ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

構造改革を告発した経済家21

2010-11-30 08:44:37 | 経済
●消費税が導入された経緯と国民の負担

 ここで消費税について、わが国に導入された経緯と、それが国民に何をもたらしたか、を見ておこう。
 菊池氏によると、日本は1980年から「レーガン・モデルの亜流のような税制」を取るようになった。
 菊池氏は言う。「レーガン大統領は、市場原理主義型の税制(フラット税制)を導入して、法人税と所得税を極端に低くし、一部の富裕層と株主や経営者の所得を最大にする財政政策をとった」。他の政策の影響も重なり合い、5年後にアメリカは「債務国に転落」し、「財政赤字と貿易赤字の拡大によって、『双子の赤字国』になってしまった」(『0%』)。
 経緯を補足すると、レーガンは89年6月に任期を終えた。この年の4月、わが国は消費税を導入した。消費者の段階を直接とらえて課税する直接消費税であり、生活必需品に対しても一律3%の税率とした。わが国は、レーガン退陣後もレーガン型の税制を続け、直接税である法人性と所得税を軽減した。当時、わが国は、バブル経済の只中にあった。85年のプラザ合意後、ドル防衛に協力のため円高が進み、日銀は金利を引き下げ、余剰資金は土地や株に向った。87年からこの傾向が顕著になり、バブルが膨らんだ。89年末をピークに株価は暴落し、90年3月の大蔵省・土田正顕銀行局長の通達「土地関連融資の抑制について」の総量規制によって土地投機に急ブレーキがかかり、90年11月から91年の年末までに、バブルは崩壊した。
 バブルの崩壊で、わが国は深刻な不況に陥った。新規導入した消費税は、個人消費を冷え込ませるだけだった。90年代前半、多少景気が持ち直すと、政府は財政健全化を優先する緊縮財政を取った。橋本内閣はデフレ傾向のある中で消費増税をし、わが国は本格的なデフレに陥った。
 菊池氏によると、「日本経済は税収が上がらない弱体化した経済に落ち込んでしまった」。そのうえ、1990年度から2006年度までの間、法人税率を40%から30%に引き下げた。また同じ期間に所得税は「高額所得者に減税、低額所得者に増税」を行った。そのため、法人税と所得税の税収が激減した、と菊池氏は指摘する。
 所得税には累進性があり、所得再分配機能、資源配分機能が働く。それによって、社会の経済的格差が緩和される。所得税と反対に、消費税には逆進性がある。消費税の税率を上げると、低額所得者への負担が増える。そのうえ、政府は「2006年度から07年度に定率減税(所得税額の20%を減税)の廃止、02年度に課税最低限度を引き下げ(360万円から325万円に)」を行った。さらに地方税は2007年度から、所得の大小に関係なく、一律10%のフラット税制になった。つまり「累進課税を放棄した」と菊池氏は指摘する。そして、「日本は主要国で低所得者の税金が最も高い国となった」と述べている。

●日本は消費税負担が極めて高い

 上記のように、1990年度からの税制改革で、法人税と所得税の税収が激減した。その減収を「消費税で埋め合わせようとしている」のが「政府の消費税引き上げ運動」である。「これこそまさに構造改革のツケを消費税の負担増加で国民に押し付けようとしているのである」(『0%』)と菊池氏は自公政権(当時)を告発した。
 実際、1990年は所得税の三大税率に占める割合は53%、法人税は38%、消費税は9%だったのが、2007年度は所得税39%、法人税36%、消費税25%となった。「消費税率の引き上げによる税収入で、所得税と法人税の減税・減額分を補填していることがわかる」と菊池氏は指摘する。そのうえ、構造改革というデフレ政策で、所得税額と法人税額が減少したために、三大税率に占める消費税額のウエートが4分の1まで上昇しているのである」。いまや「日本は消費税負担が主要国で極めて高い国である」と菊池氏は言う。
 このように書くと、いや日本の消費税は5%でしかなく、ヨーロッパには20%以上の国がある、日本は消費税をもっと上げてよいと言う人がいるだろう。ところが、菊池氏は次のような数字を提示する。
 「日本の消費税5%のうち、国税となるのは4%である。しかし、国税収入全般に占める比率は22%にのぼる。イギリス、イタリア、ドイツ、スウェーデンなどの消費税(付加価値税)は17~25%であるのに、国税収入全体に占める比率は22~27%であり、日本のこの比率22%はイギリスやスウェーデン並だ。国税収入全体から見て、日本の消費税率は、スウェーデンの税率25%に相当するといえよう」(『0%』)と。
 そして、コロンビア大学のワインシュタイン教授の言葉を、菊池氏は引用する。教授は「日本の税率は年金保険料や福祉関連支出を入れると、アメリカよりも高く、増税する必要はない」と発言している、と。
 こうした実態を明らかにせぬまま、自公連立政権は消費増税の準備を進めた。わが国の経済事情は好転せず、国民は自民党への不満を強めた。09年9月の選挙で、与党は大敗し、民主党が躍進して政権交代が起こった。鳩山政権はばら撒き政策だけで、成長政策がなく、混迷は深まった。本年(2010)年7月鳩山氏から替わった菅首相は、増税論議を始めることを公言した。消費税を10%に引き上げるという自民党の増税案を取り入れようとする発言だった。いまや最大与党の民主党と最大野党の自民党が、ともに消費増税を行おうとしている。消費増税では「大連立」もあり得るという状態なのである。

 次回に続く。
コメント

国会が対北非難決議、急ぎ対応を

2010-11-29 08:49:25 | 時事
衆参両院は26日、北朝鮮による韓国・大延坪島砲撃に関する決議を全会一致で採択した。決議の全文は、次の通り。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
●国会のサイトの衆議院のページより

http://www.shugiin.go.jp/itdb_annai.nsf/html/statics/topics/ketugi101126(2)-1.html
北朝鮮による韓国・大延坪島砲撃に関する決議(第一七六回、決議第三号)

 北朝鮮は十一月二十三日、突如として韓国の島・大延坪島及びその周辺海域に向け、約百七十発もの砲撃を行った。その被害は、韓国軍の基地及び兵士のみならず、一般住民や市街地にも及んでいる。 このような、まさに無差別とも呼べる砲撃は言語道断の暴挙である。北朝鮮がたとえどのような言い訳をしようとも、一般住民を巻き込む武力による挑発行為は、決して許されない。
 今回の砲撃により犠牲者が出たことにつき、本院は、韓国政府及び国民に対し衷心から弔意を表し、被害者の早期回復を祈念する。
 朝鮮戦争の休戦協定は遵守されなければならず、今般の北朝鮮による韓国に対する砲撃は、国際社会としても看過できない挑発行為である。
 本院は、今般の北朝鮮の砲撃を強く非難するとともに、北朝鮮が核兵器の開発も含め、あらゆる軍事的な挑発行為を放棄し、 拉致問題の早期全面解決も強く求める。
 よって政府は、今般の北朝鮮の軍事的暴挙に対し断固として非難を行い、韓国政府の立場を支持し、国際社会と緊密に協調しつつ、北朝鮮に対する新たな制裁措置等を検討するとともに、北朝鮮に対する国際的な圧力を高めるため、韓国及び米国を始めとする関係各国との連携強化に一層の努力を尽くすべきである。
 右決議する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 上記のように、決議は「無差別とも呼べる砲撃は言語道断の暴挙」であり、「一般住民を巻き込む武力による挑発行為は決して許されない」とし、「北朝鮮が核兵器の開発も含め、あらゆる軍事的な挑発行為を放棄し、拉致問題の早期全面解決も強く求める」とした。また政府に対して「北朝鮮に新たな制裁措置を検討する」とともに「関係各国との連携強化に一層の努力を尽くすべき」と促している。

