ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

参議院議員・山本太郎氏の黒い背後関係2

2013-07-31 08:56:29 | 時事
●菅元首相の政治献金問題

 平成8年(1996)9月28日、鳩山由紀夫氏が旧民主党を旗揚げしたとき、菅直人氏もこれに参加した。菅氏は党の初代代表となった。菅氏は、市民運動上がりの政治家だが、菅氏は酒井剛氏の協力を得たことで、国政選挙に出て4回目にして初当選を果たした。菅氏は酒井氏とその後、ずっと付き合いを続けている。民主党結党の時点で、菅氏と酒井氏との付き合いは約15年になっていた。
 菅氏は酒井氏を通じて、北朝鮮・よど号犯・新左翼系グループとつながりを持っている。このルートが民主党に北朝鮮の勢力が入り込む経路の一つとなっている。菅氏の資金管理団体は、平成19年から21年までの3年間に、酒井氏が代表を務める「市民の党」という地域政党に、多額の献金をしていたことが、国会で追及された。
 菅氏をはじめとする民主党議員等は、「市民の党」ないしその派生団体に、巨額の献金をしていた。菅氏の資金管理団体「草志会」は、「市民の党」から派生した政治団体「政権交代をめざす市民の会」(以下、めざす会)に、平成19~21年(2007~2009)にかけて、計6250万円の政治献金をしていた。
 「めざす会」は、酒井氏の呼びかけで、平成18年民主党衆院議員候補を選挙支援するため結成された。代表の奈良握(にぎる)氏は「市民の党」出身で、同党に毎年約150万円を個人献金したなど密接な関係を持っている。奈良氏は神奈川県厚木市議を7期務めている。
 菅氏の資金管理団体「草志会」は、この「めざす会」に、平成19年には、5千万円をも多額の資金を提供した。この年、民主党から「草志会」に、計1億2300万円の献金があった。菅氏は当時、党の代表代行だった。菅氏は、献金について「自分が判断した」と言っている。民主党側からの献金で最も多い額だった。菅氏がいればこそ、民主党側から「市民の党」等に、巨額の献金がされたのである。
 菅氏と「市民の党」側とのつながりは、菅氏だけものではない。「めざす会」には、鳩山元首相の資金管理団体「友愛政経懇話会」も1千万円を献金していた。「市民の党」、及び「めざす会」を含む関係2団体に対して、平成20年(2008)当時菅氏が会長を務めていた民主党東京都連も献金していた。民主党の国会議員や地方議員による個人献金を含めると、民主党側からの献金は総額約2億500万円にも上る。
 「市民の党」及びその派生団体への献金は、民主党の党ぐるみによる支援と見られる。献金は、民主党からの直接献金を隠すための迂回献金だった疑いが強い。民主党は、公党として、政党交付金を受ける。国民の税金がもとになっている政党交付金が、巨額献金の原資になっていた。民主党は国民の税金を怪しげな政治団体に回していたである。
 この問題は、単なる政治献金の問題ではない。「市民の党」等の背後には、北朝鮮が存在するからである。この問題が国会で追及された時、当時の野田首相は、党の代表としてこの問題を明らかにし、民主党のあり方を正す意思がまったく見えなかった。むしろこの問題を国民から隠すために、菅氏が首相を辞任し、民主党の代表が替わったようにも見えた。

●「市民の党」と北朝鮮の深い関係

 「市民の党」は、北朝鮮との関係が深い。同党には、日本人拉致事件容疑者の長男で、平成23年4月東京都三鷹市議選に立候補した森大志氏が所属している。
 森氏の父親は、よど号ハイジャック事件のリーダー、故田宮高麿である。この事件は、昭和45年(1970)、赤軍派が日航機を乗っ取り、「日本革命」のために北朝鮮へ渡った事件である。田宮は平成7年(1995)11月30日に北朝鮮で死亡したとされる。森氏の母親は、昭和55年(1980)に石岡亨氏と松木薫氏を欧州から北朝鮮に拉致したとして、結婚目的誘拐容疑で国際手配されている森順子容疑者である。彼ら北朝鮮に奉仕する極左カップルの長男が森大志氏であり、森氏を選挙に擁立したのが、「市民の党」である。
 この「市民の党」の代表が、山本太郎氏の選挙参謀をした酒井剛氏である。酒井氏は、2年前産経新聞の取材を受け、「10年ほど前に北朝鮮に行き、よど号の人間たちと会った」「その中には長男(註 森氏)の姉もいた。そうした縁もあり、長男が(日本に)帰国してからつながりがあった」と市議選擁立の背景を語っている。
 森大志氏は、北朝鮮生まれで、金正日専制体制のもと、「日本革命」の戦士として育てられた。「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会」会長の西岡力氏は、平成23年(2011)7月20日の産経新聞に書いた記事の中で、森氏は、今も「金日成主義による日本革命を目指す北朝鮮の工作員」との見方があり、選挙に担いだ「市民の党」も、「北朝鮮の対日政治工作を担う政治勢力ではないかという疑いがある」と述べている。その「市民の党」の代表である酒井氏が、今回の参議院選挙では、山本太郎氏の選挙を取り仕切った。山本氏は、極左カップルの子として北朝鮮で生まれ、「日本革命」の戦士として育てられた森大志氏のように、酒井氏が推すべき理由を持っているのだろう。
 山本氏を支援した酒井氏率いる「市民の党」の機関紙には、以前田宮高麿やポル・ポト派元幹部が寄稿していた。菅直人氏はその機関紙に約30年前から投稿したり、インタビューに応じてきた。酒井氏は、菅氏について、「国会議員になる前から知っている。田英夫(でん・ひでお)さんからの紹介だ。30年ぐらい前、菅氏が4度目でやっと初当選した選挙も応援していた。ずっとケンカしながら一緒にやってきている」と述べている。
 菅氏は、市民運動から国政を目指したが、3回選挙に落ち、4回目で初当選した。菅氏は、故田英夫から酒井氏を紹介され、選挙に協力してもらって、当選できた。以後、30年に及ぶ付き合いだということだろう。菅氏もまた酒井氏が推すべき理由を持っていたのだろう。菅直人ー森大志ー山本太郎の三人には、共通項があるはずである。その共通項が、参議院議員・山本太郎氏の黒い背後関係の核心部分に存在するものだろう。

 次回に続く。

関連掲示
・拙稿「日本赤軍の重信房子・よど号犯とオウム真理教の危険なつながり」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion07.htm
 目次から15へ

参議院議員・山本太郎氏の黒い背後関係1

2013-07-30 08:57:14 | 時事
●参議院議員・山本太郎氏の背後にあるもの

 参議院選挙で、リベラル、左翼、市民派の系統の政党の多くは、惨敗した。民主党は、結党以来最低の17議席という大惨敗だった。小沢一郎氏率いる生活の党は選挙区、比例代表とも議席を得られなかった。社民党は結党以来最低となる比例代表の1議席にとどまり、福島瑞穂氏は党首辞任を表明した。みどりの風は、改選の参院4議席全てを失った。落選した谷岡郁子氏は代表の辞任とともに政界からの引退を表明した。こうしたなか、「原発ゼロ」を唱えた無所属候補・山本太郎氏が東京選挙区で当選したのは、目を引く出来事だった。山本氏は、俳優で知名度は高いが、支持基盤はなく、当選の可能性は低いと見られていた。しかし、66万票以上を獲得し、4位で当選した。
 山本氏が、内ゲバ殺人事件で知られる中核派の応援を受けていることは、ネット上では知られていた。中核派は機関紙「前進」で山本氏への支援を呼びかけ、選挙運動員を出して活動した。山本氏は、左翼過激派が擁立する市民運動家として注目された。だが、知名度と脱原発と中核派だけで、国政選挙で当選することは、不可能である。選挙に勝つには、さらに強力な支援者が必要である。
 山本氏には、市民運動の選挙のプロ、「市民の党」の斎藤まさし(本名・酒井剛 さかい・たける)代表がついていた。酒井氏は山本陣営の裏選対の最高責任者だった、と「週刊文春」は8月1日号に書いた。酒井氏が街頭でマイクを握り、山本氏の選挙演説の前座をやっている映像が、ネットに掲載されている。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm21394732
 「週刊文春web」は、次のように掲載した。

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山本太郎氏の選挙参謀と菅直人元首相の“深い仲”
http://shukan.bunshun.jp/articles/-/2948
2013.07.23 18:00

