ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

トッドの人口学・国際論29

2010-01-31 08:46:06 | 文明
●結び~人類の文明は大転換しつつある

 エマニュエル・トッドに関する論考は、ここで結びとする。移民と外国人参政権の問題については、別に補説として書く。
 トッドは、人類の人口は21世紀の半ばには均衡に向かい、世界は政治的に安定すると予測している。私は彼の主張のうち、この点に最も注目している。本稿の冒頭に書いたが、人口爆発は、新しい技術の活用によるエネルギー、環境、食糧、水等の問題への取り組みを、すべて空しいものとしかねない。だから、人口増加を制止し、「持続可能な成長」のできる範囲内に、世界の人口を安定させる必要がある。この難課題に関し、トッドの主張は、一つの希望をもたらすものである。
 私見によれば、人類は、文明の「衝突」と「接近」を含みつつ、かつてないスケールで「大転換」しつつある。その「大転換」の様相として、三つ挙げておきたい。西洋からアジアへ、石油の時代から「太陽の時代」へ、新しい精神文化の興隆の三つである。

 第一に、西洋からアジアへ、である。
 トッドの関心は、主に西洋文明内部でのアメリカとヨーロッパの相違と競争、及びイスラム諸国に向けられている。そのため、西洋文明から非西洋文明へ、欧米からアジアへと、人類文明の中心が移動している、その大きな構図を見とれていない。トッドの視界には、台頭するアジアの姿がよく映っていない。2050年の世界を語る際に、今後大きく成長する可能性のある中国・インドの将来像はあいまいである。アジア及び世界における日本の役割についても、明確でない。
 この点、ハンチントンは、「長期にわたって支配的だった西洋文明から非西洋文明へと、力は移行しつつある」と、大局的にこの変化をとらえている。そのうえで、西洋文明の存続や繁栄、再興のための方策を、欧米人に提案している。
 1960年代に日本が高度成長に入り、70年代には韓国・台湾・シンガポール・台湾がこれに続いた。80年代には、タイ・マレーシア・インドネシア等も成長の軌道に乗り、「東アジアの奇跡」と呼ばれるようになった。90年代には、中国が急速に成長をはじめ、21世紀には、中国とインドが大国となると予想されている。アジアは世界の人口の3分の2を占め、経済や成長可能性において、他の地域を遥かに凌駕している。
 人類の文明は、西洋文明から非西洋文明へ、欧米からアジアへと、明らかに中心が移動しつつあるのである。

 第二に、石油の時代から「太陽の時代」へ、である。
 19世紀は石炭の時代、20世紀は石油の時代だった。20世紀の後半から21世紀の初頭にかけては、石油、天然ガス等の資源の争奪が世界的に繰り広げられた。21世紀には、食糧と水がこの争奪の対象に加わってきている。こうした資源の問題が改善に向かわないと、世界は安定に向かえない。この改善のために、石油中心の経済から、太陽エネルギーを中心とした経済への移行が始まっている。自然と調和し、太陽光・風力・地熱・潮力等の自然エネルギーの活用による「21世紀の産業革命」が、いまや起こりつつある。いわば石油の時代から「太陽の時代」への転換である。
 トッドの将来世界の展望は、この点を欠いているようだが、1970年代の初め、人類はエネルギー、環境、食糧、人口の危機にあると唱えられるようになってから、自然エネルギーの研究が進められてきた。2008年(平成20年)9月の世界経済危機によって、自然エネルギーの活用は、世界各国の現実的課題となり、活発に活用が勧められることになった。
 この変化は、人類の文明に大きな変化を生み出す出来事である。

 第三に、新しい精神文化の興隆である。
 基本的にトッドは、近代化論者なのだろう。控えめな言い方をしてはいるが、西洋文明における脱宗教化・個人主義化をよしとし、近代化による自由主義的民主主義の普及が、世界に平和をもたらすとトッドは期待している。しかし、私は、近代化の進行によって、人々の心が全面的に近代化=合理化するのではないと考える。私は、拙稿「心の近代化と新しい精神文化の興隆」において、この点を論じた。
 キリスト教、イスラム、仏教等の伝統的宗教は、紀元前から古代にかけて現れた宗教であり、科学が発達し、人々の意識が向上するにつれて、その役割を終え、発展的に解消していくだろう、と私は考えている。伝統的宗教の衰退は、宗教そのものの消滅を意味しない。むしろ既成観念の束縛から解放された人々は、より高い霊性を目指すようになり、従来の宗教を超えた宗教を求めるようになると考える。近代化の指標としての識字化と出生調節は、人々が古代的な宗教から抜け出て、精神的に成長し、さらに高い水準へと向上する動きだと私は思う。
 近代化=合理化が一定程度進み、個人の意識が発達し、世界や歴史や宇宙に関する知識が拡大したところで、なお合理化し得ない人間の心の深層から、新しい精神文化が興隆する。新しい精神文化は、既成宗教を脱した霊性を発揮し、個人的ではなく超個人的となる。それに応じた政治・経済・社会への改革がされていく。この動きは、西洋からアジアへのトレンドと重なり合う。
 アジアから新しい精神文化が現れる。特に日本が最も期待される。またその精神文化は、自然と調和し、太陽光・風力・水素等の自然エネルギーの活用による「21世紀の産業革命」と協調するものとなるだろう。こうした動きが拡大していって、初めて、世界の平和と人類の繁栄を実現し得ると私は考える。

関連掲示
・拙稿「心の近代化と新しい精神文化の興隆」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion09b.htm
参考資料
・エマニュエル・トッド著『世界像革命 家族人類学の挑戦』『新ヨーロッパ大全』『経済幻想』等(藤原書店)
・トッド著『帝国以後 アメリカ・システムの崩壊』、トッド+榊原英資他著『「帝国以後」と日本の選択』(藤原書店)
・トッド+クルバージュ著『文明の接近―「イスラームVS西洋」の虚構』(藤原書店)
・サミュエル・ハンチントン著『文明の衝突』『文明の衝突と21世紀の日本』(集英社)『引き裂かれる世界』(ダイヤモンド社)


友愛を捨てて、日本に返れ40

2010-01-30 08:40:37 | 時事
 この連載は20回くらいのつもりで始めたが、70回くらいになる見通しである。

●大国による力の支配を防ぐべし

 鳩山氏は「地域的統合を阻害している諸問題」を二国間で話し合っても逆効果だと言いながら、「地域的統合を阻害している問題は、じつは地域的統合の度合いを進めるなかでしか解決しない」と言う。二国間で話し合っても逆効果になる問題が、多国間で話し合えば解決に向かうと、どうして言えるのか。それと同時に、地域統合を阻害する問題が存在する中で、どうやって地域統合を進め得るのか。「友愛!」と言えば、国々の間の対立要因が太陽の光を浴びた霜のように消え失せるとでも、鳩山氏は思っているのだろうか。国際政治の舞台は、子供向けの演劇の舞台ではない。
 鳩山氏が、地域的統合を進めれば軍事力増強問題・領土問題が解決すると言うのは、詭弁である。現在、東アジアでは、中国が21年間、軍事費を二桁以上、増加し、猛烈な軍拡を行なっている。その中国との間で、わが国や台湾、フィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシア、ブルネイ等が領土・領海問題に直面している。中でも台湾は、もともと中国の歴史的な領土ではないのに、独立すれば武力侵攻すると脅されている。
 この状態で、東アジアの地域統合を進めるとなれば、わが国をはじめとする中国周辺の国々が、中国政府の意思に従い、中国共産党による支配体制に参入することでしかないだろう。中国が東アジアで勢力圏を拡大すれば、その地域では軍事力増強や領土問題は収まる。弱小国は、抵抗することができなくなるからだ。チベットや内モンゴル、新疆ウイグルは、共産中国によって統合された。それは、力による支配が拡大したのであって、EUのような国家連合による統合とは、全く異なる。鳩山氏の唱える「友愛」ではなく、力による併合である。こうした大国による力の支配を防ぐ道こそ、東アジアにおける地域集団安全保障や地域統合の目的でなくてはならないと私は考える。