 全国紙の報道を見ると、早速社説で取り上げたのは産経のみ。読売、毎日、朝日は決議の扱いも小さい。憲法に「国権の最高機関」と規定され、議院内閣制によって内閣を組織する母体でもある国会が、全会一致で採択した決議としては、扱いが軽い。全会一致ということは、国民の総意と言ってもよいのだから、マスメディアには、国民にしっかり伝える責任がある。
 産経の社説「主張」は、北朝鮮に断固たる姿勢を示すためにも新たな制裁が必要だとする。そして、第1に、北朝鮮への国際的な圧力を強めるために日米韓3カ国の連携強化、第2に、有事の際、韓国の在外邦人の救出に自衛隊がどこまで協力できるかの検討、第3に、自衛隊の有事対応能力の強化を含め、朝鮮半島有事に備えた法整備が必要としている。
 私は基本的に同感である。うち第2、第3の点は、わが国がいざという時に備えて、整えていなければならない課題である。だが、それがよくできていない。隣の半島では休戦状態が続き、過去に何度か小競り合いがあったにもかかわらず、戦争が再開された場合、日本はどうするか、具体化されていない。
 平成6年(1994)、クリントン政権が北朝鮮に宣戦布告をする瀬戸際までいったことがあった。わが国の細川護煕内閣は、対策案を作成した。当時の内閣安全保障室が取りまとめた極秘文書の内容が一部明らかにされ、『週刊文春』が報じた。その記事の内容については、私のサイトに掲載してある。『文書』は国連が北朝鮮に軍事的制裁を加えた場合の北朝鮮の反応について想定される事柄を書いている。その想定事項は、万が一朝鮮戦争が再開された場合に当てはまる点がある。おそらくその後、危機管理の研究は進んでいることだろう。しかし、法制化や国民への周知と民間レベルの対応準備は、ほとんど進んでいない。
 現在の朝鮮半島の情勢については、まず韓国の在外邦人の救出への自衛隊の協力範囲、自衛隊の有事対応能力の強化の検討が必要がある。自衛隊法は外国での緊急事態における邦人退避のための自衛隊出動について「輸送の安全が確保されていると認めるとき」に限定している。朝鮮半島で日本人多数が命の危険にさらされているときに、自衛隊の安全の確保が優先されるのでよいのか。自衛隊の活動は戦闘地域でない「後方地域」に限られ、自衛官の武器使用も正当防衛などに限定されている。もし北朝鮮軍が日本人民間人を砲撃したとき、自衛官は後方地域にとどまっているのでよいのか。自衛隊が動けないからと米軍が日本人救出に向かい、北朝鮮軍の攻撃を受け、米軍兵士に死傷者が出るような状況において、わが国の政府は傍観するのか。
 周辺事態法は、周辺事態とは「放置すればわが国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態」と定義している。政府がこう認定すれば、同法が定める米軍への後方支援は可能になる。認定しなければ、後方支援も行わない。それで、アメリカ国民の日本への信頼を保つことができるのか。
 検討し、明確にしなければならないことは、多くある。不測の事態に備えて、対応を急がねばならない。

 以下は報道のクリップ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
●産経新聞 平成22年11月28日

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101128/plc1011280304002-n1.htm
【主張】対北非難決議 菅政権も断固たる制裁を
2010.11.28 03:03

 韓国・延坪(ヨンピョン)島を砲撃した北朝鮮を非難する決議が衆参両院の本会議で、与野党の全会一致で採択された。「無差別とも呼べる砲撃」を「言語道断の暴挙」と指弾し、新たな対北制裁や国際的圧力の強化を求めている。
 当然の対応である。全会一致の国会決議は全国民の意思でもある。国家の安全保障への党派を超えた協力を評価したい。これを受け、菅直人政権は対北追加制裁などを速やかに実施すべきだ。
 日本はすでに、北のミサイル発射や核実験、拉致問題などで全面禁輸などの経済制裁を発動している。今年3月の北による韓国哨戒艦撃沈事件でも、対北送金の報告義務の上限を引き下げた。残された制裁の余地は限られているとはいえ、北に断固たる姿勢を示すためにも新たな制裁が必要だ。
 北朝鮮への国際的な圧力を強めるためには、何よりも日米韓3カ国の連携強化が急務である。そのうえで、中露など周辺各国の協力を求めたい。国連安保理への問題提起に向けても、日本は米韓と緊密に事前調整を行うべきだ。
 今回の決議の原案には当初、拉致問題への言及がなかったが、調整の結果、「拉致問題の早期全面解決も強く求める」との文言が盛り込まれた。これも当然だ。いついかなる時でも、日本の主権が侵害され、日本人の生命と人権が危険にさらされている拉致問題を忘れてはならない。
 今回、菅政権は朝鮮半島有事などへの対応を定めた周辺事態法の適用を早々と見送った。「有事であってほしくない」との事なかれ主義だとすれば、問題である。
 韓国には2万8千人以上の日本人がいる。北に拉致されたまま帰国していない政府認定の被害者は17人で、拉致の疑いを否定できない特定失踪(しっそう)者を含めると100人を超える。有事の際、これら在外邦人の救出に自衛隊がどこまで協力できるのかも、早急に検討する必要があろう。
 周辺事態法は平成11年、冷戦後の日米防衛協力のあり方を示す新ガイドライン3法の1つとして成立した。しかし、自衛隊の活動は戦闘地域でない「後方地域」に限られ、自衛官の武器使用も正当防衛などに限定されている。これで実際に邦人を救出できるのか。
 自衛隊の有事対応能力の強化を含め、朝鮮半島有事に備えた法整備も急務である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

関連掲示
・拙稿「北朝鮮、制裁後の対応」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12.htm
 目次から04へ
 旧内閣安全保障室の極秘文書についても記述してある。
コメント

構造改革を告発した経済家20

2010-11-28 08:48:27 | 経済
●今の日本で大増税は「天下の愚策」

 菊池氏の所論を整理しつつ、橋本=小泉構造改革は、財務省の失政とアメリカの圧力によるものだったことを書いてきた。わが国は構造改革という失政の原因を把握し、経済政策の転換をしなければならない。それをせずに増税をすれば、どうなるか。菊池氏は、増税は「日本を破壊する」と言う。
 橋本内閣は緊縮財政を行い、財政健全化を図るとして、1997年度に消費税を3%から5%に引き上げた。その他の政策も加わり、9兆円の税負担増となった。その結果、わが国の経済は、戦後初めてデフレに陥った。
 2005年12月に出した著書『増税が日本を破壊する』(ダイヤモンド社)で、菊池氏は大意次のように言う。
 政府は「1997年度の大増税の失敗の反省もなく、再び2001年度から緊縮財政とデフレ政策を強行」した。小泉内閣の「この失政のツケが大増税である」。菊池氏は「日本は財政危機ではない。しかし『政策危機』である」と言う。そして、このままの政策を継続して大増税を実施すれば、「間違いなく、日本は財政危機に陥る」と警告する。「財政危機とは、実体経済が衰弱し、国民が納税できないほどの弱体化した経済になってしまうことである」と菊池氏は言う。「その上、債権国である日本が、債権額が減少し債務国に転落すれば、財政危機どころではなく、国家の危機である。そうなれば日本国の破滅である」と述べる。
 日本は純債務で見ると「先進国最悪」ではなく、政府は国内総生産に相当する500兆円近い金融資産を保有している。また個人の金融資産は1400兆円(当時)ある。世界一の金融資産を持っているのが、日本である。ところが、その「世界一の金持ち国家が、財政赤字の解消策として、大増税を実行しようとしている。しかし、日本の財政事情と経済情勢を考えたとき、これこそもっとも安易で危険な政策、『天下の愚策』である」と菊池氏は厳しく告発する。

●デフレ下の消費増税は債務国転落の道

 小泉構造改革はわが国の経済を悪化させた。名目GDPは落ち込み、税収は激減し、財政赤字は増大し、社会的格差は拡大した。小泉政権を継承した安倍・福田・麻生の歴代政権は、構造改革の失政を根本的に反省することなく、その路線を一部修正する経済政策を行うに過ぎなかった。デフレを脱却できないまま、わが国は2008年9月、世界経済危機に直面した。「100年に1度の大津波」がわが国にも襲った。菊池氏は、リーマン・ショックの約10ヵ月後となる2009年7月に『消費税は0%にできる』を出した。菊池氏はここでも政府の政策を批判する。
 「日本は二つの間違った政策を取り入れたことで、『10年デフレ』『10年ゼロ成長』になってしまった」「そのツケが消費税の増税として国民に課せられようとしている」と菊池氏は言う。そして、菊池氏はデフレ下で消費増税を行うことに、本書でも重ねて強く反対する。
 10年以上も続いているデフレの原因は何か。日本のデフレは「市場原理型財政デフレ」であり、「金融行政3点セットと基礎的財政収支均衡策が元凶」である、と菊池氏は主張する。金融行政3点セットとは、先に書いた時価会計・減損会計、ペイオフ、自己資本比率規制による「金融機関の締め付け」である。基礎的財政収支均衡目標とは、2011年度目標として政府が掲げる目標である。そのベースになったものは、「新自由主義・市場原理主義という『伝染病』」である、と菊池氏は言う。
 菊池氏は、これら二つの元凶に加えて、「非正規社員を認可した規制緩和が国民の勤労条件を極端に悪化させ、結果として、経営者も大きな損害を受けている」という事実を挙げる。そして、「われわれは長期デフレの根源がここにあることをしっかりと認識すべきである。それを見誤ったまま、自公政権(註 2009年7月当時)の方針通り消費税を引き上げれば、日本は『20年デフレ』『国民所得半減』に進むであろう。デフレとマイナス成長で、国民の貯蓄率はゼロからマイナスに転じ、世界一の金融資産を持つ債権国が極端に貧乏になり、自分のカネを自分のために使えなくなる。やがて国民のおカネは雲散霧消していき、貧乏な債務国に転落するであろう」と警鐘を鳴らす。
 2005年12月の著書においても、09年7月の著書においても、菊池氏の主張は、一貫している。そして、2010年11月の現在、わが国は長期デフレの原因である政府の失政は国民に隠されたまま、消費増税の導入が国民に呼びかけられている。

