民主党の代表選は、最終局面で、小沢氏が出馬しない可能性が出てきたという。鳩山前首相が菅首相と小沢氏の間を仲介し、代表選での対決とそれによる党の分裂を避ける方向で調整。菅氏、鳩山氏、小沢氏に輿石参院議員会長を加えた「トロイカ+1」の体制を取り、菅政権の「脱小沢」路線を主導してき仙谷官房長官と枝野幹事長は更迭。小沢氏は処遇次第で出馬を見送るという観測である。
仮にそうなった場合、民主党の代表選はどうなるのか。民主党は与党である。菅氏以外に立候補者が出ず、党幹部の話し合いで事実上代表が決まるのは、デモクラシーの精神に反する。談合に等しい。党幹部が密室で話し合い、要職を分配することで権力を維持しようとするのは、政党を私物化し、政権をも私物化するものと言わざるを得ない。国民不在のご都合主義である。かつての自民党にも劣る。
しかもこの談合を進めているのが、わずか3ヶ月前に、普天間基地問題等の責任を取って首相を辞任した鳩山氏である。節操がない。鳩山氏には、責任の重みを感じる感性がないのか。小沢氏は、菅氏との代表選に出たいなら出たらよい。代表となり、総理大臣となって何をしたいのか。国民に所信を明らかにし、国民の前で菅氏と政策論争を行うべきである。最終的には「政治とカネ」の問題を含めて、国民が審判を下す。その審判を受ける勇気があるなら、代表選に出ればよいだろう。
以下は報道のクリップ。
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●読売新聞 平成22年8月31日
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20100831-OYT1T00009.htm?from=top
民主党分裂に危機感…小沢氏出馬見送り論浮上
民主党代表選(9月1日告示、14日投開票)は、菅首相と鳩山前首相の30日夜の会談で「トロイカ体制」の構築で一致したことにより、首相と小沢一郎前幹事長の全面対決回避に向けて最終的な局面に入った。
党内は、小沢氏の最終判断を注目している。
鳩山氏は首相と首相公邸で会談後、記者団に「(鳩山、小沢、菅の3氏に輿石東参院議員会長を加えた)『トロイカ+1』で行こうではないか、という思いを首相からいただいたので、明日、私が責任を持って小沢先生に伝え、首相と会談していただく」と述べ、「菅・小沢会談」での事態打開に期待を示した。
鳩山氏が調整役を務めるのは、党内に「小沢氏の出馬は党分裂につながりかねない」という懸念が強まっているためだ。
一方、首相が鳩山氏との会談で「トロイカ+1」という表現で小沢氏の処遇に含みを持たせた背景には、いくつかの伏線があった。
輿石氏は30日午後、党本部でひそかに首相と会談し、「トロイカ復活が必要だ」と首相に求めた。
民主党の有力支援者で、小沢氏にも近い稲盛和夫・京セラ名誉会長(内閣特別顧問)の意向も影響したとみられる。鳩山氏は30日夜、首相との会談に先立ち、稲盛氏と会食した。関係者によると、稲盛氏は「対決を回避すべきだ」という考えを鳩山氏に伝えたという。
小沢グループでは、「鳩山・菅会談」まで主戦論が強かった。山岡賢次副代表は30日夕、国会内で開いた会合で、「小沢氏と首相の話し合いがあるといううわさが流れているが、そういうことはない。明日(31日)、各グループ一斉に足並みをそろえて選対を発足させる」と述べ、小沢氏の出馬の流れは止められないという見方を強調していた。
しかし、菅・鳩山会談の後、小沢グループ内には戸惑いが生じている。小沢氏の側近は30日深夜、「不出馬の可能性もある。相当高いポストでの処遇ということかもしれない」と語り、小沢氏がポスト次第では出馬を見送るという見方を示した。一方で、30日夜、都内のホテルで開かれた小沢グループの会合では、「鳩山氏の調整には応じず、小沢氏は出馬するべきだ」とする中堅議員もいた。
