ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

目標は適正人口~続少子化5

2006-06-30 11:04:59 | 少子化
 少子化・高齢化・人口減少の進む社会は、経済的には「負のスパイラル」に入り込み、社会的にはアトム化した個人を政府が支配する統制主義国家を生むことが予測される。
 私たちが迎える日本の将来は、このような国家・社会であってはならない。金子勇氏は、今後日本が目指すべき目標を掲げて、具体的な達成方法や方策を提案している。私は学ぶところの多い意見だと思う。

●目指すべき目標

 金子氏は、これまでの政府の少子化対策を次のように批判する。「現今の少子化対策は、最終的な少子化阻止という具体的目標が不鮮明であり、同時に社会全体における世代内・世代間の協力方法が鮮明には描かれていない」。つまり、目標とその達成方法がともにあいまいだというのである。
 これに対し、金子氏は、「少子化・高齢化・人口減少という三位一体の人口変化が進む社会すなわち『少子化する高齢社会』を『適正人口社会』に質的に転換する」ことを、大方針として提示する。そして国家全体の人口の目標値と、出生率の目標値を挙げる。
 金子氏は「2040年の人口予測1億人を適正人口と位置づけ」る。国立社会保障・人口問題研究所の『2003年予測』では、2050年は9000万人を割り込むが、2040年はかろうじて1億人と想定されている。この1億人を「適正人口」と想定するというのが、氏の発想である。
 私は何人が適正かはわからないが、日本の人口は放置していれば、やがて1億人を割り込み、9千万人、8千万人と減少し続けるだろう。周辺諸国との関係で安易に外国人労働者を多数入れることは危険である。だから、具体的な目標として1億人という数字を上げ、方策を検討することは有意義だと思う。

 この1億人という「適正人口社会」を目指すために、金子氏は、少子化ではなく「増子化」を唱え、かつ数値目標を掲げる。氏は、約30年後の2035年に「合計特殊出生率1.80を目標とした増子化を展望したい」という。
 1.80とは、1999年ないしは2001年の沖縄県の合計特殊出生率に当たる。1.80とした根拠は、「94年にそれまでで最低の合計特殊出生率1.65を記録したフランスがその後子育て家族支援を熱心にやった結果、ほぼ10年で1.90まで反転させたという経験を参考にして設定した」という。
 このように単に少子化を抑えるというだけでなく、数値目標をあげて増子化を目指し、日本国を適正な人口の社会に転換しようという意見は、画期的なものだと思う。

 次に、こうした目標を達成する方法について、金子氏は自らの考えを提示している。
 私は「男女共同参画社会」という理念は、個人主義とフェミニズムの推進でしかなく、この理念を修正しない限り、少子化・高齢化・人口減少を脱し得ないと見ているが、金子氏もまた次のように言う。
 「少子化する高齢社会は、旧来の『男女共同参画社会』という考え方では乗り切れない」「男女共同参画社会基本法のいう『男女』とは、法律には明記されていないものの、どう読んでも60歳までを対象に想定したと考えられる」「高齢社会は60歳を過ぎた人が増加する社会であることから、『男女共同参画社会』では不十分」だと批判する。
 年金にしても健康保険にしても、男女の関係だけではなく、世代間の関係で制度が成り立っている。それゆえ、「社会構成員を男女ではなく、老若男女をセットとして位置づける」必要がある。つまり、ジェンダー(性差)だけでなく、これにジェネレーション(世代)を結合して、社会のあり方をとらえなければならない、と金子氏は言う。
 そして、金子氏は「『男女共同参画社会』という考え方を含みつつ、若い男女も年をとった男女も、中年の男女も全部包括した『老若男女共生社会』」という概念を提唱する。

 金子氏は、社会目標を、男女共同参画社会から「老若男女共生社会」に転換する。「『老若男女共生』とは社会全体での『共生』にほかならず、男女共同参画社会づくりはその一里塚という歴史的意義をもっている社会目標である」と位置付けなおす。
 そして、「老若男女共生」により、少子化を増子化に転換して、適正人口1億人社会を創造するというのが、金子氏の説く目標達成の方法である。

 私見によれば、男女だけでなく老若、性差だけでなく世代をもとに、社会のあり方をとらえるのは、当たり前のことである。人間は生命ある存在であり、集団生活を営むことによってしか存続・繁栄できない。人間はこの世に生まれ、成長し、男女の結合によって子どもを産み育て、その子どもがまた次の世代を産み育てていく。その間、自らは老い、やがて死を迎える。
 こうした人間社会のあり方を、過去の学者は、18世紀には個人、19世紀には階級、20世紀には性差に重点を置いてとらえてきた。しかし、どれも生命あるものとしての人間社会の全体像をとらえ損なっていると思う。ものを見る根本的な枠組みが違っていれば、そこから編み出す少子化対策も、ポイントのずれたものになる。従来の政府の少子化対策はそれだった。
 その点は、次回に書きたい。
コメント (2)   トラックバック (1)

個人主義が反転~続少子化4

2006-06-29 10:30:23 | 少子化
 「個人主義的ライフスタイル」の広がりは、経済的な側面だけでなく、社会的な側面にも大きな影響を及ぼしていく。金子氏は大略次のように予想している。

