ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

大阪維新4~憲法改正案は要点を欠く

2012-04-30 08:54:47 | 橋下
●憲法改正案は自主防衛と非常事態規定を欠く

 去る4月28日わが国が独立回復60年を迎えるに際し、自民党は憲法改正案を発表した。みんなの党、たちあがれ日本は、新憲法の大綱を公表した。次の衆議院選挙は自民党が大勝すると予測されており、その自民党が憲法改正を政権公約の第一に掲げるから、憲法が選挙の争点の一つとなるだろう。戦後初、ようやく来る好機である。
 さて、維新版八策の骨子は、憲法改正を第8の課題としているが、内容は「憲法改正要件(96条)を3分の2から2分の1に緩和する」「首相公選制」「参議院の廃止をも視野に入れた抜本的改革」「衆議院の優越性の強化」の4項目のみ。道州制の導入も憲法改正を要する政策だが、第1の課題である統治機構の作り直しには挙げてあるものの、憲法改正の課題には書いていない。その意図はわからないが、最大の問題はそもそも何のために憲法改正をするのかが説かれていないことである。維新八策の「目的」のキーサードである「決定」「責任」「自立」との関係を、ほそかわなりに慮れば、統治機構を作り直すために憲法を改正するということになるだろうが、憲法改正の課題に、そのように明記はされていない。
 憲法改正に関し、特に重要なのは日本の安全保障をどう確保するかである。ところが、維新八策は、肝心の憲法9条に触れていない。要点を欠いている。大きな欠陥である。第7番の外交・安全保障政策の課題には、「自主独立の軍事力を持たない限り日米同盟を基軸」という前提付きの表現を使っている。日米同盟を基軸とするのは日本外交の根本だが、自主独立の軍事力を持つならどうなのか、自主独立の軍事力を持とうという政策なのか、現在の自衛隊をどうするのか、全体があいまいである。また「日米豪で太平洋を守る=日米豪での戦略的軍事再配置」「国際貢献する際の必要最低限の防衛措置」等と挙げてはいるが、集団的自衛権の行使には踏み込んでいない。
 維新八策の骨子発表後、憲法第9条をどう考えるのか、橋下氏にマスメディアが質問を向けた。橋下氏は2月24日、ツイッターで、憲法9条改正の是非について、意見を明らかにした。そして、9条について「決着をつけない限り、国家安全保障についての政策議論をしても何も決まらない」と指摘。9条改正の是非について2年間と期間を区切って徹底した国民的議論を行い、国民投票で方針を定めることを提案した。
 また橋下氏は、被災地のがれき処理の受け入れが各地で進まない現状について、ツイッターで「すべては憲法9条が原因だと思っている」と述べた。3月5日、発言の真意を報道陣に問われた橋下氏は、「平穏な生活を維持しようと思えば不断の努力が必要で、国民自身が相当な汗をかかないといけない。それを憲法9条はすっかり忘れさせる条文だ」と述べた。「9条がなかった時代には、皆が家族のため他人のために汗をかき、場合によっては命の危険があっても負担することをやっていた」「憲法9条は、自分が嫌なことはしないという価値観だ。自己犠牲しないのなら、僕は別の国に住もうかと思う」と語った。その一方、「平和を崩すことには絶対反対で、9条を変えて戦争ができるようになんて思ってない。9条の価値観が良いか悪いかを、国民の皆さんに判断してほしい」とも述べた。
 こうした一連の発言を見ると、橋下氏は憲法第9条の弊害を強く意識し、戦後の日本人が社会の中で進んで自分の役目を果たそうという姿勢や、互いに助け合い、支え合う生き方を失ってきているのは、第9条が原因だと考えているようである。だが、そこまで強く意識しているのであれば、国民に憲法第9条の改正を訴え、どのような条文としたいのか、どのように「自主独立の軍事力」を持って、「日米豪で太平洋を守る」ようにしたいのか、具体的に提示すべきだろう。政治家がなすべきことは、国民に話し合いと判断を求める前に、自分はこうしたい、それはこういう理由・目的だからだ、と率直に語ることだろう。橋下氏は、それができていない。自分の国を自ら守るという国防の義務を訴えていないからである。この自主独立国家の根本的なあり方を取り戻さないと。日本は本当にはよくならない。そのようにはっきり言わないと、国民への呼び掛けにはならない。ぜひもう一歩、考えを進めて、国民にはっきりと呼び掛けてほしい。
 そういう呼び掛けのできる指導者になるには、まず「自己犠牲しないのなら、僕は別の国に住もうかと思う」という言葉を撤回することが必要である。他人が自己犠牲しないなら、自分が「別の国」に住もうと考えるのは、本当の愛国心ではない。他の誰も自己犠牲しなくとも、我一人でも国を守るという決意こそ、同胞の心を動かす。橋下氏は先の言葉を吐いたことを恥じ、まずそれ撤回したうえで、国防に関する考えを進めてほしい。
 次に、憲法改正に関し、橋下氏は、非常事態規定について、何も述べていない。これも要点を欠く。これも大きな欠陥である。私は、6年前に新憲法案を作って、マイサイトに公開している。その私案に非常事態条項を設け、折に触れて非常事態規定の必要性を説いてきた。特に独創的なことではなく、明治憲法には規定があり、世界各国の憲法は非常事態の対処を規定している。独立主権国家であれば、不可欠の規定である。昨年東日本大震災が発生し、原発事故が深刻化するなか、私は、この国家非常事態において、早急に憲法に非常事態条項を定め、対応を強化できるように訴えてきた。
 だが、橋下氏は、日本人が大地震・大津波・原発事故という手痛い経験をした後であるのに、憲法改正案に非常事態条項の新設を挙げていない。この点を見て、私は、橋下氏は、日本国民1億2千万を率いる真の指導者に成り得る人材なのか、大きな疑念を持つ。橋下氏は、教育・財政・年金・社会保障・公務員制度等については、改革のできる能力を持っているかもしれない。しかし、一国の総理大臣たるべき人物は、他国からの侵攻、内乱、大規模自然災害等の国家国民の最大危機において、敢然と国民を指導し、国家機関を指揮できなければならない。
 現在の橋下氏は、安全保障と非常事態に関して、国家最高指導者に必要な気構えを持っていないように私には見える。近年の中国の軍拡や北朝鮮の核開発といった東アジアの厳しい国際環境、そして今後も巨大地震が首都や東海・東南海・南海が発生する可能性――こういう環境と時代を生きている日本人としては、橋下氏はまだ状況認識が浅く、感覚が鈍いのではないか。意識と覚悟が変われば、国防の義務と非常事態規定は憲法改正における極めて重要なポイントであることを理解できるようになるだろう。

 次回に続く。

防災・防衛の脅威と憲法改正

2012-04-29 06:43:31 | 憲法
 本日は「昭和の日」である。この日は本来、昭和天皇の天皇誕生日だった。現在は「激動の日々を経て、復興を遂げた昭和の時代を顧み、国の将来に思いをいたす。」と祝日法に定められている。昭和は恐慌、戦争、敗戦、占領、復興、繁栄という日本史上、他に類例のない激動の時代だった。その時代を顧み、国の将来に思いをいたすとき、昭和の日本の残課題が大きく浮かび上がってくる。それは、独立回復後、いまなお主権の全面的回復がなされておらず、わが国は占領期に押し付けられた憲法を放置し、また東京裁判で偽造された歴史観を脱却できていないことである。
 わが国は、敗戦後、独立を回復してから、去る4月28日で60年を迎えた。そのことの意義を踏まえた有識者の発言が、マスメディアに散見された。うち稲田朋美衆議院議員の発言を、下記の日記で紹介した。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/f277787e8c58a68ddcd0ffb3fa374fb1
 もう一人私の目を引いたのは、大阪大学教授で国際政治学者の坂元一哉氏の文章である。坂元氏は、「『戦後』が還暦を迎えようとするいま、日本の眼前には、その繁栄の基盤である安全を根底から脅かす2つの脅威が存在する」として、防災上の脅威と防衛上の脅威を挙げている。
 防災上の脅威とは、平成7年(1995)の阪神・淡路大震災以後、わが国が地震活動期に入ったことによる脅威を指す。防衛上の脅威とは、中国の軍拡と高圧的態度、北朝鮮の核とミサイルを指す。日本の現状認識として、端的に防災上の脅威と防衛上の脅威の二つに整理して挙げている点は分かりやすい。明確に認識していなかった人には、一読をお勧めする。
 坂元氏は、これら2つの脅威は「どちらも重大で、対応には相当の覚悟、努力、コスト負担が求められる。『戦後』日本の生ぬるい安全保障感覚ではとても対応できない脅威だと思う。その意味で、少なくとも安全に関することでは、すでに『戦後』が終わり、ポスト『戦後』時代が始まっていると考えた方がよいかもしれない」と書いている。
 最後の「少なくとも~した方がよいかもしれない」という表現は、慎重な言い方といえるかもしれないが、いかにも確信を欠いた言い方である。2つの脅威への対応には「相当の覚悟、努力、コスト負担が求められる」と述べながら、では自分はどうすべきと考え、国民に何を呼びかけたいのか、具体的な主張がない。防災にも防衛にも責任を持たない学者の物言いという感じがする。
 坂元氏は、防衛だけでなく防災を含めて安全保障の問題ととらえている。安全保障は、伝統的には他国の侵攻を主とした対外的安全を確保することをいう。軍事的な安全保障である。これに加えて、非軍事的な側面についても、経済、資源、環境、思想・文化の安全保障が議論されてきた。特に1990年代から環境の安全保障が活発に議論されている。環境安全保障は、人類の経済活動や人口増加等が自然環境に影響を及ぼし、その結果、人類の生存や発展が阻害されることへの対応だけでなく、自然災害、気候変動、環境変化の影響等を含む。
 坂元氏の意見は、地震活動に関するものゆえ、自然災害への安全保障を言っている。巨大地震発生時には、政府が食料や避難所、清潔な水、衛生設備、衣料品や道具などを最も必要とする人々に迅速に提供しなければならない。また、防災の強化や被災後の地域再生等を含む計画を打ち立てなければならない。こうした課題につながっていく。
 私は、阪神淡路大震災以後、国防と防災を一体のものとして強く感じるようになり、その対応には現行憲法の改正が不可欠であると訴えてきた。国防・防災一体の安全保障のためには、憲法を改正し、自主防衛を整備すること、国民の権利と義務のバランスを是正すること、非常事態条項を設けることが必要である。
 坂元氏は、防災上の脅威と防衛上の脅威に直面する今、「『戦後』日本の生ぬるい安全保障感覚ではとても対応できない」と述べながら、「『戦後』が終わり、ポスト『戦後』時代が始まっている」といった時代状況的な表現に止まっている。だが、「戦後」とは大東亜戦争の敗戦後、占領期間中に作られた国家体制のことであって、単なる時代区分のことではない。そして、その国家体制を法制度的に規定しているのが、現行憲法なのである。坂元氏のいう「ポスト『戦後』時代」は、日本人が自らの手で憲法を改正し、国防と防災を一体のものとして対応できる国家体制を創造しなければ、決して始まらない。自然環境や国際環境の変化によって、戦後が終わるのではない。戦後は季節や状況ではない。国家体制としての戦後を終えるのは、日本人の意思による以外ない。日本人の決意と実行によってのみ、戦後体制から脱却でき、防災と防衛を整備できるのである。安全と平和は、自らの努力で確保しなければならない。
 以下は、坂元氏の寄稿記事。

