ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

北朝鮮の秘密資金が枯渇か

2018-01-31 09:56:23 | 国際関係
 北朝鮮の秘密資金の動向について、小さな記事が産経新聞に載った。デジタル化されてネットには掲示されていないようなので、全文を紹介する。

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●産経新聞1月28日付
 
 米政府系のラジオ自由アジア(RFA、電子版)は27日までに、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の秘密資金が一連の核・ミサイル開発により枯渇しかけていると報じた。国際社会による対北制裁の動きが強まっていることも影響しており、北朝鮮による平昌五輪参加の動きも経済的な苦境からの脱却を狙ったものだという。
 北朝鮮高官とつながりがある複数の中国関係者がRFAに明らかにした。同記事によると、秘密資金は父の金正日総書記から引き継いだもので、北朝鮮で外貨稼ぎを統括する朝鮮労働党の「39号室」が、通貨偽造や麻薬製造などで年間5億~10億ドル(約540億~1090億円)を集めているという。
 関係者は「核・ミサイル開発のための資金の多くは、金正恩の秘密資金によるものだ」と証言。北朝鮮東部の馬息嶺スキー場など金正恩氏の肝煎りプロジェクトの建設でも多額の資金が「浪費されている」という。
 また、昨年9月に北朝鮮が6回目の核実験に踏み切ったことを受けて採択された国連安全保障理事会決議は北朝鮮労働者の受け入れを原則禁止したが、一連の制裁で外貨獲得が難しくなっていることも資金不足に拍車をかけている。
 北朝鮮は「資金難の突破口」として、平昌五輪参加など韓国の融和姿勢を演じているとみられる。ただ、北朝鮮内国内では高齢者向け施設の建設資金が不足する事態も生じ、市民の不満が高まっているという(三塚聖平)
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 ラジオ自由アジア(Radio Free Asia:RFA)は、1994年に国際放送法に基づき、1996年に米国議会の出資によって設立された短波ラジオ放送局。当該記事は、下記に掲載されている。
https://www.rfa.org/english/news/korea/fund-01252018143318.html
 元の記事では、39号室の外貨稼ぎには、通貨偽造・麻薬製造以外に、国際的な保険金詐欺も挙げている。
 私は、国際社会の北朝鮮に対する経済制裁が十分な効果を上げていない理由の一つとして、北朝鮮が通貨偽造・麻薬製造・国際的保険金詐欺・サイバー詐欺などによって、闇の資金を獲得していることがあると考えている。その金額は、年間5億~10億ドル(約540億~1090億円)以上である可能性がある。
 当該記事は、北朝鮮による平昌五輪参加の動きも経済的な苦境からの脱却を狙ったものとしながら、具体的な言及がない。今年初め金正恩の平昌五輪参加意思表明で突然始まった南北朝鮮の外交交渉では、韓国側が開城工業団地の操業再開と馬息嶺スキー場の合同練習での使用を提案したと伝えられる。経済的苦境にある北朝鮮としては、開城工業団地の操業が再開されれば、大きなプラスとなる。過去の創業時には、韓国企業が出資して北朝鮮労働者が働き、北朝鮮は約5万3千人分の賃金1年間8,700万ドル(約86億円)の外貨収入を得ていた。馬息嶺スキー場は、金正恩が莫大な資金を投入して開発した国際スキー場である。これをオープンして、外国人スキー客、観光客を招き、外貨を稼ぐ目算だったが、狙いは大外れとなった。ほとんど誰も行っていない。今のままでは、金正恩の大失敗に終わる。だからこそ、文在寅政権は金正恩に救いの手を差し伸べているのだろう。国際社会が厳しい経済制裁を課している中で、そのような行為をすることは、全くの愚行である。だが、もともと文在寅政権は、北朝鮮の対韓工作によって、韓国内の親北勢力・左翼市民団体の支持によって出来た政権である。そこに南北朝鮮問題の根の深さがある。わが国は、表面的な変化に惑わされず、ぶれのない外交を貫く必要がある。

関連掲示
・拙稿「韓国・朴大統領退陣で親北左派政権誕生の恐れ」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/b2e179f27657cd161fb5c1e7ac06f7ea
・拙稿「韓国大統領選は左偏向教育の結果~西岡力氏」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/5b09c611b93c709e6a7e5c3c3e7a32e3
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キリスト教3~一神教の中の唯一神教

2018-01-29 08:55:30 | 心と宗教
●人口 

 世界の諸宗教の人口について、百科事典『ブリタニカ』の年鑑2009年版の「世界の宗教人口割合」は、キリスト教が22億5400万人(33.4%)で最大とし、続いてイスラーム教が15億人(22.2%)、ヒンドゥー教が9億人(13.5%)、仏教が3億8400万人(5.7%)としている。
 キリスト教の教派の内訳については、2002年の統計になるが、当時キリスト教徒の人口を世界で約20億4000万人としていた時点で、ローマ・カトリック教会が約10億8000万人を有し、52.9%を占める。プロテスタント諸派は合計で約3億5000万人で17.2%、東方正教会(ギリシャ正教等ともいう)が約2億2000万人で10.8%等である。プロテスタント諸派では、英国国教会(聖公会)が約8500万人、メソディストが7500万人以上、ルター派が7000万人以上、バプテストが4000万人以上である。
 次に、世界のキリスト教徒の動態については、米国ワシントンに本拠を置くピュー・リサーチ・センターの2010年の調査によると、キリスト教は欧米など伝統的なキリスト教圏では不振であるのに対し、発展途上国では信徒数が急増しており、キリスト教の中心と呼べる大陸や地域はなくなっている。1910年には、世界のキリスト教徒の3分の2は欧州に住んでいた。それが、100年後の時点では、欧州居住者の比率は25%にまで低下した。一方、世界のキリスト教徒のうち、南北アメリカが37%、サハラ砂漠以南のアフリカが24%、アジア・太平洋地域が13%等となっている。キリスト教が発生し、初期に発達した中東・北アフリカでは、住民のわずか4%に過ぎなくなっている。最もキリスト教徒が増加しているのは、サハラ砂漠以南のアフリカで、1910年には人口の9%だったのが、2010年には63%にまで増加した。これに比し、ヨーロッパでは、1910年に94%だったのが、76%にまで減少している。キリスト教に比べ、イスラーム教徒は倍以上の速度で増加しており、2070年には、キリスト教徒とムスリムの人口は同数になり、2100年には、ムスリムが世界最多となる。
 ピュー・リサーチ・センターの2012年の調査によると、世界人口69億人のうち、約11億人、16%が無宗教者である。無宗教者は無神論者に限らず、特定の宗教を持たないが何らかの精神的信仰を持つ者を含む。無宗教者の6割が中国に存在する。その一方、中国では、共産党員によるキリスト教信仰を禁止する政策にも関わらず、信者が増えており、人口の5%、6700万人と推定される。

