ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

復興増税に反対する議員が声明

2011-06-30 08:46:10 | 時事
 東日本大震災からの復興において、絶対やってはならぬものの一つが、TPPへの参加。もう一つが復興増税である。両方やったら、日本は大震災の幾倍もの打撃を受ける。
 復興増税については、国会で反対意見の議員が増えつつある。超党派議員連盟の「増税によらない復興財源を求める会」は、東日本大震災の復興財源に関し、増税ではなく復興債や埋蔵金を活用すべきだとする声明を発表した。民主、自民両党などの衆参両院議員211人が署名しているという。公職選挙法第4条に定められている議員数は、衆議院が480人、参議院は242人。両院を合わせると、722人。先の署名者は210人ゆえ、その29.2%。増税を阻止するには、まだ厳しい。
 関連報道記事とともに、同会による声明文を転載する。

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●ロイター 平成23年6月16日

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110616-00000397-reu-bus_all
超党派議連、日銀に復興国債の全額買入求める
ロイター 6月16日(木)16時58分配信

 [東京 16日 ロイター] 超党派による「増税によらない復興財源を求める会」は16日、国会内で会合を開き、東日本大震災の復興に向けた財源について、増税ではなく、日銀よる復興国債の全額買い切りオペで調達することを求める声明文を決議した。
 同声明文には民主党や自民党などを中心とした国会議員211人が署名。今後、各党政調会への申し入れや、政局動向を見極めた上で、新政権を含めた政府への提言などを計画している。
 政府部内では、震災復興のための資金調達手段として新たに復興国債を発行するとともに、日本国債の信認を維持するため、その償還財源を一定期間後の増税で確保することが検討されている。こうした動きに対し、声明文では「大増税になる可能性があり、デフレが続いている日本経済へのダメージは計り知れない」と指摘。デフレ脱却、経済の安定成長まで増税すべきでないとし、「国債や埋蔵金などに復興財源を見出すべき」と主張している。その「第一歩」として「政府と日銀の間で政策協定(アコード)を締結し、必要な財源調達として、政府が発行する震災国債を日銀が原則全額買い切りオペする」ことを求めている。日銀の全額買い切りオペによる貨幣供給増で、「デフレ脱却、円高是正、名目成長率の上昇が期待でき、財政再建に資する」とも主張している。
 日銀では、こうした国債買い入れオペの増額議論などに対して、財政支援とみなされれば、日本の財政に対する信認が低下し、国債の円滑な発行に支障が生じかねないなどの観点から慎重姿勢を崩していない。
 会合には、民主党デフレ脱却議連の松原仁会長や自民党の安倍晋三元首相、中川秀直元幹事長、みんなの党の渡辺喜美代表らが出席。安倍元首相は「増税は明らかに経済成長にマイナスだ。デフレから脱却し、しっかり成長することこそが、復興、財政再建の道と信じている」とし、渡辺代表は「復興、社会保障、財政再建の増税3段跳びが菅政権の戦略。法人税を中心に減税しなければ日本の空洞化が進む」と懸念を示した。

●「日本経済復活の会」(小野盛司会長)のサイトより転載
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-001f.html

増税によらない復興財源を求める声明文

 3月11日の東日本大震災で被災された方々に対し、心よりお見舞い申し上げます。被災された方々の救済とともに、復興に全力を挙げるのが我々国会議員に課せられた責務であることは言うまでもありません。大震災から3ヶ月を過ぎ、復興財源の在り方が問われ始めています。増税で財源を賄おうという案もありますが、その場合国民1人当たり数十万円にも上る大増税になる可能性があり、これでは十年以上もデフレが続いている日本経済へのダメージははかり知れません。経済を破壊しては、復興も財政再建もあり得ません。被災者にとってもその負担は大きすぎます。震災復興にメドが立ち、デフレを脱却、経済が安定成長軌道に乗るまでは増税などすべきでなく、今は、国債や埋蔵金など増税によらない復興財源を見出すべきです。
 よって、以下の理由から我々は、まず第一歩として、政府と日銀の間で政策協定(アコード)を締結し、必要な財源調達として政府が発行する震災国債を日銀が原則全額買い切りオペするよう求めます。

1.国債の買いオペはすでに行われており、米国FRBが量的緩和策(QE2)で大量の国債買いオペを実行し成功した例を見ても、有効であることは明らかです。
2.日本は今デフレで大幅な需給ギャップを抱えている上に東日本大震災という景気後退ショックが重なったのですから、これに増税をするのは自殺行為です。歴史的にも経済が縮小しているときに増税に成功した国はありません。財政再建のためにも、デフレを脱却、過度の円高を是正し、名目成長率を上げるようにするのが基本であり、一層の金融緩和がどうしても必要です。それと復興対策が同時に可能になるのですから、一石二鳥です。
3.上述したような日本経済の現状では、相当規模の買い切りオペを行ったとしても、物価の安定を目指した適切な金融政策運営で過度なインフレを防ぐことは十分可能です。米国のバーナンキFRB議長は、「自分達はインフレをコントロールできる能力を十分に有している。」と自信満々であり、日本でできないことはあり得ません。これによって、激しいインフレにならないようにすれば、「円の信認」が失われることはありません。
4.財政規律が失われ「国債が暴落」しかねないと心配する向きもありますが、財政破綻を防ぐには基礎的財政収支のGDP比をプラスにする必要があり、その要は名目成長率を引き上げることです。現時点で増税をすれば、名目成長率は下がってしまい税収も上がりません。他方、買いオペで貨幣供給が増えれば、デフレ脱却、円高是正、名目成長率の上昇が期待でき、真の意味で財政再建に資するのです。経済が安定成長路線に回復したときに進めるべき「基礎的財政収支改善の工程表」を予め明確にしておくことも有用でしょう。

 まず、政府・日銀間で政策協定(アコード)を締結し、震災国債の原則全額を日銀が買い切りオペをするように求めます。

 以上、決議する。

平成23年6月16日

増税によらない復興財源を求める会

※別紙の賛同署名者の名簿から、ほそかわが個人的に注目する議員を抜粋

・民主党
 衆議院議員:小林興起
 参議院議員:長尾敬、松原仁、村井宗明、山田正彦、鷲尾英一郎
・自民党
 衆議院議員:安倍晋三(会長)、井上信治、江藤拓、下村博文、新藤義孝、山谷えり子、棚橋泰文、古屋圭司、森喜朗、山本幸三(幹事長)
 参議院議員:衛藤晟一、西田昌司
・みんなの党
 衆議院議員:浅尾慶一郎、江田憲司、渡辺喜美(呼びかけ人)
・国民新党
 衆議院議員:亀井静香
 参議院議員:亀井亜紀子(呼びかけ人)
・無所属
 参議院議員:西岡武夫
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関連掲示
・拙稿「経世済民のエコノミスト~菊池英博氏」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13i-2.htm
・拙稿「デフレ下の復興増税は日本を潰す」
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1720438081&owner_id=525191