 次回に続く。
コメント

仙谷長官ら問責可決、国民に信を問え

2010-11-27 12:05:23 | 時事
 国会で本年度補正予算が成立した一方、仙谷官房長官、馬淵国土交通相への問責決議が参院で可決された。問責決議案は、内閣不信任案と違って法的拘束力はないものの、政治的な効果は大きい。過去に問責が可決された場合、3カ月以内に退陣を余儀なくされた。柳田法相の事実上の更迭をきっかけに、菅内閣は末期的な様相を呈してきた。
 菅首相は、2閣僚の問責決議にどう対応するか。両氏の続投か更迭か、内閣改造か、野党を取り込んだ連立の組み換えか。今のところ、先行きは混沌としている。これまで「陰の総理」として内閣を取り仕切ってきた仙谷氏自身が問責を可決され、瀬戸際に立っている。いったい誰が、この内閣の進路を判断するのか。仙谷氏・馬渕氏の続投または更迭、内閣改造、連立組み換え等、菅首相に重大な判断をして、政権を維持できる能力と意思があるようには、見えない。
 「切り札」として小沢一郎氏に離党勧告をして、支持率アップを図るという策があるという。逆に小沢グループが巻き返しに動き、次期政権を狙っているという情報もある。
 民主党執行部は、一度取った権力を失わないよう、現在の衆議院での多数を生かして、生き延びようとするだろう。約60年ぶりの政権交代による現政権ゆえ、解散総選挙を拒み、延命に執着するだろう。しかし、党利党略の政治は許されない。菅首相は、国民に信を問うべく、早期に解散総選挙を行うべきである。
 民主党中心の政治が続く限り、内政外交の失政がくり返され、民利国益の損失が増大することは確実である。国民は民主党の実態を見極め、明確な判断を下す時である。
 以下は報道のクリップ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
●読売新聞 平成22年11月27日

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20101127-OYT1T00163.htm
2閣僚問責、菅首相は一層窮地に…政権に暗雲

 菅政権が最重要と位置付けてきた2010年度補正予算が26日夜、ようやく成立した。
 ただ、政権の要である仙谷官房長官や、馬淵国土交通相への問責決議が参院で可決され、低支持率にあえぐ菅首相は一層窮地に追い込まれた。政権安定のために模索していた公明党との連携強化も果たせず、逆に政権と同党との距離は広がった。政権の先行きには暗雲が立ちこめている。(略)
 菅首相は仙谷、馬淵両氏への問責決議可決を事実上、無視する考えだが、民主党内には「世論の批判にどこまで耐えられるだろうか」と懸念する声が少なくない。
 野党も、問責決議可決後の通常国会のシナリオを完璧(かんぺき)に描けているわけではないが、自民党などは、少なくとも仙谷長官と馬淵国交相の出席する委員会での審議には応じない方針だ。
 このため、民主党執行部の一人は「菅政権は何をやってもダメだ。年明けにでも内閣を改造し、リセットした方がいい」と語る。仙谷、馬淵両氏だけでなく、防衛省の通達問題などで批判を浴びた北沢防衛相や、北朝鮮の韓国砲撃当日に警察庁に登庁しなかった岡崎国家公安委員長らも含めて大幅な改造を行い、心機一転、やり直すべきだとの考えを示したものだ。
 もっとも首相側近議員は「菅さんはそんなことは考えてない」としている。内閣改造は支持率を向上させる効果が期待される一方、入閣できなかった議員の嫉妬(しっと)を買うなど求心力が逆に低下する危険性もはらんでいる。このため、首相も内閣改造断行には慎重にならざるを得ないとみられる。
 政権の先行きには波乱要因が待ち受けている。
 通常国会では、2011年度予算案のほか、予算関連法案、年度内に成立させる必要がある「日切れ法案」などが最重要課題となる。予算案は参院送付後、30日経過すれば、憲法の規定で自然成立となる。予算関連法案などは、野党が審議を引き延ばした場合、参院送付から60日経た上で、衆院で再可決させる必要があるが、与党は再可決に必要な3分の2の議席を衆院で持っていない。野党が予算関連法案などの成立と引き換えに首相退陣を求める可能性もある。
 さらに、首相は「内憂」も抱える。首相と距離を置く小沢一郎元代表のグループは活動を活発化させている。小沢氏の側近議員は「今は黙って政権が失態を犯し、転んでくれるのを見ていればいい」と語る。「早晩、小沢氏の息のかかった人間がのろしを上げるのではないか」という声も党内ではささやかれている。(政治部 湯本浩司、志磨力)
(2010年11月27日07時18分 読売新聞)

●産経新聞 平成22年11月27日

http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/101127/stt1011270253003-n1.htm
【主張】仙谷官房長官 「問責」可決の意味は重い
2010.11.27 02:52

 (略)とくに仙谷氏は問責の理由とされた尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件への対応で、中心的な役割を果たしてきた。自民党は「船長釈放は仙谷氏主導と考えざるを得ないのに、那覇地検の判断だと強弁している」「ビデオを長期間非公開とし、貴重な外交カードを失った」などと批判した。
 特に問題なのは、仙谷氏が自衛隊を「暴力装置」と発言したことだ。撤回や謝罪で済む問題ではない。これだけでも安全保障会議を構成する官房長官の職にふさわしくない。
 これらを考え合わせても、菅直人首相は「更迭はまったく考えていない」と言い続けるのか。
 衝突事件への対応は、菅政権が外交・安全保障政策で失態を繰り返した核心部分といえる。内閣の要となる仙谷氏の問責可決は、政権の統治能力や危機管理能力の欠如を突いており、首相の責任をも問うものである。
 北朝鮮による韓国砲撃をめぐる対応でも、首相や内閣の危機管理の欠如が露呈した。来年の通常国会で政権の立て直しを図りたいなら、野党が多数を持つ参院で信任を失った仙谷氏を続投させるのは困難だろう。今も継続している尖閣問題や朝鮮半島の危機に備えるため、どのような布陣を敷くかを考えるべきだ。
 内閣不信任案は法的拘束力があるが、問責決議案には拘束力がない。ただ、政治的な効果は大きい。平成10年には当時の額賀福志郎防衛庁長官が問責可決から約1カ月後に辞任に追い込まれた。福田康夫、麻生太郎両氏も首相問責決議案を可決されたが、結果的には2、3カ月後にそれぞれ退陣を余儀なくされた。(略)

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101127/plc1011270107003-n1.htm
菅内閣 背水の陣の秘策は? ちらつく「解散」
2010.11.27 00:59

 (略)まさに綱渡りの政権運営を強いられる首相だが、実は逆転への秘策がわずかながら残されている。
 一つは通常国会前の内閣改造。仙谷氏らの更迭ではなく大幅な改造を行えば、野党は審議拒否の大義名分が消えるばかりか、支持率上昇も見込める。事業仕分けが一段落した蓮舫行政刷新担当相をさらなる重要ポストに起用するなど話題作りを盛り込めば世間の逆風が収まる可能性もある。
 ただ、人事にリスクはつきものだ。人選を誤れば、民主党内にくすぶる内閣への不満が爆発しかねない。新閣僚に失言や不祥事があれば、通常国会は今国会以上の逆風となる。
 もう一つの秘策は新たな連立工作だ。首相は18日夜、たちあがれ日本の与謝野馨共同代表を首相公邸に招いて密談した。首相の脳裏に「連立組み替え」があるのは間違いないが、安易な「数あわせ」だと世論に映れば支持率はさらに低下し、首相の党内基盤を揺るがしかねない。
 そこでひそかにささやかれる「切り札」が、小沢一郎元代表への離党勧告だ。
 首相には成功体験がある。7月の参院選に大敗し、内閣支持率が40・3%(産経新聞・FNN合同調査)まで下がったが、9月の党代表選で小沢氏に勝利すると一気に64・2%(同)まで回復した。強制起訴が確実な小沢氏を離党させれば、一定の支持を得ることは間違いない。
 これは大きなカケでもある。代表選で所属国会議員200人の支持を集めた小沢氏との決別は、党分裂を誘発しかねない。
 秘策を講じてダメならばどうするか。首相には退陣するか、国民に信を問うしか道はない。(略)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コメント