●予測2~個人主義が反転

 少子化を放置すれば、これまで豊かな生活を維持してきた社会の仕組みが破壊される恐れがある。
 少子化によって平均世帯人員が減少し、家族の機能が低下する。また過疎地域は荒廃、都市部では町内会の加入率の低下が進み、地域社会も機能が低下する。職場も失業が増え、派遣社員やパートが増え、安心基盤とは見なせなくなる。これらによって、家族・地域社会・職場という個人を守るセイフティネット力が弱まっていく、と。

 私見を述べると、ここで金子氏が述べていることの根底には、近代化の進行によって、ここ400年ほどの間、世界の多くの社会で起こってきた変化である。即ち、村落共同体の解体、都市化、大家族の小家族化、企業の利益集団化等の変化である。近代化は、個人と国家の間にある様々な共同体を解体して、集団を個人化していく。それを推進するのが自由主義の思想であり、個人主義の価値観である。
 女性における個人主義の先鋭な形態は、フェミニズムとなる。フェミニズムは、個人としての女性の自由と権利の拡大を追及する思想・運動であり、女性における個人主義の推進と見ることが出来る。

 近年、わが国の政府が採って来た政策は、経済優先・個人主義・フェミニズムを特徴とする。伝統より経済、集団より個人、老若男女より女性を優先するものである。その結果、家族の紐帯が弱まり、また企業における日本的経営(終身雇用・年功序列・稟議制度等)が否定されてきた。市場原理と自由競争の推進、個人主義の徹底、フェミニズムの浸透は、社会の様々な集団の共同性を低下させる。個人は、自己の所属する集団の支えを失う。
 こうした社会では、一度大きな失敗をすると、「個人の自立」も自己実現も達成することが難しくなる。心身の不調、病気、絶望、自殺など、個を確立すべき個人が、個の自壊へ向かう。
 山田昌弘氏は、経済的格差が社会的格差を生み、さらに心理的格差を生む。それは、将来に希望の持てない人が増える「希望格差社会」だとこれをとらえている。また、三浦展氏は、かつては国民の多数が中流意識を持っていたが、中流の多くが下流に下がった「下流社会」に変貌している。「下流」の一部は、上昇することの困難な「下層」に固定し始めていると指摘している。
 わが国の少子化・高齢化・人口減少は、こうした社会変動を伴いながら進行している。ところが、政府は、これまでの政策を改めないどころか、経済優先・個人主義・フェミニズムの政策をさらに進めようとしている。

 こうした政策を継続すると、どういう国家が出現するか。金子氏は、社会学者・作田啓一氏の言葉を引く。「国家と個人との間にある中間勢力が一掃された後は、国家は全ての権力を一手に集中する。強大になり過ぎた国家と弱小になり過ぎた個人との関係は、疑いもなく全体主義社会を成立させる母胎である」(『価値の社会学』)
 そして大略以下のように述べる。「『家族破壊』を主張し、個人化を促進する先鋭化されたフェミニズムは、好むと好まざるとにかかわらず、国家の前に個人を剥き出すという潜在的逆機能を担っている」「家族の代わりに、自治体、会社、組合、工場、宗教団体、政党、階級、学校、地域集団、ロータリーやライオンズなどの『近代的中間集団』が、失業者を精神的にも経済的にも支えてくれるであろうか」「とりわけ本人の事情や会社の都合で就業が不能になった個人は、家族が支えなければバラバラの原子化された大衆の一員になってしまう」「『社会的紐帯のゆるみ』(トクヴィル)を伴う平等主義が家族や親族までも『個人化』したら、残ったものは原子化された個人でしかない」と。

 その結果は、どうなるだろうか。私見によれば、社会がアトム化した個人の集合となると、国家が個人を直接管理する統制主義国家が出現しやすくなる。アトム化した個人の集団である大衆は、独裁者や独裁集団の意のままに意識操作をされかねない。個人主義は極端に進むと、その反対物である統制主義に反転する。自由を追求してきたはずが、いつの間にか不自由に反転してしまう。
 社会の共同性はますます失われ、バラバラの個人の集合と化した大衆を、政府が支配するような国家に変貌していくだろう。

 昨年の9・11衆議院選挙では、与党が大勝し、国民の大多数の支持のもと、郵政民営化法が成立した。国民の大多数は、同法が従米的・売国的なものであることを知らないまま、政府の提案に賛同した。こうした動向は、今後現れ得る国家の姿の予兆かもしれない。しかも、この国家では、少子化・高齢化・人口減少が三位一体で進行していく。今のままでは、それを防ぐことはできない。基本的なものの考え方に問題があるからである。
 私たちは、これまでの政府の政策を点検し、大きく軌道を修正すべきときにある。
コメント (4)

負のスパイラル~続少子化3

2006-06-28 16:12:35 | 少子化
 少子化がこのまま続くと、日本はどのような国家になっていくだろうか。

●予測1~負のスパイラル

 わが国は、敗戦後の復興を成し遂げ、高度経済成長により、国民の年間所得が飛躍的に増えた。物質的に豊かな社会は、個人主義的な生き方を可能にする。
 アメリカでは、1980年代から個人主義的な生き方が顕著になり、それが日本にも流入した。そして、金子勇氏によると、「個人主義的ライフスタイルは1980年代から日本社会全体で広く容認されて今日に至っている」。そういう生き方も個人の自由であり、個人の権利を制限することはできないという理解が広がった。
 前回引いたように、金子氏は、ミクロレベルでの少子化の「背景」として、「①ライフスタイルの非社会的で自己中心型への転換」「②短期的で負担回避型のライフスタイルの蔓延」を挙げている。こうした、「個人主義的ライフスタイル」の表れの一つが、シングル(独身者)やディンクス(共稼ぎ子なし夫婦)の増大だと言えよう。