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●産経新聞 平成24年4月21日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120421/plc12042103090004-n1.htm
【世界のかたち、日本のかたち】
大阪大教授・坂元一哉
2012.4.21 03:09

■ポスト「戦後」の防災と防衛
 米国をはじめ連合国48カ国との戦争を終わらせたサンフランシスコ平和条約が発効してから、この28日で60年になる。平和条約で国際社会に復帰した「戦後」日本が、戦前に勝る繁栄を享受したことはあらためて言うまでもない。
 だが「戦後」が還暦を迎えようとするいま、日本の眼前には、その繁栄の基盤である安全を根底から脅かす2つの脅威が存在する。
 1つは防災上の脅威。われわれは東日本大震災によって、日本が巨大地震を含む地震多発の国であることを再確認した。
 科学者によれば、「戦後」日本が復興と高度成長を果たした約半世紀は、巨大地震がほとんど起こらない「地震静穏期」だった。それが平成7年の阪神・淡路大震災以後、「地震活動期」に入ったという。
 しかし「活動期」に入った後も多くの国民は、「静穏期」の感覚を持ち続けたようだ。藤井聡・京大教授は、国民が「戦後」の「静穏期」に慣れてしまい、「天変地異という有事」に対しても「平和ぼけ」になったという趣旨の指摘をする(『列島強靱(きょうじん)化論』文春新書)。
 むろんこれからは、そうであってはならない。日本列島が「地震活動期」にあることを自覚し、数十年以内に再来すると予想される巨大地震への備えを固める必要がある。
 ただそれは容易なことではない。先日、政府の検討会が公表した南海トラフ地震の想定は、震度7(震度階級の中で最大)の揺れ、20メートル(場所によっては30メートル強)以上の津波が多くの市町村を襲う、という衝撃的なものだった。
 もう1つ、日本は防衛上の脅威にも直面している。防衛に関する「戦後」日本の安全は、潜在敵に対する日米同盟の戦略優位、とくに海空軍力の優位によって守られてきた。
 しかしいま隣国中国は、過去20年間で19倍に膨れあがった軍事費を背景に、海空軍力の急速な拡大をはかり、日米同盟の優位を脅かしつつある。すぐに逆転するというわけではないが、中国の軍拡が続き、日米同盟側が対応を怠ればそうなってしまうかもしれない。
 また、たとえ逆転せずとも、一昨年の尖閣沖漁船衝突事件に見られるように、海空軍力を強化した中国の態度は高圧的(防衛白書)になりつつある。日米同盟の優位が揺らげば、その高圧的態度が増し、尖閣諸島付近などで偶発的な軍事衝突が発生することも懸念される。
 中国の軍拡に加えて、北朝鮮の核とミサイルも日米同盟を脅かす。合理的な相手なら、この核とミサイルは同盟の抑止力で十分対応できる。しかし、北朝鮮のような合理性に不安のある独裁国家が相手の場合、万一に備えての防衛手段が欠かせない。だが、今回の北朝鮮のミサイル発射実験への備えを見てもわかるように、ミサイル防衛の完備にはまだかなりの時間と努力がいる。
 ここにあげた防災と防衛、2つの脅威はどちらも重大で、対応には相当の覚悟、努力、コスト負担が求められる。「戦後」日本の生ぬるい安全保障感覚ではとても対応できない脅威だと思う。その意味で、少なくとも安全に関することでは、すでに「戦後」が終わり、ポスト「戦後」時代が始まっていると考えた方がよいかもしれない。(さかもと かずや)
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大阪維新3~教育改革は評価できるが

2012-04-28 08:42:47 | 橋下
●教育改革は評価できるが、歴史認識と言動を改めるべき

 わが国は、サンフランシスコ講和条約の発効によって独立を回復してから、本日で60年を迎えた。昭和27年(1952)4月28日以来、60年もの歳月が過ぎたが、わが国の国家社会には、敗戦と占領統治の影響が色濃く残っている。その表れの場の一つが教育である 日本再建のため教育改革は重大課題である。
 さて、「大阪維新の会」の「維新版・船中八策」の中で、私が、これは地に足がついている、と評価できるのは、その教育改革に関するものである。「大阪維新の会」による教育改革については、何度か触れ、今年に入ってからも、下記の拙稿に書いてきた。

・拙稿「『大阪維新の会』の教育基本条例案」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/146368f5afd74c5a5399038bcbb6208a
・拙稿「教育基本条例から大胆な教育改革を」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/s/%B6%B5%B0%E9%B2%FE%B3%D7

 大阪府では、3月3日の府議会本会議で、教育基本2条例と職員基本条例が可決、成立した。問題が多いがなかなか改革の進まない教育界に、改革ののろしを上げたものとして私は歓迎する。
 大阪府では、昨年6月に府立校の教職員を対象にした全国初の国旗国歌条例が成立した。今年3月初めには大阪市で、市立学校教職員に国歌斉唱時の起立を義務づける条例が成立した。こういう着実な前進の積み重ねが大切で、その継続・拡大が全国に大きな改革を広げていくだろう。
 橋下氏は、教育改革の必要性を積極的に語って、実践してきている。大阪府知事時代、「政治が一番しなければならないのが教育」「日本はゆとり教育でみんな勉強しなくなった」「国旗、国歌を否定するなら公務員を辞めればいい」「校長は組織のマネジャー。組織である以上、権限の強化は至極当たり前の話」等と述べてきた。
 本年2月発表の「維新版・船中八策」のたたき台は、第4策に教育改革を挙げる。その項目は次の通り。

・格差を世代間で固定化させないために、最高の教育を限りなく無償で提供
・教育委員会制度の廃止論を含む抜本的改革
・首長に権限と責任を持たせ、第三者機関で監視
・教育行政制度について自治体の選択制
・学校を、校長を長とする普通の組織にする
・大学も含めた教育バウチャー(クーポン)制度の導入
・生徒・保護者による学校選択の保障
・大阪教育基本条例(教育関連条例)をさらに発展、法制化

