己実現や自己超越の欲求が内在するという見方や、ユダヤ教・キリスト教・イスラーム教を含む従来宗教が内部から変化していく展望はなく、人類の精神的・道徳的な向上をもたらす指導原理や推進力の考察もない。ただ未来の断片的なイメージを投影して見せるだけである。
 アタリは『21世紀の歴史』の後に書いた『金融危機後の世界』や『国家債務危機――ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか』等では、世界各国が抱える危険な水準の債務問題を解決するには地球中央銀行や世界財務機関の設立しかないと主張している。その点で、アタリは、欧州統合運動の基礎にある世界政府樹立を目指す巨大国際金融資本の思想を代弁していると考えられる。そして、アタリ自身は、愛他主義やユニバーサリズムの先駆者ではなく、超民主主義という理想社会のイメージを提供しつつ、ヨーロッパと世界を超帝国へと導き、その管理を担う超ノマドの育成者と見るのが妥当だろう。

 次回に続く。
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ヨーロッパは移民問題で揺れている3

2017-12-22 09:36:57 | 国際関係
●オランダの移民問題

 西欧諸国の中でも、とりわけオランダの状態は深刻である。ドイツ、フランス、イギリスにおける移民の人口比は7~9%だが、オランダでは2010年の時点で、人ロ約18%が外国人だった。その外国人には、西洋文明諸国以外からの移民が多い。オランダ統計局によれば、人口に占める非西洋文明からの移民の比率は、2015年の時点で12.1%に上った。総人口1700万人のうち、205万人以上を占める数字である。
 2009年(平成21年)8月、英『デイリー・テレグラフ』紙は、EU内のイスラーム人口が2050年までに現在の4倍にまで拡大するという調査結果を伝えた。それによると、EU27カ国の人口全体に占めるイスラーム系住民は前年には約5%だったが、現在の移民増加と出産率低下が持続する場合、2050年ごろにはイスラーム人口がEU人口全体の5分の1に相当する20%まで増える。オランダは、イギリス、スペインとともに「イスラーム化」が顕著で、近いうちにイスラーム人口が半数を超えてしまうと予測した。
 既に都市部のゲットーは、オランダ人が安全に入れないようになり、国家の中にイスラーム系移民の別の国家が存在するような状態になっている。今後、ますますイスラーム系移民が増えれば、国家の統治機能が侵されていくだろう。
既にオランダが混迷を深めていくことを察知した富裕層・知識層は他国に移住し、財産の国外流失も増大している。
 2017年3月のオランダ総選挙は、こうした中で行われた。反グローバリズム、反リーリズムのリベラル・ナショナリズム政党・自由党のヘルト・ウィルダース党首は、EU離脱を問う国民投票の実施を主張した。ウィルダースへの支持率は上昇し、総選挙で自由党が第一党になるか注目された。結果は、与党・自由民主党が第一党を維持し、自由党は伸び悩んだ。しかし、与党は自由党に対抗するため、それまでの移民政策を抑制的なものに変えるなど、リベラル・ナショナリズムの勢力は国政に一定の影響力を与えている。
 オランダは小国である。しかし、欧米では重要な存在である。名誉革命の際、オランダからイギリスに渡ったウィリアム3世の直系の子孫が、ヨーロッパ各国の王家の多くに広がっている。第2次世界大戦後、イギリス王室とオランダ王室が主軸となり、ロスチャイルド家等の巨大国際金融資本家と連携して、欧米の所有者集団が国際的に連携するために、ビルダーバーグ・クラブを作った。その創設の中心となったのは、オランダのベルンハルト公、現オランダ女王ベアトリクスの父だった。オランダ王室は、世界規模で資産運用を図る金融投資顧問団を持つ。ベアトリクス女王は、イギリスのエリザベス女王を遥かに上回る資産家といわれる。こうしたオランダが今日、異文明からの移民の流入によって、混迷に陥っていることは、ヨーロッパ文明の将来を暗示するものと言えよう。それは、またヨーロッパにおけるキリスト教の将来を暗示するものでもある。

