ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

「財政の崖」は回避、だが米国に次の危機が5

2013-01-31 08:51:57 | 経済
 最終回。

●米国は慢性的経済危機を脱し得るか

 米国では、二大政党の間では、大まかに言って民主党は税収を確保し、社会保障などを充実させる「大きな政府」を志向する。共和党は税も含め規制など政府の国民生活への介入を最小限にする「小さな政府」を志向する。思想的には、共和党は古典的リベラリズム、民主党は思想的には修正リベラリズムがもとになっている。共和党は、1980年代から新自由主義が主流となり、新自由主義的なグローバリズムを推し進めてきた。グローバリズムはもともと民主党の特徴だったが、共和党がお株を奪った形である。民主党は、修正リベラリズムとはいっても、共和党と同じく米国独自の独立・自助の精神が根底にある。わが国や西欧諸国に比べると、米国は個人主義的な傾向が強い。
 平成23年(2011)7月、デフォルト回避のための債務上限引き上げ法案をめぐって、米下院の採決では、民主党の左派が民主党指導部に反発した。指導部が共和党への歩み寄りを見せたのに対して、強く反対したものだ。採決では、民主党議員は賛否同数だった。共和党でも、ベイナード下院議長がデフォルト回避のために、法案成立に妥協を図ったが、草の根保守運動の「ティーパーティー(茶会)」系の議員が反対した。このことが示すものは、民主党・共和党という政党レベルの対立とともに、それぞれの党内でも様々な思想・価値観の対立があることである。米国社会では、多様な思想・価値観がぶつかり合っており、一つにまとまることは非常に難しい。
 昨年24年(2012)11月、大統領選挙と同時に、連邦議会の選挙が行われた。この時、富裕層向けの減税延長については、民主党は延長をすべきでないと主張したのに対し、共和党は延長すべきだと反論した。歳出削減については、民主党は社会保障費を減らすのに慎重な態度であるのに対し、共和党は国防費の削減に抵抗する。連邦議会の選挙結果は、上院は民主党、下院は共和党が過半数を制するねじれ状態が続くことになった。税制や財政に対する与野党の考え方の溝は深い。オバマ大統領にとっては、2期目も議会の合意を得るためのハードルは依然として高い。
 こうした状況だから、本年(2013)3月初めまでに、最終的な財政赤字削減策をまとめるのは、相当困難だろう。米国の国家財政を維持するには、債務上限の引き上げは絶対条件である。富裕層への増税か、所得控除幅の縮小か、中間層・貧困層の社会保障の削減か、国防費の削減かーーデフォルトを回避するための妥協を積み重ね、対応策をまとめるには、険しい道をたどることになるだろう。米国が国家債務不履行という最悪の事態に陥ったのでは、世界全体が混迷を極めることになる。世界最大の経済大国としての責任を以て、財政危機を打開してもらわねばならない。


●アメリカ人の生き方に変化を促すべし

 米国は、もはや財政破綻しかねない状態になっている。これまで米国は莫大な財政赤字・貿易赤字を抱えながらも、基軸通貨ドルの発行量を増加し、国際市場からドルを還流させるなどして、物質的な繁栄を追求してきた。だが、その結果、生み出された財政危機が、従来の経済政策で大きく好転できると思えない。米国は製造業を軽視し、金融主導の経済になっている。カネがカネを生むカジノ型資本主義は、国民経済を破壊し、社会の格差を拡大してきた。米国のGDPに占める家計消費額は71%だが、その消費は世界各国からの借金で欲望を刺激して生み出しているものである。米国民は、貧困層に至るまで贅沢な生活に慣れ、ローン利用の過剰消費癖から抜けられない人が多くなっている。
 数年前から、一部のエコノミストは、米国は経済危機が深刻化すると、デノミか北米共通通貨・仮称アメロへの切り替えをやって、事実上の借金踏み倒しをするかもしれないと観測している。帝国中枢部の支配層とそれに連なる所有者集団は、自分たちの富を守るために、最後の手段としてこういう強引な方法を取るかも知れない。だが、米国には新たな再興の可能性が出てきている。シェールガス革命である。資源利用のイノべェーションにより、シェールガスの生産が本格化しており、既に世界のエネルギー市場で資源の価格や販路に影響を与えている。国際エネルギー機関(IEA)の報告書によると、米国は天然ガス生産で2015年にロシアを上回り世界最大になり、産油量も2020年代半ばまでにサウジアラビアを抜き世界最大となる見通しである。2035年までに米国は必要なエネルギーのほとんどを自給できるようになるという。
 シェールガス革命は米国を救うことで、世界を救う天の恵みかもしれない。ただし、課題は米国が世界最大のエネルギー供給国になるまでの間、財政危機を克服できるかどうかである。私は、米国がこの際どい隘路を転落せずに進み得るかは、アメリカ人が価値観、生き方、精神を改められるかどうかにかかっていると思う。民主党にせよ、共和党にせよ、社会民主主義者にせよ、ティーパーティーにせよ、この点に気づき、国民の意識・文化・生活の変革を進めないと、米国はいずれ放恣と対立の中で自滅しかねない。
 アメリカ経済に依存・従属している日本にとって、これは他人事ではない。帝国の本国が潰れたならば、属国もまた潰れる。本国は属国を食い物にして危機を生き延びようとする。当面そのための方策となっているのが、TPPである。国家債務不履行の危機を生き延びるために米国は、わが国に対して、一層強くTPPへの参加を求めるだろう。軽々しくこれに乗ってはいけない。安易に乗ったら、日本は奈落への道をたどることになる。
 私は、わが国が本来、ここでなすべきことは、米国民に対して、物質中心・経済中心の考え方を改め、生活を改めるよう促すことだと思う。経済問題を語る文章で、最後に生き方の変革を説くことを、奇妙なことと思う人は多いだろう。だが、物質的な繁栄は、精神的な向上と、ともに進むものでなければ、人間は自らの欲望によって自滅する。物心調和の社会をめざすのでなければ、真の幸福と永遠の発展は得られない。米国が従来の価値観を脱し、物心調和の文明を目指す国に変わらなければ、世界全体もまた人類が生み出した物質文明とともに崩壊の道を下るだろう。
 ただし、この問題は半分以上、今日の日本人自身の問題ともなっている。他国を善導できる日本になるためには、日本人は日本精神を取り戻し、物心調和・共存共栄の道を進む必要がある。日本自体、精神的に復興しなければ、米国の影響によらずとも、自ら衰亡の坂を転げ落ちる瀬戸際にある。自覚と決起、邁進の時である。(了)
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「財政の崖」は回避、だが米国に次の危機が4

