ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

明治天皇2~神への誓い、民への思い

2012-07-31 08:47:34 | 皇室
 明治維新において、政治の御一新に当たって、明治天皇が大方針を打ち出したものが、五箇条の御誓文です。御誓文は、その言葉のとおり、天皇が神に誓いを立て、それを国民に発表したものでした。

一、広く会議を興し、万機公論に決すべし。
一、上下(しょうか)心を一にして、盛んに経綸を行ふべし。
一、官武一途(いっと)庶民に至るまで、各々其の志を遂げ、人心をして倦(う)まざらしめむことを要す。
一、旧来の陋習を破り、天地の公道に基くべし。
一、智識を世界に求め、大いに皇基を振起すべし

 大意は、次の通りです。

一、広く人材を集めて会議体を設け、重要政務はすべて衆議公論によって決定せよ。
一、身分の上下を問わず、心を一つにして積極的に国策を遂行せよ。
一、朝臣武家の区別なく、さらには庶民のすべてにわたって、各自の志を達成できるようにはからい、人々を失意の状態に追いやらぬことが肝要である。
一、これまでのような、かたくなな習慣を打破して、普遍性のある道理に基いて進め。
一、知識を世界に求めて、天皇の大業を大いに振興せよ

 見逃してはならないのは、これに続く明治天皇の言葉です。
 「我国未曾有の変革を為(なさ)んとし、朕躬(み)を以て衆に先じ、天地神明に誓ひ、大(おおい)に斯(この)国是を定め、万民保全の道を立(たて)んとす。衆亦此(この)旨趣(ししゅ)に基き協心努力せよ」
 すなわち、「わが国に前例のない変革を行おうとするにあたり、私は自ら国民の先頭に立って、天地の神々に誓い、重大な決意をもって国政の基本条項を定め、国民生活を安定させる大道を確立しようと思う。国民もまたこの趣旨に基いて心を合わせて努力せよ」
 ここには、天皇が自ら先頭に立って国民とともに新しい国づくりをしていこうという決意が、打ち出されています。こうした決意のもとに、天皇は神に向かって五つの誓いを立て、それを国民に明らかにしたのです。率先垂範、有言実行の精神が、そこに溢れています。
 これは単なる官僚による作文ではありません。天皇が自らの思いを国民に伝えようとしたものでした。そのことを裏付けるものが、五箇条の御誓文が発表された、明治元年(1868)3月14日に出された御宸翰(ごしんかん)です。宸翰とは天皇直筆の文書です。そこに明治天皇は直筆で次のような意味のことを記しています。
 「今回の御一新にあたり、国民の中で一人でもその所を得ない者がいれば、それはすべて私の責任である。今日からは自らが身を挺し、心志を苦しめ,困難の真っ先に立ち、歴代の天皇の事績を踏まえて治績に勤める。そうしてこそ、はじめて天職を奉じて億兆の君である地位にそむかないものとなる。自分はそのように行う」と。
 すべての国民が「所を得る」ような状態をめざし、全責任を担う。天皇の決意は、崇高です。
 また、御宸翰の文章の先の方には、次のように記されています。
 「朕いたづらに九重のうちに安居し…百年の憂ひを忘るるときは、つひに各国の陵侮(あなどり)を受け、上は烈聖を恥しめ奉り、下は億兆を苦しめんことを恐る」と。
 すなわち、「天皇である自分が宮殿で安逸に過ごし、…国家百年の憂いを忘れるならば、わが国は外国の侮りを受け、歴代天皇の事績を汚し、国民を困苦に陥らせることになってしまう」。
 明治天皇は、こうした事態に至らぬよう、国家の元首として、最高指導者として、自らを律し、国家の独立と発展、国民生活の安寧を実現するために尽力したのでした。

 五箇条の御誓文と、同日に出された御宸翰には、明治天皇の真摯誠実な精神が現れています。ここに、私たちは「公」の体現者としての天皇の姿を見ることができるのです。そして、神武天皇以来、国民を「おおみたから」と呼んで、大切にしてきたわが国の皇室の伝統が、ここに生きているのです。

 次回に続く。

明治天皇1~英明無私の指導者

2012-07-30 09:45:01 | 皇室
 平成24年7月30日は、明治天皇が崩御されて百年となります。10年ほど前の旧稿ではありますが再掲し、明治天皇の遺徳を称えたいと思います。



 ペリーの黒船が来航した年、明治天皇は1歳でした。当時、白人諸国は、競って東洋に植民地を求めて進出し、一歩誤れば、わが国はたちまち欧米列強に征服支配されるおそれがありました。しかし、260年にわたる徳川幕藩体制は、もはや対外的な対応力を失い、国中が開国か鎖国か、朝廷か幕府かで激動していました。こうした情勢の中で、尊皇攘夷の中心となっていた父・孝明天皇が崩御し、少年・明治天皇は僅か16歳で、皇位を継ぐことになったのです。慶応3年(1867)1月のことでした。