●一神教の中の唯一神教
 
 キリスト教は、唯一神教的な一神教である。そのことを、ユダヤ教から継承している。
 ユダヤ教が出現する前、人類の諸社会は、アニミズム、シャーマニズム、多神教、ユダヤ教以前の一神教等の諸宗教が並存していた。ユダヤ民族は、アニミズム、シャーマニズム、多神教等を否定し、従来の一神教を排斥した。そして、新たな形態の一神教を生み出した。それが唯一神教である。
 ユダヤ民族の唯一神教は、唯一の神のみを神とし、自己の集団においても他の集団においても、一切他の神格を認めない。その点が、従来の一神教すなわち自集団・他集団とも多くの神格を認める単一神教や、自集団では神格は一つだが他集団では多数の神格を認める拝一神教と異なる。
 ユダヤ民族は、全知全能の唯一神という観念を確立した。ユダヤ教の神は無限の偉大さを持つとされ、図像によって神の姿を限定的に表現することを禁止した。他の人間神、自然神、宇宙神を一切認めず、偶像として非難し、それらの崇拝を禁止する。アニミズム、シャーマニズム、多神教等にみられる祖先崇拝・自然崇拝を全否定するものだった。こうした排他的な唯一神への信仰は、それまでの諸宗教が並存する状態に挑戦するものである。さらに、これに選民思想が加わり、ユダヤ教を極めて排他的で闘争的な宗教にしている。
 歴史家・評論家のポール・ジョンソンは、著書『ユダヤ人の歴史』において、ユダヤ教は「その誕生においては、最も革命的な宗教であった」と書き、全知全能の唯一神への信仰は、「それまでの人類の世界観を打ち砕くほどの変革力を持っていた」と見ている。
 全知全能の神という観念にいたったユダヤ人にとっては、宇宙全体が神の被造物に過ぎない。神以外に力の源はどこにもない。神は無から宇宙を創ったとする。こうした神の概念を超越神という。この点でユダヤ教は神を一元的に抽象化している。この思考は一元的な原理に基づくものであり、その原理に依拠する合理性を示す。
 私は、ユダヤ教で唯一神とされた観念的存在は、もともとユダヤ民族の祖先神だったのだろうと推測する。その祖先神は他の諸民族の祖先神と並存・競合したものだった。だが、自己の民族の祖先神が他の民族の祖先神より優れているという観念が強まり、天地創造の主体という原理的存在へと抽象化された。原理的存在ゆえに唯一の神であるとされ、唯一の実在とされた。その結果、他の民族の神々は否定されるべきものとされた。このような過程を経て、唯一神への信仰が形成されたと考える。
 ユダヤ民族の神がもともとは彼らの祖先神だっただろうことは、神は人間を神の似像として創造したという観念にも窺われる。人間の子孫は祖先と同型である。同じ人間である祖先から生命を継承して誕生したからである。祖先を神格化した祖先神を原理的存在へと抽象化した後も、その神が生命の源であるという観念は維持される。もともと祖先神であるから、その神が創った人間は、神に似ていると考えられたのだろう。
 私の推測では、本来は祖先神として子孫と血のつながりを持ったものだった神が抽象化され、人間の創造者とされた。祖先ではなく絶対的な支配者とされた。そして、ユダヤ民族に求められるのは、祖先への自然な崇敬ではなく、支配者と結んだ契約の順守とされた。ここで神と人間の関係は、祖先と子孫の関係ではなく、主人と奴隷の関係に転換された。神に対する義務は、祖先に対する子孫の義務ではなく、主人に対する奴隷の義務となった。こうした観念が発生したのは、ユダヤ民族が他の民族の支配下に置かれ、長い年月のうちに奴隷的な思考が定着したからだろう。神に対して奴隷のように従い、従わねば奴隷のように殺されると信じることになったと思われる。
 ナザレのイエスは、こうしたユダヤ民族の宗教を継承し、その改革を行った。何を継承し、何を改革したのか。それを押さえたうえで、キリスト教を理解しなければならない。
 キリスト教は、キリスト教だけを見てもよく理解することはできない。まずユダヤ教を理解し、それとの対比の中で、キリスト教を理解する必要がある。

 次回に続く。
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中国の一帯一路は「死のロード」~田村秀男氏

2018-01-28 11:45:32 | 経済
 田村秀男氏は、政府・財務省に対しても日銀に対してもものをいう反骨のエコノミストである。
 田村氏は、中国の習近平政権が進める広域経済構想「一帯一路」とアジア・インフラ銀行「AIIB」を、中国共産党主導の粗暴な対外膨張主義の一環として、その実態を鋭く暴いてきた。
 ところが、わが国の政財界・メディアでは「一帯一路への参加熱」が再燃しているとして、田村氏は平成29年12月31日付の産経新聞の記事で、この動向に強い警告を発している。その記事の大意を記す。
 一帯一路とAIIBに対して、わが国は米国ともに慎重な姿勢を取ってきた。しかし、最近わが国の産業界、与党、日本経済新聞や朝日新聞といったメディアの多くが積極参加を安倍晋三政権に求めている、安倍首相はAIIBには懐疑的だが、一帯一路については「大いに協力する」と表明するようになった。自民党の二階俊博幹事長は12月下旬に中国で開かれた自民、公明両党と中国共産党の定期対話「日中与党交流協議会」で、一帯一路での日中の具体的な協力策を話し合った。
 だが、一帯一路の正体は「死のロード」だと田村氏は断じる。ここで田村氏は、いつものように、データをもとに独自の分析を示す。
 田村氏によると、「中国企業による一帯一路沿線への進出を示す直接投資となると、水準、伸び率とも極めて低調だ。習氏の大号令もむなしく、実行部隊である国有企業は投資を大幅に減らしている」。また「一帯一路の金庫の役割を果たすはずのAIIBは外貨調達難のために半ば開店休業状態にある」。
 だから、「四苦八苦する習政権はぜひとも世界最大の対外金貸し国日本の一帯一路、さらにはAIIBへの参加が欲しい」のだと田村氏は指摘する。ここで中国の甘い誘い声に騙されてはいけない。
 田村氏は、ティラーソン米国務長官が昨年10月に語った言葉を引く。「中国の融資を受ける国々の多くは膨大な債務を背負わされる。融資の仕組みも、些細なことで債務不履行に陥るようにできている」と警告した、と。
 「一帯一路やAIIBへの参加は泥舟に乗るようなもの」と田村氏は、強く警告している。
 以下は、田村氏の記事の全文。

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●産経新聞 平成29年12月31日

http://www.sankei.com/economy/news/171231/ecn1712310004-n1.html
2017.12.31 08:00更新
【田村秀男の日曜経済講座】
大甘の「一帯一路」参加論 死のロードに巻き込まれるな

 政財界・メディアでは中国の習近平国家主席が推進する広域経済圏構想「一帯一路」への参加熱が再燃している。北京も盛んに甘い声で誘ってくるが、ちょっと待てよ。その正体は「死のロード」ではないのか。 
 一帯一路は2014年11月に習氏が提唱した。ユーラシア大陸、東・南アジア、中東、東アフリカ、欧州の陸海のインフラ網を整備し、北京など中国の主要都市と結ぶ壮大な計画だ。中国主導で現地のプロジェクトを推進する。資金面でも中国が中心となって、基金や国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」を15年12月に北京に設立済みだ。
 一帯一路とAIIBにはアジア、中東、ロシアを含む欧州などの多くの国が参加しているが、先進国のうち日本と米国は慎重姿勢で臨んできた。国内では「バスに乗り遅れるな」とばかり、産業界、や与党、日本経済新聞や朝日新聞といったメディアの多くが積極参加を安倍晋三政権に求めてきた。安倍首相もAIIBには懐疑的だが、一帯一路については最近一転して、「大いに協力する」と表明するようになった。
 自民党の二階俊博幹事長は先週、中国で開かれた自民、公明両党と中国共産党の定期対話「日中与党交流協議会」で、一帯一路での日中の具体的な協力策を話し合った。一帯一路、AIIBへの参加問題は日中平和友好条約締結40周年を迎える来年の大きな対中外交テーマになりそうだ。一帯一路やAIIBが中国共産党主導の粗暴な対外膨張主義の一環と論じてきた拙論は、捨ててはおけない。



