ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

人権232~世界人権宣言による人権の世界化

2015-11-30 08:51:07 | 人権
●世界人権宣言による人権の世界化

 「世界人権宣言(the Universal Declaration of Human Rights)」は、1946年(昭和21年)、人権委員会のなかに、起草委員会がつくられ、約1年半の準備を経て、48年12月10日に、第3回国連総会で採択された。
 世界人権宣言は、「連合国憲章=国連憲章」を受けて、人権を規定した。世界人権宣言は、「憲章」あっての宣言であり、また「宣言」によって「憲章」にいう人権がより具体化された。
 世界人権宣言の和訳文が、わが国の外務省のサイトに掲載されている。65年も前に採択された宣言なのに、外務省が公開しているのは、「仮訳文」である。政府として公定訳を完成させていないのは、不思議なことである。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/1b_001.html
 世界人権宣言は、次のような前文で始まる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎であるので、
 人権の無視及び軽侮が、人類の良心を踏みにじった野蛮行為をもたらし、言論及び信仰の自由が受けられ、恐怖及び欠乏のない世界の到来が、一般の人々の最高の願望として宣言されたので、
 人間が専制と圧迫とに対する最後の手段として反逆に訴えることがないようにするためには、法の支配によって人権を保護することが肝要であるので、
 諸国間の友好関係の発展を促進することが、肝要であるので、
 国際連合の諸国民は、国際連合憲章において、基本的人権、人間の尊厳及び価値並びに男女の同権についての信念を再確認し、かつ、一層大きな自由のうちで社会的進歩と生活水準の向上とを促進することを決意したので、
 加盟国は、国際連合と協力して、人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守の促進を達成することを誓約したので、
 これらの権利及び自由に対する共通の理解は、この誓約を完全にするためにもっとも重要であるので、
 よって、ここに、国際連合総会は、
 社会の各個人及び各機関が、この世界人権宣言を常に念頭に置きながら、加盟国自身の人民の間にも、また、加盟国の管轄下にある地域の人民の間にも、これらの権利と自由との尊重を指導及び教育によって促進すること並びにそれらの普遍的かつ効果的な承認と遵守とを国内的及び国際的な漸進的措置によって確保することに努力するように、すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準として、この世界人権宣言を公布する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 2度にわたる悲惨な世界大戦の後、連合国の国民は、世界人権宣言の前文を、次のように始めた。「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等で奪い得ない権利を認めることが世界における自由、正義及び平和の基礎をなすものである」と。
 続いて、「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準として、この世界人権宣言を公布する」と宣言した。ここに近代西洋文明で発達した人権の思想は、世界的な宣言という形で表現された。

●世界人権宣言の起草の事情

 ここで宣言の起草過程について述べると、国連人権委員会の議長は、F・D・ルーズベルト米大統領夫人のエレノア・ルーズベルトが務めた。彼女のもとで、フランスの法学者ルネ・カッサン、カナダの法学者ジョン・P・ハンフリーが中心となり、ロシア人、シナ人、中東のキリスト教徒、ヒンズー教徒、ラテン・アメリカ人、イスラム教徒等の欧米以外の代表やマルクス主義者も加わって、人権宣言が起草された。
 1947年2月、ルーズベルト夫人が起草委員会を初めて招集した時、シナ人の儒家とレバノンのトマス主義者が、権利の哲学的かつ形而上学的な基礎をめぐって議論を始め、互いに一歩も引かなかった。ルーズベルト夫人は、議論を先に進めるには、西洋と東洋とでは意見が一致しないということで意見を一致させるしかない、という結論に達した。起草委員たちは、自分たちの任務は西洋的な思想を宣言としてまとめればよいのではなく、多様な宗教的・政治的・民族的・哲学的背景を踏まえて、ある限られた範囲での道徳上の普遍を定義しようと試みることだ、と明確に理解していた。それゆえ、世界人権宣言の前文は、権利の根拠として、アメリカ独立宣言の「造物主」やフランス人権宣言の「至高の存在」のような西洋的な宗教的概念を揚げていない。世界人権宣言は人権の普遍性を説明する根拠を述べることなく、人権を宣言し、権利の詳細を述べていく。それは、委員たちの間の見解の違いを越えて、最大公約的な合意が追及されたためだと理解できる。
 とはいえ、宣言のもとになったのは、イギリスの権利章典、フランスの人権宣言、アメリカの連邦憲法等、欧米で制度的に発達してきた人権の思想であることに変わりはない。実際、西洋の法学者が宣言の起草で主導的な役割意を果たした。だが、それでもなお、この第2次世界大戦終了直後の時点で、幅広い合意がなされたということは、西洋発の人権の思想には、文明や文化、宗教や思想の違いを越えて、一定の範囲で合意を形成しうる要素があったことを意味している。

 次回に続く。

■追記
 本項を含む拙稿「人権――その起源と目標」第3部は、下記に掲示しています。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion03i-3.htm

パリ同時多発テロ事件と国際社会の対応2

2015-11-29 08:45:12 | 国際関係
●なぜフランスが、パリが狙われるのか

 イスラム過激派は執拗にフランスを標的としている。またパリが狙われた。その理由は何か。
 フランスが標的にされるのは、まずフランスがISILに空爆を行う有志連合の一角を占めるからである。それとともに、フランスがイスラム過激派の価値観と相容れない西洋文明の文化的中心の一つであることが挙げられる。
 日本エネルギー経済研究所中東研究センター副センター長の保坂修司氏は、次のように語っている。「パリ同時多発テロは、欧州で起きたために、大きなインパクトを与えたが、劇場やレストランなど、中東や東南アジアでこれまでも狙われてきた場所がターゲットにされている。つまり、音楽や酒を供し、テロリスト側が享楽的で反イスラム的だとみなす場所だ。これらの施設は常に狙われる危険性があった」と。
 テロに襲われた劇場では、ロック・コンサートが行われていた。劇場は、若者が楽しむ現代の大衆文化を象徴する場所である。また、カフェのテラス席も開放的で、自由を謳歌できる場所である。それらは、現世の快楽を否定するイスラム教の理想と正反対であるため、過激派によって攻撃されたと考えられる。
 ISILのテロリストは、単に文化的・思想的に象徴的な場所で大量殺戮を企てただけではない。パリ同時多発テロの容疑者たちは、フランス経済の心臓部であるビジネス街への攻撃も画策していた。そのことが、11月18日仏当局によって明らかにされた。攻撃が計画されていたのは、パリ西郊にあるデファンス地区である。デファンスは、フランスの石油や電力、保険、銀行など、同国を牽引する大手企業が本社を置く経済の中心地である。こうした計画は、イスラム教過激派のテロは、無差別殺戮で人々を恐怖に陥れるだけでなく、国家の経済的中心部を破壊しようとしていることを意味する。このことにより、ISILによるテロは、テロというより戦争というべき水準、テロリストというより都市ゲリラというべき水準に来ていると考えられる。

●テロ事件は各地で頻発している

 パリ同時多発テロ事件は世界的に注目を集めたが、その前からイスラム教過激派によるテロが各地で増加している。事件前1か月ほどの間を見ると、中東・北アフリカ・西アジア等で、ISILまたはその系統の組織によるテロが、次々に起こっていた。
バングラデシュの首都ダッカでは、10月24日、イスラム教シーア派の宗教施設で宗教行事の最中に手りゅう弾が爆発し、1人が死亡、100人以上がけがをした。過激派組織「イスラム国・バングラデシュのカリフ国」が、「不信心者たちの儀式の最中に爆破に成功した」とする犯行声明を出した。
 トルコでは、10月28日、首都アンカラで102人が犠牲となった自爆テロが起こった。容疑者グループは、ISILから直接の指令を受け、資金の提供も受けていたと、トルコ当局は発表した。
レバノンでは、11月12日首都ベイルート南部にあるイスラム教シーア派組織ヒズボラの拠点地域で、自爆テロとみられる2回の爆発があった。少なくとも41人が死亡、200人以上が負傷した。ISILは同日、ネット上に犯行を認める声明を発表した。
 10月31日には、エジプト北東部シナイ半島でロシアの旅客機が墜落し、乗客乗員224人が死亡した。ロシア国外で製造された爆発物の痕跡が発見され、プーチン大統領はこのロシア機爆発をテロによるものと断定した。ISILは11月18日、オンライン機関誌『ダービク』に、ロシア機墜落に使用したとする爆薬を詰めた清涼飲料水の缶やスイッチのついた起爆装置の写真を掲載した。
 パリでの同時多発テロ事件が世界的に注目されたのは、ISILを掃討する主要国の首都で起こったからである。まさにそこにこそ、パリを襲ったテロリストの狙いがあると考えられる。