 天皇は背が高く、色浅黒く、骨格たくましく、剛毅果断の性格で進取の気象に満ちていました。この若き天皇を中心として、時代は大きく転換してゆきました。慶応3年10月、徳川慶喜は大政奉還を行い、政権は700年ぶりに朝廷に返されました。これを受けて、明治天皇は、同年12月、王政復古の大号令を発しました。そして、翌年の明治元年(1868)3月、天皇は、五箇条の御誓文をもって、施政の大方針を示しました。
 その後のわが国の発展はめざましく、翌2年版籍奉還、4年廃藩置県、5年学制頒布、鉄道の開通、太陽暦の採用などが進められました。さらに、明治22年、明治天皇は大日本帝国憲法を発布、翌23年には帝国議会を開設し、また教育勅語を下賜しました。
 こうしてわが国は、明治天皇の下、僅か半世紀の間に、アジアで初めての近代化に成功し、文明開化、富国強兵、殖産興業、教育の普及、文化の向上など、欧米に伍した近代国家として躍進していったのです。

 明治天皇は6度にわたって地方御巡幸をしました。まだ交通手段が発達していない時代ですから、馬車や船による旅行は、身体的に大きな負担だったことでしょう。しかし、天皇は自分の目で国内各地の様子を見、また国民に接し、直接世情を知りたいという強い希望をもっていたのです。御巡幸の旅は、2ヶ月の長期に及ぶこともありました。今日も各地に明治天皇が訪問したという記念碑が建てられています。
 その一方、天皇は避暑避寒などは殆どしなかったそうです。記録に残っているのは、わずかに東京・小金井に遠乗りして桜を賞でたとか、また多摩の丘陵の兎狩り、清流での鮎漁ぐらいと伝えられます。我が身をいとうことなく、常に国家国民のために尽くす指導者としての天皇の姿がうかがわれます。

 明治時代の最大の危機は、日清・日露戦争でした。これらは、新興日本の国運を賭けた戦いでした。明治天皇は、その間、常に国民の先頭に立ち、国利民福のためひたすら尽力しました。そして出征兵士と苦労を共にするという考えから、炎暑の最中でも冬の軍服を着用しておられたという逸話があります。とりわけ日露戦争の際は、天皇は非常な心労を続け、それがもとで健康を害し、明治45年7月30日、61歳で崩御したのです。その御代は、ひたすらに「公」のために尽くし、「私」を省みない天皇の生涯でした。

 幕末から明治の時代は、欧米列強から独立を守るため、わが国が急速に変革を成し遂げねばならなかった時代でした。この変革に成功したのは、明治天皇を中心に、国民が君民一体となって懸命の努力をした結果でした。危機と転換の時代に、わが国が類まれな英明無私の君主をもったことは、大きな幸いだったのです。

 次回に続く。

「橋下・維新八策」をアップ

2012-07-29 08:33:07 | 橋下
 7月17日から27日にかけて連載した維新八策に関する拙稿を編集して、マイサイトに掲載しました。
 国政に進出するには欠点多く、準備不十分な橋下「大阪維新の会」ですが、次の衆院選では関西を中心に相当数の議席を取り、国政に影響を与えそうな勢いです。有権者は、ムードに流されずに、彼らの理念・政策をよく検討し、国政を委ねられるかどうか見極めることが必要です。
 拙稿を通してお読みになりたい方は、下記へどうぞ。

■橋下「維新八策」は改訂版も未だ「?」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13q.htm

 目次は次の通りです。

はじめに
第1章 「維新八策」改訂版はどうか
(1)「維新八策」改訂版の全文
(2)骨子版の欠点は大きく改善されず
(3)8つの方策はどう変化したか
第2章 「維新八策」各方策の検討
(1)統治機構の作り直し
(2)財政・行政改革
(3)公務員制度改革
(4)教育改革
(5)社会保障制度改革
(6)経済政策・雇用政策・税制
(7)外交・防衛
(8)憲法改正
結びに~未だ国政を担うには不十分


人権4~家族を重視すべき

2012-07-28 08:40:24 | 人権
●人間をとらえるには家族を重視すべき
 
 人間とは何かという問いから、家族の重要性を述べた。人類学の研究によれば、家族における親子・夫婦・兄弟等の人間関係が、権利のあり方の基本ともなっていることが明らかになる。この点に関して、家族人類学が様々な知見をもらしてくれる。人類学・人口学・歴史学等に通じた巨人エマニュエル・トッドは、家族型には平等主義核家族、絶対核家族、直系家族、共同体家族の四つがあるとする。そして、トッドは家族類型論によって、社会・文化・歴史を分析している。その所論は、権利について世界的・人類的な視野で考察するうえで、非常に参考になるものである。トッドについて、詳しくは拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」を参照願いたい。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion09i.htm
 次にトッドによる家族類型論の概要を記す。

①平等主義核家族
 核家族は、夫婦と未婚の子どもで構成される家族である。核家族では、子供が結婚すると独立し、親の家を離れる。そのため、父と子の関係は自由主義的である。ここにいう自由主義とは、自由を主な価値とする考え方を言う。これに対し、平等を主な価値とする考え方を平等主義と言う。
 核家族には、平等主義核家族と絶対核家族がある。平等主義核家族は、遺産相続において兄弟間の平等を厳密に守ろうとするため、兄弟間の関係は平等主義的である。この型が生み出す価値観は、自由と平等である。この家族型の集団で育った人間は、兄弟間の平等から、諸国民や万人の平等を信じる傾向がある。この傾向をトッドは普遍主義という。通婚制度、つまり結婚の仕方は族外婚といって、配偶者を自分の所属する集団の外から得る制度が取られている。
 平等主義核家族は、ヨーロッパでは、フランスのパリ盆地を中心とする北フランスと地中海海岸部、北部イタリア、南イタリアとシチリア、イベリア半島の中部および南部に分布する。西欧以外では、ポーランド、ルーマニア、ギリシャ、エチオピアに見られ、スペイン・ポルトガルの植民地だったラテン・アメリカではほぼ全域に分布する。