●東アジアの領土・領海問題は甘くない

 鳩山氏は、EUの経験により、地域統合が領土問題を「風化させる」ともいうが、東アジアの領土問題は、ヨーロッパとは程度が異なる。わが国は、第2次大戦の末期、日ソ中立条約を一方的に破棄したソ連の侵攻を受け、北方領土を不法占拠され、今日に至っている。そのため、日本はロシアと平和条約の締結を行なっていない。
 鳩山氏の所説によれば、北方領土の返還は、「二国間で交渉しても解決不能」であり、「地域的統合の度合いを進めるなかでしか解決しない」。だから、北方領土問題を解決したければ、ロシアと地域統合を進めるしかないという論理となる。しかし、北方領土問題が未解決で、平和条約を締結できてもいないロシアとどうやって地域統合をするのか。経済交流を深めることと、地域統合は別の話である。
 また、第2次大戦後、新たに出現した韓国との竹島、中国との尖閣諸島、東シナ海・南シナ海の大陸棚等の領土・領海問題は、新興国のナショナリズムと資源の問題が関係している。韓国はわが国の領土である竹島を実効支配している。中国は日中両国が共同開発で合意している東シナ海のガス田に関し、日本が出資予定の「白樺」で一方的に掘削施設を完成させた。これらは、戦後のヨーロッパにおける領土問題とは、全く異なる性質の問題である。独仏は、石炭・鉄鋼の共同管理をした。いわば「友愛」によって戦略資源を共同管理したわけだ。であれば、日中の間では、東シナ海の海底油田・天然ガス田を共同管理するという方向か。しかし、中国はわが国との合意を無視して、資源の開発と略取を進めている。
 鳩山氏は「東アジアを『友愛の海』にしたい」と胡錦濤主席に言ったが、「友愛」という魔法の呪文を唱えれば、現実が一変するのではない。あっという間に変わるのは、鳩山氏の所論だけである。

 次回に続く。

参政権:長尾教授が自説撤回

2010-01-29 10:54:44 | 時事
 1月25日東京・憲政記念館で「永住外国人地方参政権付与に反対する国民集会」で、日大の百地章教授が、国内で最初に付与許容説を唱えた中央大の長尾一紘教授が自説の誤りを認めたことを明らかにした。
 今朝の産経新聞が、長尾氏本人にインタビューした記事を載せている。
 長尾氏は、「鳩山由紀夫首相の提唱する地域主権論と東アジア共同体論はコインの裏表であり、外国人地方参政権とパックだ。」と述べているが、これは私が拙稿「友愛を捨てて、日本に返れ」で主張していることと共通する見方かと思われる。参政権問題は参政権だけを論じているのでは、その本当の危険性を把握できない。憲法学、政治学、国際関係学等の専門の枠を超えた総合的な観点からの徹底した批判が必要である。

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●産経新聞 平成22年1月29日

■「法案は明らかに違憲」 外国人参政権の理論的支柱が自説を撤回
2010.1.28 21:47
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100128/plc1001282149019-n1.htm

 外国人に地方参政権を付与できるとする参政権の「部分的許容説」を日本で最初に紹介した長尾一紘(かずひろ)中央大教授(憲法学)は28日までに産経新聞の取材に応じ、政府が今国会提出を検討中の参政権(選挙権)付与法案について「明らかに違憲。鳩山由紀夫首相が提唱する東アジア共同体、地域主権とパックの国家解体に向かう危険な法案だ」と語った。長尾氏は法案推進派の理論的支柱であり、その研究は「参政権付与を講ずる措置は憲法上禁止されていない」とした平成7年の最高裁判決の「傍論」部分にも影響を与えた。だが、長尾氏は現在、反省しているという。
 長尾氏はドイツにおける部分的許容説に影響を受け、昭和63年に論文「外国人の人権-選挙権を中心として」を発表。「地方議会選挙において、外国人に選挙権を認めることに、憲法上特段の障害は存在しない」と主張し、「部分的許容説は合憲」との立場をとった。ただ、当時から「政策論としての(参政権)導入には大反対だった」という。
 昨年9月に民主党政権が誕生し、外国人への地方選挙付与が現実味を帯びたことで、長尾氏は自説に疑義を抱き始めた。政治思想史の文献を読み直し、昨年12月の段階で、理論的にも状況の変化という理由からも、「部分的許容説は維持できない。違憲である」との結論に達した。
 また、昨年2月、韓国での在外選挙権法成立で、在日韓国人が本国で国政参政権を行使できるようになり、状況は一変したと考えた。長尾氏は「現実の要素が法解釈に影響を与える『立法事実の原則』からも、部分的許容説はもはや誤りである」と語る。自身が学説を紹介したことで外国人参政権付与が勢いづいたことに関しては「私の読みが浅かった。慚愧(ざんき)に堪えない」と述べた。
 さらに、焦点は「在日韓国人問題から中国人問題に移る」との認識を表明。政府が法案提出を検討していることについては、「とんでもない。国家解体に向かう最大限に危険な法律を制定しようというのは、単なる憲法違反では済まない」と警鐘を鳴らした。

■外国人参政権をめぐる長尾教授インタビュー詳報「読みが浅かった」
2010.1.28 21:52
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100128/plc1001282154020-n1.htm

 産経新聞の取材に応じる長尾一紘中央大教授(憲法学)=27日午後、東京都八王子市の中央大キャンパス 外国人への地方参政権付与は合憲としてきた長尾一紘(かずひろ)・中央大教授が、従来の考えを改めて「違憲だ」と明言した。主なやりとりは次の通り。

 --地方参政権を認める参政権の部分的許容説に対する今のスタンスは
 「過去の許容説を変更して、現在は禁止説の立場を取っている。変える決心がついたのは昨年末だ」

 --部分的許容説を日本に紹介したきっかけは
 「20年くらい前にドイツで購入した許容説の本を読み、純粋に法解釈論として合憲が成立すると思った。ただ、私は解釈上は許容説でも、政策的に導入には反対という立場だった」

 --許容説から禁止説へと主張を変えたのはいつか
 「民主党が衆院選で大勝した昨年8月から。鳩山内閣になり、外国人地方参政権付与に妙な動きが出てきたのがきっかけだ。鳩山由紀夫首相の提唱する地域主権論と東アジア共同体論はコインの裏表であり、外国人地方参政権とパックだ。これを深刻に受けとめ、文献を読み直し、民主党が提出しようとしている法案は違憲だと考え直した」

 --考え直した理由は
 「2つある。1つは状況の変化。参政権問題の大きな要因のひとつである、在日外国人をめぐる環境がここ10年で大きく変わった。韓国は在外選挙権法案を成立させ、在日韓国人の本国での選挙権を保証した。また、日本に住民登録したままで韓国に居住申告すれば、韓国での投票権が持てる国内居住申告制度も設けた。現実の経験的要素が法解釈に影響を与える『立法事実の原則』からすると、在日韓国人をめぐる状況を根拠とすることは不合理になり、これを続行することは誤りだと判断した」

 --もうひとつは
 「理論的反省だ。法律の文献だけで問題を考えたのは失敗だった。政治思想史からすれば、近代国家、民主主義における国民とは国家を守っていく精神、愛国心を持つものだ。選挙で問題になるのは国家に対する忠誠としての愛国心だが、外国人にはこれがない。日本国憲法15条1項は参政権を国民固有の権利としており、この点でも違憲だ」

 --ほかには
 「許容説の一番最先端を行っているドイツでさえ、許容説はあくまでも市町村と郡に限られる。国と州の選挙の参政権はドイツ国民でなければ与えられない。一方、鳩山首相は地域主権論で国と地方を並列に置き、防衛と外交以外は地域に任せようとしている。最先端を行くドイツでさえ許していないことをやろうとするのは、非常に危険だ」