●イスラム過激派は各国に広がっている

 世界には、ISILを支持・連携している組織が現在、17か国35組織あるとされる。これらは、決して大規模な国際組織ではなく、各地の小規模な組織の緩やかな連合体と見られる。地域的な過激組織がISILを支持するとか連携するなどと表明すると、そのことによって、その地域での格が上がり、勢力を伸ばせる。各地で頻発するテロは、地域的な組織や個人の集団が行っている。だが、そうした行動をする者がISILと称することで、国際的に大きな組織が存在するかのように錯覚しやすい。
 ナイジェリアでは「イスラム国西アフリカ州」、エジプトでは「イスラム国シナイ州」等と、地域的な過激組織が名乗っている。そのうえ、パリ同時多発テロ事件は「イスラム国フランス州」を称する者が犯行を宣言した。これは実際に「イスラム国」が諸国家にまたがって存在しているのではない。単に「イスラム国○○州」と自称する組織が点在しているに過ぎない。
 イスラム過激派には、国境の概念がない。国境は西洋諸国が引いたものだとして認めない。彼らの観念の中では、国境のないイスラム世界が広がっているのだろう。地域組織の過激派には、もともと領土的な野心はない。自国の政権を打倒したいということのみである。それゆえ、独立国家を宣言するのではなく、「イスラム国○○州」と名乗ることに抵抗はない。
 ISILにとっては、各地の地域的な組織が「イスラム国○○州」と称することは、「イスラム国」という国家が世界に広がっているようなイメージを与えられる。大きな宣伝効果を生み、各地に支持者・賛同者を増やすことができる。そうした支持者・賛同者の一部は、シリア・イラクのISIL本拠地にやってきて戦闘員になる。そして訓練を受けたり、実践経験を積んだりした者が、各国に帰り、行動を広げる。そこに「ホームグロウン」のテロリスト志願者が加わり、テロ事件を起こす。こうした関係があると思われる。
 先ほどISILによるテロは、テロというより戦争というべき水準、テロリストというより都市ゲリラというべき水準に来ていると考えられると書いたが、今後、こうした都市ゲリラによる戦争が各地で頻発することが懸念される。

 次回に続く。

人権231~国連の組織・機関

2015-11-28 09:43:11 | 人権
●国連の組織・機関

 国連憲章は第1条に「連合国=国連」の4つの目的を定めたが、それらの目的を達成するために、6つの主要機関が設けられた。総会、安全保障理事会、経済社会理事会、信託統治理事会、国際司法裁判所及び事務局である。このうち、国際的人権保障にかかる主な機関は、総会、経済社会理事会である。
 国連は、連合国という軍事同盟のもとに、国際人権保障制度を創設した。経済的、社会的、文化的権利をはじめ、政治的、市民的権利など、国際的に受け入れられるよう権利の定義を行ってきた。同時に、これらの権利を促進し、擁護するとともに、各国の政府がその責任を果たせるように支援する機構を作り上げた。また、国際人権文書の作成、人権にかかる啓発・教育・訓練、個人通報の処理、国別・テーマ別の人権問題の研究と決議等、人権の保護と促進のための活動をしてきた。
 こうした活動に関し、国連総会は、人権の保護および基本的自由の実現を援助するため、研究を発議し、勧告することを任務の一つとする。憲章第13条1項bに定めるところである。総会は国際人権文書草案を全体会議で採択することによって、国際人権基準を設定する中心的役割を果たしてきた。総会が採択した世界人権宣言・人種差別撤廃宣言・女性差別撤廃宣言等は、勧告的な効力しか持たないが、国際人権基準を各国に提示するものとなってきた。これらの宣言に基づいて、国際人権諸条約が起草され、総会で採択された。
 総会の役割は人権基準の設定にとどまらず、人権諸条約の条約監視機関の年次報告を受領・検討し、必要な場合には勧告を行う。また加盟国の重大な人権問題を取り上げて討議し、人権侵害を非難する決議をし、あるいは人権の尊重を呼びかける勧告を採択してきた。
 次に専門機関としては、1946年に経済社会理事会の補助機関として人権委員会(Commission of Human Rights)が設立された。人権委員会は、当初単一の国際人権憲章の作成を目指した。だが、これは容易ではないことがわかり、まずすべての国によって尊重されるべき人権の具体的な内容を示す宣言を発し、一定の人権に関しては条約の形式を取るとることとし、その実施措置について検討を行った。こうして、人権委員会の起草によって、1948年に採択されたのが世界人権宣言である。
 人権委員会はその後、人権理事会に改組されている。また、その他の専門機関として、高等弁務官事務所が設けられるなどして、国連の国際的人権保障機関は強化されてきた。
 なお、国連の主要機関の一つである国際司法裁判所(ICJ)は、いち早く1945年に発足した。ICJは国家間の法律的紛争、即ち国際紛争を裁判によって解決、または法律的問題に意見を与えることを役割とする機関である。ICJの設置によって、国家間の問題を国際機関に提訴することができる仕組みができた。もっとも裁判が成立するためには紛争当事国の合意が必要である。そのため、ICJ設立後、国際紛争のうちICJで扱われた紛争はごく一部にすぎない。ICJは国連総会および特定の国連の専門機関が法的意見を要請した場合には勧告的意見を出すことができる。当事者となりうるのは国家のみであり、個人や法人は訴訟資格を持たない。ICJは人権裁判所ではなく、国際人権保障制度に直接関係する機関ではない。国連には、直接人権問題を取り扱う人権裁判所は、いまだ設立されていない。

 次回に続く。

パリ同時多発テロ事件と国際社会の対応1

2015-11-27 08:54:29 | 国際関係
 平成27年(2015)11月13日パリで同時多発テロ事件が起こった。現時点で132人が死亡し、約350名が負傷した。事件から約2週間が経過した。この間、世界中に膨大な量のニュースが流れ、多数のコメントが飛び交った。私が接したのはそのごく一部に過ぎないが、ここでこの事件と今後の国際社会の対応について整理しておきたい。10回の予定で短期連載する。

●パリで同時多発テロ事件が発生

 パリでの同時多発テロ後、イスラム教スンニ派過激組織の自称「イスラム国」ことISIL(アイシル)が犯行声明を出した。ISILは、Islamic State in Iraq and the Levant、「イラク・レバントのイスラム国」の略称である。最近はIS(アイエス)という呼び方も多く使われている。ISILについては、拙稿「いわゆる『イスラム国』の急発展と残虐テロへの対策」に書いた。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion12w.htm
 今回のテロの実行犯は8人と見られ、うち7人が3つのグループに分かれ、コンサートホールやカフェで自動小銃を乱射し、サッカー場で爆弾を爆破するなど、一般市民を無差別に殺戮した。
フランス当局は11月16日、ベルギー国籍のアブデルハミド・アバウドが事件の主犯格と発表した。アバウド容疑者はモロッコ系のベルギー人で、2014年に内戦中のシリアに渡航し、ISILに参加した。当局は今回のテロを首謀したほか、欧州でこれまでに起きたテロ計画にも関与したと見ている。フランス警察は、18日パリ郊外サンドニの犯行グループの潜伏先の拠点を急襲して銃撃戦を行い、アバウドが死亡したと発表された。
 コンサートの最中を襲われたバタクラン劇場で、多数の観客を殺害した犯人たちは、自爆死した。フランス当局はそのうちの一人をサミ・アミムールと断定した。同容疑者は約2年前にシリアに渡航歴があるという。
 サッカー競技場でもテロ犯は、自爆死した。その自爆現場でシリア旅券が見つかった。ギリシャに10月3日に入国した際の所持者と自爆犯の男の指紋が一致した。男はアハマド・モハマドで、ギリシャからセルビアなどを通過してフランスに入ったと見られる。
 こうしたことから、犯人のうち少なくとも2名は、シリアのパスポートで難民の波に紛れてヨーロッパに渡っていた。バルス首相は16日、「テロはシリアで計画され組織された」と語った。また、犯人たちはISILの本拠地で訓練を受けた可能性がある。
 フランスは、欧州諸国の中でもイスラム教徒の絶対数が多いことで知られる。人口の8%ほどを占める。フランス政府はイスラム教徒の社会への統合を重視してきたが、差別や就職難などで不満を持つ者たちがいる。そうした者たちの中から、ISILなどが流し続ける「自国内でのテロ」の呼び掛けに触発される者が出てきている。こうした「ホームグロウン(自国育ち)」と呼ばれるテロリストの増加が、今回の事件であらためて浮かび上がっている。