②絶対核家族
 絶対核家族は、父子関係が自由主義的である点は、平等主義核家族と同様である。違いは、遺産相続において、特に親が自由に遺産の分配を決定できる遺言の慣行があり、兄弟間の平等に無関心な点である。この型が生み出す価値観は自由である。自由のみで平等には無関心ゆえ、諸国民や人間の間の差異を信じる傾向がある。この傾向をトッドは差異主義という。通婚制度は族外婚である。
 絶対核家族は、世界中で西ヨーロッパにしか見られない特異な型だった。大ブリテン島の大部分(イングランド、ウェールズ)、オランダの主要部、デンマーク、ノルウェー南部、それにフランスのブルターニュ地方に分布するのみ。植民によって、アメリカ合衆国とカナダの大部分にも分布を広げている。

③直系家族
 直系家族は、子供のうち一人のみを跡取りとし、結婚後も親の家に同居させ、遺産を相続させる型である。その一人は年長の男子が多い。他の子供は遺産相続から排除され、成年に達すると家を出なければならない。父子関係は権威主義的であり、兄弟関係は不平等主義的である。この型が生み出す価値観は、権威と不平等である。絶対核家族より激しい差異主義を生み出す傾向がある。直系家族は、権威主義的かつ集団主義的である。通婚制度は、族外婚と族内婚の二つの型がある。族内婚は、配偶者を自己の所属する集団の内部で得る制度である。
 直系家族は、ヨーロッパでは広く見られる。ドイツ、オーストリア、ドイツ語圏スイス、ベルギー、チェコ、スウェーデン・ノルウェーの大部分、イギリスのウェールズ、スコットランドの西半分、アイルランド、イベリア半島北部、フランス南部のオック語地方、及びフランスが植民活動をしたカナダのケベック地方に分布する。ヨーロッパ以外では、日本と朝鮮、そしてユダヤが直系家族である。

④共同体家族
 共同体家族は、子供が遺産相続において平等に扱われ、成人・結婚後も子供たちが親の家に住み続ける型である。父子関係は権威主義的で、兄弟関係は平等主義的である。この型が生み出す価値観は、権威と平等である。
 共同体家族は、ロシア、シナ、モンゴル、北インド、ベトナムなど、ユーラシア大陸の大半に分布する。ヨーロッパでは、フィンランド、ハンガリー、ユーゴスラヴィア、ブルガリアに見られ、西欧ではイタリアのトスカナ地方およびその周辺のみである。他にキューバにも分布する。
 共同体家族の権威と平等という価値観は、共産主義の一党独裁と社会的平等という価値観と合致する。共産主義は、もともと権威と平等の価値観を持つ社会にのみ浸透し、定着した。価値観の違う社会では、定着しなかった。トッドの発見は、家族型と社会思想との相関性を鮮やかに浮かび上がらせた画期的な業績である。

 以上が家族の四つの類型である。こうした家族形態の違いが、各社会の価値観や制度にまで深く影響していることを、トッドは明らかにした。家族における自由と権威、平等と不平等、普遍主義と差異主義という価値観が、社会における法・政治・哲学・宗教・道徳などの基本的な考え方に影響する。自由主義、共産主義、個人主義、集団主義、社会契約論、家族国家論等の思想も、その社会で支配的な家族形態が生み出す価値観が土台にある。家族という単位に注目すると、家族における権利のあり方が、社会における権利のあり方に深く影響を与えていることが明らかになってくるのである。
 私は、ここまでに書いたことを抜きにして、人間とその権利について、真に有効な考察はできないと考えている。哲学、倫理学、法学、政治学等は、人類学の研究成果を積極的に取り入れたうえで、人権について議論すべきと思う。

 次回に続く。

■追記

本項を含む拙稿「人権ーーその起源と目標」は、第1部を下記に掲示しています。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion03i.htm

橋下・維新八策は未だ「?」10

2012-07-27 10:14:26 | 橋下
 最終回。

●各方策の検討(続き)

(8)憲法改正(続き)

 次に、憲法改正に関し、維新八策は改訂版でも、非常事態規定について、何も述べていない。これも大きな欠陥である。私は、6年前に新憲法案を作って、マイサイトに公開している。その私案に非常事態条項を設け、折に触れて非常事態規定の必要性を説いてきた。特に独創的なことではなく、明治憲法には規定があり、世界各国の憲法は非常事態の対処を規定している。独立主権国家であれば、不可欠の規定である。昨年東日本大震災が発生し、原発事故が深刻化するなか、私は、この国家非常事態において、早急に憲法に非常事態条項を定め、対応を強化できるように訴えてきた。
 だが、橋下氏は、日本人が大地震・大津波・原発事故という手痛い経験をした後であるのに、憲法改正案に非常事態条項の新設を挙げていない。この点を見て、私は、橋下氏は、日本国民1億2千万を率いる真の指導者に成り得る人材なのか、大きな疑念を持っている。今回の改訂版を読んで、一層疑念が深まった。
 橋下氏は、教育・財政・年金・社会保障・公務員制度等については、改革のできる能力を持っているかもしれない。しかし、一国の総理大臣たるべき人物は、他国からの侵攻、内乱、大規模自然災害等の国家国民の最大危機において、敢然と国民を指導し、国家機関を指揮できなければならない。
 橋下氏は、依然として安全保障と非常事態に関して、国家最高指導者に必要な気構えを持っていないように私には見える。近年の中国の軍拡や北朝鮮の核開発といった東アジアの厳しい国際環境、そして今後も巨大地震が首都や東海・東南海・南海が発生する可能性――こういう環境と時代を生きている日本人としては、橋下氏はまだ状況認識が浅く、感覚が鈍いと思う。意識と覚悟が変われば、国防の義務と非常事態規定は憲法改正における極めて重要なポイントであることを理解できるようになるだろう。