トッドの移民論と日本31

2010-11-27 08:47:07 | 国際関係
●多文化主義と「差異への権利」への批判

 トッドは著書『移民の運命』において、全世界規模では、アメリカの多文化主義を批判し、フランス国内では、それと連動する「差異への権利」を批判している。トッドは人類学的分析に基づいて、多文化主義と「差異への権利」の根源が、差異主義的心性の構造のなかにあることを指摘する。
 多文化主義とは、異なる文化を持つ集団が存在する社会において、それぞれの集団が「対等な立場」で扱われるべきだという思想である。1965年から1990年にいたる期間、アメリカで勢力を伸張した。アメリカの多文化主義については、本稿のアメリカの項目に書いた。
 多文化主義は、アメリカから全世界に輸出され、トッドの表現で言えば、フランスにも「押しつけられた」。
 もともと子どもは、幼稚園や学校で、言葉を習得すると同時に異文化を受容する。また、移民は出身国と受け入れ国の間に圧倒的な文化的発達の差があると、受け入れ国の文化を吸収する。それによって、自然に同化は進む。ところが近年フランスでは、フランス人自身が己れの同化・統合能カを疑うようになり、同化を悪と考え、民族的差異を尊重・保護すべしとする、差異主義的な考え方が強まった。そこに現れた主張が、「差異への権利」である。トッドは、「差異への権利」という多文化主義的な観念を批判する。  「差異への権利」が現れた原因には、アメリカに押し付けられた多文化主義の影響がある。また、カトリックの失墜によって、フランス周辺部の直系家族社会で文化的活力が復活したことも原因の一つだとトッドは見ている。
 「差異への権利」という主張は、諸民族の文化的差異を尊重・保護する人道的な主張のように響く。ところが、実際は、移民同化能力を発揮するフランスの民衆の自己意識を混乱させ、移民への反感を引き起こしている。フランスで移民反対を説く国民戦線が党勢を伸ばしているのは、こうした民衆の支持による、とトッドは指摘する。
 またトッドによると、人種主義に反対して「差異の権利」を唱える左翼の主張は、「一見善意と同情に溢れているが、実は異邦人への憎しみの裏返しに他ならない」。彼らの意識の奥底には、異邦人への無意識の嫌悪が存在する。「差異の権利」は、移民の側にも混乱をもたらしている。民衆のレベルで自然に同化が進んでいるのに、差異を賛美する左翼の活動が、移民やその子供たちにいたずらな幻想を振り撒いている。そのため、かえって取り返しのつかない窮境に移民を追い込むことになる、とトッドは懸念する。
 トッドは、移民の将来は「同化」しかありえない、と明言する。隔離は、最終的な同化を先送りすることに他ならない。「差異への権利」という観念は、移民第一世代がフランスで体験した衝撃を和らげはしただろうが、結局は彼らの適応能力を妨げている。また、第二世代には同化の円滑な進行を乱すことにしかなっていない、とトッドは厳しく指摘する。
 ここで私見を述べると、アメリカの多文化主義やフランスの「差異への権利」には、ドイツ=アメリカのフランクフルト学派、特にその最左派であるマルクーゼの影響がある。マルクーゼは、フロムらによるマルクスとフロイトの統合を、闘争的な方向へ推し進めた左翼の哲学者である。1968年のフランス5月革命で活動した知識人・学生は、「三つのM」すなわちマルクス・毛沢東・マルクーゼに傾倒した。マルクーゼは、先進国における共産主義革命をめざすにあたり、体制化した労働者階級に替わる主体として、知識人・学生・女性・少数民族等に目をつけ、共産主義革命に利用しようとした。この発想が、マルクス主義の文化革命戦術を激烈なものとした。マルクーゼは、「われわれが着手すべき革命は、社会制度を広汎に渡って解体するような革命である」と述べている。アメリカやフランスの新左翼が、差異主義的な主張をするようになった背景には、こうしたマルクーゼの思想がある。人権や個性の尊重、女性や少数民族の権利を説く運動が、実はそれを利用して共産主義社会を実現しようとする思想に裏づけられているのである。私は、そのことに注意を呼びかけたい。

 次回に続く。

関連掲示
・フランクフルト学派、マルクーゼについては、下記をご参照下さい。
 拙稿「急進的なフェミニズムはウーマン・リブ的共産主義」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion03d.htm
 第7章 フランクフルト学派の批判的否定、第9章 エロス的革命を唱導したマルクーゼ
コメント

北朝鮮のムスダン発射実験に備えよ

2010-11-26 13:05:58 | 時事
 北朝鮮は、数か月以内に中距離弾道ミサイル「ムスダン」の発射実験を実施しようと準備を進めていることが分かったと産経新聞が、25日1面トップで伝えた。これは、北朝鮮はウラン濃縮技術の開発を進めていることとともに、わが国にとって大きな脅威である。
 北朝鮮は10月の軍事パレードで、ムスダンとみられる新型ミサイルを登場させた。その発射実験をしようというわけである。ムスダンは、旧ソ連が1950~60年代に作った潜水艦搭載のミサイルを改良したものとみられる。現在、北朝鮮はすでにムスダンを50発ほど持っているのではないかと、専門筋は見ている。
 ムスダンは射程約3000キロメートル。グアムまですっぽり射程圏内に入る。ノドンは日本本土のほぼ全域を射程に収めているが、それ以上である。ノドンに対しては、イージス艦の迎撃ミサイルが有効である。現在、SM3ブロック2Aを開発しており、2015年に完成予定である。我が国はイージス艦を現在6隻保有しており、うち4隻の金剛型には、新型迎撃ミサイルを装備する予定である。
 だが、ムスダンは、日本を攻撃するときには、高く打ち上げて、近くに落とす仕方となる。こうしたロケット軌道で使われると、新型の迎撃ミサイルでも届かない可能性が高い。しかもムスダンは、ノドンと違って、核兵器の搭載が可能である。1トンから1.25トンの重量の搭載物を運べるから、旧式の技術の核兵器でも弾頭に装備できる。
 ムスダンは移動式の発射機に載せて使うから、事前に動きをつかむことは難しい。核兵器が搭載されるようになれば、東京・大阪・札幌・新潟・名古屋・福岡・沖縄等、どこも核攻撃の脅威にさらされるようになる。
 我が国では、年末に中期防衛整備計画が発表される。それがどういう内容になるかは、政府の危機意識による。北の核ミサイルに対抗する整備が遅れれば、それだけ危険は増大する。
 私は、日本を守るために集団的自衛権の行使ができるようにすべきと訴えているが、それを急ぐ必要がある。朝鮮学校の無償化などしている場合ではない。
 以下は報道のクリップ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
●産経新聞 平成22年11月25日

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101125/plc1011250133000-n1.htm
日本全土を射程 北朝鮮がムスダン発射準備
2010.11.25 01:33

 北朝鮮が中距離弾道ミサイル「ムスダン」(射程約3千キロ)の発射実験を数カ月以内に実施しようと準備を進めていることが24日分かった。朝鮮半島情勢に詳しい情報筋が明らかにした。北朝鮮は10月の軍事パレードで、ムスダンとみられる新型ミサイルを登場させたが、これまで発射実験は行っていない。実験によって実戦可能であることを“宣言”するとみられる。北朝鮮軍による韓国国内への砲撃で、朝鮮半島情勢が緊迫化しているなかでの弾道ミサイル発射準備は、北朝鮮のさらなる挑発行為といえる。
 ムスダンは在日米軍基地が集中する沖縄まで射程圏に収める。北朝鮮で核弾頭を搭載するミサイルはムスダンが最初になるともみられている。北朝鮮はこのほど米専門家に寧辺(ニョンビョン)の新たなウラン濃縮施設をみせており、ムスダンの発射実験はウラン濃縮とも密接に関係しているといえそうだ。
 同筋によると、発射は北朝鮮との間でミサイル開発で協力関係にあるといわれるイランとの間の共同作業で進められ、実験結果に関する情報などは両国で共有するという。
 さらに、同筋は「イランからの代表団が10月10日の軍事パレードに招待され、VIP席で観覧していた」と語った。代表団はイランのミサイル開発に携わるSHIG社の幹部らで構成されていたという。SHIGは北朝鮮とのミサイル協力にも深く関わってきたとされ、米国などは大量破壊兵器拡散に関与していると制裁措置を講じてきた。
 ラヂオプレス(RP)によると、10月のパレードで、ムスダンとみられるミサイルは、大型のミサイル発射台付きの車両に搭載され、8基が確認された。
 米海軍の弾道ミサイル発射監視艦「オブザべーション・アイランド」は23日に米海軍佐世保基地に寄港した。ミサイル発射に備えた動きの一環とみられる。
     ◇
 在日イラン大使館の話
 「在京イラン・イスラム共和国大使館は、イランと北朝鮮との間には弾道ミサイルをはじめとする、いかなる軍事協力関係も存在しないと強調する」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

関連掲示
・拙稿「集団的自衛権は行使すべし」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion08n.htm
コメント