救国の経済学23~丹羽春喜氏

2011-06-29 08:44:10 | 経済
●新古典派には文明への「敵対的な性格」が

 丹羽氏は、先の引用の20年後、平成19年(2007)の「サッチャー、レーガン伝説とフリードマンのマネタリズム」で、改めてレーガン政権の経済政策について述べている。その主旨を要約にて記す。
 1980年代のアメリカでは、新自由主義者であるはずのレーガン大統領が、実際には、事実上のケインズ的大型積極財政の断行による軍事力の強化に努めて、軍拡競争でソ連を圧倒し、冷戦の勝利を導いた。
 政府が積極的な大型赤字財政を行い、その財源調達が国債の市中消化による場合は、クラウディング・アウト現象が起こる怖れがある。しかし、FRBが「買いオペ」のような金融政策手段を実施して、市場に資金を補給すれば、この現象は容易に防止できる。そのようにして、政府の財政政策をバックアップするのが、中央銀行による金融政策の極めて重要な任務である、と丹羽氏は書く。
 ところが、FRB議長のヴォルカーは、「『反ケインズ主義』という彼の信念に基づいて、対ソ軍備拡充を目指したレーガン政権の事実上の『ケインズ主義的』な積極的大型赤字財政を金融政策でバックアップするということを、まったく行なおうとはしなかった」。その結果、「激烈きわまるクラウディング・アウト現象」が発生した。米国の国内金利は「年利20パーセントを超えるほどの極端な高金利」になってしまった。
 米国の産業は、高金利で大打撃を受けた。高金利に誘われて、日本や西ドイツなどから大量の資金が米国に流入したので、米国の極端な高金利は、やや是正されたが、このような外国資金の米国への大量流入のプロセスは、対外為替市場におけるドル高を引き起こした。ドル高は米国の産業の対外競争力劣化と空洞化を激甚なものとした。
 米国経済が、なんとか立ち直り始めたのは、プラザ合意でドル高の是正が開始され、1987年にヴォルカーが解任されて、後任のFRB議長にグリーンスパンが就任してからのことである、と丹羽氏は見る。
 1970年代の後半から1980年代にかけて、ソ連は「無理に無理を重ねるような、非常手段的な経済運営をあえてして、きわめて大規模な軍備拡大を強行」していた。したがって、レーガンが断行した事実上のケインズ的な大型積極赤字財政の断行による米国軍備の増強という施策は、「米国のみならず、グローバルに、西側自由主義文明を守るためにも、ぜひとも必要なこと」だった。ところが、ヴォルカーは「レーガン政権の財政政策の足を引っ張って、それを、あわや画餅に帰させてしまおうとまでした」。彼らマネタリストたちのスタンスは「あまりにも奇怪」だった。「その当時から、マネタリズムなど、新古典派の反ケインズ主義イデオロギーによる政治的動きは、西側自由主義文明に対して、むしろ敵対的な性格を示しはじめていた」と丹羽氏は述べている。
 ここにいうマネタリズムとは、フリードマンが説いた理論である。ヴォルカーは頑固なマネタリストとして、レーガン政権のケインズ的な政策に協力せず、年利20パーセントを超える高金利やドル高、産業の空洞化等を招いたのである。これに対し、丹羽氏は、新古典派経済学の反ケインズ主義には西側自由主義文明に対して「敵対的な性格」があるという見方をしている。これは多くの人にとって意外なことだろう。当時の新古典派経済学は、反共産主義であり、自由を守る新自由主義の経済学であるというのが、大方の評価だからである。しかし、丹羽氏は「新古典派の反ケインズ主義イデオロギーによる政治的動き」は、レーガン政権時代に「西側自由主義文明に対して、むしろ敵対的な性格を示しはじめていた」と言う。そして、その「敵対的な性格」は、レーガン政権以後、より強く示されていったと丹羽氏は見ている。
 この「西側自由主義文明」に対する「敵対的な性格」とは何か。それを丹羽氏はニヒリズムと呼ぶ。ニヒリズムについては、先にマルクス主義に関するところに書いた。丹羽氏は、マルクス主義だけでなく、それに対抗する新自由主義・新古典派経済学にもニヒリズムを見ている。この点については、次回に書く。

 次回に続く。

大震災後も、TPP参加はならぬ

2011-06-28 10:35:50 | 時事
 東日本大震災で深刻な被害を被ったわが国が、絶対やってはならないものに、TPPへの参加と復興増税がある。
 私は日記でTPP参加の危険性を述べる論者の主張を紹介してきた。その論者の一人が、中野剛志氏である。
 中野氏は、早くからTPP参加の危険性を鋭く指摘している。著書「TPP亡国論」(集英社新書)の他、三橋貴明氏・東谷暁氏との共著「TPP開国論のウソ」(飛鳥新社)でも、明快な主張を展開している。
 政界・財界の圧倒的多数が、TPP参加を進めようとしている。菅首相はこの11月には参加を決定するつもりだ。「バスに乗り遅れるな」と言っている識者がいるが、この言葉は日独伊三国同盟の推進派が唱えた言葉だ。知ってか知らずか、同じ言葉を唱え、またわが国の指導層は自滅的な条約を結ぼうとしている。こうしたなか、インターネット上では、TPPの罠に気付いて、参加に反対ないし慎重という意見の人が、徐々に増えつつある。問題点が分かった人は、ともに啓発に努めよう。
 6月17日の産経新聞は、中野氏のインタヴュー記事を掲載した。以下に掲載する。端的にTPP参加の危険性が述べられている。もっとしっかりポイントを把握したい人は、先ほどの三氏の共著をぜひ読まれたい。

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●産経新聞 平成23年6月17日

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110617/fnc11061707430001-n1.htm
【金曜討論】
震災後のTPP参加 石川幸一氏、中野剛志氏
2011.6.17 07:39

 工業品や農産物の関税が原則全廃される環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への交渉参加の是非について、政府は6月の判断を先送りした。東日本大震災で被災地の農業、漁業が壊滅的な打撃を受けたためだが、経済の立て直しのためには、TPP参加が不可欠との意見もある。自由貿易の推進を説く亜細亜大の石川幸一教授と、復興を優先させるべきだと主張する京大大学院の中野剛志准教授に聞いた。(高橋寛次、滝川麻衣子) 

≪石川幸一氏≫
(略)