 私見を述べると、豊かな社会は、いつまでも豊かに成長を続けるとは限らない。資本主義経済には景気の循環があるし、様々な要因によって不況や成長率の鈍化などが起こりうる。わが国は高度経済成長の絶頂で「バブルの崩壊」を経験し、それ以後、長期的な不況に陥っている。それには、日米関係など、国際的な要因があるのだが、ここでは敢えて触れないことにする。

 豊かな社会にかげりを生じても、人はいちど味わった物質的な豊かさを捨てることがなかなかできない。豊かさを獲得した社会では、我慢や忍耐は美徳ではなくなる。ものの豊かさは、かえって心の貧しさを生み出しもする。欲しいものは欲しい、したいことはしたいという思う人が増える。欲望の追求が自由であり、自己実現だという考え方が強くなる。子どものときから豊かな生活環境で育った世代は、特にそうなるだろう。
 豊かな社会が行き詰ったとき、結婚前のそれぞれの生活の豊かさを維持したいと思う男女が現れるだろう。または子どもを持つ前までの豊かさを保ちたいと思う夫婦もいるだろう。そこで、それらの夫婦は、共稼ぎをして収入を増やすことを考える。と同時に、子どもを産まないか、子どもを産む数を減らすことによって、支出を減らすことを考える。子どもを産み育てる喜びや使命よりも、自分たち自身の生活の豊かさに価値を見出す。
 物質的な欲望が生命的な本能や心理的な愛情に勝る社会では、結婚をせずに独身で暮らすか、結婚をしても子どもを産まないか、少人数に抑えるかという道を選択する男女が増えるだろう。

 ここで注意すべきことがある。金子氏は次のように言う。「個人が自由に選択したライフスタイルの維持は、社会システムが通常に作動してはじめて可能」である。そして、次のような予測を述べる。
 「短期的には子どもを産み育てないかまたはその数を減らすという個人的対応が、個人生活の豊かさを維持させる。それによって社会全体で年少人口が減少し、加えて総人口まで漸減するようになり、市場が縮小する。それはモノもサービスも売れにくくなることを意味し、企業業績の低迷を引き起こす。年少人口層でも総人口全体でも全体としての購買者が少なくなるので、消費水準が落ち、企業活動は停滞し、その業績も悪化する。
 その結果として企業内部のリストラによる失業も増大し、つかの間の豊かさを満喫していたディンクスもシングルもリストラ組に回される危険性が高まる。企業低迷と失業者の増加という社会的危機が、それまでの個人生活の豊かさを直撃する。
 個人や家族が支持する政府による真摯な少子化克服策が発動されなければ、21世紀の日本社会はこの負のスパイラルに入ることはほぼ確実である」と。

 豊かさによって個人の自由が拡大するが、個人の自由を無制限に追求すると、その基盤である豊かさが失われていくという反転が起こると考えられよう。

 次回は、予測の2。
コメント

少子化の原因と背景~続少子化2

2006-06-25 21:24:33 | 少子化
 少子化の原因は何だろうか。またその背景には、何があるのだろうか。

●少子化の原因

 少子化の原因は何か。金子勇氏は、「少子化の原因は、未婚率の漸増と既婚者の出生力の持続的低下である」と明快に指摘している。これらこそ、少子化の直接的な原因また二大原因である。

 まず未婚率の上昇については、昭和55年(1980と平成12年(2000)の比較では、男性の場合、25~29歳では55.1%から69.3%へ、30~34歳では21.5%から42.9%へと倍増した。女性の場合、25~29歳では24.0%から54.0%へと倍増し、30~34歳では9.1%から26.6%へと3倍に増えている。
 女性の25~29歳では、1970年代では「5人に1人が独身」であったが、30年間に「2人に1人が独身」となっている。男性の25~29歳では、同じく「2人に1人が独身」であったが、現在は「10人に7人は独身」となっている。
 すなわち、晩婚化が進むとともに、単身者が増えている。この単身者を「シングル」と呼ぶ。「独り者」である。特に「学卒後もなお、親と同居し、基礎的生活条件を親に依存している未婚者」を「パラサイト・シングル」(山田昌弘氏)という。
 「パラサイト・シングル」は、親と同居することにより、自分の好きなように時間と金銭を使用できることが主な発生要因とみられているが、フリーターやニートの増加により、独立して生計を営むのは困難なために、親に寄生動物(パラサイト)のように依存している単身者も増えている。

 次に既婚者の出生力の低下については、晩婚化は、晩産化となる。年齢的に女性が出産できる期間は限られているから、結婚が遅くなれば、子供を産む数が少なくなる。
 金子氏は経済的な理由も指摘している。「一人当たり大学卒業までの子育て費用が3000万円」かかる。この経済負担を回避するために子供を産まないか、少なくするという傾向が出ている。
 なかでも結婚しても子どもは産まないという考えを持つ女性が増えている。共稼ぎで子供は持たない夫婦を、「ディンクス(DINKS)」という。「共稼ぎの子無し夫婦」である。
 こうした晩産化、少産化、ディンクスの増加等が重なり合って、既婚者の出生率の低下となっている。

 シングルとディンクスは、金子氏は「個人主義的ライフスタイル」を示すものであり、「1980年代から日本社会全体で広く容認されて今日に至っている」と指摘している。

 このように未婚率が上昇し、結婚しても出生数が減れば、当然、全体として子供の数が減るわけである。これらが直接的な原因となって、合計特殊出生率の長期的な低下が生じているのである。