構造改革を告発した経済家19

2010-11-26 10:22:48 | 経済
 昨年12月15日、天皇陛下特例会見ゴリ押し事件が起こった。外国の賓客が陛下と会見する場合、1カ月前までに文書で正式に申請する「1カ月ルール」と呼ばれる慣例がある。「1カ月ルール」は御高齢の陛下の御健康に配慮して、歴代内閣が守ってきた慣例である。中国政府が会見を要請したとき、既に1ヶ月を切っていた。それなのに中国が会見を強く要請したので、鳩山首相が「特例」として実現を指示し、会見が実現することになった。背後で、民主党の小沢幹事長が首相に会見の実現を働きかけ、首相が平野官房長官に指示したと伝えられる。私はこの事件が、尖閣沖中国漁船衝突時件における日本の弱腰外交、中国の横暴外交に影響していると感じている。
 天皇陛下との会見をゴリ押しで実現した中国の指導者が、習近平国家副主席である。その時点では、中国共産党のナンバー6だった。胡錦濤国家主席の後継者の座を、李克強副首相と争っていた。習氏は太子党、李氏は共青団出身であり、支持基盤が違う。習氏は江沢民の上海閥に連なり、また軍とのつながりが強い。軍との関係の浅い李氏より、後継者争いで有利と見られていた。天皇陛下との会見の実現は、習氏の有利を一層強めることになっただろう。
 習氏は、10月中国共産党の中央軍事委員会副主席に選出され、胡錦濤国家主席の後継者としての地位を確立した。再来年には、国家主席の座に就くと見られている。以後、10年間は、習体制が続くことになるだろう。
 そうした習氏の台頭が今後の中国指導部の方針や日中関係にどのような影響をもたらすか。習氏は毛沢東を賛美し、毛沢東思想を強調する。そうした彼を推す軍部が、国内の経済的・社会的危機の中で、発言力を強めている。
 中国には「大逆流」の潮流が起こっている。大逆流とは、民主化よりも毛沢東崇拝が高まり、中国のファッショ化が進む流れをいう。中国では、現状への不満から民衆の間に毛沢東崇拝が復活している。共産党政権は、民衆の毛沢東崇拝のエネルギーを、愛国主義の中に吸収して、政権の基盤強化に利用し、対外侵攻を不満のはけ口にする可能性がある。またそれによって、一気に体制のファッショ化を進めるおそれがある。
 こうした可能性のある中国に、毛沢東を賛美する習近平という指導者が、軍をバックにして、国家主席の座に上り詰めようとしている。中国に「大逆流」を見るとき、このことの意味は重い。
 日本人は、中国の動向をとらえ、将来的な展望をもって、日本の再建を急ぐ必要がある。

 産経新聞に【東亜春秋】というコラム欄があり、いつも台北支局長・山本勲氏が、中国・台湾に関する記事を書いている。23日は「中国の『逆戻り』を憂う」という題の記事だった。習氏の台頭による中国指導部の動向を書いており、参考になる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
●産経新聞 平成22年11月23日

http://sankei.jp.msn.com/world/china/101123/chn1011230306001-n1.htm?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter
【東亜春秋】台北支局長・山本勲 中国の「逆戻り」を憂う
2010.11.23 03:05

 このところ中国が冷戦時代に逆戻りしたかのような現象が目につく。軍人がわが物顔に対外政策に口出しし、次期指導者に内定した習近平国家副主席は朝鮮戦争を「侵略に立ち向かった正義の戦争」と断じてはばからない。温家宝首相が政治改革の必要性を力説すれば、党機関紙がこれに真っ向から反対する論文を連載する。胡錦濤政権の「平和発展」は掛け声倒れに終わり、次期政権はよりハードな内外政策を展開しそうだ。日本もよほどの覚悟が必要だ。
 習近平国家副主席は先月中旬の共産党第17期中央委員会第5回総会で党中央軍事委副主席に選ばれ、胡錦濤総書記(国家主席)の後継者となることが内定した。
 慣例なら来春の全国人民代表大会(全人代)で国家軍事委副主席を兼任するところだが、わずか10日後の全人代常務委員会で選ばれている。まるで軍権継承に向け、満を持していたかのような素早い動きだ。
 習副主席は同月末北京で開いた朝鮮戦争参戦60周年行事で、老兵を前に「帝国主義侵略者が中国人民に強いた反侵略戦争の勝利」と「中朝両国軍の団結」を謳歌(おうか)、称賛した。米国は興ざめしただろうし、これでは中国を介した北朝鮮の核廃棄も望み難かろう。
 故習仲勲副首相を父とする太子党(高級幹部の子弟閥)の習副主席は大学卒業後、北京の中央軍事委本部に勤め、その後の地方党・政府勤務でも各地で軍の分区書記を兼務してきた。太子党が幅をきかす軍部にとり二重の意味で“内輪の人間”だ。
 胡錦濤主席が共産主義青年団(共産党の青年組織)出身で軍との関係が浅いため、いまだに軍権掌握に苦労しているのとは対照的だ。
 胡主席は江沢民前政権の反日民族主義政策を改めようとしたが、軍部は東シナ海の油田開発や尖閣諸島問題などで強硬策をとるよう圧力をかけ続けてきた。江前主席が推挙した習副主席の後継で、対日政策も逆戻りする懸念がある。
 胡主席を中心とする現政権は2002年の発足以来、内では格差縮小による「和諧(わかい)(調和のとれた)社会構築」、外では「平和発展」の平和協調路線をめざしてきた。しかしこの間の歩みは期待を大きく裏切った。貧富格差のさらなる拡大と社会紛争の激増で和諧社会はさらに遠のいた。
 太子党が牛耳る資源・エネルギー、金融などの国有企業が巨大化する一方、民営企業のシェアが縮小する「国進民退」現象が問題になっている。過去30年の経済成長の主力は民営企業と外国企業だったが、これでは改革・開放前への後退だ。
 太子党をはじめとした既得権益層が政府や国有企業に深く根を張り、役人の介入や腐敗の蔓延(まんえん)で市場経済の活力が損なわれている。
 政府は来年からの第12次5カ年計画で民間活力を生かした内需主導の省エネ、技術・知識集約型経済への転換をめざしている。温家宝首相はこうした経済の抜本改革を進めるためにも政治改革の断行を求めてきたが、軍や党内保守派・既得権益層の強力な反対で立ち往生している。
 反対勢力は習近平副主席の勢力基盤と重なるだけに、次期5カ年計画も看板倒れとなる可能性がある。中国が資源多消費、輸出と投資主導の旧来型発展を続けるなら、海洋覇権拡大の動きに一段と拍車がかかる。日本は政・経・軍のあらゆる面から安全保障体制の整備を急ぐ必要がある。

●産経新聞 平成22年10月18日

http://sankei.jp.msn.com/world/china/101018/chn1010182346009-n1.htm
「胡後継者」習近平氏、上海閥の影響力示す
2010.10.18 23:40

 (略)党の最高ポストは総書記だが、実際には中央軍事委主席が最高権力者といわれる。改革・開放後は●(=登におおざと)小平氏が長くその地位にあったが、1989年の天安門事件後は、江沢民氏が総書記、国家主席、軍事委主席の三権を兼ねた。
 軍事委副主席は、同委主席、そして総書記になる前提条件であり、習氏が後継者をほぼ確実にしたとみてよい。(略)
 中国筋によると、胡錦濤氏の意中の人物は、子飼いの李克強副首相で、習氏の副主席就任に消極的だったという。習氏の人事によって、李氏は次期首相になる公算が大きくなった。
 中国筋は、習近平氏について「ミニ江沢民」と呼び、江氏同様、思想面では強硬派、経済は成長派と評した。習氏は、昨年秋、新疆ウイグル自治区で発生した騒乱事件で武力鎮圧を主張、温家宝首相ら穏健派と対立したともいう。
 習氏は最近、毛沢東思想を強調し、軍を中心にした保守派の支持を集めてきた。中国国内では近年、諸矛盾が深刻化する中で、一党独裁への批判が高まり、政治改革の要求が強まっているが、習氏は政治改革には否定的といわれ、ノーベル平和賞をめぐる西側の中国批判にも強硬対応を主張したとみられている。
 中国指導部内では内外政策でしばしば意見が対立するが、一党独裁の下で安定を図り、発展を持続することでは一致している。軍の支持をバックに習氏が、内外政策で強硬姿勢を取り続ければ、穏健派との衝突は不可避との見方が多い。
(伊藤正中国総局長)

●産経新聞 平成22年10月19日

http://sankei.jp.msn.com/world/china/101019/chn1010190244003-n1.htm
【主張】「習近平の中国」 軍の影響力増大が心配だ
2010.10.19 02:43