≪中野剛志氏≫

■東北の農業復興を最優先に

--東日本大震災の発生で、東北の農業は壊滅的な打撃を受けた
 「東北で農業をしている人は、借金を抱えながら農地のがれきを取り除き、津波による塩分を抜き、耕作し直すのに5~10年かかるかもしれない。TPP参加で(海外の安価な農産物が入ってきて)農業ができなくなるかもしれない不安があったら、誰が農地を元に戻そうと考えるのか。本気で東北の農業を復興させるのなら、TPPには参加しない方針を打ち出すべきだ。効率的な農業モデルとして、被災地を実験場として利用するのは失礼な話で論外だ」

●立場で判断異なる

--TPP交渉に早期に参加し、日本に有利なルールづくりを進めるべきでは
 「多国間交渉では多数派工作が重要だが、日本以外の交渉参加国は、米国や豪州などの農産品輸出国や低賃金労働力の輸出国で、連携できる国がない。そもそも、政府がこの『有利なルール』について定義したことがない。例えば、コメの関税撤廃は農家は反対だが、自由貿易論者は逆の考えで、立場により判断は異なる。『有利なルールとは何か』がわからず、国民的合意もなければ、ルールづくりを進めようがない」

--人口が減る日本は、関税撤廃で輸出を増やし、海外の成長を取り込む必要があるのでは
 「TPP交渉参加国は外需依存度の低い小国が多く、日本の実質的な輸出先は米国くらい。その米国も、オバマ大統領はTPP参加の目的を『米国民の雇用を増やすために輸出を増やす』と言い切っており、輸入を拡大する気はない。米国への輸出で成功しても、(リコール問題が起きた)トヨタ自動車のようにトラブルになる」

--韓国は米国やEUと2国間協定を結び、日本に大差をつけている
 「サムスン電子など一部の韓国企業は確かに強いが、それはウォンが暴落して輸出に有利になったからで、自由貿易協定のおかげではない。グローバル化で韓国の実質賃金は下がっているし、貧富の差も拡大している。輸出企業やその株主にとってはいいかもしれないが、日本国民が韓国をモデルとしてうらやましがる理由はない」

●食糧高騰に備えを

--食糧安全保障からみたTPP参加は
 「関税撤廃で食糧の海外依存を強めることは、日本を弱い立場に追い込む可能性がある。これから世界的に食糧や水資源の獲得競争が重要な問題になるからだ。日本は水が豊かというが、多くの食糧を輸入していることは、その作物をつくるのに必要だった水を輸入しているのと同じ。気候変動や世界的な食糧価格高騰に備えなければいけない」
                   ◇
【プロフィル】中野剛志
 なかの・たけし 京大大学院工学研究科准教授。昭和46年、神奈川県生まれ。40歳。東大教養学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。英エディンバラ大で博士号。経産省産業構造課課長補佐を経て平成23年から現職。著書に「経済はナショナリズムで動く」「TPP亡国論」など。

●産経新聞 平成23年6月16日

【http://sankei.jp.msn.com/life/news/110616/trd11061621480027-n1.htm
【eアンケート】
震災後のTPP参加 「先送りを評価」58%
2011.6.16 21:45

 「震災後のTPP参加」について、14日までに1333人(男性1183人、女性150人)から回答がありました=表参照。
 「TPP参加の先送りは評価できるか」には58%が「評価できる」と述べ、「農業復興とTPPは両立できるか」については「できない」が70%に達しました。「経済を早期に立て直すため、TPPで製造業を後押しすべきだと思うか」には、69%が「そう思わない」と答えています。

(1)TPP参加の先送りは評価できるか
 58%←YES NO→42%
(2)農業復興とTPPは両立できるか
 30%←YES NO→70%
(3)経済を早期に立て直すため、TPPで製造業を後押しするべきだと思うか
 31%←YES NO→69%
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関連掲示(TPP関係)
・拙稿「TPPはトロイの木馬~中野剛志氏」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/d/20110125
・拙稿「中野剛志氏のTPP反対論」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/d/20110129
・拙稿「TPPの狙いは金融と投資~東谷暁氏」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/6165512064c79c85b9822f6c03fd7055

関連掲示(年次改革要望書・郵政民営化・医療・健保等)
・拙稿「アメリカに収奪される日本~プラザ合意から郵政民営化への展開」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13d.htm
・拙稿「簡保の次は医療・健保が狙い」 20090524
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/d/20090524

救国の経済学22~丹羽春喜氏

2011-06-27 08:46:54 | 経済
●新自由主義といわれるレーガン政策の実態

 先に丹羽氏の新古典派への理論的な批判を概観した。その中で、歴史的な展開として、1970年代からのイギリス・サッチャー政権、アメリカ・カーター政権において新古典派の政策を採用した際の結果に触れた。ここで、1980年代のアメリカ・レーガン政権の場合を中心に新古典派の実態に補足を述べたい。
 昭和56年(1981)に大統領になったレーガンは、ソ連を「悪の帝国」と呼び、共産主義との対決路線を打ち出した。とりわけ戦略防衛構想(SDI)の構想を発表したことによって、ソ連を軍拡競争に引き込み、ソ連を経済的に窮地に追い込んだ。冷戦を終結させ、ソ連共産政権を崩壊に導いたことは、レーガン政権の功績である。
 レーガン政権は規制緩和、富裕層を中心とした減税、フラット税制など新自由主義的な経済政策を行った。その政策は、レーガノミックスと呼ばれる。そこには、新古典派経済学の影響が顕著である。しかし、一方で、レーガン政権はガソリン税、社会保障税を増額し、またアメリカ史上最大の単一税増税を行った。行政部門の官僚は約10万人増員された。反ケインズ主義的なエコノミストから、レーガンは「ケインズ学説信奉者」になったという批判が上がり、レスター・サローはレーガンを「究極的ケインズ学説論者」と呼んだほどである。このようにレーガン政権の政策には、新自由主義的な要素とケインズ主義的な要素が混在していたというのが実態である。
 レーガン政権の時代、連邦準備制度理事会(FRB)の議長は、カール・ヴォルカーだった。ヴォルカーはカーター政権から引き続き、FRB議長の座にあった。ヴォルカーは、フリードマンの理論を信奉するマネタリストである。ヴォルカーは一般にレーガノミックスを主導し、金融引き締め策でインフレを鎮圧したと評価される。だが、景気回復は一時的で、「双子の赤字」は再び膨らんだ。