●結びに

 私は、拙稿「橋下徹は国政を担い得る政治家か」で、題名通りの問いを立てた。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13p.htm
 このたびの維新八策改訂版を読んで、現時点での判断を述べるならば、橋下徹氏は、未だ国政を担い得る政治家ではない。また「大阪維新の会」は、未だ国政を担い得る準備が不十分である。
 いま橋下氏がなすべきことは、視聴率稼ぎのマスメディアに乗せられることなく、一部国民の肥大する期待に浮つくことなく、まず大阪で府・市一体の改革に打ち込み、じっくり実績を上げることである。大阪を変えるのは、なま易しい課題ではないはずである。誰もが認めるだけの結果を出してから、国政に歩を進めるべきだろう。大阪改革をやる間に、歴史観、国家像、憲法、外交・安全保障、経済等につき、深く勉強し、国政の構想を練ることができるだろう。何より国政を目指すなら、これまでの自分の言動を反省し、時間をかけて徳を磨くことである。この点に、橋下氏が政治家として飛躍できるかどうかが大きくかかっていると思う。
 「大阪維新の会」の今後は、橋下氏次第である。私は、維新八策改訂版の検討を通じて、橋下氏は現在の状態に止まり、また維新八策が大きな欠陥を是正できなければ、国政を担い得る政党には飛躍できないと思う。仮に現状打破を期待する大衆の支持によって、国政選挙で議席を獲得し、日本の政治のキャスティングボードを握ることになっても、わが国をふさわしい方向に進めることはできないだろう。(了)

橋下・維新八策は未だ「?」9

2012-07-26 12:02:40 | 橋下
●各方策の検討(続き)

(8)憲法改正

 維新八策は、憲法改正を第8の方策としている。(1)~(7)までの方策を本当に実行しようとするなら、戦後のわが国のあり方に立ち至り、国家の基本法である憲法から改正しなければならないと思い至るはずである。だが、維新八策は、方策の最後に憲法改正を挙げ、ごく簡単に項目を並べるだけである。
 具体的には骨子版では4項目しかなく、改訂版では5項目になっただけである。項目間は次のように変っている。

◆骨子版
 便宜上、アルファベットを振る。

A 憲法改正要件(96条)を3分の2から2分の1に緩和する
B 首相公選制
C 参議院の廃止をも視野に入れた抜本的改革
D 衆議院の優越性の強化

◆改訂版
 便宜上、番号を振る。

1 憲法改正発議要件(96条)を3分の2から2分の1に
2 首相公選制(再掲)
3 首相公選制と親和性のある議院制=参院の廃止も視野に入れた抜本的改革・衆院の優位性の強化(再掲)
4 地方の条例制定権の自立(上書き権)(「基本法」の範囲内で条例制定)。憲法94条の改正
5 憲法9条を変えるか否かの国民投票

 「大阪維新の会」が、維新八策の骨子を2月13日に発表した後、独立回復50年となった4月28日を中心に、自民党は憲法改正案を発表し、みんなの党、たちあがれ日本は憲法改正大綱を発表した。これに比し、「大阪維新の会」は、骨子発表以降約5か月を経過していながら、憲法改正については、ほとんど内容が前進していない。骨子版から改訂版への変化は、つぎのようになっている。

 A→1、B→2、C・D→3
 4、5は新設

 道州制の導入も憲法改正を要する政策だが、(1)「統治機構の作り直し」には挙げてあるものの、憲法改正の課題には書いていない。その意図はわからないが、最大の問題はそもそも何のために憲法改正をするのかが説かれていないことである。維新八策の「目的」は「決定」「責任」「自立」をキーワードとしていたから、私が慮るに、統治機構を作り直すために憲法を改正することになるだろうが、(8)には何も書かれていない。ただ、5項目が列記されているだけである。