 --政府・民主党は、外国人地方参政権(選挙権)付与法案を成立させたい考えだが
 「とんでもないことだ。憲法違反だ。国家の解体に向かうような最大限に危険な法律だ。これを制定しようというのは単なる違憲問題では済まない」

 --付与の場合の影響は
 「実は在日韓国人より、中国人の方が問題だ。現在、中国は軍拡に走る世界で唯一の国。中国人が24日に市長選があった沖縄県名護市にわずか千人引っ越せば、(米軍普天間飛行場移設問題を焦点とした)選挙のキャスチングボートを握っていた。当落の票差はわずか1600票ほど。それだけで、日米安全保障条約を破棄にまで持っていく可能性もある。日本の安全保障をも脅かす状況になる」

 --学説の紹介が参政権付与に根拠を与えたことは
 「慚愧(ざんき)に堪えない。私の読みが浅かった。10年間でこれほど国際情勢が変わるとは思っていなかった。2月に論文を発表し、許容説が違憲であり、いかに危険なものであるのか論じる」(小島優)
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巨悪の僭主・小沢独裁を許すな

2010-01-28 09:48:58 | 時事
 デモクラシーは、民衆が政治に参加する制度である。民衆が多数決で物事を決定する政治は、愚民政治、または独裁政治に陥りやすい。わが国は今日、大衆民主主義とマスメディアの商業主義によって、愚民政治に陥っている。私は、青島幸男氏、横山ノック氏というお笑い芸人が、それぞれ東京都知事・大阪府知事になった平成7年(1995)から、わが国の政治は愚民政治に堕したと観察している。戦後50年の年だった。日本人の精神的低下が顕著になった大きな節目の年である。

 自民党政権は、わが国の政治が愚民政治に劣化するなかで延命した。昨年9月、腐敗・堕落を続けた自民党は、ついに国民の信任を失い、野党に転落した。自民党に替わって政権についた民主党は、徹底して市民参加を求める政策を打ち出した。民主党の触れ込みによって、利権癒着・官僚主導・中央集権という旧弊を破って、オープンでフェアーな社会にわが国を変え、わが国のデモクラシーを成熟させる政治を、民主党に期待した国民は少なくないだろう。
 ところが、民主党中心の連立政権の発足後、約4ヶ月が経ち、その期待が幻想だったことに気づいた人が、日増しに増えている。民主党では言論が規制され、自由な言論が行なわれておらず、意思決定のプロセスも非民主的であることが、暴露された。民主党は、民主主義を党名に表しているが、その実態は左翼団体における「民主集中制」に近い。それどころか、鳩山政権は総理大臣が最高実力者ではなく、内閣の一員ではない小沢一郎氏が首相の上に立ち、采配を振るっているという構造が明らかになっている。

 歴史上しばしば、愚民政治で荒廃した国家には、独裁者が登場した。民主党には、小沢一郎という独裁者が、カネと人事と情報を握って、鎮座している。自分が首相になる可能性を否定していない。旧社会党や労働組合系の政治家は、元自民党だった小沢氏の采配に反発しない。逆に小沢氏を強く支持し、結束している。小沢氏の独裁者的な性格と手法は、旧社会党や日教組のマルクス=レーニン主義的な組織原理と親和するのだろう。
 鳩山氏の「友愛」は、国民に対し、独裁者・小沢一郎の存在をカムフラージュする言葉となっている。そして、実はこの点こそ、「友愛」という言葉が持つ最も危険な点なのである。「友愛」の後から、独裁がやってくる。「友愛政治」は、国民から絶対的な権力を集め、「独裁政治」を開く先導役となる。鳩山氏の「友愛」に日本を委ねることは、暴君・小沢一郎に日本の政治、日本人の運命を委ねることである。日本人は、このことに気づかねばならない。

 わが国に独裁政治の危機が迫る状況で、小沢氏の土地疑惑問題が浮上した。東京地検特捜部の捜査に対し、小沢氏は、自分は関与していないと言い、ウソを並べ立てて追及をかわそうとしている。
 小沢氏の土地疑惑問題に関し、民主党には、小沢氏を批判する国会議員はほとんどいない。小沢氏の責任を公言したのは、最近まで村越祐民代議士ただ一人だった。小沢氏は、カネと人事と情報で民主党の党員を支配している。小沢氏に逆らうことにより、役職を与えられない、選挙で公認を得られない、選挙で資金をもらえない、活動に必要な情報を得られない等の報復をおそれているのだろう。また小沢氏が力を失えば、本年夏の参議院選挙で不利になることを計算してもいるのだろう。

 小沢氏が土地疑惑を生き延びて、民主党が衆議院に続いて参議院でも単独過半数を取れば、小沢氏による独裁政治が始まるおそれがある。その危険性を感知する人が、国民の間に増えつつある。有識者の中からも、小沢独裁を警戒する声が挙がっている。
 以下は、いずれも産経新聞の記事の抜粋だが、東大教授・山内昌之氏、評論家・西尾幹二氏、元財務相・塩川正十郎氏が、小沢氏及び民主党の問題点を指摘している。それぞれの主張に耳を傾け、日本の政治の軌道修正を図りたい。

●【歴史の交差点】東京大学教授・山内昌之 「現代の僭主」
2010.1.8 02:54
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100108/plc1001080254002-n1.htm

 「「僭主(せんしゅ)」という言葉がある。もともとは、古代ギリシャのポリスで非合法な手段で支配者となった人物を指した。貴族出身でありながら平民の不満を利用し、その支持を得て権力を掌握した支配者のことだ。」 「僭主のギリシャ語から派生した英語の「タイラント」という言葉からも知られるように、僭主は暴君の意味にもなる。ギリシャで「強い者」を意味した僭主は、傲慢(ごうまん)に人を支配し、不正を働き、法や公正を守らない者を指すようにもなった。僭主は正当な君主から政権を強奪したからである。」
 「昨年12月末の世論調査では、鳩山内閣の支持率は48%に落ち込み、首相の指導力を評価しない人は74%を超えた。首相のリーダーシップに国民の目が厳しいのは、民主党トップの地位にありながら政策執行の責任者としての存在感が薄い点と無縁ではない。選挙の最高責任者は最終的に政党の党首であるはずなのに、民主党代表たる首相は最初からこの面でのリーダーシップを放棄して、小沢一郎幹事長を頂点とする別の権力構造の自律的存在を許してしまった。
 それどころか、政府の専権事項の予算編成にも、マニフェストの一部を放棄させ、特定の陳情を優先する党の力の波及を許してしまった。藤井裕久財務相の辞任には心から同情を禁じえない。これらはすべてでないにせよ、古代のギリシャ人やローマ人が問題にした君主と僭主との関係にも似た政治力学の結果かもしれない。」

 ほそかわ註: 代表的な僭主は、紀元前6世紀のペイシストラトス。非合法的に権力を取り、独裁政治を行なったが、息子のヒッピアスの時に反乱が起こり、その後、本格的なデモクラシーが確立された。

●【正論】評論家・西尾幹二 小沢氏の権力集中は独裁の序章
2010.1.27 02:31
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100127/plc1001270232002-n1.htm