●背景にある事実

 上記の少子化をもたらす直接的原因には、「背景」となる事実があると金子氏は述べる。その「背景」をマクロレベルとミクロレベルに分けて列記している。

 まずマクロレベルでは、
①コミュニティレベルに存在していた既存の子育て支援システムの崩壊
②小家族化による子育て支援の家族力の喪失
③女性の社会進出に伴う機会費用の増大
④友人関係ネットワークによる子育て支援システムの弱まり
などである。
 またミクロレベルでは、
①ライフスタイルの非社会的で自己中心型への転換
②短期的で負担回避型のライフスタイルの蔓延
③産み損・育て損に象徴される社会的不公平性の増加
④子どもが減少する社会への想像力不足
などである。

 ここに金子氏が少子化の「背景」として挙げていることは、戦後の日本社会の変化、特に高度経済成長期以降の社会的変化を表している。つまり、村落共同体の解体、人口の都市への流入、大家族から核家族への縮小、女性の社会進出、都会での人間関係の希薄化等である。そして、それらの変化に伴って、特に1980年代以降に表われてきた価値観や生活様式の変化を氏は指摘しているものと思う。

 金子氏が挙げる「原因」と「背景」は、専門家による社会学的な分析であり、私は異存ない。そのうえで、私が少子化の進行する「条件」として指摘したのは、さらにその基盤にあるものなのである。
 その基盤的条件が、敗戦と民族の劣化、自虐的歴史観による呪縛、男性の権威と役割の低下、知識の高度化と女性の高学歴化、個人主義の蔓延、フェミニズムの浸透と性の快楽化である。こうした条件を考慮しないと、少子化対策は、真に有効なものとならないと私は考える。
 その条件の転換には、新憲法の制定、教育基本法の改正、男女共同参画社会基本法の見直し、フェミニズム行政の転換等が必要となる。つまり、日本という国のあり方を根本的に改めないと、脱少子化はなし得ない。この点は、拙稿「脱少子化と日本再建は一体の課題」に書いた。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion02f.htm

 私が挙げる「条件」のうち、個人主義の蔓延とフェミニズムの浸透は、金子氏のミクロレベルでの少子化の「背景」と一部重なっている。
 すなわち「①ライフスタイルの非社会的で自己中心型への転換」、「②短期的で負担回避型のライフスタイルの蔓延」、「③産み損・育て損に象徴される社会的不公平性の増加」は、個人主義の蔓延とフェミニズムの浸透とに、深くかかわっている現象だからである。
 私の観点によれば、金子氏の少子化に関する分析は、政府による分析より、実態に迫っている。政府は、個人主義の徹底とフェミニズムの浸透をよいことと捉えている。その思想によるために、社会現象の見方にゆがみを生じている。それに対し、金子氏は、個人主義とフェミニズムの弊害を深く認識している。だから、政府があいまいに指摘するのみか、避けている部分を、国民に問題点として明らかに示しているのである。

 次回に続く。 
コメント (2)

少子化する高齢社会~続少子化1

2006-06-24 07:52:59 | 少子化
 人口の増加は、17世紀の半ば、欧州で始まった。資本主義が発達し、近代化が進みだした時期と一致する。18世紀半ばイギリスで産業革命が起こると、人口増加が加速した。その後、保健医療の発達と子どもの数の減少との時間差から、多くの国は、「多産多死」→「多産少死」→「少産少死」の過程をたどっている。
 伝統的な社会では、「多産多死」つまり多く生まれるが多く死ぬことで、人口は安定していた。近代化は、子供の死亡数の減少をもたらし、「多産少死」への移行をもたらす。この過程で、人口が急激に増える人口増加が起こる。その後、近代化が進行するに従って、子供を生む数が減り、「少産少死」に移行する。この段階で、少子化が起こる。同時に、高齢化が進行し、少子高齢社会が出現する。

 欧米では、「多産少死」から「少産少死」への移行は、戦前にほぼ終了していた。1970年代以降、多くの国で、人口維持に必要な合計特殊出生率2.08を割り込み、低下が続いた。
 1980年代前半には、欧米はわが国とほぼ同じ少子化水準に達した。しかし、アメリカ、フランス、スウェーデン、デンマーク、オランダなど相当数の国で、出生率が反転して高くなっている。これに対し、長期低落を続けている国々もある。

 わが国の場合は、戦前から多産から少産の傾向が現れていた。戦後のベビーブームの終息後は、昭和20年代半ば以後、合計特殊出生率は急激に低下した。
 その後、昭和48年以降は、第2次ベビーブームの一時期を除いて、坂道を下るように低下を続けている。平成12年(2000)には1.36だった。以後、1.33→1.32→1.29→1.29と下がり続け、平成17年(2005)に1.25と過去最低を記録した。現在の時点では、反転の兆しは認められない。
 少子化対策が効果を挙げている国がある中で、わが国の少子化対策は、少子化をとどめえていない。少子化対策は、根本的に再検討しなければならない。

 このような観点に立つとき、注目すべき本がある。金子勇氏の『少子化する高齢社会』(NHKブックス)である。氏は、北海道大学大学院教授で、少子高齢社会学の専門家である。
 この本に書かれていることを整理しながら、脱少子化について検討を続けてみたい。