 これらのうちの多くが、大阪府及び大阪市では具体化しつつある。その発展に期待したい。ただし、最初に掲げる「最高の教育を限りなく無償で提供」という政策は、財政的な裏付けや教育の基本理念を示してもらわないと、私は了解できない。教育に関しては、教育の目的と目指すべき人間像を明らかにし、その実現のために、これこれの施策を行いたいという打ち出し方が必要だろう。
 公教育においては、日本の次代を担う人材を育てることが、目的に挙げられねばならない。青少年に自国の伝統・文化を受け継ぎ、未来を託すには、自国の歴史を教えることが重要である。この点で、私は、橋下氏が河村名古屋市長が南京事件に関する発言をした際、「公選の首長は歴史家ではない。歴史的事実について発言するなら知見も踏まえ、慎重にすべきだ」と河村氏を批判し、自らは南京事件についての事実関係を論ずる考えはなく、「(発言することで)日本にとってプラスになるようなことがあるとは感じない」と述べたと報じられたことに、大きな疑問を持った。
 私は、橋下氏の現状打破への情熱、改革への意思を高く買う者だが、本件に関する限り、橋下氏には見識も気概もない。河村「南京」発言への対応を通じて、橋下氏らの「維新版・船中八策」は、坂本龍馬にあやかるだけかと疑う。
 教育改革については、橋下氏らは国旗掲揚・国歌斉唱時の起立等、評価できることを進めているが、南京事件等に関する誤った教育を正すところまで踏み込まないと、大きな改革にはならない。 南京事件は東京裁判で、日本の指導者を断罪するとともに、米国の原爆投下を正当化するために、一つのポイントとなった。日本の政治家にとって、南京事件への態度は、日本の再興に関する根本姿勢に関わる。橋下氏は、南京事件について、しっかり研究・検討したことがないのではないか。
 総じて橋下氏の国家観・歴史観は底が浅い、と私は感じる。龍馬の「船中八策」を「維新版」などと気楽に使っているが、龍馬は黒船来航による幕末日本の存亡の危機にあって、当時の志士たちが皆そうだったように、わが国の歴史や国柄について確固たる知識を身につけ、またわが国を取り巻く情勢をしっかり認識し、そして、なにより民族の存亡に係る危機感を持っていた。そこから、「船中八策」という大構想は、生み出されている。龍馬の時代同様、今日においても、伝統・文化・国柄を深くとらえたところからでなければ、日本再建のための大策は策定し得ない。橋下氏は、南京事件を題材として、そのことをよく認識すべきである。
 もう一つ橋下氏が本気で教育改革をしようと思うなら、自身の言動を改める必要がある。別途詳細を書く予定だが、雑誌「SAPIO」平成24年5月9日・16日号で、小林よしのり・中野剛志両氏が対談し、橋下氏を論じている。おそらくそれを読んだのだろう。橋下氏は4月27日、ツイッターで両氏を口撃。反論というより、口汚くののしる喧嘩口調であり、ハマコー並みのガラの悪さである。
 教育には、知育・体育・徳育の三要素がある。これらがバランスよく機能して、始めて健全な青少年が育つ。教育改革は学力の上昇、体力の増強だけでなく、道徳の向上を図るものでなければならない。そうした教育改革を先導する者は、政治家であれ、教育者であれ、保護者であれ、自身の言動に気を付けねばならない。青少年は大人の言動をよく見ているからである。橋下氏は、この点、言動において失格である。密室で大人同士が喧々諤々の議論をするのはよい。だが、教育改革を唱える政治家が、青少年も耳にし目にするメディアで語る時は、自制と品性が求められる。
 大阪維新の会の教育改革は評価できるが、本気で教育改革を全国的に進めようするなら、歴史認識と自身の言動を改めるよう橋下氏に忠言する。
 次回に続く。

小沢裁判、1審無罪に係る所感

2012-04-27 10:50:19 | 小沢
 小沢裁判は、26日東京地裁が無罪判決を下した。政治資金規正法違反の容疑について、直接的証拠がなく、特に共謀が成立しないという判断が判決のポイントとなった。判決文の要旨を読むと、かなり黒に近い灰色だが、有罪とするには決定的な証拠がないという感じである。
 指定弁護士団が原告として控訴するかどうか未定ゆえ、まだ判決が確定したわけではないが、1審無罪の判決は重い。マスメディアは即日無罪確定したかのような報道をしている。
 私は拙稿「闇の財テク王・小沢一郎の不正・不敬・横暴」等で小沢氏について書いてきた。小沢一郎という政治家の問題点を知りたい人は、ご一読いただきたい。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13m.htm
 本稿では今回の裁判について、私が思うことを書きたい。6点ある。

 第一に、検察のやっていることがひどすぎたこと。見立て捜査、虚偽の報告書等の問題によって、重要な証拠の多くが不採用になった。これがかなり審理に影響を与えたと考えられる。秘書が3人も有罪判決を受けていながら、彼らが忠誠を尽くした小沢氏が無罪になるというのは、常識的に疑問が残る。検察がきちんとした姿勢でやっていれば、裁判所が異なった判断をした可能性はあったと思う。検察の失態により、小沢氏は大きな敵失にきわどいところで助けられた格好だろう。
 第二に、政治家の政治資金に係る法律がザル法であること。現行法は秘書の責任ということで、政治家が法の網を潜り抜けてしまえる。連座制に変えないと、実効性を確保できない。判決のポイントとなった共謀というのは、本当に強く政治家と秘書が結託していれば、阿吽の呼吸で証拠を残さずにできてしまう。今回小沢氏の共謀が成立しないとされたのは、それだけ親分ー子分の関係が強かった証だろう。
 第三に、政治家においては、法的責任と政治的責任・道義的責任は別であること。仮に1審判決が確定したとしても、国会は小沢氏の証人喚問を行い、立法府として小沢氏に説明を求め、政治的・道義的責任を明らかにしなければならない。法に触れなければ政治家が何をやってもよいというような国は、道徳的に崩壊する。小沢問題を通じて、国会は議員立法で政治資金規正法等の改正・強化を行うべきである。
 第四に、小沢裁判は、反米的な小沢氏を潰すために、アメリカが仕掛けたという見方はおかしいこと。アメリカとは誰のことか。オバマかクリントンかガイトナーかバーナンキかデイビッド・ロッフェラーか。現在の日本で最も反米的な政治家は、普天間基地移設問題でアメリカ政府を困惑させた鳩山由紀夫氏であり、菅直人氏である。小沢氏は対米外交を決定できる立場になかった。アメリカの支配層の誰かが反米的な政治家を排除しようとするなら、田中角栄の時のように鳩山氏・菅氏を現職の首相の時に仕掛けただろう。
 第五に、小沢氏の今後の政治活動を、国民がより一層厳しく見ていく必要があること。民主党執行部が小沢氏の党員資格停止処分を解除すれば、小沢氏は自由に政治活動をするようになる。9月の民主党代表選に出馬し、首相の座を狙うかもしれない。小沢氏の「剛腕」に期待する有権者は、今も少なくない。だが、小沢氏は、天皇陛下に中国の次期国家主席と目される習近平氏との御引見をゴリ押しした張本人である。また外国人に参政権を付与しようとしており、韓国で有力者に参政権付与を約束して来たり、日本と日本人を侮辱する演説を行ったりした。そういう政治家であることをしっかり認識する必要がある。
 第六に、小沢氏に最終的に鉄槌を下せるのは、地元の有権者であること。小沢氏は、東日本大震災後、多大な被害を受けた地元・岩手県に何か月も帰らず、被災地の支援に何ら貢献しなかったこと。小沢氏が初めて地元で被災者に復興について語ったのは、震災の約10か月後、今年の1月である。小沢氏にとって地元は票田でしかなく、自己の権力のために利用する対象でしかないのだろう。現行法の下で、小沢氏に最終的に鉄槌を下せるのは、選挙区の有権者のみである。衆議院岩手第4区の有権者は、次の解散総選挙で、小沢氏への幻想を捨て、良識ある判断をしてほしい。

・関連掲示
拙稿「闇の財テク王・小沢一郎の不正・不敬・横暴」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13m.htm

大阪維新2~維新版八策の骨子

2012-04-26 10:12:47 | 橋下
●維新版八策は急ごしらえで羅列的
 橋本徹大阪市長率いる「大阪維新の会」は、2月13日「維新版・船中八策」の骨子を発表した。報道によると、骨子の表題は「日本再生のためのグレートリセット」「これまでの社会システムをリセット、そして再構築」とされ、「給付型公約から改革型公約へ~今の日本、皆さんにリンゴを与えることはできません。リンゴのなる木の土を耕し直します」と方向性が記されている。そして、「維新八策の目的」として、次の箇条書きを骨子の冒頭に揚げる。

・決定でき、責任を負う民主主義
・決定でき、責任を負う統治機構
・自立する個人
・自立する地域
・自立する国家
・日本の一人勝ちの時代は終わった
・今の日本のレベルを維持するには国民総努力が必要
・国全体でのオペレーションから個々の創意工夫による活性化
・現役世代の活性化