 参院選に東京選挙区から無所属で立候補し、4位当選を果たした山本太郎氏(38)の選挙を取り仕切っていた人物が、市民の党の斎藤まさし(本名・酒井剛)代表だったことがわかった。
 斎藤氏は「市民派選挙の神様」とも呼ばれる選挙プロ。斎藤氏は菅直人元首相と以前から親交があり、1980年の衆院選では菅氏を斎藤氏が応援している。この時、菅氏は4度目の国政挑戦で初当選を果たした。
 斎藤氏が代表を務める市民の党は、よど号ハイジャック犯の息子と関係が深く、その派生団体は2年前に菅元首相の資金管理団体から2009年までの3年間で合計6250万円の献金を受け取っていたことが、国会で問題となったことがある。
今回の参院選では、斎藤氏は山本陣営のボランティアを統括し、裏選対の最高責任者として選挙を取り仕切ったという。
 山本陣営の関係者によれば、都内に1万4000カ所以上ある掲示板に選挙ポスターを貼る作業を斎藤代表が指揮。公示の日に朝から1000人以上のボランティアをバスやレンタカーに分乗させて他のどの陣営よりも早く山本氏のポスターを貼り終えた。
 斎藤氏は「菅さんとは消費税の増税をめぐって喧嘩別れして以来、口もきいていませんから、僕が菅さんの意を汲んで動くことはあり得ない」としている。
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 この記事が書いた斎藤まさしこと酒井剛氏については、菅直人元首相との関係や菅氏の政治献金問題を、以前拙稿に書いた。その酒井氏が山本太郎氏の選挙を仕切っていたという。酒井氏は、北朝鮮と深い関係がある。一方、山本氏は、たかじんのテレビ番組で「竹島は韓国にあげてしまえ!」と発言したことが問題になったことがあり、極めて韓国寄りの考えを持っている。私が以前見た戦後大阪の在日朝鮮人を主人公にした映画「夜を賭けて」で、主役をやっていた。Wikipediaに2年ほど前には「兵庫県宝塚市出身。在日韓国人として宝塚市で生まれた。」と書いてあったという情報がある。
 山本氏には、今回の選挙で事前選挙運動を行うなど、公職選挙法違反の疑いが出ている。だがもし本人が罪に問われることがなければ、これから6年間日本の国会議員として活動し、韓国・北朝鮮とも議員外交を行うだろうから、背後関係を押さえておく必要がある。
 本稿は、参議院議員・山本太郎氏の背後関係について、過去の拙稿をもとに菅直人氏、酒井剛氏を中心に書くものである。全5回の予定である。

 次回に続く。

■追記
 本連載をまとめた拙稿「参議院議員・山本太郎氏の黒い背後関係」は下記のページに掲載しています。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion13.htm 目次から36へ

人権55~権力の重層構造

2013-07-28 08:24:56 | 人権
●権力の重層構造~家族的権力・社会的権力・国家的権力

 権力は、社会の様々な集団で発生し、機能する。家族をはじめ氏族・部族・組合・団体・社団等の集団で、それぞれの権力が発生し、機能する。
 権力の最小規模は、集団の最小規模である家族における権力、すなわち家族的な権力である。一方、最大規模は、集団の最大規模である国家における権力、すなわち国家的な権力である。この中間に、さまざまな集団における社会的な権力が存在する。
 家族的権力は、家族の内部または他の家族との関係において、家族の維持・繁栄を実現するために、家族員を保護・指導し、財産を管理・運用する権力である。社会的権力は、ある社会的な集団の内部または他の社会的な集団との関係において、その集団の維持・繁栄を実現するために、集団の成員を統括し、また財産を運営する権力である。国家的権力は、その国家の内部または他の国家との関係において、国家の維持・繁栄を実現するために、領域と人民を統治する権力である。国家権力は、その中に社会的な権力を含み、社会的な権力は、その中に家族的な権力を含む。権力体系の構造は重層的であり、かつ各層間で相互作用的である。下層の権力関係が中層・上層の権力関係を生み出しり、支えたり、上層の権力関係が中層・下層の権力関係を守ったり、抑えたりする。
 いわゆる人権は、これらの権力との関係において、歴史的社会的文化的な条件のもとに発達してきた権利である。人権の考察のため、権力の重層構造を具体的に見ていきたい。

●家族的な権力

 家族的権力は、家族の内部または他の家族との関係において、家族の維持・繁栄を実現するために、家族員を保護・指導し、財産を管理・運用する権力である。
 家族は、親子・夫婦を中心とした最小単位の社会である。血縁と婚姻の関係を主とした自然的・生命的な集団であり、生命を共有する集団である。共有生命集団の目的は、集団の維持・存続・繁栄である。この目的の達成のために、部分よりも全体の利益が追求される。家族の成員は、生命の維持・発展のために互いの能力を合成する。この成員の能力の行使に関し、家族で承認され、正当性を得て、強制力を持ったものが、権利となる。その権利の相互作用を力の観念でとらえたものが、家族的な権力である。
 家族では、加齢による世代交代という自然的・生命的な変動が起こる。親は年老い、子は成長する。この過程で、財産の相続や権利の譲渡が行われる。家族の類型は、親子・兄弟の間の財産の相続の仕方の違いによる。相続の仕方の違いは、価値の違いを生む。親子の間の自由・権威と兄弟の間の平等・不平等という二対の価値の間の組み合わせがあり得る。平等主義核家族では自由・平等、絶対核家族では自由・不平等、直系家族では権威・不平等、共同体家族では権威・平等である。財産の相続を中心とした親子・兄弟の権利関係の違いが、家族的権利の類型を生んでいる。相続の仕方は、共有生命集団が集団の維持・存続・繁栄をしていくための決まりごとであり、相続の対象を家長が自由意思で決める場合と、制度に従って決める場合がある。特に財産の相続に関する権利は、家長の権利を強大なものとする。家族において、集団及び個人が保有する権利には、所有・相続のほか、祭祀・婚姻等に係る権利がある。家族的な権利は、主に家長に集中する。家長は家族の長としての権利を実現するために、家族員を信従させる権威を伴う強制力を持つ。それが家族的な権力の中心をなすものである。
家長には、身分的な権威だけでなく、統率力と指導力が求められる。前者は制度的な能力だが、後者は個人的な能力である。家長は制度的な能力とともに個人的な能力を発揮して、家族の保護・指導を行わねばならない。家長による家族員への強制は、命令として発せられる。怒りを伴ったり、脅しが用いられる場合がある。意思の強制としての命令に服従しない者、決まりに反した者には、意思に従わせるために身体的・物理的な力が用いられる。身体的苦痛、行動や資格の制限等の制裁は、本人及び他の成員への教育的効果の実現を図るものである。こうした強制力の行使は、家長が家族員に振るうだけでなく、親が子に、夫が妻に、兄が弟に等、優位者から劣位者の間でも行われる。こうした関係は、権利の関係であると同時に、権力の関係でもある。
 家族関係のなかで親と子の関係は特別である。親は子を産み育てる者である。親は子を作る能力を持つ。男女が協力することにより、その能力が実現する。子の生命は親から分与されたものである。親と子の関係は、また大人と乳幼児・子供の関係である。そこには知恵・体力等において、圧倒的な差がある。親は親の責任と役割を担い、愛情を以て、この能力を子供のために用いなければならない。親の子に係る権利の作用を、力の観念でとらえれば、親の権力である。親が子に対して発揮する権力は、保護的とも支配的ともなり得る。この親の子に対する権力が、家長の家族員に対する権力のもとになっている。これはまた社会的権力、国家的権力の原型ともなっている。集団の諸階層において、指導者に親のような知恵や愛情、権限や権威が求められる傾向があるのは、権力の基盤が家族にあり、親の子に対する権力が最も基礎的なものであることによっている。
 ここで本稿の主題である人権について述べると、人権の思想が世界に広がったことにより、近代西欧思想の影響を受けている社会では、家族においても、普遍的・生得的な人権が追求されるようになっている。人権の意識は本来、政治的なものであり、政府と人民の権利関係及び権力関係に係るものだった。だが、家族という自然的・生命的な集団に、抽象的・一般的な権利の観念が持ち込まれることになった。この観念は、劣位者の優位者への反抗を助長する。すなわち、子が親に、妻が夫に、弟が兄に等の反抗が、人権の意識によって増大される。
 家族における人権の意識は、トッドが近代化の指標とする識字率の向上と出生率の低下とともに強まる傾向がある。識字率の向上は子の親への、出生率の低下は女性の男性への関係に変化をもたらし、親子や男女の権力関係に変動を生む。家族の維持・繁栄という目的のもとに権力の協同的行使がされる限りでは、権力関係は均衡のあり方の変化に留まる。だが、その限度を超えると、家族間の権力関係は、家族の闘争に至り、家族が分裂または崩壊しさえする。家族の目的である生命の維持・繁栄には、親子・夫婦・祖孫の一体性の意識が必要である。近代西欧的な個人を単位とする人権の観念は、自然的・生命的な共同性を解体に向かわせるものであることを認識する必要がある。

