ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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トランプ時代の始まり~暴走か変革か9

2016-12-22 08:53:31 | 国際関係
●世界的な潮流

 世界的潮流として、欧米を中心に、グローバリズムの進展に対して、ナショナリズムへの揺れ戻しが起っている。
 グローバリズムは、米国の主導で、1990年代のビル・クリントン政権、2000年代のブッシュ子政権、オバマ政権の民主・共和両党、三つの政権を通じて進展してきた。その進展は、資本の論理によって、近代国際社会の国家・国民の枠を外し、諸国の主権を制限・移譲するものである。その進展が急速であり、特に移民の流入が急激かつ多数であるので、諸国の国民から強い抵抗が出てきている。近代的な国家・国民・主権を維持・回復しようとするナショナリズムが復興し、急進的なグローバリズムに対する揺れ戻しが起っている。
 人類の共存共栄は、国家否定・国民軽視のグローバリスムでは、決して実現しない。ただ、ナショナリズムを元にした諸国・諸民族の協調によってのみ、共存共栄は可能である。それゆえ、いま広範に起こっている揺れ戻しは、進むべき方向に進路を是正する動きとなっている。
 これまでグローバリズムが顕著だったのは、ヨーロッパにおいてだった。第2次世界大戦後、ドイツ・フランスが提携し、ヨーロッパの統合が進められた。1951年に欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が生まれ、1957年に欧州経済共同体(EEC)が誕生。1992年のマーストリヒト条約で欧州連合(EU)の仕組みが作られた。その後、加盟国が増え、現在は28カ国となっている。また、1999年に単一通貨ユーロが創設され、EU参加28カ国のうち19カ国がユーロを採用している。
 こうした超国家的な広域共同体の形成・発展を進める思想を、リージョナリズムという。ヨーロッパのリージョナリズムは、単に地域的なものではなく、地球規模の統合を目指すグローバリズムに基づくものである。グローバリズム的なリージョナリズムによって、広域共同体における国家主権の制限・一部移譲、単一市場、単一通貨、国境を越えた労働力の移動、域外からの移民労働者の大量受け入れ等が行われてきた。加盟国を広げていった結果、経済的にはドイツの一人勝ちとなり、南北間・国家間の格差が拡大している。2008年のリーマンショックは、グローバリズムによる強欲資本主義が引き起こした経済危機だが、その影響はアメリカ以上にヨーロッパで色濃い。債務危機を抱えるPIIGSと呼ばれる諸国家の経済状態が深刻化している。特にギリシャの債務危機は、2015年6~9月に国際的に大きな波紋を呼んだ。こうした危機を各所に抱えるEU最大の問題は、移民の増加である。西方キリスト教による西洋文明諸国だけで広域共同体を作るなら文化的な共通性があり、無理が少なかっただろうが、異宗教のイスラーム教圏から多数の移民を受け入れたために、文明間の激しい摩擦を引き起こしている。それがEUの致命的な失敗である。
 2015年11月13日、EU中心部のパリで、イスラーム教過激派による同時多発テロ事件が起こった。欧州諸国は彼ら過激派、特にISILのテロに対し、協力して対抗しているが、テロは一層拡散している。またシリアの内戦が深刻化して急増した難民が、ヨーロッパに押し寄せている。
 こうした経済的・社会的・文化的な複合的危機の中で、ヨーロッパでは、単一市場から国民経済重視への回帰、移民労働者や難民の受け入れより国民の雇用・安全、排外主義ではなく国民主義による移民への規制、移民の権利より国民の権利、移民の社会保障より国民の福祉、特に雇用の確保等を求める動きが強くなっている。
 とりわけ異宗教・異文明からの移民を多数受け入れるリージョナリズムに対して、ナショナリズムによる反発が起っている。欧米のマスメディアが「極右(far right)」と呼ぶ政党がフランス、オランダ等で躍進しているのは、この動きである。だが、それらの政党の考え方はリベラル・ナショナリズムであり、ネイションを守ろうとしている自由主義的で民主主義的な思想である。自国の決定権を取り戻し、移民や難民を規制ないし排除して自国民の利益を優先するものである。本年6月、イギリスでは住民投票の結果、EUからの離脱が決定された。「極右政党」が国民を扇動したのではない。この自由主義・民主主義・ナショナリズムの発祥の地の国民の過半数が、EUや移民からネイションを守ろうとして意思表示をしたものである。イギリスのEU離脱は、歴史的なメルクマールとなる。
 こうした欧州でのグローバリズム的なリージョナリズムからナショナリズムへという揺れ戻しの動きが、アメリカでも顕在化した。それがトランプ現象である。トランプ現象は急に発現したのではなく、1990年代以降のグローバリズムの進展に対して、20数年間、米国民の間に溜まってきた反発のエネルギーが噴出したものである。今後、トランプ政権が不法移民の流入禁止、犯罪歴のある不法移民の強制送還等を実施した場合、それが欧州に大きな影響を与えるだろう。

 次回に続く。

関連掲示
・EUとユーロ圏の危機については、下記の拙稿をご参照ください。
 「ユーロとEUの危機」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12k.htm
 「欧州債務危機とフランスの動向」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12l.htm
 「ギリシャ財政危機でユーロ圏が揺れている」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-1a.htm