 憲法改正に関し、特に重要なのは日本の安全保障をどう確保するかである。維新八策は、骨子版では肝心の憲法9条に触れていなかった。骨子版の発表後、憲法第9条をどう考えるのか、橋下氏にマスメディアが質問を向けた。橋下氏は2月24日、ツイッターで、憲法9条改正の是非について、意見を明らかにした。そして、9条について「決着をつけない限り、国家安全保障についての政策議論をしても何も決まらない」と指摘。9条改正の是非について2年間と期間を区切って徹底した国民的議論を行い、国民投票で方針を定めることを提案した。それが、改訂版では、「憲法9条を変えるか否かの国民投票」という項目となったわけである。
 橋下氏は、被災地のがれき処理の受け入れが各地で進まない現状について、ツイッターで「すべては憲法9条が原因だと思っている」と述べた。3月5日、発言の真意を報道陣に問われた橋下氏は、「平穏な生活を維持しようと思えば不断の努力が必要で、国民自身が相当な汗をかかないといけない。それを憲法9条はすっかり忘れさせる条文だ」と述べた。「9条がなかった時代には、皆が家族のため他人のために汗をかき、場合によっては命の危険があっても負担することをやっていた」「憲法9条は、自分が嫌なことはしないという価値観だ。自己犠牲しないのなら、僕は別の国に住もうかと思う」と語った。その一方、「平和を崩すことには絶対反対で、9条を変えて戦争ができるようになんて思ってない。9条の価値観が良いか悪いかを、国民の皆さんに判断してほしい」とも述べた。こうした一連の発言を見ると、橋下氏は憲法第9条の弊害を強く意識し、戦後の日本人が社会の中で進んで自分の役目を果たそうという姿勢や、互いに助け合い、支え合う生き方を失ってきているのは、第9条が原因だと考えているようである。
 だが、そこまで強く意識しているのであれば、国民に憲法第9条の改正を訴え、どのような条文としたいのか、どのように「日本の主権と領土を自力で守る防衛力」を持って国防を行うようにしたいのか、具体的に提示すべきだろう。それをせずに、橋下氏及び「大阪維新の会」は、具体的な政策を示すことなく、改訂版で「憲法9条を変えるか否かの国民投票」という項目を挙げた。これは、政治家としてなすべきことをせずに、国民に判断を委ねるという無責任は姿勢である。
 政治家がなすべきことは、国民に話し合いと判断を求める前に、自分はこうしたい、それはこういう理由・目的だからだ、と率直に語ることだろう。橋下氏は、それができていない。自分の国を自ら守るという国防の義務を訴えていないからである。この自主独立国家の根本的なあり方を取り戻さないと、日本は本当にはよくならない。そのようにはっきり言わないと、国民への呼び掛けにはならない。ただ「憲法9条を変えるか否かの国民投票」を提案するというのは、国政を担う政治家の姿勢ではない。
 橋下氏がそういう呼び掛けのできる指導者になるには、まず「自己犠牲しないのなら、僕は別の国に住もうかと思う」という自分の言葉を撤回することが必要である。他人が自己犠牲しないなら、自分が「別の国」に住もうと考えるのは、本当の愛国心ではない。他の誰も自己犠牲しなくとも、我一人でも国を守るという決意こそ、同胞の心を動かす。橋下氏は先の言葉を吐いたことを恥じ、まずそれ撤回したうえで、国防に関する考えを明らかにすべきである。

 次回が最終回。

橋下・維新八策は未だ「?」8

2012-07-25 09:24:16 | 橋下
●各方策の検討(続き)

(7)外交・防衛

 (1)~(6)までは内政に関するもので、(7)は外交・防衛である。(7)は全体の1割も分量がない。項目の書き方は、「理念、実現のための大きな枠組み」と「政策例」となっており、「基本方針」がない。「理念」として掲げていることは、「世界の平和と繁栄に貢献する外交政策」「日本の主権と領土を自力で守る防衛力と政策の整備」「日米同盟を基軸とし、自由と民主主義を守る国々との連携を強化」「日本の生存に必要な資源を国際協調の下に確保」の4つ。外交の素人でも指折り上げられそうなものである。
 ただし、これでも橋下氏及び「大阪維新の会」としては、大きな前進である。というのは、維新八策の骨子版よりは良くなっているからである。骨子版では、最初に「自主独立の軍事力を持たない限り日米同盟を基軸」という項目があった。これでは「自主独立の軍事力」を持とうという考えか、そうでないのかが、分からない。橋下氏らは、こういう国家根幹をなす問題で、考えがまとまっていなかったのだろう。それが改訂版では「日本の主権と領土を自力で守る防衛力と政策の整備」と改まった。大きな前進である。大きな前進とはいっても、外交の素人でも思いつきそうなレベルである。そして、「日本の主権と領土を自力で守る防衛力」を持つために、どのようにするのかが、具体的でない。(8)の「憲法改正」に「憲法9条を変えるか否かの国民投票」という項目があり、どうするか国民に判断してもらおうという姿勢だからである。
 政策例の方は、骨子版の内容とかなり変化した。骨子版では、日米同盟を基軸とすることに「加えてオーストラリアとの関係強化」とあった。また「日米豪で太平洋を守る=日米豪での戦略的軍事再配置」となっていた。改訂版では、理念・枠組みで「日米同盟を基軸とし、自由と民主主義を守る国々との連携を強化」と挙げ、政策例で「豪州、韓国との関係強化」としている。韓国が加わったことと、「戦略的軍事再配置」が無くなったことが目につく。骨子版には「日米地位協定の改定=対等」があったが、改訂版ではなくなった。骨子版では「国際標準の国際貢献の推進」とあったのが、改訂版では「国連PKOなどの国際平和活動への参加を強化」が政策例に盛られ、骨子版にあった「国際貢献する際の必要最低限の防衛措置 」がなくなった。もともと思い付き的に並べたものだったのが、また思い付き的に変ったような印象を私は持つ。また、集団的自衛権の行使に踏み込んでいない。
 改訂版では、上記の他にも政策例が掲げられ、中国・ロシアとの戦略的互恵関係の強化、北方領土交渉、ODA、外交安全保障会議等が並ぶ。だが、ほとんど内容の無かった骨子版に、それまで意識もしていなかった外交・安全保障の政策課題を意識するようになって加えたような感じである。日本国民は、平成21年9月の政権交代で、外交・安全保障に方針も経験もない政党が国政を担うと、いかにまずいことになるかを経験した。今の「大阪維新の会」に国政を任せるなら、民主党政権の再現か、それ以下になる可能性が高い。
 ただ一つ、維新八策(7)で私が評価できるのは、「外国人への土地売却規制、その他安全保障上の視点からの外国人規制」を挙げたことである。現行法では外国人による土地所有に事実上、何の制約もない。大正14(1925)年制定の外国人土地法は、国防上重要な土地の取得制限を定めているが、戦後、規制対象を指定した政令が廃止され、実効性を失っている。外国人土地法の改正が必要である。一定面積以上の森林取得には届け出義務や罰則強化を盛り込んだ森林法の改正と、地下水を公共の資源ととらえて揚水可能な地域をあらかじめ指定し、水源を守る地下水利用法案の制定も急がれる。また、外資による取引を規制する外為法も、不動産業の合併・買収について事後届を義務づけているだけであり、見直しが必要である。
 なお、維新八策改訂版は、(6)の雇用政策で、「グローバル人材の育成」「外国人人材」の活用を挙げているが、日本の移民問題についてどのように対応するか、全く触れていない。この問題は中長期的な問題と思われがちだが、中国人移民労働者の急増によって、既に深刻な社会問題となっている。「安全保障上の視点からの外国人規制」を政策例に掲げるのであれば、中国人への規制を説かねばならないところである。