2013-01-29 08:51:05 | 経済
●米国の衰退の原因、その背景と根底にあるもの
 
 平成18年(2008)9月のリーマン・ショック、平成23年(2011)8月のデフォルト危機、25年(2013)1月の「財政の崖」、そして3月のデフォルト危機――と並べてみると、米国の経済が容易に脱却できない深刻な状態にあることがわかる。米国の衰退の原因はどこにあるのか。

 米国は、旧ソ連の崩壊後、世界で唯一の超大国となり、ソ連・東欧を市場に組み込み、アジアに積極的に投資することで、帝国の繁栄を謳歌していた。しかし、今や米国は最盛期を過ぎ、衰退に向かっている。私は、衰退の主たる原因の一つに、米国が金融資本への規制を廃止し、強欲資本主義の暴走を許したことがあると考える。規制を廃止させて暴走を招いたのは、新自由主義の経済思想であり、リーマン・ショックは新自由主義が行き着いた結果である。だが、米国の指導層は、未だにこの点に関する根本的な反省と転換を行ってはいない。
 オバマ大統領は、平成21年(2009)「Change(変革)」をスローガンに掲げ、共和党に替わって、民主党による新たな政権を樹立した。しかし、アメリカの二大政党の後には、巨大国際金融資本が存在する。私は、拙稿「現代の眺望と人類の課題」で、オバマもまたアメリカの歴代大統領と同様、アメリカ及び西欧の所有者集団の意思に妥協・融和せざるをえないだろうと予想したが、やはりそのだったようである。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion09f.htm
 第16章「21世紀アメリカの衰退」

 次に、私は、米国が金融資本への規制を廃止し、強欲資本主義の暴走を許し、衰退の道を進んだ背景には、米国の政治構造があると考える。この点も、先の拙稿に書いたことだが、米国の連邦政府は、大統領を中心とした行政組織というより、財界を基盤とした行政組織と見たほうがよい。国民が選んだ大統領が自由に組閣するというより、むしろ財界人やその代理人が政府の要所を占める。政治の実権を握っているのは財閥であって、大統領は表向きの「顔」のような存在となっている。国民が選んだ「顔」を掲げてあれば、政府は機能する。だから、誰が大統領になっても、所有者集団は自分たちの利益のために、国家の外交や内政を動かすことができる。このようになっているのが、米国の政治構造だと思う。
 国民は二つの大政党が立てる候補のどちらかを選ぶ。片方が駄目だと思えば、もう片方を選ぶ。そういう二者択一の自由はある。しかし、米国では、大統領が共和党か民主党かということは、決定的な違いとなっていない。表向きの「顔」である大統領が赤であれ青であれ、所有者集団は外交・国防・財務等を自分たちの意思に沿うように動かすことができる。共和党・民主党という政党はあるが、実態は政党の違いを越えた「財閥党」が後ろから政権を維持・管理していると考えられる。

 次に、米国の政治構造の根底には、人種差別の問題があることを指摘したい。ノーベル経済学賞受賞者のジョゼフ・E・スティグリッツは、米国は1%の富裕層と99%の貧困層に分かれてしまったと指摘する。「政治家やその応援団は常に1%のための政策を遂行するので、99%の不幸が続く。それが根本的に間違っている」との主張である。この極端な格差の背景には、エマニュエル・トッドいうところの米国のデモクラシーの「暗い秘密」がある。家族人類学・歴史人口学の権威であるトッドは、米国では白人はインディアンや黒人を差別することによって、白人同士の間には平等の観念が成立した。トッドは、白人の平等と黒人への差別の共存は、「アメリカのデモクラシーの拠って立つ基盤」である、と指摘する。トッドの米国論については、拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」に書いた。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion09i.htm
 第2章「トッド著『移民の運命』の概要と検討」~「(1)アメリカの場合」

 建国以来、初めて黒人の大統領が誕生したことは、まだアメリカが有色人種の優位な国になったことを意味しない。アメリカは貧富の差が大きく、社会保障が発達していない。新生児死亡率が高い。国民全体をカバーする医療保険制度がない。その面では、先進国とはいえない。極端な格差の原因には、「白人による人種差別意識がある」と、同じくノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンは告発している。
 新自由主義は、根底に人種差別意識のある米国社会では、市場における自由競争による格差拡大、弱者切り捨てを正当化する理論として働く。しかし、一部の富裕層が保有する富をさらに増大させても、社会全体の活力はそれほど上がるものではない。中間層の所得が増え、購買力が伸長しないと、国内の総生産=総所得=総支出は回復しない。中間層が上昇することで、貧困層も上昇できるような経済社会政策が強力に実行されないと、”1%対99%”に二極分化した帝国は、虚栄と荒廃の中で衰亡していくだろう。

 以上、米国の衰退について3点述べた。主たる原因は金融資本への規制を廃止し、強欲資本主義の暴走を許したこと、その背景にある政治構造、さらに根底にある人種差別意識であると私は考える。

 次回に続く。
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「財政の崖」は回避、だが米国に次の危機が3