●丹羽氏は独自の視点でレーガン政策を批判した

 レーガン時代の只中にあって、丹羽氏はアメリカの経済政策を分析し批判した。昭和62年(1987)刊行の『ケインズ主義の復権』に、丹羽氏は次のように書いている。
 「もし過去数年間の米国において、連邦財政の大幅赤字を『連銀』(ほそかわ註 FRBのこと)が、高橋財政の時期に日銀がそうしたように、もっと積極的にファイナンスさえしていたら」、どうだったか。「80年代前半における米国の異常な高金利は避けられ、国民所得ははるかに高い水準にまで上昇し、投資も貯蓄も増え、そして連邦政府の租税収入も大幅に増えていたはずである。また高金利が避けられたとすれば、85年夏まで続いたあの異常なドル高も避けられたはずであり、米国の産業がほとんど全面的に対外競争力を失うに至ったという近年の惨たんたる状況も、また避けられたはずである」。さらに「双子の赤字なるものも発生しないですんだに違いないのである」。「国民所得増大に伴う生産拡大によって、米国の雇用水準はかなり上昇し、失業率を大幅に引き下げることができたであろう」と丹羽氏は分析する。そしてさらに次のように推測する。
 「もし、こういった状況だったとしたら、現在(ほそかわ註 1987年)の様に深刻な貿易摩擦が起こるようなことにはなっていなかったに違いない。そして、全世界は、そのような米国経済の成長・繁栄に支えられた拡大均衡の美果を享受しえてきたことであろう。また、85年秋から緊急に行われたような主要諸国中央銀行の協調介入による強引で急激な円高誘導と、それを景気に始まった円高の暴走によるショックに日本経済が脅かされているという現在の不自然な状況も、不必要であったはずである」と。
 この発言は、もし丹羽氏が言うようにFRBが政府の政策に協力していたら、昭和60年(1985)のプラザ合意は必要なく、ドル安誘導のために起こった急激な円高も必要なかったということを意味する。わが国のバブルとその崩壊は、プラザ合意がきっかけである。それゆえ、当時の丹羽氏の発言は注目に値するものだった。

 次回に続く。

トッドの移民論と日本61

2011-06-25 05:59:32 | 国際関係
●異なる家族型の組み合わせ

 私は、トッドが挙げる親子/兄弟の価値観である権威/自由、平等/不平等の対とは別に、夫婦の価値観の違いが存在すると思う。日本は父系を主とし母系を従とする双系制であり、夫唱相和の文化を持つ。これに対し、朝鮮・シナは父系的であり、儒教による男尊女卑の思想が強い。
 夫婦の価値観の違いの表れの一つが、姓の制度の違いである。トッドは東アジアにおける姓の問題に触れていないが、それを見ないと東アジアの社会は、深く捉えることはできない。日本は夫婦同姓、朝鮮・シナは夫婦別姓である。別姓は男尊女卑の制度である。
 日本・朝鮮・シナについて、上記を整理して対比すると、日本は直系家族で族内婚、父系を主とし母系を従とする双系制で夫婦同姓。朝鮮は直系家族で族外婚、父系制で夫婦別姓。シナは外婚制共同体家族で、父系制で夫婦別姓である。このように見ると、朝鮮は日本とシナの中間的性格を持つことが明瞭である。
 ここで興味深い事実は、朝鮮は直系家族の社会だが、半島が分断され、北半分は共産化されたことである。北朝鮮は、ソ連の強い影響下に建国され、ソ連崩壊後は中国への依存を深めている。これは、朝鮮が歴史的にシナ文明の影響を受けてきたことと関係があるだろう。また北朝鮮は、単に共産主義的でなく、金王朝というべき世襲制専制国家となった。この点では同じ外婚型直系家族のドイツよりも、シナの前近代的家産国家に似ている。
 朝鮮が北半分のシナに近いほうは共産化し、南半分の日本に近いほうは自由化したのは、単なる地理的な位置関係だけでなく、思想が受け入れられ、定着する価値観の二面性があったということだろう。
 さて、日本の移民問題においては、受け入れ国の日本は内婚型直系家族で差異主義、朝鮮人は外婚型直系家族で差異主義、シナ人は外婚制共同体家族で普遍主義である。日本人と朝鮮人、日本人とシナ人の組み合わせは、家族型とそれに基く価値観の違いによる現象を生むはずである、だが、トッドはこの点を具体的に論じていない。
 そこで私なりに試みると、日本と朝鮮は、直系家族と直系家族、差異主義と差異主義の組み合わせである。この点で、ドイツとユダヤの組み合わせに似ているが、日本は受け入れ側が族内婚、移民側が族外婚、ドイツは受け入れ側が族外婚、移民側が族内婚という風に、逆転している。また、日本は温和な差異主義、朝鮮は冷厳な差異主義という組み合わせである。これに比し、日本とシナは、直系家族と共同体家族、差異主義と普遍主義の組み合わせである。ドイツとアラブ(内婚制共同体家族、トルコは別)の組み合わせに似ているが、シナは外婚制、アラブは内婚制である。
 それゆえ、ヨーロッパには、日本と朝鮮、日本のシナと同じ家族型・価値観の組み合わせはない。わが国の人類学の専門家に、トッドのヨーロッパにおける研究を参考にした、日本・朝鮮・シナの間の家族型の理論による研究を期待したい。

●対外関係・自然環境による民族性の違い

 次に、ほかの点について、私見を述べると、日本人と朝鮮人・シナ人の組み合わせにおいては、単に家族型の組み合わせだけでなく、対外関係・自然環境を含めて、相手の民族性をよく知ることが大切だと思う。トッドは、理論敵にこの点が弱い。
 朝鮮は大陸の周辺部にある半島であり、大陸の文明の影響を受ける。陸続きのシナの社会変動の影響を強く受ける。また、シナからの侵攻や支配を受けやすい。これは対外関係という要素を示す。大陸と半島という地理的な位置関係が、民族性の形成に作用したのである。古代の朝鮮人の民族性は、日本人と近かったようである。しかし、シナ文明の支配下に入ると、シナ文明を模倣し、儒教や制度を取り入れ、自ら小中華を目指した。
 シナは、遊牧民族対農耕民族の侵攻・支配がくり返した歴史を持つ。家族型による対内関係以上に、周辺遊牧民族による侵入という対外関係が、民族性を作った。大陸では、馬による移動・侵攻が繰り返される。地球的な気候の変動による冷害・食料不足・飢餓の時代には、遊牧民族が豊かな中心部に侵入・略奪・支配を行った。しかも大陸ゆえ、広範囲に及ぶ帝国と強大な専制支配を生んだ。こうした歴史が、ウソ、無法、人治の文化・社会を生んだ。このことは、外婚制共同体家族という家族型とは、直接関係ない。シナの民族性には、対外関係と自然環境の面の影響が大きいだろう。
 日本人は、日本の移民問題を考える際、上記のように、対内関係としての家族型の組み合わせとともに、対外関係・自然環境から形成された民族の違いの組み合わせについても、よく考慮すべきと思う。