首相を支持する前原国土交通相のグループも30日夜、都内のホテルに集まったが、前原氏は「首相と小沢氏の対応を見守ろう」と呼びかけるにとどめた。首相の側近議員は「トロイカ体制ということは、小沢グループも含む『派閥均衡』の人事になるだろうが、了とするしかない」と語った。「国会議員票では小沢氏が上回るのではないか」という見方も出ていたためだ。
ただ、首相を支持する枝野幹事長は周辺に「譲れたとしても代表代行までだ」と語り、党の資金や公認権を預かる幹事長ポストは渡せないという考えを示している。
(2010年8月31日07時12分 読売新聞)
●産経新聞 平成22年8月31日
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100831/stt1008310256002-n1.htm
【主張】民主党代表選 密室談合決着に反対する
2010.8.31 02:55
民主党代表選で、鳩山由紀夫前首相は30日夜、菅直人首相と会談し、両氏と小沢一郎前幹事長を柱とする「トロイカ体制」で合意した。これに先立ち鳩山氏は輿石東参院議員会長を交えて「密室談合」を続けた。
トロイカ体制の意味は不明だが、首相が人事面で「脱小沢」路線を放棄し、小沢氏の出馬取りやめに加え、小沢、鳩山、輿石各氏を要職で処遇することなどが想定されるという。これで「挙党一致」の態勢をとるというが、菅首相への国民の信頼を裏切るものといえ、受け入れられない。
こうした「密室談合」で取引しようというのは、民主党がかねて政治理念としてきた自民党の「古い体質」の払拭(ふっしょく)というテーマとまったく矛盾している。政権交代の意義すら否定しかねず、情けないとしか言いようがない。
代表選は菅首相と小沢氏の一騎打ちとみられていた。内政・外交の懸案をいかに解決するか、政策で競い合うべき舞台だ。
焦点は政権公約(マニフェスト)の取り扱いだ。参院選で消費税増税を提起した菅首相は、財政再建に取り組む姿勢を見せている。財政状況や今後の野党との政策面での連携を考慮して、マニフェストの一部修正も避けられないという立場をとっている。
これに対し、小沢氏は「国民との約束」であるマニフェストが原点であり、その実現を最重視する姿勢を強めている。消費税増税については、国民と約束していない課題だとして否定的だ。
だが、ムダの排除で財源を生み出すと主張していた小沢氏の論拠は、もはや崩れている。どのようにマニフェストの財源を捻出(ねんしゅつ)するかという具体論を語っていないことに小沢氏の問題がある。
さらに国民の政治不信を高めているのは、鳩山氏の動きだ。民主党と自由党の合併を提唱した鳩山氏は、小沢氏とともに政権交代を実現したことで「小沢氏への恩義」を繰り返している。
これは政党を私物化するような発想にほかならない。政治とカネの問題でけじめをつけ、自浄作用を発揮すると約3カ月前に約束したことをやすやすと踏みにじった。無責任と自己保身の民主党政治の転換が図れるのか。
無投票決着で表向きの対立を回避したとしても、得られるものはなにもない。
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100831/stt1008310255001-n1.htm
【正論】京都大学大学院教授・中西寛 小沢氏勝利で政治は重大局面に
2010.8.31 02:54
民主党政権発足から約1年となったが、その間の実績は、衆院で圧倒的多数を与えた国民の期待とはほど遠い。鳩山前政権は普天間基地移設問題で混乱を招いたうえに、首相、幹事長という2大リーダーが政治資金問題で批判を浴び、わずか8カ月で退陣した。
代わった菅政権も、参院選で敗北して参院での過半数を失うと意気消沈し、思考停止状態に陥っているように見える。経済、外交いずれも重大な課題を抱えている時に、民主党では代表選で首相と小沢前幹事長が激突するという構図にわき立っている。
◆参院敗北は前政権にも責任