2013-01-28 09:31:26 | 経済
●米国が「財政の崖」から転落したら

 昨24年(2012)末で失効したのは、ブッシュ子政権下で導入された景気対策減税である。所得税やキャピタルゲイン税、配当課税などの軽減税率が廃止されることになっていた。日本の相続税に相当する遺産税の税率も引き上げられることになっていた。米国の国内総生産(GDP)の7割を占めるのは、個人消費である。ホワイトハウスの試算によると、景気対策減税の打ち切りによって、年収5万(約430万円)~8万5千ドル(約730万円)で子供2人の平均的な家庭で年間2200ドル(約19万円)の負担増になり、米国のGDPを2013年に1・7ポイント押し下げると予測された。
 景気対策減税の停止だけでなく、強制的な歳出の削減が行われることが決まっていた。政府支出の大規模な削減は、無駄の削除でいいことのように見えるが、需要を減少させるわけだから、不景気の最中に行うと、さらに景気を悪化させる。
 米議会予算局によると、減税停止と歳出削減の合計は、2013年度だけで約5600億ドル(約48兆1千億円)に達し、GDPの約4%に当たるとされた。わが国の年間の新規国債発行額に匹敵するほどの規模である。予算局は、米国経済は2013年前半で最大3%近いマイナス成長に陥るとして、「深刻な景気後退」を警告した。
 米国の景気が今以上に悪化すれば、世界経済への影響は大きい。S&A、ムーディーズと並ぶ大手格付け会社フィッチ・レーティングスは、「2013年の世界の成長率の少なくとも半分が吹き飛ぶ可能性がある」と予測した。日本経済への打撃も懸念された。経済協力開発機構(OECD)の試算によると、米国が「財政の崖」から転落すると、日本のGDPは2013年で0・4%押し下げられる。内閣府の試算では、バス・トラックの対米輸出が13%、建機は10%落ち込むと予測された。米国が「財政の崖」を回避できるかどうかは、世界的な関心事だった。

●1月1日、ぎりぎりで転落は避けられた

 米国の与党・民主党と野党・共和党は、増税と歳出削減のどちらを重視するかで対立した。オバマ政権と与野党の協議は、ぎりぎりまで続けられた。合意が得られなければ、米国のみならず、世界を巻き込む大惨事となるところだった。
 幸い「財政の崖」は、回避された。米メディアによると、与野党が合意した回避策では、減税延長の対象は、一部富裕層を含む年収45万ドル(約3900万円)未満に設定された。失業保険給付も延長され、遺産税(日本の相続税に相当)の税率も据え置かれることになった。1月2日に自動的に始まる予定だった国防費などの強制歳出削減は、2カ月延期されることになった。一方で、財政赤字削減に向けた歳出削減など財政健全化策は先送りされた。
 オバマ大統領は昨年12月31日の演説で、「中間層を増税から守ることが最優先だ」と強調し、財政再建策については段階的に対応すべきとの考えを示していた。大統領は、法案成立を受け、本年1月1日、ホワイトハウスで演説し、「この法案で(中間層の)米国民の増税は避けられることになった」と評価した。それと同時に「(今回の合意は)経済強化に向けた幅広い努力の一歩に過ぎない」として、膨大な財政赤字の削減等、抜本的な税財政改革がなお必要とされるとの見解を示した。

●2か月後には次の危機が

 だが、今回の回避策は、その場しのぎにすぎない。歳出の強制削減の凍結期限である2カ月後には、再び米国の財政は危機的状況を迎える。
 米国の政府と与野党は、税制改革や歳出削減の具体的内容を含む財政再建の包括策については合意を先送りしている。次の焦点は、10年間で4兆ドルの削減という中長期的な財政赤字削減策の取りまとめと、法律で定める債務上限の引き上げである。これらがまとまらなければ、本年3月から歳出の強制削減が始まる。連邦債務はすでに昨年末上限の16・4兆ドルを突破しており、米財務省は州への財政支援を停止するなどして当座をしのいでいる。だが、緊急措置も2月中に限界に達するとされ、このままでは国債償還資金が調達できず、米国史上初のデフォルトに陥る恐れがある。
 米国が国債償還の資金調達をできなくなると、米国債を大量に保有する日本・中国等、各国にも影響が及ぶ。米国財政への信認が低下すれば、金融市場に混乱を生じる。その混乱は、欧州債務危機を上回る衝撃を世界経済に与えるだろう。リーマン・ショック後、世界経済を牽引してきた中国経済が、欧州債務危機等の影響で急減速した。他の対米輸出依存度の高い新興国の成長も減速している。この中で、世界最大の経済大国・米国の景気までが失速すれば、世界経済は総崩れになりかねない。とりわけ欧州への影響は、激甚なものとなるだろう。欧州では昨24年(2012)欧州中央銀行(ECB)がスペインなどユーロ圏問題国の国債を無制限に買い上げる方針を決め、当面は連鎖的な債務危機は抑止されている。だが、もし米国がデフォルトに陥れば、スペイン、イタリア、ギリシャ等が連鎖的に財政破たんするだろう。
 米国がデフォルトとそれによる世界経済危機を避けるには議会の同意を得て上限を引き上げるしかない。オバマ大統領は当然、「議論の余地はない」と強調するが、共和党は慎重姿勢を崩さず、上限引き上げと引き換えに社会保障の削減等を要求するだろう。
 米国の中長期的な歳出の削減では、国防費も機械的に削減される。アジア太平洋での米軍の展開に支障が生じれば、わが国の防衛政策は、根幹から揺るがされかねない。中国は、国家的な経済的・社会的危機を、海洋進出による覇権主義的な行動で打開しようと図っている。米国が経済危機に陥ってアジア太平洋での軍備を縮小すれば、中国の軍事行動を誘発しやすくなる。世界的な経済危機が安全保障上の危機に発展しかねない。