 次回に続く。

救国の経済学21~丹羽春喜氏

2011-06-24 08:49:41 | 経済
●反ケインズ主義は市場メカニズムを否定

 これまで書いてきたように丹羽氏は、フリードマン、マンデル、ルーカスら新古典派の理論を厳しく批判する。丹羽氏は、さらに新古典派は市場原理を否認している、と根底的な批判を行っている。
 丹羽氏は、「市場経済システムが人類文明にもたらしている主要なメリット」として、①価格によって合理的な経済計算ができる、②自動的な需給均衡作用がある、③「消費者主権」の原理が作動する、④為替レートを媒介とする自由貿易で国際分業の利益が得られる、という4つを挙げる。そして、これらの中で、とりわけ③の「消費者主権」の原理が、きわめて重要な役割をはたしている、と言う。
 消費者主権の原理とは、どのような商品がどれだけ生産・供給されるかは、究極的な最終需要支出にほかならないところの民間ならびに政府の消費支出によって決まることをいう。上記の①②及び④も、③の「消費者主権」の原理を促進・貫徹させるような効果を発揮しつつ絶えず作用している。「このことこそが、市場経済システムの最大のメリット」だと言う。
 丹羽氏によれば、市場経済は、「本質的に顧客志向型のシステム」である。社会の経済構造ないし産業構造は、結局のところ、消費支出という「需要サイド」によって決定される。市場経済では、「『需要サイド』の変動に対応する諸商品の生産・供給やそのための投資といった顧客志向型の調整が、競争原理を通じて、自ずから、きわめて活発に、巧妙・精緻をきわめて適切に行なわれる」。このことが、「かつてのソ連・東欧などの共産圏型の命令経済システムでは、まったく及びのつかないところ」だった。
 しかし、丹羽氏によると、反ケインズ主義者たちは、「『消費者主権』の貫徹という市場経済システムの根源的な特徴を否認ないし忘却し去っている」。そのため、反ケインズ主義者たちは、「需要サイドからの政策的アプローチであるマクロ的な有効需要政策の効果を否認し、もっぱら、規制緩和や法人税の減税といった『供給サイド政策』とされている諸措置にのみ頼っていこうとしてきたのであろう」と丹羽氏は言う。
 そして、次のように述べる。「これは、まことに奇怪なことであり、驚くほかはない。通俗的な一般論では、新自由主義学派ないし新古典派が『市場原理主義』を信条としているとされているのであるが、(略)実際には、新自由主義・新古典派の思想に少なからず影響されていると思われる現在のわが国の反ケインズ主義的経済学者たちには、市場メカニズムのメリットを尊重していこうとするスタンスが、むしろ、いちじるしく欠けているのである」と。(「新古典派は市場原理否認:新古典派『反ケインズ主義』は市場原理を尊重していない」)
 丹羽氏の指摘は、大多数の人を驚かせるものだろう。新自由主義・新古典派の「市場原理主義」とは、消費者を主体とするものではなく、巨大国際金融資本に奉仕し、その利益を追求するための理論であると考えると、丹羽氏の指摘の背後にある構造が浮かび上がってくるだろう。

●単一通貨論の弱肉強食性

 丹羽氏は、新自由主義・新古典派には、市場メカニズムのメリットを尊重する姿勢が、いちじるしく欠けている、と指摘するわけだが、このことは国際経済についても指摘することができる。
 丹羽氏によるフリードマンやマンデルへの批判をかいたところで、丹羽氏が為替レートには「ハンディキャップ供与」作用があると述べていることを書いた。丹羽氏によれば、それによって、「絶対的に生産性の高い先進工業国と絶対的に生産性の低い後進発展途上国のあいだであってさえも、貿易が活発に行なわれ、国際分業が成立しうる」。また「為替レートの媒介があってこそ、リカード的な『比較優位の原理』に基づく国際分業の利益を、全世界の人類文明が共存共栄の形で享受しうるようになる」。このことを丹羽氏は、「市場メカニズムが人類文明にもたらしている絶大な恩恵の主要な一つ」と説いている。(「新古典派は市場原理否認:新古典派「反ケインズ主義」は市場原理を尊重していない」)
 丹羽氏は、新古典派のエコノミストたちは、「単一通貨による広域経済圏の形成を唱道してやまない」と述べ、この点でも彼らが、実は市場メカニズムの働きを否認しているのだと指摘する。
 丹羽氏は、次のように言う。「ヨーロッパで単一通貨としての共通通貨ユーロを導入したEUが、その方向へ大きく前進しはじめているということは、周知のところであろう。究極的には、全世界を一つの広域経済圏にしてしまって、各国それぞれの通貨を廃止して単一の共通通貨のみが使用されるようにすることが、目標とされているようである。しかし、もしも、実際にそういうことになれば、各国の通貨間の交換比率である為替レートは存在しなくなるし、『ハンディキャップ供与』作用も消えてしまう。そうなってしまえば、『比較優位の原理』に基づく共存共栄の国際分業の利益を各国の国民が享受することも、不可能になる」。
 ここまでは、先に書いたことと同じ主旨である。そこから丹羽氏はさらに次のように論を進める。「国際分業がなされなくなった全世界は、はなはだしい貧困と弱肉強食の修羅場となりはてるであろう。すなわち、新古典派のエコノミストたちは、為替レートという特殊な価格の形成とその『ハンディキャップ供与』作用という、はかりしれない恩恵を人類文明に与えてくれている市場メカニズムの働きを、捨て去ろうとさえしているわけである」。
 それゆえ、「『新古典派=市場原理主義』であるとしてしまっている俗流マスコミ的な決め込みかたは、まったく間違っている」と丹羽氏は言う。そして、「この点を見たときに、いっそう、きわ立ってくるのは、新古典派の反ケインズ主義が、単なる理論や経験論ではなく、今では、強固できわめてアグレッシブな一個の政治的イデオロギーと化してしまっているということなのである」と言う。
 この主張は、新古典派は「破壊的ニヒリズム」だとする丹羽氏の主張と矛盾する。私は「破壊的ニヒリズム」ではなく、グローバリズムだという見解である。グローバリズムこそ、丹羽氏の言う「政治的イデオロギー」の固有名詞である。(「新古典派は市場原理否認:新古典派『反ケインズ主義』は市場原理を尊重していない」)

 次回に続く。

日本の復興は日本精神の復興から3

2011-06-23 08:47:59 | 日本精神
●国家的国民的な課題に取り組もう(続き)