●用意周到にして冷酷無比の犯行

 今回の同時多発テロでは、被害の最大化を狙った場所の選定、装備の充実、国境を超えたネットワークという3つの特徴が挙げられる。
 本年(27年)1月の風刺週刊紙「シャルリー・エブド」の本社襲撃事件以降、パリの主だった施設や交通の要所には自動小銃を持った武装警察が配置されている。だが、最大の死傷者を出したバタクラン劇場や、襲撃されたバーがあるシャロンヌ通りは、パリを初めて訪れる観光客はあまり行かない場所にあり、警備が手薄だった。また、テロの舞台となった10区、11区は細道が入り組んでおり、警官と銃撃戦になっても捕捉されにくいという。テロリストは、そういう場所を選定している。
 テロリスト7人は自動小銃を使用し、最大限の被害をもたらすため、同一の爆発物を身に着けていた。自動小銃の扱いに慣れているようにみえ、身のこなしも軽かったと伝えられる。計算し尽くした作戦とみられる。
 風刺週刊紙本社銃撃事件と同様、今回のテロでも隣国ベルギーとの接点が判明した。実行犯グループは隣国のベルギーで組織され、仏国内で支援を受けて事件を起こしたと見られる。国境を超えたネットワークがあり、テロは用意周到に計画され、実行された。
 イラクでの勤務経験を持つ元外交官で、現在キャノングローバル戦略研究所主幹の宮家邦彦氏は、「イスラム過激テロは進化しつつある。『イスラム国』は小規模テロ諸集団の緩やかな連合体の一つに過ぎないが、その能力を欧州は過少評価したようだ」と述べている。
 『イスラーム国の衝撃』という著書のある池内恵・東京大学准教授は、11月16日に放送されたNHKテレビの「クローズアップ現代」で、今回のテロについて、次のように語った。なお、本稿における原語の翻訳は、それぞれの専門家の表記を尊重する。
 「これまで、個々のテロのやり方という意味では、同じような事件は過去に何度もあったんですね。今回はその延長線上にあるとは思うんですが、違いは、ある種、進歩した、進化した、何が進化したかというと、むしろ組織とか手法ではなくて、冷酷さが進化したといっていいと思います。非常に手際がいい。それから、複数の場所で連携して、コーディネートして、実行している。そしてそれぞれが銃撃して、最大限銃を撃って相手を倒したあとで、みずから自爆して死んでるわけですね。そういう意味で非常に、変な言い方ですが手際がよくなっている。なぜかって、一貫するのは冷酷さが増しているということだと思います。冷静であり、冷たいということですね」
 池内氏は、組織的には大きなものではないと見ている。同じ番組で次のように語った。
 「私自身は依然として、われわれが通常考えるような大きな組織があるとはあまり考えてないんですね。むしろ、あくまでも自発的に、極めて小さな、きょうだいとか親戚とか、非常に仲のいい友達といった小集団がいくつか集まって、しかし非常に冷酷に、冷静に計画をして、連携して事を運んだというふうに考えています。そして、これまで行われてきたさまざまなジハードを掲げるテロの手法を、ほぼ全部使っているといっていいわけですね。 自爆する、あるいは無差別に銃撃する、あるいは襲撃をして立てこもる、そのすべてを1回の並行した一連の事件で行って、すべて成功させ、そして証拠を残さないようにそれぞれが死んでしまっているという、そういう意味では極めて計画性が高く、準備がよくできていて、そして実行力を見せつけた。ただし、これはそんなに大きな組織じゃなくても、やはりできるんですね。
 武器自体は、別にイスラム国が独自のルートを開拓したわけではないかもしれない。むしろフランスやベルギーなどに通常存在している密輸・密売のネットワークから買ってくれば済むわけですね。今、お金など、武器を買うために渡した人はいるかもしれない。しかしそれほどたいした額ではないと思われます。
 そして、何よりも通常、組織的に物事を行う時っていうのは、そもそも実行犯が生きて逃げて帰ってくるところまでをすべて支えようとすると、ものすごく組織的になるわけですが、この場合はもう、とにかく犯人たちがねらいどおり自爆して死んでしまってますから、その先を考える必要がないわけですね。そうしますと、依然として組織は小さくていいわけですね。武器を渡して、やれるだけやって、そこまで支援すればいいというだけですからね」と。
 小さな組織で用意周到に準備してやすやすと行動し、目的を達成して、世界を震撼させているところに、今回のテロの特徴があると考えられる。こうしたテロを分析し、どう対応するか。国際社会は、大きな試練に直面している。わが国にとっても、今回の事件によってイスラム過激組織のテロへの対策が一段と重要性を増している。

 次回に続く。

人権230~国連憲章における人権の尊重

2015-11-26 08:55:58 | 人権
●国際連合憲章における人権の尊重

 次に「国際連合憲章=連合国憲章」の内容について述べる。憲章は、「国連=連合国」の組織及び活動の基本原則を定めたものであり、その中にその後の人権に関する思想や国際機構を方向付けることが盛られている。
 憲章は、次のような前文で始まる。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 われら連合国の人民は、われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い、基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念をあらためて確認し、正義と条約その他の国際法の源泉から生ずる義務の尊重とを維持することができる条件を確立し、一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上とを促進すること、並びに、このために、寛容を実行し、且つ、善良な隣人として互に平和に生活し、国際の平和及び安全を維持するためにわれらの力を合わせ、共同の利益の場合を除く外は武力を用いないことを原則の受諾と方法の設定によって確保し、すべての人民の経済的及び社会的発達を促進するために国際機構を用いることを決意して、これらの目的を達成するために、われらの努力を結集することに決定した。よって、われらの各自の政府は、サン・フランシスコ市に会合し、全権委任状を示してそれが良好妥当であると認められた代表者を通じて、この国際連合憲章に同意したので、ここに国際連合という国際機関を設ける。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 冒頭の原文の主語は ”We the people of the United Nations”である。日本語の公定訳は、これを「われら連合国の人民は」と訳している。「連合国の人民」、これが正確な訳である。憲章の採択は1945年(昭和20年)6月のサンフランシスコ会議においてだから、わが国は連合国と戦っている最中である。”We the people of the United Nations”は、「国際連合の人民」とは、訳し得ない。その一方、最後部では、同じ the United Nations が「国際連合」と訳し分けられている。これは日本国政府による翻訳の操作であり、自己欺瞞である。
 憲章前文は、続く文章で、基本的人権、人間の尊厳および価値、男女及び大小各国の同権に関する信念を確認している。そして、憲章は第1条に、「連合国=国連」の目的を記している。
国際連合の目的は、次の通りである。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1 国際の平和及び安全を維持すること。そのために、平和に対する脅威の防止及び除去と侵略行為その他の平和の破壊の鎮圧とのため有効な集団的措置をとること並びに平和を破壊するに至る虞のある国際的の紛争又は事態の調整又は解決を平和的手段によって且つ正義及び国際法の原則に従って実現すること。
2 人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の友好関係を発展させること並びに世界平和を強化するために他の適当な措置をとること。
3 経済的、社会的、文化的又は人道的性質を有する国際問題を解決することについて、並びに人種、性、言語又は宗教による差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を尊重するように助長奨励することについて、国際協力を達成すること。
4 これらの共通の目的の達成に当って諸国の行動を調和するための中心となること。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「国連=連合国」の目的は、ここに定められているように、第一は国際の平和及び安全の維持、第二は人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の友好関係の発展、第三は経済的、社会的、文化的または人道的性質を持つ国際問題の解決、並びに人権及び基本的自由の尊重を助長奨励することについての国際協力の達成。第四は、これら三つの目的の達成のために果たす中心的な役割である。
 これらのうち第三の目的の一部に、人権に係ることが盛られている。すなわち、「人種、性、言語又は宗教による差別なくすべての者のために人権および基本的自由を尊重するよう助長奨励することについて、国際協力を達成すること」である。この文言を端緒として、戦後、人権の思想が世界に広がることとなった。
 憲章は、第55条で、「諸国間の平和的且つ友好的関係に必要な安定及び福祉の条件を創造する」ために、3つのことを促進しなければならないとする。第一が、一層高い生活水準、完全雇用並びに経済的及び社会的の進歩及び発展の条件、第二が経済的、社会的及び保健的国際問題と関係国際問題の解決並びに文化的及び教育的国際協力、第三が人種、性、言語又は宗教による差別のないすべての者のための人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守である。人権尊重と遵守も、他の2つと並んで諸国間の平和と友好関係の不可欠の基礎的条件とされている。ただし、国連憲章の人権に関する規定は、加盟国を法的に義務づけるものではないと解されている。国連と協力して加盟国が共同及び個別の行動をとることを規定した56条の文言も、「義務」ではなく、あえて「誓約」(pledge)という言葉を用いている。
 こうして「国連=連合国」は、「国連憲章=連合国憲章」に、人権に関する規定を設けた。人権の擁護が憲章の多くの条文で定められたのは、サンフランシスコ会議においてだった。その会議で人権に関する規定が増加された理由の一つは当時、ラテン・アメリカ諸国が人権規定の必要性を強調したからであり、もう一つはアメリカ政府代表団に顧問として加わっていた多数のNGOが人権規定の挿入を繰り返し主張したからである。注目すべきはNGOの働きかけであり、国連憲章は、NGOの要望により、第71条に次のように定めているのである。「経済社会理事会は、その権限内にある事項に関係のある民間団体と協議するために、適当な取極を行うことができる。この取極は、国際団体との間に、また、適当な場合には、関係のある国際連合加盟国と協議した後に国内団体との間に行うことができる」と。
 私は、このように憲章に人権に関する規定が多く盛られた背景として、三点が挙げられると思う。第1に、ユダヤ人に対するナチス・ドイツの暴虐によって、人権を各国の国内法で保障するだけでは不十分であり、国際的に保障する必要性が認識されたことである。第2に、大西洋憲章に「恐怖及び欠乏からの解放」と「生命を全うすることを保障するような平和の確立」を掲げて、人権の尊重を戦争目的に掲げた連合国が勝利をおさめ、戦後の世界秩序を形作ったことである。そして、これらに加えるべきものとして第3に、資本主義諸国にとって、経済活動の自由を保障するため、人権を保障することが、資本と国家の利益にかなう状況になったことである。私は、これらの3点には、ロスチャイルド家を中心とするユダヤ系金融資本家が、自らの生存と利益の確保のために、国際的に働きかけをしたことが深く関わっているだろうと推測する。国境を越えて諸国に分散して活動するユダヤ人にとっては、国家や民族を否定し、個人や市場を強調することが有利だからである。