 グラフは一帯一路沿線地域・国向けの中国政府主導のプロジェクトの実施、契約状況と国有企業などによる直接投資の推移(いずれも当該月までの12カ月合計値)である。新規契約は順調に拡大し、中国の対外経済協力プロジェクトの約5割を占めるようになり、習政権の意気込みを反映している。
 半面、プロジェクトの実行を示す完成ベースの伸びは鈍い。中国企業による一帯一路沿線への進出を示す直接投資となると、水準、伸び率とも極めて低調だ。習氏の大号令もむなしく、実行部隊である国有企業は投資を大幅に減らしていることが読み取れる。
背景には、北京による資本流出規制がある。中国は3.1兆ドル超と世界最大だが、対外負債を大きく下回っている。中国の不動産バブル崩壊への不安や米金利上昇などで巨大な資本流出が起きかねず、資本規制を緩めると外貨準備が底を尽きかねない。北京は中国企業による対外投資を野放しにできなくなった。カネを伴うプロジェクト実行にもブレーキがかかる。
 他方、一帯一路の「金庫」の役割を果たすはずのAIIBは外貨調達難のために半ば開店休業状態にある。AIIBは北京による米欧金融市場への工作が功を奏して、アジア開発銀行並みの最上位の信用度(格付け)を取り付けたが、AIIBが発行する債券を好んで買う海外の投資家は多くない。
 四苦八苦する習政権はぜひとも世界最大の対外金貸し国日本の一帯一路、さらにはAIIBへの参加が欲しい。資金を確保して新規契約プロジェクトを実行しやすくするためだ。その見返りに一部のプロジェクトを日中共同で、というわけだが、だまされてはいけない。
中国主導投資の道は死屍(しし)累々である。習氏は12年に政権を握ると、産油国ベネズエラへの経済協力プロジェクトを急増させてきた。同国は反比例して経済が落ち込み、実質経済成長率は16年、マイナス16%に落ち込んだ。経済崩壊の主因は国内政治の混乱によるのだが、ずさんな中国の投資が政治腐敗と結びついた。
 中国投資が集中したスーダンもアフリカのジンバブエも内乱や政情不安続きだ。中国と国境を接している東南アジアは今、中国化が急速に進んでいる。ラオスやミャンマーでは中国国境の地域ごと中国資本が長期占有してつくったカジノ・リゾートがゴーストタウン化するなど、荒廃ぶりが目立つ。中国が輸出攻勢をかけるカンボジアは債務の累積に苦しみ、中国からの無秩序な投資に頼らざるをえなくなっている。
 ティラーソン米国務長官は10月、「中国の融資を受ける国々の多くは膨大な債務を背負わされる。融資の仕組みも、些細(ささい)なことで債務不履行に陥るようにできている」と警告した。麻生太郎財務相も11月、AIIBを「サラ金」に見立てた。一帯一路やAIIBへの参加は泥舟に乗るようなものなのだ。(編集委員)
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キリスト教2~文明学的位置づけ

2018-01-27 12:04:02 | 心と宗教
●キリスト教の文明学的位置づけ

 文明学者アーノルド・トインビーは、文明は、誕生、成長、挫折、解体を繰り返すという文明の周期論(サイクル論)を説いた。文明の成長段階で「世界国家」が登場し、その末期に、征服された地域の抑圧された民族の間に「高度宗教」を生み出す。「高度宗教」は、「世界国家」の崩壊後も生き続け、やがて蛮族がこの「高度宗教」に改宗し、そこに受け継がれた「高度宗教」が、次の文明の発生の中核になるとトインビーは説いた。この理論は、ギリシャ・ローマ文明の過程をモデル化したものであり、「高度宗教」がキリスト教を想定していることも明らかである。
 私は、トインビーの説を踏まえつつ、文明と宗教の関係を一般化する必要があると考える。文明は、トインビーの注目した例に限らず、その中核に宗教を持つ。宗教は、社会を統合する機能を持ち、集団に規範を与え、社会を発展させる駆動力ともなり、国家の形成や拡張を促進する。さらに、諸民族・諸国家にまたがる文明の中核ともなるものである。
 世界の諸文明は、そのような宗教を、その精神的な中核に持っている。文明には、その文明の独自の文化から生まれた固有の宗教を持つものと、他の文明が生み出した宗教を摂取したものとがある。トインビーが注目したのは後者の例である。
 国際政治学者サミュエル・ハンチントンは、文明の中核には宗教があるとするトインビーの説を受けて、宗教をもとにして諸文明を特徴づけている。また、冷戦終結後の世界には、7または8つの主要文明が存在すると説く。すなわち、キリスト教的カソリシズムとプロテスタンティズムを基礎とする西洋文明(西欧・北米)、東方正教文明(ロシア・東欧)、イスラーム文明、ヒンドゥー文明、儒教を要素とするシナ文明、日本文明、カトリックと土着文化を基礎とするラテン・アメリカ文明。これに今後可能性のあるものとして、アフリカ文明(サハラ南部)を加え、7または8と数える。
 私は、世界の諸文明を主要文明と周辺文明に分ける。主要文明とは、独自の文明の様式をもち、自立的に発展し、かつ文明の寿命が千年以上ほどに長いか、または現代世界において重要な存在であるものである。また周辺文明とは、主要文明の文化的刺激を受けて発生し、これに依存し、宗教・政治制度・文字・芸術・技術等を借用する文明である。
 現代の主要文明は西洋文明、東方正教文明、イスラーム文明、インド文明、シナ文明、日本文明、ラテン・アメリカ文明、アフリカ文明の8つと考える。ハンチントンが可能性として挙げたアフリカ南部を今日、一個の文明とみなす。そして、これら以外に多くの周辺文明が存在すると考える。
 私は、世界の主要文明を宗教をもとにして、大きく二つのグループに分けている。セム系唯一神教を文明の中核とする一神教文明群と、人類に広く見られる多神教を文明の中核とする多神教文明群である。
 一神教文明群に属する主要文明は、ハンチントンのいう西洋文明、東方正教文明、イスラーム文明、ラテン・アメリカ文明の四つである。多神教文明群に属する主要文明は、日本文明、シナ文明、インド文明に新興のアフリカ文明を加えて四つと私は数える。
 トインビーは、世界史において、「充分に開花した文明」が過去に23あったとし、その一つとしてユダヤ文明を挙げた。ユダヤ教社会は、古代シリア文明にさかのぼる。シリア文明は、紀元前1200年頃のフェニキア文明以来、中東で発展してきた文明である。ユダヤ民族は、シリア文明の一弱小民族だった。その後、ユダヤ民族はその周辺文明として独自の文明を創造したが、ローマ帝国によって滅ぼされた。その過程で、ユダヤ文明からキリスト教が誕生した。
 キリスト教は、ユダヤ教から出たことによって、ヘブライズムの思想・文化を継承している。ギリシャ文化社会に伝道する過程で、ヘレニズムの思想・文化を吸収した。キリスト教には、ヘブライズムとヘレニズムの融合が見られる。ユダヤ的な宗教の教義をギリシャ哲学を用いて整備することで、普遍的な性格を獲得していった。
 キリスト教はローマ帝国で急速に広がり、国教の地位を得た。ユダヤ民族の亡国離散、ローマ帝国の東西分裂及びそれぞれの帝国の滅亡の後も、世界宗教として伝播し続けた。西方のキリスト教は、ギリシャ=ローマ文明を継承したヨーロッパ文明の宗教的な中核となった。ヨーロッパ文明は北米・南米にも広がり、近代西洋文明へと発展した。また東方のキリスト教は、ビザンチン文明を経て、東方正教文明の宗教的中核となった。
 ハンチントンが説くように、キリスト教はラテン・アメリカ文明にも影響を与えている。彼の言う西洋文明、東方正教文明、ラテン・アメリカ文明は、私の分類における一神教文明群に属する。私は、古代に滅亡したユダヤ文明は、第2次世界大戦後、イスラエルの建国によって、現代のユダヤ文明へと蘇ったと見ている。そしてそのユダヤ文明を、一神教文明群に属する周辺文明の一つとして位置づける。ユダヤ教及びユダヤ文明は、キリスト教系の諸文明に大きな影響を与えてきている。それゆえ、私は西洋文明、東方正教文明、ラテン・アメリカ文明、ユダヤ文明を、ユダヤ=キリスト教諸文明とも呼ぶ。一神教文明群は、ユダヤ=キリスト教諸文明とイスラーム文明に分けられる。
 ユダヤ=キリスト教という名称は、私がユダヤ教とキリスト教が同根であることを強調する時に使用するものである。また、私は、キリスト教とユダヤ教の違いを認めつつ、欧米の宗教の基底にはユダヤ教の要素があることを強調する時にも、ユダヤ=キリスト教と書く。ハンチントンは西洋文明に対し、「キリスト教的カソリシズムとプロテスタンティズムを基礎とする」と表現しているが、ここにユダヤ教という要素を明記すべきである。つまり、西洋文明はユダヤ=キリスト教を基礎とする、という形容こそふさわしい。そして、ユダヤ=キリスト教のユーラシア西方での表れが西洋文明、東方での表れが東方正教文明ととらえることができる。
 本稿は、キリスト教を上記のように宗教学的及び文明学的に位置づけるものである。