 「小沢氏は最大与党の幹事長として巨額の政党助成金を自由にし、公認権を握り、地方等からの陳情の窓口を自分に一元化し、年末には天皇陛下をあたかも自分の意の儘(まま)になる一公務員であるかのように扱う無礼を働き、近い将来に宮内庁長官の更迭や民間人起用による検事総長の首のすげ替えまで取り沙汰(ざた)していた。つまりこれは、あっという間に起こりかねない権力の異常な集中である。日韓併合100年における天皇訪韓をソウルで約束したり、問題の多い外国人地方参政権法案の強行採決を公言したりもした。一番の驚きは、訪中に際し自らを中国共産党革命軍の末席にあるかのごとき言辞を弄し、民主党議員百四十余人を中国国家主席の前に拝跪(はいき)させる服属の儀式をあえて演出した。
 穏やかな民主社会の慣行に馴(な)れてきたわれわれ日本国民には馴染まない独裁権力の突然の出現であり、国民の相談ぬきの外交方針の急変であった。この二点こそが小沢問題の危険の決定的徴表である。恐らく彼の次の手は-もし東京地検の捜査を免れたら-地方議会を押さえ込み、国内のどこからも反対の声の出ない専制体制を目指すことであろう。」
 「農水大臣は韓国民団の新年会で外国人地方参政権の成立を約束した。幹事長代行は日教組支持を公言し、教職員に政治的中立などあり得ないとまで言っている。もし小沢氏の独裁権が確立されたなら、日本は例を知らない左翼全体ファッショ国家に急変していくことを私は憂慮している。」

●【単刀直言】塩川元財務相 「小沢支配」で独裁国家に 自民よ、返り血恐れず戦え
2010.1.26 18:45
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100126/plc1001261848010-n1.htm

 「民主党の小沢一郎幹事長が東京地検特捜部の事情聴取を受けたが、もう言い訳は立たないやろう。民主党議員が検察批判をして突っ張っているけど、そういうことはやめてほしい。国民は司法を信頼しておる。ここで司法が腰砕けになったら、日本の国はむちゃくちゃになる。検察はしっかりと「政治とカネ」の問題に片を付けてほしい。」
 「民主党というのは自浄作用がまったく働かないようだ。自民党は長年にわたり衆参両院で多数を持っておったが、それでも独裁的傾向は全くなかった。田中角栄元首相だって田中派以外の派閥が牽制(けんせい)するから独善的なことはできなかった。その結果、党全体としては中道を行き、自浄作用も働いた。
 小沢氏のやり方をみていると、「おれの言うことを聞かなかったらダメだ」と言わんばかりの独裁だ。もし、夏の参院選で民主党が単独過半数を取り、衆参両院を支配したら、党主導の独裁国家になる。田中氏がロッキード事件の起訴後に「操り人形」を操ったように、小沢氏が表に出ず権力を振るう。田中氏はキングメーカーではあっても独裁者ではなかったが、今度は小沢氏がただ一人の支配者になるんだ。これは非常に危ない。」
 「自民党は、政治の透明性を確保するため、国会で「政治とカネ」の問題を徹底追及すべきだ。そうでないと国民は政治への信頼を失う。返り血を恐れずに戦うことやね。」

友愛を捨てて、日本に返れ39

2010-01-27 09:28:17 | 時事
●安全保障における鳩山氏の大きな後退

 鳩山氏は、わが国が米中の狭間で「いかにして政治的・経済的自立を維持し、国益を守っていくのか」という課題を自覚している。また「経済協力と安全保障のルールを創り上げていく道を進むべき」「東アジア地域での恒久的な安全保障の枠組みを創出する努力を惜しんではならない」とも言うから、日米安保体制だけでなく、東アジアの地域集団安全保障体制を構築することによって、わが国の安全保障を強化することを目指しているらしい。
 ところが、鳩山氏の安全保障論には、ほとんど中身がない。国家安全保障の核心は軍事である。具体的には、国防の意思と実力である。安全保障の問題は、誰が日本を守るのか、という根本的なところから考えなければならない。国防の主体は誰なのか、日本の国民なのか、自衛隊員なのか、米軍兵士なのかという点から、考えるべき問題である。
 鳩山氏は、平成17年(2005)の新憲法試案では、「安全保障」という独立した章を設け、自衛隊を自衛軍とする案を発表した。「日本国は、自らの独立と安全を確保するため、陸海空その他の組織からなる自衛軍を保持する」という条文を示し、集団的自衛権については、現在の政府見解である内閣法制局の解釈を改め、「集団的自衛権の制限的な行使を容認する」という立場に立つことを明らかにした。
 ところが、鳩山氏は、首相となると自衛軍への改正を語らなくなり、集団的自衛権に関する自説を撤回した。つまり、現状維持ということである。いったい日本の戦力を自衛隊と呼び、集団的自衛権は保有するが行使できないというわが国の現状のままで、東アジアの国々と集団安全保障の枠組み作りなどできるだろうか。集団的自衛権は保有するが行使できないというわが国のような国と、国家の運命をともにしようという国がアジアに存在するだろうか。私は存在しないと思う。日米関係が極めて特殊なのである。

●「逆説」ではなく破綻

 鳩山氏は、安全保障に関する姿勢に重大な問題を露にしながら、次のように「Voice」論文に書く。
 「いまやASEAN、日本、中国(含む香港)、韓国、台湾のGDP合計額は世界の4分の1となり、東アジアの経済的力量と相互依存関係の拡大と深化は、かつてない段階に達しており、この地域には経済圏として必要にして十分な下部構造が形成されている。しかし、この地域の諸国家間には、歴史的文化的な対立と安全保障上の対抗関係が相俟って、政治的には多くの困難を抱えていることもまた事実だ」と。
 氏の所論は、ここで大きく乱れる。「しかし」と鳩山氏は続ける。「軍事力増強問題、領土問題など地域的統合を阻害している諸問題は、それ自体を日中、日韓などの二国間で交渉しても解決不能なものなのであり、二国間で話し合おうとすればするほど双方の国民感情を刺激し、ナショナリズムの激化を招きかねないものなのである。地域的統合を阻害している問題は、じつは地域的統合の度合いを進めるなかでしか解決しないという逆説に立っている。たとえば地域的統合が領土問題を風化させるのはEUの経験で明らかなところだ」と。
 鳩山氏は「軍事力増強問題、領土問題など地域的統合を阻害している諸問題」は、「二国間で交渉しても解決不能」であり、「二国間で話し合おうとすればするほど双方の国民感情を刺激し、ナショナリズムの激化を招きかねない」と言う。そして「地域的統合を阻害している問題は、じつは地域的統合の度合いを進めるなかでしか解決しない」という。
 これは「逆説」ではない。「妄説」であり、論理の破綻である。

 次回に続く。


友愛を捨てて、日本に返れ38

2010-01-25 12:52:39 | 時事
●通貨の背後には国家がある

 鳩山氏は、地域通貨を統合してアジア共通通貨を実現するというのだから、ユーロのアジア版のようなものを考えているのだろうか。ただ、この構想にも、具体性がない。世界的には、ドル基軸体制に替わる新たな通貨体制として、ドルを含む複数の通貨を組み合わせる「通貨バスケット方式」、複数の通貨に金(ゴールド)だけでなく様々な基本物資を加えて裏づけとする「コモディティ・バスケット通貨方式」、ケインズが唱えた国際通貨「バンコール」の現代版のような「グローバル紙幣」の創出などの案が出ている。
 鳩山氏の場合は、基本的な発想がグローバルではなく、東アジアに限定されている。現在、アジアで有力な通貨は、アメリカのドル、日本の円、中国の人民元である。地域通貨ゆえ、米ドルは対象でないとすれば、まず円と元を統合する。そこに韓国のウオン、シンガポール・台湾等のドル、タイのバーツ等、他の国々の通貨を統合するという手順になるだろうか。問題は、円と元の統合、そのメリット、デメリットにあることは明らかである。しかし、鳩山氏は、そのことにすら触れない。
 私が重要だと思うのは、通貨の背後には国家があるということである。ユーロの場合、ドイツとフランスの協調がもとになった。両国は体制を同じくする国々であり、自由主義、デモクラシー、人権、キリスト教等の共通の価値観を持つ。経済力もほぼ互角である。だから、マルクとフランを統合して幹とし、そこに各国の通貨を統合して枝葉とすることができた。ただし、主要国の一つであるイギリスは、自国通貨のポンドを維持している。そういう選択する国がヨーロッパには存在するのである。
 日本と中国の場合は、どうか。日本と中国は、経済交流は進んでいるが、国家の体制が異なる。経済的には実質的に資本主義だが、政治的には自由主義と共産主義という相違がある。また安全保障の上では、日中は同盟関係にはない。私は、日本が共産化するか、中国が自由化するかのどちらかにならない限り、通貨の統合は無理だと思う。ここでも鳩山氏の主張には、中国は共産主義国家だという明確な認識がないのである。
 