 次回に続く。

中国経済は長期低迷に陥った

2015-11-24 08:56:56 | 国際関係
 本ブログでは、中国経済が深刻な危機に陥っていることを何度か書いてきたが、拓殖大学総長で開発経済学者の渡辺利夫氏は、具体的な指標を用い、日本・韓国との比較を示して、中国経済が長期低迷局面に入ったと主張している。
 産経新聞10月27日の記事で、渡辺氏は、投資率、限界資本係数、債務残高の対GDP比の指標を以て、中国経済の深刻さを示している。
 投資率とは、固定資産投資の対国内総生産(GDP)比である。渡辺氏によると、中国は2009年には44・1%となり、以降、14年までの6年間44~45%の幅の中にある。「いかにも異常な高水準だ。実際、先発国の中で最大の投資率を達成したのは『いざなぎ景気』の日本(1969年)、『漢江の奇跡』の韓国(91年)でありその値は39%であった」と渡辺氏は言う。今の中国は、「いざなぎ景気」の時期の日本、「漢江の奇跡」の時期の韓国と、比べることのできない不況に陥っている。それなのに、異常に高い投資率を続けている。
 限界資本係数とは、1単位の成長に要する投資単位である。係数が高いほど投資効率は低い。渡辺氏によると、中国は2000年代前半に4を超え、2011~14年には実に6・12に達した。「高度成長期の日本(1966~70年)、韓国(1986~90年)の値はそれぞれ2・90、3・12であった。中国は日本の2倍以上、韓国の2倍近くの固定資本を投入しなければ、同率の経済成長率を実現できないのである」と渡辺氏は言う。この数字は、絶対に不可能である。
 渡辺氏は、中国の非金融企業の債務残高が厖大であることを指摘する。「日本のバブル最盛期1989年の非金融企業の債務残高の対GDP比は132%であったが、中国の2014年の同値は157%である。バブル期の日本の企業が本業を離れて土地や株式などへの財テクに走って自滅したことは広く知られている」と渡辺氏は言う。
 渡辺氏は結論として「中国は日本のバブル崩壊とその後の平成不況に類する長期の経済低迷局面に入ったとみていい」と書いている。詳しくは、次に掲載する記事の全文をご参照下さい。

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●産経新聞 平成27年10月27日

http://www.sankei.com/column/news/151027/clm1510270001-n1.html
2015.10.27 05:02更新
【正論】
長期低迷局面にはまり込む中国 拓殖大学総長・渡辺利夫

 中国経済失速への懸念が高まっている。今回は私の中国マクロ経済観察について記したい。中国の成長は固定資産投資(機械設備・インフラ・不動産投資)が牽引(けんいん)し、他方、最終財の家計消費は長期にわたり低迷してきた。この対照的傾向は2008年秋のリーマン・ショック直後に打ち出された4兆元(約75兆円)の緊急景気刺激策を受けて一段と先鋭化した。

《疑わしさが残る経済成長率》
 固定資産投資の対国内総生産(GDP)比が投資率である。この比率は緊急景気刺激策以前は30%台で推移してきたが、09年には44・1%となり、以降、14年までの6年間44~45%の幅の中にある。いかにも異常な高水準だ。実際、先発国の中で最大の投資率を達成したのは「いざなぎ景気」の日本(1969年)、「漢江の奇跡」の韓国(91年)でありその値は39%であった。
 現在の中国は効率性を無視した投資拡大をつづけているかにみえるが、果たせるかな中国の投資効率は改革・開放期において最低のレベルにまで劣化している。
 1単位の成長に要する投資単位が限界資本係数である。係数が高いほど投資効率は低い。2000年代に入るまで4未満にあったこの値は、2000年代前半に4を超え、11~14年には実に6・12に達した。高度成長期の日本(1966~70年)、韓国(1986~90年)の値はそれぞれ2・90、3・12であった。中国は日本の2倍以上、韓国の2倍近くの固定資本を投入しなければ、同率の経済成長率を実現できないのである。
 中国は非効率的な投資を積み上げて、実需を上回る過剰生産能力を築いた。設備過剰率は鉄鋼、セメント、アルミ、板ガラス、造船、自動車において25~30%である。在庫の山を築き稼働率を落とし価格低下を招いてこれがデフレ圧力となる。卸売物価指数は2012年以降低下の一方である。
 「李克強指数」として知られる鉄道貨物輸送量、電力消費量などの伸び率は急低下してマイナスである。今年第3四半期の経済成長率は6・9%だが、これは2000年代に入っての最低率である。この公表成長率さえ現実をどの程度反映しているか疑わしい。

《「新常態」と辻褄合わない方策》
 投資依存型の高成長経済を脱して、消費内需依存型の中成長経済への移行を求める「新常態」を明確に打ち出したのは、今年3月の全人代(全国人民代表大会)であったが、景気減速が明瞭になればそうもいってはいられない。
 中国人民銀行(中央銀行)は昨年11月に2年4カ月ぶりに利下げを実施、今年に入って追加利下げを連続して行い、預金準備率も引き下げた。同時に政府は金融機関に対し、インフラ建設企業や不動産開発企業への融資規制を再び緩和方向へと転じた。新常態とは辻褄(つじつま)の合わない方策である。
 しかし、利下げや融資規制緩和にもかかわらず、企業の資金需要は高まりをみせない。投資過剰感の薄かったリーマン・ショック後の緊急景気刺激策としての利下げは、企業の資金需要を大いに高めた。しかし現在の企業には金融政策に反応する気配は少ない。
 人民銀行は毎年3千余の銀行に対して企業の資金需要を問うアンケートを実施しており、資金需要判断指数(DI)として発表している。「増加」企業数から「減少」企業数を差し引いた数を標準化した値である。このDIが13年に入って以降、今年の第2四半期まで一貫して下降している。

《デフレが恒常化する可能性も》
 過剰投資の裏側には過剰債務がある。非金融企業の債務残高は厖大である。ちなみに日本のバブル最盛期1989年の非金融企業の債務残高の対GDP比は132%であったが、中国の2014年の同値は157%である。バブル期の日本の企業が本業を離れて土地や株式などへの財テクに走って自滅したことは広く知られている。
 緊急刺激対策後の中国企業は、鉄鋼、セメントなどで新規投資をつづけ、さらにそれに倍する企業が不動産開発や株式投資などの財テクに精出している。
 日本では金融引き締めや総量規制が地価や株価の急落を招いて、バブルは沈静化した。企業は設備投資を抑え込んで債務の返済を優先し、1991年以降の金融緩和をもってしても投資の回復は成らず、長期不況にはまり込んだ。
 対GDP比で日本を上回る今日の中国企業が新規借り入れに抑制的であり、資金需要DIの低下がつづいてデフレが恒常化する可能性は高い。デフレによる販売価格の低下は、企業収入を圧縮し、企業債務の実質的負担をその分大きくする。債務をいちはやく返済しようという誘因が強く働き、新規投資は容易には喚起されまい。中国は日本のバブル崩壊とその後の平成不況に類する長期の経済低迷局面に入ったとみていい。
 26日から第18期中央委員会第5回総会(5中総会)が開かれ、「成長モデルの転換」が改めて議論されるもようだが、胡錦濤政権時代以来の難題に答えを見いだすのは容易なことではあるまい。(わたなべ としお)
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関連掲示
・拙稿「中国AIIBの野望と自滅に加わるな3」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/fe4cacac9279409ff71c288ed20b8648
 渡辺氏の中国経済論を紹介。