 (略)習氏は指導部にあって保守的な言動が目立ち、党高級幹部の子弟をさす「太子党」を政治基盤とする。江沢民前国家主席が率いる上海閥にも近いとされる。(略)
 懸念されるのは、習氏がエリート階層を代表する人物であるのに加え、軍とも深い関係があるとされることだ。いずれも政治改革を含む民主化に強い拒絶反応を示すグループである。(略)
 習氏は9月に行われた党幹部の養成機関・中央党校の開講式で毛沢東を賛美する長大な演説を行った。また8日、北京の駐中国北朝鮮大使館で開かれた祝賀の席では「朝鮮の新指導者と一緒に中朝友好協力関係を推進していきたい」とも語っている。
 習氏が毛思想の影響が濃厚な軍の支持を固めて権力の座を射止めたとすれば、指導部への軍の影響力がこれまで以上に強まることを意味しよう。日米や欧州諸国は習氏の指導下での軍の動きなどについて警戒すべきだ。
 習氏が将来、中央軍事委主席になれば武力統帥権を掌握する。尖閣諸島や海洋権益も含めて、固有の領土と主権を守るには日本も明確な戦略と覚悟が必要である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

関連掲示
・拙稿「中国の大逆流と民主化のゆくえ」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12h.htm
コメント

中国の大逆流と習近平の台頭

2010-11-25 08:52:37 | 時事
 昨年12月15日、天皇陛下特例会見ゴリ押し事件が起こった。外国の賓客が陛下と会見する場合、1カ月前までに文書で正式に申請する「1カ月ルール」と呼ばれる慣例がある。「1カ月ルール」は御高齢の陛下の御健康に配慮して、歴代内閣が守ってきた慣例である。中国政府が会見を要請したとき、既に1ヶ月を切っていた。それなのに中国が会見を強く要請したので、鳩山首相が「特例」として実現を指示し、会見が実現することになった。背後で、民主党の小沢幹事長が首相に会見の実現を働きかけ、首相が平野官房長官に指示したと伝えられる。私はこの事件が、尖閣沖中国漁船衝突時件における日本の弱腰外交、中国の横暴外交に影響していると感じている。
 天皇陛下との会見をゴリ押しで実現した中国の指導者が、習近平国家副主席である。その時点では、中国共産党のナンバー6だった。胡錦濤国家主席の後継者の座を、李克強副首相と争っていた。習氏は太子党、李氏は共青団出身であり、支持基盤が違う。習氏は江沢民の上海閥に連なり、また軍とのつながりが強い。軍との関係の浅い李氏より、後継者争いで有利と見られていた。天皇陛下との会見の実現は、習氏の有利を一層強めることになっただろう。
 習氏は、10月中国共産党の中央軍事委員会副主席に選出され、胡錦濤国家主席の後継者としての地位を確立した。再来年には、国家主席の座に就くと見られている。以後、10年間は、習体制が続くことになるだろう。
 そうした習氏の台頭が今後の中国指導部の方針や日中関係にどのような影響をもたらすか。習氏は毛沢東を賛美し、毛沢東思想を強調する。そうした彼を推す軍部が、国内の経済的・社会的危機の中で、発言力を強めている。
 中国には「大逆流」の潮流が起こっている。大逆流とは、民主化よりも毛沢東崇拝が高まり、中国のファッショ化が進む流れをいう。中国では、現状への不満から民衆の間に毛沢東崇拝が復活している。共産党政権は、民衆の毛沢東崇拝のエネルギーを、愛国主義の中に吸収して、政権の基盤強化に利用し、対外侵攻を不満のはけ口にする可能性がある。またそれによって、一気に体制のファッショ化を進めるおそれがある。
 こうした可能性のある中国に、毛沢東を賛美する習近平という指導者が、軍をバックにして、国家主席の座に上り詰めようとしている。中国に「大逆流」を見るとき、このことの意味は重い。
 日本人は、中国の動向をとらえ、将来的な展望をもって、日本の再建を急ぐ必要がある。

 産経新聞に【東亜春秋】というコラム欄があり、いつも台北支局長・山本勲氏が、中国・台湾に関する記事を書いている。23日は「中国の『逆戻り』を憂う」という題の記事だった。習氏の台頭による中国指導部の動向を書いており、参考になる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
●産経新聞 平成22年11月23日

http://sankei.jp.msn.com/world/china/101123/chn1011230306001-n1.htm?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter
【東亜春秋】台北支局長・山本勲 中国の「逆戻り」を憂う
2010.11.23 03:05

 このところ中国が冷戦時代に逆戻りしたかのような現象が目につく。軍人がわが物顔に対外政策に口出しし、次期指導者に内定した習近平国家副主席は朝鮮戦争を「侵略に立ち向かった正義の戦争」と断じてはばからない。温家宝首相が政治改革の必要性を力説すれば、党機関紙がこれに真っ向から反対する論文を連載する。胡錦濤政権の「平和発展」は掛け声倒れに終わり、次期政権はよりハードな内外政策を展開しそうだ。日本もよほどの覚悟が必要だ。
 習近平国家副主席は先月中旬の共産党第17期中央委員会第5回総会で党中央軍事委副主席に選ばれ、胡錦濤総書記(国家主席)の後継者となることが内定した。
 慣例なら来春の全国人民代表大会(全人代)で国家軍事委副主席を兼任するところだが、わずか10日後の全人代常務委員会で選ばれている。まるで軍権継承に向け、満を持していたかのような素早い動きだ。
 習副主席は同月末北京で開いた朝鮮戦争参戦60周年行事で、老兵を前に「帝国主義侵略者が中国人民に強いた反侵略戦争の勝利」と「中朝両国軍の団結」を謳歌(おうか)、称賛した。米国は興ざめしただろうし、これでは中国を介した北朝鮮の核廃棄も望み難かろう。
 故習仲勲副首相を父とする太子党(高級幹部の子弟閥)の習副主席は大学卒業後、北京の中央軍事委本部に勤め、その後の地方党・政府勤務でも各地で軍の分区書記を兼務してきた。太子党が幅をきかす軍部にとり二重の意味で“内輪の人間”だ。
 胡錦濤主席が共産主義青年団(共産党の青年組織)出身で軍との関係が浅いため、いまだに軍権掌握に苦労しているのとは対照的だ。
 胡主席は江沢民前政権の反日民族主義政策を改めようとしたが、軍部は東シナ海の油田開発や尖閣諸島問題などで強硬策をとるよう圧力をかけ続けてきた。江前主席が推挙した習副主席の後継で、対日政策も逆戻りする懸念がある。
 胡主席を中心とする現政権は2002年の発足以来、内では格差縮小による「和諧(わかい)(調和のとれた)社会構築」、外では「平和発展」の平和協調路線をめざしてきた。しかしこの間の歩みは期待を大きく裏切った。貧富格差のさらなる拡大と社会紛争の激増で和諧社会はさらに遠のいた。
 太子党が牛耳る資源・エネルギー、金融などの国有企業が巨大化する一方、民営企業のシェアが縮小する「国進民退」現象が問題になっている。過去30年の経済成長の主力は民営企業と外国企業だったが、これでは改革・開放前への後退だ。
 太子党をはじめとした既得権益層が政府や国有企業に深く根を張り、役人の介入や腐敗の蔓延(まんえん)で市場経済の活力が損なわれている。
 政府は来年からの第12次5カ年計画で民間活力を生かした内需主導の省エネ、技術・知識集約型経済への転換をめざしている。温家宝首相はこうした経済の抜本改革を進めるためにも政治改革の断行を求めてきたが、軍や党内保守派・既得権益層の強力な反対で立ち往生している。
 反対勢力は習近平副主席の勢力基盤と重なるだけに、次期5カ年計画も看板倒れとなる可能性がある。中国が資源多消費、輸出と投資主導の旧来型発展を続けるなら、海洋覇権拡大の動きに一段と拍車がかかる。日本は政・経・軍のあらゆる面から安全保障体制の整備を急ぐ必要がある。

●産経新聞 平成22年10月18日

http://sankei.jp.msn.com/world/china/101018/chn1010182346009-n1.htm
「胡後継者」習近平氏、上海閥の影響力示す
2010.10.18 23:40

 (略)党の最高ポストは総書記だが、実際には中央軍事委主席が最高権力者といわれる。改革・開放後は●(=登におおざと)小平氏が長くその地位にあったが、1989年の天安門事件後は、江沢民氏が総書記、国家主席、軍事委主席の三権を兼ねた。
 軍事委副主席は、同委主席、そして総書記になる前提条件であり、習氏が後継者をほぼ確実にしたとみてよい。(略)
 中国筋によると、胡錦濤氏の意中の人物は、子飼いの李克強副首相で、習氏の副主席就任に消極的だったという。習氏の人事によって、李氏は次期首相になる公算が大きくなった。
 中国筋は、習近平氏について「ミニ江沢民」と呼び、江氏同様、思想面では強硬派、経済は成長派と評した。習氏は、昨年秋、新疆ウイグル自治区で発生した騒乱事件で武力鎮圧を主張、温家宝首相ら穏健派と対立したともいう。
 習氏は最近、毛沢東思想を強調し、軍を中心にした保守派の支持を集めてきた。中国国内では近年、諸矛盾が深刻化する中で、一党独裁への批判が高まり、政治改革の要求が強まっているが、習氏は政治改革には否定的といわれ、ノーベル平和賞をめぐる西側の中国批判にも強硬対応を主張したとみられている。
 中国指導部内では内外政策でしばしば意見が対立するが、一党独裁の下で安定を図り、発展を持続することでは一致している。軍の支持をバックに習氏が、内外政策で強硬姿勢を取り続ければ、穏健派との衝突は不可避との見方が多い。
(伊藤正中国総局長)