●ユダヤ教から現れた世界宗教

 キリスト教は、イエスを創唱者とする一個の宗教である。だが、もともとキリスト教は、ユダヤ教から派生した宗教である。ユダヤ民族の神ヤーウェを信仰対象とし、ユダヤ教の聖書を旧約聖書として啓典の一部とする。ユダヤ教はキリスト教の母体となっており、決してその出自とつながりを消去することはできない。
 紀元1世紀の前半にパレスチナに、ユダヤ教の改革者としてイエスが登場し、彼の教えを信じる者は神によって救済されるという脱民族的な教えを説いた。この時点では、ユダヤ教の異端・分派であり、キリスト教はユダヤ教イエス派から始まったということができる。それが、ユダヤ教から分離して独自の宗教へと発展した。
 キリスト教は、ユダヤ教と神をともにし、ユダヤ教の聖書を旧約聖書、イエスの言行録や弟子たちの手紙等を新約聖書とする。この「約」は、神との契約を意味する、それゆえ、ユダヤ教はキリスト教の母体となっている。
 だが、ユダヤ教は、イエスを救世主とは認めない。独自の救世主の到来を待っている。イエスを救世主と認めないのがユダヤ教の正統であり、イエスを救世主と仰ぐキリスト教は、ユダヤ教の異端・分派である。
 しかし、ユダヤ教が民族宗教であるのに対し、キリスト教は、ユダヤ教から脱民族化して、人類的・普遍的性格を持つに至った。歴史の特定の時点、世界の特定の場所、人類の特定の民族において出現した宗教でありながら、特定の民族・人種・地域に限定されない。その点で本質的に世界宗教である。また、古代から広範な地域に布教・公布され、民族の違いを超えて受け入れられ、信者が世界各地に広がっている。その点で現実的にも世界宗教となっている。それゆえ、本質的にも現実的にも、キリスト教は世界布教ということができる。
 ユダヤ教から一定の影響を受けて世界宗教となったのには、別にイスラーム教がある。これらユダヤ教及びそれを元祖とする宗教であるセム系一神教は、それ以外の諸宗教と実在観・世界観・人間観が大きく異なる。人類の共存調和のためには宗教間の相互理解・相互協力が必要だが、それにはセム系一神教同士の対話と協調が強く求められている。その対話と協調において、欧米を中心に世界に広がるキリスト教の役割は大きい。また、全く別の系統から世界宗教になった仏教や、今後、世界宗教に発達する可能性のある神道との対話と協調においても、キリスト教の果たすべき役割は大きい。

●選民思想の否定とユダヤ的価値観の浸透・普及

 キリスト教は、ユダヤ教と同じ唯一の神を仰ぎながら、選民思想を否定した。それによって、世界宗教となった。一方、ユダヤ教は、民族宗教にとどまった。
 ユダヤ教は、その教義に基づくユダヤ的価値観を生み出した。それが、ヨーロッパで西方キリスト教に浸透し、キリスト教が広まるとともに世界に広まり、人類に広く深く浸透してきた。ユダヤ的価値観については、拙稿「ユダヤ的価値観の超克~新文明創造のために」に書いた。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-4.htm
 ユダヤ的価値観を持つ者は、ユダヤ人に限らない。非ユダヤ人であって、ユダヤ的価値観を持つ者が近現代の世界史を通じて、増加してきている。欧米を中心に、キリスト教徒でありながら、ユダヤ的価値観を持つ者が増えている。私は、人類がユダヤ的価値観を超克するとともに、ユダヤ教が排他的・闘争的な選民思想から脱却することができなければ、人類の対立・闘争は続き、地球に共存共栄・物心調和の新文明を実現することは困難である、と考える。このユダヤ教の選民思想の脱却において、キリスト教には、大きな役目がある。ユダヤ的価値観の超克は人類の課題である。本稿は、「ユダヤ的価値観の超克~新文明創造のために」と同じ課題認識のもとに書いているものである。

 次回に続く。

関連掲示
・拙稿「人類史に対する文明学の見方」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09a.htm
・拙稿「人類史の文明学~トインビー」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09g.htm
・拙稿「ハンチントンの『文明の衝突』と日本文明の役割」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09j.htm
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キリスト教の運命~終末的完成か発展的解消か1

2018-01-25 09:34:53 | 心と宗教
●はじめに

 私は、現代の世界を覆っている近代西洋文明には、ユダヤ人・ユダヤ教・ユダヤ文明の影響が大きいことを認識し、その影響の考察と対処のために、拙稿「ユダヤ的価値観の超克~新文明創造のために」を書いた。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-4.htm
 私は、ヨーロッパ文明が北米にも広がったものを西洋文明と呼ぶ。ヨーロッパ文明は、古代ギリシャ=ローマ文明、ユダヤ=キリスト教、ゲルマン民族の文化という三つの要素が融合してその骨格が出来上がった。それらのうち、ユダヤ=キリスト教が文明の宗教的な中核になっている。ここで、ユダヤ=キリスト教と書くのは、キリスト教におけるユダヤ教の影響を強調するためである。ヨーロッパ文明及び近代西洋文明の中核となったキリスト教には、ユダヤ教に基づく価値観が深く浸透しており、そのため、ユダヤ的価値観が近代西洋文明を強く性格づけており、近代西洋文明の欠陥・弊害のかなりの部分はユダヤ的価値観によっている、と私は考える。
 ユダヤ的価値観とは、ユダヤ教の教えに基づいて発達した価値観であり、近代西洋文明に浸透し、全世界的に普及しつつある物質中心・金銭中心の考え方、自己中心的な態度、対立・闘争の論理、自然の管理・支配の思想である。人類が未曾有の危機を乗り越えて、この地球に物心調和・共存共栄の新文明を創造するには、ユダヤ的価値観の超克が必要不可欠の課題である。
 ユダヤ的価値観の超克については、先の拙稿に書いた。本稿では、その超克という課題のもとに、ユダヤ教から派生して世界に広がり、またそれによってユダヤ的価値観の浸透・普及をもたらしているキリスト教について主題的に考察する。ユダヤ的価値観の超克という課題は、キリスト教に浸透したユダヤ的価値観の超克を伴う課題である。
 人類は、21世紀において飛躍的な発展を遂げる段階に近づいている。その段階までの歴史を人類の前史と呼ぶならば、キリスト教は人類の前史を導いてきた世界諸宗教のうち最大のものである。キリスト教は終末論を説く宗教である。通説によると、世の終わりにイエス・キリストが再臨し、最後の審判が行われる際、イエスが創建した教会が完成するという。これを「終末的完成」という。果たして、イエス自身が実際に再臨するのか、再臨は壮大な誤報だったのか、人類はその問いの答えを待っている。
 私は、イエス自身の再臨を信じる者ではない。人類が物心調和・共存共栄の文明を実現するためには、キリスト教はキリスト教を超えたものに融合して発展的解消すべき段階にある、と考えている。また、新文明の創造のために、日本の精神文化が果たす役割が大きい、と私は考えている。日本の精神文化が世界に広まる過程は、キリスト教の発展的解消が日本から促進される過程となるだろう。本稿は、キリスト教の概要を記し、その歴史と現在を考察し、この21世紀にキリスト教は終末的完成に至るのか、それとも発展的解消を遂げるのか、その将来を予測することを目的とする。
 なお、本稿における聖書の引用は、日本聖書協会の新共同訳による。