人権229~国際連合の創設

2015-11-23 08:49:43 | 人権
●国際連合の創設

 次に国際機構について述べる。人権が現代世界で中心思想の一つとなり、人権に係る法制度が発達してきたことにおいて、国際連合が果たしている役割は大きい。
 わが国の多くの人は、国連は国際社会の平和な秩序を維持するための人道主義的機構だ、というイメージを持っているようである。現実の国連に、あるべき理想を投影している人が多いのではないか。日本人はまず国連とは何かをしっかり理解する必要がある。
 国際連合は、わが国では国際連合と訳されているが、もともと第2次大戦における「連合国」のことに他ならない。第2次大戦の連合国が、発展的に国際機構になったものが、いわゆる国際連合である。英語では、一貫して the United Nations であり、実体は同一である。中国では、戦後も the United Nations を「聯合国」と表記している。連合国である。しかし、わが国では敗戦後、連合国を「国際連合」と訳すようになった。ここには明らかな自己欺瞞がある。
 「国際連合=連合国」は、1941年(昭和16年)8月に英米により発表された大西洋憲章に萌芽を見る。大西洋憲章には、戦後の平和維持体制や国際連合の基礎となる国際秩序の構想が盛り込まれた。この憲章の基本原理を取り入れて、42年1月に連合国共同宣言が出された。
 戦争の大勢が決した43年(昭和18年)以降、動きが加速した。この年、モスクワで開かれた米英ソ外相会談で平和機構設立が宣言された。これに中華民国(当時の中国)も署名した。米英ソ中の代表は、44年(昭和19年)8月ワシントン郊外で開催されたダンバートン・オークス会議にて、国際連盟に代えて国際連合を設立することを決めた。そして「国際連合憲章=連合国憲章(Charter of the United Nations)」の草案が作成された。
 注目すべきことは、「憲章」の作成過程において、1945年(昭和20年)2月、ヤルタ会談が行われたことである。この会談は、米英ソの三巨頭、F・D・ルーズベルト、チャーチル、スターリンが行った秘密会談である。会談では、まず敗北が決定的となっていたドイツの戦後管理が話し合われた。首脳は、米英仏ソ4カ国による共同管理、戦犯処罰、非武装化を決めた。日本に対しては、対日参戦秘密協定が結ばれた。米英首脳は、スターリンに対日参戦を求め、見返りとして千島列島と南樺太の奪取を認めた。大西洋憲章は領土不拡大を宣言していたので、これを曲げる密約だった。また連合国を発展させた国際機構をもって戦後世界を管理する体制に大枠合意し、その機構を創設する会議を同年4月に催すこととした。こうして、米英ソの間で秘密協定が結ばれた。
 ヤルタ密約の4か月後、「国際連合=連合国」の憲章が採択された。1945年(昭和20年)6月のサンフランシスコ会議においてである。この時は、日本がまだ米国等と戦っている最中だった。51カ国が「国連憲章=連合国憲章」に調印した。「憲章」は、枢軸国と戦う連合国の憲章だった。
 日本の敗北による大戦の終結の後、45年10月に原加盟国51カ国で、国際機構としての「国際連合=連合国」が改めて発足した。この時点では国際連盟は存続していた。国際連合は国際連盟が発展してできた組織ではない。まったく別に立ち上がった機構である。国際連盟の設立の経緯、国際連盟と国際連合の違いは、拙稿「現代の眺望と人類の課題」に詳細を書いたが、国際連盟は、第1次世界大戦後、国際平和を実現するために設立された組織である。勝者と敗者を等しく包含し、すべての加盟国が平等だった。大国に拒否権を認める制度はなかった。これに対し、国際連合は、第2次世界大戦において、戦争に勝利するために締結された軍事同盟が国際機構に発展したものである。連合国は、日独伊枢軸に対抗するため、米英ソ等がイデオロギーの本質的な違いを無視した合従連衡によって提携した。国際連合の創設は、1945年10月24日。国際連盟が解散したのは、その翌年の46年4月19日。二つの機構は、約半年間は共存していたわけである。
 アメリカは議会の反対により、国際連盟には加盟していなかった。連盟とは別に、新たにF・D・ルーズベルト大統領の構想によって、アメリカが主導的に創設を進めたのが、国際連合である。それゆえ、国連は、アメリカの国益を実現するために創設されたという側面がある。「国連本部=連合国本部」は、アメリカ・ニューヨークにある。国連本部の土地は、ロックフェラーが寄付した。
 国連は、アメリカを中心とする戦勝国の論理で作り上げられた世界支配のための機構である。勝者による秩序の固定化が目的である。戦争に勝利するための軍事同盟の延長であって、もとは恒久平和をめざす思想によって作られたものではない。大戦で戦勝国は密約や国際法違反の行為によって、敗戦国から領土や権利を奪った。これは戦争犯罪である。だが国連憲章は、第17章第107条に、それらはいかなることがあっても返す必要がないと規定した。
 国連の本質は、当初から今日まで一貫して軍事同盟である。そのことを示す事実を三点指摘したい。
 第1点は、ソ連の加盟である。ソ連は第2次大戦前には、共産主義革命を輸出する危険な国家とみなされていた。多くの国が対ソ反共政策を取った。大戦の初期、ソ連はフィンランド侵攻の非により、国際連盟から除名された。ところが、米英は、大戦の途中から、日独と戦うためにソ連と手を結んだ。国際連盟から追放された国が、平和を愛好する国家の一員に成り代わった。アングロ=サクソン流の原理原則なき外交が、ソ連を飛躍的に成長させた。そうしたソ連が国際社会で発言力、影響力を増していった。ここで作られたのが、第2次大戦は「民主主義対ファシズムの戦い」という虚偽の構図である。ソ連は「民主主義」の国家とされたが、実態は全体主義である。全体主義のソ連と自由主義の米英が提携したのは、戦争に勝つために結んだ軍事同盟だったからである。
 第2点は、旧敵国条項である。「国際連合憲章=連合国憲章」は、旧敵国である枢軸国に対し、旧敵国条項を定めている。旧敵国条項とは、第2次大戦中に連合国の敵国であった国々に対し、地域的機関などが、安全保障理事会の許可がなくとも強制行動を取り得ること等が記載されている条項である。第53条と第107条である。条文には明記されていないが、旧敵国とは、日本、ドイツ、イタリア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、フィンランドの7か国を指すと考えられてきた。旧敵国条項は、今も削除されていない。そこに、国連とは第2次大戦時の連合国であり、「旧敵国」と戦うための軍事同盟であることが、明らかに示されている。
 第3点は、永世中立国のスイスが半世紀以上、国連に加盟していなかったことである。2002年(平成14年)になって初めて国連に加盟した。それまで加盟していなかった理由は、国際連盟と違って、国連は武力行使を手段として用い、戦争行為を是認する機構だからだった。もっとも国際連盟は、まさにその武力の裏づけがないことによって、機能麻痺に陥り、諸国家の闘争に対してほとんど無力に終わった。スイスは、国際情勢に応じて自国の方針を変えて、国連に加盟した。
 以上の三点は、国連の本質が軍事同盟にあることを示している。そして、国連による人権の国際的保障は、この軍事同盟による「力の秩序」を前提としたものである。武力による国家間の権利と権力の関係の維持の上に、個人の自由と権利の保障が進められたのである。

 次回に続く。

中国は党指令型不況、金融市場の自壊は変えようがない~田村秀男氏

2015-11-22 09:35:44 | 経済
 中国共産党は、南シナ海で人工島に軍事基地を建設してその海域を支配下に置こうとするとともに、ASEAN諸国に多額の投資を行って経済的に従属させようとしている。だが、中国経済は共産党の統制主義的な経済によって深刻な不況に陥っている。対外的な膨張で危機を乗り越えようとしているが、足元は崩れつつある。
 この状況をつかむのに参考になるものとして、少し前のものになるが、エコノミストの田村秀男氏が、産経新聞9月6日付に「9・3天安門発のブラックジョーク 党指令型不況に気付かぬ首脳たち」、夕刊フジ12日付けに「中国金融市場の自壊は変えようがない」と題して書いた記事を揚げておきたい。密接に関連する記事であり、重複も多い。そこで、参考のため、これらを一本化して要旨をまとめておく。