●産経新聞 平成22年10月19日

http://sankei.jp.msn.com/world/china/101019/chn1010190244003-n1.htm
【主張】「習近平の中国」 軍の影響力増大が心配だ
2010.10.19 02:43

 (略)習氏は指導部にあって保守的な言動が目立ち、党高級幹部の子弟をさす「太子党」を政治基盤とする。江沢民前国家主席が率いる上海閥にも近いとされる。(略)
 懸念されるのは、習氏がエリート階層を代表する人物であるのに加え、軍とも深い関係があるとされることだ。いずれも政治改革を含む民主化に強い拒絶反応を示すグループである。(略)
 習氏は9月に行われた党幹部の養成機関・中央党校の開講式で毛沢東を賛美する長大な演説を行った。また8日、北京の駐中国北朝鮮大使館で開かれた祝賀の席では「朝鮮の新指導者と一緒に中朝友好協力関係を推進していきたい」とも語っている。
 習氏が毛思想の影響が濃厚な軍の支持を固めて権力の座を射止めたとすれば、指導部への軍の影響力がこれまで以上に強まることを意味しよう。日米や欧州諸国は習氏の指導下での軍の動きなどについて警戒すべきだ。
 習氏が将来、中央軍事委主席になれば武力統帥権を掌握する。尖閣諸島や海洋権益も含めて、固有の領土と主権を守るには日本も明確な戦略と覚悟が必要である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

関連掲示
・拙稿「中国の大逆流と民主化のゆくえ」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12h.htm
コメント

北朝鮮の韓国砲撃に毅然と対応せよ

2010-11-24 11:58:23 | 時事
 昨23日、北朝鮮が韓国・延坪(ヨンピョン)島を砲撃した。兵士2名が死亡、民間人にも約20名の負傷者が出たという。朝鮮戦争は終結しておらず休戦が続いているが、休戦協定(1953年)の締結以来、初の非戦闘員への軍事攻撃となった。
 攻撃の意図については、いくつかの見方が出ている。

<対内的>
・金正恩後継体制のための軍事的業績作り
 実績をつくって軍を掌握し、国内を固める
・北朝鮮内部での権力闘争のトラブル
 指導部や軍部の内輪もめ
・経済危機にある国内の引き締めを図る
 引き締めのための軍事行動は常套手段

<対外的>
・ウラン濃縮施設公開と関係
 北を無視するアメリカを交渉の場に引き出す
・日米韓の経済制裁への意思表示
 制裁を続ければ核武装を続ける、南北関係が危機に陥るとのアピール

等である。

 米欧主要国は、北朝鮮の行動を非難・牽制する声明を出しているが、わが国の政府の判断・対応は鈍い。菅首相は、自分が北朝鮮の韓国砲撃を知ったのは、「報道を通じて」だと言う。安全保障に対する意識がまことに低い。
 国連安全保障理事会は一両日中にも緊急会合を開くようである。国際社会は、協調して毅然とした対応をしなければならない。中国がどう出るかによって、安保理の行動は決まる。中国が北朝鮮への姿勢を変えざるをえないようにすることがポイントである。

 わが国において重要なのは、朝鮮学校無償化の問題である。私は、朝鮮学校に高校授業料の無償化を適用することに反対である。国民の多数がそうである。先ほど午前10時過ぎのニュースで、高木文科相が、北朝鮮の韓国砲撃を受け、「重大な決断をしなければならないかも分からない」と述べ、無償化適用を見直しする可能性を示唆したと報じられた。休戦協定を破って、民間人を攻撃し、家屋を破壊し、死傷者を出すような国に対し、在日外国人学校に無償化の恩恵を与える必要は一切ない。即座に、適用外を決定すべきである。

 以下は報道のクリップ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
●産経新聞 平成22年11月24日

http://sankei.jp.msn.com/world/korea/101123/kor1011231825020-n1.htm
【北朝鮮砲撃】“海の火薬庫”で予想通りの軍事挑発 金正恩後継体制の業績づくり?
2010.11.23 18:24

 【ソウル=黒田勝弘】北朝鮮による軍事的挑発・冒険は予想通りだ。北朝鮮は先ごろ、金正日総書記の3男、金正恩氏を後継者として公式に登場させた。金正恩後継体制のための“軍事的業績作り”として突出行動は必至とみられていた。
 北朝鮮は現在、「その内外政策はすべて後継体制づくりのために動いている」(韓国情報筋)。後継者として内外に明らかにされた金正恩氏の肩書は「軍大将」と「党軍事委員会副委員長」である。
 北朝鮮としては「先軍思想」を体制スローガンに、軍事独裁のまま後継体制を固めるためには、まず「金正恩大将の軍事的業績」や「軍事的偉大さ」を国民に印象付けなければならない。事件は「金正恩軍事作戦」とみていい。
 “海の火薬庫”として南北間で軍事衝突が繰り返されている“西海5島”付近はその格好の舞台だ。この3月、内外を驚かせた北朝鮮の魚雷による韓国哨戒艦撃沈事件も同じ海域だ。北朝鮮ウオッチャーたちによるとこの事件も「金正恩後継体制の業績作り」という見方が一般的だ。
 北朝鮮は韓国への軍事攻撃について、対外的には決まって「韓国の挑発が先」などと弁明する。60年前の朝鮮戦争以来そうだ。今回も同じ態度を取るとみられるが、内部的には「敵に対する偉大な英雄的勝利」とし、金正恩崇拝キャンペーンに利用するはずだ。
 後継体制づくりという内部状況を背景にした北朝鮮の軍事的冒険は、全面戦には拡大しないとの計算がある。韓国は哨戒艦撃沈事件でも報復攻撃は控え、今回も直ちに空軍機を出動させたものの、北朝鮮の基地への爆撃など本格的な報復攻撃は自制している。李明博大統領自身、「戦闘拡大を防げ」と指示している。
 しかし韓国では今回の事件を機に、これまでの自制的な姿勢が北朝鮮の度重なる軍事挑発を招いてきたとする反北世論が高まるとみられる。
 南北軍事境界線では過去、しばしば軍事衝突があったが、北朝鮮の一方的攻撃による民間人の犠牲、被害は初めてといっていい。韓国をはじめ北朝鮮に対する国際世論のさらなる悪化は避けられない。
 北朝鮮は時を合わせるようにウラン濃縮施設を公開し、核開発拡大の意思を明確にした。国際社会は、外部世界に対し軍事的脅迫を続ける攻撃的、侵略的な金正日・金正恩体制への新たな対応を迫られている。
 米国は北朝鮮の核武装に向けた動きに対し、6カ国協議の場でプルトニウムの軍事転用にしぼって阻止を図ってきた。しかし2008年の協議中断後、北朝鮮側は核兵器製造を可能にするウラン濃縮能力の存在に言及するようになった。
 この点、オバマ政権の初期まで6カ国協議の米国首席代表を務めたクリストファー・ヒル氏も、「協議中、北朝鮮はウランの存在を完全に否定し、米側をだましていた。こんごはウランが最大の課題となる」と産経新聞との会見でも述べ、ウラン問題の重大性を強調していた。
 北朝鮮がなぜ、この時期にウラン濃縮施設を米側に見せたのかという動機については、ニクシュ氏や大手研究機関「ヘリテージ財団」の朝鮮情勢専門家、ブルース・クリングナー研究員は、(1)米国にショックを与えて北朝鮮との交渉を再開させ、安全保障上の譲歩や経済援助を得る(2)事実上の核兵器保有国としての認知を求める(3)現在の国連主導の経済制裁が効果を発揮しないことを誇示する-などの可能性を指摘している。
 一方、下院外交委のロスレイティネン議員は、今回の北朝鮮の動きを受けて、オバマ政権が北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定することを求め、圧力強化策を提案した。

http://sankei.jp.msn.com/world/korea/101123/kor1011232124035-n1.htm
【北朝鮮砲撃】暴挙、背景に何が…「意図的な挑発」「権力闘争か」
2010.11.23 21:24