 キーワードは、「決定」「責任」「自立」である。これらの用語は、新自由主義に傾いていた自民党時代の小沢一郎氏や、市場原理主義を導入・推進した小泉純一郎氏が掲げていたものに通じる。「一人勝ち」とか「レベル」とか経済的な観点が目立ち、日本の伝統・文化・国柄や精神に関することは盛られていない。敗戦後の日本の課題を意識した表現でもない。「目的」の政治的主張を一応保守と見ることにすると、基本的な姿勢は伝統尊重的ではなく経済優先的、依存従属的でなく自主独立的である。また自由主義的というより、新自由主義的である。すなわち経済優先的、自主独立的、新自由主義的な姿勢と考えられる。
 さて、この「目的」の下に、維新八策は、(1)統治機構の作り直し(2)財政・行政改革(3)公務員制度改革(4)教育改革(5)社会保障制度(6)経済政策・雇用政策・税制(7)外交防衛(8)憲法改正の8つを挙げる。これらは方策なのか、課題なのか、分野なのか、明瞭でない。「八策」と称するのだから、目的達成のための方策でなければなるまいが、(5)~(7)は行為ではなく分野であり、よく整理されていない。
 とりあえずこれらを課題と呼ぶとすると、8つの課題のもとに、後に記す91にわたる項目が列記されている。この項目も施策なのか、目標なのか、理念なのか、それらが混ざっている感じがする。そこでとりあえず施策と呼ぶとすると、先ほどの「目的」をどう施策として具体化するのか、私にはよく読み取れない。
 まだ骨子だからかもしれないが、「維新版・船中八策」は骨子としても粗く、羅列的である。また未だ会の内部の議論が流動的なようで、骨格がよく見えない。私としては、細かい論評を控えているところである。本稿でも、個々の施策について逐一検討するつもりはない。これまでの印象としては、国政全体まで考えていなかった地域政党が、急に勢いを得て、国政を目指し、内政・外交に至るまで急ごしらえで一通りそろえようと背伸びしている感じがする。
 先に書いたように坂本龍馬は「船中八策」で、内政は大政奉還・議会開設・憲法制定等、外政は不平等条約の改正や海軍の増強等を挙げている。国家を再建し、積極外交・国防強化による国威発揚を目指したものである。これに比べ、橋下氏らの維新八策の骨子は、内政に関することがほとんどで、外交・安全保障に関することは、全体の1割も分量がない。橋下氏自身、これまで国家像や憲法・国防・国家経済等につき、どの程度考え、構想を練ってきたか疑わしい。
 また「維新版・船中八策」の作成過程は、理念より方法の方に議論が走っている気がする。中央進出をしようとする政党にまず必要なのは、マニフェストより綱領である。党の綱領の策定なく、選挙向けにマニフェストを出すという仕方は、民主党という前車の轍を踏むおそれがある。政権を取らんがための諸集団の寄せ集めと、大衆迎合的な選挙向けの政策の展示になると、いかなる政党も、日本を変える真の力には、成り得ない。
 以下は、骨子に関する報道記事。

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●産経新聞 平成24年2月21日

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120221-00000546-san-soci
橋下維新 これが「維新八策」だ! 骨子全文

 橋下徹大阪市長が率いる地域政党「大阪維新の会」が、次期衆院選の公約として策定する「維新版・船中八策」(維新八策)。たたき台として示された骨子の表題は「日本再生のためのグレートリセット」「これまでの社会システムをリセット、そして再構築」とされ、「給付型公約から改革型公約へ~今の日本、皆さんにリンゴを与えることはできません。リンゴのなる木の土を耕し直します」と方向性が記されている。
 維新は大阪府議会や大阪、堺両市議会の所属議員らで協議を進めており、今月末の全体会議で細部を詰める予定という。

■「維新八策」の骨子全文

〈維新八策の目的〉

・決定でき、責任を負う民主主義
・決定でき、責任を負う統治機構
・自立する個人
・自立する地域
・自立する国家
・日本の一人勝ちの時代は終わった
・今の日本のレベルを維持するには国民総努力が必要
・国全体でのオペレーションから個々の創意工夫による活性化
・現役世代の活性化

(1)統治機構の作り直し
・国の仕事を絞り込む=国の政治力強化
・内政は地方に任せる=地方・都市の自律的経営に任せる
・被災地復興は、被災地によるマネジメントで→復興担当大臣などは被災地首長
・国家の面的全体運営から点と点を結ぶネットワーク運営
・中央集権型から地方分権型へ
・国と地方の融合型から分離型へ
・地方交付税の廃止
・自治体破綻制度
・税源の再配置
・国の仕事は国の財布で、地方の仕事は地方の財布で=権限と責任の一致
・地方間財政調整制度=地方共有税制度の創設
・地方間で調整がつかない場合に国が裁定
・都市間競争に対応できる多様な大都市制度=大阪都構想
・道州制
・首相公選制
・参議院改革→最終的には廃止も視野
 参議院議員と地方の首長の兼職=国と地方の協議の場の発展的昇華、衆議院の優越の強化

(2)財政・行政改革
・プライマリーバランス黒字化の目標設定
・国会議員の定数削減と歳費その他経費の削減
・国会改革=役人が普通のビジネス感覚で仕事ができる環境に
・首相が100日は海外へ行ける国会運営
・政党交付金の削減
・公務員人件費削減
・大阪方式の徹底した究極の行財政改革を断行

(3)公務員制度改革
・公務員を身分から職業へ
・価値観の転換
・安定を望むなら民間へ、厳しくとも公の仕事を望むなら公務員へ
・大阪式公務員制度改革を国に広げる
・外郭団体改革
・大阪職員基本条例をさらに発展、法制化

(4)教育改革
・格差を世代間で固定化させないために、最高の教育を限りなく無償で提供
・教育委員会制度の廃止論を含む抜本的改革
・首長に権限と責任を持たせ、第三者機関で監視
・教育行政制度について自治体の選択制
・学校を、校長を長とする普通の組織にする
・大学も含めた教育バウチャー(クーポン)制度の導入
・生徒・保護者による学校選択の保障
・大阪教育基本条例(教育関連条例)をさらに発展、法制化

(5)社会保障制度
・受益と負担の明確化(世代間格差の是正)
・年度毎のフローでの所得再分配だけでなく、一生を通じてのストックによる所得再分配
・一生涯使い切り型人生モデル
・現行の年金制度は一旦清算=リセット
・年金の積立方式への移行(最低ライン)
・さらに、資産のある人は、まずはその資産で老後の生活を賄ってもらう→掛け捨て方式(ストックでの所得再分配)
・何歳まで努力をしてもらうのか、老後いくらを保障するのかを設定=事前告知→それに合わせた保険料を設定
・保険料は強制徴収(税化)
・リバースモーケージ(所有不動産を担保に年金のような融資を受ける仕組み)の制度化
・持続可能な医療保険制度の確立=混合診療解禁による市場原理メカニズムの導入
・持続可能な生活保護制度の確立=就労義務の徹底
・ベーシックインカム(最低生活保障)制度の検討

(6)経済政策・雇用政策・税制
・新エネルギー、環境、医療、介護などの特定分野に補助金を入れて伸ばそうとするこれまでの成長戦略と一線を画する「既得権と闘う」成長戦略~成長を阻害する要因を徹底して取り除く
・岩盤のように固まった既得権を崩す
・徹底した規制緩和による新規参入、イノペーション
・現在存在する社会インフラの徹底した選択と集中
・ストックの組み替え=高度成長時代に造られたストックを成熟した国家にふさわしい形へ
・経済活動コストを抑え、国際競争力を強化
・マーケットの拡大=自由貿易圏の拡大→TPP/FTA
・大きな流れ(円高、海外移転など)に沿った対策=大きな流れを人工的には変えられない
・労働集約型製造業の海外移転は止められない
・貿易収支から所得収支、サービス収支の黒字を狙う
・円高による輸入業の儲けを輸出業の損失へ=円高による為替差損益の調整制度(ソブリンデリバティブ)
・高付加価値製造業の国内拠点化
・サービス産業の拡大=ボリュームゾーンの雇用創出→IR型リゾートなど
・医療・介護・保育の分野では一方的な税投入による雇用創出をしない=ユーザーの選択に晒す
・産業の淘汰を邪魔しない=産業の過度な保護は禁物
・人は保護する=徹底した就労支援
・労働市場の流動化、自由化→衰退産業から成長産業へ、外国人人材の活用
・教育機関による人材養成=グローバル人材の養成
・女性労働力の徹底活用
・フローを制約しない税制=民間でお金を回す(使わせる)税制
・一生涯使い切り型人生モデル
・資産課税=固定資産税は現金化、死亡時に精算(フローを制約しない)
・使った分(設備投資、給料、消費)は消費税以外は非課税
・国民総背番号制によるフロー・ストックの完全把握
・(全商取引の把握=非課税となる要件)
・国民総確定申告制
・超簡素な税制=フラットタックス
・減免、特措法などは原則廃止
・夫婦、障害者、事業承継が課題(方策の一例~一定規模の事業で雇用創出をしている場合のみ、事業承継を認める?それとも原則通り一代限り?資産の売却?)
・脱原発依存、新しいエネルギー供給革命

(7)外交・防衛
・自主独立の軍事力を持たない限り日米同盟を基軸
・加えてオーストラリアとの関係強化
・日米豪で太平洋を守る=日米豪での戦略的軍事再配置
・2006年在日米軍再編ロードマップの履行
・同時に日本全体で沖縄負担の軽減を図る更なるロードマップの作成着手
・日米地位協定の改定=対等
・国際標準の国際貢献の推進
・国際貢献する際の必要最低限の防衛措置

(8)憲法改正
・憲法改正要件(96条)を3分の2から2分の1に緩和する
・首相公選制
・参議院の廃止をも視野に入れた抜本的改革
・衆議院の優越性の強化
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 次回に続く。