●中国は「アジア共通通貨」を無視して人民元をアジアに広げる

 中国は鳩山氏の「アジア共通通貨」の呼びかけなど無視して、東アジアを人民元の経済圏にするための計画を進めている。既に各所で布石を打ち終え、来年(平成22年、2010)から本格的に展開する用意を整えた模様である。
 中国は平成20年(2008)9月のリーマン・ショックをきっかけに、人民元経済圏の拡大に乗り出した。人民元の対ドル・レートを固定したことにより、中国の取引先は為替変動リスクを被る恐れがなくなり、人民元建て貿易決済を受け入れるようになった。同時に中国は、ドルを大量に発行するアメリカに対抗して、人民元を大量に印刷して、人民元が周辺アジアに大量に流れ込ませている。
 人民元は、すべて毛沢東の肖像が印刷された紙幣である。マルクス=レーニン主義者にして、抗日民族解放戦争の指導者・毛沢東の肖像である。人民元がアジアに広がるということは、毛沢東がアジアに広がるということである。
 中国は22年1月、東南アジア諸国連合(ASEAN)との自由貿易協定を発効させる。中国は協定の対象地域を「自由貿易区」と呼ぶ。これまで中国はベトナム、ラオス、ミャンマー、北朝鮮、ロシア極東部等と人民元建ての交易を活発に行い、出稼ぎ労働者や経営陣を大量に送り込んできた。今後、ASEAN諸国が「自由貿易区」になることで、中国は人民元を東南アジア全域に普及させようとしている。
 中国最大の国有商業銀行である中国工商銀行は、本年(21年)9月、インドネシア企業向けに人民元を融資した。中国企業との貿易決済用で、初めての人民元貿易金融取引になるという。人民元貿易金融取引外国企業への人民元融資の最初の例となった。同行はこれを機に、東南アジア等で対外貿易決済用の人民元資金融資を一挙に拡大しつつある。国際化の最も進む中国銀行も、インドネシア、シンガポール、タイ、マレーシアでの支店で人民元決済業務を拡大させている。
 こうした動きに応えて、イギリスの香港上海銀行グループ(HSBC)は本年(21年)11月、インドネシアで人民元建ての貿易決済サービスを開始した。マレーシア、タイ、シンガポール、ベトナム、ブルネイにも同様の業務を展開する計画という。ポスト・ドルの時代に向けて、ロスチャイルド財閥と中国共産党が支配する金融機関が連携を強めている動きと思う。この連携には、さらにロックフェラー財閥等の米欧の巨大国際金融資本が連なっているだろう。
 中国は人民元をアジアの標準決済通貨とするように、着々と計画を進めている。これに対し、鳩山氏には、まったく戦略がない。国際的な準備通貨として円のシェアは、過去10年間で半減し、いまや世界の3%にすぎない。円が後退し、元が拡大するなかで、鳩山氏は何の戦略も示さずに「アジア共通通貨」を説いている。愚かと言うしかない。中国は「友愛」による「アジア共通通貨」の呼びかけを無視しながら、人民元によるアジア経済支配を進めているのである。
 さらに中国は、人民元をドルに対抗する国際決済通貨にしようと目論んでいる。この点は、アジアという枠を超えるので、後の項目で改めて述べたいと思う。

 次回に続く。

疑問の膨らむ小沢氏の説明

2010-01-24 10:49:30 | 時事
 小沢一郎氏は、1月23日、土地疑惑問題に関し、東京地検特捜部の事情聴取に応じた。4時間半に及ぶ事情聴取を終えた小沢氏は記者会見し、初めて自ら事件について説明した。
 小沢氏は、土地購入には自己資産4億円を貸し付けた、資金の事務処理や収支報告書の虚偽記載については関与していない、銀行口座への入金、土地代金の支払いなどはすべて担当秘書が行い、具体的な処理は分からない、と述べた。また不正な裏金など一切もらっていないと断言した。
 これに対し、今朝の全国紙、産経、読売、毎日、朝日の各紙は、社説に「なんら潔白の証明にはなっていない」(産経)「なお多くの疑問が残る」(読売)、「秘書任せは疑問が残る」(毎日)、「まだ残る数多くの疑問」(朝日)と書いている。
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100124/stt1001240304001-n1.htm
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20100124-OYT1T00096.htm
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20100124k0000m070093000c.html
http://www.asahi.com/paper/editorial.html

 今回、東京地検が小沢氏の聴取を要請した目的は、次の点を明らかにする必要によると見られる。
 小沢氏がこの容疑にどの程度かかわっていたのか。小沢氏が貸し付けたというこの資金を小沢氏はどこから工面したのか。特にゼネコンからの資金が入っていたのかどうか。土地取引に絡む複雑なカネの動きは、一種の資金洗浄だったのではないか。
 これら三つのポイントは、朝日が社説で挙げたものだが、わかりやすにので、ポイントごとに、各紙の記述を整理してみよう。

●小沢氏が、この容疑にどの程度かかわっていたのか。
 産経は 「(小沢氏は)銀行口座への入金、土地代金の支払いなどは「すべて担当秘書が行い、具体的な処理は分からない」と述べた。16年の土地購入の所有権移転日を17年とした点も関知していないとした。実務はすべて秘書の判断で行われ、複雑な資金操作などにかかわっていないことを強調したものだが、手持ち資金があって必要のない融資を受けるなど強い疑念が残っている。」と書いている。
 毎日も、「(小沢氏は)「金融機関からの融資や、報告書の虚偽記載は「事務処理に関与していないので分からない」「全く把握していない。報告を受けたこともない」とした。この説明には疑問が残る。資金管理団体の代表として、土地購入に伴うこれだけ巨額の政治資金の出入りをすべて秘書任せにすることがあり得るのか。小沢氏本人も、記者団への説明資料で「常々、担当秘書には、政治団体の収支についてはきちんと管理し、報告するように言っていました」と述べている。」と書いて、疑問を呈している。

●小沢氏が貸し付けたというこの資金を、小沢氏はどこから工面したのか。特にゼネコンからの資金が入っていたのかどうか。
 朝日は 「小沢氏は会見で、こう説明した。資金は自宅を売却した残金や家族名義の口座から引き出し、事務所の金庫に保管していた4億数千万円の一部だ。資金の事務処理や収支報告書の虚偽記載については関与していない。 しかし巨額の資金を長年、現金で置いていたことは常識では理解できないし、家族名義の預金のもとの出どころも不明だ。多額の利子負担を顧みず、4億円の預金を担保に銀行の融資を受け、それで土地代金を払ったように見せかけたことも知らなかったという。」 と書いて、疑問だとしている。
 産経は「特捜部は購入原資がゼネコンからの裏献金だったとの疑いを強めているが、小沢氏はゼネコンからの裏献金は一切ないと否定した。だが、岩手県の胆沢ダム建設をめぐり、重機土木大手「水谷建設」の元幹部が資金提供について具体的な証言をしている。」と書いている。

●土地取引に絡む複雑なカネの動きは結局、一種の資金洗浄だったのではないか。
 朝日は「東京地検は、小沢事務所が東北の公共工事をめぐり、ゼネコン談合組織の受注調整に強い影響力を持ち、多額の政治献金を集めていたとみている。 岩手県の胆沢ダム建設工事を下請け受注した中堅ゼネコンの元幹部から、石川議員らに計1億円を提供したという供述も得ているという。このうちの5千万円は土地取引の前に石川議員に渡され、その直後に陸山会の口座に同額が入金されているという。 資金洗浄を疑わせるカネの動きは、こんな疑惑を隠すためではなかったのか」と疑問視している。