 次回に続く。

感動! 乗客が車両押して女性を救出

2013-07-27 08:49:22 | 時事
 素晴らしいニュースである。そのまま転載してお伝えする。



 読売の記事を22日にネットで読み、いい話だなと思ったが、25日米国人の友人が目を輝かせて、このニュースに感動したと語ってくれた。それを聞いて、あらためて私自身、感動した。
 友人は、駅員の呼びかけに応えて女性を救った乗客の行動を "quick and creative" だ、他の国民はそうはできない、日本人は悪口もいわれるが、他にないとてもよいところがある、と興奮して語った。とっさの時に、ほとんど本能的に、一心にみなで助け合う。東日本大震災の時に、世界中の人々に称賛されたあの被災者の人々の行動に通じるものと思う。日本人の中に眠っている日本精神の表れである。

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●読売新聞 平成25年7月22日

http://news.livedoor.com/article/detail/7880475/
車両押して女性救出、ホームの乗客から拍手が…

読売新聞
2013年07月22日13時24分

※写真の絵解き
電車とホームの間に挟まれた女性を救出するため、車両を押して傾ける乗客や駅員ら(22日午前9時19分、JR南浦和駅で)=繁田統央撮影

 22日午前9時15分頃、さいたま市南区のJR南浦和駅京浜東北線ホームで、大宮発磯子行き普通電車から降りようとした30歳代の女性乗客がホームと車両の間に落ち、腰のあたりを挟まれた。
 車内やホームにいた乗客や駅員ら約40人が協力して車両を押し、隙間を広げて女性を救出。女性は病院に運ばれたが、目立ったけがはないという。
 現場に居合わせた本紙記者によると、事故当時、ホームで「人が挟まれています」というアナウンスが流れ、電車の乗客らが自主的に降車。車両を押していた駅員を手伝った。女性は作業から数分で救出され、乗客らから拍手が起きた。
 JR東日本によると、ホームが直線の場合、車両との隙間は20センチ程度という。事故のあった車両は10両編成の4両目で、車輪を含めた1両の重さは約32トン。車輪のある車台と車体の間にサスペンションがあり、車体を押すとサスペンションが伸縮し、車体だけ傾くという。
 この影響で京浜東北線に最大8分の遅れが出た。

●読売新聞 平成25年7月26日

中韓も驚き・感動…電車押し救助、世界が絶賛
読売新聞 - 2013年07月26日 10:26

 本紙が22日夕刊で報じた、さいたま市のJR南浦和駅での女性客救出劇は、現場に居合わせた本紙記者の写真と共に世界各地でも報道された。
 ホームと車両の間に落ちた女性を乗客らが力を合わせ助け出したニュースに、「うちの国だったら、乗客は眺めるだけで何もしなかったかもしれない」「英雄的な行動」などの称賛の声が上がっている。
 米CNNテレビは22日夜(日本時間23日午前)、キャスターが「日本から素晴らしいニュースです」と前置きし、本紙の写真と共に女性救出を報じた。キャスターは「生死に関わる状況で、駅員と乗客が冷静に協力した」と称賛。「おそらく、日本だけで起こりうること」として、電車が約8分後に通常運転を再開したことも合わせて伝えた。
 英各紙がロイヤルベビー誕生の特集紙面を組む中、23日付ガーディアン紙は、「(駅員や乗客が)集団で、英雄的な行動を示した」とするAP通信の記事と本紙の写真を国際面で使った。
 イタリアの主要紙コリエーレ・デラ・セラのウェブサイトには「イタリア人だったら眺めるだけだろう」といったコメントも。香港でも、中国政府寄りの論調で知られるフェニックステレビのウェブサイトに、「中国で同様の事故が起きれば、大多数の人はやじ馬見物するだけだ」といった書き込みが見られた。
 対日関係が冷え込む中国では、政府の指導下にある有力ニュースサイト「中国ネット」が24日、日本での報道を引用する形で事実関係を論評抜きで報道し、国営新華社通信(電子版)などが転載。韓国でも聯合ニュースなどのメディアが、多くは、読売新聞の報道を引用して伝えた。23日の朝鮮スポーツ紙(電子版)は「乗客が力を合わせて救助する感動の写真が話題になっている」と指摘した。
 ロシアの大衆紙「コムソモリスカヤ・プラウダ」(電子版)には「どうしてこんなに迅速に乗客が団結できたのだろうか」「他人の命に対して、我々ロシア人も無関心であってはならない」と、驚きのコメントが寄せられた。
 タイのニュース専門チャンネル最大手TNNは、本紙の写真を、「日本の人々が生来の結束力を余すところなく示し、困っている人に助けの手をさしのべた、素晴らしいニュース」と紹介した。タイのソーシャルメディアでは、この写真をシェアする人が多く、フェイスブック上では「日本が、また世界を驚かせた」「とっさにこのような行動ができる日本人は、どのような教育を受けているのか」との声も出ている。

●CNN

http://edition.cnn.com/2013/07/23/world/asia/japan-train-rescue
 Tokyo (CNN) -- Even during Tokyo's notoriously hectic rush hour, dozens of commuters stopped to push a 32-ton train car out of the way.
A woman trying to get off a train in Saitama, north of Tokyo, fell in a gap between the train and the platform Monday morning, said Takashi Tsukahara, a spokesman for the train operator JR East.
 About 40 passengers and JR staff rushed to push the train off the woman. Tsukahara said a train carriage typically weighs about 30,000 kilograms, but is able to sway a bit side to side to absorb the train's movements.
 The commuters pushed the train just enough to free the woman. A loud cheer erupted as the woman was pulled up.
 The woman, in her 30s, was not seriously injured.
 Just eight minutes later, the train took off again.
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尖閣:棚上げ合意などなし

2013-07-25 08:57:37 | 尖閣
 野中広務氏と鳩山由紀夫氏が、相次いで、尖閣諸島に関して日中首脳間で棚上げにする合意があったかのような発言をした。野中氏は、超党派の元国会議員や現職議員の訪中団の団長として6月3日に北京を訪れた時の発言。野中氏は、記者会見で、日中国交正常化交渉後、研修会で田中角栄首相(当時)から尖閣諸島をめぐり、日中首脳が問題を棚上げするとの共同認識に達したとの趣旨の話を聞いたと主張した。わが国政府の見解とは異なるが、野中氏は「生き証人として、聞いた者として明らかにしておきたかった。なすべきことをなした」と述べた。「聞いた」というのは、証拠がない。いかようにも言える。
 鳩山氏は、6月25~26日香港のフェニックステレビの取材に応じた時の発言。野中氏が「聞いた」とする伝聞を、「これは歴史的事実だ」と決めつけた。さらに27日、北京で記者団に対し、「40年前に棚上げすると決めたのだから、メディアも理解しないといけない」と述べ、棚上げの合意があったとの認識を示した。鳩山氏は、先のインタビューで、尖閣の日本領への編入過程についても「中国側から見れば盗んだというふうに思われても仕方がない」と中国の主張に理解を示した。発言のほとんどが、事実誤認によるものである。
 野中氏は、自民党政権のときに官房長官、幹事長等を歴任。「影の総理」とまで言われた。鳩山氏は、民主党政権のときの総理大臣、代表等を歴任。現在の元総理待遇を受けている。そういう政治家が、伝聞や事実誤認のレベルで、日中間の重大問題について発言し、中国政府が都合よく利用できる絶好の材料を提供してしまった。
 この二人は、どうしようもない。しかし、彼らが発言したことについては、政府が公に一つ一つ事実を明らかにし、また根拠の無いことは根拠なしと指摘していかなければならない。
 そうした状況に置いて、元外務省中国課長の田島高志氏は産経新聞の取材に応じ、棚上げについては、「中国側の一方的な思いで、合意はなかった」と述べた。田島氏は、中国側が合意があったとする1978(昭和53)年の会談に中国課長として同席したという。産経新聞6月29日号が田島氏の発言を掲載している。
 以下、田島氏の発言を伝える記事。

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●産経新聞 平成25年6月29日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130629/chn13062908300000-n1.htm
「尖閣棚上げ合意なかった」 78年の園田・トウ小平会談同席の元中国課長
2013.6.29 08:24