●宗教の定義

 最初に、宗教とは何かについて簡単に述べる。
 宗教とは、人間の力や自然の力を超えた力や存在に対する信仰と、それに伴う教義、儀礼、制度、組織が発達したものをいう。宗教の中心となるのは、人間を超えたもの、霊、神、仏、理法、原理等の超越的な力や存在の観念である。その観念をもとにした思想や集団的な感情や体験が、教義や儀礼で表現され、また生活の中で確認・再現・追体験されるのが、宗教的な活動である。宗教は、社会を統合する機能を持ち、集団に規範を与えるとともに、個人を人格的成長に導き、心霊的救済を与える。宗教は、また社会を発展させる駆動力ともなる。国家の形成や拡張を促進し、諸民族・諸国家にまたがる文明の中核ともなる。
 今日宗教と呼ばれるものの多くは、古代に発生し、幾千年の年月に渡って継承され、発展してきたものである。それらの宗教には、その宗教を生み出した社会の持つ習俗・神話・道徳・法が含まれている。
 わが国を代表する宗教学者の一人、岸本英夫は、宗教を「神を立てる宗教」と「神を立てない宗教」に分ける。「神を立てる宗教」とは、神観念を中心概念とする宗教である。ユダヤ教、キリスト教、イスラーム教、ヒンドゥー教、神道等は、これに属する。そのうち神に関する考え方によって、一神教、多神教、汎神教等に分けられる。「神を立てない宗教」とは、神観念を中心概念とはしない宗教である。マナイズムやいわゆる原始宗教・根本仏教などがこれに属する。私は、「神を立てる宗教」を有神教、「神を立てない宗教」を無神教と呼ぶ。

●キリスト教の宗教学的位置づけ

 キリスト教は、約2000年前、パレスチナでナザレのイエスが始めた教えである。ユダヤ教から派生した宗教だが、ユダヤ教から分かれて、イエスを救世主(キリスト)を信じる別個の宗教として発展した。だが、キリスト教は、ユダヤ民族の神ヤーウェを信仰対象とする一神教であり、ユダヤ教の聖書を旧約聖書として共有している。そのことによって、キリスト教は、ユダヤ民族の習俗、神話、道徳、法を基本的に継承している。さらにユダヤ教の教義、組織、信仰、生活についても一部継承している。また、ユダヤ教の実在観、世界観、人間観は、キリスト教の実在観、世界観、人間観のもとになっている。
 それゆえ、キリスト教の宗教学的及び文明学的位置づけは、ユダヤ教のそれを踏まえたものでなければならない。ユダヤ教の宗教学的及び文明学的位置づけは、拙稿「ユダヤ的価値観の超克~新文明創造のために」に書いた。
 ユダヤ教は「神を立てる宗教」すなわち有神教であり、そのうちの一神教である。一神教は、一つの神のみを祀る宗教である。これには、単一神教、拝一神教、唯一神教がある。ユダヤ教は唯一神教の元祖であり、唯一の神のみを神とし、自己の集団においても他の集団においても、一切他の神格を認めない。唯一神教は、地理学的・環境学的には、砂漠に現れた宗教という特徴を持つ。砂漠の自然が人間の心理に影響したものと考えられる。
 ユダヤ教は、唯一神教であるとともに、その唯一の神の啓示を受けたとする啓示宗教、神と結んだという契約による契約宗教、また神の言葉を記したとする啓典を持つ啓典宗教である。創唱者を持たない自然宗教であり、ユダヤ民族の民族宗教である。また、ユダヤ民族という集団を救う集団救済の宗教である。こうした性格のうち、キリスト教は、啓示宗教、契約宗教、啓典宗教である点を、ユダヤ教から継承している。その反面、キリスト教は、ナザレのイエスによる創唱宗教である点が大きく異なる。また、ユダヤ民族だけでなく、その教えを信じる者を救うという点で個人救済の宗教であり、また民族の違いに関わらずそれを信じる者を救う脱民族的な集団宗教でもある。
 キリスト教は、ユダヤ教を母体とすることによって、古代ユダヤ民族の神話と歴史を継承している。ユダヤ民族は、宇宙を無から創造した神が人間を創造したとし、最初の人間をアダムと呼ぶ。その子孫であり大洪水で生存したノアには、セム・ハム・ヤペテの三人の子があったとする。長子セムは、アッシリア人、アラム人、ヘブライ人、アラブ人の祖先とされている。言語学では、セム語族という言語系統の集団があるとする。セム語族には、アッカド語、バビロニア語、フェニキア語、アッシリア語、アラビア語などが所属する。ユダヤ民族は、セム語系のヘブライ語を話す。
 ユダヤ民族は、セムの子孫であるアブラハムをユダヤ民族の始祖とする。そしてアブラハムが契約した神ヤーウェを信仰している。そのユダヤ民族の信仰がユダヤ教である。キリスト教は、ユダヤ教から派生し、神ヤーウェの信仰を継承している。イスラーム教は、ユダヤ教、キリスト教の影響を受けて発生した。そこで私は、ユダヤ教、キリスト教、イスラーム教を、総称してセム系唯一神教、略してセム系一神教と呼んでいる。この場合のセム系は、言語学的な系統ではなく、そのもとになった観念的な民族の系統を表す。キリスト教は、このセム系一神教の一つであり、そのうちの最大のものである。

 次回に続く。

関連掲示
・本稿は、私の宗教論の第5作となる。既に書いたものは、発表順に次の通りである。

 「日本文明の宗教的中核としての神道」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09l.htm
 「イスラームの宗教と文明~その過去・現在・将来」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-2.htm
 「宗教、そして神とは何か」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion11d.htm
 「ユダヤ的価値観の超克~新文明創造のために」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-4.htm
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トランプ政権の暴露本への評価

2018-01-24 09:55:24 | 国際関係
 トランプ政権の暴露本「Fire and Fury: Inside the Trump White House(炎と怒りーートランプ政権の内幕)」は、アメリカで1月5日に出版されると完売する書店が続出し、1週間たらずで100万部を超えるベストセラーになっていると伝えられる。また、ハリウッドの大手エージェンシーが、本書の映画化およびテレビドラマ化の権利を取得し、制作に入ると話題を呼んでいる。わが国では、早川書房から2月下旬に日本語訳版が出版予定である。
 私は未読だが、外交評論家の宮家邦彦氏は、「同書に書かれた内容のどこまでが真実かは今後しっかりと検証する必要があるだろう」としつつ、「トランプ政権の実態を知る上で必読の一冊」という認識を示しているので、以下概要を記す。
 宮家氏は、読後の感想を6点挙げている。第1は、「トランプ氏の資質について新たな事実はない」という表現で、トランプは「誇大性・賛美を求める欲求・特権意識が強く、自己を最重視し、業績を誇張し不相応の称賛を求めるNPD(自己愛性パーソナリティー障害)」と言う見方に賛同している。第2は、「発足当初のトランプ政権には3つの派閥があった」として、「バノン元首席戦略官率いる極右ナショナリスト集団、大統領の娘婿夫婦が代表するニューヨーク富豪・民主党系穏健派集団とプリーバス前首席補佐官が代表する議会共和党主流派集団が空洞である大統領を取り囲む構図」だったと要約。第3は、「バノン氏は影の大統領などではなかった」として、米国のエスタブリッシュメント(既得権・支配層)との闘いを始めたバノンが、次第にトランプ氏が支配層に取り込まれるのを見てホワイトハウスを去ったと要約。第4は「プリーバス氏は真の首席補佐官ではなかった」として、共和党全国委員会(RNC)こそトランプが敵視するエスタブリッシュメントで、大統領はプリーバスにホワイトハウスの全権を付与する気など元からなかったと要約。第5は「ジャバンカは単なるセレブ夫婦ではなかった」として、ことごとくバノンと対立しその度にメディアに情報リークしてバノン氏を陥れる世論操作を繰り返したと要約。第6は、「外交安保チームはこうした路線闘争の蚊帳の外だった」として、本書が扱う外交安保問題は意外に少ないことを指摘している。
 以下は、宮家氏の記事の全文。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
●産経新聞 平成30年1月18日

http://www.sankei.com/world/news/180118/wor1801180003-n1.html
2018.1.18 12:00更新
【宮家邦彦のWorld Watch】
「トランプ氏の資質に新事実は無い」「外交安保チームは路線闘争の蚊帳の外」…米政権の内情描く暴露本は必読

 トランプ政権の内幕を詳細に描いた暴露本「炎と怒り」をようやく読み終えた。米書店では売り切れ続出、知人が帰国直前空港の売店で手に入れた最後の本をお土産に頂いたのだ。英文300ページの大部だが、頑張って2日で読破した。友人に自慢したら、彼は既に電子版を読了。なるほどベストセラーでもネット上に「売り切れ」はないのだ。日本で同書は「トランプ氏の大統領としての資質を疑問視する側近らの発言が盛り込まれており、政権が非難していた」と報じられたが、筆者の読後感はちょっと違う。