 中国共産党の「党指令による経済・金融政策はまさに支離滅裂」で、「中国当局の政策はことごとく逆効果、あるいは裏目に出ている」。
 株バブルの崩壊、人民元の切り下げ後、中国人民銀行は「8月下旬に預金金利を追加利下げした。通常は『金融緩和策』のはずだが、結果からみると『金融引き締め』である」。「短期金融市場では銀行間融通金利上昇が止まらず、6月初めに1%強だった翌日もの金利は9月2日、2%を超え、預金金利より高くなった」「銀行は低い金利で集めた預金を短期金融市場で回せばもうかることになるので、景気てこ入れに必要な貸し出しは増えないだろう」
 「中国人民銀行は一貫して発行する資金量(マネタリーベース)を増やす量的緩和を続けてきたが、この3月以降は減らし続けている。つまり、量的引き締め策をとっている。建前は金融緩和なのだが、内実は金融収縮策」である。こういう「めちゃくちゃな金融政策で市場が安定するはずはない」「元相場の下落圧力は強くなるばかりだ」
 「政策効果を台無しにする主因は資本の対外逃避」である。「党の特権層を中心に香港経由などで巨額の資金が持ち出される。預金金利が下がれば、あるいは人民元安になりそうだと、多くの富裕層が元を外貨に替えて持ち出す」。だから、「資本流出が怖い当局は金融緩和を表看板にしながら、実際には引き締めざるをえない」。政府は「中国の金融市場の自壊に拍車がかかる現実を変えようがない」
 「資本が逃げ出す最大の背景は実体経済の不振」である。「不動産バブル崩壊が景気悪化を招いたのだが、もとをたどると、党がカネ、モノ、ヒト、土地の配分や利用を仕切る党指令型経済モデルに行き着く」
 「リーマンショックを受けて、党中央は資金を不動産開発部門に集中させた。国内総生産(GDP)の5割前後を固定資産投資が占め、いったんは2桁台の経済成長を実現したが、バブル崩壊とともに成長路線が行き詰まった。国有企業などの過剰投資、過剰生産があらわになり、国内では廃棄物や汚染物質をまき散らし、国外には輸出攻勢をかける」。
 「習政権は株式ブームを作り上げ、増資や新規上場で調達した資金で企業の債務を減らそうとしたが、株式バブル崩壊とともにもくろみは外れた。不動産開発の失敗で地方政府の債務も膨れ上がっている」。「過剰投資がたたって国有企業などの債務は急増している」。膨れ上がった「過剰生産能力はすさまじい規模」で、調整は進みそうにない。
 「外貨準備はこの8月、昨年6月のピークに比べ4358億ドル(約52兆円)減となった」「それでもまだ3兆5000億ドル(約420兆円)以上」あるが、「対外債務は5兆ドル(約600兆円)を超えている。いわば、外から借金して外準を維持しているわけで、外国の投資家や金融機関が一斉に資金を引き揚げると、外準は底を突く恐れがある。株式、元相場と金利・量と続く金融市場自壊はその予告なのだ」。
 「中国景気の下降」とともに「商品市況」が崩れている。「エネルギー価格下落はロシアを直撃」している。「一次産品市況の下落は軍事パレードに招かれた一部のアジアやアフリカなどの産出国の首脳たちを苦しめているだろう」。
 こうしたなか、「原油や原材料の消費国日本は商品市況下落の恩恵を受け、いっそうの金融緩和、円安の余地が生まれる。政府は中国景気に振り回されないよう、内需拡大策をとればよい。中国危機は日本にとってチャンスなのだ」。

 このように田村氏は述べている。最後の部分で、中国危機は日本にとってチャンスと書いているが、この状況を大きく変える可能性を秘めているのが、IMFによる人民元の国際通貨認定である。この点は、下記の拙稿に書いたところである。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/4c5c833ade2a3d7289f06fe077528dd8
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d40ef69b12734cd989c71bac32b51436
 以下は、記事2本の全文。

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●産経新聞 平成27年9月6日

http://www.sankei.com/economy/news/150906/ecn1509060004-n1.html
2015.9.6 11:00更新
【日曜経済講座】
9・3天安門発のブラックジョーク 党指令型不況に気付かぬ首脳たち 編集委員・田村秀男

 9月3日、「抗日戦勝記念日」の北京・天安門。習近平中国共産党総書記・国家主席と並んで立つ、ロシアのプーチン大統領や韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の顔が青空のもとで映えた。まるでブラックジョークだ。青天は8月下旬から北京とその周辺の工場、2万社近くに操業停止させた党中央の強権の成果だが、党指令による経済・金融政策はまさに支離滅裂。韓国、ロシアを含む世界のマーケットに巨大な嵐を送り込んでいるのだから。
 中国当局の政策はことごとく逆効果、あるいは裏目に出ている。中国人民銀行は8月下旬に預金金利を追加利下げした。「金融緩和策」と全メディアが報道したが、精査してみると真逆の「金融引き締め」である。短期金融市場では銀行間融通金利上昇が止まらず、6月初めに1%強だった金利は9月2日、2%を超え、預金金利より高くなった。銀行は低い金利で集めた預金を短期金融市場で回せばもうかることになるので、景気てこ入れに必要な貸し出しは増えないだろう。
 量のほうはどうか。中国人民銀行は一貫して発行する資金量(マネタリーベース)を増やす量的緩和を続けてきたが、この3月以降は減らし続けている。つまり、量的引き締め策をとっている。建前は金融緩和なのだが、内実は金融収縮策であり、デフレ圧力をもたらす。
 政策効果を台無しにする主因は資本の対外逃避である。資本流出は2012年から13年の不動産バブル崩壊以降、起こり始めたが、昨年秋から加速している。中国当局は厳しい資本規制を敷いているはずだが、抜け穴だらけだ。党の特権層を中心に香港経由などで巨額の資金が持ち出される。預金金利が下がれば、あるいは人民元安になりそうだと、多くの富裕層が元を外貨に替えて持ち出す。
 資本流出が怖い当局は金融緩和を表看板にしながら、実際には引き締めざるをえない。8月中旬、元相場を切り下げたが、その後は元相場の押し上げにきゅうきゅうとしている。どうみてもめちゃくちゃだ。
 資本が逃げ出す最大の背景は実体経済の不振にあり、上海株価下落は資本流出と同時進行する。不動産バブル崩壊が景気悪化を招いたのだが、もとをたどると、党がカネ、モノ、ヒト、土地の配分や利用を仕切る党指令型経済モデルに行き着く。
 08年9月のリーマンショックを受けて、党中央は資金を不動産開発部門に集中させた。国内総生産(GDP)の5割前後を固定資産投資が占め、いったんは2桁台の経済成長を実現したが、バブル崩壊とともに成長路線が行き詰まった。国有企業などの過剰投資、過剰生産があらわになり、国内では廃棄物や汚染物質をまき散らし、国外には輸出攻勢をかける。
 過剰生産能力はすさまじい規模だ。自動車生産台数はリーマン前の3倍の年産2400万台、国内需要はその半分である。粗鋼生産の過剰能力は日本の4年分の生産量に相当する。
 過剰投資がたたって国有企業などの債務は急増している。習政権は株式ブームを作り上げ、増資や新規上場で調達した資金で企業の債務を減らそうとしたが、株式バブル崩壊とともにもくろみは外れた。不動産開発の失敗で地方政府の債務も膨れ上がっている。党中央は危機を切り抜けようと、円換算で70兆円に達するともみられる資金を株価てこ入れ用に投入したが、不発だ。株価が下落を続けた分、不良債務が増える。
 リーマン後に膨れ上がった中国の生産規模は巨大すぎて調整は進みそうにない。党の強権で1週間程度は生産停止した北京近郊の不採算鉄鋼メーカーも、週明けからは操業を再開するだろう。大手国有企業は党幹部に直結しているのだから、大掛かりな整理淘汰(とうた)は無理だろう。
 グラフは、中国の実体景気を比較的正直に反映するとされる鉄道貨物量と、主要な国際商品相場の推移である。一目瞭然、中国景気の下降とともに、商品市況が崩れていく。エネルギー価格下落はロシアを直撃している。一次産品市況の下落は軍事パレードに招かれた一部のアジアやアフリカなどの産出国の首脳たちを苦しめているだろう。天安門で満面の笑みを浮かべた朴大統領は中国市場依存の危うさを感じないのだろうか。
 原油や原材料の消費国日本は商品市況下落の恩恵を受け、いっそうの金融緩和、円安の余地が生まれる。政府は中国景気に振り回されないよう、内需拡大策をとればよい。中国危機は日本にとってチャンスなのだ。

http://www.sankei.com/world/news/150912/wor1509120002-n1.html
2015.9.12 09:00更新
【お金は知っている】
中国金融市場の自壊は変えようがない 外貨準備は「張り子の虎」