 次回に続く。
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人権30~ハイエクと新自由主義の罪過

2013-01-26 08:50:43 | 人権
●ハイエクと新自由主義の罪過

 資本主義・自由主義と共産主義・統制主義の体制間の争いは、1990年前後に、ソ連・東欧の共産国が崩壊し、自由主義の勝利、共産主義の後退に結果した。後退というのは、東アジアには中国・北朝鮮等、共産主義またはその類似思想による体制の国家が存続しているからである。冷戦の終焉によって、世界的にマルクス主義が大きく後退すると、ケインズ主義と新古典派経済学の対立が主となり、新古典派が圧倒的な優勢となった。その結果、大恐慌後、行われてきた経済的自由への一定の規制、特に金融に関する規制が取り払われていったのである。
 「自由」の名の下、アメリカの金融制度は大恐慌以前に戻ってしまった。ウォール街は、さまざまな金融派生商品(デリバティブ)を開発し、サブプライム・ローン、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)等を生み出し、世界中を狂乱のマネー・ゲームに巻き込んだ。再び資本主義は強欲資本主義と化した。そして、平成20年(2008)9月15日、リーマン・ブラザーズの倒産によって、猛威を振るった強欲資本主義は破綻した。リーマン・ショックは、1929年大恐慌の再来であり、規制や管理を排除した自由な経済活動の結果である。こうした世界経済の問題は、自由と道徳という観点から掘り下げて反省を行わねばならない。ここで語るべき自由の思想家がハイエクである。
 1970年代からケインズ主義の権威が揺らぐなかで、ハイエクの評価が高まった。ハイエクは1920年代からケインズのライバルだった。1980年代、サッチャー、レーガンがハイエクを称え、ハイエクは彼らの政策の支柱と考えられた。ハイエクの説いた思想は、新自由主義と呼ばれ、ソ連の共産主義と闘うために宣伝された。東欧の民主化運動では、ハイエクの主著『隷従への道』が読まれ、共産主義政権の打倒への力になった。冷戦の勝利は、新自由主義の勝利であるという見方が広がった。
 ハイエクは、自由主義とは、17世紀イギリス市民革命において、君主による恣意的な権力の行使に対抗して、政府の権力を規制する必要性から生まれたものだとする。そして、「自由主義的な自由の要求は、個人の努力を妨げるすべての人為的な障害物を除去せよという要求であって、社会なり国家が特定の善を提供すべきだという主張ではない」という。
 これは基本的に古典的自由主義への回帰を説くものである。グリーンやバーリンの分類でいえば「消極的自由」の立場であって、「積極的自由」の立場ではない。ただし、ハイエクの自由は、自己本位・自己中心的な自由ではない。ハイエクは、自由とは社会的な規則を遵守することのなかではじめて存在し、社会的規則とは特定の個人や集団による専制支配を許さないために存在するとし、自生的秩序を重視すべきであると説く。自生的秩序とは、歴史的な過程において自生的に形成されてきた秩序である。伝統によるルールや慣習による法がこれである。こうした自生的秩序に基く自由を尊重しようとするのが、ハイエクの新自由主義である。
 ハイエクは、人間は不完全なものであり、伝統と慣習を尊重しながら知恵を働かせるべきだと考え、デカルトに始まりサン・シモンやマルクスに受け継がれた合理主義的な社会観を設計主義として批判した。ハイエクは、自生的秩序の原型を市場社会に見た。市場社会は自由な社会であり、知識の交換の場である。競争によって淘汰が行われる。市場の失敗を人間の意図的な管理や計画によって克服しようという試みは無益であり、また危険であるとハイエクは考えた。そして、自生的秩序としての市場経済に全面的に依拠した思想を説いた。それは、同時に自由を要求する思想であり、ハイエクの考える市場社会の思想は、自生的な秩序による自由な社会を発展させるはずだった。
 だが、ハイエクの説く新自由主義は、フリードマンやルーカス等、彼の支持者たちによって定式化され、硬直化した。そこに、市場原理主義が生まれた。市場原理主義は、新古典派経済学の単純化された競争均衡モデルに基づき、政府が自由放任的な立場を取っていれば、市場メカニズムが最適な資源配分と秩序の均衡をもたらすという思想をいう。新自由主義・市場原理主義は、自由競争、規制緩和、「小さな政府」を説く。1980年代以降、その政策が、投機的な投資家や巨大国際金融資本に活動の自由を与え、強欲資本主義の暴走を許すことになった。伝統や慣習に基づく自生的秩序は破壊され、市場は金融工学によって操作される一大賭博場と化した。ハイエクの思想は、彼の意思を超えて、弱肉強食の闘争世界を生み出す要因となったのである。また新古典派経済学は、自由を世界に広めるという理念のもとに展開されるグローバリズム(地球覇権主義)の中に組み込まれ、超大国アメリカの世界戦略に寄与する理論に転じてしまったのである。

 次回に続く。

関連掲示
・ハイエクについては、下記の拙稿をご参照ください。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion13n.htm
 拙稿「救国の経済学~丹羽春喜氏2」第1章(4)「フリードリッヒ・ハイエクの不作為」
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「財政の崖」は回避、だが米国に次の危機が2