尖閣:石原発言支持の動き拡大

2012-04-25 09:28:03 | 尖閣
 17日石原都知事が尖閣諸島を購入すると発表したのに対し、東京都庁に4日間で約3,500件の意見が寄せられ、その約9割が賛成だったと報じられる。電話やメールによるもの。すでに現金書留などで寄付が約30件、数十万円寄せられているという。賛同の動きはさらに広がる勢いとみられる。
 政治家・有識者の中からも石原氏の構想を支持する声が上がっている。いち早く強く支持を表明した政治家のうち、橋下徹大阪市長は17日当日、「普通の政治家ではなかなか思い付かないことだ。石原氏しかできないような判断と行動だと思う」と称賛した。橋下氏は前もって石原氏から尖閣購入構想を聴いていたという。翌18日にも「石原知事がこのような行動を起こさない限り、国はこの問題にふたをしたままで積極的な動きはなかった。すごい起爆剤になった」「国民がしっかりこの問題について考えることが大切。安全保障の問題を含めて、大きな議論が巻き起こるのではないか。とてつもない問題提起だ」と述べたと報じられる。
 有識者の中では、佐々淳行氏が強く支持を表明し、産経新聞4月23日号「正論」の記事で「尖閣一坪運動」を呼びかけた。これは、猪瀬東京都副知事が「寄付金を募れば都民の税金負担分は軽くなる」と国民的募金運動を示唆したことに応じたもの。佐々氏は「社会党や共産党が昔、成田で『一坪地主運動』を展開した例を逆手に取って、『尖閣諸島買い取り・国民一坪運動』を立ち上げ、最終的には対中国弱腰の政府与党にも協力させ、尖閣周辺の海底資源、漁業資源を確保すべきだと思う」と述べている。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120423/plc12042303360003-n1.htm

 23日には、首都圏の地方議員が「石原都知事の尖閣諸島購入発言を支持する地方議員の会 緊急集会」を行った。会場は衆議院議員会館、主催は日本会議首都圏地方議員懇談会。自民・民主等の都議会議員10名を含む都下の議員40名をはじめ60名が参加した。中山義隆石垣市長、山田吉彦東海大教授、評論家の金美齢氏が賛同のアピールを行い、「全国の地方議会で石原知事発言を支持する意見書決議運動などを推進する」などとした決議を採択した。
 私は、日本の良識は地方にあり、と近年強く感じている。中央政界は党利党略・派利派略の闘争・駆け引きに明け暮れ、国家根本問題の重要部分を見失いがちになっている。霞が関の官僚に操作・誘導されがちでもある。日本再建のためには、地方から中央に良識の風を送り込む必要がある。尖閣諸島の問題、ひいては国家の安全や発展の問題においても、その風が必要である。石原都知事の尖閣諸島購入発言に応えて、首都圏で始まった地方議員の動きが全国に拡大することを期待したい。支持・協力の輪を広げよう。
 以下は、首都圏地方議員有志による決議文。

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●石原都知事の尖閣諸島購入発言を支持し、実効支配の強化を求める決議

http://www.nipponkaigi.org/activity/archives/4218
 石原東京都知事は、米国での講演の席上、尖閣諸島を東京都が購入すると発言し、既に所有者との間で取引が最終段階を迎えていることを明らかにした。
 そもそも「日本会議地方議員連盟」では、平成二十二年九月の中国漁船領海侵犯事件以降、「石垣市長の尖閣諸島上陸視察を支持する地方議員署名」を推進し、東京都議会をはじめとする都下各級議会で九五一名、全国では三九五六名の地方議員の賛同署名を集めた。
 また、「日本会議」を中心に取り組まれ全国に広まった「尖閣諸島をはじめわが領土領海を守る国民署名」は二一二万名に達し、政府・国会に対して、尖閣諸島の現地調査の実施、漁民の安全操業のための灯台や避難港の整備、外国漁船の違法操業を取り締まる警備体制を強化し領海侵犯を取り締まる法改正、そして自衛隊に領域警備の権限を付与する法改正を要請してきた。
 こうした国民世論が背景となり、二月二十八日、海上警察権を強化するための海上保安庁法改正案が閣議決定されたが、今日に至るまで審議入りの目処すら立っておらず、国家主権にかかわる問題が国会情勢により棚上げされかねないと憂慮されている。
 政府は現在、日中間に領土問題は存在せず、尖閣諸島は我が国が有効に実効支配していると公言しているが、事実上の入域禁止措置をとり、又、避難港の整備をはじめとする島の利活用に着手する気配すらない。
 一方中国は、尖閣諸島周辺海域への「漁政」「海監」といった政府船舶による領海侵犯を繰り返し、中国共産党系報道機関は「日本の実効支配を打破する」と明言してはばからない。
 このような状況を見る限り、我が国の実効支配は極めて不安定な状況にあり現状を放置すれば、尖閣諸島の支配は中国にとって代わると懸念される。
 言うまでもなく東京都は、小笠原諸島のなかに南鳥島、沖ノ鳥島といった国境離島を行政下におき、沖大東島を所管する沖縄県とは海を通じ近隣自治体の関係にある。国境離島の持つ重要性の認識と、現状への危機意識を持つことは当然であろう。
 尖閣諸島海域は、豊かな漁場、石油、レアメタルなどの海洋資源の観点から言っても東京都民の生活にも有益な海域になり得ると認識している。
 石原都知事の発言は、以上のような情勢に鑑みて、東京都として尖閣諸島の実効支配を強化する姿勢を明らかにしたものと推察される。
 私たちは、石原都知事の尖閣諸島購入発言を支持するとともに、今後、支援の輪を広げるため、全国の各級議会において石原発言を支持する意見書決議運動などを推進するものである。

平成二十四年四月二十三日        
石原都知事の尖閣諸島購入発言を支持する地方議員の会緊急集会
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大阪維新1~龍馬の「船中八策」

2012-04-24 09:40:05 | 橋下
 橋下徹氏は大阪府知事として府政に優れた手腕を示し、全国的な注目を浴びた。昨23年11月には大阪ダブル選挙に勝利し、盟友の松井氏が知事、橋下氏が市長となった。本年1月に産経・FNNが行った世論調査で、日本のリーダーにふさわしい人物を問うたところ、橋下氏は断トツの21・4%を占めた。2月の同調査では、大阪維新の会の国政進出に「期待する」との回答が64・5%に達した。橋下氏らが次期衆議院選挙にて国政に進出すべく、政治塾を開くと定員の8倍超える3,326人が応募した。衆院選では大阪で候補者を立てれば、ほぼ全選挙区で議席を取ると見られ、維新の会は間違いなく国政に新風を吹き込むだろう。
 本稿では、数回に分けて橋下徹氏と大阪維新の会について書く。最初に述べておくと、私は橋下氏の現状打破への情熱、改革への意思を高く買う者だが、橋下氏は基本的な姿勢、精神に欠けたものがあり、政策案にそれが表れていると思う。橋下氏にはその点を自覚・認識して、改善・向上を図ってほしいと願っている。

●坂本龍馬の「船中八策」と維新版との違い

 「大阪維新の会」は、衆議院選挙の公約を「維新版・船中八策」(略称 維新八策)と称している。24年2月13日にたたき台が発表された。6月には完成版を発表するという。
 「船中八策」とは、坂本竜馬が維新の大策を示した文書の名前である。橋下氏らが選挙公約の名称に使用したことで、改めて大衆の耳目に入った。だが、私の見るところ、龍馬の「船中八策」と橋下氏らの「維新八策」は、その精神においてかなり大きな開きがある。私は、橋下氏の現状打破への情熱、改革への意思を高く買うが、氏には課題もある。その第一は基本的な姿勢、そして精神である。まずその点を見てみよう。
 坂本龍馬は、慶応3年(1867)6月9日、薩長による討幕を推し進め、天皇を中心とする新国家を創ろうと奔走した。前土佐藩主の山内容堂に大政奉還を進言するため、藩船で長崎を出航し、容堂の居る京都へ向かう。龍馬は洋上で、日本を一新するための大策を練り、後藤象二郎に提示した。これを海援隊の長岡謙吉が書き留め、成文化されたものが、「船中八策」と呼ばれる。
 「船中八策」として伝えられるのは、次のとおり。

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一、天下ノ政権ヲ朝廷ニ奉還セシメ、政令宜シク朝廷ヨリ出ヅベキ事。
一、上下議政局ヲ設ケ、議員ヲ置キテ万機ヲ参賛セシメ、万機宜シク公議ニ決スベキ事。
一、有材ノ公卿諸侯及ビ天下ノ人材ヲ顧問ニ備ヘ官爵ヲ賜ヒ、宜シク従来有名無実ノ官ヲ除クベキ事。
一、外国ノ交際広ク公議ヲ採リ、新ニ至当ノ規約ヲ立ツベキ事。
一、古来ノ律令ヲ折衷シ、新ニ無窮ノ大典ヲ撰定スベキ事。
一、海軍宜シク拡張スベキ事。
一、御親兵ヲ置キ、帝都ヲ守衛セシムベキ事。
一、金銀物貨宜シク外国ト平均ノ法ヲ設クベキ事。