③天災に備える

 個人でも家庭でも、火事・事故・病気などいざというときのための備えを考える。国家においてもこれは当然だ。天災に予告はない。備えを怠れば、将来に渡って取り返しのつかない大悲劇を招く。未曾有の事態に備えるために、出来うる限りの最善の努力をすべきである。
 東京都では、石原知事のもとここ約10年、防災に力が入られてきた。だが、まだまだ不十分である。そこことが東日本大震災における都内の混乱ではっきり示された。
 どんなに経済的に繁栄していても、大規模な天災人災が起これば、一瞬にして都市は損壊し、廃墟と化す。文明が進めば進むほど、被害は大きく、復旧は難しい。そのことを、東日本大震災は、日本人に示した。この体験を国民は痛切な教訓としなければならない。
 東日本大震災は、天変地異の時代の序章に過ぎない。首都直下型地震(M7クラス)の発生する確率が30年以内で70%、同じく東海・東南海・南海地震(M8クラス)の発生する確率が30年内で50%~87%と政府関係機関が発表している。特に東海地震は87%と非常に高い。これらの巨大地震に耐え、日本が存続し、繁栄を維持していくためには、防災を強化し、災害に強い日本を創ることが急務である。

④国防を怠らない

 大震災と原発事故によって、わが国の政府や自衛隊等の力が被災地の復旧・救援に向けられる中、3月21日ロシア空軍の戦闘機と電子戦機が日本の領空に接近した。同月26日には、東シナ海の中部海域で、中国国家海洋局所属と見られるヘリが、海上自衛隊の護衛艦に異常接近した。震災支援と領土・資源問題は別という姿勢を示す狙いがあるとみられる。
 ロシアは、大震災後も北方領土の実効支配強化を進めつつあり、副首相が北方領土を訪問した。韓国は、国会議員が北方領土を訪問し、ロシアとの連携を強めている。竹島でヘリポートの改修工事に着手した。竹島近海の洋上に「海洋科学基地」を建設する工事を進めようとしている。閣僚が竹島を相次いで訪問している。
 特に警戒すべきは、中国である。昨年9月7日尖閣諸島沖中国漁船衝突事件が起こった。漁船を海上保安庁の巡視船に体当たりさせた中国人船長は、すぐ釈放され、最終的に起訴保留となった。事件の動画をインターネットに掲示した一色正春保安官は、停職12カ月の処分後、起訴猶予となり、依願退職した。この事件で、わが国政府の中国に対する対応は、まったく弱腰で、世界に恥を晒した。
 実は事件が起こる前、中国人の国際団体が、平成23年つまり今年の6月17日に尖閣諸島を占拠する計画を発表していた。大震災後の4月に、計画は中止と発表されたが、今後も油断はできない。尖閣をめぐる基本的な状況は変わらない。尖閣の次は南西諸島、さらに沖縄が狙われている。6月17日は日米間で沖縄返還協定が調印された日であることにも表れている。
 しかし、現状では自衛隊は領域警備ができないため、尖閣への侵攻を未然に防ぐことはできず、占領されてから出動するしかない。防衛省は今年に入って対中有事シナリオを作っていたことが報道されたが、尖閣は簡単に占領され、奪還は難しいと思われる内容である。
 日本人は、大震災の痛手と厖大な被害、復興の課題の大きさにばかり気を取られて、わが国が置かれている国際環境の厳しさを忘れてはならない。国防と防災は一体であり、備えを怠れば悔いを千載に残すことになる。

⑤憲法を改正する

 国防と防災の強化を進めるとき、憲法の改正は必須の課題である。現行憲法は、占領期に戦勝国がつくって日本に押しつけた憲法である。第9条で国防が規制され、国の存立を他国に依存させるものとなっている。他にも多くの問題点があり、この憲法を放置していれば、日本は亡国に至る。
 今回の大震災で、現行憲法の欠陥が、改めて浮かび上がった。現行憲法には、非常事態規定がない。わが国が外国から武力攻撃を受け、またはその危険が切迫している場合、及び内乱・騒擾、大規模自然災害等の非常事態が生じた場合、どのように対応するかが、定められていない。多くの国の憲法には、非常事態条項が設けられており、わが国でも、明治憲法にはその規定があった。しかし、現行憲法には、それがない。非常事態規定のないことと、第9条で国防を規制していることは、同じ事情による。占領下にアメリカによって作られた憲法だから、何か起これば、GHQが出動することになっていた。日本は自力で自国の危機に対応できないような憲法を押しつけられ、それを後生大事に変えないで来ている。
 大震災を通じ、憲法の欠陥をはっきり認識し、憲法を改正して、国家非常事態が生じたとき、すみやかに対応できるよう体制を整えることが必要である。

●結びに

 国家的国民的な課題として以上、5点すなわち、①政治を変える、②国民の団結で復興を進める、③天災に備える、④国防を怠らない、⑤憲法を改正する、という5点を述べた。
 東日本大震災を機に、日本精神を復興し、これらの課題を実行していこう。日本の復興は、日本精神の復興から始まる。(了)

参考資料
・マイサイトの基調
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/keynote.htm
関連掲示
・拙稿「東日本大震災からの日本復興構想」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13l.htm