2013-01-25 08:43:51 | 経済
●オバマによる経済危機への取り組み

 リーマン・ショック後の平成20年(2008)、深刻な経済危機の中で、米国大統領選挙が行われた。民主党のバラク・オバマが米国史上、黒人初の大統領となった。大恐慌以来の経済危機への対処のため、オバマは、多額の財政支出を伴う景気対策や金融への規制強化等を通じて、経済の立て直しに取り組んだ。総額8250億ドル、対GDP比5.7%の財政支出政策を発表し、経済の再興を図った。最大の眼目は、雇用の創出だが、9%以上だった失業率は若干改善されてはいる。だが、公約の実現には至らず、雇用を拡大して5年間で輸出を倍増するという目標には、ほど遠い。依然として景気は低迷し、格差は縮小せず、労働者や貧困層の不満は増大している。
 米国の財政赤字は、2008年度までは5000億ドル未満だった。だが、2009年度に急激に赤字が増え、史上初の1兆ドルを超え、1兆4000億ドルに拡大した。オバマ政権下で、毎年1兆ドルを超える深刻な財政赤字が続いている。機能的財政論によれば、財政赤字の金額そのものが問題ではないが、米国は大胆な金融緩和と大規模な財政出動をやっても景気を回復できず、連邦政府の税収が増えてこないと、赤字が雪だるま式に膨らむばかりで、本当の財政危機になる。わが国は世界最大の債権国だが、米国は債務国である。わが国は国債の保有者の約95%が国内だが、米国債は国内保有率が40%程度である。中国・日本・英国を始め多数の外国政府や世界中の海外投資家が大量に保有している。こうしたなどによる条件の違いのため、米国における経済再生は、わが国の経済再生よりも、遥かに困難な課題なのである。

●米国はデフォルト寸前の危機に

 米国は、財政赤字が膨らみ続けるなか、平成23年(2011)の7月から8月にかけて、デフォルト(国家債務不履行)に陥る危機に直面した。議会では意見が対立し、なかなか合意に至らなかった。世界が固唾を飲んで推移を見守った。
 7月31日、米国政府と民主、共和両党指導部は、連邦政府の法定債務上限を引き上げるとともに、今後10年で約2兆5000億ドルの財政赤字を削減することで合意した。8月1日下院、次いで2日上院は同法案を決した。直ちにオバマ大統領が署名し、同法は成立した。デフォルトは引き上げ期限の当日、ぎりぎりのところで回避された。
 法案成立によって、大統領は、債務上限を段階的に2兆1000億ドル(約160兆円)引き上げる権限を得て、今年25年(2013)までの財源を確保できることとなった。債務上限引き上げは財政赤字削減を前提とするもので、大統領は成立後10年間で9170億ドルの圧縮を目指すこととなった。オバマ大統領は「法案は最初の一歩で、一層の財政赤字削減へ与野党が努力する必要がある」との声明を発表した。だが、赤字削減策の具体的検討は、超党派委員会による与野党協議で行うという形で、先送りされたものである。そして、すぐ次なる危機が立ち上がった。それが「財政の崖」である。

●迫り来る「財政の崖」

 今年(25年)の新年明けに、減税が打ち切られ、歳出の強制的削減が始まることになっていた。その回避が米国の課題となった。だが、デフォルト回避から1年を過ぎても、米国経済は目立った回復を見せていない。輸出は多少伸びてはいるものの、失業率は依然7%台に高止まりしている。
 こうした状況で、24年(2012)11月6日大統領選挙が行われた。最大の争点は、経済再建や雇用と景気の回復の方法にあった。再選を狙うオバマは、一定の公的ルールに基づく「公正な社会」を主張し、節度を保つ規制によって格差のない、平等な社会を作ろうと呼び掛けた。「格差是正のための政府介入」を説き、「大幅な歳出削減は景気回復後に行う」とし、富裕層への増税、中間層の保護を掲げ、格差是正を積極的に図ることを選挙戦で訴えた。だが、オバマに対し、過去4年間で成し遂げられなかったことが、もう一期続ければできるという期待は、大きく膨らまず、共和党のミット・ロムニーとの戦いは、熾烈なものとなった。オバマはまれに見る接戦を制し、再選を果たした。2期目のオバマ政権が直面する最大の経済的課題が、新年明けの「財政の崖」をいかに避けるかだった。
 23年(2011)8月のデフォルト回避後、米国では与野党が話し合い、赤字削減のために本年25年(2013)から国防費等、政府の歳出を法律で強制的に減らすことになった。一方、景気を支えるためブッシュ子政権から続けてきた減税措置が昨年24年(2012)末で期限を迎えることになっていた。そのため、歳出削減と事実上の増税のダブルパンチで、年明けと同時に景気が崖から突き落とされるように悪化すると懸念されてきた。この状況を「財政の崖」と表現したのは、FRB議長のベン・バーナンキである。

 次回に続く。

関連掲示
・拙稿「オバマVSロムニー~2012年米国大統領選挙の行方」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12m.htm
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「財政の崖」は回避、だが米国に次の危機が1

2013-01-23 08:50:33 | 経済
●「財政の崖」は辛くも回避された

 今年は、年明け早々、世界が経済危機に陥る恐れがあった。米国で、財政悪化による「財政の崖(fiscal cliff)」が迫っていたからである。「財政の崖」とは、大型減税の失効と歳出の強制的削減が重なって、切り立った崖から突き落とされるように景気が悪化することを言う。米国の景気が急激に悪化すれば、世界全体に大きな影響が出るから大きな問題だった。
昨年末は、クリスマス休暇シーズンだというのに、オバマ政権と与野党指導部は、「財政の崖」の回避のための協議に明け暮れた。昨年末の12月31日、ようやく回避策を盛り込んだ法案で合意に達した。そして、米上院は本年1月1日、「財政の崖」の回避に向けた法案を、超党派の賛成多数で可決した。続いて、下院も法案を可決、オバマ大統領が法案に署名し、法案は直ちに成立した。所得税減税の延長対象を限定して富裕層増税を図る一方、歳出の強制削減を2カ月凍結すること等が決まった。これによって、「財政の崖」からの転落は、辛くも避けられた。
 ただ、今回の回避策はあくまでもその場しのぎのものである。強制削減の凍結期限である2か月後、すなわち3月初めには再び米国は危機的状況を迎える。デフォルトつまり国家債務不履行の危機である。
 今回の事態に至った経緯を振り返り、「財政の崖」の詳細、経済危機が繰り返される米国社会の問題点、今後の展望を述べたい。