■「一方的思い」
 尖閣諸島(沖縄県石垣市)をめぐり、中国政府が主張する領有権問題の「棚上げ合意」について、元外務省中国課長の田島高志氏は28日までに産経新聞の取材に応じ、「中国側の一方的な思いで、合意はなかった」と述べた。田島氏は、中国側が合意があったとする1978(昭和53)年の会談に中国課長として同席した。
 会談は、日中平和友好条約をめぐり同年8月10日、北京で園田直(すなお)外相(当時)とトウ小平副首相(同)の間で、同条約の批准書交換のため来日したトウ氏と福田赳夫首相(同)との間で10月23、25の両日にそれぞれ行われた。
 田島氏によると、8月の会談では、トウ氏が「日中間には釣魚島(尖閣諸島の中国名)や大陸棚の問題があるが、それ以上に共通点がある」と発言。これを受け、園田氏が同年4月に起きた中国漁船団による尖閣諸島周辺の領海侵入事件を念頭に「先般のような事件を二度と起こさないでいただきたい」と主張し、トウ氏が「中国政府としてはこの問題で日中間に問題を起こすことはない。数年、数十年、100年でも脇に置いておけばいい」と応じた。園田氏は聞き置いただけで反論しなかった。日本側は尖閣諸島を実効支配しており、中国側に現状変更の意図がないことが確認できたため、反論は不要と判断したという。
 中国側資料には、これに似たトウ氏の発言だけが記録されており、外務省が公開済みの記録には、尖閣関連のやりとり自体が含まれていない。
また、記録公開済みの10月25日の福田・トウ会談では、トウ氏が終了間際に「次の世代は、われわれよりもっと知恵があり、この問題を解決できるだろう」と「独り言のように」(田島氏)発言。福田首相は応答しなかった。トウ氏は会談後の単独記者会見で「国交正常化の際も、平和友好条約を交渉した際も、この問題に触れないことで一致した」と主張した。
 田島氏は、一連の会談での合意を否定した上で、中国側が、昨年9月の尖閣諸島購入で「日本側が共通認識(合意)を破壊した」(外務省声明)としていることには「事実に反する言いがかりだ」と批判した。

■72年も合意なし
 中国側は、国交正常化交渉が行われた72(昭和47)年9月27日の田中角栄・周恩来両首相の会談でも合意があったとしている。交渉に条約課長として同行した栗山尚一氏は「両首脳の間で棚上げの暗黙の了解が成立した」と指摘する。
 ただ、産経新聞の取材に「あったのは暗黙の了解で、中国側が『合意があった』と言うのは言い過ぎだ」とも話した。田島氏も「条約交渉当時、田中・周会談で棚上げの合意があったという認識はなかった」と72年の合意説を否定した。
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中国経済のドミノ倒しの始まりか~石平氏

2013-07-24 09:35:31 | 経済
 6月24日中国上海株が急落した。それにより中国金融市場がパニックに陥った。銀行の連鎖破綻の噂が飛び交い、短期金利が一時、13%にも跳ね上がった後、急落するなど荒れ模様となった。この背景には「影の銀行(シャドーバンキング)」の問題がある。2年前から懸念されてきた「7月危機説」が現実味をもって語られ始めた。中国政府の対応によっては、世界第2の経済大国、中国発の世界金融危機も招きかねない事態である。
 「影の銀行」とは信託会社やファンドなどのいわゆるノンバンク。その総融資額は約24兆元(約383兆円)にものぼり、GDPのほぼ半分に匹敵すると見られる。銀行の預金金利が年利基準3%と定められる中で、年率10%前後の高利回りをうたった財テク商品「理財産品」などで資金を集め、金融当局の監視下にない簿外で運用。資金の行き先の多くは、採算性の低い地方政府による建設ありきのインフラ整備などへ向かう。そのため不良債権化の懸念が指摘されてきた。ジョージ・ソロスは、「サブプライム住宅ローンと似ている」と分析し、投資家に警鐘を鳴らしている。
 「7月危機説」とは、国務院発展研究センターの李佐軍研究員によって作成された内部報告が警告したもの。「影の銀行」がはらむ危険性を指摘し、胡錦濤政権時代の経済政策のツケが2013年(本年)3月の習近平政権発足後、数カ月で噴出し、民間企業や銀行、地方政府が相次ぎ経営破綻に追い込まれる、と見通した。
 習政権は「影の銀行」の簿外運用への規制を強めてきた。これにより資金繰りが悪化した一部の金融機関に破綻懸念が広がった。返済資金の調達源である短期金融市場では6月に入って金利が上昇、資金不足となっても中国の中央銀行である中国人民銀行は動かなかった。
 金利の急上昇は、人民銀行が市場から資金を吸収する公開市場操作を実施し、需給が逼迫したのが要因。この金融引き締め策は、「影の銀行」への資金流入を抑制するのが狙いと見られる。中国経済の減速が続く中で資金供給を絞るのは副作用も大きい。金利上昇によって中小の金融機関や企業の資金調達が難しくなり、「影の銀行」をつぶそうとすれば、中国経済全体が崩壊しかねない状況と見られる。
 シナ系評論家の石平氏は、これが中国経済崩壊の「ドミノ倒しの始まり」と見ている。
 産経新聞7月4日号の記事で石氏は言う。「中国の銀行がなぜ一斉に金欠となったのか」「各銀行が預金者から預かっているお金を、無責任な放漫融資に出し過ぎたからである」と。放漫融資が過度な投資拡大を支え、投資拡大が莫大な不動産在庫や企業の生産過剰を生み出した結果、銀行融資の多くは不良債権と化した。資金が回収できなくなると、各銀行は、資金不足に陥る。温政権は、一般の銀行が「金欠」となると、中央銀行が、無制限の資金供給を行った。その結果、深刻な流動性過剰を生み出し、中国経済は常にインフレ再燃の危険性にさらされることになった。習政権は、この危険性に気づき、中央銀行からの資金供給を抑制する方針を固めた。各銀行の「金欠」が今後も続き、「恐ろしい連鎖反応」が始まる。中小企業への「貸し渋り」で、中小企業の経営難は深刻化し、実体経済の衰退に歯止めが利かなくなる。さらに各銀行は今後、深刻なバブルと化した不動産部門への融資も大幅に減らす。不動産開発業者は、不動産在庫を大幅に値下げして売り出し、資金回収に励むしかない。一方、住宅ローンが制限される中で不動産の買い手は減っていくから、不動産価格の暴落は避けられない。
 大筋このように書いた上で、石氏は「不動産バブルの崩壊は当然、さらなる金融危機の拡大とさらなる実体経済の衰退を招くから、経済の果てしない転落はもはや止められない。世界第2位を誇ったこの国の経済はすでに、地獄への入り口に立たされているのである」と述べている。
 石氏の記事の約2週間後、7月19日に中国人民銀行は、銀行の貸出金利の下限規制を撤廃し、自由化すると発表した。貸出金利は、当局が定める基準金利の0・7倍が下限と定められていたが、翌20日撤廃された。この時期に発表したのはモスクワで開かれる主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の前に打ち出し、「影の銀行」問題がヤリ玉に挙がるのを和らげようとしたものだろう。
 G20は、20日、世界経済が減速するなかで、「雇用と成長の促進が短期的な優先課題だ」と明記した共同声明を採択して閉幕した。中国に対しては貸出金利の下限撤廃による改革姿勢を歓迎しつつも、「影の銀行」が不良債権化して世界経済に影響を及ぼさないよう、規制・監視の強化を要請した。
 中国政府の対応は、貸出金利の下限が自由化されることで、健全銀行による優良企業へのローリスク・ローリターンの有志が可能になるが、国営企業以外の地方政府系企業や中小企業にどれだけ資金が回るか、効果の程が注目される。また、預金金利は自由化されていないので、「影の銀行」問題の焦点、「理財産品」による銀行の簿外運用については、あまり改善を期待できない。中国の実体経済は足元が弱く、採算性の低い企業が年利10%を超える金利を払い続けるのは、厳しい。自転車操業が立ちゆかなくなり、「影の銀行」が連鎖的に破たんすれば、石氏が予想するような中国経済のドミノ倒しにつながる可能性がある。習政権は、それを回避できるか。その成否に政権、さらに体制の存続がかかってくるだろう。
 以下は石氏の記事及び関連する報道記事。

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●産経新聞 平成25年7月4日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130704/chn13070411510002-n1.htm
【石平のChina Watch】
始まった「経済のドミノ倒し」
2013.7.4 11:46