実際に一騎打ちになるか否かは別にして、代表選にこれだけ振り回される中で、民主党そのものの政権政党としての資質を疑わざるを得ない。野党なら党首選は政策論争の場としても意味があるが、政権党での党首選は首相の座を争うことを意味する。
党内事情で政権を左右すること自体、国民をないがしろにするものである。政策論争なら党内機関でやれば済むことで、政策に根本的に相違があるなら同じ党にいる意味がない。
まして今回は、就任わずか3カ月の首相に対して、職を辞したばかりの小沢氏が対抗し、鳩山前首相が仲介の前面に立っていることは筋が通らない。参院選の敗北に対しては現政権執行部とならんで、両氏も前政権責任者として責任を負うべき立場にいるはずだからである。かかる無軌道を批判する声も出ない民主党の体質そのものが相当おかしいと考えざるを得ない。
◆「痛み」なく解決できぬ問題
代表選で小沢氏が勝利すれば、日本政治は重大な局面を迎えよう。小沢氏の首班指名をめぐり民主党が分裂するかもしれないし、仮に小沢政権ができれば検察審査会の決定をめぐり大きな不確実性が生まれる。そもそも新政権は極端な低支持率で発足することが見込まれ、「ねじれ国会」において民主党の政権運営はより一層困難となるだろう。
要するに政治の現状は行き詰まり、政界再編の機運が高まるだろう。しかし政争に端を発した政界再編ですぐに政治が安定した形をとることはありそうになく、日本政治はさらに混迷を深めることになる可能性が高い。
しかし動き出した政治の流れは止まらないだろう。菅政権が続くにせよ、小沢政権に変わるにせよ、政界再編の動乱になるにせよ、国民は日本政治が新たな体制を築くために乗り越えねばならない試練と覚悟を決めるほかない。最後には政治家を選んだ国民が責任を負わねばならないのである。
問題の原点は、冷戦終結と高度成長の終焉(しゅうえん)という日本の置かれた客観状況と、過去20年間の政治の「民主化」のミスマッチにある。客観的には、冷戦と高度成長期に日本が享受した平和と繁栄をそのまま維持することは不可能な状況となった。しかし政治の民主化の波は政治家が競って国民に甘い約束を振りまく構造をもたらしたのである。
結果として自民党政権下で巨大な政府債務の累積と外交的な行き詰まりとが生じることになった。小泉政権は確かに「痛みを伴う」改革をやろうとしたが、優勝劣敗の市場主義の結果、全体のパイが縮小する中で勝者と敗者が分かれる政策は日本人には合わず、「格差」論の反動をもたらした。
代わった民主党政権は、自民党の失政をなじり、自分ならうまくやれると空約束をしていたが、過去1年の経験は、日本が抱えている問題を小手先の技術で痛みなく解決する方策はないということを教えた。そのように理解しなければ、民主党の「実験」に意義はなかったということになろう。
◆将来への甘い見通しを捨て
15年前、10年前、いや5年前であっても多少のリスクの増大と生活水準の低下によって平和と繁栄はおおむね維持できたかもしれない。しかし「古き良き時代」に固執し、じり貧を避けようとしてきたためにもはや事態はかなり切迫することになった。
バブル崩壊以降の20年間、日本経済はデフレといわれ続けてきた。経済学的にはそうかもしれないが、20年もある状態が続くならそれが「常態」であり、経済学の方を考え直さねばならないのではないか。かつて日本を笑っていた欧米の経済学者も、そのことを認め始めているようである。
今の政治の役割は、将来に対する甘い見通しを捨て、厳しめの予測に立って国民に負担を率直に求めることである。基地や費用負担なしに日米同盟はあり得ない。同盟がなければ防衛費は今よりはるかに大きくなり、しかも日本の安全は低下するだろう。苦しくともそのことを説かねばならない。
経済政策については甲論乙駁(おつばく)の論争が続くが、ハイリスク・ハイリターンの選択をしている余裕はないのではないか。堅実に考えれば、経済成長が回復したら増税といって先延ばしをしている暇はない。国民は怒るだろうが、政治家が保身を捨てて説得するほかない。(なかにし ひろし)