●リーマン・ショックで大恐慌が再来した

 平成20年(2008)9月15日、リ-マン・ショックが起こった。以後、世界的に容易に出口を見いだせない経済危機が続いている。
 リーマン・ショックは、1929年の大恐慌以来の金融危機と言われる。米国では、大恐慌後、金融危機の再発防止のための金融制度改革が行われた。1933年に銀行業務と証券業務の分離を定めたグラス・スティーガル法(銀行法)と証券法が成立した。翌34年には証券取引所法が成立し、ウォール街の活動を監視する証券取引委員会(SEC)が設立された。こうした規制は、1970年代までは、巨大国際金融資本の活動を抑えるのに有効だった。
 しかし、1980年代、レーガン政権の時代から、新自由主義の経済政策によって、徐々に規制が緩和されていった。1999年にクリントン政権下でグラム・ビーチ・ブライリー法が成立した。同法によって、銀行・証券・保険の分離が廃止された。その結果、金融機関は、持ち株会社を創ることで、金融に関するあらゆる業務を一つの母体で運営することが可能になった。米国の金融制度は大恐慌以前に戻ってしまった。ウォール街は、さまざまな金融派生商品(デリバティブ)を開発し、世界中を狂乱のマネー・ゲームに巻き込むようになった。
 この間、米国では、1990年代にIT革命を推進した民主党クリントン政権が巨額の財政黒字を実現したが、次の共和党ブッシュ子政権は富裕層中心の減税を行い、平成13年(2001)のアメリカ同時多発テロ事件をきっかけに始めたアフガン=イラク戦争で、財政が悪化していった。その一方、米国の住宅市場と金融市場は、1920年代を思わせる好景気に沸いた。
 だが、バブルははじけた。平成19年(2007)サブプライム・ローンが破綻し、金融危機が始まった。翌年9月、大手投資会社リーマン・ブラザーズが倒産し、アメリカ経済が打撃を受けるとともに、大恐慌以来の世界的な経済危機が広がった。その影響は、実体経済に及び、アメリカ自動車産業のビッグ3のうち、ゼネラル・モータースとクライスラーは経営破綻に至った。

 次回に続く。
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「米中が競い合う東南アジアと日本の外交」をアップ

2013-01-22 10:09:01 | 国際関係
 1月7日から19日にかけてブログとMIXIに連載した東南アジア情勢と日本外交についての拙稿を編集し、マイサイトに掲載しました。通してお読みになりたい方は、下記へどうぞ。

■米中が競い合う東南アジアと日本の外交
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12p.htm

 目次は次の通りです。

はじめに
1.米国がアジア太平洋地域に積極関与
2.ミャンマーが米中競争の焦点に
3.民主化でミャンマーが中国離れを
4.東南アジア諸国が中国に物申す
5.中国はカンボジアを使い、巻き返しに躍起
6.再選されたオバマの対東南アジア外交
7.わが国は東南アジアでどういう外交を行うべきか
8.米国主導のTPPの実態をつかめ
9.安全保障と経済協定は別
結びに~主体的な外交を行うため、国家再建を急げ
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人権29~経済的自由とケインズ