 本書の目的については、著者が次のように書いている。
 「本書は、人口減少社会を「少子化する高齢社会」と理解して、最終的な適正人口を1億人と想定し、現状が抱える問題点を明らかにして、そのうえでの対応策を総合的にまとめあげたもの」であると。
 昨年の平成17年(2005)からわが国の人口は減少し始めた。これから人口減少が続くと予測される。この「人口減少社会」は、少子化と高齢化が同時に進む社会でもある。
 金子氏は、この現代日本社会を「少子化する高齢社会」と理解する。つまり、少子化と高齢化の両者を「相互に連動した問題」と把握する。この少子化・高齢化・人口減少という三つの同時並行的な現象を「三位一体の人口変化」とも呼ぶ。
 そして、氏は、少子化・高齢化・人口減少が三位一体となって進む「少子化する高齢社会」の「根本的な解決」をめざす。そのため、数値目標を掲げる。2040年の人口として予測される1億人を「適正人口」と位置づけ、「適正人口1億人」を実現すべき目標とする。
 この目標達成のために、氏は本書で「基本的な論点」を具体的に提示し、「現状を整理して、時代動向を半歩でも一歩でも先取りして、『少子化する高齢社会』への社会全体での最適な対応の必要十分条件を明らかにするように努めた」という。そして、氏が「必要十分条件」と呼ぶところの対策をいくつか提唱している。

 金子氏の現状認識は、近年、政府が発表している現状認識の不備を明らかにし、政府による対策の欠陥を鋭く指摘して、それを乗り越える具体策を示している。氏の現状認識は、個人主義の蔓延やフェミニズムの浸透を少子化の原因ととらえ、政府の少子化対策が個人主義的・フェミニズム的であるがゆえに、効果を挙げていないことを的確に指摘している。そこから当然、対策についても、個人主義的・フェミニズム的発想でなく、共同性・公共性を重視する考え方が打ち出されている。
 私が特に注目するのは、この点である。以下、氏の論述を整理しながら、私見を述べて行きたい。

●現状認識

 少子化の進行については、先の拙稿に詳しく書いたが、少子化と高齢化を連動した問題としてとらえるために、高齢化に関することを補いたい。
 少子化の進んできたわが国では、平成17年(2005)に高齢者が人口の約5分の1ともなった。高齢者とは、65歳以上の人をいう。平成25年(2013)には、高齢者の割合が4分の1に、また平成37年(2035)には3分の1になる。
 この高齢化の進行において、これから10年以内に顕著なことが起こる。それは戦後第1次ベビーブームに生まれた「団塊の世代」が定年を迎え、高齢者の仲間入りしていくことだ。
 金子氏は団塊世代を昭和22年(1947)~25年(1950)生まれとする。来年の平成19年(2007)は、昭和22年生まれが、60歳の定年を迎える。そこでこれを「2007年問題」という。来年から始まって「団塊の世代」約800万人が、3~4年のうちに定年となる。そして、金子氏によれば、「最後の1950年生まれが65歳になるときに、わずか4年間で800万人が高齢者の側に分類されるようになる」。その「団塊世代全員が高齢者に仲間入りするのが2015年」である。
 すなわち、高齢化は「団塊の世代」という特異に人口の多い世代が高齢者の仲間入りをすることによって、これから顕著になるわけである。

 少子化のほうは、高齢化と違い、一方向的に進むものではない。子供を生む人が増えれば、改善されるからだ。しかし、わが国の合計特殊出生率は、昭和48年以降、30年以上にわたって低下傾向にあり、過去5年間は毎年、最低を更新している。昨年は、1.25となった。私は、日本人が根本的なものの考え方、生き方を改めない限り、大きな改善は見込めないと見ている。

 少子化は、若年人口の減少となるので、人口における高齢者の割合を高くすることになる。総人口に対する65歳以上の割合を、高齢化率という。金子氏は「少子化は確実に総人口を減少させるが、あと数十年は高齢者が増加するので、高齢化率は上昇する」と述べている。
 今後も少子化が改善されないと、高齢化率は高くなる。また、少子化と高齢化の相互連動的な進行によって、人口は減少する。金子氏は、「今後約30年間は人口減少が続く」という予測を記している。この少子化・高齢化・人口減少が三位一体で進む社会は、子供が減り、年寄りが増え、日本人が少なくなっていく社会である。

 次回に続く。
コメント (2)

脱少子化と日本再建は一体の課題

2006-06-23 15:44:27 | 少子化
 今月3日から16日にかけて、都合11回、少子化に関して連載した。その原稿をもとに一部書き直したものを、私のサイトに掲載した。
 こうやって書いてみると自分の考えが整理できるし、また勉強不足な点もわかってくる。
 もしまとまった形で読み直したい人、またこれから読んでみようと思う人がいらしたら、以下へどうぞ。
 是非一緒に、この少子化という大問題について考えていただきたいと思う。

拙稿「脱少子化と日本再建は一体の課題」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion02f.htm
(※左のブックマークからも飛べます)
コメント

「脱少子化フォーラム」のご案内

2006-06-21 12:45:21 | 少子化
 東京江東区で助産院を開業している石村あさ子さんが中心となって、脱少子化をめざすフォーラムが行なわれる。

 石村さんは、家庭出産を推進している助産婦さんだ。その活躍は、NHKや読売新聞等で何度も取り上げられている。

 石村さんの助産院で出産する人は、平均2.3人子供を産んでいるという。現在の日本の特殊合計出生率は1.25だから大きく上回っている。家族の絆を大切にするお産は、脱少子化に大きな可能性を秘めているようだ。
 以下、そのフォーラムの案内を転載させていただく。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