 先月24日の中国上海株の急落は、経済崩壊のドミノ倒しの始まりを意味するのではないのかと思う。
 急落の直接の原因は中国の各銀行が深刻な資金不足に陥った中で、銀行間融資の短期金利が急騰したのに対し、中国人民銀行(中央銀行)が資金供給などの救済措置を取らず、傍観したことにある。
 問題は、中国の銀行がなぜ一斉に「金欠」となったのかであるが、要するに各銀行が預金者から預かっているお金を、無責任な放漫融資に出し過ぎたからである。
 4月25日付の本欄は中国における「投資中毒症」の蔓延(まんえん)を指摘したが、全国規模の過度な投資拡大を支えてきたのはまさに各銀行の放漫融資だ。
 しかし、むやみな投資拡大が莫大(ばくだい)な不動産在庫や企業の生産過剰を生み出した結果、投資への銀行融資の多くは回収不可能な不良債権と化していった。貸し出した資金が回収できなくなると、各銀行は当然、資金不足に陥ってしまう。
 このようなことは今までにもよくあったが、前任の温家宝政府の時代は、一般の銀行が「金欠」となると、中央銀行がすぐさま彼らに救済の手を差し伸べ、無制限の資金供給を行った。
その結果、中央銀行から放出された貨幣量は洪水のようにあふれ、深刻な流動性過剰を生み出した。「金融バブル頼り」の中国経済は常にインフレ再燃の危険性にさらされることになったのである。
 食品を中心とした物価の高騰=インフレが一旦再燃すると、貧困層のよりいっそうの生活苦によって社会的不安が拡大し、政権の崩壊につながる危険性さえある。
 温氏の後を継いだ今の政府はようやくこの危険性に気がついたようだ。だからこそ中央銀行からの資金供給を抑制する方針を固めたのだが、それでは各銀行の「金欠」が今後も続くこととなるから、一連の「恐ろしい連鎖反応」が始まる。
 「金欠」となる各商業銀行は保身のために今後、企業に対する融資をできるだけ減らしていく方針であろう。特に担保能力の低い民間の中小企業への貸し渋りは必至だ。そうなると中国の製造業の大半を支える中小企業の経営難はますます深刻化してしまい、すでに始まった実体経済の衰退に歯止めが利かなくなる。
 これまで各銀行から出た資金の一部は「影の銀行」を通して各地方政府に流れ、彼らの開発プロジェクトを支えてきたが、今後、こうした「闇の資金」の水源が正規の銀行の資金引き締めによって止められると、後にやってくるのは「影の銀行」の破綻による金融危機の拡大と、多くの地方政府の財政破綻であろう。
 「金欠」となった各商業銀行は今後、深刻なバブルと化した不動産部門への融資も大幅に減らすに違いない。回収期間の長い個人住宅ローンも当然融資抑制の対象となる。
 そうなると、資金繰りが苦しくなっていく不動産開発業者はいずれは、手持ちの不動産在庫を大幅に値下げして売り出し、投資資金の回収に励むしかない。
 その一方で、住宅ローンが制限される中で不動産の買い手がむしろ減っていくから、その相乗効果の中で不動産価格の暴落は避けられない。今までは金融バブルの中で何とか延命できた不動産バブルは今度こそ、崩壊の憂き目に遭うであろう。
 中国の著名な経済学者・馬光遠氏は先月26日「(経済危機の)次の爆発地点は不動産部門だ」と警告を発した。
 不動産バブルの崩壊は当然、さらなる金融危機の拡大とさらなる実体経済の衰退を招くから、経済の果てしない転落はもはや止められない。
 「世界第2位」を誇ったこの国の経済はすでに、地獄への入り口に立たされているのである。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130425/chn13042509000004-n1.htm
【石平のChina Watch】
「投資中毒症」が招く中国破綻の日
2013.4.25 09:00

 今月、中国の各メディアは中国人民銀行(中央銀行)が公表した1つの経済数値を大きく報道した。
 今年3月末時点で、中国国内で中央銀行から発行され、流通している人民元の総量(M2)が初めて100兆元の大台に乗って103兆元(約1640兆円)に上った、というニュースである。
 これをドルに換算してみると、米国国内で流通している貨幣総量の1.5倍にもなる。経済規模が米国よりずっと小さい中国国内で今、まさに「札の氾濫」ともいうべき深刻な流動性過剰が生じてきていることがよく分かるであろう。
 今から11年前の2002年初頭には、中国国内で流通している人民元の量は、16兆元程度だった。11年間で流動性が6倍以上増えたことは、世界経済史上「最大の金融バブル」といえよう。
 今年3月まで10年間、中国の経済運営を主導してきた温家宝政府が、度の過ぎた貨幣過剰供給に励んだ理由は何か。
 それは、社会保障システムの不備や貧富の格差の拡大などから生じた慢性的な消費不足の中で、何としても高い成長率を維持しようと、紙幣を乱発し、公共事業投資や不動産投資の拡大を図ってきたからに他ならない。
 このような「投資依存型」の成長戦略は当然、多くの深刻な副作用を生み出している。
たとえば、過剰な不動産投資の結果、江蘇省常州市や貴州省貴陽市などの中小都市に代表されるように、街ひとつ丸ごと造っておいて、結局誰も住まないという「鬼城現象」(ゴーストタウン)が全国に広がっている。
 不動産開発大手・万科公司の王石会長は最近、「このままでは不動産バブルが崩壊し社会的大動乱が発生するだろう」と、悲鳴に近いような警告を発した。
 公共事業投資の拡大も深刻な投資過剰を生み出している。
 たとえば江蘇省では9つの空港が乱造されているが、実にその中の7つは、採算がとれず長年、赤字経営を続けている。ちなみに、中国全国で造られた180の空港のうち、今や約7割が赤字経営であるという。
 公共事業投資と不動産投資の拡大につられた企業の設備投資過剰も深刻だ。
 たとえば国家の基幹産業である鉄鋼産業の場合、設備投資拡大によって年間10億トンの鉄鋼生産能力を持つようになったが、そのうちの2億トンはまったく使い道のない過剰能力である。
 また、各地方政府が借金までして投資拡大に狂奔した結果、全国の地方政府の年間財政収入(6.1兆元)をはるかに超えた20兆元程度の負債を背負うことになってしまっている。
こうした中央と地方政府の「投資拡大ゲーム」がそろそろ限界に来ていることは明らかだが、驚くべきことに昨年夏以降、各地方政府は負債も返済しないまま、総額にして約7兆元以上の投資計画を新たに打ち出している。
 そして今年の4月、発足した李克強政府は何と、このような無謀な投資計画をおおむね承認したと報じられているのだ。
 中国の中央政府と地方政府がかなり重度の「投資中毒症」に陥っていることがよく分かるであろう。
 これから実行される7兆元の大規模投資計画が、さらなる過剰投資とさらなる「鬼城」とさらなる債務を生じさせていくことは火を見るより明らかだ。「投資中毒症」はまさに「死に至る病」なのである。
 そして、いずれかどこかで、このような無理に無理を重ねた投資拡大ゲームは続かなくなる。
 その時こそ、中国経済破滅の日となろう。

●産経新聞 平成25年7月20日

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130720/fnc13072022390011-n1.htm
【G20】
「雇用と成長の促進が短期的な優先課題」共同声明採択し閉幕
2013.7.20 22:31

【モスクワ=今井裕治】モスクワで開かれていた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は20日午後(日本時間20日夜)、世界経済が減速するなかで、「雇用と成長の促進が短期的な優先課題だ」と明記した共同声明を採択して閉幕した。米国が年内にも始める可能性がある量的金融緩和の縮小については、新興国の要望を踏まえ、金融政策を変更する場合は中央銀行に明確な説明を求めた。中国を念頭に置いた不透明な金融取引「影の銀行(シャドーバンキング)」についても規制・監視の強化を要請した。
 声明では、最近の世界経済に関し4月の前回会合の時より「回復はなお脆弱(ぜいじゃく)でばらつきがある」との見解を示した。中国やブラジルなどの新興国経済については「成長が続いているものの、そのペースはより遅くなっている」と指摘。新興国には、為替相場の柔軟化を含む構造改革を求めた。
 声明では、米国の金融緩和縮小をにらんだ資金流出が意図せざる負の副作用を与えることに留意すると指摘。金融政策を変更する際には、市場の混乱を防ぐため、G20内の意思疎通を図ることを確認した。今後、米国をはじめ各国の金融政策は、国内経済の成長とともに緩和の副作用にも配慮することになる。
 一方、経済協力開発機構(OECD)が19日に発表した多国籍企業の「課税逃れ」を防ぐための行動計画についても、ルールづくりに向けて、各国が協調的に行動するよう求めた。
「影の銀行」問題では、G20開幕直前に中国政府が貸出金利の下限撤廃を発表した。過度の金利規制が銀行を通さない取引の拡大につながっているため、各国は中国の改革姿勢を歓迎。影の銀行が不良債権化して世界経済に影響を及ぼさないよう、監視強化を求めた。
 G20は、9月にロシアのサンクトペテルブルクで首脳会合を開く。その中で、昨年までの議論を踏まえ、先進国が「各国別に信頼できる野心的な中期財政戦略」を策定して、行動計画を取りまとめる。ただ財政再建の取り組みは各国の事情に配慮する方針だ。
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参院選結果:自民圧勝でねじれ解消

2013-07-22 09:45:55 | 時事
 参院選の結果は、自民65、民主17、公明11、維新、共産、みんなが各8、社民1、諸派1、無所属2となった。民主は、結党以来最低の獲得議席数である。与党は過半数に必要な63議席を大きく上回り、すべての常任委員長ポストを独占できる安定多数を獲得した。