 以上八策ハ方今天下ノ形勢ヲ察シ、之ヲ宇内万国ニ徴スルニ、之ヲ捨テ他ニ済時ノ急務アルナシ。苟モ此数策ヲ断行セバ、皇運ヲ挽回シ、国勢ヲ拡張シ、万国ト並行スルモ、亦敢テ難シトセズ。伏テ願クハ公明正大ノ道理ニ基キ、一大英断ヲ以テ天下ト更始一新セン
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 第一策は、大政奉還。第二策は、議会の開設。第三策は、官制改革。第四策は、不平等条約の改正。第五策は、憲法の制定。第六策は、海軍の増強。第七策は、首都の防衛。第八策は、金融改革である。
 大政奉還がなった後、わが国は、ほぼこの構想に合致する形で、改革と国家建設を進めた。第二策の後半にある「万機宜しく公議に決すべき事」とあるのは、近代日本の国是を示した「五箇条の御誓文」の「万機公論に決すべし」につながる。
 「船中八策」を語る人々があまり触れないが、私は八つの大策の下に書かれた一文の重要性を強調したい。龍馬は「苟(いやしく)も此の数策を断行せば、皇運を挽回し、国勢を拡張し、万国と並行するも、亦敢て難しとせず」と書く。ここで龍馬は「皇運」という言葉を使っている。この言葉は、後に教育勅語に「天壌無窮の皇運を扶翼すべし」と記された語である。天皇を中心とする日本国の運命、国運を意味する。龍馬は「皇運を挽回し、国勢を拡張し」と言う。これは、欧米列強の到来により、民族存亡の危機に直面し、不平等条約の締結を余儀なくされ、外交的にも経済的にも屈辱的な地位にあるところから、国権を回復することを目指すものである。そして、龍馬は「国勢を拡張し、万国に並行する」という。これは、国力を増強して、欧米列強に伍していける国家となることである。龍馬は、「船中八策」を断行すれば、これらは決して難しいことではないと確信をもって記す。
 そして、最後に「伏て願くは公明正大の道理に基き、一大英断を以て天下と更始一新せん」と締める。ここで龍馬は「道理」という言葉を使っている。「道理」とは、当代を代表する碩学・小堀桂一郎氏が『日本に於ける理性の傳統』で明らかにしたように、13世紀以来、わが国の思考において、最も重要な概念となっているものである。その思想史における重要性は、西洋における reason に匹敵する。「道理」は物事の根本理法であり、また社会の根本規範である。「道理」は、江戸時代を通じて様々な人士の思想の核として使われた。幕末の龍馬もまた「道理」という言葉を用い、「道理」をもって「一大英断」をなすべきことを、当時の指導層に請願する。
 「道理」は、わが国の歴史や国柄についても使われる。慈円は『愚管抄』で、一筋の血統で皇位が継承されていることが、わが国における唯一不変の「道理」であることを書き記した。それ以降も、わが国の「道理」の根本は、天皇を中心とする国柄の根本規範であり、その「道理」に則って進むことが「皇運」の隆盛をもたらす道であり続けている。坂本龍馬は、そういう認識を藤田東湖、横井小楠、由利公正、西郷隆盛、吉田松陰等と共有していた。そして、この「道理」に基づいて立案されたものが、「船中八策」なのである。
 現代日本人は、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』によって、坂本龍馬を知った。その後、様々な龍馬伝が書かれているが、全体的な傾向として、龍馬における尊皇心、愛国心が薄められた人物像となっている。だが、「道理」に基づく尊皇心、愛国心を共有しなければ、坂本龍馬の大志は、よくとらえられない。こういう見方をしている私には、橋下氏らの「維新版・船中八策」から龍馬に通じる精神が伝わってこない。橋下氏は、ぜひ坂本龍馬の精神に学び、維新八策を練り直してほしいと思う。

 次回に続く。

関連掲示
・拙稿「大義を世界へ~横井小楠」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/j-mind05.htm
 目次から09へ
・拙稿「国是を示し経綸を為す~由利公正」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/j-mind05.htm
 目次から10へ

郵政とTPPは保守の試金石

2012-04-23 09:41:21 | 時事
 私は、小泉=竹中政権のときに郵政民営化に反対し、郵政民営化法案成立後はその早期改正を主張してきた。小泉構造改革の最中には、私のように伝統尊重的な保守でありながら、郵政民営化政策に反対する者は、ごく少数だった。だが当時の政策はアメリカの要望による民営化であり、市場原理主義のゴリ押しであって、私は民利国益という点から反対した。同じ観点から反対を貫いた保守の政治家は、平沼赳夫、小泉龍司、城内実の各氏等、ごくわずかだった。
 その後、郵政民営化が実行されるにつれ、民営化の問題点、そのまま継続することの危険性に気付く人がだんだん増えてきた。そして、このたび民主、自民、公明3党が郵政民営化法改正案を共同提出し、12日の衆院本会議で賛成多数で可決、参院に送付された。今月中に成立する見通しと報じられる。
 改正案は、日本郵政グループの郵便局会社と郵便事業会社を合併し、現行の5社体制を4社体制に再編することが柱。政府出資の日本郵政が保有するゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の株式売却に関しては処分時期を明記せず「全てを処分することを目指す」との努力目標としている。
 この案は、小泉構造改革の時に与党として郵政民営化法案を成立させた公明党が提案し、自民がこれに乗り、民主が受け入れたものである。内容は、3月20日の日記に書いたような、いろいろな問題点を孕んでおり、それは未解決のまま、民営化維持と民営化修正の両方向に妥協的で中途半端なものである。しかし、小泉=竹中政権の完全民営化路線を一定程度修正し、今後も完全民営化の見直しのできる余地を作ったという点では、半歩前進である。そういう改正案に自民党が党として賛同したのだから、自民党は変化しつつあることが分かる。
 そうしたなか、現在も小泉=竹中路線を継承する中川秀直元幹事長、菅義偉元総務相、小泉進次郎衆院議員の3人は党の方針に反対した。かつて自民党で完全民営化に反対した議員が数人だったのとは対照的であり、流れははっきり変わっている。私としては、喜ばしい。だが、この変化は、風の流れのようなものである。小泉=竹中政権、さかのぼると橋本内閣以降、アメリカに圧され、財務官僚に操られて強行した構造改革そのものへの批判と総括に基づくものではない。国政に与る政治家なら、腰を据えて経済理論と日米外交史を勉強し、どうしてこんな展開になっているのか、しっかり理解した上で、判断・行動をしてもらいたい。そうでないと、新たな課題に向き合った時に、また風向きだけの判断となる。今まさにTPPの交渉参加問題がそれである。

 TPPと郵政民営化は、根本は同じ問題である。すなわち、アメリカ資本の日本進出の推進と、それに伴う米国による日本支配の徹底である。野田政権はTPP参加の方針を表明し、参加交渉を進めている。自民党の政治家も、数か月前までは大多数がTPP参加賛成だった。だが、TPP参加の危険性を知る論者――東谷暁、中野剛志、三橋貴明、関岡英之等の各氏――がデータに基づいて、説得力のある主張を続けるうち、ようやく自民党の中でも、TPP参加交渉に慎重な姿勢を取る政治家が増えてきたようである。それと言うのも、4月9日、自民党が発表した次期衆院選政権公約原案は、「聖域なき関税撤廃」を前提にするTPP交渉参加に反対を表明しているからである。だが、これも単に民主党政権に反対する姿勢を示し、選挙で票を集めんがためのものであれば、また風の吹きようでどう変わるか分からない。
 TPP交渉参加問題で、一体アメリカは何を日本に求めているか。わが国で郵政民営化改正法案が成立しそうな情勢になると、アメリカは日本への不満を強めている。米保険業界の日本市場への参入が不利になると見て、米側は特に保険分野を問題視している。郵政民営化改正法案が、かんぽ生命の株式完全売却義務を達成目標から努力目標に変えたことによる。米国生命保険協会は「公正な競争条件の確保を求めてきた業界の懸念を無視した」と非難声明を出した。これは当然のことで、TPPはアメリカが強要した郵政民営化を中核として、アメリカが日本に押し出し続けてきた要求を全面的かつ徹底的に突きつけるものだからである。そのため、わが国のTPPの交渉参加が、米国議会で承認を得られるかどうかという問題が出てきた。わが国がアメリカの要求を受け入れない限り、アメリカ議会はわが国のTPP交渉参加を承認しないだろう。
 こういう報道に触れて、はじめて郵政民営化とTPPが一貫した問題であることに気付いた政治家が増えているのではないか。特に自民党内がそうだろう。とりわけ保守を自認する政治家に私は要望する。今からでも遅くはない。構造改革とは何だったのか、アメリカの対日要望と郵政民営化・TPPの関係はどういうものかーー日本の運命を損なわぬよう、しっかり事の本質を把握してもらいたい。
 「戦後レジュームからの脱却」を唱えながら、かつては郵政完全民営化を支持し、近くはTPP無条件参加に賛同してきた政治家は、「戦後レジューム」の構造を、根本から考察し直すべきである。憲法改正や自主国防、首相靖国参拝、東京裁判史観からの脱却、村山談話・河野談話撤回等を唱えていながら、アメリカの圧力による郵政民営化やTPP参加をよしと考えることは、大きな矛盾である。郵政とTPPは、政治家、特に保守の政治家の試金石である。
 以下は、関連する報道記事、並びに郵政民営化とTPP参加に一貫して反対してきた東谷暁氏の文章。