 八方ふさがりの中国経済だが、宣伝工作だけはさすがにたけている。先週末、トルコ・アンカラで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、不透明な中国当局の市場操作を厳しく追及する麻生太郎財務相に対し、中国人民銀行の周小川総裁は「市場は安定に向かっている」と言い抜けた。(夕刊フジ)

 周発言の要点は以下の通りだ。
 ▽政府の措置により株式市場は崖から落ちるのを免れた。株式市場の調整はほぼ終わった。
 ▽8月の元切り下げ後に一時は元安圧力が高まったが、長期的に下落する根拠はない。
 いずれも現実とは遊離しており、麻生氏が周氏らの説明に納得しなかったのは当然だ。株価は、日本円換算で70兆円にも上るとみられる政府や政府系機関による株式買い支えや当局による厳しい投機の取り締まり、メディアへの締めつけにもかかわらず、乱高下が起きている。
人民銀行は8月下旬に預金金利を追加利下げした。通常は「金融緩和策」のはずだが、結果からみると「金融引き締め」である。短期金融市場では銀行間融通金利上昇が止まらず、6月初めに1%強だった翌日もの金利は預金金利より高くなった。銀行は低い金利で集めた預金を銀行間で回せば儲かることになる。
 量のほうはどうか。中国人民銀行は一貫して発行する資金量(マネタリーベース)を増やす量的緩和を続けてきたが、この3月以降は減らし続けている。つまり、量的収縮策である。めちゃくちゃな金融政策で市場が安定するはずはない。
 元相場の下落圧力は強くなるばかりだ。8月中旬、元相場を切り下げた後は元相場の押し上げにきゅうきゅうとしている。主因は資本の対外逃避である。周氏がいくら詭弁(きべん)を弄しようと、中国の金融市場の自壊に拍車がかかる現実を変えようがない。



 グラフは中国からの資金流出と外貨準備の減少の加速ぶりを示している。中国は厳しい資本の流出入規制を敷いているのだが、抜け穴だらけだ。党の特権層を中心に香港経由などで巨額の資金が持ち出される。預金金利が下がれば、あるいは人民元安になりそうだと、多くの富裕層が元を外貨に替えて持ち出す。
貿易収支など経常収支は黒字を維持しているのに、外貨準備はこの8月、昨年6月のピークに比べ4358億ドル(約52兆円)減となった。経常収支黒字と外貨準備の増減からみて、年間で6000億ドル(約72兆円)近い資金が外に流出している。
 外貨準備はそれでもまだ3兆5000億ドル(約420兆円)以上あり、日本の3倍以上になるとの見方もあるが、中国の外準は「張り子の虎」でしかない。対外債務は5兆ドル(約600兆円)を超えている。いわば、外から借金して外準を維持しているわけで、外国の投資家や金融機関が一斉に資金を引き揚げると、外準は底を突く恐れがある。
 株式、元相場と金利・量と続く金融市場自壊はその予告なのだ。(産経新聞特別記者・田村秀男)
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人権228~人権の国際的保障と国際法の発達

2015-11-21 09:32:52 | 人権
●人権の国際的保障と国際法の発達

 今日、人権に係る問題は、各国の国内における問題であるとともに、国際社会における問題ともなっている。この点を法制度と国際機構について、見ていこう。
 まず法制度について、各国には法規範として国内法があるが、国際社会には、国際的な法規範として国際法がある。国際法は、西欧において近代主権国家が形成されたことにより、国家間の法として発達した。17世紀前半にグロティウスが、人間理性に基づく人定法として、国家法のほかに国家間・国民間に共通の法として万民法があるべきことを主張したのが、はじめである。その後、西欧で発達した国際法は、19世紀後半から世界に広まった。国際法において人権観念が発達し、その擁護が主張されるようになるのは、20世紀になってからである。
 今日では人権に関する国際的な規範は、国際法の一部となっている。わが国では、ともすると人権を自国の憲法との関係でばかり考えがちだが、それに偏ると島国社会での狭い議論に陥る。かえってそのために、人権に係る国際機関の勧告や、外国人の権利問題において有効な反論ができない状態にある。特に伝統尊重的保守の一部にその傾向があると私は強く感じている。だが、人権を考察するには、国際法の基礎知識が欠かせない。
 国際法は、条約と慣習国際法を主要な構成要素とする。条約は締約国のみを拘束し、第三国を拘束しないのに対し、慣習国際法は国際社会のすべての国家を拘束する。国際法違反を犯した国家には国家責任が生じ、原状回復、損害賠償、陳謝といった事後救済の義務が生じる。しかし、現在の国際社会にはそれを強制執行する仕組みは確立されていない。国際社会では、客観的な事実認定、違法性認定や法適用について制度的な保証がない。そのため、被害国の自力救済措置が認められてきた。自力救済措置とは、自衛権及び非軍事的復仇である。
 第2次大戦中、連合国は、現在国際連合と呼ばれている国際機構を創設し、国際秩序の形成を行うとともに、人権の国際的保障に努めることとした。国連については、次の項目で述べる。
国際法の重要な機能の一つとして、各国の国内法の変更及び発展を外から促進するという役割がある。ただし、これも促進ということであって、強制力はない。
 国際法と国内法の関係については、両者は別箇の法秩序とみる二元論と、統一的な法秩序を構成するとみる一元論がある。一元論には、国際法をもって国内法を委任する上位秩序とみる国際法優位説と、国際法をもっていわば国内法により委任された法秩序とみる国内法優位説がある。後者の国内法優位説の一元論は今日ほとんど支持を失っているが、二元論と国際法優位的な一元論の間には論争があり、決着がついていない。
 国際法と国内法との効力の上下関係については、各国の憲法体系に委ねられている。国内で条約がどのような効力を持つかについては、各国の憲法が定めている。条約が国内的効力を持つために国内法への変形が必要であるという変形方式を取る国と、条約を国内法に一般的に受け入れてその国内的効力を認める一般的受容方式の国に大別される。前者はイギリス、カナダ等であり、後者は日本、米国、フランス等の多くの国々である。条約にどのような国内的効力順位を与えるかについてもまた各国の憲法が定めている。わが国では、憲法、条約、法律、命令、規則という順位が成立している。条約が憲法に優越するという考え方もあるが、その場合、国家主権に優越する権力を認めることとなり、国連等の国際機関は各国の国家主権以上の権力を持つと仮定するに等しい。
 だが、一般に法は、権利義務関係を体系的に表現し、究極的には物理的強制力によって権利を実現する。法を裏付ける強制力は、実力である。国内法は、政府が実力を独占し、抵抗する者には強制執行や刑罰を行う。国際法は、国際社会には国家間を超えた実力装置が未整備であるので、究極的な強制力を持たない。その点で、国際法は国内法に比べて、法としての性格が不十分である。国際法の国内法に対する優位は理念的なものであり、現実的には各国は主権の発動により、対抗することがある。各国の憲法と条約の関係は、憲法が優位と考えるのが妥当である。人権の考察においても、この点をよく押さえることが重要である。
 次に、人権に関する国際法は、国際人権法という。国際人権法は、International Law of Human Rightsの訳語である。国際人権諸条約が定義する人権を、国際人権と呼ぶ。国際人権は、International Human Rightsの訳語である。国際人権諸条約の特徴は、国家間の利害調整によって国家の相互的な利益を実現することを目指すものではなく、国家の壁を越えて、人間的な権利を相互に保障しようとしていることにある。
 国際法及び国際人権法の一部をなすものに、世界人権宣言、国際人権規約(自由権規約、社会権規約、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約等がある。国際法及び国際人権法の具体的な内容については、国際機構に関する項目に書くが、国際的な法制度が発達することによって、人権は現代世界の中心思想の一つとして多数の国々に浸透してきたのである。
 国際法は、かつて平時国際法と戦時国際法に分かれていたが、戦時国際法は今日、国際人道法と呼ばれる。国際人権法が主に平和時に適用される国際法であるのに対し、国際人道法は武力紛争時に適用される国際法であり、敵対行為の遂行や兵器の使用、戦闘員の行動や復仇の行使等を人道原則によって規制する。国際人権法と国際人道法は別々に発達したものだが、個人の権利の保護を目的とする点は共通している。国際人権法は平時だけでなく、武力紛争が発生した場合にも適用を予定している条文がある。平時・戦時を問わず、人権を尊重するための国際法として、国際人権法と国際人道法は補完的な関係となっている。