 7月18日の日記に、参院選直前予測として、「週刊文春」「サンデー毎日」と産経新聞の予想をまとめたものを書いた。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/30e44fcad49220146f334f30a5e9cf47
 それによると、自民は68~70議席、公明は10~11議席。自公で78~81議席。自民の非改選は50、公明の非改選は9ゆえ、安倍政権のもと、ねじれ国会は、解消する。 自公で全常任委員会の委員長と過半数を獲得できる絶対安定多数(135議席)に達すると見られた。一方、民主は、20議席を割り込み、16~18議席。また改憲勢力は、維新・みんなを合わせて13議席程度。自民・維新・みんなの改憲勢力は、82議席程度。非改選と合わせると、自・維・みで改選82、非改選61の合計143議席。憲法改正の発議に必要な162議席には、19議席の不足と見られた。
 結果は、この予測ほど、自民は伸びなかった。予測68~70に対して、65にとどまった。維新・みんなは、予測6~7のところ、各8と善戦した。自民・維新・みんなの改憲勢力は、予測82に対し、結果は81議席。非改選と合わせると、自・維・みで改選81、非改選61の合計142議席。憲法改正の発議に必要な162議席には、20議席の不足となった。民主・諸派・無所属の保守系を加えても、この不足は埋まらない。

 私は、日本の再建には、憲法改正が急務と考える。憲法改正の機会は、少なくとも3年後の参院選挙まで、実際の改正を考えると4年ほどの期間にはなくなった。問題は、これからの3年ないし4年なりの間にも、わが国の主権を揺るがす事態が生じるおそれがあることである。私は、特に中国による尖閣諸島への武力侵攻、北朝鮮の冒険主義的行動または体制崩壊によるわが国への影響を懸念する。そこで、憲法を改正せずともできる防衛関連法の整備、尖閣防衛の具体的施策の実行が非常に重要となる。特に重要なのが、集団的自衛権行使の断行である。
 3年後の参院選まで、よほどのことがなければ国政選挙はおそらくない。この間、安倍政権はデフレ脱却、経済成長を中心に、わが国の活力の回復・強化を勧めていかねばならない。アベノミクスの成功が、国民の支持の維持・増大を左右する。ただし、経済は国際社会の動向と直結している。今後数年の間にアメリカのデフォルト危機、中国のバブル崩壊、ユーロ圏の債務危機のいずれかが破局的事態となれば、わが国も大きな影響を受ける。米・中・欧がそれぞれ経済危機にうまく対処して、世界経済が協調的に維持されることが、アベノミクス成功の必要条件である。また逆に、アベノミクスの成功が世界経済の危機回避のプラス要因となる。日本の役割は重要である。

人権54~権力による支配と保護

2013-07-21 09:24:04 | 人権
●権力による支配と保護

 権力の要素として権威を挙げ、支配と権威、権威を生み出し権力に基盤を与えるものについて書いた。権力論では、実力及び権威による支配を述べる議論が多い。だが、権力は支配する力というだけでなく、保護する力でもある。
 人間は、集団で生活を営む社会的動物である。集団生活を行わなければ、生存・繁栄できない。集団生活には秩序が必要である。秩序を形成し維持するためには、集団の成員の意思を合成しなければならない。意思の合成を通じて、成員は互いの力を合わせて生活することができる。集団の力は、社会的な力である。社会的な力は、集団内で、成員を支配する力として働くことも、保護する力として働くこともできる。他の集団に対しても、同様である。社会的な力を表す言葉が権力であり、権力の働きもまた支配的にも保護的にもなり得る。
 家族において、親が子に、夫が妻に、兄姉が弟妹に、祖父母が孫に対して、また社会において、年長者が年少者に、知識・経験の豊かな者が知識・経験の乏しい者に、能力の優れた者が能力の劣った者に対して、保護や支援、指導や教育をする。集団には成員に年齢の違いがあり、人間は世代交代をしながら生命を維持・継承していく。それゆえ、優位の者が劣位の者を保護・支援・指導・教育するのは、集団生活に不可欠な行為である。保護・支援・指導・教育される者は、自らの成長と集団の世代交代の進行の中で、やがて保護・支援・指導・教育する者となる。生命と知識と経験は、世代間的に継承されていく。 生命は身体を以て生きる能力であり、知識・経験はよりよく生きるための能力である。そうした能力を社会的に結集すれば、それだけ大きな力となる。その社会的な力を、権力と呼んでいる。それゆえ、権力は本来、協同的なものであり、保護・支援・指導・教育する力であり、権力関係は保護―受援の関係である。その関係が対立的闘争的に変化したところに、支配―服従の関係が生じ、権力の闘争的な側面が発達する。
 人権について、多くの論者は、権力は人権を抑圧したり規制したりするという点を強調し、人権は権力との戦いによって得られたものであり、権力と戦うことによって人権は実現されると説く。これは、人権の発達において重要な側面だが、それだけでは一面的である。権利の相互作用を力の観念でとらえたものが権力であり、権利に闘争性と共同性があるように、権力にも闘争性と共同性がある。個人だけでなく集団も行為の主体である。行為は意思の遂行である。集団は諸個人の意思を合成し、合成意思の遂行によって行為をする。その際に発揮される組織の能力が権力である。こうした権力は、集団の成員に権利を付与したり、その権利を保護したり、拡大したりする。人権の考察は、こうした権力の両面性を踏まえたものでなければならない。
 一面において、人権は人民が権力に抵抗し、権利を獲得し、また権利を拡大してきたものである。その際の権力は、自由と権利を抑圧・規制する力である。だが、他面において、人権は権力によって実現され、保障されてきたものでもある。その際の権力は、自由と権利を保護・拡大する力である。こうした権力の機能の違いは、社会関係のあり方による。社会関係が対立的抗争的であるか協調的協力的であるかによって、その社会の生み出す権力の機能が、支配的となるか保護的となるかが決まる。独裁者や特権集団が集団を支配していたり、集団が敵対的な階級に分裂していたりする場合、権力は、ある対象には支配的だが、別の対象には保護的というように作用する。特に権力を行使する指導者の存在が重要である。

●指導者の権力と権威

 集団の成員の力を結集するには、集団を統率し、指導する人間が必要である。その人間は集団の意思を代表し、その力を行使する。この集団における中心的な人間が、指導者である。
 家族における指導者は、家長である。氏族・部族では族長、組合・団体・社団では代表である。これらをまとめて首長と呼ぶ。首長は集団の成員を統率・指導し、共同生活の目的を実現する権利を持つ。この権利を首長権と呼ぶ。首長は、首長権を用い、その集団における決まりごとに基づいて、判断し指示を行う。成員にはそれに従う義務が課せられる。首長は、決まりごとに従わない成員に対して、これを順守するよう指導する。その意思に従わぬ者に対しては、強制を行う。強制は、命令として発せられる。怒りを伴ったり、脅しが用いられる場合がある。強制力の発揮は、物理的な実力の行使を最終手段とする。こうした集団の首長が発動する強制力が、権力として表象されることが多い。
 だが、強制力は権力の機能の一部であって、権力は集団の意思の合成によって結集された力の総体である。首長は集団を代表して、その力を用いることで、成員の保護・支援・指導・教育を行う。権力は、主にこうした指導者の権利の作用を、力の観念でとらえたものでもある。権力を行使する指導者は、権力者ともいわれる。
 先に権力の要素として権威を挙げたが、首長は通常、その立場に伴う伝統的権威、個人的なカリスマ的権威、制度的な合法的権威のいずれかを持つ。首長の持つ権威は、成員を信服させるものであり、首長の判断や指示は、成員に権威をもって受容される。首長及びその支持者は、非合理的な感情に働きかける手段と合理的な知性に働きかける手段を用いて、権威を人々の心に作り出し、権力への讃嘆と忠誠を引き出し、権力に信服させようとする。権威を持たない、または権威を失った指導者が権力を行使する場合、成員の中にその意思に反発したり、対抗したりする者が現れる。
 権力の働きは、指導者が権力を公的な利益のために使用するか、私的な利益のために使用するかによっても違うものになる。集団の合力としての権力は、指導者がどのように使うかによって、支配的とも保護的ともなる。そして、権威を持たないか権威を失った指導者が、権力を私的に行使する場合、反発や対抗はより大きなものとなる。