 次回に続く。

橋下・維新八策は未だ「?」7

2012-07-24 09:37:27 | 橋下
●各方策の検討(続き)

(6)経済政策・雇用政策・税制

 (6)は、維新八策の中で最も分量が多い。経済政策、雇用政策、税制の三つに分かれている。だが、それだけ、きちんと検討がされているかというとそうではない。理念と基本方針が分かれておらず、三つそれぞれが「理念、基本方針」を並べている。うち税制だけに、「政策例」を載せている。(6)についで分量の多い(5)は、年金、生活保護、医療保険・介護保険に「政策例」が載っていた。維新八策が、内政では税制、年金、生活保護、医療保険・介護保険に主に関心を向けたものであることが、ここに表れている。
 さて、経済政策には、新自由主義的な傾向が強く出ている。「理念、基本方針」に「競争力」という言葉が4回使われ、「自由貿易圏の拡大」「イノベーション促進のための徹底した規制改革」を掲げ、「TPP参加」を明記している。小泉=竹中構造改革を批判的せず、それを継承・徹底する姿勢である。私はこの根本的な姿勢に反対なので、部分的には「既得権益と闘う成長戦略」「付加価値創出による内需連関」「為替レートに左右されない産業構造」「所得収支、サービス収支の黒字化重視戦略」など賛成できる点はあるが、橋下氏らに日本の経済政策を委ねられない。
 エネルギー政策については、「新エネルギー政策を含めた成熟した先進国経済モデルの構築」「先進国をリードする脱原発依存体制の構築」と2項目あるが、脱原発依存でエネルギー政策をどうするのか、具体性がない。橋下氏は、関西電力大飯原発の再稼働に反対した。改訂版は「脱原発依存の構築」を掲げる一方、国内産業の育成も打ち出したが、電力が安定的に供給されなければ、産業も生活も行き詰まる。だが、橋下氏から具体策は出されていない。私は、将来的なビジョンとエネルギー戦略を持っていないためだろうと思う。
 雇用政策については、「徹底した就労支援と解雇規制の緩和を含む労働市場の流動化(衰退産業から成長産業への人材移動を支援)」という項目がある。前者は、労働者や学生・女性等の支援だろうが、後者の「解雇規制の緩和」はその一方で首切りをしやすくするという相反する内容となっている。衰退産業から成長産業への人材移動は重要だが、「解雇規制の緩和を含む」と敢えて書くところには賛成できない。
 税制については、「理念、基本方針」に「『簡素、公平、中立』から『簡素、公平、活力」の税制へ』と方向性を示し「超簡素な税制=フラットタックス化」を掲げている。フラット税制は、レーガン政権が行った新自由主義的な税制である。法人税と所得税を極端に低くし、一部の富裕層と株主や経営者の所得を最大にする政策だった。結果は当初の見込みに反して、大幅減税で税収が激減し、財政赤字が拡大した。橋下氏はそのことをよく理解しているのか疑問である。
 (6)には、消費税について書いていない。(1)に「消費税の地方税化と地方間財政調整制度」とあった。(6)では、経済成長戦略と消費増税の関係を書くべきと思うが、増税には何も触れていない。「大阪維新の会」が来る衆議院選挙に出るなら、消費増税に賛成か反対か、またその理由は何かを維新八策で国民に示すべきだろう。
 消費増税法案は、第18条に景気付帯条項を設けている。第1項で「消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施する」としている。具体的には、同項に、平成23年度から平成32年度までの10年間、平均で名目GDPの成長率3パーセント程度かつ実質GDPの成長率2パーセント程度を目指す経済成長政策を講ずること。また第2項に、成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分すること、としている。
 「富国強靭」を国策に掲げる藤井聡京都大学大学院教授は、景気付帯条項の規定を踏まえ、「増税するか否かは、遅くとも来年夏に誕生する新政権の判断に全て委ねられているのだ。そうである以上、日本国民は今、次の総選挙に向けて.....世間に流布された数々の虚事に惑溺されず、正しき認識に基づいて、ウソに塗まみれた邪説と真っ当な真説とを『見抜く』力を身につけねばならない。そしてその正しき認識に基づく世論を形づくり、真っ当な政権の誕生を期さねばならない」と主張している。
 この「真っ当な政権」を担うのは、民主党ではありえない。そして、消費増税で民主党と連携した現在のままの自民党でもあり得ない。私は、財務省の増税・財政規律路線の呪縛を解き、デフレ脱却と「富国強靭」を実現し得る積極的経済成長政策を推進できる政治家が政界の表面に躍り出ることを期待している。橋下氏には今のところ、私の期待に応える堅固な姿勢と明確な展望、具体的な政策がない。橋下氏と「大阪維新の会」の場合は、消費税を地方税化し、地方交付税を廃止するという全く異なった政策を掲げているわけだが、そうであれば、その立場から、消費増税法案に関して、維新八策の中で、具体的な見解と対案を国民に提示しなければならないだろう。