●トランプ氏の資質について新たな事実はない
 トランプ氏が大統領の器でないという噂は一昨年の大統領選挙中からあった。当時米国の友人は誇大性・賛美を求める欲求・特権意識が強く、自己を最重視し、業績を誇張し不相応の称賛を求める「NPD(自己愛性パーソナリティー障害)」なる米精神医学用語でトランプ氏の直情・直感的傾向を指摘していた。まさにその通りではないか。
 また、同書はトランプ氏が「人の話を聞かず、文書を読まず、最後に聞いた話を対外的にしゃべる」と書いたが、その種の経営者・政治家は日本にも大勢いる。トランプ氏だけを不適任と断罪するのは不公平であろう。

●発足当初のトランプ政権には3つの派閥があった
 筆者にとって最も興味深かったのはトランプ政権内の力関係だ。同政権は、バノン元首席戦略官率いる「極右ナショナリスト」集団、大統領の娘婿夫婦が代表するニューヨーク富豪・民主党系「穏健派」集団とプリーバス前首席補佐官が代表する「議会共和党主流派」集団が「空洞」である大統領を取り囲む構図だ。当然、外交・安保チームの入り込む余地は少ない。

●バノン氏は「影の大統領」などではなかった
 バノン・トランプ両氏の関係は微妙だ。バノン氏は1955~65年の「古き良きアメリカ」への回帰を頑(かたく)なに主張する一種の革命家。同氏はトランプ運動に寄生し大統領選勝利後同氏が忌み嫌う米国のエスタブリッシュメント(既得権・支配層)との闘いを始めたが、次第にトランプ氏が支配層に取り込まれるのを見てホワイトハウスを去った。意外だが、バノン氏も米内政については素人だったのだ。

●プリーバス氏は真の首席補佐官ではなかった
 プリーバス氏は共和党全国委員会(RNC)の元委員長だが、RNCこそはトランプ氏が敵視するエスタブリッシュメント。大統領は同氏にホワイトハウスの全権を付与する気など元からなかったのだ。

●ジャバンカは単なるセレブ夫婦ではなかった
 バノン氏は大統領娘婿夫婦を「ジャバンカ=ジャレッド+イバンカ」と揶揄(やゆ)した。この若夫婦、化学兵器を使用したシリアへの攻撃やアフガニスタンへの米軍増派問題などでことごとくバノン氏と対立した。その度にジャバンカはメディアに情報リークしてバノン氏を陥れる世論操作を繰り返したという。「かわいい顔して…」、恐ろしい夫婦ではないか。

●外交安保チームはこうした路線闘争の蚊帳の外だった
「炎と怒り」が扱う外交安保問題は意外に少ない。本書の著者M・ウォルフ氏は、マクマスター氏率いる国家安全保障会議とマティス国防長官やティラーソン国務長官との葛藤に興味がなかったかもしれない。一方、同氏は毀誉褒貶(きよほうへん)相半ばするジャーナリストであり、同書に書かれた内容のどこまでが真実かは今後しっかりと検証する必要があるだろう。いずれにせよ、トランプ政権の実態を知る上で必読の一冊だと考える。

 最後にトランプ政権はどこへ行くのか。同書を読む限りその答えはトランプ氏自身も分からないだろう。引き続き米内政を注視するしかない。
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「ユダヤ的価値観の超克」をアップ

2018-01-22 11:16:24 | ユダヤ的価値観
 ブログに連載したユダヤ的価値観に関する拙稿は、全6部が完結しました。編集・加筆のうえ、マイサイトに全体を掲載しました。通してお読みになりたい方は、下記のアドレスへどうぞ。

■ユダヤ的価値観の超克~新文明創造のために
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-4.htm

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トランプ大統領の侮辱発言に非難強まる

2018-01-21 08:51:05 | 国際関係
 1月20日でトランプ米国大統領は、就任1年を迎えた。その10日ほど前の1月11日、トランプが、ホワイトハウスで開かれた移民問題に関する議員との協議で発した言葉が、人種差別的だとして抗議の声が世界に広がっている。
 昨年末、トランプは、エルサレムをイスラエルの首都と認定したことで、国際社会の多くから批判を受け、アラブ諸国を中心に激しい反発が広がっている。そこに今度は、米国大統領としては、かつて聞いたことの無いほど、下卑た発言をして、国内外から非難を受けている。
 報道によると、トランプはこの日、上院議員の超党派グループが推進する新たな移民関連法案について、民主党のディック・ダービン議員と共和党のリンゼー・グラム議員から説明を受けた。他の政府当局者らも同席した。議員らは会合で、自然災害や内戦で祖国を逃れ米国に避難した人々に在留資格を付与する制度を含む移民政策について説明した。これに対し、トランプは、アフリカ諸国やハイチを名指しし、「どうして野外便所(shithole)のように汚い国の連中を来させ続けているのか。ノルウェーの移民をもっと受け入れるべきだ」と述べ、強い不快感を表明したと報じられる。
 問題は、shitholeという言葉。上記引用では、「野外便所」と訳しているが、俗語で「排便をする穴」、そこから転じて「非常に汚い場所」を意味する。同席した議員が、大統領がこういう言葉を使ったと報道陣に語った。これに対し、トランプ大統領は12日朝のツイートで「私の言い方はきつかった(tough)が、報じられている言葉は私が使ったものではない」と否定した。
 だが、ダービン上院議員は、大統領のコメントは「事実に反する」と反論。「憎悪にあふれ、俗悪で人種差別的な言葉を大統領は口にした」とし、「私はこの耳で聞いたが、ホワイトハウスの歴史の中で、あの大統領執務室で、米国の大統領があんな言葉を発したことがあったとはとても考えられないような発言だった」と続けた。ダービンは、大統領は shithole という言葉を一回だけでなく、何度も繰り返して述べたと語っている。また、大統領のその発言は DACA(the Deferred Action for Childhood Arrivals)すなわち幼少期に米国に到着した移民への延期措置について、超党派で成立を目指している法案に関する議論においてだったと説明している。
https://chicago.suntimes.com/news/dick-durbin-confirms-trump-shithole-comments/
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-01-12/P2F96P6TTDS001
 大統領の発言を批判しているのは、民主党の議員だけではない。トランプ大統領の身内の共和党の中からも批判の声が上がっている。イリアナ・ロス・レイティネン下院議員は、「差別から解放された人々が建国した自由の国・米国の大統領の口から、このような言葉が発せられたとは理解しがたい」と述べた。共和党で唯一の黒人上院議員のティム・スコット下院議員も「とても残念だ」と述べた。
 非難の声は、当然、アフリカ諸国やハイチから上がっている。アフリカ連合(AU)は、1月12日トランプ大統領の発言に対し、「最も強い言葉で非難する」との声明を出した。また、国連に加盟するアフリカの全54カ国の大使らは、米国で緊急会合を開き、トランプ大統領に謝罪を求める共同声明を発表した。ハイチは、中米・西インド諸島にある共和国で、人口の9割は黒人、1割はムラート(白人の父と黒人の母による混血児)である。駐米ハイチ大使はトランプの発言を非難し、米政府に説明を求めているとの声明を発表した。またハイチ最大の新聞は「発言は人種差別的で恥ずべきだ。ハイチに親しみを持つ人はそのようなことは口にしない」と伝えたと報じられる。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の報道官は、「発言が事実なら衝撃的で恥ずべきこと。残念ながら人種差別主義者以外の何ものでもない」と批判した。
 米国では、人種差別的とか人種差別主義者という批判を受けることは、公人の場合、社会的信用を失う。暴言・失言続きのトランプ大統領だが、今度の発言は支持率のさらなる低下につながるだろう。また、このままでは、国際社会における米国の信用・信頼の失墜を招く。そのことが、世界全体の不安定状態を一層、悪化させることになるだろう。アフリカや中南米では、中国の進出が著しい。反米感情の高まりに乗じて、中国がさらに深く触手を伸ばすことも懸念される。