●お知らせ ~石村あさ子からの情報をお届けするコーナーです~ はここから

脱・少子化フォーラム2006「子をもつ喜びを」というテーマで行います。
ぜひお越しください

 少子化問題を取り上げるニュースを耳にすることが多いのではないでしょうか?この深刻な問題・・・どのようにしたら解決できるのでしょう。
 そんなに子をもつことは苦痛を伴うものなのでしょうか?お産を通して見えてくる「子をもつこと」を皆さんと考えてみたいと思います。

日 時:平成18年7月16日(日)13時~16時(12時半開場)
場 所:江東区深川江戸資料館小劇場
入場料:500円
主 催:助産婦石村(03-5690-8979)
後 援:神霊教
協 賛:ハローベビー江東、NPO法人助け合いの会江東しあわせ、㈱主婦の友社、㈱ベビーリース、㈱明治乳業、自主保育深川あそび隊、Coccoina、下町情報誌「深川」、子育て応援情報誌「みんないっしょ」

主なプログラム

1.基調講演
 聖路加看護大学看護実践開発研究センター 江藤宏美氏

2.家庭出産の体験発表
 NHK「つくってあそぼ」わくわくさんこと 久保田雅人氏、
 本幡羊子氏

3.ミニコンサート「心に残る日本の歌」
 吉田清子氏、
 bear-Te、
 齊藤果林

4.パネルディスカッション 脱・少子化(子を持つ喜びを)
 東京都議会議員 山崎孝明氏、
 わくわくさんこと 久保田雅人氏、
 筑波大学臨床教授 佐々木純一氏、
 神霊教事務局 二橋英一郎氏、
 コーディネータ: 石村あさ子
 司会: 深澤 洋子
 
 盛りだくさんのプログラムですので、是非来てくださいね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 私も当日、出張先から駆けつけたいと思っている。

参考:
・「助産婦石村」のサイト
http://www.josanpu-ishimura.com/
コメント

史実を世界に発信する

2006-06-20 12:58:43 | 歴史
 私の知人である茂木弘道氏(世界出版社長)が、3月に高名な外交評論家・加瀬英明氏を会長として「史実を世界に発信する会」を発足し、日本語ホームページを立ち上げた。
http://hassin.sejp.net
 この会の趣旨については、茂木氏が月刊「WiLL」3月号の「南京大虐殺は中国のブラックプロパガンダ」と題する文章に述べている。
http://hassin.sejp.net/will03a.GIF
http://hassin.sejp.net/will03b.GIF
http://hassin.sejp.net/will03c.GIF
http://hassin.sejp.net/will03d.GIF

 茂木氏らは先月、このサイトの英文版を立ち上げた。
http://www.sdh-fact.com
 南京事件等、わが国の歴史については、事実と異なる英文情報がインターネットの世界に氾濫している。その多くは誇張・ねつ造によるものである。
 日本人が正しい史実を英文で発信していかないと、日本語の読めないネット利用者は、情報の多いものを事実として誤認してしまう。現状は、残念ながらほとんどやられ放題であった。
 これではいけないと立ち上がり、活動をされているのが、茂木氏らである。

 茂木氏によると、このサイトは、オピニオン・論争のサイトではなく、資料提供をしていくことに特化したサイトである。いわば、論争の前のインフラつくりをしようというものという。問題が起こったときに、論争をしようにも、こちらの依拠するデータ、資料が英文で存在していないところでそれを行っても、ほとんど相手にならない。いわば武器を持たないで素手で戦いをするようなものとなる。そのような状況に実際日本はおかれている。そこのところを何とかしようというのが今回の事業の目的とするところだという。世界の人々が参考にするArchivesにしていこうと思っているとのことである。

 多くの方々に、このサイトを訪れていただきたく思うとともに、英語の読める友人・知人・外国人にもご紹介いただければ幸いに思う。
コメント (4)   トラックバック (2)

北朝鮮人権法とスパイ防止法

2006-06-19 17:22:59 | 国際関係
 北朝鮮人権法の成立について一昨日書いたが、同法が有効に生かされるためには、憲法・刑法及びスパイ防止法の整備が必要である。これらの整備なく、同法だけでは真に有効なものとならない。そのことについて、以下に私見を書きたい。

 日本は、「スパイ天国」と呼ばれる。外国のスパイが、やすやすと国家機密から企業情報、個人情報に至るまでを収集できる。それは、憲法と刑法に重大な欠陥があり、諜報活動を取り締まる法律が存在しないからである。
 憲法の欠陥は、第9条において国防に規制がかけられていることが根本問題である。そして第9条の規定と相即して、国民に国防の義務がない。そのため、国民に国防教育が行われていない。一般の大学には軍事学の科目がない。だから、国民は国防上、スパイを防止することがいかに重要なことかを学ぶ機会がない。
 刑法については、明治41年に制定された刑法第85条には、「敵国のために間諜をなし、又は、敵国の間諜を幇助したる者は、死刑又は無期もしくは5年以上の懲役に処す。軍事上の機密を敵国に漏洩したる者また同じ」と規定されていた。スパイ行為と機密漏洩を防ぐものである。ところが大東亜戦争敗戦後、占領下の昭和22年にこの条文は削除された。当然、GHQの指示による。それが独立回復後も、現在までそのままになっている。
 わが国は独立主権国家として、憲法を改正して国防を整備し、また刑法第85条の復活をすることが必要である。そのうえで、個別法としてスパイ防止法を制定して、具体的に規定する必要がある。