 北朝鮮による韓国砲撃について、北朝鮮問題に詳しい識者らは「意図的な挑発行為」「北朝鮮内の内輪もめ」と論評。渦中の朝鮮学校への高校授業料無償化適用問題へも「批判が強まる」との見方が出ている。
 関西大の李英和教授(55)は「砲撃は北朝鮮軍部の内輪もめであり、韓国と本格的な戦争をする気はない。ただ今後、軍内部の対立が収まらなければさらなる挑発行動が予想される。韓国は過剰に反応すると跳ね返りが考えられるため、これまで以上に冷静に対応しなければならない」。
 同様に、拓殖大の荒木和博教授(54)も「砲撃は北朝鮮内部での権力闘争のトラブルの一つ」とみる。「韓国への攻撃だけで米国が動かなければ、米国の重要な同盟国である日本で脅しのためのテロを起こす可能性も考えられる。北朝鮮の体制が揺らいだときには拉致被害者の保護も考えなければならない」と話した。
 ジャーナリストの萩原遼さん(73)は「砲撃が起きた地域は韓国と北朝鮮の領海が複雑に入り組んでいるエリアで、北朝鮮が挑発行為に出るには格好の場所だ。砲撃の背景には経済危機など北朝鮮の不安定な情勢があり、危機の際に手っ取り早く国内の引き締めを図るための軍事行動は北朝鮮の常套手段。今回の砲撃対象が島であり、本土でないことがその傍証といえる」と分析する。
 東京基督教大の西岡力教授(54)は「日米韓が経済制裁で足並みをそろえたことが北朝鮮にとってダメージになった」と背景を説明。「砲撃は、制裁が効いてきたため突破口を見いだしたい北朝鮮による『制裁を続ければ核武装を続けるし、南北関係が危機に陥るぞ』とのアピールと読める」と話した。(略)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

関連掲示
・拙稿「朝鮮学校の無償化は背信行為」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/d/20101108
コメント

構造改革を告発した経済家18

2010-11-24 09:28:08 | 経済
●アメリカの圧力による「金融行政3点セット」

 日本改造をめざすアメリカの要望は、多岐にわたっている。アメリカの圧力によって行われた失政のうち、菊池氏が特に問題としているのは、金融改革と郵政民営化である。
 第一に、金融改革について述べる。アメリカは日本の金融制度を変えようとして、様々な要望を突きつけてきた。橋本内閣は、1996年11月1日に「金融ビッグバン」を行った。金融ビッグバンは、イギリスのサッチャー首相が行った改革にちなんだ名称だが、わが国の場合は、アメリカの要望事項が加えられ、イギリスよりも大規模な改革を進めるものとなった。金融の自由化により、外資が直接日本の銀行を買収できるようになり、日本市場への外資の進出が相次いだ。わが国は、日米経済戦争に、ほとんどなすすべなく大敗し、アメリカに金融的に属国化した。この出来事を「マネー敗戦」「第二の敗戦」という。
 1998年から2000年(平成10~12年)にかけては、旧長銀(現新生銀行)、旧日債銀(現あおぞら銀行)が買収された。多額の公的資金が投入された後、外国投資グループにたたき売りされた。
 菊池氏は、金融ビッグバンにおいて行われた時価会計・減損会計、ペイオフ、銀行の自己資金比率規制を「金融行政3点セット」と呼ぶ。「金融行政3点セット」は、アメリカの圧力によってわが国政府が行ったものである。菊池氏は、「金融行政3点セット」のわが国の経済への影響を明らかにし、これらの停止ないし廃止を提言している。
 まず時価会計・減損会計である。菊池氏は「2001年からの構造改革が進むにつれて、日本経済を次々に破壊していく手段が時価会計と減損会計にあることを痛感した」(『増税』)と言う。
 時価会計は、従来の日本の伝統的な取得原価主義会計に対抗する考えである。取得原価主義会計は、資産を購入したときの原価で記録する会計である。時価会計は、資産と負債を毎期末の時価で評価し、財務諸表に反映させる会計である。アングロ・サクソン式の会計制度である。橋本内閣による金融ビッグバンのときに、時価会計の採用が決まった。同時に採用されたのが、減損会計である。減損会計は、固定資産の時価会計である。ただし、評価益は出さず、評価損しか出さないので、不況の時には企業によって、不利な数字になる。

●3点セットを止め、日本的な金融の理念と制度に

 菊池氏は『増税が日本を破壊する』で次のように言う。「私はデフレが深刻化していくときには『時価会計、即刻停止を』(読売新聞、2003年4月12日)と提案した。アメリカでは、大恐慌の1933年6月に『金融機関には時価会計の適用を停止する』という決定を下し、この扱いは、その後、1993年まで実に60年間継続したのである」。1933年とは言うまでもなく、大恐慌の時の措置であり、停止が解除されたのは、新自由主義・市場原理主義の政策である。弊害が大きく長く停止されていたような会計制度が、1996年にわが国に導入された。「日本では、時価会計・減損会計を強行するあまり、金融機関は株を売り続け、株価は暴落し、企業は含み損が大きくなった。そのうえ、金融庁行政による厳しい資産査定によって、企業が次々に潰され、税収が激減するという事態に直面した」。そして、「時価会計と減損会計を継続していくと、デフレの日本で経済規模(名目GDP)がますます縮小し、一段と税収があがらない国になるであろう。時価会計と減損会計は即刻停止すべきである」と菊池氏は主張した。
 菊池氏が「時価会計、即時停止を」と読売新聞紙上で提案したとき、小泉首相は「問題の先送り」「奇策」とコメントした(読売新聞、2003年4月12日)。しかし、「『即時停止』は『奇策』ではなく、日本を守るための正当な見解である」と菊池氏は小泉氏に反論する。
 時価会計はグローバル・スタンダードだとして、金融ビッグバンのときに採用された。「ところが」と菊池氏は言う。「このベースとなった会計の『国際基準』はどこの国でも使っていない基準だったのである。当時(1997年から1998年)の日本では、主要国はどこでも、国際基準による時価会計を取り入れていると思われていた。しかし、『国際基準』をそのまま『国内基準』に導入したのは、現在では日本だけである。しかもデフレや不況のもとで、時価会計を導入した国はどこにもない」と。
 何ということか。しかも、アメリカに要望されるままに自傷的な政策を行ったわが国の政府は、その失敗を認めず、改めようとしていない。
 次にペイオフとは、一銀行(信用金庫、信用組合、農林・漁業協同組合を含む)の一預金者に対する預金元本の保証限度額を1000万円とする制度である。わが国は、2005年にペイオフを完全実施した。菊池氏はその結果について次のように言う。「銀行の預金構成は定期預金が預金全体の約40%に落ち込み、残りの60%が決済性預金(全額元本が預金保険で保証されている)と一般の要求払い預金となるという、極めて不安的な構成になってしまったのだ」「銀行は70%くらいの定期預金がないと、安心して資金を貸せない」「安定した預金がないと、銀行は大手も中小も、安定した貸し出しを伸ばすことができず、実態経済を衰弱させていく」(『増税』)。それゆえ、菊池氏はペイオフの停止を主張している。
 次に銀行の自己資本比率規制(BIS規制)は、主要先進国12カ国が国際決済銀行(BIS)に集まって申し合わせた約束である。国際業務を行う銀行は、自己資本比率が8%以上なければならないとする。菊池氏によると、「日本の銀行の海外進出に対するアメリカの対策」として、「連邦準備制度理事会が中心となって考案したもの」である。なぜ8%以上かというと、日本の銀行の場合、それ以上という規制をかけると効果があるから、その基準にされた。「自己資本比率は、外国から強要されたルールの中で、日本にとっては最も厳しい規制であろう」と菊池氏は言う。そのうえ、わが国では、国内業務しか行わない銀行にも、自己資本比率4%以上という基準を独自に定めている。そのため、銀行は自己資本比率を維持するため、資金回収を行い、貸し渋り・貸しはがしが蔓延し、企業の倒産が増加している。
 菊池氏は、金融機関に対する時価会計・減損会計の適用を停止すること、ペイオフ制度そのものを廃止すること、国内銀行には自己資本比率規制の適用を事実上廃止することを提案している。「金融行政3点セット」をそのままにして、積極財政を行っても、効果は大きく減少する。菊池氏は、大手銀行に対する外資の株式保有制限を法制化することも提案している。「欧米の金融理念や制度などはどうでもよい。日本の体質と伝統に合った金融理念と金融制度を樹立すべきである」と菊池氏は主張している。
 私は、この意見に賛成である。金融に限らず、財政、企業経営、雇用等、欧米ないしアングロ・サクソン=ユダヤの考え方や方法が、世界標準ではない。真に合理的で有効な部分は取り入れればよいが、何でも押し付けられるままに従う必要はない。それぞれの社会・文化から経済の仕組みや慣行が生まれている。自らの伝統に基づいた理念や制度を発展させてこそ、社会の調和と民族の繁栄が得られる。日本は日本の道をゆけばよいのである。

 次回に続く。
コメント