 次回に続く。

橋下・維新八策は未だ「?」6

2012-07-23 08:47:59 | 橋下
●各方策の検討(続き)

(5)社会保障制度改革

 社会保障制度改革は、理念に9項目も並べているが、それらよりも基本方針にある「自助、共助、公助の役割分担を明確化」がまず理念の第一に掲げられるべきだろう。また、理念の9項目は、理念らしきものと方針らしきものが混在している。他の方策にもこうした傾向があるが、(5)では特にそれが目立つ。
 まず理念の中に「真の弱者を徹底的に支援」とある。この「真の弱者」は日本国民に限り、外国籍の者を除外すべきである。それを明記しなければならない。非国民に対する生活保護や医療費無料化等を点検せずに、現状のまま「徹底的に支援」すれば、国も自治体も蝕まれるだけである。生活保護の基本方針に、「現物支給中心の生活保護費」「支給基準の見直し」「有期性(一定期間で再審査)」を挙げているのはよいと思う。ただし、受給資格と審査の厳格化が必要である。
 次に、理念に「負の所得税(努力に応じた所得)・ベーシックインカム(最低生活保障)的な考え方を導入」という項目がある。ベーシックインカムは、膨大な支出になる。本年(24年)3月4日、フジテレビの番組で橋下氏が述べたところでは、国民に一律月7万円を支給するという。セイフティネットというより、社会民主主義的な政策である。維新八策の基調となっている自立、競争、自己責任とは正反対の考え方であるし、過度の再配分は国民の依存心を強め、青年層の勤労意欲を削ぎ、生活の縮小を招き、デフレを悪化させるだろう。しかも、ベーシックインカムの実施には、107兆円もの予算がいる。歳入の税収が40兆円を切るなかで、どうやって原資を確保するのか。橋下氏は、先の番組でこの点を問われたが、明確な回答がなかった。その程度の案を、また維新八策に揚げている。選挙で票を集めるための悪しきバラマキ政策ではないか、と私は疑う。
 次に、年金については、「年金一元化、賦課方式から積み立て方式(+過去債務清算)に長期的に移行」と掲げている。橋下氏は国の年金制度を「ねずみ講そのもの」と批判し、現在の賦課方式から積み立て方式に変える必要性を強調してきた。賦課方式とは、現役世代が高齢者に仕送りをするような方式、積み立て方式は自分が払い込んだお金を老後に受け取る積み立てのような方式である。橋下氏は、一定の資産がある人には支給しない「掛け捨て型」の年金制度の導入も提案してきた。橋下氏が年金制度の改革を訴えるのは、少子高齢化が進むと、現行の制度は破綻する、また若者世代に不公平感が募っていくという二つが主な理由のようである。だが、これが現在の年金制度の正しい理解に基づくものかどうか、疑問である。
 平成20年(2008)5月、政府の社会保障国民会議が年金制度についてのシミュレーションを発表した。その結果、未納者がいくら増えても年金制度は破綻しないことが具体的数字で示された。破綻しない理由は、基礎年金の財源の半分に税金が入っているからである。橋下氏と「大阪維新の会」は、現行制度をどのように理解して、改革案を出しているのか、見解を明らかにしてほしい。
 経済評論家の細野真宏氏によると、以前は現役世代が多く、年金の保険料を払う世代が多かったため、現在約200兆円の年金積立金がある。今後は少子高齢化に対応するため、この年金積立金が年金の支払いに使われていく。賦課方式の場合、少子高齢化で現役世代は負担が増える一方、自分の受け取りは少なくなっていくと考えられがちだが、年金は現役世代の保険料だけから支払われているのではない。例えば基礎年金は、平成21年度(2009年度)からは年金の支払いの半分は税金から支払われている。年金積立金による分も含めて、個人の保険料負担は半分で済む。年金の財源は安定しており、根本的に制度を変える必要はない。国民年金は国民の4割が未納という誤解があるが、実際の未納者は公的年金加入者の全体の5%にも満たない。問題があるとすれば、国民年金を納めないでいる人たちが、将来無年金者になることである、と細野氏は見ている。
 いまから積立方式に変えることは、相当年数がかかるだろう。移行は技術的にも複雑になる。そのことも含めて制度設計のシミュレーションをしっかりやってから判断しないと、方式変更に本当にメリットがあるかどうかの判断はできないと思う。将来の無年金者の問題は、自己責任と弱者救済の兼ね合いになる。若年層の失業者や低所得者の増加が原因となっている部分は、雇用を創出し、所得を上昇させるデフレ脱却の経済成長政策を実施しないと、根本的な解決にならない。さまざまな年金制度改革案について、私は、改革と称して、企業が厚生年金の企業負担分を減らそうとすること、また年金制度を単純化しかつ個人積立型なり完全税方式になりに変えることで外資が日本企業の買収をしやすくすることを警戒する。
 医療保険・介護保険について気になるのは、「公的保険の範囲を見直し、混合診療を完全解禁」と掲げていること。混合診療は、アメリカの医薬業界がこれをもって日本市場に進出しようとしているものの一つである。橋下氏はTPP賛成を明言しているが、混合診療解禁を始め、TPPによるわが国の経済社会への負の影響を理解していない。それは郵政改革をどうするか、維新八策は全く触れていないこととも関係している。TPPは郵政民営化の延長にあり、その徹底でもある。郵政民営化の反省と総括なく、TPP賛成を説く橋下氏には、1980年代からの日米の経済と外交の歴史を再勉強してもらいたいものである。