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●産経新聞 平成24年4月11日

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/120411/fnc12041117430017-n1.htm
郵政民営化見直しがTPPの火種に 米が猛反発
2012.4.11 17:42

 【ワシントン=柿内公輔】環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への日本の交渉参加問題をめぐり、米国が日本の郵政民営化見直しに不満を募らせている。完全民営化路線の後退で、米保険業界の参入が一層阻害される懸念を強めているためで、日本の交渉参加に大きな足かせとなる恐れが強まってきた。
 米通商代表部(USTR)のカーク代表は10日、訪米中の玄葉光一郎外相と会談し、郵政民営化法改正案について、「米国の議会や利害関係者が強い関心を有している」と表明。米側は特に保険分野を問題視、今後、両国で継続協議することになったという。
 改正案では、かんぽ生命保険株式の完全売却義務が努力目標に後退。米保険業界にはかんぽ生命が政府の信頼をバックに営業を続ける可能性が残ることに猛反発。米国生命保険協会は「公正な競争条件の確保を求めてきた業界の懸念を無視した」と非難声明を出している。
 訪米中の民主党経済連携プロジェクトチームの議員調査団と10日会談したマランティスUSTR副代表も懸念を表明。TPP推進派の吉良州司衆院議員は米側から公正な競争条件の確保と市場開放を強く促されたことを明らかにした。
 マランティス副代表は、日本の交渉入りに向けて米議会が承認するための明確な条件はない、としながら「議会と業界が納得する姿勢」を日本が示さない限り、調整は難航する可能性を示唆したという。
 日米の事前協議では、自動車や農業と並び、郵政と保険をめぐるせめぎ合いが激しさを増しそうだ。

●産経新聞 平成24年4月11日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120411/stt12041103160004-n1.htm
【今日の突破口】
ジャーナリスト・東谷暁 自民党の変化、本物か
2012.4.11 03:16

 先日、日本医師会の会長選で民主党支持の現職が落選し「野党にもしっかり対応していく」と主張する候補者が当選した。日本歯科医師会は「人物本位」で政治家を支持する方向に変わりつつあり、他の業界団体でも「民主党離れ」が進んでいる。
 こうした変化を大げさに報じるマスコミもあったが、考えてみれば自然な流れだといえるだろう。民主党を中心とする連立政権は、マニフェストをまったく守れなかっただけでなく、外交において迷走を続け、経済政策でもさらなる景気後退を引き起こす増税路線に固執している。しかも、打ち出す政策のほとんどが党内抗争を招来するという体たらくで、こんな政権が高い支持を維持することのほうが不自然だった。
 この民主党離れは、地方において顕著だ。ことにTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉参加に対しては地方のほうが圧倒的に懐疑的で、その雰囲気は東京にいたのでは分からない。小沢一郎氏のマジックで、民主党に期待を抱いた農業系団体の多くは、すでに民主党に事実上の三行半(みくだりはん)を突き付けている。
 これまでは、民主党離れの受け皿であるべき自民党も迷走していたので、期待はみんなの党や大阪維新の会に向いていたが、最近、自民党にもわずかながら注目すべき現象が見られるようになってきた。ひとつは、TPPをめぐっての議論だ。3月9日に発表した「TPPについての考え方」では「聖域なき関税撤廃」を前提とする限り反対し、国の主権を損なうような「ISD条項」には合意しないとしている。前者は、推進派がTPPの先進性として強調してきた危険な妄想であり、後者は、外国企業が政府を訴える権利を過剰に制度化するものだ。表現が曖昧だがTPPの最も大きな問題に触れていることは確かである。
 もうひとつは、同月27日の郵政改革に関する総務会の決定で、小泉純一郎政権が成立させた郵政民営化法の核心部分、つまり、郵貯・簡保の株式完全売却条項を修正する公明党案に同意し、完全売却を「努力目標」にまで引き下げたことだ。
 いずれも、永田町の駆け引きの匂いがプンプンするし、努力目標というのも単なる妥協案で、とても郵政崩壊を阻止できるものではないとはいえ、私が今回注目したいのは、こうした決定がなされるさいに自民党内部に見られた変化のほうだ。これまで小泉改革を否定することはタブーだったが、そのタブーもようやくすたれ始めている。郵政民営化のときと「立場は逆転している」という元民営化反対派の観察は過大評価であるにしても、自民党執行部に見られる小泉路線は、いまや饅頭(まんじゅう)の薄皮のようになりつつある。
 マスコミは現在もみんなの党を追いかけ、維新の会を鉦(かね)や太鼓ではやしたてているが、オデキのような新党は膿(う)んで膨らんで破裂するのにまかせたほうがよい。自民党の変化が本物ならば、日本政治は長い麻痺(まひ)状態から脱却する可能性も出てくる。なかには改革の後退だと叫ぶ論者もいるだろうが、改革主義は日本に混乱と衰退しかもたらさなかった。
 自民党の谷垣禎一総裁は、消費税で「話し合い解散」をちらつかせたものの、なんとも迫力不足だった。もう自民党は、執行部の刷新を始めるべきだ。(ひがしたに さとし)
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関連掲示
・拙稿「郵政改革で妥協するな~東谷氏」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/2505343b09c3a151f96dfc461c317f24
・拙稿「自民党が政権公約原案を発表」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc18237752b4e22383c34a18b752aaf5
・拙稿「アメリカに収奪される日本~プラザ合意から郵政民営化への展開」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13d.htm

主権回復記念日を~稲田朋美氏

2012-04-22 08:39:13 | 時事
 わが国は来る4月28日に、敗戦後、独立を回復してから60年を迎える。60年とは、昭和27年(1952)4月28日にサンフランシスコ講和条約の発効によって、独立主権国家の資格を回復してからの歳月をいう。
 自民党は、この60年ということを意識し、今年の4月28日までに「憲法改正案」を公表するという。その概要については、3月3日の日記で紹介した。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/472d695a96555be0d7ae82bf7535a4ff
 自民党の動きに応えるように、たちあがれ日本、みんなの党も同じく28日までに新憲法の大綱を取りまとめ、公表する方針と伝えられる。こうして憲法改正論議が活発になることは、大変喜ばしい。ところで、たち日代表の平沼赳夫氏は自主憲法制定を最大課題として長い政治家人生を送ってきた代議士だが、未だに具体的な憲法条文案を出していない。ただ「憲法改正、自主憲法」と言うだけでは、この国家の一大事は進まない。平沼氏は大綱だけでなく、早期に条文案を提示すべきである。
 自民党には、憲法改正とともに、もう一つの動きとして、4月28日を「主権回復記念日」として祝日にする法案の成立を図る取り組みがある。この記念日の意義については、下記の拙稿をご参照願いたい。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/f9714a34ed975b947c18ac89887f6554
 先の法案は昨年8月26日、自民党により衆議院に提出された。法案をまとめたのは、「4月28日を主権回復記念日にする議員連盟」(野田毅会長)。昨年2月連盟発足の会合で、谷垣自民党総裁は、「4月28日の意味をどうするかが、わが党結党の原点だ。これをしっかり踏まえながら先に進むことが大事だ」と述べた。続いて4月には講和条約発効60周年となる本年までに、主権回復記念日を制定する意向を表明した。議連は「主権回復時に自主憲法と国防軍を創設すべきだった」とし、主権回復記念日を制定することによって、「守るべきは守り、変えるべきは変え、新たなる日本が立ち上がっていくきっかけにしたい」と記念日制定の意義を説いている。だがまだ法案は成立しておらず、来る28日までに成立する見通しはないようである。
 こうしたなか、自民党の稲田朋美代議士が、4月17日の産経新聞「正論」に「主権回復記念日を設ける意義は」という文章を寄稿した。本件、国民に向けた政治家の発言が少ないので、どこまで本気か疑っていたが、少なくとも稲田氏は本気である。
 稲田氏は言う。「今年の記念日には党本部(ほそかわ註 自民党)で国民集会が開催される運びとなり、そこで谷垣禎一総裁が挨拶をすることになっている。それ自体は大変喜ばしいことであり、原点回帰の証しといえるのだが、自民党はそのことの意義と責任を自覚しなければならない。主権回復記念日を祝うということは、安倍晋三首相が掲げた『戦後レジームからの脱却』を今一度わが党の旗にすることであり、その中核に据えるべきは東京裁判史観からの決別である。自民党総裁が記念日の国民集会で挨拶する意義は、政権奪還した暁には首相として堂々と靖国神社に参拝し、村山談話、河野談話を撤回すると国民に約束することにこそある」。
 その通り。谷垣自民党総裁は、政権奪還後、首相が靖国神社に参拝し、村山談話・河野談話を撤回することを決意し、国民に表明すべきである。それが言えない総裁なら、自らその座を辞して、自民党立党の精神を体した政治家に交代すべし。
 以下は稲田氏の一文。

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●産経新聞 平成24年4月17日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120417/plc12041703210003-n1.htm
【正論】
弁護士、衆議院議員・稲田朋美 主権回復記念日を設ける意義は
2012.4.17 03:20