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仮にそうなった場合、民主党の代表選はどうなるのか。民主党は与党である。菅氏以外に立候補者が出ず、党幹部の話し合いで事実上代表が決まるのは、デモクラシーの精神に反する。談合に等しい。党幹部が密室で話し合い、要職を分配することで権力を維持しようとするのは、政党を私物化し、政権をも私物化するものと言わざるを得ない。国民不在のご都合主義である。かつての自民党にも劣る。
しかもこの談合を進めているのが、わずか3ヶ月前に、普天間基地問題等の責任を取って首相を辞任した鳩山氏である。節操がない。鳩山氏には、責任の重みを感じる感性がないのか。小沢氏は、菅氏との代表選に出たいなら出たらよい。代表となり、総理大臣となって何をしたいのか。国民に所信を明らかにし、国民の前で菅氏と政策論争を行うべきである。最終的には「政治とカネ」の問題を含めて、国民が審判を下す。その審判を受ける勇気があるなら、代表選に出ればよいだろう。
以下は報道のクリップ。
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●読売新聞 平成22年8月31日
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20100831-OYT1T00009.htm?from=top
民主党分裂に危機感…小沢氏出馬見送り論浮上
民主党代表選(9月1日告示、14日投開票)は、菅首相と鳩山前首相の30日夜の会談で「トロイカ体制」の構築で一致したことにより、首相と小沢一郎前幹事長の全面対決回避に向けて最終的な局面に入った。
党内は、小沢氏の最終判断を注目している。
鳩山氏は首相と首相公邸で会談後、記者団に「(鳩山、小沢、菅の3氏に輿石東参院議員会長を加えた)『トロイカ+1』で行こうではないか、という思いを首相からいただいたので、明日、私が責任を持って小沢先生に伝え、首相と会談していただく」と述べ、「菅・小沢会談」での事態打開に期待を示した。
鳩山氏が調整役を務めるのは、党内に「小沢氏の出馬は党分裂につながりかねない」という懸念が強まっているためだ。
一方、首相が鳩山氏との会談で「トロイカ+1」という表現で小沢氏の処遇に含みを持たせた背景には、いくつかの伏線があった。
輿石氏は30日午後、党本部でひそかに首相と会談し、「トロイカ復活が必要だ」と首相に求めた。
民主党の有力支援者で、小沢氏にも近い稲盛和夫・京セラ名誉会長(内閣特別顧問)の意向も影響したとみられる。鳩山氏は30日夜、首相との会談に先立ち、稲盛氏と会食した。関係者によると、稲盛氏は「対決を回避すべきだ」という考えを鳩山氏に伝えたという。
小沢グループでは、「鳩山・菅会談」まで主戦論が強かった。山岡賢次副代表は30日夕、国会内で開いた会合で、「小沢氏と首相の話し合いがあるといううわさが流れているが、そういうことはない。明日(31日)、各グループ一斉に足並みをそろえて選対を発足させる」と述べ、小沢氏の出馬の流れは止められないという見方を強調していた。
しかし、菅・鳩山会談の後、小沢グループ内には戸惑いが生じている。小沢氏の側近は30日深夜、「不出馬の可能性もある。相当高いポストでの処遇ということかもしれない」と語り、小沢氏がポスト次第では出馬を見送るという見方を示した。一方で、30日夜、都内のホテルで開かれた小沢グループの会合では、「鳩山氏の調整には応じず、小沢氏は出馬するべきだ」とする中堅議員もいた。
首相を支持する前原国土交通相のグループも30日夜、都内のホテルに集まったが、前原氏は「首相と小沢氏の対応を見守ろう」と呼びかけるにとどめた。首相の側近議員は「トロイカ体制ということは、小沢グループも含む『派閥均衡』の人事になるだろうが、了とするしかない」と語った。「国会議員票では小沢氏が上回るのではないか」という見方も出ていたためだ。