●イギリスの移民問題

 今日イギリスは、ヨーロッパでイスラーム系移民が多い国に数えられ、また非常に速いスピードでイスラーム人口が増加している国である。先に引いたように、2009年(平成21年)8月、『デイリー・テレグラフ』紙は、EU内のイスラーム人口が2050年までに現在の4倍に拡大し、EU人口全体の20%まで増えるという調査結果を伝えた。イギリスは「イスラーム化」が顕著で、近いうちにイスラーム人口が半数を超えると予測された国の一つである。
 この記事の出た約1年半後、デーヴィッド・キャメロン首相は、2011年(平成23年)2月、ドイツで行った講演の中で、「イギリスでの多文化主義は失敗した」と述べた。前年10月、ドイツのメルケル首相が「多文化主義は失敗した」と発言したのに呼応したものだろう。
 キャメロンは「多文化主義国家のドクトリンは、様々な文化がお互いに干渉せず、主流文化からも距離をおいて存在することを推奨してきた。そうした、いわば隔離されたコミュニティが我々の価値観と正反対の行動をとることすら許容してきた」と言う。そして「イギリスでのこうした多文化主義は失敗した」と述べ、異なる価値観を無批判に受け入れる「受動的な寛容社会」ではなく、デモクラシーや平等、言論の自由、信教の自由といった自由主義的価値観を積極的に推進する「真の自由社会」を目指すべきだという考えを示した。
 イギリスでは、イスラーム教過激思想に感化されたイギリス育ちの若いイスラーム教徒によるテロやテロ未遂が相次ぎ、大きな問題となっている。問題の背景には若いイスラーム教徒の一部が、イギリス社会に同化しきれていないことがあるとされる。キャメロンの発言は「多文化主義」が移民の同化を妨げてきたという認識に立つものだろう。ドイツ続いてイギリスの首相も、多文化主義は失敗したと述べたことは、ヨーロッパ全体がいかに深刻な状態にあるかを表しているものである。
 こうした状況で、2016年6月に行われた国民投票の結果、英国はEUからの離脱することになった。海外はもちろん英国の国内でも大方には「まさか」と思われる結果だった。離脱に賛成する票が予想外に多かったのは、大量の移民の流入で失業や生活苦が増加していること、主権を制限されEUの規制に縛られること等への反発が背景にある。EUに参加している限り、移民を独自に規制することはできない。そのことが国民多数がEU離脱を選択することにつながったと見られる。EUから加盟国が抜けるのは、初めてになる。英国は、加盟国内で経済規模ではドイツに次ぐ2位であり、また世界の金融センターのシティーを擁する大国である。英国の離脱は、経済のみならず政治的に大きな打撃となるだろう。離脱決定は、フランス、オランダ、イタリア等の反EU・反ユーロの政党への追い風となっている。
 離脱決定後、キャメロンに替わったテレサ・メイ首相は、2017年3月29日、EUに離脱を正式に通告した。6月の英国総選挙では、与党保守党が第一党を維持したが、過半数割れを起こした。こうした不安定な政権基盤の上、同月英国はEUとの離脱交渉を開始した。英国側では、EU単一市場からは出ずに労働移民制限はできないものの自由貿易の恩恵は受けられるようにするか、単一市場から離脱し移民制限を徹底することにするかなど、選択肢が検討れている。離脱後の英国とEUの関係は交渉の結果次第で大きく異なると見られる。これとは別の問題もある。英国内では、スコットランドは、EU残留を望み、英国(連合王国)から独立を志向する住民が多い。場合によっては、スコットランドが独立してEUに所属し、連合王国が縮小する可能性もある。移民の増加が、一つの国家の解体を引き起こすかもしれないところにまで来ている。

 次回に続く。
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ユダヤ141~トッドは人類の未来を予測(続き)

2017-12-21 09:31:55 | ユダヤ的価値観
トッドは家族制度と人口統計から人類の未来を予測(続き)