 サンフランシスコ平和条約が昭和27年4月28日に発効し、日本が主権を回復してから60年がたつ。平成21年の政権交代で下野した自民党は、「立党の精神に立ち戻れ」という掛け声の下、4月28日を主権回復記念日として祝日にする画期的な法案を議員立法により国会に提出した。今年の記念日には党本部で国民集会が開催される運びとなり、そこで谷垣禎一総裁が挨拶をすることになっている。

≪東京裁判史観からの決別を≫
 それ自体は大変喜ばしいことであり、原点回帰の証しといえるのだが、自民党はそのことの意義と責任を自覚しなければならない。
 主権回復記念日を祝うということは、安倍晋三首相が掲げた「戦後レジームからの脱却」を今一度わが党の旗にすることであり、その中核に据えるべきは東京裁判史観からの決別である。自民党総裁が記念日の国民集会で挨拶する意義は、政権奪還した暁には首相として堂々と靖国神社に参拝し、村山談話、河野談話を撤回すると国民に約束することにこそある。
 首相の靖国参拝は、対外(対中韓)的には、いわゆるA級戦犯の問題に、対内的には、憲法20条3項の政教分離問題に帰着する。
 東京裁判の主任弁護人、清瀬一郎弁護士の管轄の動議を国民共通の認識にしなければならない。すなわち、東京裁判は、いわゆるA級戦犯を「戦争を遂行した指導者個人の戦争責任」という、行為当時の国際法上何ら違法ではなかった行為を事後法で裁いたという罪刑法定主義違反、そして、ポツダム宣言10項で「われらの捕虜を虐待せる者を含む一切の戦争犯罪人」と謳(うた)われた範囲を逸脱した条約違反という、国際法に違反した二重の意味で不法無効な裁判であった。訴訟指揮や証拠の採否にも甚だしい不公平、不公正があり、裁判の名に値しない「東京裁判」ならぬ、「東京茶番」だった。
 近代法の大原則にも条約にも違反した野蛮な茶番の結果、いわゆるA級戦犯として処刑された人々を、主権国家たるわが国が靖国神社に合祀(ごうし)していることは、他国からとやかくいわれる筋合いのものでは全くない。そのことを国民全てが認識し、東京裁判の不当性を教科書にも記載すべきである。

≪首相は堂々と靖国参拝せよ≫
 政教分離問題は、憲法改正議論とも密接に関わってくる。主権回復記念日に発表予定の自民党憲法草案では、自衛軍(国防軍)の創設を、憲法9条を改正して明記するし、集団的自衛権の行使を認めることを党の方針としている。
 それは、自衛戦争で亡くなる人を憲法が想定するということだ。では、自衛戦争で祖国を守るために命をささげた人をどこに祀(まつ)るのかというと、ペリー来航以来の国難に殉じた人々を合祀している靖国神社以外にはなく、解釈上、首相の靖国神社参拝が憲法違反とのそしりを受けることのないような憲法の文言にする必要がある。
 平成7年の村山談話は、「東京茶番」の判決に従った連合国側に押し付けられた歴史観に基づくものであり、直ちに撤回すべきだ。日韓併合条約に対する誤った認識を示し、反省と謝罪をした22年の菅談話と、それを踏まえ韓国に朝鮮儀軌を贈与したことも誤りであったと宣言すべきだ。東京裁判史観で書かれた教科書で日本の将来を担う子供たちに誤った歴史を教えることは、犯罪的だといっても過言ではない。学習指導要領、検定制度の見直しを中心とする教科書改革は待ったなしだ。
 平成5年の河野談話は、いわゆる従軍慰安婦の強制連行が事実無根であるにもかかわらず、政治的配慮から強制性を認めた点で誤りであった。現在、韓国から執拗(しつよう)に要求されている、いわゆる従軍慰安婦に対する謝罪と補償については、事実と国際法の両面から反論し、きっぱりと拒否すべきだ。

≪「国ごっこ」やめ主権国家に≫
 戦争被害の決着は平和条約の締結で終わっている。それを後に、あれこれ蒸し返すことは国家間の決着を無意味にし、国際法上の正義に反する。韓国でいえば、昭和40年の日韓国交正常化の際に締結された日韓基本条約で、全て解決済みであり、同時に締結された日韓請求権・経済協力協定で、日本が韓国に対して無償供与3億ドル、政府借款2億ドルの支援を約束する一方、両国およびその国民の間の財産請求権の問題が、完全かつ最終的に解決されたということが確認されている。
 わが国はもはや、慰安婦問題を含む戦争被害に対し補償だの謝罪だの反省だのする必要はないし、また、してもいけない。一時の政治的配慮でおわびをし、補償をするということは、平和条約を締結する意義を損なわせ、国際法のルールに反し、不正義だからだ。
 既成政党への不信が高まる中、政治に求められているのは、耳あたりのいいスローガンや、細かい事項を列挙したマニフェスト(政権公約)ではなく、決してブレない理念とそれを貫徹する覚悟だ。今年の主権回復記念日を、日本が「国ごっこ」をやめて真の主権国家になる始まりの一日に、そして保守政治再生の一歩にしたい。(いなだ ともみ)
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関連掲示
・拙稿「4月28日を主権回復記念日に」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/f9714a34ed975b947c18ac89887f6554

尖閣:石原都知事が購入へ3

2012-04-21 10:26:56 | 尖閣
 石原都知事が尖閣諸島を東京都が購入すると発表した。この発表に対して、当初テレビ報道の多くは、街頭取材で批判的・懐疑的な市民の意見を多く流した。私は直接見なかったが、NHKのあるテレビニュースでは、インタビューに答えた3人のうち2人が批判的な意見を述べたという。
 石原氏の行動にいち早く支持を表明した政治家の一人、安倍晋三代議士はフェイスブックで、この点に触れ、次のように書いている。
 「尖閣諸島の東京都の買収について石原知事の姿勢を強く支持します。
 現在、新藤義孝議員、山谷えり子議員、佐藤正久議員らと共に国が国境離島(200海里の起点離島など)を保護するための法整備(国による買い取り等も含める)を進めています。
 驚いたのはNHKの報道の中で『街の声』として3人中2人がこの石原知事の行動を批判しているコメントが放送されました。これは明らかにNHKの恣意的な選択で憤りを感じました」と。
 私はNHKの自然番組・科学番組・娯楽番組等を愛し、受信料を払い続けている視聴者だが、こと中国・韓国に関わる番組になると、NHKは日本偏向放送協会(Nihon Henkohoso Kyokai)とでも言いたくなるほどの偏向を示す。NHKも労働組合が強く、左翼的な人間が多くいると聞くが、さらに中韓の勢力が局内に思想的・人員的に浸透しているのではないか。

 インターネット上では、Yahooで「東京都の尖閣諸島買い取りに賛成? 反対?」というアンケートをやっている。現在のところ92%が賛成。ネット・ユーザーが回答者とはいえ、これほど圧倒的に賛成が多い調査結果は珍しいだろう。

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●Yahooでのアンケート

http://polls.dailynews.yahoo.co.jp/quiz/quizresults.php?poll_id=7747&wv=1&typeFlag=1
東京都の尖閣諸島買い取りに賛成? 反対?
石原慎太郎東京都知事が、尖閣諸島を東京都が買い取ることで調整を進めていることを明らかにしたそう。「本当は国が買い上げたらいいが、国が買い上げようとしないからだ」と理由を説明しましたが、あなたは東京都が尖閣諸島を買い取ることに賛成? 反対?
(実施期間:2012年4月17日~2012年4月27日)
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 4月21日8時50分現在で、合計217,911票のうち、賛成92% 199,415票、反対7% 14,420票、わからない2% 4,078 票。27日までなので、関心のある方はどうぞ。
 さて、このアンケートで反対と回答した人には、「都ではなく国が買うべき」という人もいるはず。本来は国が購入すべきものだからである。その観点から石原氏の行動を批判し、同時に政府を批判するという反対意見はあり得る。それゆえ、純粋な反対意見は「国も自治体も買うべきでない」「個人所有のままでよい」という意見になるだろう。だが、所有者が都に売りたいと言っているのだから、それに反対する人は、契約や売買の自由を原則とする自由主義の信奉者ではない。尖閣諸島はわが国の領土ではなく、中国領だとか中国に譲渡すべきという意見だろうか。反対意見の一部には、事なかれ主義もあるだろう。中国を刺激して日中関係がこじれるのをおそれ、現状維持を願うというものである。

 実は政権交代以前の自民党の歴代政権が、この事なかれ主義だった。そして、自民党政権の長年の不作為と媚中姿勢が尖閣問題を深刻化してしまった要因なのである。石原氏の尖閣購入の動きは、現在の民主党政権に対してだけでなく、自民党に対しても厳しく姿勢を問うものとなっている。
 安倍氏をはじめ、自民党の保守を自認する政治家は、従来の自民党の姿勢の誤りを真摯に反省し、剛毅に是正してもらいたいものである。石原氏の尖閣購入案は、これから都議会に付議される。都議会議員の方々には、単に都の公務員として都や都民の利益を考えるだけでなく、日本の国民として国や国民の利益に立って判断してほしい。