 先進国でスパイ防止法を定めていないのは、日本だけである。現在、諜報活動の防止に関する法律は、①日米安保条約の実施に伴う米軍関係の刑事特別法、②日米相互防衛援助協定に伴う秘密保護法、③公務員法等の守秘義務規定があるだけである。これでは、スパイ活動の防止にはきわめて不十分である。その結果、スパイ天国と呼ばれるような状態になっているわけである。
 国家及び国民に重大な損失を与える恐れのある軍事機密、外交機密は、保護されねばならない。国家及び国民の安全を脅かす機密情報の漏洩は、犯罪として厳重に処罰されなければならない。そのためには、スパイ行為自体を禁止する個別の法律が必要である。

 例えば、ドイツの場合、「連邦憲法擁護法」(別名・スパイ防止法)により、憲法擁護庁と連邦情報庁が設置されている。国の安全を脅かす自国民および外国人による危険な活動を監視したり、諜報手段を用いて政治・経済・軍事・軍事技術分野の諸外国に関する情報を収集し分析したりしている。こうすることで国家破壊工作から自国と国民を保護している。
 一方、日本にはこれに相当する取締法も機関もない。かつて昭和60年、自民党が議員立法として「スパイ防止法案」を国会に提出した。ところが、左翼の政党や有識者、マスコミらが「危険な法律」だとして喧伝したため、世論は反対に向かい、法案は廃止となった。

 この法案は「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」といった。「外国のために国家秘密を探知し、又は収集し、これを外国に通報する等のスパイ行為等を防止することにより、我が国の安全に資すること」を目的とした。第二条に「国家秘密」について、「防衛及び外交に関する別表に掲げる事項並びにこれらの事項に係る文書、図画又は物件で、我が国の防衛上秘匿することを要し、かつ公になっていないものをいう。」として、具体的な事項を掲げたものだった。
 以後、20年以上たつが、こうした法律は作られないままである。逆に、情報公開法が制定されたので、情報開示の進むなか、機密情報の保護が一層しにくい状態となっている。国防及び外交上、明らかにしてよい一般的な情報と、機密を守らねばならないものとを峻別しなければならない。

 このたび北朝鮮人権法が制定されたが、北朝鮮による日本人の拉致は、外国のスパイ活動を防止できないわが国の弱点を露呈したものである。日本人拉致は、金日成・金正日に指令を受けた特殊工作員が日本に入国し、国内にいる協力者と連携して、実行したものである。拉致された日本人の多くは、北朝鮮で日本語の教師としてスパイ養成に協力させられてきた。
 わが国にスパイ防止法があり、そのもとに統一的な防諜機関が作られていれば、外国工作員や在日外国人及び同調する日本人の行動やその組織を監視し、相当程度、拉致を防止できたものと思う。

 今日のわが国は、依然として諜報活動に対して無防備な状態にある。スパイ防止法の立法化を急ぐ必要がある。これは日本の国防上、不可欠であるだけでなく、同盟国に対しての責務でもある。
 また、今後、北朝鮮からの脱北者を受け入れる場合において、その中に工作員や反日活動を志す者が含まれている可能性がある。わが国は国家主権を行使し、対象者の調査と監視を実行しなければならない。制定すべきスパイ防止法は、その根拠法ともなるものである。
 人道の問題と国防の問題は、しっかり分けて考えなければ、国家の安全と国民の安全は守れないことを肝に銘じたい。
コメント

北朝鮮人権法の成立を祝す

2006-06-17 22:07:39 | 国際関係
 北朝鮮人権法が16日、参院本会議で自民・民主・公明3党などの賛成多数で可決し、成立した。同法は、拉致問題などの人権侵害に対して制裁措置を促すものとなる。正式には「北朝鮮人権侵害問題対処法」という。

 私はまだ同法の全文を手にしていない。報じられるところによると、同法は、拉致問題の解決を「国家の責務」と定義付け、日本政府が同問題を徹底的に調べ、日本人拉致被害者の帰国の実現に最大限の努力をすることを明記している。同法は、拉致問題など人権侵害状況に改善がない場合、政府が改正外為法・外国貿易法などによる経済制裁を発動することを求めている。北朝鮮が拉致問題に誠意ある対応を示さない場合、日本政府が経済制裁を行うための根拠法となる。また、脱北者への支援を行う非政府組織(NGO)などへの財政的支援を講じるなどとしているという。

 同法の制定は、アメリカを始めとする諸国が北朝鮮の人権問題の解決に積極的な姿勢を示している中で、わが国が拉致問題等の解決に向け、国際的連携を進めるために、必要なものである。