関連掲示
・拙稿「トランプ時代の始まり~暴走か変革か」
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-3.htm
・拙稿「トランプがエルサレムを首都と認め、米大使館を移転へ」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/da89d76557cf052612780a53015e2e88
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ユダヤ154~昼の時代へ

2018-01-20 08:47:19 | ユダヤ的価値観
 最終回。

●結びに~「昼の時代」へ

 本稿の結びにあたって、冒頭に揚げた問題意識を振り返ると、私は「近代西洋文明において、ユダヤ人はどういう役割を果してきたか」「現代世界においてユダヤ的な価値観はどういう影響を及ぼしているか」「それを超克するためには何をなすべきか」という問題に関心を持ってきた。そして、私はこれらの問題を考えるために、ここ10年ほどの間に、人類の文明、近代西洋文明の特質、ユダヤ人の歴史と文化、移民問題、人権の起源と目標、宗教と精神文化等について、様々な別稿で考察を行った。
 本稿は、それらの考察を踏まえて、ユダヤ教・ユダヤ民族、ユダヤ人の歴史、ユダヤ文明、ユダヤ人の現在と将来について総合的に書いたものである。第6章に書いたように、人類が現在世界を覆っている近代西洋文明の弊害を解決するには、ユダヤ的価値観の超克が必要である。それには、ユダヤ的価値観を普及させてきた資本主義を人類全体を益するものに転換し、またグローバリズムから諸国・諸民族が共存共栄できるものへと指導原理を転換しなければならない。ユダヤ的価値観は、根本的にはユダヤ教の教義に基づくものゆえ、ユダヤ教内部からの改革が期待される。またその改革のためには、多神教文明群の側から改革を促進することが必要である。特に日本文明には、重要な役割がある。また、これに加えて、人類は唯物論的人間観を脱却し、心霊論的人間観を確立しなければならない。そして、精神的・道徳的な向上を促す宇宙的な力を受け入れて、核戦争と地球環境破壊による自滅の危機を乗り越え、物心調和・共存共栄の新文明を建設すべき時に、人類は直面している。
 さて、私は、2050年前後に人類は未だかつてない大変化を体験するだろうと考えている。これは、我が生涯の師にして神とも仰ぐ大塚寛一先生の言葉に基づく予測である。大塚先生は、人類は、その発生以来、続いてきた長い「夜の時代」を終え、21世紀には「昼の時代」を迎えると説いている。「夜の時代」とは対立・抗争の時代であり、「昼の時代」とは物心調和・共存共栄の新文明が実現する時代である。「夜の時代」はまた準備期であり、「昼の時代」は活動発展期であるとも説いている。大塚先生は、「昼の時代」の到来は、21世紀の半ばぐらいだろうと語っておられた、と私は伝え聞いている。21世紀を導く指導原理に関する大塚先生の言葉を、マイサイトの「基調」(その3)に掲載しているので、ご参照願いたい。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/keynote.htm
 「昼の時代」への転換は、人類が過去に体験したことのない大変化となる。ちょうど胎児が暗黒と不自由な母親の胎内を出て、この世に生まれると、それまでの胎内生活の段階とは、全く違う生き方を始めるように、2050年前後に人類は現在、想像のできないような新たな段階に入っていく、と私は期待している。
 これに符合するように、情報通信の分野では、2045年に特異点的な変化が起こるという予測が出されている。テクノロジーの進歩は、指数関数的な変化を示してきた。たとえば、コンピュータの演算速度は、過去50年以上にわたり、2年ごとに倍増してきた。これを「ムーアの法則」という。「ムーアの法則」によると、2045年に一個のノートパソコンが全人類の脳の能力を超えると予測される。人工知能が人間の知能を完全に上回るということである。そのような時代を未来学者レイ・カーツワイルは「シンギュラリティ(特異点)」と呼んでいる。カーツワイルは、人間とコンピュータが一体化し、「人類は生物的限界をも超える」と予測している。カーツワイルは、その時、人類の「黄金時代」が始まるという。
 世界的な理論物理学者ミチオ・カクは、今から約30年後に迫るこの「黄金時代」について、次のように予測する。

・ナノテクノロジー・再生医療等の発達で、寿命が延び、平均100歳まで生きる。
・遺伝子の研究で、老化を防ぐだけでなく、若返りさえ実現する。
・退屈な仕事や危険な仕事は、ロボットが行う。
・脳をコンピュータにつなぎ、考えるだけで電気製品や機械を動かせる、など。

 これ以外にも、新DIY革命、テクノフィランソロピスト(技術慈善活動家)の活躍、ライジング・ビリオン(上昇する数十億人)の勃興等で、次のようなことも可能になると予想されている。
 
・新種の藻類の開発で石油を生成
・水の製造機でどこでも安全な水を製造
・垂直農場やバイオテクノロジーで豊富な食糧生産
・太陽エネルギーの利用で大気中の不要なC02を除去

等である。
 こうしたテクノロジーの爆発的な進歩は、人類の生活と社会に想像を越えた変化をもたらすだろう。あまりにも変化が早く、この変化についていくことのできない人も多くなるだろう。だが、若者は、既成観念に縛られず、過去の伝統・慣習・発想から自由である。若い世代は、新しい時代を抵抗なく受け入れ、自然に、来るべき「黄金時代」に入っていくことができるだろう。これは、ユダヤ文明においても同じだろう。かつてヨーロッパでは、近代科学の発達によって天動説から地動説に転じ、中世キリスト教の世界観に閉じ込められていた人々の世界観が大きく変わった。21世紀の人類は、これから世界観の大変化を体験することになるだろう。
 だが、人類が過去の歴史において生み出し、受け継いできた宗教・国家・制度等は非常に堅固であり、それらによって生じている弊害は大きい。とりわけ宗教による対立・抗争は、非常に深刻である。この障害をどう乗り越えるかに、人類の将来の多くがかかっている。私は、従来宗教による障害を乗り越えていくのもまた、若者だろうと考える。若い世代は、過去の世代を呪縛してきた既成観念から自由であり、従来宗教の矛盾・限界を見抜いて、新しい指導原理を求め、また受け入れるようになるだろう。これは、ユダヤ人社会においても同様だろう。
 2050年前後の分岐点を乗り越えることができれば、人類は、2070年、2100年と進むに従い、飛躍的に発達し続ける新しい科学技術によって、現在では想像もし得ないほど高度な文明へと進み入るだろう。もし人類が地球外に活動範囲を広げるならば、地球全体のエネルギーを利用できる文明すなわち惑星規模の文明の段階へ飛躍し、さらにそこから恒星系規模の文明へ移行し、さらに数百年のうちに銀河系規模の文明や超銀河系規模の文明へと発展していくことも可能だろう。しかし、宇宙広しと言えども、人類にとって地球ほど素晴らしい、恵まれた星は、他に見つからないだろう。なぜなら人類はこの地球の環境において発生し、その環境と一体の生命として発達してきたからである。
 人類には、未だかつてない、そして今後も一度限りしかない空前絶後の好機が訪れている。ここで人類は、この地球において、宇宙・自然・生命・精神を貫く法則と宇宙本源の力にそった文明を創造し、新しい生き方を始めなければならない。そのために、今日、科学と宗教の両面に通じる精神的指導原理の出現が期待されている。世界平和の実現と地球環境の回復のために、そしてなにより人類の心の成長と向上のために、近代化・合理化を包越する、物心調和・共存共栄の精神文化の興隆が待望されているのである。その新しい精神文化の指導原理こそ、「昼の時代」を実現する推進力になるに違いない、と私は確信するのである。(了)
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ユダヤ153~心霊論的人間観の確立を