2013-01-20 08:37:28 | 人権
●経済的な自由とケインズの総需要管理

 近代西欧及び現代世界における自由の検討は、経済における自由とそれへの規制という問題を抜きに論じられない。経済の領域は、個人の自由と権利に深い関係はないように思われがちだが、決してそうではない。経済的自由は自由において重要なものである。私は、その検討は自由と道徳という対をもって行われねばならないと考える。
 17世紀後半、ロックは、所有と契約の自由を説き、私有財産と市場経済に基づく近代資本主義を理論的に基礎づけた。ロックの思想を継承したアダム・スミスは、18世紀後半に資本主義の経済理論を樹立した。スミスに始まる経済学の系統を、古典派経済学と呼ぶ。古典派経済学は、経済の領域における自由を説く理論である。これに対し、マルクスは、資本主義の矛盾を分析し、私有財産制を否定して、共産主義を目指す理論を説いた。19世紀半ば以降、経済思想における最大の対立は、資本主義と共産主義の対立である。これは、経済活動における自由と統制の対立である。その根底には、自由と平等という価値の対立がある。この対立は、所有する権利の個人化と集団化という対立でもある。
 古典派経済学及びマルクス経済学は、ものの価値はその生産に投入された労働量で決まるとする労働価値説を説く。その点では、共通する。これに対し、1870年代に、ものの価値は、それが人々に与える主観的効用によって決まるとする限界効用説が現れた。それ以後の経済学を新古典派経済学という。ワルラス、メンガー、ジェボンズによる新古典派経済学は、経済活動の自由を説く点では、古典派経済学を後継する。
 欧米諸国における資本主義の発達は、国益と国益のぶつかり合いを生み、第1次世界大戦が勃発した。欧州を主戦場とする大戦によって西洋文明は衰亡の兆しを示した。大戦末期にロシアで共産主義革命が起こり、欧州と世界は共産主義の脅威に直面することになった。自由と統制の対立が国際間に広がった。
1920年代には、資本主義は、ものの生産より金融が中心となり、金融市場は賭博場と化していた。自由放任的な経済活動は、投機的な投資の大規模化を許した。そのなかで、資本主義は強欲資本主義に変貌した。1929年、アメリカ発の大恐慌が起こった。恐慌は長期化し、社会に失業者があふれた。非自発的な失業を想定しない新古典派の理論では、まったく対応できなかった。ここで失業の問題に取り組み、新たな経済理論を創出したのがケインズである。
 ケインズは、実際の貨幣の支出に裏付けられた需要を「有効需要」と呼び、社会全体の有効需要の大きさが産出量や雇用量を決定するという「有効需要の原理」を説いた。ケインズはこの原理に基づいて、政府による「総需要管理政策」の理念を打ち出し、経済学に変革をもたらした。経済政策にも大きな変化を与えた。
 ケインズの理論は、経済活動の自由に一定の規制を行い、それによって、自由主義を崩壊から守ろうとする理論である。失業は、国民の労働する権利、生活する権利を実現できない状態である。政府が有効需要を創出して雇用を生み出すことは、労働する権利、生活する権利を国家的に実現しようとするものである。ケインズは、自由放任的な資本主義の欠陥を修正することによって、資本主義の崩壊とそれによる共産主義革命の勃発を防ぐ方法を示した。
 ケインズの理論と政策はイギリスの国策に取り入れられ、またアメリカのニューディール政策に理論的根拠を与えた。経済的自由に一定の規制がかけられた。特に金融に関する規制が行われたことで、投機的な活動が抑制された。英米はケインズ主義によって経済的危機を脱した。共産革命の西欧への波及を防ぎ、またナチス・ドイツとの戦争に勝利することができた。いわば左右の全体主義から自由を守ることに、ケインズは重大な貢献をしたのである。もし人々がバーリンの主張する「消極的な自由」の尊重にとどまっていたら、自由を守ることはできなかっただろう。またもし政府が自由放任的な自由の維持に固執していたら、逆に全体主義の支配下に陥り、自由を失っていただろう。自由の無制限の追求は、自由の喪失に結果したかもしれないということである。
 1930年代以降、経済学ではケインズ主義とマルクス主義が対立することになった。対立は第2次世界大戦後も、米ソの冷戦、資本主義・自由主義の諸国と共産主義・統制主義の諸国の対峙の下で、継続された。戦後の自由主義陣営の主要諸国においては、ケインズ的政策の実施がほぼ定着し、1930年代に生じたような大不況が発生する怖れは、ほとんどなくなった。経済学者の丹羽春喜氏は「冷戦時代に、自由世界の基礎である私有制に基づく市場経済体制を守りぬくうえでの最強の戦力は、ケインズ主義のパラダイムであった。冷戦とは、経済思想の闘いの局面では、マルクス対ケインズの対決であったのである」と述べている。
 ところが、1970年代から世界経済は複雑な様相を呈するようになった。大恐慌の時代はデフレからの脱却が課題だったが、1970年代以降はインフレ退治が課題となった。ケインズ自身の理論はインフレにも対応できるものなのだが、定式化されたケインズ主義では、有効な対応ができず、ケインズ経済学は権威を失っていた。その傍ら、新古典派経済学が全世界的に流行し、1980年代には、ほぼすべての主要国で、ケインズ的な財政金融政策は、ほとんどその姿を消すほどになった。再び経済的自由の拡大が進められたのである。

 次回に続く。

関連掲示
・拙稿「日本復活へのケインズ再考」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13k.htm
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米中が競う東南アジアと日本の外交8

2013-01-19 08:45:09 | 国際関係
●主体的な外交を行うため、国家再建を急げ

 平成24年(2012)12月の衆院総選挙で、民主党は大惨敗し、自民党が圧勝した。安倍首相は、TPPについて、次のように語っている。
 「聖域なき関税撤廃という前提条件が変われば、当然参加ということも検討の視野に入ってくる。これは論理的帰結だろう。基本的には国益を守ることができるかどうかを考えて判断していきたい。日米は同盟関係だから対話ができるはずだ。まず信頼関係を構築し、安全保障においても強力な結びつきを復活した上で、考え方を大統領に率直に話していきたい」と。(産経新聞平成24年12月31日号)
 安倍氏には、この姿勢を貫いてもらいたいものである。私が思うに、わが国は自分で自分の国を守ることのできない状態であるがために、本来経済協定と安全保障は別の問題なのに、米国から安全保障を切り札にして強く押されると、国家指導者の多くは妥協・譲歩・追従を選択するのだろう。TPPの参加問題は、これがポイントだと思う。だが、ここで腹を据えて踏んばらなければ駄目である。
 日本は、アメリカの軍事力によって保護されている。だが、国民及びその代表者である政治家が、日本という国のあり方を根本的に考えて決起しないと、日本は米国への従属を深め、経済的に収奪されつつ、固有の伝統・文化を失っていくだろう。私は、わが国は憲法を改正して独立自尊の国家体制を構築しなければ、アメリカに経済的・金融的に従属する状態を脱しえず、またいかに優秀で志の高い政治家であっても、真に国益を追求する外交は行うことができないと考える。
 これは、中国に対しても同様である。中国との関係では、平成24年(2012)11月18日に開催されたASEANA関連首脳会議で、日本・中国・ASEAN諸国等、16カ国による東アジア包括的経済連携(RCEP)の交渉を本年(25年)の早い時期に開始することで合意したことが注目される。この時も野田首相(当時)が参加した。RCEPは中国が狙う「米国抜き」の自由貿易協定(FTA)である。これに対し、オバマ大統領はTPPの参加国首脳との会合で、25年中の妥結を目指すことを確認した。アジア太平洋の海洋安全保障に加えて、経済・通商においても米中の競い合いが激化している。
 中国への臣従は、米国への従属以上に危険である。中国は共産党が事実上の独裁体制を敷き、反日愛国主義に凝り固まっている。尖閣諸島の奪取を目論み、さらに沖縄にも触手を伸ばそうとしている。中国による2050年の東アジアの予想地図では、日本の西半分は東海省、東半分は日本自治区と描かれている。中国に屈服し、併呑されることは、日本がチベットやウイグルと同じ運命をたどることを意味する。共産中国に対抗するためには現在、わが国が自力で国防を完備できない以上、米国との同盟で安全保障体制を維持するしかない。しかし、そのことで米国への全面的な従属となってはいけない。わが国は米国に対しても中国に対しても、主体的な外交を行うことのできる独立主権国家への道を歩まねばならない。それ以外に、日本が日本として生き、進む道はない。
 米中が激しく競い合う東南アジアに対し、わが国が主体的な外交を行うとともに、TPP、RCEPへの対応においても国益を追求する必要がある。他国に一方的に利用されたり、他国に呑み込まれたりすることのないように、国家の再建を進めよう。そのための最大の課題が憲法の改正である。憲法を改正し、国防を強化することなくして、独立主権国家としての主体的な外交はなしえない。日本国民は、今こそ日本精神を取り戻し、憲法を改正し、国防を整備して、米中の競い合うアジアで、歴史と伝統のある国家として、日本が堂々と存在し、繁栄・発展できる道を歩み出そう。(了)