 次回に続く。

橋下・維新八策は未だ「?」5

2012-07-22 08:50:23 | 橋下
●各方策の検討(続き)

(2)財政・行政改革

 「理念」として4項目、「実現のための大きな枠組み・基本方針」に13項目が掲載されている。全体として何をしたいのか主旨文がないので把握しにくいが、共通しているのは、理念としての「持続可能な小さな政府」、基本方針としての「大阪府・市方式の徹底した行財政改革」と整理できるだろう。
 「持続可能な小さな政府」の「持続可能な」は普通、経済成長と環境保全の両立に関して使われる語であり、この場合、何を意味するか不明である。私は、財政を維持できるという意味と推測する。「小さな政府」という発想は、新自由主義的である。わが国は、深刻なデフレに陥っており、デフレ脱却のためには、大規模な財政出動が必要である。国土強靭化など有意義な事業に公共投資を行い、経済成長を実現し、税収を増加させてこそ、財政の健全化ができる。橋下氏の財政改革策はデフレ脱却の経済政策になっていない。
 財政改革の基本方針のうち、「外郭団体、特別会計の徹底見直し」には賛成だが、「プライマリーバランス黒字化の目標設定」は、橋下氏が財政均衡主義に陥っていることを示している。この考え方を脱しないと、デフレは脱し得ない。
 行政改革については、理念に、国民のための行政改革という点がよく表現されていない。まずそれを書くべきで、「役人が普通のビジネス感覚で仕事ができる環境の実現」「簡素、効果的な国会制度、政府組織」「首相が年に100日は海外に行ける国会運営」だけでは、政府と役人のための改革のようである。その点を改めるならば、基本方針にはおおむね賛成できる。特にICT(情報通信技術)を駆使した選挙制度の導入は、是非実現したいものである。また、選挙期間中に候補者がホームページを更新できないとか、ブログやツイッター、フェイスブック等で候補者と有権者が対話できないとか、今の選挙制度はあまりに時代遅れである。

(3)公務員制度改革

 公務員制度改革は、(2)の行政改革の一環だと思う。ここでは、理念に、「省益のためでなく、国民全体のために働く行政組織」と書かれている。理念の「公務員を身分から職業へ」「倒産のリスクがない以上、人材流動化制度の強化」「厳しくとも公の仕事を望むなら公務員に」は賛成する。基本方針もおおむね賛成できる。特に「公務員労働組合の選挙活動の総点検」は大賛成である。

(4)教育改革

 教育改革は、理念に「自立する国家、自立する地域を担う個人を育てる」と掲げ、「自立」をキーワードにしている。国家の自立が、独立主権国家としての自立という意味なら、独立主権国家の国民としての自覚を持った国民を育成するという理念になる。だが、橋下氏の教育理念には、国家観を欠いている。学力・能力を中心とした人材育成に傾いている。
 理念のうち、「格差を世代間で固定化させないために、最高の教育を限りなく無償で提供する」とある中の「限りなく無償で」というのは、相当の財源がいる。「文部科学省を頂点とするピラミッド型教育行政から地方分権型教育行政へ」とあるが、国民教育では統一した国家観・歴史観・道徳観を教えるという背骨がなければ、いけない。基本方針にはおおむね賛成する。そのうち、「教育委員会制度の廃止論を含む抜本的改革」「初等・中等教育の学校を、校長を長とする普通の組織にする」「教職員労働組合の活動の総点検」には強く賛成する。

 ここまでのところ、私が思うに、維新八策には、個別的な政策については賛成できるものがあるが、本来、こういう文書で簡潔に示すべき、理念や大方針のレベルでは、何をめざし、どういう方向に進みたいのかが、よく練られていない。理念や大方針のほうに重点を置くなら、まず政党としての綱領を作り、それを打ち出したうえで、骨子となる方策を並べる方が良い。政策のほうに重点を置くなら、有権者にわかりやすく伝えるマニフェストにまで具体化した方が良い。維新八策は現段階では、そのどちらでもなく、中途半端なものとなっている。

 次回に続く。