救国の経済学20~丹羽春喜氏

2011-06-22 10:13:55 | 経済
●ルーカスの「理論的トリック」を暴露

 ルーカスの理論は、「消費者主権の原理」を否定・否認し、資本主義批判に荷担する結果となっている。「これでは、あまりにも奇妙すぎる」として、丹羽氏は、ルーカス理論をよく吟味してみたという。それによってわかったことは、「ルーカス理論の体系では、需要の変動があっても、企業が(労働雇用量を変えるだけで)資本設備の稼働率を変化させてそれに対応するようなことはしないものとするという、きわめて非現実的な暗黙の仮定が設定されている」ということであったと丹羽氏は述べている。
 実際の社会では、企業家は、需要が増えれば、資本設備の稼働率を上げ、需要が減れば稼働率を下げて対応する。そのように対応しない企業家は、会社を潰すだろう。丹羽氏は、ルーカスのような頭脳明晰な学者が、「『うっかりミス』でこのようなことをするはずはないから、これは、一種の意図的な『理論的トリック』であろう」と言っている。(「サッチャー、レーガン伝説とフリードマンのマネタリズム」)
 ルーカスは、極度に非現実的な前提を暗黙のうちに置くという「理論的トリック」を使って、「無理やりに、『有効需要の原理』が作動しないという論理を作り上げた」のだと丹羽氏は、ルーカスを批判している。
 丹羽氏によると、「フリードマンなどの『有効需要の原理』を否認しようとする反ケインズ主義的な漠然とした想念に、とにもかくにも、明確な理論体系を与えたのは、結局、ルーカスであった」。しかし、その「明確な理論体系」なるものは、「理論的トリック」による論理でしかない。しかし、マネタリズムが失速した後、新古典派経済学者による反ケインズ主義のキャンペーンは、「ルーカスによるこの牽強付会の極致ともいうべき奇怪な論理を主要な武器としてなされている」。そして、平成19年(2007)の時点で、いまやルーカス理論は「神格化」されている、と丹羽氏は述べている。
 丹羽氏によると、過去20年あまり、全世界の主要国の経済政策を導いてきたのは、新古典派経済学流のパラダイムと「反ケインズ主義」イデオロギーだった。わが国においても、1990年代の半ば以降の歴代内閣の経済政策は、その支配的な影響を受けたものであった。
 「とりわけ小泉=竹中政権時代の経済政策は、ほとんど全て、このような新古典派経済学流のパラダイムと反ケインズ主義イデオロギーによって導かれてきたのであった」(「ケインズ主義の復活なくして日本の復活なし-いまこそ新古典派経済学のニヒリズムを打ち砕け-」)。なかでも、「ルーカス理論は、新自由主義・新古典派のパラダイムで支配されてきた過去四半世紀のわが国の経済学界・経済論壇では、ほとんど神格化されてきた」(「政府紙幣 発行問題の大論争を総括する 」)。「竹中平蔵氏に導かれた小泉内閣の経済政策スタンスも、明らかに、このルーカス理論であった」と丹羽氏は指摘している。(「新古典派の反ケインズ主義は新左翼的ニヒリズムと同根だ」)

●丹羽氏はケインズ体系にルーカス体系を統合

 丹羽氏は、単にルーカスの理論を党派的に批判し、排斥しているのではない。この点が重要である。丹羽氏は、ルーカスの理論的前提を検討し、「ケインズ体系によるルーカス体系の理論的統合の可能性」を発見したと主張する。
 「私(丹羽)は念のために、企業は、労働雇用量とともに資本設備の稼働率も変えて需要の変動に対応しようとするものとするという一般的妥当性の高い想定を設けて、そして、例の『合理的期待(予測)形成』仮設はそのまま導入しておいて、ルーカスの理論体系を再構築してみた。驚くべし、そのように一般化された想定のもとで再構築されたルーカス体系では、総需要が増えれば(そして、デフレ・ギャップという形でマクロ的に生産能力に余裕があれば)、それに応じて実質GDPも増大し、いわゆる『自然失業率』もどんどん低くなって、経済は真の完全雇用・完全操業の状態に近づいていくという理論的結論が得られたのである。つまり、そのように一般的妥当性の高い想定のもとで再構築されたルーカス体系は、ケインズ的政策に従うようになるわけである。換言すれば、ルーカス体系の牙がぬかれて、ケインズ体系によるルーカス体系の吸収的統合が、見事になされえたわけである」と丹羽氏は言う。
 丹羽氏は「言うまでもなく、私(丹羽)が得たこのようなファインディングが、きわめて重要な意味合いを持っていることは明らかである。私は、10年ほど前に、このファインディング(ほそかわ註 発見の意味)を学会で報告し、学術論文としてそれをまとめて計画行政学会の学会誌に『特別論説』として掲載( 『計画行政』24巻、3号、平成13年春 )した。私の著書(ほそかわ註 下記の著書)へもそれを収録し、さらには、一般読者向けにそれを平易に解説した論稿も、幾度も公にしてきた。もちろん、インターネットで検索すれば、このような私の論策はすぐに見出しうる」と自負している。(「サッチャー、レーガン伝説とフリードマンのマネタリズム」) 
 この点については、専門的なので本稿では正確に紹介できない。経済学を専門的に研究している人は、丹羽氏の著書『新正統派ケインズ政策論の基礎』(学術出版会)の各論1「ルーカス型総供給方程式の一般化~ルーカス、ケインズ両体系の統一的把握」を検証してみていただきたい。

 次回に続く。

日本の復興は日本精神の復興から2

2011-06-21 09:22:37 | 日本精神
●日本精神の復興こそ、震災復興の最重要課題

 大震災の中で、被災地の人々は取り乱すことなく助け合い、秩序ある対応を示した。その高い道徳性に、世界各国から賞賛の声が上がった。福島第一原発の事故現場で懸命に対応する自衛隊・消防・警察・電力会社関係者等の献身的な行動は、海外の多くの人々を感動させた。
 震災の5日後、3月16日天皇陛下より、国民にビデオでメッセージを賜った。昭和天皇の終戦の玉音放送以来である。天皇陛下は、そのメッセージにおいて、「被災した人々が決して希望を捨てることなく、身体(からだ)を大切に明日からの日々を生き抜いてくれるよう、また、国民一人びとりが、被災した各地域の上にこれからも長く心を寄せ、被災者とともにそれぞれの地域の復興の道のりを見守り続けていくことを心より願っています」と語られた。天皇・皇后両陛下は皇居で自主停電をされ、また余震続く中、福島・宮城・岩手等の被災地の人々を慰問されている。
 日本精神は調和の精神であり、国民は互いに助け合いや思いやりを発揮する。その中心に天皇がおられ、天皇と国民は親子の情で結ばれている。そして日本人は、苦難の時、常に天皇を中心に結束してきた。こういう国柄が、今回の国家的な危機においても、はっきりと現れた。そこに貫かれているのが日本精神である。大震災を通じて、日本人が日本精神を自覚し、日本精神を力強く復興することこそ、復興の最重要課題である。
 日本人が精神的に復興すれば、日本は立ち直る。逆に精神的に低迷すれば、天災人災の中で日本は自壊・衰亡する。日本はそのぎりぎりの地点にある。いまこそ日本人は、日本精神を取り戻そう。日本の復興は、日本精神の復興から始まる。