 アメリカでは、北朝鮮の人権問題に強い態度で臨んでいるブッシュ政権のもと、一昨年の平成16年(2004)10月、北朝鮮の人権侵害状況が改善されない限り、人道支援以外の経済支援をしないとする「北朝鮮人権法」が制定されている。
 ブッシュ大統領は去る4月28日、拉致被害者家族の横田早紀江さんらと会見して支援を約束した。これは同法の主旨に沿ったものだ。同法は拉致問題とともに、北朝鮮脱北者の支援にも多くの規定を設けている。
 横田さんらとの会見の席には、平成14年5月に瀋陽の日本総領事館に駆け込んだ脱北者5人も招かれて同席していた。これは、北朝鮮政府だけでなく、中国共産党政府に対しても、強い意思を伝えようとしたものと見られる。
 今年、7月にロシアのサントペテルブルグで行われるサミットでは、北朝鮮による拉致問題が、日本だけでなく10数カ国に被害者のいる国際問題として取り上げられる予定である。
 こうした国際的な動向の中、わが国の国会で与党及び民主党からそれぞれ法案が出され、与野党一致で北朝鮮人権法の成立を見たことは、喜ばしい。ただし、この法律をどう運用するかは、政府の姿勢による。首相や外相、外務官僚らが本気で外交に当たらないと、この法律は生かされない。

 わが国は、多数の日本人が拉致されている当事者として問題に取り組んでいる。しかし、それだけではなく、独裁政権のもと多くの人々が虐待や飢餓にさらされている北朝鮮の体制の問題として取り組む必要がある。当然一国で解決できることではないので、国際的な連携のもとに進めていかねばならない。
 今後、日本が単に自国民の保護だけでなく、北朝鮮の人道問題を解決しようという姿勢を示すことによって、国際社会の理解と共感を一層得ることができ、拉致問題解決にもさらなる協力を得られるだろう。

 今回の北朝鮮人権法の成立には、特定失踪者問題調査会・拉致被害者家族連絡会など北朝鮮関係6団体が、早期成立に要望を出していた。要望のすべてではないが、経済制裁の明記など一定の反映が見られたことは成果だったと思う。
 以下がその要望書の全文である。

---------------------------------------------------------
●北朝鮮に関する人権法案に対する要望

 北朝鮮では多数の人々がはなはだしく人権を蹂躙されているばかりか、日本、韓国、レバノン、タイ、中国をはじめとする12カ国にも及ぶ人々が拉致されるなど、金正日政権による人権侵害は、世界で最悪のもとなっている。

 一昨年、米国では北朝鮮人権法が制定され、昨年はブッシュ大統領が脱北者姜哲煥氏と面会し、北朝鮮の収容所の実態と脱北者救出の要請を受け、12月には国連総会本会議で北朝鮮の人権侵害に対する批判決議が採択された。今年4月にはブッシュ大統領
が横田早紀江さんなど拉致被害者家族と脱北者に面会し、拉致問題へも強い関心を表明した。また、米国のレフコウィッツ北朝鮮人権担当特使は、中国が脱北者を「不法入国者」として強制送還していることを「深刻な人権侵害」と批判し、脱北者を「難民」として実際に受け入れることを表明した。韓国においても、金英男さんのDNA鑑定を契機に拉致被害が再認識されつつあり、金正日政権の人権侵害に対する国際的な批判が高まっている。
 北朝鮮に大勢の人を拉致された私たちは、拉致がわが国民に対してなされた許しがたい人権侵害であると同時に、国民生活の安全を脅かすわが国への重大な主権侵害であることを自覚しなければならない。さらに私たちは、帰還事業で北朝鮮に渡っていった
在日朝鮮人とその日本人配偶者の迫害など、北朝鮮の特異な独裁体制に起因する深刻な人権問題を抱えていることを忘れてはならない。
 近年、生活苦と迫害によって北朝鮮を脱出した人々が救助を求め、すでに8000人近い人が韓国に入国し、日本にも100人ほどが入国していると思われる。今後、金正日政権の政権維持能力によっては、政権の崩壊も予想される。そのような場合、一時
的に大量の難民の発生も想定されるが、そのような事態の発生にも万全の体制を整え、一定の難民の保護を引き受ける覚悟をもって事に当たらねばならない。
 何よりも大切なことは、東アジアで拉致、誘拐、難民への虐待、強制収容所などの人権侵害を起こさせない国際関係を作りあげることが、東アジアの平和と民主主義と発展の基礎になるという認識を持つことである。
 私たちは、このような時に自由民主党と民主党からそれぞれ「北朝鮮人権法案」が国会に提出されたことを心から歓迎すると同時に、直接これらの課題に取り組んでいる者として下記の要望を提出し、必要かつ十分な、実効ある一つの最終案が形成されることを強く要望する次第である。
 具体的には、問題解決のこれ以上の引き延ばしを許さず、
(1)金正日政権の国家犯罪に対する制裁を時期を失せず課することができるよう明記すること、
(2)北朝鮮に拉致された疑いがある人たちの調査を積極的に行い、拉致認定の業務を迅速に行うこと、
(3)日本に関係する北朝鮮難民(脱北者)を速やかに保護すること、
(4)日本に戻った拉致被害者と脱北者について、心身の健康回復と新しい環境におけるメンタルケアに充分配慮し、社会生活の再建、自立を支援すること、
(5)人道的立場から北朝鮮難民の保護に、国際的な連携を図りつつ、日本政府が積極的な役割を果たすこと、
以上の5点を北朝鮮人権法の中に盛り込み、実施していくことを強く求める。
           2006年5月12日

特定失踪者問題調査会 代表 荒木和博
北朝鮮難民救援基金 事務局長 加藤 博
北朝鮮による拉致と人権問題にとりくむ法律家の会 代表 木村晋介・藤野義昭
北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会 代表 山田文明
北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会 会長 佐藤勝巳
北朝鮮による拉致被害者家族連絡会 会長 横田 滋
(順不同)
---------------------------------------------------------
コメント (11)