 次回に続く。

参院選:憲法改正託せる人物を~百地章氏

2013-07-20 12:06:12 | 憲法
 参議院選挙は、いよいよ明日となった。今回の参院選は、憲法改正を争点とする選挙となるべきところ、憲法改正についての国民的な議論が高まらないまま、投票日を迎える。残念な状況である。
 現行憲法には、主権在民が規定されているが、国民の多くは自らが主権者であるという意識が薄い。その原因は、主権在民と定めている憲法そのものにある。現行憲法は、日本人が自ら起草したものではなく、GHQが秘密裏に英文で起草したものを押し与えられ、銃砲による威嚇と情報統制の監視のもとで、制定されたものだから、国民は自ら憲法を作ったという意識を持ちようがない。さらに、現行憲法は、極めて厳しい改正要件を第96条に定めており、国民は憲法改正に直接かかわる機会がいまだかつてない。主権の構成要素に憲法制定権があり、主権者は憲法制定権者だが、わが国では主権者が主権者の役割を果たしたことがない。そのため、国民の多くは自らが主権者であるという意識が薄いのである。
 この状況を変えるには、国政選挙が最もよい機会である。各党が憲法に関する政策を公約し、有権者の前で大いに議論する。有権者はその議論に参加し、また様々な機会に互いに議論する。こうした題材の一つが、第96条の改正要件の見直しである。改正要件の緩和は、憲法を主権者である国民の手に取り戻すという意義がある。だが、今回の参院選では、その議論がまだよく盛り上がっていない。残念な状況である。
 さて、日本大学教授の百地章氏は、憲法改正及び96条改正を主張する有識者の一人だが、今回の参院選について書きのように述べているので、参考に紹介する。
 「参議院議員の任期は6年であるから、今回選出される議員の任期中に、憲法改正の発議がなされる可能性は高いと思われる。したがって、その時、参議院に憲法改正に通じた人材が確保できているかどうかは、国の命運にかかわる。候補者の政見にじっくり耳を傾けて、真に憲法改正を託すに足る人物かどうか、よくよく吟味したうえでの投票を期待したい」。
 現時点の参院選予測では、私の見るところ、改憲勢力は憲法改正発議要件の3分の2以上に、19議席ほど不足すると予想される。選挙は、結果を見るまで分からない。大衆の心理は、1日の内にも変化する。だが、仮に選挙結果が先の予想に近いものとなり、このまま衆院では3分の2以上が維持された場合、次のチャンスは3年後となる。その時こ衆院・参院とも改憲勢力が3分の2以上となっても、国会が具体的にどう改正するかの案をまとめ、国民投票に諮るには、また数か月なり1年以上なりの時間がかかるだろう。
 問題は、これからの3年ないし4年なりの間にも、わが国の主権を揺るがす事態が生じるおそれがあることである。私は、特に中国による尖閣諸島への武力侵攻、北朝鮮の冒険主義的行動または体制崩壊によるわが国への影響を懸念する。第9条を改正しなければ、日本は守れない。焦点を絞れば、9条2項である。それを日本人自身がどうするかである。
 日本国民は、主権者として、日本の現状及び将来をよく考え、参院選で貴重な一票を投じよう。
 以下は、百地氏の記事。

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●産経新聞 平成25年7月19日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130719/elc13071903170023-n1.htm
【正論】
日本大学教授・百地章 「憲法改正」託せる人物を選ぼう
2013.7.19 03:16 [憲法改正論議]

 参議院選挙の投票日まで、残すところわずかとなった。当初、国政選挙における初めての本格的な改憲論議を期待していたが、残念ながらさして盛り上がらないまま終盤に入ったようだ。そこで改めて、改憲論議の現状と今後の課題に触れてみたい。

≪先行改正慎重論に反論続々≫
 4月11、5月28両日付本欄で憲法96条改正反対論への様々な疑問や批判を述べ、『正論』8月号でも詳細な反論(「憲法を国民の手に 96条改正はその第一歩」)を加えたが、その後、96条改正反対論に有力な反論が現れた。
 一つは、京都大学の大石眞教授によるものである。教授は「96条改正は立憲主義の破壊」という批判について、「96条を見直すとどうして立憲主義が破壊されてしまうのか、その理屈がよくわからない」「憲法改正は政治の一つの仕組みに過ぎない。仕組みが存在しているのに動かしてはいけないという主張はおかしい」と反論、96条の見直しは「クーデターだ」「裏口入学だ」といった批判を、「レッテル貼りに近い」としている(7月2日付読売新聞)。
 また、北岡伸一東大名誉教授も「96条改正反対論の中には、憲法の個々の条項ではなく、手続きを先に変えるのはルール違反だという人がある。しかし、現行のルールはGHQが日本に押しつけたものであるから、この批判はナンセンスである」と一蹴している(7月1日付日本経済新聞)。
 さらに、96条改正反対の急先鋒(せんぽう)で、「絶対ダメだよ。邪道」「縛られた当事者が『やりたいことができないから』と改正ルールの緩和を言い出すなんて本末転倒、憲法の本質を無視した暴挙だよ。近代国家の否定だ」(4月9日付毎日新聞)と述べていた小林節慶応大学教授も、筆者との対談では、「9条などの改憲がなされた後なら、96条の改正をしてもいいと思います」と発言しておられる(別冊宝島『憲法大論争』)。

≪優先すべきテーマ絞り込め≫
 96条改正は、連合国軍総司令部(GHQ)により課せられた拘束から日本人を解放し、憲法を国会から主権者国民自身の手に取り戻すという、独自の意義を有する。それゆえ、96条の先行改正について決して姑息(こそく)などといった批判は当たらないことは、以上からも明らかであろう。ただ、96条改正後に何を変えるのか、具体的に明確な方向を示さないまま先行改正を行うことに対し疑問や批判が提起されているのも事実である。
 であれば、この際、96条と同時に、改正の中身についても優先テーマを絞ったうえで、具体的な目標をはっきりと提示していくべきではなかろうか。というのは、憲法改正の発議は、「内容において関連する事項ごとに区分して行う」ことになっており(国会法68条の3)、現実問題として全面改正は不可能だからである。
 優先テーマを決定する際の基準は、まず国家的な重要課題であることと、何よりも緊急性を要すること、になると思われる。とすれば、一刻を争うテーマとして真っ先にあげられるべきは、緊急事態対処規定と9条2項の改正による「軍隊の保持」であろう。

≪緊急事態対処規定と9条2項≫
 昨年7月19日に、国の中央防災会議の作業部会が、「首都直下型地震は国家の存亡にかかわるものであり、その対策は喫緊の課題である」旨の中間報告を発表した。「国家の存亡にかかわる」という警告は尋常ではない。しかも、京都大学の藤井聡教授(内閣官房参与)によれば、「首都直下型地震は、8年以内に間違いなく起きるだろう」という。だとすれば、速やかに憲法に緊急事態対処規定を盛り込む必要がある。これなら、大方の国民の賛成を得ることも決して困難ではないだろう。
 もう一つの9条2項の改正だが、新聞やテレビのほとんどの世論調査では、「9条の改正」に賛成か反対かを尋ねており、「9条1項の平和主義は維持したうえで2項を改正し軍隊を保持すること」の是非を聞こうとはしない。なぜこれを問わないのか。
 また、9条改正の目的は、自衛隊が対外的には「軍隊」とされながら、国内的には「軍隊」ではないとされている矛盾を解消するためであること、さらに現在の自衛隊が法制度上は「警察」組織にすぎず、「軍隊」にしなければ「武力攻撃」に至らない武装ゲリラなどによる領土・領海の侵犯に有効に対処できないことなど実例を挙げて、なぜ軍隊としなければならないかを分かりやすく説明していくべきである。そうすれば、中国や北朝鮮などによる軍事的脅威を前に、常識ある国民は必ずや耳を傾けてくれるはずである。
 参議院議員の任期は6年であるから、今回選出される議員の任期中に、憲法改正の発議がなされる可能性は高いと思われる。したがって、その時、参議院に憲法改正に通じた人材が確保できているかどうかは、国の命運にかかわる。候補者の政見にじっくり耳を傾けて、真に憲法改正を託すに足る人物かどうか、よくよく吟味したうえでの投票を期待したい。(ももち あきら)
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海洋強国を目指す中国に警戒を~山田吉彦氏