 以上3点のほかに、読売は、小沢氏の過去の発言と、今回の説明の違いを突いている。「資金管理団体による不動産購入が問題視された3年前には「政治献金」、今回の疑惑が発覚した昨年10月には、資金管理団体の定期預金を担保にした「金融機関からの融資」だった。党大会での釈明や聴取後の説明通りなら、不動産購入が問題となった3年前、記者会見で契約書なども示しながら語った内容は、一体何だったのか。3年前の会見では、不動産購入は、「献金した人の意思を大事にし、有効に使う方法だ」と述べ、支援者の浄財を購入資金に充てたとしていた。しかも、会見時の資料の一部は、作成日を偽って直前に作ったことが判明している。」と。

 上記のように、産経、読売、毎日、朝日の各紙は、小沢氏の説明に対し、多くの疑問が残ることを指摘している。産経は小沢氏に「国会や国民へのさらなる説明責任を果たしてほしい」と述べ、読売は「今度の説明こそ真実、と国民が納得できる根拠を示すべきだ」と要望している。毎日は野党の小沢氏の国会での参考人招致に対し、「民主党は積極的に対応すべきではないか」と書き、朝日は「民主党はこれで一件落着とせず、(野党の説明要求に)堂々と応じるべきである。」と主張している。
 重点の置きどころや要望の内容に違いはあれ、日本のマスメディアがこれほど共通した論調を示すことは珍しい。メディアの論調は、国民の意思を反映するとともに、国民の判断に影響を与える。小沢氏、及び民主党を政権へとのし上げた潮の流れが、はっきり変わった。日本人の多くの良識が働き出した。小沢氏は、特捜部聴取後の記者会見で、強気に言い切っていけば、大衆はそれを信じると考えたのかも知れないが、天を恐れず、民を侮る独裁者は、自らの言動によって自滅するものである。
 
 小沢氏はウソをついている。産経の記事が、小沢氏の4つのウソを告発している。「収支報告書に記載していない収支」「土地代金を装った融資」「陸山会の所有権を主張した『確認書』」、ゼネコンからの裏献金を否定ーーこの4つである。国会では、これらのウソを徹底的に追及してもらいたい。以下、記事のクリップ。

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●産経新聞 平成22年1月24日

http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/100124/crm1001240036000-n1.htm
【小沢氏聴取】資金の流れ追及、「3つのウソ」
2010.1.24 00:30

 昨年3月の全面対決から約10カ月。民主党の小沢一郎幹事長と東京地検特捜部の攻防は23日、小沢氏の任意聴取という“直接対決”に発展した。「政治資金に関してはすべてオープンにしている」。ことあるごとにこう胸を張り続けた小沢氏。聴取では自身の資金管理団体「陸山会」をめぐる政治資金規正法違反事件について関与を否認したとみられる。しかし、捜査の過程でこうした小沢氏の言葉は覆されつつある。特捜部は国民を欺き続けた「政治家のウソ」という構図を描こうとしている。

■偽装
 昨年3月4日午前。小沢氏は全身にカメラのフラッシュを浴びていた。前日に、小沢氏の公設第1秘書、大久保隆規容疑者(48)が西松建設の違法献金事件で逮捕されていた。
 「政治資金についてはすべてオープンにしている。収支を全部公開しているのは私だけではないか」
 民主党本部で開かれた記者会見で、小沢氏は国民に向かってこう強調した。この言葉が「ウソ」だったことが後に判明する。陸山会の土地購入をめぐる事件の捜査をきっかけに、政治資金収支報告書に記載していない収支がいくつも出てきたのだ。
 同事件の逮捕容疑だけを見ても、平成16年分は土地代金の原資4億円の収入と土地代金約3億5千万円の支出、19年分は小沢氏への返済金名目の4億円の支出…。
 「ウソ」は土地代金の原資についてもあった。この土地購入が問題となった後の19年2月、小沢氏は会見で「土地購入の原資は銀行からの融資だった」と述べた。
 しかし実態は、融資は土地代金の原資4億円を隠すための偽装工作だったとされる。融資を受ける直前に土地代金を支払っていたからだ。小沢氏は偽装工作が発覚すると、今月16日の党大会で「私どもが積み立ててきた個人の資金」と「ウソ」を修正した。
 さらに、同じ19年の会見で、小沢氏は「確認書」なるものを報道陣に提示している。登記上の所有権は小沢氏個人の名義だが、事実上の所有者は陸山会-というものだった。
 確認書の作成日付は陸山会が収支報告書に土地購入を記載した17年1月7日。ところが、実際に作成した日付は会見の直前だった。土地購入が問題となり、慌てて帳尻あわせをしたとみられる。これも偽装工作といえるものだ。
 「収支報告書に記載していない収支」「土地代金を装った融資」「陸山会の所有権を主張した『確認書』」…。小沢氏が偽装と気付いていたかは不明だが、自らの言葉で事実上、3つの「ウソ」を付いていたといえる。

■裏金
 聴取の焦点となった土地代金の原資。小沢氏は今月16日の党大会で「何ら不正なお金を使っておるわけではありません。個人資金でございます」と強弁した。
 しかし、特捜部の目は“ゼネコンからの裏献金”に向いている。党大会での言葉を4つ目の「ウソ」とみているのだ。
 小沢氏の地元、岩手県奥州市で進められている胆沢(いさわ)ダム工事をめぐり、水谷建設元幹部らが土地購入があった16年10月に民主党衆院議員の石川知裕容疑者(36)に裏金5千万円を渡したと供述しており、これらの供述が詳細を極めているからだという。
 また、水谷建設元幹部らは17年4月に大久保容疑者に5千万円を渡したとも供述している。同年3~5月には小沢氏から陸山会に4億円が入金され、同額が戻されるという不自然な資金移動があった。
 石川、大久保両容疑者は水谷建設を含めたゼネコンからの裏献金を否定しているとされる。しかし、特捜部は土地代金の原資に裏献金が含まれていたとみて、ゼネコン捜査を継続している。
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トッドの人口学・国際論28