2018-01-18 09:27:01 | 日本精神
●心霊論的人間観の確立を

 いったい人生の根本問題とは何か。成長して大人になること、自分に合った伴侶を得ること、子供を産み育てること、よい死に方をすること。私はこれらに集約されると思う。これは、様々な宗教・哲学・思想の違いに関わらず、人間に共通する問題だろう。そして、よい死に方をするためには、自分が生まれてきた意味・目的を知ること、生きがいのある人生を送ること、自己の本質を知ること、死後の存在について知ることが必要になる。人生の根本問題の前半は、なかば生物学的・社会学的なものである。しかし、死の問題は違う。死の問題は、哲学的であり、宗教的な問題である。唯物論は、人生の後半の問題については、まったく役に立たない。むしろ、自己の本質について、根本的な誤解を与える。
 人間は死んで終わりなのか、死後も存在しつづけるのか。死の認識で思想は大きく二つに分かれる。死ねば終わりと考えるのは唯物論であり、死後も続くと考えるのが心霊論である。心霊論には、ユダヤ=キリスト教のような人格的唯一神による創造説や、仏教のような縁による発生説がある。人生は一回きりという一生説と、輪廻転生を繰り返すという多生説がある。また、祖霊の祭祀を行う場合と、行わない場合がある。単に思い出、記憶として親や先祖を思うという場合もある。しかし、心霊論は、死後の存在を想定して人生を生きる点では、共通している。
 心霊論的人間観では、死は無機物に戻るのではなく、別の世界に移るための転回点であると考える。身体は自然に返る。しかし、霊魂は、死の時点で身体から離れ、死後の世界に移っていく。人生においては、この死の時に向かっての準備が重要となる。霊魂を認め、来世を想定する心霊論的な人間観に立つと、フロイトの「死の本能(タナトス)」とは違う意味での「死の本能」が想定される。来世への移行本能と言っても良いし、別の次元の生に生きる再生本能と言っても良い。
 身体から独立した霊魂を認めるという考え方は、特異なものではない。近代西欧で唯物論的人間観が優勢になるまで、ほとんどの人類は、そのように考えていた。また、近代西欧にあっても、カント、ショーペンハウアー、シジウイック、ベルクソンらの哲学者、ウォーレス、クルックス、ユングらの科学者は、霊的現象に強い関心を表したり、心霊論的信条を明らかにしてきた。
 テレパシー、念力、遠隔視、臨死体験、体外離脱体験等には、否定しがたい多数の事例があり、それらをもとに、霊魂が身体と相対的に独立し、死後は別の仕方で存在することを主張することができる。J・B・ラインが実験科学的な方法を導入した超心理学の研究によって、超感覚的知覚(ESP)の解明が進められているが、その研究対象は、やがて霊的存在の領域へと向かっていくだろう。
 今日の人類は、ユダヤ的価値観を超克するために、心霊論的な人間観を確立する必要がある。心霊論的な人間観に立つと、社会や文明に対する見方は、現在の常識や諸科学の知見とは、大きく異なったものになる。
 私は、心霊論的人間観を確固としたものにするために、超心理学とトランスパーソナル学のさらなる発展に期待している。また、それらを補助とする新しい精神科学の興隆が、文明の転換、人類の精神的進化の推進力になる、と考える。

●物心調和・共存共栄の地球文明を築くために

 人類が、この地球に新しい段階の文明を築くためには、二つの面で飛躍的な向上を成し遂げることが必要である。一つは経済的・技術的な向上、一つは精神的・道徳的な向上である。前者は物の面、後者は心の面である。これら物心両面にわたる飛躍的な向上が求められている。
 人類は、物質文化と精神文化が調和した物心調和の文明を建設しない限り、自ら生み出した物質科学の産物によって、自滅しかねないところに来ている。この危機を避け、地球に共存共栄の社会を実現するには、特に心の面の向上が急務である。われわれは、心霊論的人間観に基づいて、人格の成長・発展による精神的・道徳的な向上を目指す必要がある。
 個人個人の人格的な成長・発展なくして、物心調和・共存共栄の地球文明は建設し得ないことは言うまでもない。それとともに私は、この建設過程で、国家の役割が重要である、と考える。諸国家が自国の国民に国民の権利を保障し、さらに拡充していくときに、人類社会全体が物心両面において発展し、新文明の建設が進められていく。国家の役割を排除して、個人個人の努力のみによるのでは、この過程は進行し得ない。
 地球の人類社会は現在、貧困と不平等だけでなく、食糧・水・資源等の争奪、核の拡散、環境の破壊等により、修羅場のようになっている。人類の大多数は、生存や安全を脅かされている。個人の権利の保障がされ、人格の成長・発展を促進し得るには、国家間の平和と繁栄があってこそ、である。その国家間の努力によってしか実現し得ない。
 国際社会を平和と繁栄の方向に進めるために、近代西欧で発達した自由・平等・デモクラシー・法の支配等の価値は、現在の世界で有効なものと言える。われわれは、各国家・各国民(ネイション)において、それぞれの文化・伝統・習慣に合った形でこれらの価値が実現され、そうした価値を実現しつつある諸国家・諸国民が、それぞれの固有の条件のもとで多種多様に発展し、協調する世界を構想すべきだろう。様々な国家・国民がお互いを尊重しながら協調し、物心調和・共存共栄の新文明が実現されてこそ、人類は大きく精神的・道徳的に向上する道を進むことができるだろう。

●精神的・道徳的な向上を促す力が待望される

 物心調和・共存共栄の新文明を建設する上で、最大の道徳的な課題は、次の事柄だろう。すなわち、人類はそれぞれの共同体的な集団におけるのと同じように、家族的生命的なつながりを基にした同胞意識や連帯感を、ネイション(国家・国民・共同体)やエスニック・グループ(民族)を越えて保持し得るかということである。
 人間は血統や地域や生活を共にすることによって、相互扶助・協力協働の関係を築く。また、家族愛や友愛を育む。集団生活における直接的な交流は、数百人から数千人程度が普通である。数百万人、数千万人と直接交流する人は、ごく少ない。多くの人間は、直接的で具体的な経験を超えて、他者への理解や同情を持つことは難しい。直接的で具体的な経験なくして、同胞意識や連帯感を持てるようになるには、共感の能力の開発による大きな精神的・道徳的な向上が必要である。そのために教育・啓発活動の役割は大きい。だが、よほど強力な感化力を持った思想や宗教でなければ、既成観念にとらわれた人々の意識の変革はできないだろう。そこで、多くの人間の自己実現・自己超越を促進する精神的な巨大なエネルギーが求められる。人間の精神に感化を与え、破壊的・自滅的な思考回路を消滅させ、恐怖をもたらすトラウマを癒して、精神を健全に発達させる力が待望されている。
 その力はまた人類を物心調和・共存共栄の新文明の建設に導く力でもある。宇宙には秩序と発展をもたらす力が存在する。この力は万物を貫く理法に基づいて働く。ここで理法とは、古代ギリシャのノモスやシナ文明の道(タオ)、日本文明の道(みち)または道理に通じるものである。また、その力は、万物を理法に沿った調和へと導く力である。人類の歴史は、その力が人類に作用して、知恵や文明・科学等が発達してきたと考えられる。子供は成長の過程において、最初は肉体が成長し、後に精神が成長する。それと同じように、人類の文明も、最初は物質文化が発達し、次は精神文化が発達する。人類がその力を求め、受け入れる時、かつてない精神的・道徳的な向上が始まるだろう。
 この力とは、宇宙の万物を生成流転させている原動力である。宇宙本源の力である。その宇宙本源の力を受けることによる精神的・道徳的な向上は、一部の人たちから始まり、また一部の国から広がるだろう。ユダヤ的価値観の影響を受けた経済中心・物質中心の価値観から物心調和の価値観に人々の価値観が変化する。そうした国々で物心調和の文明の建設が始まる。この新たな文明が、その他の国々にも広がる。それによって、共存共栄の社会が実現されていく。諸個人・諸国家・諸民族の調和的な発展によって、国家間の富の収奪が抑制され、過度の不平等が是正されていく。国際間の平和と繁栄が共有され、国家間の格差が縮小される。物心調和・共存共栄の新文明が建設される過程で、諸国家における国民の権利が発達する。戦争・内戦等の人為的原因で発生する難民が減少する。こうして諸個人の自己実現・自己超越が相互的・共助的に促進される社会が実現する。このサイナジックな社会において、物心調和・共存共栄の新文明の建設は一層大きく進むことになる。それによって、また諸個人の自己実現・自己超越が相互的・共助的に促進される。こうした循環が螺旋的に進行するに従って、人類は飛躍的な進化を体験することになるだろう。

 次回が最終回。
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