 私がトッドの主張で最も注目するのは、21世紀半ばに人類の人口は均衡に向かい、世界は政治的に安定し、平和になっていくと予測していることである。人口の維持には、合計特殊出生率が最低2.08必要である。世界の出生率の平均は、その数値に近づいている。『帝国以後』で、トッドは「おそらく2050年には、世界の人口が安定化し、世界は均衡状態に入ることが予想できる」と述べている。人口の均衡化とともに、トッドが予想するのは、世界の政治的な安定化である。
 「識字化と出生率の低下という二つの全世界的現象が、デモクラシーの全世界への浸透を可能にする」「識字化によって自覚的で平等なものとなった個人は、権威主義的な方式で際限なく統治されることはできなくなる」「多くの政治体制が自由主義的民主主義のほうへと向かっていく」「識字化され、人口安定の状態に達した世界が、ちょうどヨーロッパの近年の歴史を地球全体に拡大するかのように、基本的に平和への傾向を持つであろう」「平静な諸国が己の精神的・物質的発展に没頭するであろう」とトッドは述べている。
 ところで、トッドは、ヨーロッパ統合には懐疑的であり、懐疑的反対論者と言うことができる。その主張は、家族人類学、文化人類学、人口学、歴史学、心理学、国際関係論等にまたがる類まれな学識に基づいている。トッドはヨーロッパ統合に反対する理由を五つ挙げる。各国の社会構造・精神構造の違い、言語の問題、国家・国民(ナシオン)の自律性、人口動態の違い、移民に対する態度の違いである。
 トッドは、ヨーロッパ統合に反対するだけでなく、単一通貨にも一貫して反対している。ヨーロッパの近代化は、農村共同体やギルド等、国家と個人の間の中間的共同体を解体しながら進展した。都市化・工業化がそれである。共同体が崩壊すると、それまで共同体によって守られてきた個人は、バラバラの個人になる。単一通貨は、残存していた中間的共同体の意識を崩壊させ、とりわけ国民共同体の意識を崩壊させる。その結果、帰属意識を失った個人を無力感に陥れる、としてトッドは単一通貨に反対する。
 トッドは、自らの出自であるユダヤ人の歴史と運命について、強い関心を持っている。ユダヤ人は、ヨーロッパで最大の移民である。1994年(平成6年)に出した『移民の運命』でトッドは、ヨーロッパにおけるユダヤ人の歴史と各国における対応の違い、またユダヤ人以外の世界の移民の問題について、詳細な研究をしている。その概要については、拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」を参照願いたい。
 トッドは、グローバリゼイションを根底的に批判している。『移民の運命』の4年後に出した『経済幻想』で、グローバリゼイションは「合理性と効率性の原理」であり、「社会的なもの、宗教的なもの、民族的なもの」を壊し、「個別的具体性を消し去り」「歴史から地域性を剥奪する」と述べる。トッドによれば、グローバリゼイションは、アメリカが主導してアングロ・サクソン的な価値観を世界に広める動きである。絶対核家族に基づく個人主義的資本主義の制度・習慣をグローバル・スタンダードとする動きとも言える。
 トッドは、アングロ・サクソン的な資本主義という範囲で、グローバリゼイションを批判し、ユダヤ的価値観を直接的に批判しない。しかし、私の見るところ、アングロ・サクソン的価値観は19世紀からユダヤ的価値観と深く融合しており、アングロ・サクソン=ユダヤ的価値観ととらえることができる。その価値観の表われの典型が、新自由主義・市場原理主義である。
 トッドは、「資本主義は、有効需要の拡大を保護するために、強く積極的な国民国家が介入することを必要としている」とし、グローバリゼイションに対抗するために、国民国家の役割を強調する。こうしたトッドが、現代の世界で強く期待を寄せているのが、わが国・日本である。トッドは次のように語る。「日本は、人類学上の理由から、アングロ・サクソン・モデルとは極めて異なった資本主義の調整されたモデルを示している」。異なったモデルとは直系家族型資本主義のことである。トッドは続ける。「主義主張の面では、現在、沈黙を守っている日本は、アングロ・サクソン世界への対抗軸を代表しうるし、すべきであろう。すなわち、国民国家による調整という考え方の、信頼できる積極的な擁護者となれる」と。トッドはまた次のように言う。「フランスやヨーロッパにとっては、日本がイデオロギー面でもっと積極的になることが必要なのである」「世界第二の経済大国が、イデオロギー的にも政治的にも十分な役割を果たさないような世界は、不安定な世界になるしかない」と。
 トッドのいう「アングロ・サクソン世界への対抗軸」は、アングロ・サクソン=ユダヤ的世界への対抗軸というべきところである。より明確に言うと、アングロ・サクソン=アメリカ=ユダヤ的世界への対抗軸である。トッドが期待する日本の役割については、私見を第6章に書く。

 次回に続く。

関連掲示
・拙稿「家族・国家・人口と人類の将来~エマニュエル・トッド」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09h.htm
・拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09i.htm
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