関連掲示
・拙稿「尖閣を守り、沖縄を、日本を守れ」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12o.htm
・拙稿「中国の日本併合を防ぐには」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12a.htm
・拙稿「国家と国益を考える」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13.htm
 目次から項目20へ
・拙稿「アメリカに収奪される日本~プラザ合意から郵政民営化への展開」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13d.htm
・拙稿「TPPはトロイの木馬~中野剛志氏」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/d/20110125
・拙稿「TPPの狙いは金融と投資~東谷暁氏」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/d/20110330
・拙稿「郵政とTPPは保守の試金石」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/d/20120423
・拙稿「日本再建のための新憲法――ほそかわ私案」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion08h.htm
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米中が競う東南アジアと日本の外交7

2013-01-18 09:21:06 | 国際関係
●米国主導のTPPの実態をつかめ

 オバマ大統領は、平成21年(2009)11月東京・サントリーホールで行った講演でアジア太平洋重視の方針を打ち出した。この時、オバマ氏は、米国はこれからTPPに参加すると表明した。
 TPPは環太平洋パートナーシップ協定。環太平洋戦略的経済連携協定ともいう。平成17年(2006)に誕生したTPPは、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポールなど、経済規模が比較的小さい国の地域協定だった。ところが、平成20年(208)のリーマン・ショック後、米国が突如、この地域協定への参加に熱心になった。翌年、米国通商代表部から議会に提出された文書は、自国の「輸出増加、雇用増大」が目的だと述べている。そして、オバマ大統領が東京で参加を表明したのである。
 わが国では、TPPに関する情報が少なく、米国の意図もよく分からなかった。ところが、22年(2010)10月、民主党の菅首相が突然、横浜APECでTPPに参加すると言い出した。菅氏は、ほとんど中身も分からずに言ったものらしい。尖閣諸島沖中国漁船衝突事件の直後だったから、米国と安全保障上のことで何かあったのではないかと疑われる。
 その後、東谷暁氏、中野剛志氏、三橋貴明氏、関岡英之氏等によって、TPPの問題点が明らかにされてきた。当初TPPへの参加は、農業への影響をどうするかという程度の問題と見られていた。マスメディアの多くは、TPPの真相を報じようとしなかった。だが、TPPの対象は、農業だけでなく、金融・投資・保険・労働・医療・健保・通信・法務等、24の分野に及ぶ。それらの分野で、米国が日本に関税自主権の放棄と自主規制の撤廃を迫るものとなっている。日本と米国以外の参加国は経済規模が小さく、日米でGDPの総額の9割以上にもなる。TPPで米国が日本を主たる対象国としていることは明らかである。わが国のTPP賛成論者は、TPP参加でアジアの成長力を取り込めると言うが、中国も韓国もインドも参加しない。それでどうやって、アジアの成長力を取り込めるのか。問題点はあまりにも多い。

●安全保障と経済協定は別

 米国主導のTPPへの参加は、日本経済にとてつもない影響を与えると、私は予想する。かつてのプラザ合意、金融ビッグバン、郵政民営化等の比ではない。敗戦後、日本が独立を回復してから、米国が仕掛けてきた日本の再従属化の集大成といえるものである。あらゆる分野で徹底的な日本改造がされ、日本の富の収奪、文化・伝統の改変、対米完全従属化が行われることになる。
 ところが、民主党政権は、TPPに関する情報を公開しようとしなかった。TPP参加に係る根本問題を国民に知らせようとしなかった。その状態で、民主党の野田首相(当時)は、平成23年(2001)11月12日から開催されたAPECで、TPPの協議に参加することを表明した。その1週間後に行われたEASで、米国は中国をけん制し、アジア太平洋諸国を米国寄りに引き付ける強力な外交を行った。日本のTPP協議参加表明がきっかけになって、こういう流れができたかのようだった。思うに、これは米国のシナリオ通りで、米国ははAPECで日本にTPP参加を表明させ、EASで中国に外交攻勢をかけて、アジア太平洋地域における主導権を固めようと計画していたのだろう。
 TPPは、米国の対東南アジア外交の要になっている、米国は、日本をTPPに参加させて経済的な従属関係を強化し、日本の経済力を自国の経済回復に利用しようとしている。また世界の成長センターであるアジアへの本格的な進出を図ろうとしている。また、日本との関係を利用して中国をけん制し、アジア太平洋地域での主導権を確保し、安全保障の強化を図ろうとしている。米国は、リーマン・ショック後の経済回復と雇用創出・ドルの防衛、アジア太平洋地域への本格的関与による経済的利益の拡大、中国の地域覇権主義への対抗等と、いくつもの目的を以て動いているだろう。
 日本はこれに受動的に協力して、米国に奉仕する形になりつつある。わが国にとっても国益の実現となる部分は、米国に協調するのでよい。だが、米国の言いなりになることで国益を失うことは、大きな間違いである。わが国は現状、安全保障においては米国に依存せざるを得ないが、安全保障と経済協定は別である。経済協定においては、あくまで国益追求の観点で判断すべきである。

 次回に続く。

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