ただ、首相を支持する枝野幹事長は周辺に「譲れたとしても代表代行までだ」と語り、党の資金や公認権を預かる幹事長ポストは渡せないという考えを示している。
(2010年8月31日07時12分 読売新聞)
●産経新聞 平成22年8月31日
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100831/stt1008310256002-n1.htm
【主張】民主党代表選 密室談合決着に反対する
2010.8.31 02:55
民主党代表選で、鳩山由紀夫前首相は30日夜、菅直人首相と会談し、両氏と小沢一郎前幹事長を柱とする「トロイカ体制」で合意した。これに先立ち鳩山氏は輿石東参院議員会長を交えて「密室談合」を続けた。
トロイカ体制の意味は不明だが、首相が人事面で「脱小沢」路線を放棄し、小沢氏の出馬取りやめに加え、小沢、鳩山、輿石各氏を要職で処遇することなどが想定されるという。これで「挙党一致」の態勢をとるというが、菅首相への国民の信頼を裏切るものといえ、受け入れられない。
こうした「密室談合」で取引しようというのは、民主党がかねて政治理念としてきた自民党の「古い体質」の払拭(ふっしょく)というテーマとまったく矛盾している。政権交代の意義すら否定しかねず、情けないとしか言いようがない。
代表選は菅首相と小沢氏の一騎打ちとみられていた。内政・外交の懸案をいかに解決するか、政策で競い合うべき舞台だ。
焦点は政権公約(マニフェスト)の取り扱いだ。参院選で消費税増税を提起した菅首相は、財政再建に取り組む姿勢を見せている。財政状況や今後の野党との政策面での連携を考慮して、マニフェストの一部修正も避けられないという立場をとっている。
これに対し、小沢氏は「国民との約束」であるマニフェストが原点であり、その実現を最重視する姿勢を強めている。消費税増税については、国民と約束していない課題だとして否定的だ。
だが、ムダの排除で財源を生み出すと主張していた小沢氏の論拠は、もはや崩れている。どのようにマニフェストの財源を捻出(ねんしゅつ)するかという具体論を語っていないことに小沢氏の問題がある。
さらに国民の政治不信を高めているのは、鳩山氏の動きだ。民主党と自由党の合併を提唱した鳩山氏は、小沢氏とともに政権交代を実現したことで「小沢氏への恩義」を繰り返している。
これは政党を私物化するような発想にほかならない。政治とカネの問題でけじめをつけ、自浄作用を発揮すると約3カ月前に約束したことをやすやすと踏みにじった。無責任と自己保身の民主党政治の転換が図れるのか。
無投票決着で表向きの対立を回避したとしても、得られるものはなにもない。
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100831/stt1008310255001-n1.htm
【正論】京都大学大学院教授・中西寛 小沢氏勝利で政治は重大局面に
2010.8.31 02:54
民主党政権発足から約1年となったが、その間の実績は、衆院で圧倒的多数を与えた国民の期待とはほど遠い。鳩山前政権は普天間基地移設問題で混乱を招いたうえに、首相、幹事長という2大リーダーが政治資金問題で批判を浴び、わずか8カ月で退陣した。
代わった菅政権も、参院選で敗北して参院での過半数を失うと意気消沈し、思考停止状態に陥っているように見える。経済、外交いずれも重大な課題を抱えている時に、民主党では代表選で首相と小沢前幹事長が激突するという構図にわき立っている。
◆参院敗北は前政権にも責任
実際に一騎打ちになるか否かは別にして、代表選にこれだけ振り回される中で、民主党そのものの政権政党としての資質を疑わざるを得ない。野党なら党首選は政策論争の場としても意味があるが、政権党での党首選は首相の座を争うことを意味する。