●国家的国民的な課題に取り組もう
 
 次に、日本の復興における具体的な課題を5点挙げたい。

①政治を変える

 大震災後、菅首相は、適切な対応ができず、かえって混乱をもたらした。(原発を視察、自衛隊の出動命令遅れる、米国の支援断る、効果のないヘリの放水、等) そのために増加した人的物的な被害は計り知れない。これは首相の事態認識の甘さ、指導力の弱さ、決断力のなさによる。
 6月2日衆議院で内閣不信任案は否決されたが、菅首相は辞任の意思を翻し、これに対する反発が起こった。鳩山氏は「史上最低の首相」といわれるが、菅氏は「史上最悪の首相」といわれる。その鳩山氏が菅氏を「ペテン師」だと言って怒った。日本はまことに情けない状態になっている。これは国民の精神状態の反映でもある。
 大震災から3ヶ月以上過ぎ、復興計画の策定と実行が急がれる。だが、復旧・復興は迷走状態である。政府は新たな会議体を増やすばかりで、その意見もまとまらない。ようやく与野党の合意により、復興基本法が近く成立の見込み(註 20日に成立)だが、今後、国がどう進むか流動的である。菅首相の辞任表明に続いて大連立への動きがあるが、首相の辞任時期、政策協議、時限等、話がまとまるかどうかまだ不確かであり、また誰が次の首相になるか、どういう連立政権になるか、混沌としている。
 一国の興亡は、国家最高指導者の精神のありようによって決する。よき指導者を得れば、日本は世界最高の発展ができ、逆に、指導者に人を得なければ最低のどん底に沈むおそれがある。国民が真剣に国のことを考え、今度の選挙では国政を委ねる政党・政治家をしっかり選ばねばならない。

②国民の団結で復興を進める

 被災地の人々の生活の再建が急がれる。避難所生活の人が未だ8万人以上いる。住居・学校の整備、雇用の創出、社会的インフラの再建、地震・津波への防災の強化、農業・漁業・製造業等の復活等を、国民が団結して進めていかなければならない。
 また国全体としては、災害に強い国家の構築や都市の建設を行う。東京への一極集中を止め、首都機能を分散する。防災教育・避難救援訓練を推進する。食糧の自給率を高める等が必要だろう。
 特にエネルギー政策は重要である。原発に電力の約3割を依存しているので、原発を一気に全廃することはできない。当面は液化天然ガスの輸入量を増やすなど対処がされている。太陽光など再生可能な自然エネルギーの活用を推進し、原発への依存を段階的に減らしていかねばならない。またもっと安全に原子力を利用する技術の確立も、進めていくべきである。
 課題は多い。だが日本人は何度も危機から立ち上がってきた。振り返れば、関東大震災は、M7.9ゆえ地震のエネルギーは東日本大震災の約40数分の1だったが、死者・行方不明者は10万人を超えた。首都を襲った大災害だったため、日本が潰れかねないほどの打撃だった。しかし、日本人はそこから立ち直った。東京の幹線道路、隅田川の橋、学校等が震災をきっかけに整備された。昭和10年代には、アメリカを凌駕するほどの工業技術力を発揮するほどになった。
 大東亜戦争では、首都を含め全国主要都市を空襲で焼かれ、さらに広島・長崎には原爆を投下された。その人的・物的被害の大きさは、関東大震災・東日本大震災をはるかに上回る。それでも日本人は立ち上がった。敗戦後の復興と高度経済成長は、世界史の奇跡とさえいわれる。
 日本人には、こうした不屈の生命力、強固な団結力がある。全国民が団結し、大震災から日本をよみがえらせよう。

 次回に続く。

救国の経済学19~丹羽春喜氏

2011-06-20 06:19:29 | 経済
●総供給方程式は無理な決め付け

 丹羽氏のルーカス批判の第二は、総供給方程式に対してである。ルーカスは、自ら創案した「ルーカス型総供給方程式」に基づいて「ケインズ的な財政・金融政策による有効需要政策は無効だ」とする「定理」を導き出したとされる。
 丹羽氏によると、ルーカス型総供給方程式の理論においては「市場経済では、『自然失業率』に対応した水準のところで、経済は成長しえなくなり、上にも下にも行けない、にっちもさっちもいかない状態になってしまって、総需要が増えただけ、物価が上がるにすぎないという『定理』になっている」。(「政府紙幣 発行問題の大論争を総括する 」)
 自然失業率とは、経済の中で自然に発生する失業率のことで、長期的に失業率が落ち着くとされる失業率のことである。労働市場の需給均衡下における摩擦的失業率を意味する。丹羽氏によると、「ルーカスの理論では、有効需要が増やされても生産や雇用が増えて経済が実質タームで成長するようなことは無いとして、その意味で、ケインズ的な有効需要の原理は妥当しないのだと決め付けられており、したがって、財政政策によるものであろうと、金融政策によるものであろうと、有効需要拡大政策などは無効だと強調されるにいたった」。(「サッチャー、レーガン伝説とフリードマンのマネタリズム」)
 ルーカスはこの決め付けをもって、理論的「証明」だとしており、この「証明」は、「ケインズ革命そのものの全面的な否認という、人類史的にまさに衝撃的な意味合いを内含していた」と丹羽氏は言う。(「ケインズ主義の復活なくして日本の復活なし-いまこそ新古典派経済学のニヒリズムを打ち砕け-」)
 ルーカスの理論は、有効需要の変動に諸商品の生産・供給は適応しえないのだと決め付けているという意味で、供給面からの「有効需要の原理」の否定論だった。フリードマンが、恒常所得仮説によって需要面から「有効需要の原理」の否定論を説いたのと相俟って、両面からケインズの「有効需要の原理」を否定しようとしたものである。

●消費者主権の原理を否認

 丹羽氏によると、ルーカスの理論に立脚すれば、おかしな話になる。「政府によるケインズ的財政・金融政策などとは関係なしに、純粋に民間の経済活力の高まりで民間投資が盛り上がって総需要が増えたような場合であっても、同様な論理で、マクロ的には経済が成長することはないというシニカルな結論になってしまう」。もしも、本当にそのようなことであれば、「そもそも、市場経済システムのもとでは経済の成長や発展などが全く望めないという、奇妙な結論に」なってしまう。ルーカスの理論は、需要に対して生産・供給が適応しないものと決め付けてしまうものである。このように決め付けるならば、「資本主義的な市場経済システムの特徴とされてきた『消費者主権の原理』」をも、「根源的に否認」することになってしまう。
 消費者主権の原理とは、どのような商品がどれだけ生産・供給されるかは、究極的な最終需要支出にほかならないところの民間ならびに政府の消費支出によって決まることをいう。ところが、丹羽氏によると、ルーカスの理論は、この「市場経済システム最大のメリット」を否定するものである。丹羽氏は、「ルーカスたち新古典派のエコノミスト・グループは、従来からマルクス主義陣営からなされてきた『消費者主権の原理』を否定・否認しようとする資本主義批判論に、いっそうラジカルな形で荷担しているものにほかならない」と言う。(「サッチャー、レーガン伝説とフリードマンのマネタリズム」)
 新自由主義の経済理論が資本主義批判論に荷担するとはあり得ない話だが、ルーカスの理論は、無理な「定理」を立てたことで、結果として資本主義批判論に荷担する始末になっており、全く破綻しているわけである。
 「消費者主権の原理」については、新古典派全般に関する項目で、より具体的に述べる。

 次回に続く。