2010-01-23 08:41:03 | 文明
●再びアメリカ論

 本稿では前半の初めに、トッドのアメリカ論を書いた。後半でイスラエル及びユダヤ人社会、日本、中国等に触れてきたところで、最後に再びアメリカ論を述べたい。

 トッドは、歴史的に見て、帝国には、軍事的・経済的強制力とイデオロギー上の普遍主義が必要だという。ところがこれらの資質が、アメリカには欠けている。「全世界の現在の搾取水準を維持するには、その軍事的・経済的強制力が不十分である」「そのイデオロギー上の普遍主義は衰退しつつあり、平和と繁栄を保証すると同時に搾取するため、人々と諸国民を平等主義的に扱うことができなくなっている」とトッドは指摘する。そして、次のように明言する。「この二つの基準に照らしてみると、アメリカは著しい不足振りを呈する。それを検討するなら、2050年前後にはアメリカ帝国は存在しないだろうと、確実に予言することが出来る」と。
 そして、トッドは、アメリカに対して、帝国であろうとすることを止め、普通の国民国家に戻るよう勧めている。「世界が必要としているのは、アメリカが消え去ることではなく、民主主義的で自由主義的にして、かつ生産力の旺盛な本来のアメリカに立ち戻ることなのである」と。
 トッドは、文明は「衝突」せず、「接近」するとし、それを妨げているのは、アメリカの世界戦略だと批判する。アメリカの帝国的行動に反発するトッドは、ヨーロッパとロシアの連携を支持する。日本に対して、独仏露の枢軸に参加して、ともにアメリカに対抗し、多極化を進め、多極体制の世界政治を主導しようと呼びかける。また、将来の国際政治の中心は、アメリカではなく国際連合になるとトッドは想定し、日本が安全保障理事会の常任理事国になり、ドイツとフランスで常任理事国の地位を共有することを提案している。
 トッドはアメリカ帝国の解体を予想するが、衰退しつつあるのはアメリカだけではない。すでにヨーロッパが衰退しつつある。アメリカはその後を追っている。西洋文明が衰退期に入っているのである。トッドは、ヨーロッパ人として、ヨーロッパの栄光の継続を願っているのだろうが、ヨーロッパは20世紀初頭に絶頂期を過ぎた。2度の大戦によって、文明の内部で相撃ちをし、富の源泉だった植民地を失い、勢力が大きく減少した。ヨーロッパの統合は、こうした傾向に抗して、ヨーロッパを再興しようという努力である。それは、覇権国家アメリカや新興勢力日本への対抗のためでもある。EUの結成や統一通貨ユーロの制定は、成果を挙げている。しかし、個々の国家を見れば、イギリスにもドイツ、フランスにも昔日の面影はない。EU全体でも、かつての大英帝国の強盛はない。
 トッドは、現在の世界では、西洋文明とイスラム文明の対立より、旧大陸と新大陸の対立が生じていると主張する。端的に言えば、ヨーロッパとアメリカの対立である。もし西洋文明の内部で、ヨーロッパ文明とアメリカ文明の離反が進むならば、西洋文明の全体がいっそう衰退を早めるだろう。

●多極化する世界におけるアメリカのあり方

 トッドに比べ、ハンチントンは、西洋文明の衰退をより客観的に認識している。1998年(平成10年)日本での講演で、ハンチントンは、「西洋文明は、現在はもちろん、今後数十年の間も最も強力な文明でありつづけるだろう。だが、他の文明に対する相対的な力は衰えつつある」と語っている。また、ハンチントンは、アメリカの相対的な地位が低下していくことも予測している。西洋文明とアメリカの衰退を予測するからこそ、ハンチントンは、アメリカは文化的な根っこを大切にして、ヨーロッパとの連携を強化するように勧める。西洋文明を普遍的とせず、自らの価値観を他に押し付けるのをやめ、他の文明を理解し、文明の衝突を回避して、米欧の主導で世界秩序を再構築することを提案するのだろう。
 私が、トッドとハンチントンに明確な違いを見るのは、片やフランス人、片やアメリカ人という、拠って立つ国家が異なる点である。トッドは、反米主義者ではないが、フランス人としてアメリカへの対抗や自立をめざす。アメリカは不要であり、欧露はアメリカに依存せずにやっていけるという。アメリカ人の傲慢に対し、フランス人の意地を示しているようなところがある。ハンチントンは、アメリカ人であり、アメリカの国益をもとに考えている。
 ハンチントンは、1998年(平成10年)日本での講演で、次のように述べている。「多極化する21世紀の世界では、諸大国は合従連衡を繰り返しながら競争し、衝突し、連合していくに違いない。だが、そのような世界では、一極・多極体制の世界の特徴である超大国と諸大国との緊張や対立はなくなる。そのため、アメリカにとっては、多極体制の世界における大国の一つとなるほうが、唯一の超大国であったときよりも要求されるものは少なく、論争も減り、得るものは大きくなるだろう」と。
 トッドは、「世界が必要としているのは、アメリカが消え去ることではなく、民主主義的で自由主義的にして、かつ生産力の旺盛な本来のアメリカに立ち戻ることなのである」と述べているが、その主旨と、ハンチントンの主張は、大きく異なるものではない。トッドもハンチントンも、アメリカの長期的な衰退を予測している点は共通する。また、帝国的な国家から大国の一つに戻ることを勧める点も共通している。
 私もまた日本人の立場から、アメリカの超長期的な衰退を予想する。そして、アメリカは、超大国から大国の一つに地位に移行していくだろうと推測する。日本人は、そうした超長期的な展望のもとに、日本のあり方を考え、対米関係、対中関係を考えなければならない。
 私は、アメリカの強欲的資本主義と中国の貪欲的共産主義には反対する。しかし、反米でも反中でもない。アメリカには、建国理念の再興と多民族の協和を期待する。中国には民主化と伝統的道徳の復活を期待する。そして、日本は、独立主権国家としての自立性を回復し、米中を含む諸国家との共存共栄の道を進むべしと考える。文明学的に言えば、日本文明は、一個の文明としての独自性を自覚し、西洋文明・シナ文明等との共存共栄を図り、世界の平和と発展に貢献すべしと主張する。

 次回に続く。


友愛を捨てて、日本に返れ37

2010-01-22 09:23:31 | 時事
●離米志向のアジア共通通貨構想

 鳩山氏は、東アジアについて次のように言う。「ヨーロッパと異なり、人口規模も発展段階も政治体制も異なるこの地域に、経済的な統合を実現することは、一朝一夕にできることではない。しかし、日本が先行し、韓国、台湾、香港が続き、ASEANと中国が果たした高度経済成長の延長線上には、やはり地域的な通貨統合、『アジア共通通貨』の実現を目標としておくべきであり、その背景となる東アジア地域での恒久的な安全保障の枠組みを創出する努力を惜しんではならない」という。
 経済協力にはいろいろな仕方がある。現にAPECやASEAN+3(日中韓)等による経済協力が行われている。しかし、鳩山氏は「地域的な通貨統合、アジア共通通貨の実現」へと話を飛躍させる。
 鳩山氏は「『アジア共通通貨』の実現を目標」とすると言うときに、「その背景となる東アジア地域での恒久的な安全保障の枠組みを創出する努力」と述べる。鳩山氏は地域集団安全保障が共通通貨の実現の「背景」となるものであり、先行すべきものであることを認識しているわけである。認識しているのに、その問題を無視して、アジア共通通貨に話を移すのである。安全保障の問題は、次の項目で述べることにして、まず通貨について書きたい。
 鳩山氏はアジア共通通貨も、「友愛」から導かれるものだとする。氏は「世界、とりわけアジア太平洋地域に恒久的で普遍的な経済社会協力及び集団的安全保障の制度が確立されることを念願し、不断の努力を続けること」が、「日本国憲法の理想とした平和主義、国際協調主義を実践していく道」であり、「米中両大国のあいだで、わが国の政治的経済的自立を守り、国益に資する道」でもある。また「カレルギーが主張した『友愛革命』の現代的展開」でもあると言う。ここから通貨のことに話が進むのだが、鳩山氏は「こうした方向感覚からは、たとえば今回の世界金融危機後の対応も、従来のIMF、世界銀行体制のたんなる補強だけではなく、将来のアジア共通通貨の実現を視野に入れた対応が導かれるはずだ」と言う。
 そして、「アジア共通通貨の実現には今後10年以上の歳月を要するだろう。それが政治的統合をもたらすまでには、さらなる歳月が必要であろう。世界経済危機が深刻な状況下で、これを迂遠な議論と思う人もいるかもしれない。しかし、われわれが直面している世界が混沌として不透明で不安定であればあるほど、政治は、高く大きな目標を掲げて国民を導いていかなければならない。いまわれわれは、世界史の転換点に立っており、国内的な景気対策に取り組むだけでなく、世界の新しい政治、経済秩序をどう創り上げていくのか、その決意と構想力を問われているのである」と書いている。
 引用が長くなったが、私も今日、世界金融危機後の対応は、従来のIMF、世界銀行の補強にとどまってはならないと考えている。むしろ、ドルを基軸通貨とするIMF=世界銀行の体制に替わる新しい体制の創出が求められていると思う。しかし、鳩山氏の発想は、世界経済の全体を考えるのではなく、アジア地域に局限されている。なぜアジアに限定するのか。私はここにも鳩山氏の根本的な反米姿勢を見る。ドルを外しドルを除いて、アジアの通貨を考えているわけである。私は、アジア共通通貨構想は安全保障における離米志向に対応した経済における離米志向だと思う。