党内事情で政権を左右すること自体、国民をないがしろにするものである。政策論争なら党内機関でやれば済むことで、政策に根本的に相違があるなら同じ党にいる意味がない。
まして今回は、就任わずか3カ月の首相に対して、職を辞したばかりの小沢氏が対抗し、鳩山前首相が仲介の前面に立っていることは筋が通らない。参院選の敗北に対しては現政権執行部とならんで、両氏も前政権責任者として責任を負うべき立場にいるはずだからである。かかる無軌道を批判する声も出ない民主党の体質そのものが相当おかしいと考えざるを得ない。
◆「痛み」なく解決できぬ問題
代表選で小沢氏が勝利すれば、日本政治は重大な局面を迎えよう。小沢氏の首班指名をめぐり民主党が分裂するかもしれないし、仮に小沢政権ができれば検察審査会の決定をめぐり大きな不確実性が生まれる。そもそも新政権は極端な低支持率で発足することが見込まれ、「ねじれ国会」において民主党の政権運営はより一層困難となるだろう。
要するに政治の現状は行き詰まり、政界再編の機運が高まるだろう。しかし政争に端を発した政界再編ですぐに政治が安定した形をとることはありそうになく、日本政治はさらに混迷を深めることになる可能性が高い。
しかし動き出した政治の流れは止まらないだろう。菅政権が続くにせよ、小沢政権に変わるにせよ、政界再編の動乱になるにせよ、国民は日本政治が新たな体制を築くために乗り越えねばならない試練と覚悟を決めるほかない。最後には政治家を選んだ国民が責任を負わねばならないのである。
問題の原点は、冷戦終結と高度成長の終焉(しゅうえん)という日本の置かれた客観状況と、過去20年間の政治の「民主化」のミスマッチにある。客観的には、冷戦と高度成長期に日本が享受した平和と繁栄をそのまま維持することは不可能な状況となった。しかし政治の民主化の波は政治家が競って国民に甘い約束を振りまく構造をもたらしたのである。
結果として自民党政権下で巨大な政府債務の累積と外交的な行き詰まりとが生じることになった。小泉政権は確かに「痛みを伴う」改革をやろうとしたが、優勝劣敗の市場主義の結果、全体のパイが縮小する中で勝者と敗者が分かれる政策は日本人には合わず、「格差」論の反動をもたらした。
代わった民主党政権は、自民党の失政をなじり、自分ならうまくやれると空約束をしていたが、過去1年の経験は、日本が抱えている問題を小手先の技術で痛みなく解決する方策はないということを教えた。そのように理解しなければ、民主党の「実験」に意義はなかったということになろう。
◆将来への甘い見通しを捨て
15年前、10年前、いや5年前であっても多少のリスクの増大と生活水準の低下によって平和と繁栄はおおむね維持できたかもしれない。しかし「古き良き時代」に固執し、じり貧を避けようとしてきたためにもはや事態はかなり切迫することになった。
バブル崩壊以降の20年間、日本経済はデフレといわれ続けてきた。経済学的にはそうかもしれないが、20年もある状態が続くならそれが「常態」であり、経済学の方を考え直さねばならないのではないか。かつて日本を笑っていた欧米の経済学者も、そのことを認め始めているようである。
今の政治の役割は、将来に対する甘い見通しを捨て、厳しめの予測に立って国民に負担を率直に求めることである。基地や費用負担なしに日米同盟はあり得ない。同盟がなければ防衛費は今よりはるかに大きくなり、しかも日本の安全は低下するだろう。苦しくともそのことを説かねばならない。
経済政策については甲論乙駁(おつばく)の論争が続くが、ハイリスク・ハイリターンの選択をしている余裕はないのではないか。堅実に考えれば、経済成長が回復したら増税といって先延ばしをしている暇はない。国民は怒るだろうが、政治家が保身を捨てて説得するほかない。(なかにし ひろし)
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