 次回に続く。

増税デフレの愚を繰り返すな~田村秀男氏

2015-11-20 06:41:50 | 経済
 産経新聞編集委員の田村秀男氏は、反骨のエコノミストである。政府に対しても、財界に対しても、主流の経済学者に対しても、遠慮なく自説を主張している。
 さて、田村氏は産経新聞27年11月1日付に「増税デフレの愚 繰り返すな」と題した記事を書いた。ここでも田村氏の主張は明確である。
 田村氏は、安倍政権が行った消費税率8%への増税に反対だった。私も同様である。増税は、アベノミクスの足を引っ張っている。平成29年4月には10%への引き上げが予定されており、それを前提とした軽減税率導入の論議が行われている。これについて、田村氏は言う「生活必需品の一部税率を据え置こうと、増税が引き起こす国民経済への災厄は甚大なことだ。9年度の消費税増税は慢性デフレを引き起こし、26年度増税はアベノミクス効果を台無しにした。消費税率再引き上げという矢は安倍晋三首相が掲げる国内総生産(GDP)600兆円の的をぶち壊しかねない」と。
 日本経済の動向は、中国経済の動向と深く関係する。IMFは11月30日の理事会で人民元を国際通貨に認定すると見られるが、田村氏は、人民元は国際通貨となる資格がないとし、IMFが人民元をSDRを構成する通貨に認定することに反対している。この主張が重要なのは、中国にとってAIIBの設立と人民元の国際通貨化は一体の政策であることを看破しているからである。
 田村氏は言う。「このまま元が国際通貨に仲間入りすれば、アジアでは元が貿易や投融資でドルと並ぶ標準的な決済通貨になり、円は排除されよう。元欲しさに、日本の産業界や金融界は北京詣でに腐心せざるをえなくなり、対中外交の手足を縛るようになるだろう。北京は、『SDR通貨』元を発行すれば、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)はドルに頼らなくても元建てで融資できるようになる。中国の軍事部門は外貨準備を取り崩さなくても『国際通貨元』によって戦略物資や先端技術の調達が可能になる」と。
 田村氏の主張は、常にデータの分析に基づく。上記の記事では、わが国の企業・金融機関の対外投資、内部留保と日銀資金の相関をグラフにしている。そしてそのグラフの分析から次のように田村氏は言う。「安倍首相が掲げた名目GDP600兆円の達成は、カネの流れさえ変えれば数年のうちにでも可能とも読み取れる。アベノミクスは資金面で十分すぎるほどの余剰を生んだ。しかし、増税と緊縮財政という最悪の政策をとったために、成果を押しつぶしてしまった。対外投資増加分のうち100兆円が国内投資に回れば、投資額をはるかに上回るGDPの拡大が見込まれる。あるいは、内部留保の増加分がまるまる国内の賃上げや設備投資に回れば同様だ」と。
 ここで100兆円の国内投資というのは、田村氏が26年2月23日の記事で、アベノミクスの三本の矢を統合する「大胆なデザイン」が必要だとし、次のように提言したことと関係する。すなわち「日銀が創出する資金のうち100兆円を国土強靱化のための基金とし、インフラ整備に投入すればよい。強靱化目的の建設国債を発行し、民間金融機関経由で日銀が買い上げれば、いわゆる『日銀による赤字国債引き受け』にならずに、財源はただちに確保できる」と。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/406ef1ccec34b9815767e04b19409c8c
 以下は、田村氏の記事の全文。

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●産経新聞 平成27年11月1日

http://www.sankei.com/economy/news/151101/ecn1511010002-n1.html
2015.11.1 11:00更新
【日曜経済講座】
軽減税率論議の落とし穴 増税デフレの愚を繰り返すな 編集委員・田村秀男

 与党内では、平成29年4月の消費税率10%引き上げに向けて、軽減税率導入論議がたけなわだが、肝心な点を忘れていないか。生活必需品の一部税率を据え置こうと、増税が引き起こす国民経済への災厄は甚大なことだ。
 9年度の消費税増税は慢性デフレを引き起こし、26年度増税はアベノミクス効果を台無しにした。消費税率再引き上げという矢は安倍晋三首相が掲げる国内総生産(GDP)600兆円の的をぶち壊しかねない。
 国内では財務省主導で緊縮財政路線がまかり通る。疑義をはさんだのは、米国の財務省である。先月発表の外国為替に関する議会報告書で、消費税増税による日本の景気減速を取り上げ、財政緊縮にこだわるとデフレに舞い戻るのではないかと警告した。米国の国益思考の表れだろうが、日本の指導層はデフレと緊縮財政をグローバル経済の中での日本の国益と重ね合わせてみればよい。
 国際通貨基金(IMF)理事会は11月下旬、人民元の国際準備通貨単位である特別引き出し権(SDR)構成通貨認定について、投票権シェア70%以上の多数で承認する情勢のようだ。上海株式市場など金融市場の統制など、元はどうみてもSDRの条件である「自由利用可能通貨」を満たさない。ところが、英独仏など欧州は早々と支持表明した。金融界や産業界が元関連金融で得られる利益を重視したからで、その点では米国も同じで支持に回りかねない。
 このまま元が国際通貨に仲間入りすれば、アジアでは元が貿易や投融資でドルと並ぶ標準的な決済通貨になり、円は排除されよう。元欲しさに、日本の産業界や金融界は北京詣でに腐心せざるをえなくなり、対中外交の手足を縛るようになるだろう。北京は、「SDR通貨」元を発行すれば、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)はドルに頼らなくても元建てで融資できるようになる。
 中国の軍事部門は外貨準備を取り崩さなくても「国際通貨元」によって戦略物資や先端技術の調達が可能になる。米海軍がしばらくの間、南シナ海を遊弋(ゆうよく)しようとも、中国はSDR通貨元という軍資金を永続的に活用できるのである。日本がデフレを先延ばしするゆとりはない。
 日本の対米協調路線はデフレを容認する財政・金融政策で支えられてきた。
 9年度消費税増税が引き起こした内需減退で貯蓄は国内で投資されず、米国を中心とするグローバル金融市場に向かう。国内経済は慢性デフレとなり、余剰資金はますます海外に出る。世界最大の債権国日本と世界最大の債務国米国という組み合わせは同盟関係にふさわしいように見えるが、実は資産国が貧しくなり、債務国が豊かになるという、倒錯コンビだ。
 24年末に発足した第2次安倍政権は金融の異次元緩和を柱とするアベノミクスを打ち出し、脱デフレを目指してきた。その「成果」を端的に示すのがグラフである。



 24年末と27年6月末を比較すると、日銀は円資金発行量を181兆円増やし、円安・株高を演出した。企業と金融機関は収益を順調に拡大したが、内部留保となる利益剰余金は80兆円増えた。
 さらに目覚ましいのは対外資産の増加250兆円である。利益剰余金と対外資産は24年末までの3年間でそれぞれ14兆円、90兆円増加したのだが、アベノミクスによってその増勢が加速したわけで、余剰資金を米国など海外に回すという従来モデルが一層強化されている。消費税増税の衝撃で経済成長率がマイナスに落ち込んだ26年度、さらにことし前半とデフレ圧力の再燃は、民間資金の対外流出を促進する要因だろう。
 翻って、安倍首相が掲げた名目GDP600兆円の達成は、カネの流れさえ変えれば数年のうちにでも可能とも読み取れる。アベノミクスは資金面で十分すぎるほどの余剰を生んだ。しかし、増税と緊縮財政という最悪の政策をとったために、成果を押しつぶしてしまった。
 対外投資増加分のうち100兆円が国内投資に回れば、投資額をはるかに上回るGDPの拡大が見込まれる。あるいは、内部留保の増加分がまるまる国内の賃上げや設備投資に回れば同様だ。
 民間は内需が冷えると見込む限り、国内雇用や投資には踏み込まない。予定通りの消費税率引き上げに踏み切るなら、全品目を軽減税率とし、GDP600兆円を達成してから軽減対象品目を見直せばよい。内部留保に課税して、勤労者世代に回せばよい。要は実行プログラムだ。
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 田村氏の主張は、積極財政論である。デフレ状態におけるその政策の有効性は、下記の拙稿に書いた経済学者が理論的に明らかにしている。

関連掲示
・拙稿「日本経済復活のシナリオ~宍戸駿太郎氏1」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13h.htm
・拙稿「経世済民のエコノミスト~菊池英博氏」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13i-2.htm
・拙稿「『救国の秘策』がある!~丹羽春喜氏1」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13j.htm