2013-07-19 10:42:16 | 国際関係
 中国は昨年11月の第18回共産党大会で、胡錦濤氏、温家宝氏が引退し、現・習近平氏が総書記に選出された。習氏は中央軍事委員会主席にも就任し、党と軍を掌握する立場となった。この大会で、中国共産党は、21世紀の国家発展戦略として、「海洋強国」になるという目標を掲げた。
本年3月の中国全国人民代表大会で、習氏は国家主席に選出された。習氏は、国家主席として初めて行った演説で「中華民族の偉大な復興という中国の夢の実現」を強調し、国内だけでなく海外にいる「同胞」にも団結を呼びかけた。全人代では、国家海洋局の中に海洋での警察権を行使する部門を統合した「中国海警局」が創設され、習主席の指導下に、「海洋強国化」を推進する態勢が打ち出された。
 中国政府は、国民の海洋意識を高めるため7月11日を「航海の日」と定め、2005年から毎年この日に催しを行っている。この日の由来は、1405年に、明の武将、鄭和が大艦隊を率いて、北アフリカを目指し、南京付近の港を出立した日であることによる。鄭和は、1405年から33年にかけて、計7回大遠征をし、諸国の朝貢を促進し、また南海事情の情報収集、南洋華僑の発展等のきっかけとなった。
 中国政府は、今年の「航海の日」の催しは、江蘇省南通市を主要開催地にすると発表した。習体制になって初めての「航海の日」であるので、「海洋強国建設」が国内外にアピールされることだろう。今年の催しを発表した際、交通運輸省の何建中次官は「国民の海洋権益に対する意識を高め、海洋経済の発展に結びつけていく」と強調。中国が領有権を主張する沖縄県・尖閣諸島や南シナ海について、国民を啓発していく考えを示唆した。
 東海大学の山田吉彦氏は、こうした中国の動きに関し、中国指導部、当局者らが、「海洋強国」建設による「中華民族の偉大な復興」を言うとき、鄭和の大遠征によって軍事力と経済力でアジアの国々を影響下に置いたシナ明朝時代の「全盛期の壮図をイメージしているのではないか」と書いている。
 私は、中国は、海洋に関しては明朝の最盛期、陸地に関しては清朝の最盛期を「中華民族の偉大な復興」の目標としているものと思う。ただし、その範囲には決してとどまらない。現時点では、過去の版図をもって膨張主義を正当化する材料にしているだけである。既に米国に対して、太平洋の東西分割統治を持ち出しているのが、その表れである。
山田氏は、「日本が自ら海洋管理体制を早急に整え、アジア海洋安全保障連携の核とならなければ、海の恵みが『中華民族の偉大な復興』のため独り占めされかねない」と警告を発している。氏の警告は、単に「復興」ではないと修正したうえで、深く受け止める必要がある。
 安全保障の現場では、アジア安全保障会議に参加した日米豪の防衛・国防相が6月1日会談し、小野寺五典防衛相、ヘーゲル米国防長官、オーストラリアのスミス国防相が、尖閣諸島をめぐる中国の行動に反対するとの姿勢を明確した。またに、共同声明を発表し、国際法に基づく紛争の解決、シーレーンの航行の自由、3カ国の防衛協力強化へ向けた行動計画の策定等を盛り込んだ。日米豪3カ国は今後、さらに緊密に情報を共有し、共同訓練なども通じ警戒監視を強化すると伝えらえる。
 以下は山田氏の記事及び関連する報道記事。

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●産経新聞 平成25年6月5日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130605/chn13060503270001-n1.htm
【正論】
東海大学教授・山田吉彦 中国突き動かす「鄭和の大遠征」
2013.6.5 03:26

 この5月、中国で海洋政策に携わる官僚や軍関係者と会う機会があった。国家海洋局の官僚に海洋進出の目的を尋ねると、「中華民族の復興が根本的な目標。そのために海洋強国になる必要がある」との答えが返ってきた。

≪中華民族復興かけ海洋強国化≫
 中国は昨年の共産党大会で、21世紀の国家発展戦略として、「海洋強国」になるという目標を掲げた。習近平氏は党総書記に就任して以来、「中華民族の偉大な復興の実現」を口にしている。その柱が「海洋強国」である。
 中国は7月11日を「航海の日」と定める。1405年に、明の太監、鄭和が2万7千人を乗せた艦隊を従え、北アフリカへの大遠征に南京付近の港を出立した日である。鄭和が通過した国々は明への朝貢国となり、実質的な支配下に組み入れられていった。
 中国指導部、当局者らが、「海洋強国」建設による「中華民族の偉大な復興」を言うとき、軍事力と経済力でアジアの国々を影響下に置いた、この全盛期の壮図をイメージしているのではないか。今年の「航海の日」は、江蘇省南通市を中心に大々的な催しを繰り広げ、「海洋権益への国民の意識を高め、海洋経済の発展に結び付けていく」方針だという。
 中国の海洋進出が始まったのは1980年代からである。トウ小平氏の指導下、東シナ海、南シナ海を支配下に置くことを目指した。中国の国内総生産(GDP)の19%はすでに海洋に関わる分野だとされ、民族復興のため海洋の潜在力活用が不可欠なのだ。
 東シナ海では現在、尖閣諸島周辺の日本の領海内を中国の管轄海域と主張して、平然と公船を航行させて日本漁船を追い回し、長崎県五島列島付近には昨年7月、漁船106隻に乗った中国漁民約3千人が押し寄せている。

≪孤立無援のフィリピンの闘い≫
 もっと激しい攻勢に出ているのは南シナ海で、だろう。パラセル(西沙)諸島沖の海域でベトナムとの対立を続け、今年3月、中国公船がベトナム漁船を銃撃し5月には体当たりしている。
 フィリピンとの対立はさらにエスカレートしている。ルソン島からわずか180キロのスカボロー礁(中国名・黄岩島)で昨年、中国海洋監視船とフィリピン海軍艦船が中国漁船をはさんでにらみ合う事態となり、付近は現在、中国が実効支配している。今年は、パラワン島200キロ沖でフィリピンが実効支配するアユンギン礁(中国名・仁愛礁)周辺に、中国の軍艦と監視船が出没し、フィリピン海軍艦船と対峙(たいじ)している。
 フィリピンは、1995年に管轄権を唱えるミスチーフ礁に中国軍が構造物を建設して以来、中国の海洋進出に悩まされてきた。業を煮やして、この1月、中国による領有権主張の違法・無効性を訴え、中国艦船の活動の停止などを求め、国際裁判所の一つ、仲裁裁判所に提訴した。中国はこれに応じず前途多難とはいえ、提訴は対中牽制(けんせい)にはなるだろう。ただし、各国から声援もなく、残念ながら孤立無援の闘いである。
 こうした中、つい最近、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議でも対立の構図が浮き彫りになった。中国人民解放軍の戚建国副総参謀長が「中国は海上で他国を挑発したことはない」と述べたのに対し、フィリピンのガズミン国防相は「中国は言っていることとやっていることが違う」と怒りを露(あら)わにして反発した。
 戚副総参謀長は領土・領海紛争について、「解決できない状況なら争いを棚上げし対話を通じて問題を解決すべきだ」とも発言、ベトナムのビン国防次官は記者の質問に答えて、「平和発展を追求するという中国の政策には賛同するが、現実はその通りになっていない」と不信感を示した。

≪海の恵み独占させぬ枠組みを≫
 だが、中国は批判、非難をよそに、海洋警備機関を統合した「中国海警局」を創設し、まずは警察権を前面に出して南シナ海、東シナ海の管理を力任せに推し進めようとしている。海警局は6月末には統合体制も整い、世界最大の海洋警備機関となって活動を開始する。東南アジア諸国の海上警備能力では到底、海警局に太刀打ちできない。これらの諸国にとって、アジアに軸足を移しつつある米軍による対中抑止力が最大の頼みの綱、という状況である。
 中国の海洋進出の拡大に歯止めをかけるには、アジア海域で法的拘束力のある海上行動規範を策定することが急務である。
 日本は、中国の海洋進出が日本に対してだけではなく、アジア全域に伸びている現状を強く認識して、海洋安全保障体制の構築を進めなければならない。沖縄からフィリピンを経てボルネオに至る第1列島線の大陸側海域を、中国の恣(ほしいまま)にさせない枠組みを作る必要がある。日本にもそのための外交力が求められているのだ。
 日本が自ら海洋管理体制を早急に整え、アジア海洋安全保障連携の核とならなければ、海の恵みが「中華民族の偉大な復興」のため独り占めされかねない。(やまだ よしひこ)

●産経新聞 平成25年6月1日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130601/asi13060121410004-n1.htm
「力による現状の変更に反対」、日米豪防衛相が中国牽制 アジア安全保障会議
2013.6.1 21:40 [中国]

 【シンガポール=青木伸行】シンガポールで開催中のアジア安全保障会議に出席している日本、米国、オーストラリアの防衛・国防相が1日会談し、米、オーストラリア両国は、日本の尖閣諸島(沖縄県石垣市)をめぐる中国の行動に反対するとの姿勢を明確にした。日本の立場を支持し、中国を牽制(けんせい)した格好だ。
 小野寺五典防衛相、ヘーゲル米国防長官、オーストラリアのスミス国防相による会談では「(中国の)現状の変更を試みるいかなる力による一方的な行為にも反対する」ことで一致した。
 こうした認識は、スプラトリー(中国名・南沙)諸島など、南シナ海における中国と周辺国との領有権問題も含まれているとみられる。
 また、会談後に共同声明を発表し、(1)国際法に基づく紛争の解決(2)シーレーン(海上交通路)の航行の自由(3)3カ国の防衛協力強化へ向けた行動計画の策定-などを盛り込んだ。3カ国は今後、さらに緊密に情報を共有し、共同訓練なども通じ警戒監視を強化する。
 また、日米韓の防衛・国防相は「北朝鮮の挑発行為は北東アジアと世界の安全保障にとって深刻な脅威だ」との認識で一致した。
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