 次回に続く。


小沢氏の説明の矛盾と謎

2010-01-21 12:00:01 | 時事
 小沢一郎氏を「剛腕」と褒め称え、その活躍に期待を寄せて書く記事は、昔からよく目にしたが、小沢氏の疑惑に取り組み、巨悪を暴くこうとするジャーナリストは、少なかった。もの書きにとって、相当の覚悟のいることなのだろう。
 私の知るところ、松田賢弥氏は徹底的に小沢氏の金銭疑惑を追及し、国民に伝えてきた。氏の著書「小沢一郎 虚飾の支配者」(講談社)は、週刊現代の連載をまとめたものだが、今日明らかにされつつある小沢氏の不正蓄財の実態に、最も早くから迫っていたのが、松田氏だった。
 もう一人、私が感心するのは、産経新聞社の阿比留瑠比記者である。同記者は、ブログに「小沢一郎氏の初当選からの言動を振り返る」という連載を書き、小沢氏の言動や論理には矛盾や無理が多いことを、詳細に明らかにした。一流の新聞記者の仕事は鮮やかである。
 その阿比留記者が、小沢氏の土地疑惑問題について、「遺産」「秘書寮」「単純ミス」という三つのキーワードを挙げて、わかりやすく分析している。今朝の産経新聞から転載する。

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●産経新聞 平成22年1月21日

http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100121/stt1001210010001-n1.htm
ここがおかしい小沢氏の説明、陸山会の不動産 「遺産」「秘書寮」「単純ミス」、その矛盾と謎…
2010.1.21 00:09

 自身の政治献金問題をめぐる小沢一郎氏の発言と実態(1-2) 民主党の小沢一郎幹事長の資金管理団体「陸山会」が保有する不動産は10数件、計約10億円に上るが、小沢氏のこれまでの説明は不可解そのものだ。記者会見では「違法なことはしていない」の決まり文句を連発し、強気な態度で追及を煙に巻いてきたが、いつまでもそれが通用するだろうか。「遺産」「秘書寮」「単純ミス」の3つのキーワードをもとに、矛盾と謎を追った。(阿比留瑠比)

遺産の有無

 小沢氏の元秘書で衆院議員の石川知裕容疑者らが東京地検特捜部に逮捕されたきっかけは、小沢氏の私邸にほど近い東京都世田谷区の3億4千万円の土地購入問題だった。
 調べに対し、石川容疑者はこの土地購入の原資を「小沢氏の父親からの相続財産」と供述し、小沢氏は16日の民主党大会で「積み立ててきた個人資産」と説明した。
 ゼネコンからの裏献金ではないと印象づけたいのだろうが、小沢氏は自民党総務局長当時の昭和58年1月、産経新聞のインタビューでこう語っていた。
 「私の亡父(佐重喜元建設相)も票田こそ残してくれたが、遺産はなかった」
 鳩山由紀夫首相は長年にわたり、実母から年1億8千万円の「子ども手当」をもらいながら「全く承知していなかった」と語った。小沢氏も同様に億単位のカネですら「遺産のうちに入らない」という感覚の持ち主なのか。

必要ない秘書寮

 「秘書に宿舎(寮)を提供してやろうと買った」
 小沢氏は問題の土地の購入理由をこう説明してきた。また、国民の税金である政党助成金を含む政治資金の使途に関し、「(事務所の)賃貸はよくて購入はよくないという論理は分からない」とも述べている。
 とはいえ、総務省に届け出のある現職国会議員の資金管理団体のうち、土地を保有するのは陸山会だけ。小沢氏と同期(衆院当選14回)で40年余の国会議員歴を持つ民主党の渡部恒三元衆院副議長も10日のテレビ番組で「政治家が、政治資金で土地を買ったという話は生まれて初めて聞く」と明言した。
 そもそも秘書寮が本当に必要だったのか。
 「そんなもの必要なはずはない。陸山会の収支報告書には載っていないが、小沢邸から歩いていけるところに前から秘書が住んでいる複数の一軒家がある」
 元秘書の一人がこう語る通り、小沢邸から徒歩3~4分の場所には、小沢夫人名義で秘書らが住む複数の戸建て住宅がある。優に10人以上は住めるスペースはすでに確保されていた。
 小沢氏を自民党旧田中派時代から知るベテラン秘書は「故人を含めて小沢氏の秘書はたくさん知っているが、みんなひどい待遇だった。大金をかけて自分名義の土地を買い、寮を建てるぐらいならば給料を上げてやればよいのに」と憤る。

単純ミス?

 陸山会の政治資金収支報告書は、石川容疑者が土地購入資金として「平成16年10月上旬に小沢氏から受け取った」と供述した4億円の記載がなかった。
 これについて、小沢氏は「単純なミスのような話」「計算上のミス」と主張し、「一点のやましいところもない」と強調するが、言葉通りには受け取り難い。陸山会の収支報告書では他にも奇妙な部分が指摘されてきたからだ。
 例えば、秘書寮の所在地については産経新聞が指摘するまで「深沢6丁目」と記載していたが、実際は「深沢8丁目」。他にも港区に3320万円で購入した土地・建物に関して「港区青山」という存在しない地名を記していた。
 その一方で陸山会は、保有している複数の土地・建物に関し、「居住する秘書のセキュリティーなどのため」として不動産地番の号数を省いて記載する周到さを見せている。
 少なくとも、小沢氏が繰り返し自賛してきた「政治資金の透明性」は陸山会にそぐわない。

●小沢語録

 金銭資産関係ーー阿比留記者のブログから抜粋

・昭和58年1月20日産経夕刊、自民党総務局長、愛読書に関連して
 「(前略)最も人間的に好きなのが西郷隆盛である。(中略)西南の役では前途有為な人材を多く失い、政治家としての見通しが悪かったのも確かだ。だが、逆に情に流される西郷に人情政治家の捨てきれない魅力がある。『子孫のために美田を残さず』との言葉も味わい深い。私の亡父(佐重喜元建設相)も票田こそ残してくれたが、遺産はなかった」

・昭和61年2月1日読売、自治相、資産公開のコメント
 「閣僚のうちで不動産が二番目に多いとは知らなかった。世田谷の土地は、最近、湯島の家を売って買い換えたもので、両親が残してくれた土地の資産価値が出ただけだ。普通預金はあるにはあるが、公開しなくてもいいというので出さなかった。政治家には資産を持っている人もそうでない人もいるが、肝心なのは、どのように行動していくかであって、資産があるかどうかは、政治家の在り方に、直接かかわりはないと思う」

・平成2年2月24日朝日、幹事長、自民党三役に聞く
「私は個人的には、政治献金をすべてやめるという考えだ。個人からの献金なら良いという話があるが、献金する規模が小さくなればなるほど利害が絡む。ただ、政治家個人ではなく、政党への献金ならいい。との議論はあるかも知れない」

・平成2年12月31日朝日、幹事長、党三役インタビュー
「政治にカネがかからないのがいいことで、かかるのは悪いとマスコミ的な仕分けをするのは非常におかしい。僕はカネのかからない政治を目指す、とは一度も言ったことがない。国民が求めているのは、きちんとしてカネが集まり、きちんとして使われ、それがオープンになることだ。オープンでないところに問題がある」

・平成4年7月24日産経、政治改革を聞く
「(献金は)『小口でたくさん』と言うが、とても集まらないのが実態で、それは幼稚園の作文みたいな話です。そういうのはいけない。カネを出す単位はできるだけ大きい方がいい。単位として一番大きいのは税金です。(中略)だから僕は、『政治活動にかかる金は税金で出しなさい。こんなに安上がりなものはない。いろんなスキャンダルが起きたり、疑われたりするこのロスとコストを考えてみなさい』と言っている」
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